(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656851
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】低分子量のヒドリドシランの精製法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/04 20060101AFI20141225BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20141225BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20141225BHJP
B01D 63/10 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/16 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/50 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/60 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/82 20060101ALI20141225BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20141225BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20141225BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20141225BHJP
B01D 61/02 20060101ALN20141225BHJP
【FI】
C01B33/04
B01D61/14 500
B01D63/00 510
B01D63/10
B01D71/16
B01D71/10
B01D71/26
B01D71/34
B01D71/38
B01D71/50
B01D71/52
B01D71/56
B01D71/60
B01D71/64
B01D71/68
B01D71/82
B01D71/02
B01D61/58
B01D63/00 500
B01D61/12
!B01D61/02 500
【請求項の数】20
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-533657(P2011-533657)
(86)(22)【出願日】2009年10月9日
(65)【公表番号】特表2012-507455(P2012-507455A)
(43)【公表日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】EP2009063135
(87)【国際公開番号】WO2010060676
(87)【国際公開日】20100603
【審査請求日】2012年7月18日
(31)【優先権主張番号】102008043422.1
(32)【優先日】2008年11月3日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100061815
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】ニコル ブラウシュ
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツ バウムガーテン
(72)【発明者】
【氏名】ギド シュトホニオル
(72)【発明者】
【氏名】イュセル エナル
(72)【発明者】
【氏名】マーティン トローハ
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特表平04−505280(JP,A)
【文献】
特表2009−524511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
B01D 61/12
B01D 61/14
B01D 61/58
B01D 63/00
B01D 63/10
B01D 71/02
B01D 71/10
B01D 71/16
B01D 71/26
B01D 71/34
B01D 71/38
B01D 71/50
B01D 71/52
B01D 71/56
B01D 71/60
B01D 71/64
B01D 71/68
B01D 71/82
B01D 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大20個の珪素原子を有するヒドリドシラン溶液を精製する方法において、
a.少なくとも1つの最大20個の珪素原子を有するヒドリドシラン、
b.非プロトン性の非極性溶剤または非プロトン性の極性溶剤の群から選択される少なくとも1つの溶剤および
c.20個を上廻るSi原子を有する化合物の群および/または周期律表の第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族または第10族から選択された金属を有する均質触媒の群から選択された少なくとも1つの不純物を含む精製すべき溶液が、浸透膜を使用しながら少なくとも1つの膜分離工程を有する横流型メンブラン法に掛けられることを特徴とする、最大20個の珪素原子を有するヒドリドシラン溶液を精製する方法。
【請求項2】
