【実施例】
【0047】
各実施例および各比較例の鋼部材および鉄窒化化合物層の成分、Hs値、Hc値、ビッカース硬さを表1に示す。製造条件を表2に示す。評価結果を表3に示す。
【0048】
【表1】
【表2】
【表3】
【0049】
[実施例1]
質量%で、C:0.07%、Si:0.19%、Mn:1.28%、P:0.015%、S:0.025%、Cr:1.32%、Mo:0.34%、V:0.23%、Al:0.030%、N:0.0050%、O:0.0015%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が2.34、Hc値が3.60である、鋼部材のサンプルを準備した。また、サンプルの形状は、剥離強度用、窒化品質確認用(円板状)、ローラーピッチング試験用、小野式回転曲げ疲労試験用、ギヤ歪量測定用に合わせて準備した。
【0050】
次に、
窒化処理の前処理として各サンプルについて真空洗浄を実施した。
【0051】
次に、サンプルにガス雰囲気中での窒化処理を実施した。まず、昇温工程においては、炉内(加熱室内)に供給するNH
3ガスの流量を0.01m
3/min、N
2ガスの流量を0.04m
3/minとして、窒化処理まで昇温した。続いて実施した窒化処理の条件としては、温度610℃、窒化時間は5h(時間)とし、NH
3ガスとH
2ガス及びN
2ガスの炉内へのそれぞれの供給ガス流量を調整し、炉内の全圧を1としたときに、NH
3ガスの分圧の比を0.09(NH
3ガスの分圧を0.0091MPa)、H
2ガスの分圧の比を0.77(H
2ガスの分圧を0.078MPa)、N
2ガスの分圧の比を0.14(N
2ガスの分圧を0.014MPa)とした。なお、窒化処理時の炉内の全圧は大気圧であり、窒化ガスをファンの回転数をあげて強攪拌することにより試験片に接触する炉内ガスのガス流速(風速)を2〜2.6m/s(秒)とした。その後、130℃の油に各試験片を浸漬して油冷し各評価を行った。
【0052】
なお、窒化処理ガス中のNH
3分圧の分析は「ガス軟窒化炉NH
3分析計」(HORIBA製、形式FA−1000)、H
2分圧の分析は「連続式ガス分析計」(ABB製、形式AO2000)で実施し、残部をN
2分圧とした。また、ガス流速は「風車式風速計」(testo製、形式350M/XL)で予め窒化処理前に炉内温度が室温である以外は窒化処理工程と同じ条件(窒化処理ガス組成など)で測定した。本発明においては、この値をガス流速と規定する。
【0053】
[実施例2]
質量%で、C:0.07%、Si:0.16%、Mn:1.27%、P:0.025%、S:0.014%、Cr:0.90%、Mo:0.20%、Al:0.027%、N:0.0080%、O:0.0009%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が1.31、Hc値が2.64である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0054】
[実施例3]
質量%で、C:0.09%、Si:0.18%、Mn:0.70%、P:0.009%、S:0.014%、Cr:1.20%、V:0.13%、Al:0.030%、N:0.0045%、O:0.0016%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が1.73、Hc値が2.59である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0055】
[実施例4]
質量%で、C:0.10%、Si:0.15%、Mn:1.10%、P:0.007%、S:0.015%、Cr:1.20%、V:0.15%、Al:0.030%、N:0.0048%、O:0.0010、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が1.83、Hc値が2.83である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0056】
[実施例5]
質量%で、C:0.09%、Si:0.14%、Mn:1.26%、P:0.009%、S:0.015%、Cr:1.27%、Al:0.115%、N:0.0044%、O:0.0010%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が1.97、Hc値が3.32である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0057】
[実施例6]
