特許第5656871号(P5656871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656871
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】エンドトキシン用着収剤
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20141225BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   A61M1/36 545
   B01J20/22 C
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-546522(P2011-546522)
(86)(22)【出願日】2010年1月20日
(65)【公表番号】特表2012-515577(P2012-515577A)
(43)【公表日】2012年7月12日
(86)【国際出願番号】AT2010000017
(87)【国際公開番号】WO2010083545
(87)【国際公開日】20100729
【審査請求日】2011年9月15日
【審判番号】不服2014-2254(P2014-2254/J1)
【審判請求日】2014年2月6日
(31)【優先権主張番号】A111/2009
(32)【優先日】2009年1月22日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】504203170
【氏名又は名称】フレセニウス メディカル ケア ドイチェランド ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Fresenius Medical Care Deutschland GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100115369
【弁理士】
【氏名又は名称】仙波 司
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100161274
【弁理士】
【氏名又は名称】土居 史明
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】ファルケンハゲン、ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェバー、ヴィクトリア
【合議体】
【審判長】 山口 直
【審判官】 高木 彰
【審判官】 土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−239022(JP,A)
【文献】 特開平6−114248(JP,A)
【文献】 国際公開第02/060512(WO,A1)
【文献】 BLANDL M ET AL,Particle Transfer and Detection in a Microsheres Based Detoxification System,Biocomputation, Bioinformatics, and Biomedical Technologies, 2008. BIOTECHNO ’08. International Conference on,米国,IEEE,2008年 6月29日,120−124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M1/36
B01J20/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性で多孔性の微粒子状担体と前記微粒子状担体上に固定化されたポリミキシンとからなる、生体液からエンドトキシンを除去するための着収剤であって、
前記微粒子状担体が中性で疎水性の表面を有し、ポリミキシンが微粒子状担体表面上に疎水性相互作用により固定化されており、かつ
前記微粒子状担体の平均孔径がおよそ80〜100nmであることを特徴とする着収剤。
【請求項2】
前記微粒子状担体が疎水性ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の着収剤。
【請求項3】
前記疎水性ポリマーが、架橋ポリスチレンポリマーである請求項2に記載の着収剤。
【請求項4】
前記微粒子の粒度が20μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3の一項に記載の着収剤。
【請求項5】
請求項1〜の一項に記載の着収剤を含む吸収装置。
【請求項6】
請求項1〜の一項に記載の着収剤の懸濁液を含む血漿循環経路。
【請求項7】
敗血症の治療のための請求項1〜の一項に記載の着収剤。
【請求項8】
敗血症の治療のための請求項に記載の吸収装置。
【請求項9】
敗血症の治療のための請求項に記載の血漿循環経路。
【請求項10】