浸透膜は、限外濾過膜、ナノ濾過膜または逆浸透膜である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
浸透膜は、有機親和性ナノ濾過膜である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
精製すべき溶液が
a.20個を上廻るSi原子を有する化合物の群から選択された少なくとも1つの不純物および
b.均質触媒の群から選択された少なくとも1つの不純物を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
横流型メンブラン法は、少なくとも2つの膜分離工程を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
横流型メンブラン法は、少なくとも3つの膜分離工程を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの不純物は、b.600g/molを上廻るモル質量を有する、a.少なくとも1つのヒドリドシランまたはポリシランである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの不純物は、b.1000g/molを上廻るモル質量を有する、a.少なくとも1つのヒドリドシランまたはポリシランである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの不純物は、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt、WおよびMoから選択された金属を有する均質触媒である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの不純物は、ハロゲン、水素、アルキル、アリール、アルキルシラン、アリールシラン、オレフィン、アルキルカルボキシル、アリールカルボキシル、アセチルアセトナトアルコキシル、アリールオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、置換されたかまたは置換されていないシクロペンタジエニル、シアノアルカン、芳香族シアノ化合物、CN、CO、NO、アルキルアミン、アリールアミン、ピリジン、アルキルホスフィン、アリールホスフィン、アルキルアリールホスフィン、アルキルホスフィット、アリールホスフィット、アルキルスチバン、アリールスチバン、アルキルアリールスチバン、アルキルアルサン、アリールアルサンまたはアルキルアリールアルサンから選択された配位子を有する均質触媒である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
溶剤は、トルエン、n−ヘキサンまたはテトラデカンである、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程のための膜として、
a.分離活性層としてポリジメチルシロキサン(PDMS)または別のポリシロキサン、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート(PANGMA)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)、セルロースアセテート(CA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリアクリレート、ポリエーテルアミド(PIA)、ポリエチレンオキシドアミド(PEBAX)、ポリイソブチレン(PIB)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリビニルアルコール(PVA)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)またはセルロースからのポリマー層を有する膜、
b.固有のミクロ多孔性(PIM)を有するポリマーからなる分離活性層を有する膜、または
c.疎水化されたセラミック膜から選択された少なくとも1つの膜を使用する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程のための膜として、
a.膜が熱により溶接されてメンブランポケットに変わっているような開いた通路状のクッションモジュール系、または
b.膜がメンブランポケットに接着され、浸透捕集管の周囲に供給スペーサーが巻き付けられているコイル状モジュールから選択された少なくとも1つのメンブランモジュールを使用する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程のための膜は、400g/molのモル質量までの分子に対して透過性である、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程を、0.5MPa以上のトランスメンブラン圧力差で実施する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程を、10〜120℃の温度で実施する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程を、0.1〜15m/秒の膜上の溢流速度で実施する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
