【実施例】
【0020】
ATS−P形地上子の状態を解析する本発明に係る実施例の概略を
図1に示す。営業車両1には車上装置2と車上子3とATS−P記録装置4が設けられ、路線には地上子P1,P2,P3・・・が敷設される。地上子P1,P3は正常なATS−P地上子、地上子P2は不良なATS−P地上子である。地上子P1が無電源地上子であれば、車上子3からの送信電波から電源を得て、地上子P1はデータ(P番号および電文などを含む)を車上子3に送信し、車上装置2は受信データに基づいて
図16(c)に示されるような速度制限パターン56を発生する。地上子P1などから受信したデータは、ATS−P記録装置4に蓄積データ5として蓄積される。
【0021】
6は地上子状態解析方法のソフトウエアがインストールされたパーソナルコンピュータ(以下PCという)である。営業車両を対象として、地上子P1,P2,P3・・・からP番号および受信電文などを含む走行状態データを記録させたATS−P記録装置4からその蓄積データ5を得る。PC6は、蓄積データ5から地上子状態解析に必要なデータ(このデータを解析用車上データ7と呼ぶ)を抽出する。解析作業者によってATS−P制御図表や設備管理システムを元にして地上子が設置されている毎に順列に並べられたデータ(このデータを基礎データ8と呼ぶ)がPC6に記憶される。PC6は基礎データ8と解析用車上データ7を照合する。基礎データ8に対応する解析用車上データ7が記録されていた場合は、基礎データ8に対して解析用車上データ7に存在する地上子を良地上子として検出する。基礎データ8に対応する解析用車上データ7が記録されていなかった場合は、基礎データ8に対して解析用車上データ7に存在しない地上子を不良地上子として検出する。このような状態解析をP番号毎に行い、その結果を表示する。この表示の場合、不良地上子の検出を少なくとも含む状態解析結果の表示であればよい。
【0022】
図2は地上子状態解析方法あるいは地上子状態解析装置の動作をより詳細に示すフローチャートである。ステップS101では、解析作業者がPC6を用いて、ATS−P制御図表等を元として、基礎データ8を列車走行順に手動で並べて作成し、PC6に記憶させる。基礎データ8のイメージは、
図5に示されるようなものであり、P番号にしたがって並べられている。なお、基礎データ8は別のPCにて作成し、その結果をPC6に記憶させても良い。
【0023】
ステップS102では、PC6は、解析用車上データ7を蓄積データ5から抽出することにより生成する。解析用車上データ7の元になる蓄積データ5は、バイナリ形式のデータで0.2秒毎に150バイト分、列車走行状態の記録がされていて、そのうちから、
図3に示されるデータの抽出を行う。年月日時分秒データ9は解析用車上データ7の受信電文時刻に使用し、地上子間距離データ10は解析用車上データ7のキロ程に使用する。地上子受信電文データ11〜14は解析用車上データ7の受信電文に使用し、列車情報データ15はPC6のcsvファイルに保存する際のファイル名に使用する。
【0024】
図4は解析用車上データ7を生成する具体例のフローチャートである。ステップS201では蓄積データ5を150バイト(0.2秒毎のデータ)ずつ読み込む。ステップS202では、受信電文の変化毎に、PC6のメモリにデータを保存する。ステップ203では、約2秒、記録時刻が空いているか否かを判定する。この2秒は列車が終着したかどうかを見るための時間である。空いている場合にはステップS204に進み、空いていない場合にはこのフローを終了する。
【0025】
ステップS204では、PC6のメモリ上に貯めたデータから、地上受信電文1系AM1のデータ(
図3の11)を解析用車上データ7として採用する。記録がない場合には他系のデータ(
図3の12〜14)を採用していく。ステップS205では、調整後のデータ数が設定した値以上か否かを判定する。これは短区間のデータを排除するためのものである。採用したデータの数が設定した値以上であれば、ステップS206に進み、PC6のcsvファイルに保存する。未満であれば、ステップS207に進み、PC6のメモリに保存されたデータを破棄する。生成された解析用車上データ7のイメージは、
図5に示されるようなものであり、走行して記録した順に並べられている。
【0026】
解析用車上データ7の生成が終了すると、