請求項1〜5の一項に記載の着収剤を含むマイクロスフェア系無害化システム(MDS)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性で多孔性の担体と該担体上に固定化されたポリミキシンとを有する、生体液からエンドトキシンを除去するための着収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、グラム陰性のバクテリアの細胞壁中にあるリポ多糖類(LPS)であり、細胞の溶解で放出される。事実、リポ多糖類は、グラム陰性バクテリアの外側細胞膜に最もよく見られる脂質成分である。エンドトキシンは、発熱性物質、即ち、例えば微生物中毒でエンドトキシンが体に入ると感染患者が強い炎症反応や熱でもって反応して全身症状を表す物質である。血液循環経路にエンドトキシンが存在すると、制御不能な免疫細胞の活性化が起こり凝固系のバランスが崩れる。濃度によってはとりわけ高熱や低血圧を特徴とする敗血症が、重篤な場合には多臓器不全を特徴とする敗血症が起こる。敗血症は、真剣にとらえるべき疾患である。重い敗血症または敗血症性ショックを患う患者の死亡率は、疾患の重篤度にもよるが、およそ30〜60%である。免疫防御の低下した患者、例えば肝臓患者や化学療法を受けている患者は、細菌に感染しやすく、エンドトキシン中毒の症状を示す。
【0003】
リポ多糖分子の構造は、3つの部分に分けられる。リピドAはバクテリア細胞の方向を向いたこの分子の領域を形成する。この分子は、リピドAによりグラム陰性のバクテリアの外膜に固定されている。リポ多糖分子は、さらに、リピドAに結合している中間の高度に保存されたコア部を有する。第三の最も外側の領域は、O−特異的多糖(O−抗原)で形成されるが、その構造は、いろいろなグラム陰性バクテリア間で大きく異なる。その毒性効果は、細胞溶解の際に最初に放出されるリピドAに由来するものである。
【0004】
エンドトキシンで汚染された血液や血漿などの生体液から、適当な着収剤を用いてエンドトキシンを除去することができる。エンドトキシン中毒または敗血症の患者の治療は、特に体外血液浄化(アフェレーシス)の分野で行われている。
【0005】
アフェレーシス法は、体外的に行われる方法であり、この方法では、病態生理学的に関係する血液や血漿成分が、具体的には(グリコ)プロテインやペプチド、脂質、リポプロテイン、リポ多糖類などのバイオ分子や、また血液細胞や血漿が除去される。アフェレーシス法は、一方では診断や治療の目的で使用できるが、他方では健全な人々より特定の血液成分を十分な量で十分に高純度で得るのに非常に効果的である可能性がある。治療的なアフェレーシスが非常に重要である。特定の適応症に対しては、これが薬物療法に代わる非常に効果的な方法であり、また同時に副作用がほとんど無いためである。血漿交換法では、血漿が完全に分離されて置換溶液で置き換えられるか、着収剤を用いてLDLやエンドトキシンまたは免疫グロブリンなどの特定成分が除去されてその血漿が次いで供与者/患者に戻される。
【0006】
エンドトキシンで汚染された生体液(通常、血液または血漿)からエンドトキシンを除去するためには、生体液を、通常吸収装置に収められた着収剤に密接に接触させる。これらのエンドトキシンは、着収剤の表面に結合して生体液から除かれる。エンドトキシンが除かれた生体液は患者に戻される。この吸収装置は、体外血液循環経路の血液側に設置されるか、または体外血液浄化装置の血漿循環経路の濾液側に設置される。エンドトキシン結合能力と速度は、着収剤の組成の関数である。
【0007】
着収剤のエンドトキシン結合速度は、患者の生死にきわめて大きな影響を持つ。患者の血液からエンドトキシンを除去するのに必要な時間は非常に短く(<12時間)、重篤な敗血症の場合において、ほんの数時間である。
【0008】
アニオン交換樹脂(例えば、DEAE基またはPEI基が結合しているセルロース)が、エンドトキシンとの結合に非常に好適であることが知られている。しかしながら、体内の凝固系の重要因子、例えばプロテインCやプロテインSとの望ましくない結合や、これにともなう凝固の問題が、短所となる。
【0009】
エンドトキシンに対する抗体を固定化した特異的な着収剤を用いることで、このような凝固の問題を避けることができる。しかしながら、経済的な理由でこの可能性の展開には制限がある。
【0010】
最初に述べた種類の着収剤、すなわち水不溶性で多孔性の担体にポリミキシン分子が固定化された着収剤は、非常に有用な代替着収剤として知られるようになってきた。
【0011】
ポリミキシンは、グラム陰性バクテリアの感染の治療用の抗生物質である。ポリミキシンは、細胞壁面構造中に入りこんで細胞膜の透過性を上げ、その結果細胞溶解を引き起こす。ポリミキシンは、リン脂質と結合するだけでなく、高い親和性でリポ多糖類(エンドトキシン)とも結合する。ポリミキシンの神経毒性や腎毒性効果のため、ポリミキシンBとポリミキシンE(コリスチン)のみに一定の治療的な意義を与えられている。ポリミキシンB及び/又はポリミキシンEは、このため、経口的及び局所的な治療の形態にのみに適用が可能である。これらは、その毒作用のため、エンドトキシン中毒または敗血症の非経口での全身治療には不適当である。
【0012】
しかしながら、ポリミキシンを、特にポリミキシンBを水不溶性の担体に共有的に結合させ、このポリミキシンB被覆担体を、汚染された生体液からエンドトキシンを除去するための着収剤として使用することが好ましいことが判明した。
【0013】
ポリミキシンBが固定化された多孔性ガラス(FPG2000)製の担体とポリミキシンBが固定化されたセルロース(セルロファインA−3)系の多糖類担体が、EP0110409Aに開示されている。ポリミキシンBが共有結合したセルロースまたはセルロース誘導体からなる微粒子も知られている[Weber V., Loth F., Linsberger I., Falkenhagen D.: Int. J. Artif. Organs 25(7), 679]。ポリミキシン被覆セルロース担体を用いて高レベルのエンドトキシン吸着を達成することができるが、これらは、ポリミキシンが共有的にこれらの担体に結合しており、ポリミキシンを結合させる前にこのセルロースを化学的に活性化させる必要があるという欠点を有している。