質量%で、C:0.07%、Si:0.19%、Mn:1.28%、P:0.015%、S:0.025%、Cr:1.32%、Mo:0.34%、V:0.23%、Al:0.030%、N:0.0050%、O:0.0015%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が2.34、Hc値が3.60である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、窒化処理時間を2.5hとした以外は、実施例1と同様の前処理および窒化処理条件で窒化処理を実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0058】
[実施例7]
質量%で、C:0.07%、Si:0.19%、Mn:1.28%、P:0.015%、S:0.025%、Cr:1.32%、Mo:0.34%、V:0.23%、Al:0.030%、N:0.0050%、O:0.0015%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が2.34、Hc値が3.60である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、窒化処理時間を8hとした以外は、実施例1と同様の前処理および窒化処理条件で窒化処理を実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0059】
[比較例1]
質量%で、C:0.34%、Si:0.16%、Mn:0.85%、P:0.020%、S:0.014%、Cr:0.90%、Mo:0.20%、Al:0.030%、N:0.0110%、O:0.0015%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が0.29、Hc値が2.84である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0060】
[比較例2]
質量%で、C:0.19%、Si:0.15%、Mn:0.84%、P:0.019%、S:0.014%、Cr:1.68%、Mo:0.36%、V:0.19%、Al:0.031%、N:0.0095%、O:0.0015%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が2.20、Hc値が4.14である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0061】
[比較例3]
質量%で、C:0.20%、Si:0.25%、Mn:0.72%、P:0.018%、S:0.017%、Cr:1.05%、Al:0.030%、N:0.0120%、O:0.0012%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が0.90、Hc値が2.49である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0062】
[比較例4]
質量%で、C:0.20%、Si:0.25%、Mn:0.72%、P:0.017%、S:0.016%、Cr:1.05%、Mo:0.20%、Al:0.030%、N:0.0110%、O:0.0011%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が0.93、Hc値が2.79である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理を実施例1と同様の条件で実施し、鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0063】
[比較例5]
質量%で、C:0.07%、Si:0.19%、Mn:1.28%、P:0.015%、S:0.025%、Cr:1.32%、Mo:0.34%、V:0.23%、Al:0.030%、N:0.0050%、O:0.0015%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が2.34、Hc値が3.60である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、温度570℃、窒化時間は2.5h(時間)とし、NH
3ガスとH
2ガス及びN
2ガスの炉内へのそれぞれの供給ガス流量を調整し、炉内の全圧を1としたときに、NH
3ガスの分圧の比を0.4(NH
3ガスの分圧を0.041MPa)、H
2ガスの分圧の比を0.28(H
2ガスの分圧を0.028MPa)、N
2ガスの分圧の比を0.32(N
2ガスの分圧を0.032MPa)とした以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0064】
[比較例6]
