【実施例】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0019】
(システム構成)
図1は、本発明のクロスオーバー周波数判定装置を適用した音場制御装置の一例であるオーディオシステムの構成を示すブロック図である。
【0020】
図1において、オーディオシステム100には、CDプレーヤやDVDプレーヤ等の音源1から複数チャンネルの信号伝送路を通じてデジタルオーディオ信号SL、SC、SR、SLS、SRS及びSSWが供給される信号処理回路2と、測定用信号発生器3とが設けられている。
【0021】
なお、オーディオシステム100は複数チャンネルの信号伝送路を含むが、以下の説明では各チャンネルをそれぞれ「Lチャンネル」、「Rチャンネル」などと表現することがある。また、信号及び構成要素の表現において複数チャンネルの全てについて言及する時は参照符号の添え字を省略する場合がある。また、個別チャンネルの信号及び構成要素に言及する時はチャンネルを特定する添え字を参照符号に付す。例えば、「デジタルオーディオ信号S」と言った場合は全チャンネルのデジタルオーディオ信号SL〜SSWを意味し、「デジタルオーディオ信号SL」と言った場合はLチャンネルのみのデジタルオーディオ信号を意味するものとする。
【0022】
さらに、オーディオシステム100は、信号処理回路2によりチャンネル毎に信号処理されたデジタル出力DL〜DSWをアナログ信号に変換するD/A変換器4L〜4SWと、これらのD/A変換器4L〜4SWから出力される各アナログオーディオ信号を増幅する増幅器5L〜5SWとを備えている。これらの増幅器5で増幅した各アナログオーディオ信号SPL〜SPSWを、
図2に例示するようなリスニングルーム7等に配置された複数チャンネルのスピーカ6L〜6SWに供給し、再生する。
【0023】
また、オーディオシステム100は、リスニングルーム7内の受聴位置における再生音を集音するマイクロホン8と、マイクロホン8から出力される集音信号SMを増幅する増幅器9と、増幅器9の出力をデジタルの集音データDMに変換して信号処理回路2に供給するA/D変換器10とを備えている。
【0024】
リスニングルーム7内における各スピーカの配置としては、例えば、
図2に示すように、受聴者が好みに応じて、受聴位置RVの前方に、左右2チャンネルのフロントスピーカ(前方左側スピーカ、前方右側スピーカ)6L、6Rとセンタースピーカ6Cを配置する。また、受聴位置RVの後方に、左右2チャンネルのサラウンドスピーカ6LS、6RSを配置し、更に、任意の位置に低域再生専用のサブウーファー6SWを配置する。オーディオシステム100は、周波数特性、各チャンネルの信号レベル及び信号到達遅延特性を補正したアナログオーディオ信号SL〜SPSWをこれら6個のスピーカ6L〜6SWに供給して鳴動させることで、臨場感のある音響空間を実現する。
【0025】
信号処理回路2は、デジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)等で形成されており、CD、DVD、その他の各種音楽・映像ソースを再生する音源1から複数チャンネルのデジタルオーディオ信号を受け取り、各チャンネル毎に周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を施してデジタル出力信号DL〜DSWを出力する。
【0026】
(スピーカ構成判定処理)
さて、上記のように実際に音源1からの信号を再生する前に、オーディオシステム100には事前の設定処理が必要となる。具体的には、ユーザが上記のような複数のスピーカをオーディオシステム100に接続した後、オーディオシステム100はまずスピーカ構成判定処理を実行する。
【0027】
ユーザが各スピーカをオーディオシステム100に接続して指示を入力すると、オーディオシステム100は自動でスピーカ構成判定処理を実行する。具体的には、オーディオシステム100は、測定用信号発生器3からピンクノイズその他の測定用信号を発生し、信号処理回路2、D/A変換器4、増幅器5を介してスピーカ6から測定音としてリスニングルーム7へ出力する。出力された測定音はマイク8により集音され、増幅器9、A/D変換器10を介して信号処理回路2へ送られる。信号処理回路2は、マイク8を通じて得られた集音データDMの周波数特性などに基づいて、各スピーカの接続の有無、及び、各スピーカの再生帯域などの特性を判定し、これにより、オーディオシステム100に接続されている複数のスピーカの構成を判定する。
【0028】
