(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応終了後に、反応液から目的物を溶媒で抽出することなく蒸留して光学活性フルオロアルコールを得ることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する有機化合物は、光学活性体であるものが多く存在する。その中でも生理活性を有する化合物では、望ましい活性は一方の光学異性体のみが有することが多い。さらに、望ましい活性を有しない一方の光学異性体は、生体にとって有用な生理活性を有しないばかりでなく、むしろ生体に対し毒性を有する場合があることも知られている。そのため、安全な医薬品合成法として、目的化合物、あるいは、その中間体として高い光学純度を有する光学活性化合物を合成する方法の開発が望まれている。
【0003】
光学活性アルコールは、さまざまな光学活性物質を合成するための不斉源として有用である。一般にラセミ体を光学分割、あるいは、生物学的触媒や不斉金属錯体を触媒に用いる不斉合成によって光学活性アルコールは製造されている。特に不斉合成による光学活性アルコールの製造は、多量の光学活性アルコールの製造には不可欠の技術と考えられている。
【0004】
光学活性フルオロアルコール類は、医薬、農薬に利用される光学活性な生理活性化合物等の合成中間体または液晶化合物の合成中間体として産業上有用な光学活性アルコールの一つである。例えば、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールは、グリシン輸送阻害薬の合成中間体であり、アルツハイマー型認知症、躁病、鬱病などの精神疾患の治療に有効であるし(特許文献1)、p38 MAPキナーゼ阻害薬の合成中間体としても用いられている(非特許文献1)。また、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノールは反強誘電性液晶化合物の合成原料として用いられ、高速応答性を実現している(特許文献2)。
【0005】
光学活性フルオロアルコールの合成法は、微生物を利用する方法と化学的手法に大別される。微生物を利用する方法としては、エステルの選択的加水分解を利用する方法およびフルオロケトンを不斉還元する方法などが報告され、化学的手法では光学分割、不斉水素化、不斉還元などの例がある。以下に例示して示す。
【0006】
微生物によるエステルの選択的加水分解を利用した例としては、対応するエステルをリパーゼによりエナンチオ選択的にアルコリシスして光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノールを合成する方法が報告されている(特許文献2)。この方法では生成物を塩化メチレンで抽出して目的物を得ているが、用いた原料の半分が不要となるため効率的ではない。また、溶媒を完全に留去することが困難でかつ収率も低いという問題点もある。
【0007】
微生物を用いた還元の例としては、1,1,1−トリフルオロアセトンを緩衝溶液中でパン酵母を作用させ、1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを得る方法(特許文献1)が知られているが、緩衝溶液中から目的物を回収するために有機溶媒で抽出するか、直接蒸留して取得する方法がとられている。しかし、有機溶媒で抽出した場合には、アルコールの沸点が82℃と比較的低いため、用いた有機溶媒との分離が困難となる。また緩衝液から蒸留して取得する場合には、緩衝溶液中の低濃度のアルコール体を蒸留するため、目的とするアルコールを収率良く取得することは困難である。
【0008】
化学的手法による光学分割の例としては、ラセミ体(トリフルオロメチル)エチレンオキシドを、コバルトーサレン錯体触媒存在下、エナンチオ選択的に水和し、反応せずに残った(トリフルオロメチル)エチレンオキシドを分取すると光学活性(トリフルオロメチルエチレンオキシド)が得られる。さらにこれを水素化リチウムアルミニウムと反応させることで光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを得る方法が知られているが、用いた原料の半分が不要となる分割的手法は効率的な合成法とは言い難い(非特許文献2)。
【0009】
また、不斉水素化触媒による例としては、1,1,1−トリフルオロアセトンを不斉水素化触媒存在下、水素加圧して得る方法(特許文献3)が知られている。しかしながら、40MPa以上もの高圧水素を用いる必要があり、それに対応した高圧反応容器を必要とするため簡便な方法とは言い難い。
【0010】
有機物を水素源とする不斉還元の例としては、3位にハロゲン原子を有する1,1,1−トリフルオロアセトンを、光学活性なボラン還元剤により還元して光学活性3−ハロ−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを合成したのち、これに水酸化ナトリウムを作用させて光学活性(トリフルオロメチル)エチレンオキシドに誘導する、さらにこれを水素化リチウムアルミニウムで処理することで光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを得る方法が知られているが、化学量論量の高価な光学活性体を使用し、かつ多段階反応であるため効率的な方法とは言い難い(非特許文献3)。
【0011】
特殊な容器を必要とせずに反応が実施でき、しかも1段階で対応するケトンから光学活性アルコールが合成可能な不斉還元触媒に着目すれば、スルホニルジアミンを配位子とする不斉ルテニウム触媒やロジウム、イリジウム触媒は有用な不斉還元触媒であることが知られている(特許文献4、特許文献5)。この手法によるフルオロアルコールの合成例としては、不斉ルテニウム触媒存在下、ギ酸/トリエチルアミン中で、1,1,1−トリフルオロケトンを不斉還元する例が知られている(非特許文献4)。しかし、後処理方法として、反応液を溶媒に溶解した後、ギ酸やトリエチルアミンを水洗により除く工程が不可欠である。このため溶媒に近い沸点をもつアルコールの場合には、溶媒との分離が困難となる場合があった。事実、この文献中には、脂肪族ケトンの反応例としては比較的沸点が高く、溶媒抽出や水洗処理が可能な1,1,1−トリフルオロ−2−オクタノンのみが記載され、1,1,1−トリフルオロー2−プロパノールなどの沸点が低く、水に溶解しやすいフルオロアルコールの合成に関しては、全く触れられていない。
【0012】
一方、上記スルホニルジアミンを配位子とする、ルテニウム、イリジウム、ロジウム触媒を用いるケトン類の水素移動型不斉還元において、水溶媒中、ギ酸塩を水素源として水−有機層の2相分離させた状態で反応を行う二相系還元が知られており(非特許文献5、非特許文献6)、pHが触媒反応に影響することが報告されている。例えば、ギ酸/トリエチルアミン系を水素源として還元を行う場合に、ギ酸、トリエチルアミンの量を変えて、反応液のpHを変えると、反応速度および得られるアルコールの光学純度に影響することが知られている(非特許文献6)。しかし同文献は、芳香族ケトンを基質として用いる光学活性芳香族アルコールの合成法を記載するに止まり、α位にフッ素原子を有する脂肪族ケトンを基質として用いる1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールなどの脂肪族光学活性フルオロアルコールの合成については一切報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、脂肪族光学活性フルオロアルコール、とりわけ溶媒との分離が困難な炭素数3〜5の低級脂肪族光学活性フルオロアルコールを特殊な反応容器を用いることなく効率的に合成する方法を提供することにあるが、本発明者らは鋭意検討する中で、ケトン基質が残存しないにも拘らずアルコール体を回収できないという新たな課題に直面した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、特殊な反応容器を用いることなく効率的に合成する方法として、金属錯体の存在下で、水を溶媒とする二相系還元条件を用いることで、反応が速やかに進行することを見いだした。この方法では水を溶媒として用いているため、反応液を蒸留するという単純な操作により、純度良く光学活性フルオロアルコールを得ることができる利点を有する。
