特許第5657246号(P5657246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5657246
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】機械加工用の光学部品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/11 20150101AFI20141225BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20141225BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   G02B1/10 A
   C23C14/06 P
   C03C17/34 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-292194(P2009-292194)
(22)【出願日】2009年12月24日
(65)【公開番号】特開2011-133627(P2011-133627A)
(43)【公開日】2011年7月7日
【審査請求日】2012年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(72)【発明者】
【氏名】石田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】湖東 雅弘
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−055207(JP,A)
【文献】 特開昭61−196201(JP,A)
【文献】 特開2009−271439(JP,A)
【文献】 特開2001−281442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 − 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバで心線が構成されたケーブルと、
前記ケーブルの端部に設けられたコネクタと、
を備え、
前記コネクタの内部に、前記光ファイバの先端が突き出した状態で保持され、
前記コネクタに設置されたガラスにより、前記光ファイバの先端が覆われていて、
前記ガラスを介して前記光ファイバの先端へ高出力レーザーが入射又は出射する機械加工用の光学部品であって、
前記ガラス及び前記光ファイバの先端のうち、少なくともいずれか一つの光学基材の表面に、3層構造の反射防止膜が設けられ、
前記反射防止膜は、
上記光学基材の上にTaを用いて形成される膜厚が30〜50nmの下層と、
上記下層の上にAlを用いて形成される膜厚が10〜100nmの中間層と、
上記中間層の上にSiOを用いて形成される膜厚が150〜250nmの上層と、
を有し、
前記反射防止膜の全膜厚は、295nm以下に設計されており、
前記高出力レーザーのエネルギー値が、少なくとも20J/cm以上である機械加工用の光学部品。
【請求項2】
請求項1に記載の機械加工用の光学部品において、
上記中間層の膜厚が、30nm以下に設定されている機械加工用の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜に関し、その中でも特に高出力レーザに好適な反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチック等の光を透過させる光学部品に出入りする光は、その表面で光の一部が反射されるため、光透過率が低下する。従って、従来より、光透過率を高めるために、多くの光学部品の光入射面や光出射面には反射防止膜が設けられている。反射防止膜を形成する上で、その低反射性を確保するためには所定の条件を満たす必要がある。
【0003】
例えば、空気(媒質)中に存在する光学部品の基材上に1層(単層)の反射防止膜を形成する場合には、次の条件を満たす必要がある。
【0004】
=N・N
(N:反射防止膜の屈折率、N:媒質の屈折率、N:基材の屈折率)
仮に、基材が、二酸化ケイ素(SiO、屈折率:約1.44)を主成分とする石英ガラスや光ファイバであるとすると、空気の屈折率は約1.00であるため、反射防止膜の屈折率は約1.20であることが必要になる。
【0005】
ところが、二酸化ケイ素を含め、反射防止膜に用いられる一般的な材料の中には、この条件を満たす適切な材料が認められない。そのため、このような場合には、複数の素材を積層することによって条件を満たす多層の反射防止膜を形成する場合が多い。
【0006】
本発明に関し、例えば、Nd:YAGからなる基板に対し、SiOからなる内外層の間に、AlやTaなどからなる中間層が設けられた3層構造の反射防止膜が開示されている(特許文献1)。
【0007】
SiOやAl、Taなどが用いられた多層構造の反射防止膜も開示されている(特許文献2)。但し、この反射防止膜には、レーザ耐性等を向上させるために、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)を主成分とする層が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−38885号公報