【0014】
EP0129786A2には、繊維状の担体を有するエンドトキシン無害化材料で、そこにポリミキシンが共有的に固定化された材料が記載されている。この繊維状担体は、担体の表面にポリミキシンを共有的に結合させるための官能基を有している。EP0129786A2のエンドトキシン無毒化材料は、吸着モジュール用の充填材として市販されており(商品名:トレミキシン)[Shoji H. 2003. Extracorporeal endotoxin removal for the treatment of sepsis: endotoxin adsorption cartridge (Toraymyxin)「敗血症の治療のための体外エンドトキシン除去:エンドトキシン吸着カートリッジ(トレミキシン)」]、現在のところ、これが体外血液浄化の分野で敗血症の臨床治療用に認可された唯一の着収剤である。治療の質が最適でないという固定化ポリミキシンBを有する繊維担体の有効性について批判的な総説が、つい最近刊行された[Cruz DN et al. 2007; Effectiveness of polymyxin B-immobilized fiber column in sepsis: a systematic review. Crit. Care 11(3):137「ポリミキシンB固定化繊維カラムの敗血症での有効性:系統的な検討」]。
【0015】
ポリミキシンによるエンドトキシンの結合を基礎とする既知の着収剤は、エンドトキシン結合能力と速度がともに低いという欠点を有している。ポリミキシンは、NH2基でポリマーと結合しているため、エンドトキシンへの接近が損なわれる。他の欠点は、コストのかかる複雑な製造方法と、その結果としての大きな製造コストである。
【0016】
エンドトキシン毒性、特に敗血症を持つ患者の致死率は、上述のトレミキシン吸着モジュールの臨床応用で低下させることができたが、重篤な敗血症や敗血症性ショックの患者の致死率は、最善の療法を行っても、依然として非常に高い。このため、また敗血症状態の発生頻度が高くまた増加の傾向があるため、エンドトキシンに対する吸収性能が改善された着収剤に対して強い需要が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】EP0110409A
【特許文献2】EP0129786A2
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Weber V., Loth F., Linsberger I., Falkenhagen D.: Int. J. Artif. Organs 25(7), 679
【非特許文献2】Shoji H. 2003. Extracorporeal endotoxin removal for the treatment of sepsis: endotoxin adsorption cartridge (Toraymyxin)
【非特許文献3】Cruz DN et al. 2007; Effectiveness of polymyxin B-immobilized fiber column in sepsis: a systematic review. Crit. Care 11(3):137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、生体液からエンドトキシンを高度にまた高速に除去可能な着収剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本目的は、最初に述べた種類の着収剤で、即ちその担体が中性で疎水性の表面を持ち、ポリミキシンが疎水性相互作用でその担体の表面に固定化されている本発明の吸着剤で達成される。
【0021】
本発明の着収剤により、エンドトキシン吸収容量とエンドトキシン吸収速度を大きく改善することができた。本発明者らは、−既知の着収剤と比較して−本発明の着収剤により、エンドトキシンで汚染された生体液から短い処置時間で多くのエンドトキシン量を結合させることができることを予想もしなかった程度まで明らかにした。これは、大量の生体液からエンドトキシンを短時間で除くことができるため、治療上の、特に敗血症の患者の治療上の大きな利点を有している。本発明の着収剤により重篤な敗血症の患者の生存可能性が改善される。上述のように、着収剤によるエンドトキシン結合速度が患者の生存に重要である。体外血液浄化の分野での治療時間も本発明の着収剤により短縮可能であり、これにより時間的また経済的、人的な資源が節約可能である。
【0022】
既知の着収剤と比べての本発明の更なる利点は、担体の中性で疎水性の表面上で、ポリミキシンが疎水性相互作用で(ポリミキシン分子の疎水性部分を用いて)固定化されているため、特に製造が簡単であることである。本発明の着収剤のエンドトキシン結合効果の増加は、疎水性の相互作用で形成される結合がポリミキシンのNH2基を露出した状態とし、これらの基が基本的にすべてエンドトキシンとの結合に利用可能であるということで説明される。ポリミキシンを担体上に固定化するのに、複雑な化学工程の必要はない。したがって、本発明の着収剤の製造は、経済的で再現性よく行うことができる。
【0023】
この疎水性相互作用は、大きな生化学的意義を持つもので、極性環境では疎水性分子が会合しやすいという現象に基づくものである。したがって、この疎水性相互作用は、それ自体は力ではなく、むしろ極性環境により強いられて発生するものである。本発明において、この疎水性相互作用は、ポリミキシン分子の疎水性領域と多孔性の担体の中性で疎水性の内表面及び外表面との間で起こる。
