特許第5657106号(P5657106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5657106
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】時計の衝撃吸収軸受
(51)【国際特許分類】
   G04B 31/04 20060101AFI20141225BHJP
【FI】
   G04B31/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-515878(P2013-515878)
(86)(22)【出願日】2011年6月22日
(65)【公表番号】特表2013-529778(P2013-529778A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】EP2011060405
(87)【国際公開番号】WO2011161139
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2013年1月21日
(31)【優先権主張番号】01017/10
(32)【優先日】2010年6月22日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ヘルファー,ジャン−リュック
(72)【発明者】
【氏名】ウィンクラー,イヴ
(72)【発明者】
【氏名】ウィレミン,ミシェル
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第2015147(EP,A1)
【文献】 特開昭55−145138(JP,A)
【文献】 特開2009−186394(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/132135(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計のホイールセットのアーバ(120)のための、衝撃吸収軸受であって、前記アーバ(120)は、ピボット(122)用に延伸する枢軸(121)を備え、前記軸受は、支持体(102、103)を備え、前記支持体(102、103)は、前記枢軸(121)が挿入されている、吊り下げられた枢動システム(126、126’)を受容するための凹部を備え、
前記枢動システム(126、126’)は、その全体が非晶質の合金で作製された単一の部品で形成され、時計のホイールセットに働く衝撃を少なくとも部分的に吸収するよう配設されることを特徴とする、衝撃吸収軸受。
【請求項2】
前記合金は、少なくとも1つの貴金属要素又は貴金属要素の合金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収軸受。
【請求項3】
前記貴金属合金は、プラチナ、パラジウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、銀、イリジウム又はオスミウムを含むことを特徴とする、請求項2に記載の衝撃吸収軸受。
【請求項4】
前記枢動システム(126、126’)は、環状部分(126a)、中心部分(126b)、及び、前記中心部分(126b)を前記環状部分(126a)に接続する弾性アーム(126d)を含むディスクであり、前記中心部分(126b)は凹部(126c)を含み、これにより、その中に係合されているピボット(122)が、その中で自由に枢動できることを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収軸受。
【請求項5】
前記凹部(126c)は、端部に丸い凸部を有する円筒部分からなることを特徴とする、請求項4に記載の衝撃吸収軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計のホイールセットのアーバのための、衝撃吸収軸受に関する。アーバは、ピボット用に延伸する枢軸を備え、軸受は、支持体を含み、上記支持体は、枢軸が挿入されている、吊り下げられた枢動システムを受容するための凹部を備える。
【0002】
本発明の技術分野は、精密機械の技術分野である。
【背景技術】
【0003】
本発明は、時計用の軸受に関し、より詳細には、衝撃吸収タイプの軸受に関する。長い間、機械式時計の設計者は、アーバが貫通するベースブロックの孔の壁に対してアーバを当接させることにより、バネの作用でその静止位置へと戻る前に枢軸が一時的に動くことができるようにしておきながら、衝撃、特に横方向の衝撃に起因するエネルギを吸収するための数多くのデバイスを考案してきた。
【0004】
図1及び2は、市場で見られる時計で従来使用されている、二重反転コーンデバイスと呼ばれる装置を例示している。
【0005】
