【0024】
(難燃化剤の成分および融点)
本例では、難燃化剤として、以下の環状ホスファゼン化合物(ホスファゼン化合物A〜G)を用いた。ホスファゼン化合物Aは、上記一般式(I)において
、nが3であって、全Rのうち4つがクロロ基で、2つがアミノメチル基の環状ホスファゼン化合物(融点は99℃)である。ホスファゼン化合物Bは、上記の一般式(I)において、
nが3であって、6つのRが全てフェノキシ基の環状ホスファゼン化合物(融点は110〜111℃)である。ホスファゼン化合物Cは、上記の一般式(I)において、
nが3であって、全Rのうち5つがクロロ基で、1つがフェノキシ基の環状ホスファゼン化合物(融点は20℃)である。ホスファゼン化合物Dは、上記の一般式(I)において、nが3であって、6つのRが全てアミノプロピル基の環状ホスファゼン化合物(融点は90℃)である。ホスファゼン化合物Eは、上記の一般式(I)において、nが3であって、6つのRが全てアミノエチル基の環状ホスファゼン化合物(融点は120℃)である。ホスファゼン化合物Fは、上記の一般式(I)において、
nが3であって、全Rのうち2つがクロロ基で、2つがフェニル基、2つがアミノメチル基の環状ホスファゼン化合物(融点は132℃)である。ホスファゼン化合物Gは、上記の一般式(I)において、nが3であって、6つのRが全てアミノエチル基の環状ホスファゼン化合物(融点は145℃)である。
【実施例】
【0028】
非水電解液に難燃化剤(難燃化剤粒子)として上記の環状ホスファゼン化合物の粒子を添加した場合に、環状ホスファゼン化合物の添加量と電池の難燃性との関係を確認した。本例ではまず、環状ホスファゼン化合物としてホスファゼン化合物Aを用いて、ホスファゼン化合物Aの添加量を変化させた実験例1〜8について、難燃性の評価を行った。なお、ホスファゼン化合物Aの添加量は、非水電解液100重量%に対するホスファゼン化合物Aの重量%とした。難燃性の評価結果は表1及び
図2に示すとおりである。
【表1】
【0029】
表1及び
図2に示すように、ホスファゼン化合物Aを添加しない例(実験例1)では電池の発煙が確認され、ホスファゼン化合物Aを添加しない例(実験例1)および1.0重量%添加した例(実験例2)では電池の膨張が確認された。これに対して、ホスファゼン化合物Aを3.5〜20.0重量%添加した例(実験例3〜8)では、電池の発火・発煙および電池の破裂・膨張は確認されなかった。これらの結果から、ホスファゼン化合物Aを3.5〜20.0重量%添加した非水電解液電池では、内部短絡時の熱暴走を抑えることができ、非水電解液電池の安全性が高まることが分かった。すなわち、ホスファゼン化合物Aの添加量が3.5重量%未満では、電池の熱暴走を抑える効果が不十分であることが分かった。したがって、ホスファゼン化合物Aの添加量は、非水電解液100重量%に対して少なくとも3.5重量%とするのが好ましい。なお、ホスファゼン化合物Aの添加量の上限は定めなくてもよい。しかしながら、表1および
図2から、ホスファゼン化合物Aの添加量が3.5〜14重量%では内部短絡時の電池温度に顕著な変化が認められるものの、ホスファゼン化合物Aの添加量が14〜20重量
%では内部短絡時の電池温度に大きな変化は認められない。したがって、難燃化剤の添加量に対する難燃化効果および電池の製造コストを考慮して、ホスファゼン化合物Aの添加量の上限を14重量%とすることができる。
【0030】
また、環状ホスファゼン化合物としてホスファゼン化合物Bを用いて、ホスファゼン化合物Bの添加量を変化させた実験例9〜16についても、難燃性の評価を行った。なお、ホスファゼン化合物Bの添加量は、非水電解液100重量%に対するホスファゼン化合物Bの重量%とした。難燃性の評価結果は表2及び
図3に示すとおりである。
【表2】
【0031】
表2及び