スピーカ構成判定処理により得られたスピーカ構成の情報の例を
図3に示す。
図3は、スピーカ構成として3つのケースを例示している。
【0029】
ケース1は、オーディオシステム100にフロントスピーカ、センタースピーカ、サラウンドスピーカ及びサブウーファーが接続されている場合の例である。各スピーカの再生帯域に基づいて、フロントスピーカ及びサラウンドスピーカはラージ(Large)スピーカと判定され、センタースピーカはスモール(Small)スピーカと判定されている。ケース2では、フロントスピーカ及びサラウンドスピーカがラージスピーカ、センタースピーカがスモールスピーカと判定されており、サブウーファーは接続されていない。ケース3では、フロントスピーカがラージスピーカ、センタースピーカ及びサラウンドスピーカがスモールスピーカと判定されており、サブウーファーも接続されている。
【0030】
なお、「ラージスピーカ」とは、低域再生能力が十分なスピーカを指し、いわゆる低域型スピーカや全帯域スピーカが含まれる。一方、「スモールスピーカ」とは低域再生能力不十分なスピーカを指し、いわゆる中・高域型スピーカが含まれる。このように、ラージスピーカとスモールスピーカの区別は低域再生能力の程度によるものであり、スピーカ自体の大きさによるものではない。また、「低域専用スピーカ」とは、通常のスピーカでは十分に再生できない20〜100Hz程度の超低音域を受け持つスピーカを指し、例えばサブウーファーなどである。
【0031】
また、オーディオシステム100は、このようにスピーカ構成を判定すると、その結果に基づいて、低域成分の振り分け方法を自動的に決定する。ここで、「低域成分の振り分け」とは、低域再生能力が不十分なスピーカが接続されたチャンネルの信号の低域成分を、十分な低域再生能力を有する他のスピーカに供給し、そのスピーカから再生することを言う。具体的には、事前の実験結果などに基づいて、オーディオシステム100に接続された各スピーカの有無及び特性(低域再生能力)の組合せ毎に、低域成分の振り分け方法が予め決定され、オーディオシステム100に記憶されている。オーディオシステム100は、スピーカ構成判定処理により得られたスピーカ構成が示すスピーカの有無及び特性に基づいて、そのスピーカ構成の場合の低域成分の振り分け方法を決定する。
【0032】
図3の例において、ケース1では、センタースピーカがスモールスピーカであるため、センターチャンネルの低域成分は、左右のフロントスピーカに振り分けられ、再生される。ケース2では、サブウーファーが無いので、センターチャンネルの低域成分は左右のフロントスピーカ及び左右のサラウンドスピーカに振り分けられ、再生される。ケース3では、スモールスピーカが接続されたセンターチャンネル及び左右のサラウンドチャンネルの低域成分がサブウーファーへ振り分けられ、再生される。
【0033】
このように、オーディオシステム100は、スピーカ構成判定処理を行うことにより、スピーカの構成を判定するとともに、低域再生能力が不十分なスモールスピーカが接続されたチャンネルの低域成分を、他のどのチャンネルに振り分けて再生するかをも自動的に決定する。
【0034】
(クロスオーバー周波数判定処理)
(I)第1実施例
次に、クロスオーバー周波数判定処理の第1実施例について説明する。まず、クロスオーバー周波数について説明する。
図4は、信号処理回路2により行われる低域成分の振り分け処理を模式的に示すブロック図である。なお、実際には信号処理回路2はDSPなどにより構成され、低域成分の振り分け処理はデジタル信号処理により行われるが、
図4はそれを回路図により模式的に示すものである。
【0035】
図4は、サブウーファー以外の5つのスピーカが全てスモールスピーカである場合の低域成分の振り分け処理を示している。サブウーファー以外の5つのスピーカのチャンネルの信号SL〜SRSはそれぞれ対応する高域通過フィルタ(HPF)22L〜22RSに供給されている。また、これら5つのスピーカのチャンネルの信号SL〜SRSは、加算器21を通じて、サブウーファーチャンネルの信号SWFに加算され、低域通過フィルタ(LPF)22SWに供給される。
【0036】
コントローラ20は、クロスオーバー周波数Fxを決定し、高域通過フィルタ22L〜22RS及び低域通過フィルタ22SWに供給する。クロスオーバー周波数Fxは、各高域通過フィルタ22L〜22RS及び低域通過フィルタ22SWの遮断周波数として設定される。これにより、各高域通過フィルタ22L〜22RSから出力される信号DL〜DRSは、クロスオーバー周波数Fxより高域の成分のみを含むことになり、対応するスモールスピーカ6L〜6RSから再生される。一方、低域通過フィルタ22SWから出力される信号DSWは、6つのチャンネルの信号の、クロスオーバー周波数Fxより低い成分を含んでおり、これがサブウーファー6SWから再生される。こうして、低域再生能力の不十分なスピーカが接続されたチャンネルの低域成分は、十分な低域再生能力を有するスピーカに振り分けられて再生される。