精製すべき最大20個の珪素原子を有するヒドリドシラン溶液は、1つ以上のヒドリドシラン、水素および周期律表の第8族、第9族または第10族の元素(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt)およびランタノイド(Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)を含む1つ以上の遷移金属化合物を、5バール絶対を上廻る圧力で反応させるような一般式H−(SiH2)n−H(但し、n≧2)の直鎖状ヒドリドシランの合成法により製造可能である、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
本方法を、合成反応器に後接続された膜分離工程に由来する、触媒含有濃縮水の流れが、再循環のために反応器に再び供給されるように、最大20個の珪素原子を有するヒドリドシランの製造法に組み込む、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
膜分離工程に由来する透過液の流れを導出する、請求項19記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量のヒドリドシランまたはその混合物を精製する方法に関する。
【0002】
ヒドリドシランまたはその混合物、殊に低分子量のヒドリドシランまたはその混合物は、シリコン層の形成を可能にする反応体として刊行物に記載されている。この場合、ヒドリドシランは、単に珪素原子および水素原子を含有し、およびSi−H−結合を有する直鎖状、分枝鎖状または(場合により二環式/多環式の)環式構造を有する化合物である。
【0003】
即ち、欧州特許出願公開第1087428号明細書A1には、例えばシリコン被膜の形成方法が記載されており、この場合には、少なくとも3個の珪素原子を有するヒドリドシランが使用される。欧州特許出願公開第1284306号明細書A2には、なかんずく少なくとも3個の珪素原子を有するヒドリドシラン化合物と、シクロペンタシラン、シクロヘキサシランおよびシリルシクロペンタシランから選択された少なくとも1つのヒドリドシラン化合物とを含有する混合物が記載されており、この場合前記ヒドリドシラン化合物は、同様にシリコン被膜の形成に使用されることができる。
【0004】
この場合、低分子量のヒドリドシランは、本発明の範囲内で最大20個の珪素原子を有するヒドリドシランである。
【0005】
ヒドリドシランは、例えばハロゲン化シランをアルカリ金属で脱ハロゲン化し、および重縮合させることによって製造されてよい(英国公開特許第2077710号明細書A)。
【0006】
ヒドリドシランを製造するための別の方法は、熱に(米国特許第6027705号明細書A)よってか、または触媒、例えばスカンジウム、イットリウムまたは希土類の水素化シクロペンタジエニル錯体(米国特許第4965386号明細書A、米国特許第5252766号明細書A)および遷移金属またはその錯体(特開平02−184513号公報)の使用によってヒドリドシラン反応体から形式的なH
2分解下にヒドリドシラン付加物が形成されるような、ヒドリドシランのデヒドロ重合法に基づく。
【0007】
好ましくは、一般式H−(SiH
2)
n−H(但し、n≧2)の直鎖状ヒドリドシランの合成は、1つ以上のヒドリドシラン、水素および周期律表の第8族、第9族または第10族の元素(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt)およびランタノイド(Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)を含む1つ以上の遷移金属化合物を、5バールを上廻る圧力で反応させ、次に放圧し、形成されたヒドリドシランを得られた反応混合物と分離するような方法により行なわれる(未だ公開されていない欧州特許出願第08158401.3号)。この場合、分離は、当業者に公知の方法により、殊に蒸留によるかまたは吸着法の使用により行なうことができる。
【0008】
前記方法の場合およびヒドリドシランを製造するための金属触媒を用いた別の方法の場合、均一な触媒反応の際に使用される金属は、有利に配位子、例えばビピリジル、置換されていないかまたは置換されたシクロペンタジエニル、シクロオクタジエン、CN、CO、アルキルホスフィン、アリールホスフィン、アルキルホスフィットまたはアリールホスフィット、アルキルアリールホスフィン、架橋性ヘテロ環式基または架橋性アリール基を有する二座ホスフィン配位子、ヘテロ原子含有配位子、アルキルジホスフィンR
2R
1−P(CH
y)
xP−R
3R
4(この場合、R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立にアルキルまたはアリールであり、x=1〜10であり、y=0、1または2であってよい)、R
2R
1−P−CR
5R
6(CR
7R
8)
x−CR
9R
10−P−R
3R
4(この場合、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10は、互いに独立にH、アルキルまたはアリールであり、x=1〜10である)およびR
1−C≡C−R
2(この場合、R
1およびR