【0024】
本明細書の文脈において「着収剤」とは、吸収を行う、好ましくは吸着を行う試薬を、即ち生体液中にある分子が着収剤の表面力で固定される試薬を意味するものとする。本明細書においては、「吸着剤」という用語も、「着収剤」に代えて用いられる。本発明によれば、この着収剤は、エンドトキシンで汚染された生体液からエンドトキシンを吸着するために提供される。本発明の着収剤は、とりわけ体外血液浄化に、特に敗血症状態の患者の血液浄化に用いられる。
【0025】
本発明の範囲内で用いられる「生体液」は、無細胞液、特に血漿に関係し、あるいは細胞含有液、特に血液に関係しうる。体外血液浄化の過程で、他の液体、例えば凝固阻害剤を含む溶液(ヘパリン溶液、クエン酸溶液)または置換溶液(電解液、液体の減少を補償するための液体)を体外の血液循環経路中にあるいは血漿循環経路中に供給する必要があるため、生体液はまた、希釈血液または希釈血漿であるものとする。本発明は、主にヒト医学の分野を対照とするものであり、このため主にヒトの体液に関係する。しかしながら、このことは本発明が獣医学の分野においても使用されることを不可能にするものではない。
【0026】
ポリミキシンは、もともとバクテリアのポリミキサ菌に由来する既知の化学物質である。特に、ポリミキシンBとポリミキシンE(コリスチン)が注目される。
【0027】
本明細書においては、独立請求項1に用いられる「中性で疎水性の表面をもつ水不溶性で多孔性の担体」が、外表面と内表面をもつ多孔性で水不溶性の固体に関する。これらの外表面と内表面は、中性で疎水性である。「中性」は非イオン性であることとする。本発明はとりわけ粒子状の担体に関する。
【0028】
特にこの担体が疎水性のポリマーであれば、実際上好都合である。このようにして、特に多孔性と粒度に関して優れた担体材料の再現性が保証される。この多孔性と粒度は、さらに変化させてもまったくよい。この疎水性ポリマーは、ホモポリマーであってもヘテロポリマーであってもよい。実用的な性能のためには、架橋ポリスチレンポリマーが特に好適であることが判明している。体外血液浄化の際に患者体液に接触する装置部品の無菌性に対して、厳しい要求がある。これは、着収剤にもあてはまる。架橋ポリスチレンポリマーは熱や化学物質に対する安定性が際立っており、すでに臨床的に用いられている。
【0029】
ポリミキシンと担体の間の疎水性相互作用の強度は、一方では中性で疎水性の担体の疎水性から、他方では媒体のイオン強度から決まる。上述のように、ポリミキシンは神経毒性と腎毒性をもつ。したがって、ポリミキシンと担体の外表面・内表面との間で最も強固な可能である結合が形成されることが望ましい。特に好ましい実施様態では、この架橋ポリスチレンポリマーがポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーである。ポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーの表面は疎水性が高く、ポリミキシンと担体表面との間に非常に強固な結合が形成される。本発明者らは、疎水性相互作用によりポリミキシンを固定化した後は、ポリミキシンがまったく生体液中に放出されないことを見出した。しかしながら、疎水性が高い他の中性で疎水性のポリマーを用いることも可能であり、このことは当業者には公知のことである。本発明者らは、本発明の着収剤をオートクレーブ処理しても、ポリミキシンの脱着が観測されない、したがってエンドトキシン結合の減少も観測されないことを見出した。これは、患者の安全性に極めて有利である。
【0030】
また、エンドトキシンの吸着に関して、多孔性担体の孔径も重要であることがわかった。したがって、また再現性の理由から、この多孔性担体が特定の平均孔径をもつことが好ましい。この担体の平均孔径は、常に、疎水性相互作用によるポリミキシンの可動化の前の平均孔径に関する。
【0031】
この多孔性担体を合成ポリマーから製造すると、この平均孔径を特によく設定することができる。「ポリマーの平均粒径」の意味するものや、どのように多孔性や平均孔径を任意の値に設定するかについては当業者には既知であるが、この用語を、より明確とするためにここで簡単に説明する。平均孔径は、孔の平均径に関係する。孔径がガウシアン分布である場合は、平均孔径は分布曲線の最大値に相当する口径である。この平均孔径は、例えば窒素吸着により(Weber et al. 2008. Neutral styrene divinylbenzene copolymers for adsorption of toxins in liver failure. Biomacromolecules 9(4):1322-1328「肝不全における毒素吸着用の中性のスチレンジビニルベンゼンコポリマー」に記載されているように)、あるいは水銀圧入により決定される。ポリマーの孔径は、関係するモノマーやコモノマー、溶媒または調整剤の濃度を変化させて設定される。ポリマーの孔を小さくすればするほど、吸収に、特に吸着に用いられるポリマーの内表面積が大きくなる。孔が大きいほど大きな分子が孔に接近しやすくなる。本発明で使用可能な、明確な孔径をもつ疎水性の合成ポリマーの製造方法が、上記のウェーバらの刊行物に記載されている。
【0032】