【0037】
なお、
図4は低域成分の振り分け方法の典型的な一例に過ぎない。実際には、
図3に低域成分の振り分け方法として示すように、スピーカ構成判定処理により得られたスピーカ構成に応じて異なる方法で低域成分が振り分けられることになる。例えば、
図3におけるケース1では、センターチャンネルの信号が左右のフロントチャンネルに振り分けられるので、
図4の例とは異なり、センターチャンネルの信号Scが左右のフロントチャンネルの信号SL及びSRに加算されることになる。また、ケース3では、センターチャンネルの信号SC及びサラウンドチャンネルの信号SLS及びSRSがサブウーファーチャンネルの信号SWFに加算されるが、
図4の例とは異なり、フロントチャンネルの信号SL及びSRはサブウーファーチャンネルの信号には加算されないことになる。
【0038】
次に、クロスオーバー周波数を判定するクロスオーバー周波数判定処理について説明する。
図5にクロスオーバー周波数判定処理のフローチャートを示す。この処理は、オーディオシステム100、特に信号処理回路2により実行される。なお、クロスオーバー周波数判定処理が実行される時点では、上述のスピーカ構成判定処理が完了しており、オーディオシステム100に接続された複数のスピーカ構成及び低域成分の振り分け方法は既に決定されている。
【0039】
まず、信号処理回路2は、各スピーカクロスオーバー周波数の仮判定を行う(ステップS10)。具体的には、まず測定用信号発生器3からピンクノイズを発生し、リスニングルーム7に出力したものをマイク8で集音し、信号処理回路2は集音データDMを取得する。集音データDMに基づいて各増幅器5L〜5SWの増幅度を調整することにより、信号処理回路2は全てのスピーカについて全帯域でのスピーカ音量を所定の基準パワー(例えば75dBspl)に設定する。次に、測定用信号発生器3から再度ピンクノイズを発生し、これを200Hzの低域通過フィルタで帯域制限した後、各スピーカから出力する。出力された測定音は、マイク8で集音され、信号処理回路2は200Hz以下に帯域制限された場合に測定されたパワー(以下、「測定パワー」と呼ぶ。)を各スピーカについて測定する。
【0040】
そして、信号処理回路2は、200Hz以下に帯域制限した場合の測定パワーと基準パワーとを比較することにより、サブウーファーを除く各スピーカのクロスオーバー周波数の仮判定値を決定する。例えば、信号処理回路2は、測定パワーと基準パワーとの差が6dB未満であればそのスピーカのクロスオーバー周波数の仮判定値を80Hzとする。また、信号処理回路2は、測定パワーと基準パワーとの差が6dB以上12dB未満であればそのスピーカのクロスオーバー周波数の仮判定値を100Hzとする。さらに、信号処理回路2は、測定パワーと基準パワーとの差が12dB以上であればそのスピーカのクロスオーバー周波数の仮判定値を150Hzとする。こうして、信号処理回路2は、サブウーファー以外の全てのスピーカについてクロスオーバー周波数の仮判定値FxL〜FxRSを出力する。なお、ここで説明したクロスオーバー周波数の仮判定の手法は一例に過ぎず、他の既知の方法によりチャンネル毎にクロスオーバー周波数の仮判定値を求めることとしてもよい。
【0041】
次に、信号処理回路2は、得られたクロスオーバー周波数の仮判定値FxL〜FxRSのうちの最大値Fxmaxを取得する(ステップS20)。次に、信号処理回路2は、既に行われたスピーカ構成判定処理の判定結果である、現在のスピーカ構成を参照し(ステップS30)、現在のスピーカ構成が所定のスピーカ構成であるか否かを判定する(ステップS40)。具体的には、信号処理回路2は、現在のスピーカ構成が、(A)サブウーファーとスモールスピーカのみを含む構成、又は、(B)サラウンドスピーカを含まない構成、のいずれかに該当するか否かを判定する。
【0042】
現在のスピーカ構成が、上記の所定のスピーカ構成に該当しない場合(ステップS40:No)、信号処理回路2は違和感防止処理を実行する(ステップS50)。
【0043】
図6(a)に違和感防止処理の詳細を示す。信号処理回路2は、現在のスピーカ構成に基づいて低域信号の振り分け方法を参照し、スモールスピーカが接続されたチャンネルの低域成分がサブウーファーへ振り分けられるか否かを判定する(ステップS51)。例えば、