2は、互いに独立にアルキルホスフィンまたはアリールホスフィンである)と組み合わせて使用される。この場合、触媒は、一般に保護ガス雰囲気下でインサイチュー(in−situ)で適当な無水溶剤(例えば、トルエン、Na上で還流された、ベンゾフェノン)中で調製され、保護ガス雰囲気の維持下に反応器中に移行される。次に、ヒドリドシラン反応体および場合によっては他のガス、例えば不活性ガスまたは水素の添加によって、混合物は、反応される。更に、調節されたパラメーターに依存して、望ましいヒドリドシランが形成される。形成されたヒドリドシラン、溶剤および場合によっては未反応の反応体からなる生じる混合物は、均一な触媒ならびに高分子量の副成分(即ち、20個を上廻るSi原子を有するもの、殊に相応するポリシリンおよびポリシラン)の分離後に半導体分野または光起電分野で使用することでき、それというのも、使用物質の所定の純度の際に支障のある副成分の不純物は、全く予想することができないからである。
【0009】
また、熱によるデヒドロ重合により製造されたヒドリドシランのため、またはハロゲン化シランをアルカリ金属で脱ハロゲン化し、および重縮合させることにより製造されたヒドリドシランのためには、高分子量の副生成物、即ち20個を上廻るSi原子を有するもの、殊に相応するヒドリドシランおよびポリシリンを反応混合物と分離しうることは、望ましく、それというのも、前記の副生成物は、殊に高い分子量の際に欠点を有し、シリコン層の形成の際に不均一性をまねくからである。
【0010】
前記反応溶液の熱的要求は、既に生成されたシランの後反応およびシラン様固体の形成、ひいては明らかな収量の減少をまねくので、蒸留それ自体は、減圧下で最適な分離方法ではない。
【0011】
これに対して、吸着による精製法、例えばゼオライトを基礎とする分離法は、この分離法が吸着剤の費用の掛かる清浄化工程を必要とするという欠点を有する。
【0012】
前記の背景に対して、本発明の課題は、公知技術水準の欠点を有しない、20個を上廻るSi原子を有する化合物、殊に相応するヒドリドシランおよびポリシリンの群、および/または(遷移金属列またはランタノイドの少なくとも1つの金属および少なくとも1つの配位子からなる)低分子量のヒドリドシランの均質触媒系から選択された不純物を分離するための方法を準備することであった。
【0013】
意外なことに、本発明の課題は、少なくとも1つの低分子量のヒドリドシラン、少なくとも1つの溶剤および
20個を上廻るSi原子を有する化合物の群(殊に高分子量のヒドリドシランおよびポリシリン)および/または均質触媒系の群から選択された少なくとも1つの不純物を含む精製すべき溶液を、浸透膜を使用しながら少なくとも1つの膜分離工程を有する横流型メンブラン法(Querstrom−Membranverfahren)に掛けるような低分子量のヒドリドシラン溶液の精製法によって解決されることを確認することができた。
【0014】
この場合、膜分離工程を有する横流型メンブラン法は、本発明の範囲内で、精製すべき溶液を圧力p
Iで浸透膜の片側と接触させ、圧力p
Iより小さい圧力p
IIが支配する浸透膜の別の側で精製した溶液、即ち精製すべき溶液と比較して僅かな濃度の少なくとも1つの不純物を含有する溶液を取出すような圧力で運転されるメンブラン法である。2つの膜分離工程を有する横流型メンブラン法の場合、精製された溶液は、第1の精製工程により再び圧力p
Iで浸透膜と接触され、別の側で圧力p
IIで取り出される。3つおよびそれ以上の膜分離工程のためには、さらに付加される精製工程の数は、相応して増加される。
【0015】
このようなメンブラン法の場合には、必要とされる分離限界に応じて限外濾過膜またはナノ濾過膜ならびに逆浸透膜が浸透膜として使用されうる。この場合、この使用可能な膜タイプは、多孔質の下地構造体上の多孔質の浸透性ポリマー層または浸透性セラミック層、または浸透性ポリマー層または浸透性セラミック層を含み、この場合逆浸透膜は、250g/mol未満の分離限界を示し、ナノ濾過膜は、250〜1000g/molの分離限界を示し、および限外濾過膜は、1000〜100000g/molの分離限界を示す。
【0016】
好ましくは、有機親和性のナノ濾過膜が適当であり、例えばこの有機親和性のナノ濾過膜は、有機溶剤の後処理から公知であり、それというのも、前記方法で溶解された不純物は、250〜1000g/molのモル質量範囲内で特に有効に除去されうるからである。
【0017】
刊行物(例えば、溶剤耐性ナノ濾過Solvent resistant nanofiltration:分子レベルでの分離separating on a molecular level;Pieter Vandezande.Lieven E.M.Gevers and Ivo F.J.Vankelecom;Chem.Soc.Rev.,2008,37,365−405)の記載から、実際に一般に、高分子量の有機、即ち炭素含有の化合物を、相応する低分子量の有機化合物と有機親和性ナノ濾過により分離しうることは、公知である。また、前記刊行物中およびさらに英国特許第1453504号明細書中またはドイツ連邦共和国特許出願公開第102006003618号明細書A1中には、均一な触媒配位子系を有機反応生成物と分離しうることが記載されている。
【0018】
これに対して、浸透膜に対するヒドリドシランまたはその混合物の挙動について、これまで刊行物には何も知られていない。殊に、均一なアルカンとは異なりシランの高い不安定のために、アルカンを用いての経験の転用可能性は、予想することができなかった。相応するアルカンとは異なり、ヒドリドシランは、空気遮断下でのみ合成可能である。更に、4個までの珪素原子を有するシランは、極めて不安定であり、例えば空気それ自体中で発火し、爆発し、自然発生的に二酸化珪素と水に分解する可能性がある。従って、精製すべきヒドリドシランが通常の浸透膜に対して不活性の挙動を取るであろうことから出発することはできなかった。
