(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5657435
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】薄膜試料作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20141225BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20141225BHJP
H01J 37/31 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
G01N1/28 G
G01N1/32 B
H01J37/31
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-56059(P2011-56059)
(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公開番号】特開2012-193962(P2012-193962A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2013年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 直哉
【審査官】
▲高▼見 重雄
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4486462(JP,B2)
【文献】
特開2009−025133(JP,A)
【文献】
特開平11−248609(JP,A)
【文献】
特開平11−354058(JP,A)
【文献】
特開2004−245841(JP,A)
【文献】
特開2005−091094(JP,A)
【文献】
特開2006−300759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
H01J 37/00−37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料素材上にイオンビーム非照射面とその周囲にイオンビーム照射面を形成するための
遮蔽材を前記試料素材上に配置し、該遮蔽材の上方から該遮蔽材と前記試料素材にイオン
ビームを照射し、前記イオンビーム非照射面をイオンミリングせずに残して、その周囲の
イオンビーム照射面をイオンミリングするようにした試料作製方法であって、前記イオン
ビーム非照射面から下方に向かうに従って薄くなり、最終的に貫通孔が開いた試料が出来
る様に、前記イオンビームの照射方向をそれぞれ設定して前記遮蔽材と試料素材に向けて
異なる方向からイオンビームを照射する様に成すと共に、作製しようとする薄膜の面に直
交する軸、又は、該軸に平行な軸を中心として前記試料素材を傾斜させながらイオンビー
ムを試料素材に照射する様にし、前記イオンビーム非照射面の下方の試料素材部分に貫通
孔が開いたら試料素材へのイオンビーム照射を停止する様にした薄膜試料作製方法におい
て、前記試料素材の傾斜において、少なくても1つの傾斜角で該試料素材を一時停止させ
る様に成した事を特徴とする薄膜試料作製方法。
【請求項2】
試料素材上にイオンビーム非照射面とその周囲にイオンビーム照射面を形成するための
遮蔽材を前記試料素材上に配置し、該遮蔽材の上方から該遮蔽材と前記試料素材にイオン
ビームを照射し、前記イオンビーム非照射面をイオンミリングせずに残して、その周囲の
イオンビーム照射面をイオンミリングするようにした試料作製方法であって、前記イオン
ビーム非照射面から下方に向かうに従って薄くなり、最終的に貫通孔が開いた試料が出来
る様に、前記イオンビームの照射方向をそれぞれ設定して前記遮蔽材と試料素材に向けて
異なる方向からイオンビームを照射する様に成すと共に、作製しようとする薄膜の面に直
交する軸、又は、該軸に平行な軸を中心として前記試料素材を所定の速度で傾斜させなが
らイオンビームを試料素材に照射する様にし、前記イオンビーム非照射面の下方の試料素
材部分に貫通孔が開いたら試料素材へのイオンビーム照射を停止する様にした薄膜試料作
製方法において、前記試料素材の傾斜において、前記所定の速度で変化している傾斜角の
少なくと
も1箇所の僅かな傾斜角範囲において極めて低速度で試料素材を傾斜させる様に
成した事を特徴とする薄膜試料作製方法。
【請求項3】
前記遮蔽材はベルト状に形成されたものである事を特徴とする請求項1又は2記載の薄
膜試料作製方法。
【請求項4】
前記試料素材と遮蔽材を一緒に傾斜させる様に成した事を特徴とする請求項1又は2記
載の薄膜試料作製方法。
【請求項5】
前記試料素材の傾斜において、二箇所の最大の傾斜角でそれぞれ該試料素材を一時停止さ