担体の平均孔径が少なくとも15nmである場合に、着収剤によるエンドトキシン吸収が特によくなることが示された。この担体の平均孔径は、好ましくは少なくとも30nmである。しかしながら、体外血液浄化の臨床応用のためには、非被覆担体の平均孔径が120nm以下であることが好ましい。そうでないと着収剤の内表面積があまり小さくなりすぎ、その結果としてエンドトキシン吸収容量(エンドトキシン吸着能力)が低下するであろう。室内試験(以下の実施例を参照)では、非被覆担体の平均孔径が30〜40nmの時に非常に良い結果が得られた。
【0033】
特に有利な実施様態においては、非被覆担体の平均孔径がおおむね80〜100nmである。この実施様態では、生体液からエンドトキシンが、特に高速かつ高効率で取り除かれる。したがって、大量のエンドトキシンへの結合に、ほんの小量の着収剤が必要となる。例えば、体外の血漿循環経路中で懸濁液として用いられる場合、本発明の着収剤のこの実施様態での濃度を、1%(重量%体積%)としてもよい。吸着剤微粒子の懸濁液を含む体外の血漿循環経路は、マイクロスフェア系の無害化システム(MDS)の中心要素である。MDSは、EP0776223BとUS5855782から公知である。
【0034】
また、吸収処理中の着収剤の形状も重要である。ある有利な実施様態では、本発明の着収剤が微粒子の形をとる。粒度は吸着速度に影響を与える。また粒度が小さいと、表面積/体積比が大きくなる。ある有利な、詳細な実施様態では、この微粒子の粒度が20μm以下である。
【0035】
上述のように、この微粒子は特にMDSで用いられる。微粒子は、懸濁液としてメンブランフィルターの濾液側にある浄化経路(血漿循環経路)中を循環する。しかしながら、もしメンブランフィルターが漏れると、微粒子が体外の血液循環経路に到達し、次いで患者の体内に到達して、そこで肺塞栓症を引き起こす危険がある。このため、さらに詳細な実施様態では、微粒子の粒度が8μm以下、理想的には5μm以下であることが有利である。これは、このような小粒度で肺塞栓の危険を回避することができるためである。
【0036】
本発明の着収剤は、主に体外の血液浄化(アフェレーシス)の用途に提供される。
【0037】
本発明のある重要な用途では、この着収剤を吸収装置の充填材として用いることができる。この吸収装置は、カラムあるいはカートリッジの形で実施できる。どの血液浄化装置または血液浄化方法(血液灌流、血漿交換/血漿吸着)を採用するのかにより、この吸収装置を、体外の血液循環経路の血液側に置いたり、血漿循環経路の濾液側に置いたりすることができる。生体液(血液または血漿)がこの吸収装置を通過すると、エンドトキシンが着収剤の固定化ポリミキシン分子に結合する。浄化後の血液または血漿は患者に戻される。
【0038】
他の可能な用途は血漿循環経路であり、この場合、着収剤は血漿中の懸濁液として分散した状態で供給される。このような血漿循環経路の一例が、上述のMDS中の装置要素である。血漿循環経路中に懸濁液として供給される着収剤は、微粒子の形状であることが好ましい。
【0039】
本発明のエンドトキシン着収剤は、主に体外血液浄化(アフェレーシス)での使用に供給されるが、クロマトグラフィーでの使用も考えられる。したがって、この着収剤は、エンドトキシンで汚染された血液または血漿を浄化するためのクロマトグラフィーカラム用の充填材として用いることができる。生体液または水からエンドトキシンを除去する他の用途も考えられる。
【0040】
本発明の着収剤、本発明の着収剤を含有する吸収装置、または本発明の着収剤の懸濁液を含む血漿循環経路は、特に敗血症の治療に好適である。
【0041】
また、本発明は、生体液からエンドトキシンを除去する方法であって、エンドトキシンで汚染された生体液を本発明の着収剤に接触させる方法を提供する。上述のように、この生体液は本着収剤を含む吸収装置を通過することができる。しかしながら、この着収剤を生体液中に懸濁させることもできる。後者の一例が、上述のMDSである。この生体液は、血液であっても血漿であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】PMB被覆吸着剤(平均孔径:80−100nm)のエンドトキシン(ET)の吸着(エンドトキシン単位:(EUI/ml)の時間曲線を示すグラフである。
図2】PMB被覆吸着剤(平均孔径15〜20または30〜40nm)のエンドトキシン(ET)の吸着(エンドトキシン単位:(EUI/ml)の時間曲線を示すグラフである。
図3-6】エンドトキシン(ET)吸着(エンドトキシン単位:(EU)/ml)を時間曲線で表す。これらの表や図は以下を示すグラフである。
図7】吸着剤濃度が1%でエンドトキシン濃度が1ng/mlでの、PMB被覆吸着剤のエンドトキシン(ET)吸着(エンドトキシン単位:(EU/ml)の時間曲線のグラフである。
図8】オートクレーブ処理の吸着剤、非オートクレーブ処理の吸着剤またはセルロース吸着剤とコントロールのエンドトキシン(ET)吸着(エンドトキシン単位:(EU/ml))の時間曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、非制限的な実施例を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
本発明の着収剤(吸着剤)の製造
本発明の着収剤の製造のために、いろいろな孔径をもつ中性で疎水性のポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーを、ポリミキシンBを用いて被覆した。即ち、ポリミキシンBを、ポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーの外表面及び内表面に、疎水性相互作用で吸着させた。