【0019】
更に、本発明による方法は、建築技術的に簡単に低分子量のヒドリドシランのための製造プロセス、殊に金属触媒を用いたデヒドロ重合法を基礎とする製造法に組み込むことができるという利点を提供する。殊に、金属触媒を用いたデヒドロ重合法のための構成に組み込む場合には、反応器に後接続された膜分離工程に由来する、触媒含有濃縮水の流れは、再循環のために反応器に再び供給されることができ、一方で、精製された生成物は、導出される。
【0020】
更に、本発明による精製法は、殊に金属触媒を用いたデヒドロ重合法による低分子量のヒドリドシランの合成からの反応生成物溶液の場合に、20個を上廻るSi原子を有する不純物ならびに均一触媒を基礎とする不純物を含有する、精製されていない低分子量のヒドリドシラン溶液は、唯一の精製法により除去することができるという驚異的な利点を提供する。
【0021】
この場合、少なくとも2つの膜分離工程、有利に少なくとも3つの膜分離工程が実施される場合には、単数の不純物または複数の不純物を特に良好に除去することができる。
【0022】
ヒドリドシランまたはポリシリンは、600g/molを上廻る、有利に1000g/molを上廻るモル質量で本発明による方法により特に良好に除去可能である。この場合、不純物と精製すべき生成物とのモル質量比が大きくなればなるほど、不純物はますます良好に分離しうることが観察される。
【0023】
更に、本発明による方法により、周期律表の第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族または第10族から選択された金属、特に有利にFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt、WおよびMoから選択された金属を有する均質触媒系の群から選択された不純物は、特に良好に除去することができる。
【0024】
更に、ハロゲン、水素、アルキル、アリール、アルキルシラン、アリールシラン、オレフィン、アルキルカルボキシル、アリールカルボキシル、アセチルアセトナトアルコキシル、アリールオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、置換されたかまたは置換されていないシクロペンタジエニル、シクロオクタジエン、シアノアルカン、芳香族シアノ化合物、CN、CO、NO、アルキルアミン、アリールアミン、ピリジン、ビピリジン、(ヘテロ)アルキルホスフィン、(ヘテロ)アリールホスフィン、(ヘテロ)アルキルアリールホスフィン、(ヘテロ)アルキルホスフィット、(ヘテロ)アリールホスフィット、アルキルスチバン、アリールスチバン、アルキルアリールスチバン、アルキルアルサン、アリールアルサンまたはアルキルアリールアルサンから選択された配位子を有する均質触媒系は、本発明による精製法により特に良好に除去可能である。
【0025】
前記方法の場合およびヒドリドシランを製造するための金属触媒を用いた別の方法の場合、均一な触媒配位子が、ビピリジル、置換されていないかまたは置換されたシクロペンタジエニル、シクロオクタジエン、CN、CO、アルキルホスフィン、アリールホスフィン、アルキルホスフィットまたはアリールホスフィット、アルキルアリールホスフィン、架橋性ヘテロ環式基または架橋性アリール基を有する二座ホスフィン配位子、ヘテロ原子含有配位子、アルキルジホスフィンR
2R
1−P(CH
y)
xP−R
3R
4(この場合、R
1、R
2、R
3およびR
4は、互いに独立にアルキルまたはアリールであり、x=1〜10であり、y=0、1または2であってよい)、R
2R
1−P−CR
5R
6(CR
7R
8)
x−CR
9R
10−P−R
3R
4(この場合、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10は、互いに独立にH、アルキルまたはアリールであり、x=1〜10である)およびR
1−C≡C−R
2(この場合、R
1およびR
2は、互いに独立にアルキルホスフィンまたはアリールホスフィンである)から選択される場合に、特に良好な結果が達成される。
【0026】
この中で、さらに特に高い安定性を有する系、即ち有機燐配位子を有する系、殊にニッケルまたはロジウムを基礎とする系は、最善の場合には除去可能である。
【0027】
本発明による方法は、多種多様の溶剤を基礎とする溶液の精製に適している。精製すべき溶液の少なくとも1つの溶剤が非プロトン性の非極性溶剤、即ちアルカン、置換されたアルカン、アルケン、アルキン、脂肪族置換基または芳香族置換基を有しないかまたは有する芳香族化合物、ハロゲン化炭化水素、テトラメチルシランの群、または非プロトン性の極性溶剤、即ちエーテル、芳香族エーテル、置換されたエーテル、エステルまたは酸無水物、ケトン、第3アミン、ニトロメタン、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)またはプロピレンカーボネートの群から選択されている場合に、通常使用される膜との最適な相容性は生じる。特に有利には、本発明による方法は、トルエン、n−ヘキサンまたはテトラデカンの溶液を用いて実施されることができる。