せる様に成した事を特徴とする請求項1記載の薄膜試料作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡などで観察される薄膜試料を作製するための薄膜試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡等で観察される薄膜試料を作製する方法として、試料上に遮蔽材を配置し、該遮蔽材の上方から該遮蔽材と試料にイオンビームを照射し、該遮蔽材で遮蔽されなかった試料部分をイオンミリングすることにより、電子線が透過出来る薄膜試料を形成する方法がある。
【0003】
図1及び
図2は、この様な薄膜試料作製方法を実施するための薄膜試料作製装置の一概略例を示したもので、
図1は薄膜試料作製装置の全体構成を示し、
図2は該薄膜試料作製装置の真空チャンバ内部の構造を示したものである。尚、
図1は
図2のYZ平面断面図を成している。
【0004】
図1において、1は真空チャンバで、該真空チャンバの内部は排気装置2によって真空排気される様に成っている。
【0005】
図中3はステージで、ステージ傾斜機構4に取り付けられている。該ステージ傾斜機構は前記真空チャンバ1に取り付けられており、前記ステージ3をY軸を中心に左右に傾斜させるためのものである。尚、該ステージにはイオンビーム通過口3aが開けられている。
【0006】
前記試料ステージ3上には試料台5が載置されており、
図2に示す様に、該試料台には切り欠き(イオンビーム通過部)5aが形成されている。又、該試料台の上面5bには、前記切り欠き5aを挟んで対向するようにガイドピン6a,6bが固定されている。
【0007】
更に、該試料台の上面5bには、4つのプーリー7a,7b,7c,7dが取付けられている。これらのプーリーの内、プーリー7a〜7cは前記試料台5の上面5bに固定されており、残りのプーリー7dは、スプリング(図示せず)で矢印Pの方向に引っ張られる様に該試料台に取り付けられている。
【0008】
これらのプーリー7a〜7d及び前記ガイドピン6a,6bには、ベルト状で且つリング状のイオンビーム遮蔽ベルト8が引っ掛けられている。この場合、前記プーリー7dは、前記した様に、矢印Pの方向にスプリングで引っ張られているので、該プーリー7dに引っ掛けられた前記遮蔽ベルト8は一周に亙って弛み無く引っ張られている。
【0009】
又、該プーリー7dは、前記試料台5に組み込まれたモータ9の回転によって軸Qを中心として回転する様に構成されており、該プーリーの回転により、該プーリーに引っ掛けられている前記遮蔽ベルト8が移動する様に成っている。尚、前記遮蔽ベルト8は、イオンビームでミリングされ難い材料(例えば、ニッケル−リンの様な非晶質金属)で作製されている。
【0010】
図2において、10は試料素材11を保持するための試料ホルダで、前記試料台5の切り欠き5aの部分にセットされる。尚、前記試料素材11は、バルク試料から切り出されて粗研磨された直方体状のもの(例えば
図2の下方部に示す様に、縦方向の寸法d1が700μm,横方向d2の寸法が2.5mm,厚さd3の寸法が100μmのもの)で、接着剤で前記試料ホルダ10に貼り付けられている。
【0011】
この様に前記試料素材11を保持した試料ホルダ10と前記遮蔽ベルト8の前記試料台5へのセットにより、前記ガイドピン6a,6bでガイドされた該遮蔽ベルトは前記試料素材11上に垂直に立てた状態で配置されることに成る。該遮蔽ベルトは、
図1に示す様に、Z軸上に位置し、該遮蔽ベルトの右側面8aと左側面8bはZ軸に平行である。
【0012】
又、
図1に示す状態、即ち、ステージの傾斜がゼロの状態においては、前記試料素材11上に張られた遮蔽ベルト8の長手方向はX軸方向に一致している。
【0013】
一方、
図1に示す状態において、前記試料素材11の上面11aはZ軸に直交且つY軸上に位置している。
【0014】
この様な試料素材11の上面11aと前記遮蔽ベルト8の隙間は極めて小さく(例えば、10〜30μm程度)、この様に両者が近接して配置されることにより、該試料素材上には、
図1の下方部に示す様に、イオンビーム非照射面11bとその左右にイオンビーム照射面11c,11dが形成されることに成る。該イオンビーム非照射面は前記遮蔽ベルト8に覆われた試料面で、次に説明するイオン銃12からのイオンビームが照射されない面である。
【0015】
該イオン銃は、
図1に示す様に、前記真空チャンバ1の上部に取り付けられたイオン銃傾斜機構13により保持されている。該イオン銃傾斜機構は、X軸を中心として前記イオン銃12を左右に傾斜させるもの、即ち、該イオン銃をZ軸に対して−Y方向とY方向に傾斜させるものである。
【0016】