【0045】
1.1.中性で疎水性のポリマーの製造:
いろいろな平均孔径をもつポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマー(短縮して、「ポリマー」または「担体」または「非被覆吸着剤」と呼ぶ)を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
これらのポリマーの粒度は、5μm±3〜4μmであった。
【0048】
1.2.ポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーのポリミキシンでの被覆:
本発明の吸着剤を製造するために、表1に示すポリマーを、ポリミキシンBを用いて被覆した。
【0049】
ポリミキシンB(PMB)はシグマアルドリッチ社から入手した(カタログ番号:81334、ロット:1348744)。被覆のために、50mgのポリミキシンBを10mLのLAL水に溶解して、ポリミキシンB溶液(PMB溶液)を生産した。
【0050】
湿重量で各々1gのポリマーを、5mLのPMB溶液と混合し、エンビロゲニー(R)振とう機中、室温で60分間培養した。
【0051】
次いで、この混合物を4000gで15分間遠心分離し、上澄液を抜き出し、沈降物を10mLの0.9%のNaClと混合し、攪拌した。この工程を3〜5回繰り返した。次いで、この混合物をもう一度、4000gで15分間遠心分離し、上澄液を抜き出して、発熱物質を含まない0.9%のNaCl中の50%吸着剤懸濁液を得た。ポリミキシンB被覆の吸着剤を表2に示す。
【0052】
【表2】
【実施例2】
【0053】
エンドトキシンの吸着、バッチ試験
エンドトキシンの結合に関して、ポリマーの平均孔径(PS)が80〜100nmであるポリミキシンB被覆の吸着剤#1825+PMBと#1826+PMB(実施例1、表2参照)を相当する非被覆の吸着剤#1825と#1826と比較した。
【0054】
2.1.吸着剤と、吸着剤の製造:
以下の吸着剤(PS=80〜100)を、実施例1の手順で製造した:
1)#1825
2)#1826
3)#1825+PMB(PMB被覆)
4)#1826+PMB(PMB被覆)
【0055】
1.2に記載のように、ポリミキシンB被覆の吸着剤と非被覆の吸着剤を、発熱物質を含まないNaClで5回洗浄した。発熱物質を含まないNaCl中の50%吸着剤懸濁液が最終的に得られた。
【0056】
2.2.ヘパリン血漿::
ある供与者から25mLのヘパリン血漿を得た(5×9ml全血抜き出し)。
【0057】
2.3.エンドトキシン溶液:
LPS緑膿菌(シグマアルドリッチ社、L7018、バッチ109H4043)。ミクロ遠心分離チューブ中で−70℃で保存されていた、小分けした(それぞれ100μlの10-3g/ml(1mg/ml))エンドトキシンを、解凍し、900μlのLAL水と混合した。次いで、このエンドトキシンを、NaCl中でさらに希釈し、必要な濃度である50ng/ml(=エンドトキシン溶液;ET溶液)とした。
【0058】
2.4.試験バッチ:
試験のバッチにおいて、このエンドトキシン溶液をさらに希釈し、最終濃度の5ng/mlとした。吸着剤の最終濃度は10%であった。試験バッチのために、50%吸着剤懸濁液(吸着剤懸濁液体積)、ヘパリン血漿(血漿)、およびエンドトキシン溶液[50ng/ml](ET溶液)を、表3の比率で、ピペットを用いて試験管に投入した。コントロールとして、吸着剤(コントロール)を含まない試験管と無処理ヘパリン血漿(血漿)を含む試験管を使用した。
【0059】
【表3】
【0060】
試験バッチは、エンビロゲニー振とう機中で、37℃で60分間培養した。
【0061】
2.5.サンプリング:
バッチ試験とLAL試験のすべての段階は、クロモゲニックス社のガラスLAL試験管(T100、プラスチックキャップ付き)中で行った(希釈と標準曲線も)。遠心分離用のサンプリングだけは、発熱物質を含まないミクロ遠心分離チューブ中で行った。
【0062】
5分間、15分間、60分間培養後に、チューブを攪拌した。いずれの場合も、0.2mLの試料を抜き取り、発熱物質を含まないミクロ遠心分離チューブに移した。試料は、遠心器(エピヒュージ)中、11,000gで10分間遠心分離した。100μLの上澄み液をガラスLAL試験管に移し、LAL試験を行った。
【0063】
2.6.材料:
【表3a】
【0064】
2.7.結果:
結果を表4に記載し、また図1に示す。なお、図1中の曲線は、PMB被覆吸着剤(平均孔径:80−100nm)のエンドトキシン(ET)の吸着(エンドトキシン単位:(EUI/ml)の時間曲線を示す。
【0065】
【表4】
【実施例3】
【0066】
エンドトキシン吸着−バッチ試験
エンドトキシンの結合について、平均孔径(PS)が15〜20nmまたは30〜40nmのポリミキシンB被覆の吸着剤#1822+PMB、#1823+PMBおよび#1824+PMBと、相当する非被覆の吸着剤#1822と#1823と#1824とを比較した。
【0067】
3.1.吸着剤と、吸着剤の製造:
以下の吸着剤を、実施例1の手順で製造した。

1)#1822
2)#1823
2)#1824
3)#1822+PMB(PMB被覆)
4)#1823+PMB(PMB被覆)
5)#1824+PMB(PMB被覆)
【0068】
1.2に記載のように、ポリミキシンB被覆の吸着剤と非被覆の吸着剤を、発熱物質を含まないNaClで5回洗浄した。最終的に発熱物質を含まないNaCl中の50%吸着剤懸濁液が得られた。