支持体1は、そのベースに枢軸3aを終端とするテンプ軸3のための孔2を備え、これによって、設定用部品20を位置決めすることができ、この設定用部品20内には、枢軸3aに貫通される孔の開いた石4と、終端石5とが固定されている。設定用部品20は、バネ10で支持体1の凹部6に保持されており、この例では、バネ10は、終端石5を圧迫する径方向の伸張9を含む。凹部6は、反転したコーンの形状の2つの肩部7、7aを含み、これらの上に、設定用部品20の相補的な肩部8、8aを静置する。上記肩部7、7aは、高い精度で作製しなければならない。軸方向の衝撃を受けた場合、孔の開いた宝石4、終端石5及びテンプ軸3は動き、バネ10は単独で、テンプ軸3を初期位置に戻すよう作用する。バネ10は、動きの限界が最大になるようサイズ決めされており、これにより、この最大の限界を超えると、テンプ軸3は、停止部材と接触し、この停止部材は、軸3の枢軸3aが破損を免れない衝撃を、上記軸3が吸収できるようにする。横方向の衝撃の場合、即ち、枢軸の終端が設定用部品20のバランスを狂わせ、その静置平面からずらしてしまう場合、バネ10は相補的な傾きを有する平面7、7a;8、8aと恊働して、設定用部品20を再びセンタリングする。これらの軸受は、例えばIncabloc(登録商標)の商標で販売されてきた。これらのバネは、フィノックス又は真鍮で作製してよく、従来のカッティング手段で製造される。
【0006】
バネ、孔の開いた宝石及び終端石がその内部でユニットを形成する衝撃吸収軸受も、公知である。これらの衝撃吸収軸受の利点は、これらが比較的高価でない点である。
【0007】
特許文献1は、ブリッジ又はプレート内に打ち込まれるようになっている環状の本体を備える衝撃吸収軸受を開示している。円錐形の凹部を形成するよう成形されたバネを、本体に固定する。この凹部は、円錐形のテンプ枢軸が内側に係合されるカップ軸受を形成する。この設計では、金属上で金属が枢動すると有意な摩擦が生じるため、枢動の状態はそれほど好ましいものではない。更に、特許文献1による、円錐形のピボットを有するカップ軸受は、テンプの位置決めが不正確であるため、高品質な時計で使用するには不適である。
【0008】
そして、これらの衝撃吸収軸受に使用するバネは、結晶性金属で作製される。これらのバネに結晶性金属を使用すると、ある問題を引き起こすことがある。実際、結晶性金属は、機械的特性が弱いことを特徴としており、例えば弾性変形が制限されており、これは、衝撃が大きすぎる場合に塑性変形を引き起こし得る。従来使用されているバネは複雑な形状で考案することができず、結果として、従来のバネの弾性変形は弾性限界に非常に近い、という事実が、これをなお悪化させている。
【0009】
したがって、時計に大きすぎる衝撃が加わる場合、宝石及びテンプの動きは程度の大きいものになり得、その結果、バネの塑性変形、即ち恒久的な変形が起こり得る。バネがもはや本来の形状に戻らず、従って弾性を失ってしまうため、衝撃を吸収する、及びテンプ軸を静止位置に再びセンタリングするに際して、バネの効率は低下する。。
【0010】
この恒久的な変形は、上記バネを実装するために取り扱っている時、及び上記バネを潤滑のために、又は仕上げ動作若しくはアフターサービス動作において、除去する時にも起こり得る。
【0011】
バネ、孔の開いた宝石及び終端石がその内部でユニットを形成する衝撃吸収軸受も、公知である。これらの衝撃吸収軸受の利点は、これらが比較的高価でない点である。
【0012】
よって、特許文献1は、ブリッジ又はプレート内に打ち込まれるようになっている環状の本体を備える衝撃吸収軸受を開示している。円錐形の凹部を形成するよう成形されたバネを、本体に固定する。この凹部は、円錐形のテンプ枢軸が内側に係合されるカップ軸受を形成する。この設計では、金属上で金属が枢動すると有意な摩擦が生じるため、枢動の状態はそれほど好ましいものではない。更に、特許文献1による、円錐形のピボットを有するカップ軸受は、テンプの位置決めが不正確であるため、高品質な時計で使用するには不適である。
【0013】
その上、円錐形の凹部を形成するよう成形されたバネを使用するという事実は、軸方向の遊び又は動きに依存する径方向の遊びを有するという欠点を有する。実際、バネの円錐形状により、ホイールのアーバを通常の条件で適切に保持することができる。しかし、バネが変形すると、バネは軸方向及び径方向に動く。バネが軸方向に動くと、バネの円錐形状は、径方向の動きの存在にも関わる。ここで、軸方向の動きが大きいほど、径方向の動きも大きくなることに留意すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第3942848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、衝撃への耐性が向上し、かつ、制振ホイールのアーバのより良い位置決めを可能にする、時計の耐衝撃システムを提供することを提案することで、先行技術の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明は上述の時計の耐衝撃システムに関し、この耐衝撃システムは、上記枢動システムが、時計のホイールセットに働く衝撃を少なくとも部分的に吸収すること、及び枢動システムが、少なくとも部分的に非晶質の合金で作製された単一の部品で形成されていること、を特徴とする。