図1において14は中央制御装置で、イオン銃制御回路14a,イオン銃傾斜制御回路14b,ステージ傾斜制御回路14c,及び、イオンミリング終了判定回路14dを備えている。又、該中央制御装置は、前記イオン銃12の電源15、前記イオン銃傾斜機構13の駆動源16、前記ステージ傾斜機構4の駆動源17、及び、キーボードやマウス等から成る入力手段18に電気的に接続されている。
【0017】
更に、
図1において19はCCDカメラで、前記試料素材11のエッチング断面を−Y方向から観察するためのもので、前記真空チャン場1に取付けられており、該カメラからの映像信号は前記イオンミリング終了判定回路14dに入力される様に成っている。
【0018】
この様な構成を持つ薄膜試料作製装置によって、薄膜試料作製が次の様に行われる。
【0019】
先ず、オペレータが前記入力手段18でイオンミリング開始を指示すると、前記中央制御装置14のイオン銃傾斜制御回路14bは、前記イオン銃12を左(−Y方向)に角度θ1(例えば1.5度)傾斜させるための傾斜信号を前記傾斜駆動源16に送る。該傾斜駆動源はその傾斜信号に基づいてイオン銃傾斜機構13を傾斜させる。この結果、前記イオン銃12はZ軸に対して左に角度θ1傾斜する。
【0020】
又、同時に、前記ステージ傾斜制御回路14cは、前記ステージ3をY軸を中心として繰り返し往復傾斜(例えば、±30度の1往復傾斜で、1往復傾斜30秒)させるための傾斜信号θsを前記傾斜駆動源17に送る。該傾斜駆動源はその傾斜信号に基づいて前記ステージ傾斜機構4を傾斜させる。この結果、
図3に示す様に、前記試料素材11は前記遮蔽ベルト8と一緒に矢印Rに示す様に、繰り返し定速度で往復傾斜される。
【0021】
この時、前記イオン銃制御回路14aは、前記イオン銃12よりイオンビームIBを放出させるための信号を前記イオン銃電源15に送る。すると、該電源は前記イオン銃12の各電極間にイオンビームを放出させるための所定電圧を印加するので、
図4の(a)に示す様に、Z軸に対して左に角度θ1傾斜した前記イオン銃12からイオンビームIBが放出される。
【0022】
該イオンビームは、
図4の(a)に示す様に、前記遮蔽ベルト8の左斜め上方から該遮蔽ベルトと試料素材11に照射される。該イオンビーム照射は所定時間(例えば5分間)行われるので、前記試料素材11はY軸を中心として傾斜されながらイオンミリングされることになる。
図4の(b)はイオンミリング開始から所定時間後の試料素材11を示しており、イオンビームが照射されたイオンビーム照射面11c,11dはミリングされ、前記遮蔽ベルト8で覆われてイオンビーム照射されなかったイオンビーム非照射面11bはミリングされずにそのまま残っている。尚、前記試料素材11に対して前記遮蔽ベルト8の左斜め上方からイオンビームが照射されているので、前記イオンビーム照射面11c側がイオンビーム照射面11dよりも多くミリングされており、又、前記イオンビーム照射面11c側がイオンビーム照射面11dよりも内側(Z軸側)に深くミリングされている。
【0023】
次に、前記イオン銃傾斜制御回路14bは、前記イオン銃12を右(Y方向)に角度θ1傾斜させるための傾斜信号を前記傾斜駆動源16に送る。該傾斜駆動源はその傾斜信号に基づいてイオン銃傾斜機構13を傾斜させる。この結果、前記イオン銃12はZ軸に対して右に角度θ1傾斜する。
【0024】
該イオン銃の傾斜により、
図5の(a)に示す様に、Z軸に対して右にθ1傾斜したイオンビームIBが前記遮蔽ベルト8と試料素材11を照射する。該イオンビーム照射は所定時間(例えば5分間)行われ、前記と同様、前記試料素材11は前記遮蔽ベルト8と一緒に傾斜されながらイオンミリングされる。
図5の(b)は前記イオン銃12を右に傾斜させた状態でのイオンミリング開始から所定時間後の試料素材11を示しており、今度は、前記イオンビーム照射面11d側がイオンビーム照射面11cよりも多くミリングされており、前記遮蔽ベルト8で覆われてイオンビーム照射されなかったイオンビーム非照射面11bはミリングされずにそのまま残っている。
【0025】
以後、前記と同様にして前記イオン銃12が左右に繰り返し傾斜され、Z軸に対して左右にそれぞれθ1傾斜したイオンビームによって前記試料素材11はミリングされる。
【0026】
図6は該イオンミリングされて行く前記試料素材11を示した図で、前記
図5の(b)の後、
図6の(a)の様に該試料素材はミリングされ、該
図6の(a)の後、
図6の(b)に示す様に該試料素材はミリングされる。そして、その後、何回か前記イオン銃12が左右に傾斜されて前記試料素材11のイオンミリングが行われ、
図6の(c)に示す様に該試料素材がミリングされる。
【0027】
該
図6の(a)〜
図6の(c)に示す様に、前記試料素材11のイオンビーム非照射面11bはミリングされずに残ったままであるが、該イオンビーム非照射面の周囲の試料素材部分は徐々にミリングされ、