【0069】
3.2.ヘパリン血漿とエンドトキシン溶液:2.2節と2.3節に相当
【0070】
3.3.試験バッチ:
試験のバッチにおいて、このエンドトキシン溶液をさらに希釈し、最終濃度の5ng/mlとした。吸着剤の最終濃度は10%であった。試験バッチのために、50%吸着剤懸濁液(吸着剤懸濁液体積)、ヘパリン血漿(血漿)、およびエンドトキシン溶液[50ng/ml](ET溶液)を、表5の比率で、ピペットを用いて試験管に投入した。コントロールとして、吸着剤(吸着剤を含まないコントロール)を含まない試験管と無処理ヘパリン血漿(天然血漿)を含む試験管を使用した。
【0071】
【表5】
【0072】
試験バッチは、エンビロゲニー振とう機中で、37℃で60分間培養した。
【0073】
3.4.サンプリングと材料:2.5節と2.6節に相当
【0074】
3.5.結果:
結果を表6に記載し、また図2に示す。なお、図2中の曲線は、PMB被覆吸着剤(平均孔径15〜20または30〜40nm)のエンドトキシン(ET)の吸着(エンドトキシン単位:(EUI/ml)の時間曲線を示す。
【0075】
【表6】
【実施例4】
【0076】
エンドトキシン吸着−ヘパリン血漿中でいろいろな吸着剤最終濃度でのバッチ試験
いろいろな吸着剤最終濃度での、即ち10%、4%、2%、1%の濃度でのエンドトキシン結合について、ポリミキシンB被覆の吸着剤#1823+PMB(平均孔径15〜20nm)と#1826+PMB(平均孔径80〜100nm)を、相当する非被覆で無処理の吸着剤#1823と#1826と比較した。
【0077】
4.1.吸着剤と、吸着剤の製造:
以下の吸着剤を、実施例1の手順で製造した。
1)#1823
2)#1826
3)#1823+PMB(PMB被覆)
4)#1826+PMB(PMB被覆)
【0078】
1.2に記載のように、ポリミキシンB被覆の吸着剤と非被覆の吸着剤を、発熱物質を含まないNaClで5回洗浄した。最終的に発熱物質を含まないNaCl中の50%吸着剤懸濁液が得られた。
【0079】
4.2.ヘパリン血漿とエンドトキシン溶液: 2.2節と2.3節に相当
【0080】
4.3.試験バッチ:
試験のバッチにおいて、このエンドトキシン溶液をさらに希釈し、最終濃度の5ng/mlとした。
【0081】
異なる吸着剤最終濃度で合計4回の試験バッチA、B、C、Dを行い、それぞれポリミキシンB被覆の吸着剤には、二バッチを行った。これらの試験バッチには、50%吸着剤懸濁液(吸着剤懸濁液体積)、ヘパリン血漿(血漿)、およびエンドトキシン溶液(ET溶液)を、表7〜10の比率で、ピペットを用いて試験管に投入した。コントロールとして、吸着剤(吸着剤を含まないコントロール)を含まない試験管と無処理ヘパリン血漿(血漿)を含む試験管を使用した。
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
試験バッチは、エンビロゲニー振とう機中で、37℃で60分間培養した。
【0087】
4.4.サンプリング:
バッチ試験とLAL試験のすべての段階は、クロモゲニックス社のガラスLAL試験管(T100、プラスチックキャップ付き)中で行った(希釈と標準曲線も)。遠心分離用のサンプリングだけは、発熱物質を含まないミクロ遠心分離チューブ中で行った。5分間、15分間、60分間培養後、チューブを攪拌した。いずれの場合も、0.3mLの試料を抜き取り、発熱物質を含まないミクロ遠心分離チューブに移した。試料は、遠心器(エピヒュージ)中、11,000gで10分間遠心分離した。50μLの上澄液を抜き出して、450μLのLAL水と共にガラスLAL試験管に移し、直ちに75℃で5分間培養し、マイクロタイトレーションプレートに塗布し、LAL試験を行った。
【0088】
4.5.材料: 2.5節と2.6節に相当
【0089】
4.6.結果:
結果を表11と表12と表13と表14に記載し、また図3図4図5図6に示す。エンドトキシン(ET)吸着(エンドトキシン単位:(EU)/ml)を時間曲線で表す。これらの表や図は以下を示す。
【0090】
【表11】
【0091】
【表12】
【0092】
【表13】
【0093】
【表14】
【実施例5】
【0094】
エンドトキシン濃度が1ng/mlでのエンドトキシン吸着バッチ試験
バッチ試験のエンドトキシン濃度が1ng/mlでのエンドトキシン結合について、ポリミキシンB被覆の吸着剤(実施例1参照)#1823+PMB(平均孔径:15〜20nm)と#1824+PMB(平均孔径:30〜40nm)と#1826+PMB(平均孔径:80〜100nm)を、相当する非被覆吸着剤#1823と#1824と#1826と比較した。
【0095】
5.1.吸着剤と、吸着剤の製造:
以下の吸着剤を、実施例1の手順で製造した。
1)#1823
2)#1824
3)#1826
4)#1823+PMB(PMB被覆)
5)#1824+PMB(PMB被覆)
6)#1826+PMB(PMB被覆)
【0096】
1.2に記載のように、ポリミキシンB被覆の吸着剤と非被覆の吸着剤を、発熱物質を含まないNaClで5回洗浄した。最終的に発熱物質を含まないNaCl中の50%吸着剤懸濁液が得られた。
【0097】
5.2.ヘパリン血漿: 2.2節に相当する
【0098】
5.3.エンドトキシン溶液:
LPS緑膿菌(シグマアルドリッチ社、L7018、バッチ109H4043)。ミクロ遠心分離チューブ中で−70℃で保存されていた、小分けした(それぞれ100μlの10-3g/ml(1mg/ml))エンドトキシンを、解凍し、900μlのLAL水と混合した。次いで、このエンドトキシンを、NaCl中でさらに希釈し、必要な濃度である10ng/ml(=エンドトキシン溶液;ET溶液)とした。