【0017】
本発明者らは、さらに研究を進める中で、原料として用いたケトンが残存していないにもかかわらず、得られるアルコール体の収率が低くなるという不利益な現象に対し、酸を添加することで、該収率を著しく向上することができることをも見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、
光学活性フルオロアルコールの製造方法であって、
一般式(1)
【化1】
式中、R
1及びR
2は、同一であっても互いに異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基及びR
1とR
2とが一緒になって形成された非置換もしくは置換基を有する脂環式環からなる群より選ばれた一種であり、
R
3は、置換基を有していてもよいアルキル基、パーフルオロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル基、置換基を有していてもよいピペリジニル基、置換基を有していてもよいピロリジニル基及び置換基を有していてもよいカンファー基からなる群より選ばれた一種であり、
R
4は、水素原子又はアルキル基であり、
Arは、Mとπ結合を介して結合している、置換基を有していてもよいベンゼン又は置換基を有してもよいシクロペンタジエニル基であり、
Xは、アニオン性基であり、
Mは、ルテニウム、ロジウムまたはイリジウムであり、
nは0または1を表し、nが0の場合にはXは存在せず、
*は、不斉炭素を示す、
で表される、金属錯体である不斉触媒および酸の存在下、水を含む溶媒中で、ギ酸塩を水素源として用いて、α位にフッ素原子を有する脂肪族ケトンを反応させて光学活性アルコールを製造する、前記製造方法に関する。
【0019】
また本発明は、水を含む溶媒が水のみからなる、請求項1に記載の製造方法。
さらに本発明は、ギ酸塩がギ酸カリウムおよび/またはギ酸ナトリウムである、前記製造方法に関する。
また本発明は、酸がギ酸および/または酢酸である、前記製造方法に関する。
さらに本発明は、酸の添加量が、ケトンに対し、0.01〜1モル当量の範囲である、前記製造方法に関する。
また本発明は、相間移動触媒を添加して反応を行うことを特徴とする前記製造方法に関する。
【0020】
また本発明は、α位にフッ素原子を有する脂肪族ケトンが一般式(2)
【化2】
式中、R
5〜R
7は水素、フッ素、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜5のアルキル基であり(但しR
5〜R
7の少なくとも一つはフッ素原子である)、R
8はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜6のアルキル基である、で表される化合物であることを特徴とする、前記製造方法に関する。
【0021】
さらに本発明は、R
5〜R
7が水素、フッ素、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜2のアルキル基であり(但し少なくとも一つはフッ素原子である)、R
8がフッ素原子を除くヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜3のアルキル基である、前記製造方法に関する。
また本発明は、R
5〜R
7が水素またはフッ素であり(但し少なくとも一つはフッ素原子)、R
8が炭素数1〜2のアルキル基である、前記製造方法に関する。
【0022】
さらに本発明は、α位にフッ素原子を有する脂肪族ケトンが1,1,1−トリフルオロアセトンである、前記製造方法に関する。
また本発明は、反応終了後に、反応液から目的物を溶媒で抽出することなく蒸留して光学活性フルオロアルコールを得ることを特徴とする前記製造方法に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上記の構成により、溶媒との分離が困難な低級脂肪族光学活性フルオロアルコールを特殊な反応容器を用いることなく効率的に合成することができる。さらに本発明は、酸を加えることにより、反応後に基質が残存していないにも関わらず、アルコール体の収率が低いという不利益な現象を解消することができる。以上の作用効果については、酸の添加の有無に関わらず原料であるケトンが残存していないため(転化率に差はない)、これまでに知られた反応系における、pHが反応速度や光学純度に影響をあたえるという知見からは解釈できない。この酸の作用機構は必ずしも明らかではないが、酸の添加には、α位にフッ素原子を有するケトンもしくは生成したアルコール体の分解、変質を抑制する効果があるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の不斉触媒は、
一般式(1)
【化3】
で表される(式中、*は、不斉炭素を示す)、金属錯体である。
【0025】
一般式(1)中、R
1及びR
2は、同一であっても互いに異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基及びR
1とR
2とが一緒になって形成された非置換もしくは置換基を有する脂環式環からなる群より選ばれた一種である。
【0026】
置換基を有していてもよいアルキル基としては、これに限定するものではないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝アルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等を有する前記直鎖もしくは分枝アルキル基が挙げられる。置換基を有していてもよいフェニル基は、これに限定するものではないが、無置換のフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基等の炭素数1〜5のアルキル基を有するフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基等のハロゲン置換基を有するフェニル基、4−メトキシフェニル基等のアルコキシ基を有するフェニル基などが挙げられる。
【0027】
置換基を有していてもよいナフチル基としては、これに限定するものではないが、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1〜7のメチル基を有する1−ナフチル基および2−ナフチル基等が挙げられる。置換基を有していてもよいシクロアルキルとしては、これに限定するものではないが、炭素数3〜8のシクロアルキル基、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはt−ブチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を有するシクロアルキル基等が挙げられる。
R
1とR
2とが結合して環を形成した非置換若しくは置換基を有する脂環式環としては、これに限定するものではないが、例えばR
1とR
2とが結合して環を形成したシクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環もしくはシクロヘプタン等の無置換の炭素数4〜7のシクロアルカン、または、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはt−ブチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等の置換基を有する炭素数4〜7のシクロアルカン等が挙げられる。
【0028】