図3に示すように、ホスファゼン化合物Bを添加しない例(実験例9)では電池の発煙が確認された。また、ホスファゼン化合物Bを添加しない例(実験例9)および1.0重量%添加した例(実験例10)では、電池の膨張が確認された。これに対して、ホスファゼン化合物Bを3.5〜20.0重量%添加した例(実験例11〜16)では、電池の発火・発煙および電池の破裂・膨張は確認されなかった。これらの結果から、ホスファゼン化合物Bを添加した場合も、添加量を3.5〜20.0重量%とした非水電解液電池が、内部短絡時の熱暴走を抑えることができ、非水電解液電池の安全性が高まることが分かった。すなわち、ホスファゼン化合物Aの
添加量が3.5重量%未満では、電池の熱暴走を抑える効果が不十分であることが分かった。したがって、ホスファゼン化合物Bの添加量も、非水電解液100重量%に対して少なくとも3.5重量%とするのが好ましい。
【0032】
次に、非水電解液に難燃化剤粒子として環状ホスファゼン化合物の粒子を添加した場合に、環状ホスファゼン化合物の添加量と電池特性との関係を確認した。本例では、環状ホスファゼン化合物としてホスファゼン化合物Aを用いて、ホスファゼン化合物Aの添加量を変化させた実験例17〜24について、電池特性の評価(高率放電試験)を行った。この場合もホスファゼン化合物Aの添加量は、非水電解液100重量%に対するホスファゼン化合物Aの重量%とした。また、電池特性は
、ホスファゼン化合物
Aを添加しない例(実験例
17)の高率放電容量を100%として、これと比較したホスファゼン化合物
Aを1.0〜20.0重量%添加した例(実験例
18〜
24)の高率放電容量(%)で示した。難燃性の評価結果は表3及び
図2に示すとおりである。
【表3】
【0033】
表3及び
図2に示すように、ホスファゼン化合物Aを添加しない例(実験例17)の高率放電容量を100%とすると、ホスファゼン化合物Aの添加量が1.0〜3.5重量%の例(実験例18及び19)では100%の高率放電容量が維持され、ホスファゼン化合物Aの添加量が5.0〜20.0重量%の例(実験例20〜24)でも99%以上の高率放電容量であった。これらの結果は、ホスファゼン化合物Aの添加量が増加しても、電池特性にほとんど影響を与えないことを示している。すなわち、使用環境に応じてホスファゼン化合物Aの添加量を増加させれば、電池特性を低下させることなく、電池の難燃性を向上させることができる。
【0034】
さらに、非水電解液に難燃化剤粒子として環状ホスファゼン化合物の粒子を添加した場合に、環状ホスファゼン化合物の粒子の平均粒子径と電池の難燃性との関係を確認した。本例では、環状ホスファゼン化合物としてホスファゼン化合物Aを用いて、ホスファゼン化合物Aの粒子の平均粒子径を変化させた実験例25〜29について、難燃性の評価(釘刺し試験)を行った。なお、ホスファゼン化合物Aの添加量は、非水電解液100重量%に対して3.5重量%(電池の難燃性を発揮する最小限の添加量)に定めた。難燃性の評価結果は表4及び
図4に示すとおりである。
【表4】
【0035】
表4及び
図4に示すように、ホスファゼン化合物A粒子の平均粒子径が40μm(実験例25)及び30μm(実験例26)では、電池の膨張が確認された。これに対して、ホスファゼン化合物A粒子の平均粒子径が5.0〜20μm(実験例27〜29)では、電池の発火・発煙及び電池の破裂・膨張は確認されなかった。これらの結果から、平均粒子径が5.0〜20μmのホスファゼン化合物A粒子を添加した非水電解液電池は、内部短絡時の熱暴走を抑えることができ、非水電解液電池の安全性が高まることが分かった。すなわち、平均粒子径が