質量%で、C:0.09%、Si:0.14%、Mn:1.26%、P:0.009%、S:0.015%,Cr:1.27%、Al:0.115%、N:0.0044%、O:0.0010%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が1.97、Hc値が3.32である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、温度570℃、窒化時間は2.5h(時間)とし、NH
3ガスとH
2ガス及びN
2ガスの炉内へのそれぞれの供給ガス流量を調整し、炉内の全圧を1としたときに、NH
3ガスの分圧の比を0.4(NH
3ガスの分圧を0.041MPa)、H
2ガスの分圧の比を0.28(H
2ガスの分圧を0.028MPa)、N
2ガスの分圧の比を0.32(N
2ガスの分圧を0.032MPa)とした以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0065】
[比較例7]
質量%で、C:0.20%、Si:0.25%、Mn:0.72%、P:0.017%、S:0.016%、Cr:1.05%、Mo:0.20%、Al:0.030%、N:0.0110%、O:0.0011%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が0.93、Hc値が2.79である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、温度570℃、窒化時間は2.5h(時間)とし、NH
3ガスとH
2ガス及びN
2ガスの炉内へのそれぞれの供給ガス流量を調整し、炉内の全圧を1としたときに、NH
3ガスの分圧の比を0.4(NH
3ガスの分圧を0.041MPa)、H
2ガスの分圧の比を0.28(H
2ガスの分圧を0.028MPa)、N
2ガスの分圧の比を0.32(N
2ガスの分圧を0.032MPa)とした以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0066】
[比較例8]
質量%で、C:0.46%、Si:0.26%、Mn:0.29%、P:0.022%、S:0.014%、Cr:1.50%、Mo:0.23%、Al:0.950%、N:0.0045%、O:0.0007%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が3.69、Hc値が7.57である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、温度570℃、窒化時間は2.5h(時間)とし、NH
3ガスとH
2ガス及びN
2ガスの炉内へのそれぞれの供給ガス流量を調整し、炉内の全圧を1としたときに、NH
3ガスの分圧の比を0.4(NH
3ガスの分圧を0.041MPa)、H
2ガスの分圧の比を0.28(H
2ガスの分圧を0.028MPa)、N
2ガスの分圧の比を0.32(N
2ガスの分圧を0.032MPa)とした以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0067】
[比較例9]
質量%で、C:0.37%、Si:0.93%、Mn:0.46%、P:0.022%、S:0.017%、Cr:5.00%、Mo:1.25%、V:1.00%、Al:0.030%、N:0.0085%、O:0.0039%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が7.46、Hc値が11.04である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、温度570℃、窒化時間は2.5h(時間)とし、NH
3ガスとH
2ガス及びN
2ガスの炉内へのそれぞれの供給ガス流量を調整し、炉内の全圧を1としたときに、NH
3ガスの分圧の比を0.4(NH
3ガスの分圧を0.041MPa)、H
2ガスの分圧の比を0.28(H
2ガスの分圧を0.028MPa)、N
2ガスの分圧の比を0.32(N
2ガスの分圧を0.032MPa)とした以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0068】
[比較例10]
質量%で、C:0.10%、Si:0.15%、Mn:1.10%、P:0.007%、S:0.015%、Cr:1.20%、V:0.15%、Al:0.030%、N:0.0048%、O:0.0010%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が1.83、Hc値が2.83である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、窒化時間を0.5h(時間)とした以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成した後、各評価を行った。