【0099】
5.4.試験バッチ:
試験のバッチにおいて、このエンドトキシン溶液をさらに希釈し、最終濃度の1ng/mlとした。吸着剤の最終濃度は1%であった。これらの試験バッチには、50%吸着剤懸濁液(吸着剤懸濁液、50%)、ヘパリン血漿(血漿)およびエンドトキシン溶液[10ng/ml](ET溶液)を、表15の比率で、ピペットを用いて試験管に投入した。コントロールとして、吸着剤(吸着剤を含まないコントロール)を含まない試験管と無処理ヘパリン血漿(天然血漿)を含む試験管を使用した。
【0100】
【表15】
【0101】
試験バッチは、エンビロゲニー振とう機中で、37℃で60分間培養した。
【0102】
5.5.サンプリングと材料: 2.5節と2.6節に相当する
【0103】
5.6.結果:
結果を表16に記載し、また図7に示す。図7は、吸着剤濃度が1%でエンドトキシン濃度が1ng/mlでの、PMB被覆吸着剤のエンドトキシン(ET)吸着(エンドトキシン単位:(EU/ml)の時間曲線のグラフを示す。
【0104】
【表16】
【実施例6】
【0105】
ポリミキシンB被覆吸着剤のオートクレーブ処理能力の試験
ポリミキシンB被覆の吸着剤#1826+PMB(平均孔径:80〜100nm)のオートクレーブ処理能力を、ポリミキシンBがセルロースに共有的に結合しているセルロース系吸着剤と比較した。エンドトキシン結合へのオートクレーブ処理の影響を調べた。
【0106】
6.1.吸着剤と、吸着剤の製造
二つの、ポリミキシンB被覆の吸着剤#1826+PMBの50%吸着剤懸濁液(AとB)を実施例1の手順で製造した。
【0107】
また、二つの、ポリミキシンBで修飾された粒子状のセルロース吸着剤#1862Cell+PMBの50%吸着剤懸濁液(AとB)を製造した(セルロース粒子、Fischer、ロット:EA 13/1 PCKT 038、エピクロロヒドリンで活性化しポリミキシンBと反応=>ポリミキシンB分子がセルロース粒子と共有結合)。
【0108】
#1826+PMB Aと#1862Cell+PMB Aの各吸着剤懸濁液Aを121℃で20分間オートクレーブ処理した。#1826+PMB Bと#1862Cell+PMB Bの各吸着剤懸濁液Bは、オートクレーブ処理しなかった。
1)#1826+PMB A(オートクレーブ処理)
2)#1826+PMB B(非オートクレーブ処理)
3)#1862Cell+PMB A(オートクレーブ処理)
4)#1862Cell+PMB B(非オートクレーブ処理)
【0109】
50%吸着剤懸濁液のそれぞれの600μLを、LAL試験管T100(チャールスリバーエンドセーフ、発熱物質非含有)中に入っている提供ヘパリン血漿中に入れた。
【0110】
6.2.ヘパリン血漿: 2.2節に相当
【0111】
6.3.エンドトキシン溶液:
LPS緑膿菌(シグマアルドリッチ社、L7018、バッチ109H4043)。ミクロ遠心分離チューブ中で−70℃で保存されていた、小分けした(それぞれ100μlの10-3g/ml(1mg/ml))エンドトキシンを、解凍し、900μlのLAL水と混合した。次いで、このエンドトキシンを、NaCl中でさらに希釈し、必要な濃度である10ng/ml(=エンドトキシン溶液;ET溶液)とした。
【0112】
6.4.試験バッチ:
試験のバッチにおいて、このエンドトキシン溶液をさらに希釈し、最終濃度の1ng/mlとした。この試験バッチでは吸着剤の最終濃度が1%であった。これらの試験バッチには、50%吸着剤懸濁液(吸着剤懸濁液体積)、ヘパリン血漿(血漿)およびエンドトキシン溶液[10ng/ml](ET溶液)を、表17の比率で、ピペットを用いて試験管に投入した。コントロールとして、吸着剤(吸着剤を含まないコントロール)を含まない試験管と無処理ヘパリン血漿(天然血漿)を含む試験管を使用した。
【0113】
【表17】
【0114】
試験バッチは、エンビロゲニー振とう機中で、37℃で60分間培養した。
【0115】
6.5.サンプリング:
バッチ試験とLAL試験のすべての段階は、クロモゲニックス社のガラスLAL試験管(T100、プラスチックキャップ付き)中で行った(希釈と標準曲線も)。遠心分離用のサンプリングだけは、発熱物質を含まないミクロ遠心分離チューブ中で行った。
【0116】
5分間、15分間、60分間培養後、チューブを攪拌した。いずれの場合も、0.2mLの試料を抜き取り、発熱物質を含まないミクロ遠心分離チューブに移した。試料は、卓上遠心器(エピヒュージ)中、11,000gで10分間遠心分離した。100μLの上澄液をガラスLAL試験管に移し、LAL試験(LAL試験:チャールスリバーエンドセーフエンドクロム、キットロット:Y1892EK1)を行った。
【0117】
6.6.結果:
結果を表18に記載し、また図8に示す。図8は、オートクレーブ処理の吸着剤、非オートクレーブ処理の吸着剤またはセルロース吸着剤とコントロールのエンドトキシン(ET)吸着(エンドトキシン単位:(EU/ml))の時間曲線のグラフを示す。
【0118】
【表18】
【0119】
本発明に係る吸着剤#1826+PMB Aと#1826+PMB Bは、オートクレーブ処理の前後共に好ましいエンドキシン吸着を示す。
【0120】
これ対して、セルロース吸着剤をオートクレーブ処理すると、エンドトキシン吸着が大幅に低下した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8