このうち、合成が容易である、また市販品が入手できるとの観点から、R
1及びR
2は、好ましくはフェニル基もしくは置換フェニル基、特に好ましくはフェニル基またはメチル基、エチル基、プロピル基もしくはt−ブチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基によって1〜5個置換されたフェニル基であるか、あるいはR
1とR
2とが結合してシクロペンタン環もしくはシクロヘキサン環を形成しているのが好ましい。
【0029】
一般式(1)中、R
3は、置換基を有していてもよいアルキル基、パーフルオロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル基、置換基を有していてもよいピペリジニル基、置換基を有していてもよいピロリジニル基及び置換基を有していてもよいカンファー基からなる群より選ばれた一種である。
【0030】
置換基を有していてもよいアルキル基としては、これに限定するものではないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソヘキシル基等の炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝アルキル基、またはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、窒素原子、イオウ原子等を有する前記直鎖もしくは分枝アルキル基、例えばフッ素原子を1つ以上含むアルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基等またはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等のパーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0031】
置換基を有していてもよいフェニル基としては、これに限定するものではないが、例えば無置換のフェニル基、4−メチルフェニル基や4−tert−ブチルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基や2,4,6−トリメチルフェニル基や2,4,6−トリイソプロピルフェニル基等の炭素数1〜5のアルキル基を有するフェニル基、4−フルオロフェニル基や3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基等のハロゲン置換基を有するフェニル基、4−ニトロフェニル基などニトロ基を有するフェニル基、4−メトキシフェニル基等のアルコキシ基を有するフェニル基が挙げられる。
【0032】
置換基を有していてもよいナフチル基としては、これに限定するものではないが、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1〜7のメチル基を有する1−ナフチル基および2−ナフチル基等が挙げられる。置換基を有していてもよいシクロアルキルとしては、これに限定するものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等の炭素数3〜8のシクロアルキル基が挙げられる。
【0033】
置換基を有していてもよいベンジル基としては、これに限定するものではないが、例えば無置換のベンジル基、2,6−ジメチルベンジル基等の炭素数1〜5のアルキル基を有するベンジル基等が挙げられる。
【0034】
置換基を有していてもよいピペリジニル基またはピロリジニル基等の窒素原子を有する複素環基としては、これに限定するものではないが、例えば無置換のピペリジニル基、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはt−ブチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等の置換基を有するピペリジニル基が挙げられる。置換基を有していてもよいピロリジニル基としては、これに限定するものではないが、例えば無置換のピロリジニル基、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはt−ブチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等の置換基を有するピロリジニル基が挙げられる。
【0035】
置換基を有してもよいカンファー基としては、これに限定するものではないが、例えば無置換のカンファー基、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはt−ブチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等の置換基を有するカンファー基等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)中、R
4は、水素原子又はアルキル基である。アルキル基としては、これに限定するものではないが、メチル基、エチル基等の炭素数1〜5の直鎖または分枝アルキル基等が挙げられる。これらのうち、高い触媒活性を得ることができるとの観点から、メチル基または水素原子が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0037】
一般式(1)中、Arは、Mとπ結合を介して結合している、置換基を有していてもよいベンゼン又は置換基を有してもよいシクロペンタジエニル基である。置換基を有していてもよいベンゼンとしては、これに限定するものではないが、無置換のベンゼン、トルエン、o−、m−及びp−キシレン、o−、m−及びp−シメン、1,2,3−、1,2,4−及び1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルフェニル基ならびにペンタメチルベンゼン、ならびにヘキサメチルベンゼン等の炭素数1〜3のアルキル基を有するベンゼン等が挙げられる。
【0038】
置換基を有してもよいシクロペンタジエニル基としては、これに限定するものではないが、無置換のシクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、1,2−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,3−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,2、3−トリメチルシクロペンタジエニル基、1,2,4−トリメチルシクロペンタジエニル基、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニル基及び1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル基等の炭素数1〜3のアルキル基を有するシクロペンタジエニル基などが挙げられる。
【0039】
これらのうち、高い不斉収率を得ることができ、さらに原料の入手が容易であるとの観点から、Arは、p−シメン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルが好ましく、特にp−シメン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルが好ましい。
【0040】
一般式(1)中、Xは、アニオン性基である。本明細書においてアニオン性基にはハロゲン原子が含まれる。アニオン性基としては、これに限定するものではないが、例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基、テトラフルオロボラート基、テトラヒドロボラート基、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、(2,6−ジヒドロキシベンゾイル)オキシ基、(2,5−ジヒドロキシベンゾイル)オキシ基、(3−アミノベンゾイル)オキシ基、(2,6−メトキシベンゾイル)オキシ基、(2,4,6−トリイソプロピルベンゾイル)オキシ基、1−ナフタレンカルボン酸基、2−ナフタレンカルボン酸基、トリフルオロアセトキシ基、トリフルオロメタンスルホキシ基、トリフルオロメタンスルホンイミド基等が挙げられる。このうち、原料の入手が容易であるとの観点から、塩素基、臭素基、ヨウ素基、トリフルオロメタンスルホキシ基が好ましく、塩素基、トリフルオロメタンスルホキシ基がさらに好ましい。