20μmを超えるホスファゼン化合物A粒子を添加した非水電解液電池は、電池の熱暴走を抑える効果が不十分であることが分かった。この結果は、平均粒子径が20μm以下のホスファゼン化合物A粒子は、電池の異常発熱時になるとホスファゼン化合物Aの一部が固体から液体に変化する速度(液化速度)が速くなることを示している。言い換えると、平均粒子径が20μm以下のホスファゼン化合物A粒子を添加した非水電解液電池では、ホスファゼン化合物A粒子の液化速度が速くなることにより、液化したホスファゼン化合物Aが非水電解液に溶解または分散する速度も速くなって、電池の熱暴走を抑える効果が向上したものと考えられる。一方、平均粒子径が20μmを超えるホスファゼン化合物A粒子は、異常発熱時になってもホスファゼン化合物Aの液化速度が遅いため、電池の熱暴走を抑える効果が阻害されたものと考えられる。このように、難燃化剤の平均粒子径と難燃化効果との関係から、ホスファゼン化合物A粒子の平均粒子径は、20μm以下であることが好ましい。なお、実際に製造可能なホスファゼン化合物A粒子を考慮して、ホスファゼン化合物A粒子の平均粒子径は、5〜20μmの範囲であることが好ましい。
【0036】
また、非水電解液に難燃化剤粒子として環状ホスファゼン化合物の粒子を添加した場合に、環状ホスファゼン化合物の粒子の融点と電池の難燃性との関係を確認した。本例では、環状ホスファゼン化合物として融点が異なるホスファゼン化合物A〜G(実験例30〜36)について、難燃性の評価(釘刺し試験)および電池特性の評価(高率放電試験)を行った。なお、ホスファゼン化合物A〜
Gのいずれの添加量も、非水電解液100重量%に対して3.5重量%(電池の難燃性を発揮する最小限の添加量)に定めた。また、電池特性は、上述の表3及び
図2で示した電池特性が良好なホスファゼン化合物A(実験例32)の高率放電容量を100%として、これと比較した各ホスファゼン化合物の高率放電容量(%)で示した。難燃性及び電池特性の評価結果は表5及び
図5に示すとおりである。
【表5】
【0037】
表5及び
図5に示すように、融点が20℃のホスファゼン化合物C(実験例30)、融点が132℃のホスファゼン化合物F(実験例35)及び融点が145℃のホスファゼン化合物G(実験例36)では、電池の膨張が確認された。また、融点が20℃のホスファゼン化合物C(実験例30)では、高率放電容量が著しく低下した。これに対して、融点が90〜120℃のホスファゼン化合物A、B、D及びE(実験例31〜
34)では、電池の
発火・発煙、電池の破裂・膨張、および高率放電容量の低下は確認されなかった。これらの結果から、融点が90〜120℃のホスファゼン化合物を添加した非水電解液電池は、電池特性が低下することなく、内部短絡時の熱暴走を抑えられる(電池の安全性が高くなる)ことが分かった。すなわち、融点が90℃未満(常温で液体)または120℃を超えるホスファゼン化合物を添加した非水電解液電池では、電池特性もしくは電池の熱暴走を抑える効果が不十分であることが分かった
。融点が90℃未満(常温で液体)のホスファゼン化合物の場合、電解液中に溶解した状態
で存在することにより電解液の粘度が上昇する。このため、電解液中でのリチウムイオンの移動が阻害され高率放電特性が低下する。また、
融点が90℃未満のホスファゼン化合物は、電池の異常発熱時(電池の難燃性を発揮する必要がある場合)になると、液化してさらに揮発(または気化)し易くなるため、また、融点が120℃を超えるホスファゼン化合物は、電池の異常発熱時(電池の難燃性を発揮する必要がある場合)になっても、液化し難く固体の状態が保持され易く、非水電解液に溶解(または分散)し難いため、いずれの場合も内部短絡時の熱暴走を抑える効果が低下したものと考えられる。さらに、融点が90℃未満(常温で液体)のホスファゼン化合物は、電池の正常時(電池の難燃性を発揮する必要がない場合)でも、非水電解液に溶解(または分散)して非水電解液の粘度を増加させる等により、電池特性が低下したものと考えられる。したがって、難燃化剤として用いる環状ホスファゼンとしては、融点が90〜120℃のホスファゼン化合物を用いるのが好ましい。
【0038】
以上、本発明の実施の形態および実施例について具体的に説明した。しかしながら、本発明は、これらの実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく変更が可能であるのは勿論である。