【0028】
特に、横流型メンブラン法に使用可能な膜は、分離活性(浸透性)層としてポリジメチルシロキサン(PDMS)または別のポリシロキサン、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート(PANGMA)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)、セルロースアセテート(CA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリアクリレート、ポリエーテルアミド(PIA)、ポリエチレンオキシドアミド(PEBAX)、ポリイソブチレン(PIB)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリビニルアルコール(PVA)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)またはセルロースからのポリマー層を有する膜である。更に、有利に使用可能な膜は、固有のミクロ多孔性(PIM)を有するポリマーからなる分離活性層または疎水化されたセラミック膜を含有する膜である。
【0029】
好ましい膜は、市場でGMT社、Rheinfelden在、の商品名oNF2で入手可能なPET/PAN/PDMS、またはGrace Davison社,Littleton在,CO,US、の商品名Starmemで入手可能なPET/PAN/PIを基礎とするものである。
【0030】
特に、膜は、メンブランモジュールの形、殊に膜が熱により溶接されてメンブランポケットに変わっているような開いた通路状のクッションモジュール系の形、または膜がメンブランポケットに接着され、浸透捕集管の周囲に供給スペーサーが巻き付けられているコイル状モジュールの形で使用される。
【0031】
特に、使用することができる膜は、400g/molのモル質量までの分子に対して透過性である膜である。
【0032】
横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程は、有利にトランスメンブラン圧力差Δρ=ρI−ρII 0.5MPa以上、有利に0.5〜10MPa、特に有利に1〜5MPaで実施される。この範囲内で分離法は、特に有効に実施することができる。
【0033】
更に、横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程は、特に良好な精製の達成のために有利に10〜120℃の温度、特に有利に15〜45℃で実施される。
【0034】
更に、横流型メンブラン法の少なくとも1つの膜分離工程は、均一で良好かつ急速な精製の達成のために有利に0.1〜15m/秒の膜上の溢流速度(Ueberstromgeschwindigkeit)で実施される。
【0035】
1つ以上のヒドリドシラン、水素および周期律表の第8族、第9族または第10族の元素(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt)およびランタノイド(Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)を含む1つ以上の遷移金属化合物を、5バール絶対を上廻る圧力で反応させるような一般式H−(SiH
2)
n−H(但し、n≧2)の直鎖状ヒドリドシランの合成法により製造可能な低分子量のヒドリドシラン溶液を精製するための本発明による精製法は、特に良好に好適である。
【0036】
本発明による精製法は、有利に低分子量のヒドリドシランのための製造プロセス、殊に金属触媒を用いたデヒドロ重合法を基礎とする製造法に組み込むことができる。殊に、金属触媒を用いたデヒドロ重合法による製造法に組み込む場合には、反応器に後接続された膜分離工程に由来する、触媒含有濃縮水の流れは、再循環のために反応器に再び供給されることができ、一方で、透過液の流れ中の精製された生成物は、導出されうる。
【0037】
図1には、本発明による方法の1つの実施態様のための実験による構成を示す略図が表わされている。この実施態様の場合、反応体1と返送流6は、脱水のために反応器R中に供給され、この反応器中でポリシラン合成が行なわれる。この場合、反応器は、攪拌釜または管状反応器であってよい。反応混合物2は、直接に膜M上に導かれる。膜上で得られた濃縮水の流れ3は、反応に返送される。膜M上で得られた透過液の流れ4は、熱的分離装置D中、例えば薄膜蒸発器中に導入される。この薄膜蒸発器中で、流れ5として熱的分離装置を離れるポリシラン生成物と、高沸点物、溶剤および膜分離で分離されなかった錯体触媒、溶剤および/または遊離配位子を含有し、および反応器Rに返送される流れ6とに分離される。
【0038】
次の予備試験および実施例は、本発明を詳説するが、しかし、明細書および特許請求の範囲の記載から明らかな保護範囲を減縮することはない。
【0039】
予備試験
PET/PAN/PDMSとPET/PAN/PIとからなるポリマー膜を、デヒドロ重合の終結後にモノシランから出発して得られる、未だ後精製されていない、1)2〜10個の珪素原子を有する低級ヒドリドシランの混合物、2)デヒドロ重合の際に生じる、20個を上廻るSi原子を有するポリシランおよびヒドリドシランを含む高分子不純物、3)溶剤トルエンおよび4)i)金属前駆体ニッケツアセチルアセテトナートまたはロジウムアセテート二量体およびii)ホスフィン配位子またはホスフィット配位子(トリフェニルホスフィンまたはビスジフェニルホスフィノベンゼン)からなる反応系中に嵌め込む。意外なことに、この嵌め込み試験の際に2週間に亘って変化を全く確認することができなかったことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明による方法の1つの実施態様のための実験による構成を示す系統図。