図3に示すケース3は、スモールスピーカが接続されたチャンネルの低域成分がサブウーファーに振り分けられる場合に該当する。
【0044】
スモールスピーカが接続されたチャンネルの低域成分がサブウーファーへ振り分けられる場合(ステップS51:Yes)、信号処理回路2は、クロスオーバー周波数の上限値Flimitを第1上限値100Hzに設定し、クロスオーバー周波数判定処理へ戻る。一方、スモールスピーカが接続されたチャンネルの低域成分がサブウーファーへ振り分けられない場合(ステップS51:No)、信号処理回路2はそのままクロスオーバー周波数判定処理へ戻る。
【0045】
そして、信号処理回路2は、クロスオーバー周波数Fxを決定する(ステップS70)。具体的には、ステップS20で得られたクロスオーバー周波数の仮判定値の最大値Fxmaxを上限値Flimitで制限し、クロスオーバー周波数Fxを決定する。よって、違和感防止処理によって上限値Flimitが設定されている場合、最大値Fxmaxが上限値より大きければクロスオーバー周波数Fxは上限値Flimitになり、上限値より小さければクロスオーバー周波数Fxは最大値Fxmaxになる。一方、違和感防止処理により上限値Flimitが設定されていない場合、ステップS20で決定された最大値Fxmaxがクロスオーバー周波数Fxとなる。
【0046】
このように、違和感防止処理により、クロスオーバー周波数の上限値を制限する理由は以下の通りである。基本的には、上述の低域成分の振り分け方法に従って、低域再生能力の不十分なスピーカが接続されたチャンネルの低域成分を、十分な低域再生能力を有する他のスピーカに振り分けて再生することが好ましい。しかし、一般的に、左右のスピーカなどと比較すると、サブウーファーなどの低域専用スピーカはその設置位置がユーザによってまちまちであり、明確でないという性質がある。よって、低域再生能力の不十分なスモールスピーカの低域成分がサブウーファーに振り分けられて再生される場合に、あまり高い周波数まで低域成分をサブウーファーに振り分けることとすると、サブウーファーの設置位置に起因して音像の定位が不自然となり、ユーザが違和感を覚えるおそれがある。具体的には、100Hz程度より高い帯域の成分をサブウーファーに振り分けることとすると、例えばサブウーファーがリスニングルームの隅の方にあるような場合には、音像がそちらに移動してしまい、ユーザが違和感を覚えることがある。そこで、違和感防止処理を実行し、低域成分がサブウーファーに振り分けられる場合には、サブウーファーに振り分けられる低域成分の上限を制限することとして、上記のような音像の違和感を生じさせないようにしているのである。一方、低域成分がサブウーファー以外のスピーカ、即ち、左右のフロントスピーカや左右のサラウンドスピーカなど左右のペアで構成されているスピーカに振り分けられる場合には、音像の定位が不自然になることはないので、サブウーファーに振り分けられる低域成分の上限を制限しない。
【0047】
なお、ステップS52で上限値Flimitに設定される第1上限値「100Hz」は単なる一例であり、本発明の適用がこれに限定されるものではない。即ち、音像の定位に影響を与える周波数帯域の下限又はそれに多少のマージンを加えて決定した任意の周波数を第1上限値に設定することができる。
【0048】
さて、
図5に示すクロスオーバー周波数判定処理に戻り、ステップS40で現在のスピーカ構成が所定のスピーカ構成に該当すると判定された場合(ステップS40:Yes)、信号処理回路2は低音域量感重視処理を実行する(ステップS60)。
【0049】
図6(b)に低音域音感重視処理の詳細を示す。信号処理回路2は、まず、現在のスピーカ構成が、サブウーファーとスモールスピーカのみの構成であるか否かを判定する(ステップS61)。サブウーファーとスモールスピーカのみの構成である場合(ステップS61:Yes)、信号処理回路2は、クロスオーバー周波数Fxを強制的に固定値150Hzに設定し、クロスオーバー周波数判定処理に戻る。一方、サブウーファーとスモールスピーカのみの構成ではない場合(ステップS61:No)、即ち、現在のスピーカ構成がサラウンドスピーカを含まず前方のスピーカのみである場合(サブウーファーはある場合と無い場合が含まれる)、信号処理回路2はそのままクロスオーバー周波数判定処理に戻る。
【0050】