また一般式(1)中、nは0または1を表し、nが0の場合にはXは存在しない。
【0041】
一般式(1)中、Mは、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムのいずれかである。
一般式(1)で表される、本発明の不斉触媒は、ルテニウム、ロジウム又はイリジウムに、2座配位子であるエチレンジアミン誘導体またはシクロヘキサンジアミン誘導体(R
3SO
2NHCHR
1CHR
2NHR
4)が配位している構造を有する。基質の構造により、高い反応性や不斉収率が得られる配位子の構造は異なるため、基質の構造に応じて、最適なエチレンジアミン誘導体またはシクロヘキサンジアミン誘導体を選択することができる。
【0042】
上記エチレンジアミン誘導体としては、これに限定するものではないが、例えば、TsDPEN(N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン)、MsDPEN(N−メタンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン)、N−(ベンジルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(シクロヘキサンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2,5−ジメチルベンジルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(sec−ブチルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−メチル−N′−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(p−メトキシフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(p−クロロフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(m−クロロフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2,3−ジクロロフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、
【0043】
N−(3,4−ジクロロフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2,4,6−トリクロロフェニルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−トリフルオロメタンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2,4,6−トリメチルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(4−tert−ブチルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(2−ナフチルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(1−ナフチルスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(4−ニトロベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(3,5−ジメチルベンゼンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−ペンタメチルベンゼンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−(10−カンファースルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミンなどが例示される。
【0044】
上記シクロヘキサンジアミン誘導体としては、これに限定するものではないが、例えばTsCYDN(N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン)、Ms
CYDN(N−メタンスルホニル−1,2−シクロヘキサンジアミン)、N−(ベンジルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(シクロヘキサンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(2,5−ジメチルベンジルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(sec−ブチルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−メチル−N′−(p−トルエンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(p−メトキシフェニルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(p−クロロフェニルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(m−クロロフェニルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(2,3−ジクロロフェニルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(3,4−ジクロロフェニルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、
【0045】
N−(2,4,6−トリクロロフェニルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−トリフルオロメタンスルホニル−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(2,4,6−トリメチルベンゼンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(4−tert−ブチルベンゼンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(2−ナフチルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(1−ナフチルスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(4−ニトロベンゼンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(3,5−ジメチルベンゼンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−ペンタメチルベンゼンスルホニル−1,2−シクロヘキサンジアミン、N−(10−カンファースルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミンなどが例示される。
【0046】
一般式(1)で表されるルテニウム、ロジウム及びイリジウム錯体の調製方法は、Angew. Chem., Int. Ed.