【0069】
[比較例11]
質量%で、C:0.10%、Si:0.15%、Mn:1.10%、P:0.007%、S:0.015%、Cr:1.20%、V:0.15%、Al:0.030%、N:0.0048%、O:0.0010%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が1.83、Hc値が2.83である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、窒化時間を10h(時間)とした以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成した後、各評価を行った。
【0070】
[比較例12]
質量%で、C:0.20%、Si:0.25%、Mn:0.72%、P:0.017%、S:0.016%、Cr:1.05%、Mo:0.20%、Al:0.030%、N:0.0110、O:0.0011%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が0.93、Hc値が2.79である以外は実施例1と同様にサンプルを準備した。次に、前処理を実施例1と同様の条件で実施した後、浸炭処理を実施したサンプルを作成し、各評価を行った。
【0071】
[比較例13]
質量%で、C:0.07%、Si:0.19%、Mn:1.28%、P:0.015%、S:0.025%、Cr:1.32%、Mo:0.34%、V:0.23%、Al:0.030%、N:0.0050%、O:0.0015%、残部がFeおよび不純物の組成を有し、Hs値が2.34、Hc値が3.60である、鋼部材のサンプルを準備した。次に、前処理および窒化処理の昇温工程を実施例1と同様の条件で実施し、窒化処理の条件としては、温度600℃、窒化時間は2h(時間)とし、NH
3ガスとH
2ガス及びN
2ガスの炉内へのそれぞれの供給ガス流量を調整し、炉内の全圧を1としたときに、NH
3ガスの分圧の比を0.16(NH
3ガスの分圧を0.016MPa)、H
2ガスの分圧の比を0.72(H
2ガスの分圧を0.073MPa)、N
2ガスの分圧の比を0.12(N
2ガスの分圧を0.012MPa)とし、ガス流速(風速)を0〜0.5m/s(秒)とした、以外は実施例1と同様の方法で窒化処理を行い鉄窒化化合物をサンプルの表面に形成したのち、各評価を行った。
【0072】
[評価方法]
1.鉄窒化化合物層の厚さ測定
円板状の試験片を切断機で切断し、エメリー紙で断面を研磨し、バフで研磨面を鏡面仕上げした。3%硝酸アルコールで腐食した後、金属(光学)顕微鏡を用いて倍率400倍で前記断面を観察し、鉄窒化化合物層の厚さ測定した。鉄窒化化合物層は白層とも称され、母材との組織が異なるとともに白く見えるので視覚的に判別できる。
【0073】
2.X線回析
X線管球はCuを使用し、電圧:40kV、電流:20mA、走査角度2θ:20〜80°、スキャンステップ1°/minで円板状の試験片の表面のX線回折を行った。
【0074】
このとき、X線回折プロファイルによる2θ:41.2度付近に出現するFe
4Nの(111)結晶面のX線回折ピーク強度IFe
4N(111)と、2θ:43.7度付近に出現するFe
3Nの(111)結晶面のX線回折ピーク強度IFe
3N(111)において、IFe
4N(111)/{IFe
4N(111)+IFe
3N(111)}で表されるピーク強度の強度比(XRD回析強度比)を測定した。
【0075】
3.剥離強度
剥離強度はスクラッチ試験機を用い、先端曲率100μmの円錐形ダイヤモンド圧子にて、荷重60N、往復回数5回、無潤滑状態にて往復摺動させ、剥離あるいは破壊の状態を観察した。
図3に示すように、剥離試験のサンプルはローラーピッチング試験の小ローラーを用いており、Φ26mm試験部を軸方向に摺動させ、試験を行った。
軸方向の摺動とは、
図3中の矢印に示すように、軸の頂部を摺動させて試験した。剥離強度は、ギヤ歯面の耐剥離性に寄与し耐ピッチング性に影響する。ギヤ歯面が剥離することにより、母材の露出に伴う強度低下、およびギヤ歯面の凹凸による振動・ノイズ悪化が発生する。
【0076】
4.ローラーピッチング試験
RP201型疲労強度試験機を用い、すべり率:−40%、潤滑油:ATF(オートマチックトランスミッション用潤滑油)、潤滑油温度:90℃、潤滑油の量:0.002m
3/min、大ローラークラウニング:R700の条件で試験した。