【特許文献2】特開2004−287274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、様々な分野で高出力レーザーの性能向上の要求が高まっている。高出力レーザーの性能が向上すると、出力されるエネルギーがよりいっそう高くなるために、その光学部品で使用される反射防止膜は、熱等による損傷を受け易く、高い光透過率だけでなく、高いレーザー耐性も求められる。特に、高出力レーザーが高頻度で出力される場合には、反射防止膜が高温に曝されるため、その対策が必要になる。
【0010】
レーザー耐性の高い反射防止膜材料としては、例えば、二酸化ケイ素や酸化アルミニウム(Al)がある。特許文献1では、これらのみを用いて3層構造の反射防止膜が形成されているが、それは、屈折率の高いNd:YAG基板(屈折率:約1.82)が基材に用いられているからである。
【0011】
二酸化ケイ素を主成分とする石英ガラス等が基材である場合には、屈折率が低いため、そのような構成では、例えば、反射率が0.25%以下となる低反射性の反射防止膜は設計できない。二酸化ケイ素と酸化アルミニウムだけを用いて石英ガラス等に低反射性の反射防止膜を形成するには、通常、4層以上の多層構造が必要になる。
【0012】
ところが、反射防止膜を多層構造にした場合、層数が多くなればなるほどレーザー耐性が低下するという問題がある。層数が多くなると、各層間の界面の数が増えるため、また、全体の膜厚が大きくなって不純物の影響を受け易くなるため、反射防止膜にレーザーのエネルギーが作用し易くなることが原因と推測される。
【0013】
そこで、本出願人は、レーザー耐性を向上させるべく、かかる観点に基づいて所定の材料で形成した2層構造の反射防止膜を先に提案している(特願2008−123808号)。具体的には、Ta等の高屈折率層と、その上に形成されたSiOの低屈折率層とで反射防止膜を形成している。
【0014】
この2層構造の反射防止膜でも、低反射性を確保しながらレーザー耐性を向上させることができる。しかし、反射防止膜材料の組み合わせが限られるため、より高度なレーザー耐性が求められる場合に、その要求を満たすのは難しい。
【0015】
そこで、本発明の目的は、低反射性を確保しながら、より高度なレベルにまでレーザー耐性を向上させることができる反射防止膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明では、反射防止膜を3層構造にし、間に熱伝導性に優れた中間層を設けた。
【0017】
具体的には、本発明の反射防止膜は、SiOを主成分とする光学基材の上に形成される3層構造の反射防止膜であって、上記光学基材の上に形成される下層と、上記下層の上に形成される中間層と、上記中間層の上に形成される上層と、を有し、上記中間層がAlを用いて形成されている。
【0018】
かかる構成の反射防止膜によれば、中間層に熱伝導性に優れたAlが設けられているので、反射防止膜に高出力レーザーが作用してその一部に熱が集中しても、その熱を周りに効率よく分散させることができる。特に、連続的に高出力レーザーが照射される場合に、熱の集中を効果的に緩和できるため、高度なレーザー耐性を実現できる。
【0019】
具体的には、上記下層はTaを用いて形成し、上記上層はSiOを用いて形成することができる。特に、上記中間層の膜厚は、100nm以下に設定するのが好ましい。
【0020】
そうすれば、低反射性、レーザー耐性に優れた反射防止膜を実現することができる。上層に硬度の高いSiOが用いられているので、反射防止膜の耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の反射防止膜によれば、低反射性を確保しながら、より高度なレベルにまでレーザー耐性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態の反射防止膜を適用した光学部品を示す概略断面図である。
図2】反射防止膜の概略断面図である。
図3】レーザー耐性試験を説明するための図である。
図4】実施例及び比較例のレーザー耐性試験結果を示すグラフである。
図5】実施例及び比較例のレーザー耐性試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。なお、本実施形態の光学部品の名称「レーザーガイド」は登録商標である。
【0024】
図1に、本実施形態の反射防止膜4を適用したレーザーガイド1(光学部品)を示す。このレーザーガイド1は、溶接や切断などの機械加工用に用いられるNd:YAGレーザシステム用のレーザーガイドであり、光源から出力される高出力のレーザ光線(基本波長1064nm)を伝送するために用いられる。同図は、そのレーザーガイド1の端部を表したものであり、この端部からレーザー光線が入射あるいは出射される。
【0025】
レーザーガイド1は、ケーブル2と、ケーブル2の両端部に設けられるコネクタ3などで構成されている。
【0026】
ケーブル2は、心線である光ファイバ2a(光学基材)と、光ファイバ2aを被覆するチューブ2bとで構成されている。ケーブル2の各端部は、チューブ2bが所定長剥がされて光ファイバ2aが剥き出した状態に加工されている。
【0027】
コネクタ3は、略円柱状のコネクタ本体31と、コネクタ本体31の一端(接続端ともいう)に被せるように設けられるキャップ32とを備えている。コネクタ本体31には、その軸方向に貫通する装着孔31aが形成されている。コネクタ本体31の他端には、ケーブル2の端部を受け入れる受入口31bが形成されていて、この受入口31bは装着孔31aと連通している。装着孔31aの接続端側の開口部分には、円筒状のサファイアチップ33がコネクタ本体31と同軸に設けられている。サファイアチップ33の接続端側の端面には高反射膜34が設けられている。