【0017】
本発明の第1の利点は、本発明によって、耐衝撃システムが、衝撃によりよく耐えることができるようになることである。実際、非晶質金属は、より有利な弾性特徴を有する。弾性限界δeは増大し、それにより、比率δe/Eも増大し、材料が初期形状に戻ることができる負荷の限界が増大する。そして、枢動システムに、塑性変形するまでにより大きな負荷を与えることができ、従って、部品は、耐衝撃システムの効率を低下させることなく、より大きな負荷に耐えることができる。
【0018】
本発明の別の利点は、本発明によって枢動システムを作製することができることである。実際、非晶質金属が、塑性変形するまでにより高い負荷に耐えることができるため、耐性を低下させないまま、より小さな寸法を有するバネを作製することができる。
【0019】
枢動システムの有利な実施形態は、従属請求項の主題を形成する。
【0020】
第1の有利な実施形態では、上記枢動システムは、その全体が非晶質である材料で作製される。
【0021】
第2の有利な実施形態では、上記合金は、少なくとも1つの貴金属要素又は貴金属要素の合金を含む。
【0022】
第3の有利な実施形態では、上記貴金属要素は、金、プラチナ、パラジウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、銀、イリジウム又はオスミウムを含む。
【0023】
別の有利な実施形態では、上記枢動システムは、環状部分、中心部分、及び、中心部分を環状部分に接続する弾性アームを含むディスクであり、中心部分は凹部を含み、これにより、その中に係合されているピボットが、その中で自由に枢動できる。
【0024】
別の有利な実施形態では、凹部は、端部に丸い凸部を有する円筒部分からなる。
【0025】
これらの実施形態の利点の1つは、これらの実施形態により、より複雑な形状を有する枢動システムを作製できることである。実際、非晶質金属は、成形が極めて容易であり、これにより、複雑な形状の部品をより高い精度で製造することができる。これは、非晶質金属の特定の特徴によるものであり、非晶質金属は、各合金に固有の所定の温度範囲[Tg−Tx]内にある一定の時間だけ、非晶質のままで軟化することができる。よって、合金の粘度は、上記温度範囲[Tg−Tx]で急峻に低下するため、比較的低い負荷及び低い温度で非晶質金属を成形することができ、これによって、熱間成形などの簡略化した方法を用いることができ、その一方で非常に正確に精密なジオメトリを再生産することができる。その結果、複雑かつ精度の高い枢動システムを、単純な方法で作製することができるようになる。
【0026】
本発明による耐衝撃システムの目的、利点及び特徴は、単なる非限定的な例として挙げ、かつ添付の図面に図示した、本発明の少なくとも1つの実施形態の以下の詳細な記載に、より明確に表れるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、先行技術による時計の耐衝撃システムの概略図である。
図2図2は、先行技術による時計の耐衝撃システムの概略図である。
図3図3は、本発明による時計の耐衝撃システムの概略図である。
図4図4は、本発明による時計の耐衝撃システムの概略図である。
図5図5は、本発明による時計の耐衝撃システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、改良された信頼性を有する衝撃吸収システムを提供することと、少なくとも部分的に非晶質の合金を用いて、改良された位置決めを提示することとからなる、一般的な発明的思想に由来するものである。
【0029】
衝撃吸収装置101、102を図3に示し、図3は、本発明による軸受を備える時計の一部100を例示している。
【0030】
図3に示す時計は、支持体103を備えるフレームを含み、この支持体103には、底部軸受101及び上部軸受102が設置されている。これらの軸受101、102を、上記支持体103に作製した孔に設置する。例えばテンプであってよいホイール105を、軸受101、102に枢動可能に設置する。このホイール105は、ピボット122を担持する枢軸121の両端に備えられたアーバ120を含む。
【0031】
上部軸受102は、周壁128を有するディスクの形状をとる環状部分127を含む。この環状部分127はまた、ディスクの表面に配置され、かつ上記壁128と連続しているリム129も含む。環状部分127には、中心孔130が開いている。軸受102は更に、周壁128及びリム129で形成した凹部に配設される枢動手段126’を含む。枢動手段126’はリム129の周縁部に位置し、それにより枢動手段126’は吊り下げられている。この枢動手段126’は例えば、環状部分127に強く係合又は接着されてよい。