【
図2】本発明による方法の1つの実施態様のための実験による構成を示す系統図。
【実施例】
【0041】
例
精製すべき系の製造
ニッケルアセチルアセトネート0.1mmolおよび2.1倍過剰量の(±)−2,2′−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1′−ビナフチルを、保護ガス雰囲気(アルゴン)を維持しながら計量供給し、および無水トルエン約30ml中に溶解する。ガラスライナー、熱電素子、圧力吸収器、液体試料収容個所、ガス供給管およびガス導出管を装備した、不活性化された特殊鋼オートクレーブ中に触媒溶液を装入する。反応器を付加的に無水トルエン120mlで充填する。
【0042】
ガス供給管を介して、モノシランを約60バールの圧力が達成されるまでオートクレーブに投入する。引続き、この反応器に付加的に約70バールの圧力が達成されるまで水素を投入する。引続き、この反応器を望ましい温度に加熱し、攪拌機(700rpm)を始動させる。
【0043】
20時間の反応時間後、反応を終結させ、反応器を放圧し、液相をガスクロマトグラフィーにより試験する。次に記載された第1表は、短鎖状ヒドリドシランを分布させるための反応を開始してから0.5時間後、1時間後、2時間後、3時間後および20時間後のガスクロマトグラフィーによる試験の結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
精製工程の原理的な記載
図2(略符号:PI 圧力表示器;TI 温度表示器;FU 周波数変換装置;PIZ 差圧計測器)に記載の構成を有する当該装置を、無水トルエンで洗浄し、引続き加熱する(交互にアルゴン/真空)。次に、装入容器を、保護ガス雰囲気を維持しながら精製すべき反応混合物で充填する。
【0046】
弁個所を開いた際にポンプのスイッチを入れ、反応混合物を直接に膜上に導く。システム圧力が10バールに到達した後、付加的に循環ポンプのスイッチを入れる。取り付けられた圧力保持弁により圧力を保持する。ナノ濾過により、主に溶剤中の溶解されたヒドリドシランからなる透過液が膜上に得られる。ナノ濾過の際に生じる濃縮水は、溶剤中に溶解された、金属前駆体および配位子からなる触媒ならびに20個を上廻るSi原子を有する不純物を含有する。前記の触媒ならびに不純物は、濃縮水中で濃縮される。
【0047】
実施例1
記載された反応混合物450mlを装入する。精製すべき反応混合物は、80cm
2の面積を有する、Dauborn Membransysteme社,Ratzeburg在、の平面状メンブラン試験セルとして形成されたメンブランモジュール中に到達する。このモジュール中には、GMT社、Rheinfelden在、D、のタイプoNF2のPDMSメンブランが存在し、このPDMSメンブランは、15バールのトランスメンブラン圧力で100 l/時間で溢流された。透過液225mlが得られた後、透過液の流れの性能を算出し、混合透過液中および濃縮水中の触媒成分燐およびニッケルに対する系の保持率を算出した。
【0048】
実施例2
記載された反応混合物450mlを装入する。精製すべき反応混合物は、80cm
2の面積を有する、Dauborn Membransysteme社,Ratzeburg在、の平面状メンブラン試験セルとして形成されたメンブランモジュール中に到達する。このモジュール中には、Grace社、Littleton在、CO、US、のタイプStarmem 240のPIメンブランが存在し、このPIメンブランは、20バールのトランスメンブラン圧力で100 l/時間で溢流された。透過液225mlが得られた後、透過液の流れの性能を算出し、混合透過液中および濃縮水中の触媒成分燐およびニッケルに対する系の保持率を算出した。
【0049】
実施例3
記載された反応混合物450mlを装入する。精製すべき反応混合物は、80cm
2の面積を有する、Dauborn Membransysteme社,Ratzeburg在、の平面状メンブラン試験セルとして形成されたメンブランモジュール中に到達する。このモジュール中には、Grace社、Littleton在、CO、US、のタイプStarmem 240のPIメンブランが存在し、このPIメンブランは、15バールのトランスメンブラン圧力で100 l/時間で溢流された。透過液360mlが得られた後、透過液の流れの性能を算出し、混合透過液中および濃縮水中の触媒成分燐およびニッケルに対する系の保持率を算出した。
【0050】
実施例1、2および3の膜分離の結果は、次の第2表中に記載されている。
【表2】
【符号の説明】
【0051】
1 反応体、 2 反応混合物、 3 膜上で得られた濃縮水の流れ、 4 膜M上で得られた透過液の流れ、 5 熱的分離装置を離れるポリシラン生成物の流れ、 6 高沸点物、溶剤および膜分離で分離されなかった錯体触媒、溶剤および/または遊離配位子を含有し、および反応器Rに返送される流れ、 D 熱的分離装置、 M 膜、 R 反応器、 PI 圧力表示器;TI 温度表示器;FU 周波数変換装置;PIZ 差圧計測器