図2に戻り、ステップS103に進む。このステップでは、基準地上子を設定する。基準地上子とは、解析用車上データ7を基礎データ8と関連付ける際に、絶対位置となる地上子のことである。解析用車上データ7と基礎データ8との照合を行うためには、まず基礎データ8と解析用車上データ7の地上子位置を一致させる必要があり、PC6により自動的に基準地上子の位置を決定する。P番号が[0]または[F]となっている地上子(この地上子を解析用地上子と称す)のデータは、固有な電文になる可能性が高いので、まずこの解析用地上子を絶対位置となる基準地上子として設定し、そこから基礎データ8のP番号と解析用車上データ7のP番号とを比較して、基礎データ8と解析用車上データ7を照合させることにしている。
図5では、P番号が[0]で、登録電文と受信電文が同じ地上子を基準地上子として設定する。
【0027】
ただし、解析用地上子は、確実に固有な電文を所持しているわけではないため、誤った箇所を基準地上子としてみなす可能性がある。そのため、一つの解析用地上子から基準地上子を設定する方法と、二つの解析用地上子から基準地上子を組み合わせて、固有となる確率を増加させて設定する方法の二つの方法から、基準地上子の設定を行うようにして、問題なく基準地上子が設定できるようにしている。P番号が[0],[F]の二つの解析用地上子から基準地上子を設定する方法を
図6に示す。本発明では上記二つの方法の少なくとも一方を実行する。
【0028】
PC6により一つの解析用地上子から基準地上子を設定する方法を示すフローチャートを
図7に示す。ステップS301では、一つの解析用地上子から基準地上子を設定する処理を開始する。ステップS302では、照合する基礎データファイルと解析用車上データファイルを選択する。ステップS303では、選択した基礎データ8から解析用地上子の登録電文を抽出する。ステップS304では、抽出した解析用地上子の登録電文のうち、特殊電文の地上子や同一電文の地上子を消去する。
【0029】
ステップS305では、選択した解析用車上データ7から解析用地上子の受信電文を抽出する。ステップS306では、抽出した解析用地上子の受信電文のうち、特殊電文の地上子や同一電文の地上子を消去する。ステップS307では、抽出した基礎データ8の解析用地上子の登録電文と解析用車上データ7の解析用地上子の受信電文が同じになる箇所を探し、基準地上子として設定する。
【0030】
ステップS308では、基準地上子を設定できたか否か判定し、設定できた場合にはステップS309に進んでP番号による照合処理に進む。設定できない場合にはステップS310に進み、処理を中止する。
【0031】
PC6により二つの解析用地上子から基準地上子を設定する方法を示すフローチャートを
図8に示す。ステップS401では、二つの解析用地上子から基準地上子を設定する処理を開始する。ステップS402,S403,S406,S410〜S412は、
図7のステップS302,S303,S305,S308〜S310と同じなので、説明は省略する。
【0032】
ステップS404では、基礎データ8から抽出した解析用地上子の登録電文のうち、特殊電文の地上子や駅構内にある地上子を消去する。ステップS405では、抽出した解析用地上子の登録電文のうち、隣にある一組の解析用地上子が同じ電文内容であれば消去する。
【0033】
ステップS407では、解析用車上データ7から抽出した解析用地上子の受信電文のうち、特殊電文の地上子を消去する。ステップS408では、抽出した解析用地上子の受信電文のうち、隣にある一組の解析用地上子が同じ電文内容であれば消去する。ステップS409では、抽出した基礎データ8の解析用地上子の登録電文と解析用車上データ7の解析用地上子の受信電文が二つで同じになる箇所を探し、基準地上子として設定する。
図6の例では、装置名称P100−1,P100−2の二つと装置名称P200−1,P200−2の二つが、基準地上子の候補となる。その場合には起点方(始発方向、つまり
図6の上方)に近い方を基準地上子として設定する。ただし、終端方(終着方向、つまり
図6の下方)に近い方を選んでも何の問題もない。
【0034】
図2に戻り、基準地上子の設定後は、ステップS104に進む。ここでは、基準地上子より終端方の地上子に対して、基礎データ8のP番号の順列と解析用車上データ7のP番号の順列が一致するかを判定する。つまり、双方のデータのP番号が一致すればリンク(双方のデータの関連付けを行う)させ、一致しなければ基礎データ8と解析用車上データ7の互いの関係を少しずつずらし、P番号が一致するかを見る。一致すれば、ステップS105によりステップS106に進み、良地上子として検出する。一致しなければ、ステップS107に進み、不良地上子として検出する。基礎データ8にあって解析用車上データ7にないものを空振りと称し、これは地上子がデータを発信しないことを意味する。基礎データ8になくて解析用車上データ7にあるものを湧き出しと称し、これは基礎データ8が不備であることを意味する。