Engl. Vol.36, p285(1997)、J. Org. Chem. Vol.64, p2186(1999)等に記載されている。すなわち、配位子Xをもつルテニウム、ロジウム又はイリジウム錯体と、スルホニルジアミン配位子の反応により合成可能である。あるいは、スルホニルジアミン配位子をもつ金属アミド錯体とHXとの反応により合成可能である。
【0047】
一般式(1)で表されるルテニウム錯体の出発原料となるルテニウム錯体としては、例えば、塩化ルテニウム(III)水和物、臭化ルテニウム(III)水和物、沃化ルテニウム(III)水和物等の無機ルテニウム化合物、[2塩化ルテニウム(ノルボルナジエン)]多核体、[2塩化ルテニウム(シクロオクタ−1,5−ジエン)]多核体、ビス(メチルアリル)ルテニウム(シクロオクタ−1,5−ジエン)等のジエンが配位したルテニウム化合物、[2塩化ルテニウム(ベンゼン)]多核体、[2塩化ルテニウム(p−シメン)]多核体、[2塩化ルテニウム(トリメチルベンゼン)]多核体、[2塩化ルテニウム(ヘキサメチルベンゼン)]多核体等の芳香族化合物が配位したルテニウム錯体、
【0048】
また、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等のホスフィンが配位した錯体、2塩化ルテニウム(ジメチルホルムアミド)4、クロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等が用いられる。その他、光学活性ジホスフィン化合物、光学活性ジアミン化合物と置換可能な配位子を有するルテニウム錯体であれば、特に、上記に限定されるものではない。例えば、COMPREHENSIVE ORGANOMETALLIC CHEMISTRY II
Vol.7 p294−296(PERGAMON)に示された、種々のルテニウム錯体を出発原料として用いることができる。
【0049】
同様に、一般式(1)で表される不斉ロジウム錯体及び不斉イリジウム錯体の出発原料となるロジウム及びイリジウム錯体としては、例えば塩化ロジウム(III)水和物、臭化ロジウム(III)水和物、沃化ロジウム(III)水和物等の無機ルテニウム化合物、[2塩化ペンタメチルシクロペンタジエニルロジウム]多核体、[2臭化ペンタメチルシクロペンタジエニルロジウム]多核体、[2ヨウ化ペンタメチルシクロペンタジエニルロジウム]多核体が用いられる。
【0050】
出発原料である、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウム錯体と配位子との反応は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、DMF、N−メチルピロリドン及びDMSOなどヘテロ原子を含む有機溶媒からなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒中で、反応温度0℃から200℃の間で行われ、この反応により金属錯体を得ることができる。
【0051】
また、一般式(1)で示される金属錯体触媒は、その合成に用いられた反応試剤である有機化合物を1ないし複数個含む場合がある。ここで、有機化合物は配位性の有機溶媒を示し、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロへキシルケトンなどのケトン系溶媒、アセトニトリル、DMF、N−メチルピロリドン、DMSO、トリエチルアミンなどヘテロ原子を含む有機溶剤などが例示される。
【0052】
本発明における一般式(1)で表される金属錯体中の不斉炭素は、光学活性アルコールを得るためにはいずれも(R)体であるか、又はいずれも(S)体である必要がある。これらの(R)体又は(S)体のいずれかを選択することにより、所望する絶対配置の光学活性アルコールを高選択的に得ることができる。なお、ラセミ体アルコール又はアキラルなアルコールの製造を所望する場合には、これらのキラル炭素は双方共に(R)体、又は(S)体である必要はなく、各々独立してどちらでもよい。
【0053】
本発明で使用される一般式(1)で表される金属錯体の量は、金属錯体のモルに対するケトン化合物のモル比をS/C(Sは基質、Cは触媒)と表すとすると、S/Cが10〜10,000の範囲で用いることができ、反応効率や経済性の観点から100〜5,000の範囲で用いることが好ましく、100〜2,000がさらに好ましい。
【0054】
本発明の一般式(2)で表されるα位にフッ素原子を有する脂肪族ケトンは、
一般式(2)
【化4】
で表される。
一般式(2)中、R
5〜R
7は水素、フッ素原子、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜5のアルキル基であり(但しR
5〜R
7の少なくとも一つはフッ素原子である)、R
8はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜5のアルキル基である。
【0055】
R
5〜R
7のヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜5のアルキル基としては、これに限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜5の直鎖もしくは分枝アルキル基、またはヘテロ原子としてフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等を有する、前記炭素数1〜5の直鎖もしくは分枝アルキル等が挙げられる。炭素数は、生成物を蒸留により単離精製できるという観点から、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2である。
【0056】
R
8のヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜5のアルキル基としては、これに限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜5の直鎖もしくは分枝アルキル基、またはヘテロ原子としてフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等を有する、好ましくはフッ素原子を除くハロゲン原子を有する、前記炭素数1〜5の直鎖もしくは分枝アルキル等が挙げられる。炭素数は、生成物を蒸留により単離精製できるという観点から、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2である。
【0057】
本発明の一態様において、R
5〜R
7は水素、フッ素、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜2のアルキル基であり(但し少なくとも一つはフッ素原子である)、R
8はフッ素原子を除くヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜3のアルキル基である。
【0058】
本発明の一態様において、R
5〜R
7は水素またはフッ素であり(但し少なくとも一つはフッ素原子である)、R
8は炭素数1〜2のアルキル基である。
【0059】