【0028】
コネクタ本体31の装着孔31aに、受入口31bからケーブル2の端部が挿入され、ケーブル2の端部は樹脂でコネクタ本体31に埋設固定されている。剥き出し状態の光ファイバ2aは、サファイアチップ33に挿入され、その先端がサファイアチップ33の接続端側に突き出した状態で保持されている。
【0029】
キャップ32は、円筒状のカバー32aと、このカバー32aの一端の開口を塞ぐ石英ガラス32b(光学基材)とを有し、有底円筒状の外観を呈している。キャップ32は、その開口側からコネクタ本体31の接続端に装着され、剥き出し状態の光ファイバ2aの先端を覆っている。その光ファイバ2aの先端からレーザー光線が石英ガラス32bを介して入射あるいは出射することにより、レーザー光線が伝送される。
【0030】
高エネルギーのレーザー光線が入射あるいは出射する、石英ガラス32bの両面及び光ファイバ2aの先端には、それぞれの表面を被覆するように反射防止膜4が設けられている。
【0031】
反射防止膜4が設けられる石英ガラス32bや光ファイバ2aは、いずれも二酸化ケイ素(SiO)が主成分であるため、その屈折率は約1.44である。一般に反射防止膜4に用いられている材料と比べると、石英ガラス32b等の屈折率は低い値となっている。このように基材の屈折率が低いと、反射率が0.25%以下の低反射性の反射防止膜4を設計する場合には、材料や構造が限られてしまうため、膜設計が難しい。
【0032】
しかも、用いられるレーザーの出力が高い場合には、熱等による損傷を受け易く、高いレーザー耐性が求められる。特に、レーザーが高頻度で連続的に出力される場合には、熱の影響を受け易く、その対策が必要である。
【0033】
そのため、単層の構成では適切な材料が見当たらないし、比較的レーザー耐性に優れた反射防止膜材料である二酸化ケイ素や酸化アルミニウムだけを用いて低反射性の反射防止膜4を形成すると、4層以上の多層構造が必要になる。しかし、反射防止膜4を多層構造にするとレーザー耐性が低下するため、これら材料の特性を活かすことができない。
【0034】
そこで、本実施形態では、高屈折率の下層41と低屈折率の上層43との間に、熱伝導性に優れた中間層42を設け、3層構造の反射防止膜4とした。そうすることで、低反射性を確保しながら、高度なレベルのレーザー耐性を実現することができる。
【0035】
図2に、その反射防止膜4の断面構造を示す。反射防止膜4は3層構造であり、石英ガラス32bや光ファイバ2aの上に形成される下層41と、その上に形成される中間層42と、更にその上に形成される上層43とを有している。下層41は酸化タンタル(Ta)、中間層42は酸化アルミニウム(Al)、上層43は二酸化ケイ素(SiO)を材料に用いてそれぞれ形成されている。
【0036】
下層41には、酸化タンタルに限らず、その他の高屈性材料、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化イットリウム(Y)などを用いてもよい。上層43には、二酸化ケイ素に限らず、その他の低屈性材料、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)などを用いても良い。
【0037】
中間層42に酸化アルミニウムを用いることで、レーザー耐性、特に耐熱性を向上させることができる。すなわち、酸化アルミニウムは優れた熱伝導性を有しているため、反射防止膜4に高出力レーザーが作用してその一部に熱が集中しても、その熱を周りに効率よく分散させることができる。特に、連続的に高出力レーザーが照射される場合に、一部に熱が集中するのを効果的に緩和できるため、高出力レーザーの連続使用に対して有効であり、高度なレーザー耐性を実現できる。
【0038】
上層43に二酸化ケイ素を用いることで、製造が容易になり、生産性に優れる。また、二酸化ケイ素は、硬度が高く、保護機能に優れるため、反射防止膜4の耐久性も向上する。
【0039】
下層41の膜厚は、例えば30〜50nm程度、中間層42の膜厚は、例えば10〜100nm程度、上層43の膜厚は、例えば150〜250nm程度の範囲において設計することができる。各層の膜厚の組み合わせは、求める反射率や、用いるレーザー光線の波長等に応じて適宜設計すればよい。例えば、本実施形態であれば、レーザー光線(基本波長1064nm)に合わせて反射率が0.25%以下となるように設計すればよい。
【0040】
但し、全膜厚は、310nmを超えないように設計するのが好ましい。310nm以下であれば、不純物の影響を軽減することができ、高度なレーザー耐性を得ることができる。また、中間層42の膜厚は、少なくとも100nm以下が好ましく、薄い方がより好ましい。そうすることで、低反射性を確保しながら、高度なレーザー耐性を得ることができる。
【0041】
反射防止膜4が設けられる石英ガラス32b等の部分は、例えば、面積が0.008〜8000mmであり、平面や曲面に加工されている。また、この部分は、例えば、スパッタやイオンクリーニング等の方法でエッチング等の処理が行われている場合もある。エッチングを行った場合の表面粗さは、例えば5〜10Årmsである。
【0042】
このような反射防止膜4は、例えば、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング蒸着法、ゾルゲル法等の従来の方法を用いて成膜することができる。