【0035】
ステップS108では、基準地上子より起点方の地上子に対しても同様に、基礎データ8のP番号の順列と解析用車上データ7のP番号の順列が一致するかを判定する。以上のようにして地上子状態解析を行い、ステップS109では、状態解析結果をPC6の表示部に表示する。
【0036】
P番号による照合の仕方の具体例を
図9ないし
図14により説明する。
図9のステップS501にて基準地上子の設定が終った後、ステップS502に進む。ここでは設定した基準地上子から、基礎データ8を並べた順番で解析用車上データ7を見ていく。ステップS503では、基礎データ8もしくは解析用データ7を最後までチェックしたか否かを判定する。解析を始めたばかりとすれば、勿論否であるので、ステップS504に進む。基礎データと解析用車上データのP番号が
図10の左側のように2→2や1→1で一致すれば、ステップS505で両者のリンクをとる。ステップS506で基準データの補正値、解析用車上データの補正値をそれぞれ0にする。補正値については後述する。ステップS507で基礎データと解析用車上データそれぞれの一つ次のデータをチェックする。また、その箇所を基準点とする。
図10の左側では5→2が基準点となる。
【0037】
ステップS504でP番号が不一致になった場合、ステップS508に進む。そして、最初は(b)パターンのステップS509に進む。ここでは基礎データのみを一つ進ませてデータをチェックする。
図10の中央のようにP番号を5から4に一つ進ませ、4→2をチェックする。4−2では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(c)パターンのステップS510に進む。ここでは基礎データを基準点に戻し、解析用車上データを一つ進ませてデータをチェックする。
図10の右側のように基礎データのP番号を4から5に戻し、解析用車上データを2から1に一つ進ませて5→1をチェックする。5−1では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(d)パターンのステップS511に進む。ここでは基礎データの補正値を+1とする。そして、ステップS512で基礎データと解析用車上データを基準点に戻し、基礎データは補正値+1分進ませてデータをチェックする。
【0038】
図11の左側のように基礎データのP番号を+1することにより5から4に進め、解析用車上データを2に戻して4→2をチェックする。4−2では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(b)パターンのステップS509に進む。ここでは基礎データのみを一つ進ませてデータをチェックする。
図11の中央のようにP番号を4から3に一つ進ませ、3→2をチェックする。3−2では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(c)パターンのステップS510に進む。ここでは基礎データを基準点に戻して補正値+1分進ませ、解析用車上データを一つ進ませてデータをチェックする。
図11の右側のように基礎データのP番号を3から4に戻し、解析用車上データを2から1に一つ進ませて4→1をチェックする。4−1では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(e)パターンのステップS513に進む。ここでは解析用車上データの補正値を+1とする。そして、ステップS514で基礎データと解析用車上データを基準点に戻し、解析用車上データは補正値+1分進ませてデータをチェックする。
【0039】
図12の左側のように解析用車上データのP番号を+1することにより2から1に進め、基礎データを5に戻して5→1をチェックする。5−1では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(b)パターンのステップS509に進む。ここでは基礎データのみを一つ進ませてデータをチェックする。
図13の中央のようにP番号を5から4に一つ進ませ、4→1をチェックする。4−1では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(c)パターンのステップS510に進む。ここでは基礎データを基準点に戻し、解析用車上データを一つ進ませてデータをチェックする。
図12の右側のように基礎データのP番号を4から5に戻し、解析用車上データを1から8に一つ進ませて5→8をチェックする。5−8では不一致なので、ステップS511で基礎データの補正値を+2とする。そして、ステップS512で基礎データと解析用車上データを基準点に戻し、基礎データは補正値+2分進ませてデータをチェックする。