一般式(2)で表されるα位にフッ素原子を有する脂肪族ケトンの典型的な例として、1,1,1−トリフルオロアセトン、1,1−ジフルオロアセトン、1−フルオロアセトン、1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノン、1,1−ジフルオロ−2−ブタノン、1−フルオロ−2−ブタノン、1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン、1,1−ジフルオロ−2−ペンタノン、1−フルオロ−2−ペンタノン、1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキサノン、1,1−ジフルオロ−2−ヘキサノン、1−フルオロ−2−ヘキサノン、3,3,4,4,4−ペンタフルオロ−2−ブタノン、3,3,4,4−テトラフルオロ−2−ブタノン、3,3,4−トリフルオロ−2−ブタノン、3,3−ジフルオロ−2−ブタノン、3,4,4,4−テトラフルオロ−2−ブタノン、3,4,4−トリフルオロ−2−ブタノン、3,4−ジフルオロ−2−ブタノン、3−フルオロ−2−ブタノン、
【0060】
1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3−ペンタノン、1,1,2,2−テトラフルオロ−3−ペンタノン、1,2,2−トリフルオロ−3−ペンタノン、2,2−ジフルオロ−3−ペンタノン、1,1,1,2−テトラフルオロ−2−ペンタノン、1,1,2−トリフルオロ−3−ペンタノン、1,2−ジフルオロ−3−ペンタノン、2−フルオロ−3−ペンタノン、3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロ−2−ペンタノン、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロ−2−ペンタノン、3,3,4,4,5−ペンタフルオロ−2−ペンタノン、3,3,4,4−テトラフルオロ−2−ペンタノン、3,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2−ペンタノン、3,3,4,5,5−ペンタフルオロ−2−ペンタノン、3,3,4,5−テトラフルオロ−2−ペンタノン、3,3,4−トリフルオロ−2−ペンタノン、3,3,5,5,5−ペンタフルオロ−2−ペンタノン、3,3,5,5−テトラフルオロ−2−ペンタノン、
【0061】
3,3,5−トリフルオロ−2−ペンタノン、3,3−ジフルオロ−2−ペンタノン、3,4,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2−ペンタノン、3,4,4,5,5−ペンタフルオロ−2−ペンタノン、3,4,4,5−ヘキサフルオロ−2−ペンタノン、3,4,4−トリフルオロ−2−ペンタノン、3,4,5,5,5−ペンタフルオロ−2−ペンタノン、3,4,5,5−テトラフルオロ−2−ペンタノン、3,4,5−トリフルオロ−2−ペンタノン、3,4−ジフルオロ−2−ペンタノン、3,5,5,5−テトラフルオロ−2−ペンタノン、3,5,5−トリフルオロ−2−ペンタノン、3,5−ジフルオロ−2−ペンタノン、3−フルオロ−2−ペンタノン等が例示される。
【0062】
本発明に用いる水素源は、生成物との分離が容易であるとの観点からギ酸塩が好ましい。ギ酸塩としては、これに限定するものではないが、例えばギ酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩が挙げられ、具体的にはギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸セシウム、ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウムなどが例示される。高い反応性が得られるとの観点から、ギ酸カリウムまたはギ酸ナトリウムが好ましく、ギ酸カリウムがさらに好ましい。また、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
反応に使用する酸は、高いアルコール収率、光学純度を得ることができるとの観点から必要であるが、酸の種類は特に限定されず、無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸等が挙げられ、有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。また、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
使用する酸の添加量は、不斉収率の観点から、用いるケトン基質に対し、0.01〜1モル当量の範囲、好ましくは0.01〜0.5モル当量の範囲であり、さらに好ましくは0.01〜0.2モル当量の範囲である。
【0064】
本発明に用いられる水を含む溶媒は、水を主成分として含むものであり、例えばアルコール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等の他の成分を含んでいてもよいが、好ましくは溶媒の90質量%以上が水であり、さらに好ましくは95質量%以上が水であり、特には溶媒が水のみからなることが好ましい。
【0065】
本発明は、一態様において、必要に応じ、相間移動触媒を添加して反応を実施してもよい。相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムヨージド、
【0066】
ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムフルオリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムフルオリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヨージド、
【0067】
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、フェニルトリメチルアンモニウムフルオリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド、フェニルトリメチルアンモニウムヨージド、フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリメチルアンモニウムフルオリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムヨージド、ドデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドなどが例示される。またこれらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
添加する相間移動触媒の量は、ケトン基質に対して0.01〜10モル当量の範囲である。相間移動触媒の添加によって、ケトン基質の反応性やエナンチオ選択性を向上させることができる。
反応温度は、特に制限はないが、経済性や不斉収率、ケトン基質の沸点を考慮すると0〜70℃の範囲、好ましくは20〜60℃の範囲であり、さらに好ましくは20℃〜40℃の範囲である。
反応時間は、反応基質の種類、濃度、S/C、温度等の反応条件や、触媒の種類によって異なるため、数分〜数日で反応が終了するように諸条件を設定すればよく、特に5〜24時間で反応が終了するように諸条件を設定することが好ましい。
【0069】