クロスオーバー周波数判定処理では、ステップS70でクロスオーバー周波数Fxが決定される。この際、低音域量感重視処理においてクロスオーバー周波数Fxが強制的に固定値150Hzに設定された場合には、クロスオーバー周波数Fxはそのまま150Hzとなる。一方、低音域量感重視処理においてクロスオーバー周波数Fxの強制設定が行われなかった場合には、信号処理回路2は、ステップS20で決定された仮判定値の最大値Fxmaxをクロスオーバー周波数Fxとする。
【0051】
次に、このような低音域量感重視処理を行う理由について説明する。ステップS40にて判定されるように、スピーカ構成が、(A)サブウーファーとスモールスピーカのみの構成、又は、(B)サラウンドスピーカを含まない構成、であるような場合には、そのユーザは音像の方向性をあまり気にしないタイプのユーザであると推測できる。そこで、そのようなユーザの場合には、違和感防止処理のように音像の違和感防止を行うのではなく、低域の量感を優先し、低域再生能力の十分なスピーカを通じて低域成分を十分に再生することとするのである。
【0052】
具体的には、スピーカ構成がサブウーファーとスモールスピーカのみである場合には、ステップS62に示すように、クロスオーバー周波数Fxを強制的に固定値150Hzに設定し、150Hzまでの低域成分をサブウーファーで再生することにより十分に低域音を再生する。一方、スピーカ構成がサラウンドスピーカを含まない構成である場合もユーザは音像の方向性をあまり気にしないタイプであると推測できるのであるが、この場合にはスモールスピーカのチャンネルの低域成分をフロントスピーカから再生する場合とサブウーファーから再生する場合があるため、必ずしも低域成分がサブウーファーに振り分けるとは限らない。よって、サブウーファーとスモールスピーカのみの構成の場合のように強制的にクロスオーバー周波数Fxを固定値に設定することはしない。
【0053】
以上説明したように、本実施例のクロスオーバー周波数判定処理によれば、スピーカ構成に基づいてスモールスピーカが接続されたチャンネルの低域成分がサブウーファーに振り分けられる場合には、違和感防止処理が実行されるので、ユーザが音像の違和感を覚えることが防止できる。また、スピーカ構成がサブウーファーとスモールスピーカのみを含む構成の場合には、そのユーザは音像の方向性よりも低音の量感を重視すると推定し、クロスオーバー周波数Fxを強制的に高めの周波数に固定して、サブウーファーから低音を十分に再生する。このように、本実施例では、オーディオシステム100に接続されたスピーカの構成に応じて適切な方法でクロスオーバー周波数を設定し、低域成分を再生することができる。
【0054】
(II)第2実施例
次に、クロスオーバー周波数判定処理の第2実施例について説明する。上述のように、基本的に低域再生能力の不十分なスピーカが接続されたチャンネルの低域成分は、低域再生能力の十分な他のスピーカに振り分けて再生してやることが好ましい。しかし、他のスピーカに振り分ける低域成分があまり高い周波数を含むと好ましくない結果が生じる。通常、センターチャンネルなどのスモールスピーカが接続されるチャンネルの低域成分は、ユーザの前方に配置されるペアのラージスピーカ、ユーザの後方に配置されるペアのラージスピーカ、又は、サブウーファーに振り分けられて再生されることになる。ここで、サブウーファーに振り分けられる低域成分が、人間の声などに対応する周波数(一般的には150Hz程度から高域の周波数と言われる。)を含む場合、その低域成分をユーザの前方に位置するペアのラージスピーカに振り分けて再生する場合にはユーザは違和感を覚えないが、ユーザの後方に位置するペアのラージスピーカやサブウーファーに振り分けて再生する場合には、人間の声がユーザの後方に位置するペアのスピーカや部屋の隅などに配置されたサブウーファーから聞こえることとなり、ユーザが違和感を覚えることがある。
【0055】
この観点から、第2実施例においては、低域再生能力が不十分なスピーカが接続されたチャンネルの低域成分を、低域再生能力が十分な他のスピーカに振り分けて再生する場合に、その低域成分に人間の声が含まれないようにクロスオーバー周波数の上限を制限する。これにより、人間の声がユーザの後方や部屋の隅などのおかしな方向から聞こえることによりユーザに違和感を与えることを防止する。
【0056】
クロスオーバー周波数判定処理の第2実施例のメインルーチンは
図6に示すものと同様であり、違和感防止処理及び低音域量感重視処理の詳細が前述の第1実施例とは異なっている。
図7(a)に第2実施例による違和感防止処理のフローチャートを示し、
図7(b)に第2実施例による低音域量感重視処理のフローチャートを示す。
【0057】