【0040】
図13の左側のように基礎データのP番号を+2することにより5から3に進め、解析用車上データを2に戻して3→2をチェックする。3−2では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(b)パターンのステップS509に進む。ここでは基礎データのみを一つ進ませてデータをチェックする。
図13の中央のようにP番号を3から0に一つ進ませ、0→2をチェックする。0−2では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(c)パターンのステップS510に進む。ここでは基礎データを基準点に戻して補正値+2分進ませ、解析用車上データを一つ進ませてデータをチェックする。
図14の右側のように基礎データのP番号を0から3に戻し、解析用車上データを2から1に一つ進ませて3→1をチェックする。3−1では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(e)パターンのステップS513に進む。ここでは解析用車上データの補正値を+2とする。そして、ステップS514で基礎データと解析用車上データを基準点に戻し、解析用車上データは補正値+2分進ませてデータをチェックする。
【0041】
図14の左側のように解析用車上データのP番号を+2することにより2から8に進め、基礎データを5に戻して5→8をチェックする。5−8では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(b)パターンのステップS509に進む。ここでは基礎データのみを一つ進ませてデータをチェックする。
図14の中央のようにP番号を5から4に一つ進ませ、4→8をチェックする。4−8では不一致なので、ステップS503→S504→S508を経て(c)パターンのステップS510に進む。ここでは基礎データを基準点に戻し、解析用車上データを一つ進ませてデータをチェックする。
図14の右側のように基礎データのP番号を4から5に戻し、解析用車上データを8から7に一つ進ませて5→7をチェックする。以後P番号が一致するまで補正値を+1づつ増加させる。
【0042】
基礎データと解析用車上データとの終端方の照合が終ると、ステップS503からステップS515へ進み、基準地上子から起点方への照合を始める。この照合が終了すると、ステップS516に進み、P番号による照合処理を終了する。
【0043】
図15は状態解析結果表示の項目を示す例である。P番号による照合処理を行った後は、
図15のように照合したデータに対して、ソフト上では背景色を変更、csvファイルによる集計結果出力時では、記号により状態解析結果表示を行う。
【0044】
本実施例においては、営業車両の走行中に蓄積された走行状態の蓄積データから解析用車上データを生成し、基礎データと解析用車上データに含まれるATS−P地上子毎に割り振られたP番号により照合の基準となる基準地上子を設定するようにしたから、現在の地上子および車上側の装置を変更する必要はない。また、基礎データの作成以外の、基礎データの記憶、解析用車上データの生成、基準地上子の設定、基礎データと解析用車上データとの照合、不良地上子の検出、状態解析結果の表示を、自動で行うようにしたから、人手を少なくして、地上子状態を解析することができる。
【0045】
本発明は、ATS−P地上子状態解析方法のみならず、ATS−P地上子状態解析装置にも適用することができる。ATS−P地上子状態解析装置においては、PC6の記憶媒体が、本発明の基礎データを記憶する記憶手段に相当する。
図2のステップS102、
図4のステップS201〜S207を実行するPC6の機能部分が、本発明の解析用車上データを生成する生成手段に相当する。
図2のステップS103を実行するPC6の機能部分が、本発明の基礎データと解析用車上データに含まれるATS−P地上子毎に割り振られたP番号により照合の基準となる基準地上子を設定する設定手段に相当する。
図2のステップS104、
図9のステップS502,S507を実行するPC6の機能部分が、本発明の基礎データと解析用車上データとを順次照合する照合手段に相当する。
図2のステップS105,S107を実行するPC6の機能部分が、本発明の基礎データに対して解析用車上データに存在しない地上子を不良地上子として検出する検出手段に相当する。PC6の液晶表示部が、本発明の状態解析結果を表示する表示手段に相当する。