また、反応生成物の精製は、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の公知の方法により任意に行うことができるが、溶媒との分離が困難となり、収率の低下などが生じるため、溶媒で抽出することなく蒸留により取得する方法が最も好ましい。
本発明の製造方法におけるケトン基質の不斉還元は、反応形式が、バッチ式においても連続式においても実施することができる。
上記の方法により、溶媒との分離が困難な低級脂肪族光学活性フルオロアルコールを効率的に純度よく取得することができる。 以下に、本発明の実施例および比較例を示し、さらに詳しく本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0070】
下記の実施例において、使用したケトン基質は、試薬購入品を精製することなく直接用いた。反応容器は特に記載のない場合を除き、基質の気散を考慮して、ガラス製100mLオートクレーブを用いた。また、NMRは、JNM‐LA400(400MHz,日本電子社製)を用いて測定した。
1HNMRはテトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質に用い、その信号をδ=0(δは化学シフト)とした。アルコール化合物への転化率及び反応収率はガスクロマトグラフィー(GC)により測定し、原料、目的生成物及び副生成物の各積分値を用いて計算した。
【0071】
アルコール化合物への転化率は、[(目的生成物と副生成物の積分値の和)/(原料、目的生成物及び副生成物の積分値の和)]×100で計算し、アルコール化合物の反応収率は、[(添加した内部標準物質のモル数)×(目的生成生物の積分値)/(添加した内部標準物質の積分値)×(補正係数)/(使用したケトン体のモル数)×100]で計算した。補正係数は精製したアルコール体と内部標準物質を混合した溶液を調製してGC測定を行い、[(内部標準物質の積分値)×(使用したアルコール体のモル数)/(内部標準物質のモル数)/(アルコール体の積分値)]で算出した値である。カラムは、DB−624(30m×0.53mmφ、DF=3.00μm)(J&W Scientific社製)を使用した。
【0072】
光学純度は特に記載の無い場合を除きGCにより測定した。カラムはBGB−174(30m×0.25mmφ、DF=0.25μm)(BGB Analytic AG社製)を使用した。
【0073】
[比較例1]
アルゴンガス雰囲気下、100mLのガラス製オートクレーブにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−Tsdpen](mesitylene)(50mg、0.08mmol)、ギ酸カリウム(9.7g、115mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(1.8g、5.6mmol)、水(11.2mL)および1,1,1−トリフルオロアセトン(5.0mL、56mmol、基質/触媒比 700)を仕込んだ。容器を密閉して室温で21時間攪拌した。反応終了後、反応液をジメチルスルホキシド(DMSO)で回収し、内部標準物質としてN,N−ジメチルホルムアミド(1.0mL、12.9mmol)を添加してGCを測定した。ケトン基質残存量より求めた転化率は98.7%であり、内部標準物質基準で求めた1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの収率は、用いたケトンの量に対し75.8%であった。また、光学純度は96.6%eeであり、絶対配置はS体であった。
【0074】
[比較例2−5]
反応温度、TBABの使用量、水の使用量および反応時間を変更した以外は比較例1と同じ条件で反応を実施した。結果を表1にまとめて示す。
【0075】
【表1】
【0076】
[実施例1]
アルゴンガス雰囲気下、100mLのガラス製オートクレーブにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−Tsdpen](mesitylene)(50mg、0.08mmol)、ギ酸カリウム(9.7g、115mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(1.8g、5.6mmol)、水(5.6mL)、ギ酸(0.63mL、16.7mmol、使用ケトンに対し0.3当量)および1,1,1−トリフルオロアセトン(5.0mL、56mmol、基質/触媒比 700)を仕込んだ。容器を密閉して30℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応液をジメチルスルホキシド(DMSO)で回収し、内部標準物質としてN,N−ジメチルホルムアミド(1.0mL、12.9mmol)を添加してGCを測定した。ケトン基質残存量より求めた転化率は99.3%であり、内部標準物質基準で求めた1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの収率は、用いたケトンの量に対し103%であった。また、光学純度は94.6%eeであり、絶対配置はS体であった。
このことから反応系に酸を添加すると1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの収率が格段に向上することがわかった。
【0077】
[実施例2−8]
反応温度、TBABの使用量およびギ酸の使用量変更した以外は実施例1と同じ条件で反応を実施した。結果を表2にまとめて示す。
このことから反応系に酸を添加すると光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの収率が向上することを確認した。
【0078】
【表2】
【0079】
[実施例9]
アルゴンガス雰囲気下、ジムロート冷却管を備えた(0℃冷却水を循環)100mL3ツ口フラスコにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−Tsdpen](mesitylene)(50mg、0.08mmol)、ギ酸カリウム(9.7g、115mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(0.36g、1.1mmol)、水(5.6mL)、ギ酸(0.21mL、5.6mmol、使用ケトンに対し0.1当量)および1,1,1−トリフルオロアセトン(5.0mL、56mmol、基質/触媒比700)を仕込んだ。これを30℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応液をジメチルスルホキシド(DMSO)で回収し、内部標準物質としてN,N−ジメチルホルムアミド(1.0mL、12.9mmol)を添加してGCを測定した。ケトン基質残存量より求めた転化率は100%であり、内部標準物質基準で求めた1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの収率は、用いたケトンの量に対し95.8%であった。この結果より、圧力容器を用いなくとも収率良く目的物が得られることを確認した。
【0080】
[実施例10]