図4に示すように、小ローラー100に大ローラー101を加重Pで押し当てながら、小ローラー100を回転させた。小ローラー回転数:1560rpm、面圧:1800MPaの条件、また、大・小のローラーピッチング試験片は同一材料で同一の窒化処理を行った。
【0077】
5.小野式回転曲げ疲労試験
小野式回転曲げ疲労試験機にて、下記の試験条件で評価した。
図5に示すように、曲げモーメントMを加えた状態で試験片102を回転させることにより、上側で圧縮応力、下側で引っ張り応力を試験片102に繰り返し加えて疲労試験を行った。試験条件は次の通り。
温度:室温
雰囲気:大気中
回転数:3500rpm
【0078】
6.ギヤ歪量
評価のために、機械加工により、外形φ120mm、歯先内径φ106.5mm、ギヤ幅30mm、モジュール1.3、歯数78、ねじれ角/圧力角20度の内歯歯車を製作し、前記窒化処理、もしくは浸炭処理を施し、歯形の変化を測定し、評価した。評価としての歯形の、歯すじ傾きを用いた。歯すじの傾きは、1個のギヤにおいて90度ごとに4歯測定し、且つ、10個のギヤを同様に測定し最大幅を歯すじの傾きばらつきとした。
【0079】
7.ビッカース硬さの測定方法
(1)鉄窒化化合物層
円板状の試験片を加工面(表面)に垂直に切断し、切断面を研磨仕上げして被検面とする。切断又は研磨の際に、被検面の硬さに影響を及ぼさないよう、また端部が欠けたり、丸くならないよう充分に注意した。
測定は、JIS Z 2244(2003)記載の「ビッカース硬さ試験・試験方法」を基本として行う。試験装置はミツトヨ製の微小硬さ試験機を用い、試験力は98.07mN(1g)とし、化合物層厚さに対し中央に圧痕を付与する。圧痕はSEMにて観察し、圧痕付近の割れがないことを確認するとともに、大きさを測定し、ビッカース硬度に換算する。また、測定は5箇所行い平均値を用いる。なお、化合物層厚さの薄い実施例6においては、(化合物層厚さが薄いため、)試験荷重を4.903mNにて圧痕を作成しSEM観察・測定を行った。本発明では5μm以下の化合物層厚さのときに、試験荷重を4.903mNとしてビッカース硬さを測定する。測定に用いたSEMの一例を
図6に示す。
【0080】
(2)鉄窒化化合物層直下の母材
前記鉄窒化化合物層のビッカース硬さと同様に、試験片を加工面(表面)に垂直に切断し、切断面を研磨仕上げして被検面とする。切断又は研磨の際に、被検面の硬さに影響を及ぼさないよう、また端部が欠けたり、丸くならないよう充分に注意した。
測定は、JIS Z 2244(2003)記載の「ビッカース硬さ試験・試験方法」を基本として行う。試験力は1.96Nとし、化合物層と母材の境界を0とし、母材内部方向25μmの深さにて測定する。また、測定は5箇所行い、平均値を用いる。
【0081】
(評価結果)
1.鉄窒化化合物層の厚さ測定
窒化品質確認用(円板状)のサンプルを切断し、断面を顕微鏡で観察して鉄窒化化合物層の厚さを測定した。
実施例における鉄窒化化合物層の厚さは、実施例1〜5は10〜12μm、実施例6は3μm、実施例7は16μmであった。
また、比較例における鉄窒化物層の厚さは、比較例1〜9は9〜13μm、比較例10は1μm、比較例11は20μmであった。比較例13は0〜0.5μmであった。
【0082】
2.鉄窒化化合物および鉄窒化化合物層直下の母材のビッカース硬さ
図7に示すように、鉄窒化化合物層の厚さを測定したサンプルについて、断面のビッカース硬さを測定した。
ビッカース硬さHVは実施例1が、鉄窒化化合物層直下の母材が812、鉄窒化化合物層が871、硬度差が59であった。同様に鉄窒化化合物層直下の母材、鉄窒化化合物層、硬度差の順にビッカース硬さを記すと、実施例2が740、776、36、実施例3が715、790、75、実施例4が785、828、43、実施例5が749、841、92、実施例6は803、878、75、実施例7が798、880、82であった。同様に比較例1のビッカース硬さは690、765、75であり、比較例2は780、917、137、比較例3は648、759、111、比較例4は669、766、97、比較例5は748、930、182、比較例6は761、965、204、比較例7は731、911、180、比較例8は855、1102、247、比較例9は890、1095、205、比較例11は778、951、173であった。なお、比較例10は、鉄窒化化合物層直下の母材のビッカース硬さが781であり、鉄窒化化合物層は、層厚さが1μmと薄いため測定が不可であった。また、比較例12は、浸炭処理品であり、表層母材のビッカース硬さは745であった。比較例13は、鉄窒化化合物層直下の母材のビッカース硬さが813であり、鉄窒化化合物層は、層厚さが0〜0.5μmと薄いため測定できなかった。
【0083】
3.X線回折による化合物層の分析