まず、違和感防止処理について説明する。
図7(a)に示すように、第2実施例の違和感防止処理では、ステップS53が追加されている。即ち、ステップS51において、スモールスピーカが接続されたチャンネルの低域成分がサブウーファーへは振り分けられないと判断された場合(ステップS51;No)、信号処理回路2は、クロスオーバー周波数の上限値Flimitを第2上限値130Hzに設定する(ステップS53)。これにより、ステップS70において最終的に決定されるクロスオーバー周波数Fxは第2上限値130Hz以下に制限される。
【0058】
この第2上限値は、人間の声の周波数帯域の下限、即ち150Hz程度より少し低い周波数として決定されている。即ち、人間の声の周波数の下限が150Hzであるとし、これに多少の余裕を見て、130Hz以上の低域成分が他のスピーカへ振り分けられないようにすれば、人間の声がユーザの後方や、サブウーファーが配置された方向など、違和感のある方向から聞こえるという不具合を防止することができる。なお、この130Hzという周波数は単なる一例であり、本発明の適用がこれに限定されるものではない。即ち、この場合の第2上限値は、人間の声の下限周波数より所定のマージン分だけ低い任意の周波数に設定することができる。以上の趣旨より、第2上限値は、ステップS52において設定される第1上限値より高い周波数に設定される。
【0059】
なお、ステップS51において、スモールチャンネルの低域成分がサブウーファーに振り分けられると判断された場合には、ステップS52において、クロスオーバー周波数の上限値が100Hzに制限されるので、人間の声が違和感のある方向から聞こえるという不具合は生じない。
【0060】
次に、低音域量感重視処理について説明する。
図7(b)に示すように、第2実施例の低音域量感重視処理では、ステップS63が追加されている。即ち、ステップS61において、スピーカ構成がサブウーファーとスモールスピーカのみの構成でない、つまり、サラウンドスピーカを含まない構成であると判断された場合(ステップS61;No)、信号処理回路2は、クロスオーバー周波数の上限値Flimitを第3上限値130Hzに設定する(ステップS63)。これにより、ステップS70において最終的に決定されるクロスオーバー周波数Fxは130Hz以下に制限される。よって、上記の違和感防止処理の場合と同様に、人間の声がユーザの後方や、サブウーファーが配置された方向など、違和感のある方向から聞こえるという不具合を防止することができる。この第3上限値は、通常は、前述の第2上限値と同じ値に設定され、第1上限値より高い周波数に設定される。
【0061】
一方、ステップS61において、スピーカ構成がサブウーファーとスモールスピーカのみの構成であると判断された場合には、ステップS62において、クロスオーバー周波数Fxが強制的に固定値130Hzに設定されるので、人間の声が違和感のある方向から聞こえるという不具合は生じない。
【0062】
このように、第2実施例においては、違和感防止処理及び低音域量感重視処理の利点を維持しつつ、さらに、人間の声が違和感のある方向から聞こえるという不具合を防止することができる。
【0063】
(変形例)
上記のクロスオーバー周波数判定処理の実施例では、信号処理回路2は、ステップS20において、各スピーカについて得られたクロスオーバー周波数の仮判定値FxL〜FxRSのうちの最大値Fxmaxを決定し、これに基づいてステップS70においてクロスオーバー周波数Fxを1つに決定している。よって、全てのチャンネルに対して唯一のクロスオーバー周波数Fxが設定されることとなる。しかし、本発明の適用はこれには限定されない。即ち、ステップS20の処理を省略し、スピーカ毎に得られた仮判定値FxL〜FRSについて、ステップS70において個別にクロスオーバー周波数Fxを決定することとしてもよい。また、ペアを構成するスピーカ、例えば左右のフロントスピーカ、左右のサラウンドスピーカなどについては、唯一のクロスオーバー周波数を設定し、それ以外については個別にクロスオーバー周波数Fxを決定することとしてもよい。
【0064】
但し、各チャンネルについて個別に異なるクロスオーバー周波数を適用する場合には、チャンネル間で異なる帯域制限フィルタ(HPF及びLPF)を適用することとなる。よって、それらの間の位相特性が異なるため、チャンネル間での干渉が生じ、再生時の聴感上の特性が劣化してしまうという不具合が生じうる。この点、上記の実施例のように、全てのチャンネルについて共通のクロスオーバー周波数を適用する場合には、そのような不具合が生じないという利点がある。