アルゴンガス雰囲気下、100mLのガラス製オートクレーブにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−BnSO2dpen](mesitylene)(50mg、0.08mmol)、ギ酸カリウム(9.7g、115mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(0.36g、1.1mmol)、水(5.6mL)、ギ酸(0.21mL、5.6mmol、使用ケトンに対し0.1当量)および1,1,1−トリフルオロアセトン(5.0mL、56mmol、基質/触媒比 700)を仕込んだ。容器を密閉して30℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応液をジメチルスルホキシド(DMSO)で回収し、内部標準物質としてN,N−ジメチルホルムアミド(1.0mL、12.9mmol)を添加してGCを測定した。ケトン基質残存量より求めた転化率は100%であり、内部標準物質基準で求めた1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの収率は、用いたケトンの量に対し98.5%であった。また、光学純度は94.4%eeであり、絶対配置はS体であった。
【0081】
[実施例11−30]
金属錯体の最適化のため、金属錯体を変更した以外は実施例10と同じ条件で反応を実施した。結果を表3にまとめて示す。
【0082】
【表3】
【0083】
[実施例31]
アルゴンガス雰囲気下、100mLのガラス製オートクレーブにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−2−NaphthylSO
2dpen](mesitylene)(53mg、0.08mmol)、ギ酸カリウム(9.7g、115mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(0.36g、1.1mmol)、水(5.6mL)、酢酸(0.32mL、5.5mmol、使用ケトンに対し0.1当量)および1,1,1−トリフルオロアセトン(5.0mL、56mmol、基質/触媒比 700)を仕込んだ。容器を密閉して30℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応液をジメチルスルホキシド(DMSO)で回収し、内部標準物質としてN,N−ジメチルホルムアミド(1.0mL、12.9mmol)を添加してGCを測定した。
ケトン基質残存量より求めた転化率は100%であり、内部標準物質基準で求めた1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの収率は、用いたケトンの量に対し106%であった。また、光学純度は96.4%eeであり、絶対配置はS体であった。
【0084】
[実施例32−34]
その他の酸を用いた場合の影響を調べるため、ルテニウム錯体にRuCl[(S,S)−Tsdpen](mesitylene)を用い、酸の種類および添加量を変更した以外は、実施例31と同一の条件で実施した。結果を表4にまとめて示す。
この結果から、酸の種類を変えても同様な効果があることを確認した。
【0085】
【表4】
【0086】
[実施例35]
アルゴンガス雰囲気下、300mLのSUS製オートクレーブにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−Tsdpen](mesitylene)(0.51g、0.81mmol)、ギ酸カリウム(94.6g、1.12mol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(9.00g、27.9mmol)、水(112mL)、ギ酸(2.1mL、55.6mmol、使用ケトンに対し0.1当量)および1,1,1−トリフルオロアセトン(50.0mL、559mmol、基質/触媒比 700)を仕込んだ。容器を密閉して30℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応液を蒸留し、61.2gの(S)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール得た。収率は96%であり、GCにより測定した純度は、100%であった。光学純度は97.0%eeであった。1H−NMR測定の結果にそれぞれ目的物であることを確認した。
1H―NMR(CDCl3)1.37ppm(d,3H)、3.0ppm(br,1H)、4.06−4.16ppm(m,1H)、
この様に、本操作により、収率良く1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを単離可能であることがわかった。
【0087】
[実施例36]
アルゴンガス雰囲気下、100mLのガラス製オートクレーブにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−Tsdpen](mesitylene)(61.1mg、0.10mmol)、ギ酸カリウム(5.1g、60.9mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(0.47g、1.5mmol)、水(6.0mL)、ギ酸(0.11mL、2.9mmol、使用ケトンに対し0.1当量)および1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノン(4.0mL、29mmol、基質/触媒比 300)を仕込んだ。容器を密閉して30℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応液をジメチルスルホキシド(DMSO)で回収し、内部標準物質としてN,N−ジメチルホルムアミド(1.0mL、12.9mmol)を添加してGCを測定した。ケトン基質残存量より求めた転化率は100%であった。また、光学純度は96.4%eeであった。
1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノンでも良好に反応が進行することを確認した。
【0088】
[実施例37]
アルゴンガス雰囲気下、100mLのガラス製オートクレーブにルテニウム錯体RuCl[(S,S)−Tsdpen](mesitylene)(44.3mg、0.07mmol)、ギ酸カリウム(8.4g、99.3mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)(0.806 g、2.50mmol)、水(5.6mL)、ギ酸(0.20mL、5.3mmol、使用ケトンに対し0.1当量)および1,1−ジフルオロアセトン(4.0mL、50mmol、基質/触媒比 700)を仕込んだ。容器を密閉して30℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応液をジメチルスルホキシド(DMSO)で回収し、内部標準物質としてN,N−ジメチルホルムアミド(1.0mL、12.9mmol)を添加してGCを測定した。ケトン基質残存量より求めた転化率は100%であった。また、得られたアルコールをMTPAエステルに誘導化して以下に示す条件で光学純度を求めた結果、82.7%eeであった。(カラム:DB−5(30m×0.53mm ID、膜厚1.50mm、J&W Scientific社製)、昇温条件:40℃―3℃/min―250℃(5min)、圧力(He):15.0kPa、スプリット比:30)。
1,1−ジフルオロアセトンでも良好に反応が進行することを確認した。