実施例におけるX線回折の強度比は、実施例1〜実施例7は0.98以上であった。よって、実施例1〜7は、いずれも強度比は0.5以上であり、鉄窒化化合物層はγ’相が主成分であると判定された。
【0084】
また、比較例におけるX線回折の強度比はそれぞれ、比較例1〜4が0.98以上、比較例5〜9が0.01、比較例10が0.98以上、比較例11が0.98以上であった。比較例13は0.01であった。
【0085】
4.ローラーピッチング試験
ローラーピッチング試験の結果、実施例1〜実施例7および比較例1、12においては、面圧1800MPaにおいて1.0×10
7サイクル試験後においてもサンプル表面の鉄窒化化合物層の剥離は認められず、本発明で目標とする疲労強度条件をクリアした。
【0086】
これに対し、比較例2〜11のサンプルは、1.0×10
7サイクルに到達する前にサンプル表面に損傷、或いは剥離の不具合が発生した。比較例2は9.5×10
6サイクル後に損傷が発生し、比較例3は6.2×10
6サイクル後に損傷が発生、比較例4は6.8×10
6サイクル後に損傷が発生した。比較例5〜7は1.0×10
4サイクル後に鉄窒化化合物の剥離が発生した。また、比較例8、9は1.0×10
3サイクル後に鉄窒化化合物の剥離が発生した。さらに比較例10は4.2×10
6サイクル後に損傷が発生し、比較例11は5.5×10
6サイクル後に損傷が発生した。また、比較例12(浸炭処理)のサンプルは1.0×10
7で表面の損傷は発生していない。以上比較例2〜11は、いずれも本発明の目的とする疲労強度条件を満たさなかった。なお、損傷発生と剥離発生の違いは、化合物層の剥離損傷を「剥離発生」とし、化合物層剥離以外の損傷(ピッチング・スポーリング損傷)を「損傷発生」とした。
なお、比較例13は評価しなかったが、鉄窒化化合物がεリッチ相であり厚さも薄いため、特性としては鉄窒化化合物層の薄い比較例10と同等またはそれ以下と考えられる。
【0087】
5.小野式回転曲げ疲労試験
回転曲げ疲労試験の結果、実施例1では1.0×10
7サイクルにおける強度が520MPaであった。同様に実施例3では440MPa、実施例4では470MPaであった。比較例7では320MPaであり、比較例12では430MPaであった。本発明による窒化処理が高い曲げ疲労強度を有することが明らかである。
なお、比較例13は評価しなかったが、鉄窒化化合物がεリッチ相であり厚さも薄いため、特性としては鉄窒化化合物層の薄い比較例10と同等またはそれ以下と考えられる。
【0088】
6.歪量
歪量の評価用ギヤ試験片において、歯すじ修正量は4μm(実施例1)、8μm(実施例2)、5μm(実施例3)、8μm(比較例5)、6μm(比較例6)、7μm(比較例7)、38μm(比較例12)であった。
【0089】
浸炭処理した比較例12と比べて、実施例1〜3の本願発明の歪量は、従来の窒化処理である比較例5〜7と同等であり、歪量が小さいまま高い疲労強度、曲げ疲労強度を達成できていることを確認した。
【0090】
実施例1〜7と比較例1〜12の鋼材種類の成分組成を、表1に示す。実施例1〜7と比較例1〜12の鋼材種類、窒化処理条件である温度、処理時間、N
2ガス分圧、NH
3ガス分圧、H
2ガス分圧および化合物層の形態、XRD回折強度比、厚さを表2にまとめて示す。実施例1〜7と比較例1〜12の特性(剥離強度、ローラーピッチング試験、小野式回転曲げ疲労試験など)は、表3に示す結果となった。
【0091】
スクラッチ試験の結果、実施例1〜実施例7、および比較例10は鉄窒化化合物層の剥離が認められず、本発明により高い耐剥離特性を有することが明らかになった。これに対し、比較例1〜4、および比較例11は剥離が数箇所発生、比較例5〜9は10箇所以上の剥離が発生した。
剥離強度は、ギヤ歯面の耐剥離性に寄与し耐ピッチング性に影響する。剥離強度が小さいと、ギヤ歯面が剥離することにより、母材の露出に伴う強度低下、およびギヤ歯面の凹凸による振動・ノイズ悪化につながる。
【0092】
[窒化鋼部材の芯部硬さ]
以上のように、本発明の窒化鋼部材は、鉄窒化化合物層のビッカース硬さが900以下であり、鉄窒化化合物層直下の母材のビッカース硬さが700以上であるが、窒化鋼部材の芯部硬さが低いと、負荷が加わった際に内部で塑性変形が生じ、内部で発生した亀裂により歯面損傷が発生し、耐ピッチング性が低下してしまう。窒化鋼部材で内部の塑性変形を抑制するには、ビッカース硬さで150以上の芯部硬さであることが好ましい。そのため、本発明の窒化鋼部材の芯部硬さはビッカース硬さで150以上が好ましい。芯部硬さの好ましい下限はビッカース硬さで170である。各実施例および各比較例の芯部硬さを表4に示す。なお、芯部硬さの上限は特に規定する必要はないが、本発明の上限はビッカース硬さで350程度である。
【0093】
【表4】