【0032】
底部軸受101は上部軸受102と同一の設計であり、即ち、底部軸受101は、周壁を有するディスクの形状をとる環状部分124を含む。この環状部分124はまた、ディスクの表面に配置され、かつ上記壁と連続しているリムも含む。環状部分124には、中心孔125が開いている。軸受102は更に、周壁及びリムで形成した凹部に配設される枢動手段126を含む。この枢動手段126は例えば、環状部分124に強く係合又は接着されてよい。この例では、底部軸受101の寸法は上部軸受102の寸法より小さく、これにより、軸受のサイズを容易に調節することができ、ここでは例えば軸受のサイズを減少させることによって、軸受のサイズを要件に適合させることができる。勿論、上部軸受102と底部軸受101の寸法は同一でよい。
【0033】
しかし、底部軸受101又は上部軸受102は、枢動手段126,126’を支持体103に直接打ち込むように配設してよい。上記軸受101、102は更に、リングの形状をとり、枢動手段126、126’を保持するために使用される部品200と、周縁部のリム202を有し、中心に孔125、130が開いたディスクの形状をとる部品201とを含む。この孔の開いたディスク部品201は、停止部材としての役割を果たすために使用され、部品201のリム202は、吊り下げられたシステムを提供するために使用される。よって、枢動手段126、126’は、支持体103に作製した孔の壁で径方向に保持され、環状部分200とディスク部品201で軸方向に保持される。
【0034】
図4に示す枢動手段126、126’は、全環部分126a円筒形のめくら凹部126cを有する中心部分126b、及び弾性アーム126dを備えるディスクの形状をとる。めくら円筒凹部126cの直径を、凹部126c内に係合しているピボット122が、その中で、隙間が最小の状態で自由に枢動できるように選択する。アーム126dは、ゼンマイ状に巻かれ、これにより、アーム126dは中心部分126bを環状部分126aに接続する。好ましくは、枢動手段126、126’は3つのアームを有する。上部軸受102の枢動手段126’は、上記上部軸受102の環状部分127に設置される。底部103の枢動手段126は、上記底部軸受103の環状部分124に設置される。そして、2つの環状部分127、124は、支持体103の孔に順に設置され、これにより、ホイール105をアーバ120上に挿入することができる。
【0035】
よって、ホイール105は、ピボット122を枢動手段126、126’のめくら円筒凹部126c内に契合することにより、及び、枢軸121を支持体103に設けられた領域に係合することにより、枢動可能に設置される。
【0036】
衝撃を受けると、ホイール105は、受ける加速に比例する力にさらされる。この力は、ピボット122を介して軸受102、103に伝達される。この力の効果は、ホイール105のアーバ120が、環状部分127、124の孔の壁に対して、枢軸121を介してもたれかかるまで、枢動手段126、126’の弾性アーム126dを変形させることである。こうして、ホイール105は停止し、ピボット122より格段に大きな寸法を有するアーバ120の一部分でロックされ、そして、枢軸121に損傷を与えるのを回避する。この部分がピボット122より格段に大きな寸法を有するため、この部分は、ホイールセットにとって有害ないかなる結果も生まずに、非常に大きな負荷に耐えることができる。
【0037】
好ましくは、弾性アーム126dは、加速が約500gに達した場合に、枢軸121が環状部分と接触するようにサイズ決めされる。
【0038】
好ましくは、枢動手段126、126’は、3つの湾曲したアーム126dで形成され、それぞれ環状部分126a、中心部分126bに対するこれらの接着地点は、120°の角度をつけてずらされている。アームの本数が異なっても、又は他の形状でも、弾性機能が確保され得ることは明らかである。
【0039】
枢動手段126、126’が円錐形の凹部を含むようにすることもでき、枢軸121の端部をそこに挿入し、これによって、時計の異なる位置間の振幅の差を最小まで減少させることができる。この円錐形の凹部は、欧州特許第2142965号から公知であり、端部に丸い凸部を有する台形又は円筒部分からなる。
【0040】
有利には、枢動手段126、126’を、非晶質又は少なくとも部分的に非晶質の金属で作製する。特に、少なくとも1つの金属要素を含む材料を使用する。好ましくは、この材料は、少なくとも部分的に非晶質か、又はその全体が非晶質の合金である。「少なくとも部分的に非晶質の材料」とは、この材料が少なくとも部分的に、非晶質相で固体化できる、即ち、少なくとも部分的に、いかなる局所的な結晶構造も失うことができることを意味する。
【0041】