【0043】
(実施例)
本実施形態の反射防止膜4に関して、レーザー耐性について評価試験を行った。
【0044】
[試料]
評価試験に用いる各試料の作製に当たっては、基材に石英ガラスを用い、基本波長1064nmのレーザー光線に対して0.25%の反射率が得られる膜設計を基本条件とした。この基本条件を満たすように各膜厚を調整しながら、中間層42の膜厚を変えて5種類の反射防止膜を作製した(実施例1〜実施例5)。これら実施例1〜5の膜構成を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
比較対象として、実施例と同じ基本条件の下で二酸化ケイ素と酸化アルミニウムだけを用いて4層構造の反射防止膜を作製した(比較例1)。比較例1の反射防止膜は、基材側から順に、酸化アルミニウムの第1層、二酸化ケイ素の第2層、酸化アルミニウムの第3層、二酸化ケイ素の第4層で構成されている。比較例1の膜構成は表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
[レーザー耐久試験]
この種の光学薄膜に対するレーザー耐性の試験方法としては、試料の1ヶ所にレーザーを1回照射して損傷が発生する最小のエネルギー値を求める試験(1−on−1試験)や、試料の複数ヶ所の各々にレーザーを複数回照射して損傷の有無を調べ、確率的に損傷の発生しないエネルギー値を求める試験がある(ISO 11254)。例えば、100回照射する場合は100−on−1試験と呼ばれる。
【0049】
上述したレーザーガイド1のように、レーザーが連続的に作用する場合には、後者の試験の方が実情に近いことから、本試験では、各試料の10ヶ所の各々にレーザーを6000回照射して損傷の有無を調べる試験を行った(6000−on−1試験)。
【0050】
詳しくは、図3に示すように、各試料の反射防止膜の形成面50における任意の照射部位50aの10ヶ所のそれぞれに、10分程度の時間で6000回、同じエネルギー値(J/cm)のレーザーLを照射した。エネルギー値を変えて同様のレーザー照射を連続的に複数行った。照射するレーザーLの光源には、パルス幅が約20nsのQスイッチYAGレーザーを使用した。
【0051】
図4に、その試験結果を表したグラフを示す。同図中、縦軸は損傷確率(%)であり、横軸はレーザのエネルギー値(J/cm)である。同図に示すように、実施例1〜5はいずれも、比較例1に比べて高いレーザー耐性が認められた。
【0052】
例えば、比較例1では、約25J/cmのエネルギー値の段階で損傷確率が10%となり、40J/cmを超えた時点で損傷確率が100%に達しているのに対し、実施例1では、40J/cmでも損傷は認められず、60J/cmに達した時点で損傷確率が100%となっている。実施例の中で最もレーザー耐性が低くかった実施例5と比べても、実施例5では、30J/cm辺りに達して10%程度の損傷が認められたのに対し、比較例1では同程度のエネルギー値で既に70%を超える損傷が認められた。これら結果の相違は、各実施例は比較例1に比べて層数が少なくなり、界面数や全膜厚が小さくなったことが影響しているものと推測される。
【0053】
この結果を踏まえ、実施例1〜5の膜厚構成に基づいて判断すると、中間層42は100nm以下に設計するのが好ましく、全膜厚は310nm以下に設計するのが好ましいということがわかる。そうすれば、低反射性を確保しながら、レーザー耐性を向上させることができる。
【0054】
特に、実施例1、2は、実施例3〜5と比べて更に高いレーザー耐性が認められた。これは、実施例1,2は、実施例3〜5と比べて更に全膜厚が小さいことが影響しているものと推測される。また、中間層42は、薄くても十分にその熱伝導性能が発揮できていることから、30nm以下であってもよく、反射防止膜の全膜厚は295nm以下に設計するのがより好ましい。
【0055】
図5に、実施例1について、2層構造の反射防止膜(本出願人が先に提案した反射防止膜、比較例2)とレーザー耐性を比較した結果を示す。比較例2も各実施例と同じ基本条件の下で作製し、その下層41及び上層43には実施例と同じ材料を用いた。比較例2は、中間層42が設けられていない点で実施例1と大きく異なっている。比較例2の反射防止膜の膜構成は表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
同図に示すように、損傷確率が0%となる損傷しきい値については、実施例1と比較例2とで同じ結果(40J/cm)となった。しかし、照射されるレーザー光線のエネルギー値が大きくなると、実施例1の方が比較例2に比べて、損傷確率が小さくなる傾向が認められた。特に、エネルギー値が高い場合に、実施例1の方がレーザー耐性に優れることが確認された。これは、熱伝導性に優れた酸化アルミニウムの中間層42を設けることにより、反射防止膜の熱集中が緩和されたためと推測される。
【0058】
本試験では、高出力レーザーの光源に、断続的に照射するタイプのレーザーを使用した。従って、上記結果は、高出力レーザーの中では比較的熱的影響が小さい場合での結果であり、CWレーザーのように、連続的に照射するタイプのレーザーに対して本発明の反射防止膜を適用した場合には、よりいっそう効果的であると推測される。
【符号の説明】
【0061】
2a 光ファイバ(光学基材)
4 反射防止膜
32b 石英ガラス(光学基材)
41 下層
42 中間層
43 上層
図1
図2
図3
図4
図5