実際、これらの非晶質合金の利点は、製造中、非晶質材料を形成する原子が、結晶性材料の場合のような特定の構造をとらないことに起因する。よって、結晶性金属のヤング率Eと、非晶質金属のヤング率Eとが同一であっても、弾性限界δeは異なる。従って、非晶質金属は、結晶性金属より約2〜3倍高い弾性限界δeを有するという点で異なる。これは、非晶質金属が、弾性限界δeに達するまでに、より高い負荷に耐えることができることを意味する。
【0042】
これらの枢動手段126、126’は、結晶性金属製の同じものと比較して、より高い耐性と長寿命を有するという利点を有する。
【0043】
更に、非晶質金属の弾性限界が、結晶性金属の弾性限界の約2〜3倍高く、これにより、上記金属がより高い負荷耐えることができるため、上記枢動手段126、126’の寸法を削減することを想定することができる。実際、非晶質金属で作製された、耐衝撃システムの枢動手段126、126’は、塑性変形することなくより高い負荷に耐えることができるため、同じ負荷において、結晶性金属の場合に比べて枢動手段126、126’の寸法を削減できる。
【0044】
これらの枢動手段126、126’を作製するために、複数の方法を想定し得る。枢動手段126、126’を、非晶質金属の特性を用いて作製することを想定することができる。実際、非晶質金属は成形が非常に容易であり、これにより、複雑な形状の部品をより高い精度で作製することができる。これは、非晶質金属の特定の特徴によるものであり、非晶質金属は、各合金に固有の所定の温度範囲[[Tg−Tx]内にある一定の時間だけ、非晶質のままで軟化することができる(例えばZr41.24Ti13.77Cu12.7Ni10Be22.6合金ではTg=350℃、Tx=460℃)。従って、比較的低い負荷及び低い温度で非晶質金属を成形することができ、これによって、熱間成形などの簡略化した方法を用いることができる。また、合金の粘度は、上記温度範囲[Tg−Tx]で急峻に低下し、よって、合金は雌型の隅々にまで適合するため、このタイプの材料を使用すると、非常に正確に精密なジオメトリを再生産することもできる。例えば、プラチナベースの材料では、成形は、温度Tgにおける粘度1012Pa.sの代わりに、約300℃、圧力1MPaで最高103Pa.sの粘度で行われる。
【0045】
使用する方法は、非晶質予備成形品の熱間成形である。この予備成形品は、炉内で金属要素を溶融して非晶質合金を形成することにより得る。この溶融は、酸素による合金の汚染の可能性をできる限り低くするために、制御された大気中で行う。これらの要素が溶融したら、これらを半完成品の形状に鋳造し、続いて急速に冷却して、少なくも部分的に非晶質の状態又は相を保つ。予備成型品が得られたら、熱間成形を実施して、完成品を得る。この熱間成形は、全体的に又は部分的に非晶質の構造を保つために、非晶質材料のガラス転移温度Tgと上記非晶質材料の結晶化温度Txの間に含まれる温度範囲内で、所定の時間だけ圧力を加えることによって達成される。その目的は、非晶質金属の特徴的な弾性特性を保つことである。よって、枢動手段126、126’の様々な最終成形ステップは、以下の通りである:
a)枢動手段126、126’の雌型の形状を有する鋳型のダイを、選択された温度で加熱するステップ。
b)熱いダイの間に、非晶質金属の予備成形品を挿入するステップ。
c)ダイに閉鎖するための力を印加し、上記ダイのジオメトリを非晶質金属の予備成形品に複製するステップ。
d)選択された最長時間だけ待つステップ。
e)材料が少なくとも部分的に非晶質の相を維持するように、バネをTg未満にまで急速に冷却するステップ。
f)ダイを開けるステップ。
g)枢動手段126、126’を、ダイから除去するステップ。
【0046】
従って、非晶質金属又は合金の熱間成形によって、複雑かつ精度の高い部品を製造できるだけでなく、部品の高い再生産性も達成でき、これは、例えば、制振システムの枢動手段126、126’の大量生産において重要な利点である。
【0047】
本方法の代替形態によると、鋳造を用いる。この方法は、金属要素を溶融して得た合金を、完成部品の形状を有する鋳型に流し込むことからなる。鋳型が充填されると、合金が結晶化するのを防いで、非晶質又は部分的に非晶質の金属の枢動手段126、126’を得るために、鋳型を、Tg未満の温度まで急速に冷却する。結晶性金属を流し込むことに比べて、非晶質金属を流し込むことが有利なのは、その方が精度が高いからである。固体化時の収縮は、結晶性金属の場合の5〜7%に比べて、非晶質金属では極めて小さく、1%未満である。
【0048】
よって、非晶質金属に対して用いる方法により、精度の高い部品を製造することができ、これは、より小さい寸法の枢動手段を作製するにあたって有利である。この精度と本方法の極めて高い再生産性とを組み合わせると、部品の大量生産が容易となる。
【0049】
当業者に明らかである様々な変形及び/又は改良及び/又は組み合わせは、添付の請求項に定義した本発明の範囲から逸脱することなく、上に記載した本発明の様々な実施形態となり得ることは、明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5