図6の(c)に示す様に、A部分については、イオンビーム非照射面11bから下方(−Z方向)に向かうに従って薄くなっている。
【0028】
図6の(d)は前記
図6の(c)の後、前記イオン銃12の向きが変えられて前記試料素材11に対して更にイオンビーム照射が行われている状態を示しており、
図6の(c)に示した前記試料素材11のA部分のイオンミリングが進み、該試料素材に貫通孔Hが開いている。該貫通孔Hの位置は、前記試料素材11の上面からHLの距離(例えば、300μm程度)の所である。この貫通口Hの開く位置は、前記イオン銃12の傾斜角度に密接に関係しており、前記遮蔽ベルト8と試料素材11に対してどの方向からイオンビームを照射するかにより該貫通孔の開く位置が変わる。
【0029】
図6の(e)は、
図6の(d)の試料素材11を−Y方向から(CCDカメラ19側)から見た図である。
【0030】
該CCDカメラ23は、イオンミリング開始時点から前記試料素材11を正面から撮影しており、その像信号が前記イオンミリング終了判定回路14dに送られている。
【0031】
該イオンミリング終了判定回路は該像信号に基づいて前記試料素材11の形状変化を常に監視しており、前記
図6の(d)に示した様に該試料素材に貫通孔Hが開いたことを検出すると、前記イオン銃制御回路14aにミリング終了信号を送る。
【0032】
すると、該イオン銃制御回路は、イオン照射を停止させるための信号を前記電源15に送るので、前記イオン銃12からのイオンビーム放出は停止される。
【0033】
同時に、前記イオンミリング終了判定回路14dからのイオンミリング終了信号は前記イオン銃傾斜制御回路14bとステージ傾斜制御回路14cにも送られ、それによりこれらの制御回路は傾斜停止信号をそれぞれの駆動源16,17に送るので、前記イオン銃12の傾斜とステージ3の傾斜は停止される。
【0034】
以上の様にして、
図6の(d),(e)に示す薄膜試料が出来上がる。該出来上がった試料のA部分はイオンビーム非照射面11bから下方に向かうに従って薄くなっており、前記貫通孔Hの周辺部分Kは、透過電子顕微鏡観察に適した100Å程度の薄膜となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特許第4486462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
しかし、前記透過電子顕微鏡観察に適した100Å程度の薄膜部分、即ち、前記貫通孔Hの周辺部分Kは極めて小さい領域である。
【0037】
従って、この様な試料を透過電子顕微鏡の試料とした場合、観察視野が前記貫通孔Hの極めて近い周辺部に限られてしまい、試料観察に関しての使用効率が著しく低いものとなるばかりか、試料自身を充分に観察及び分析出来ない。
【0038】
本発明はこの様な問題を解決するためになされたもので、透過電子顕微鏡等の試料として観察可能領域のより広い薄膜試料が作製出来る新規な薄膜試料作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明の薄膜試料作製方法は、試料素材上にイオンビーム非照射面とその周囲にイオンビーム照射面を形成するための遮蔽材を前記試料素材上に配置し、該遮蔽材の上方から該遮蔽材と前記試料素材にイオンビームを照射し、前記イオンビーム非照射面をイオンミリングせずに残して、その周囲のイオンビーム照射面をイオンミリングするようにした試料作製方法であって、前記イオンビーム非照射面から下方に向かうに従って薄くなり、最終的に貫通孔が開いた試料が出来る様に、前記イオンビームの照射方向をそれぞれ設定して前記遮蔽材と試料素材に向けて異なる方向からイオンビームを照射する様に成すと共に、作製しようとする薄膜の面に直交する軸、又は、該軸に平行な軸を中心として前記試料素材を傾斜させながらイオンビームを試料素材に照射する様にし、前記イオンビーム非照射面の下方の試料素材部分に貫通孔が開いたら試料素材へのイオンビーム照射を停止する様にした薄膜試料作製方法において、前記試料素材の傾斜において、少なくても1つの傾斜角で該試料素材を一時停止させる様に成した事を特徴とする。
【0040】
又、本発明の薄膜試料作製方法は、試料素材上にイオンビーム非照射面とその周囲にイオンビーム照射面を形成するための遮蔽材を前記試料素材上に配置し、該遮蔽材の上方から該遮蔽材と前記試料素材にイオンビームを照射し、前記イオンビーム非照射面をイオンミリングせずに残して、その周囲のイオンビーム照射面をイオンミリングするようにした試料作製方法であって、前記イオンビーム非照射面から下方に向かうに従って薄くなり、最終的に貫通孔が開いた試料が出来る様に、前記イオンビームの照射方向をそれぞれ設定して前記遮蔽材と試料素材に向けて異なる方向からイオンビームを照射する様に成すと共に、作製しようとする薄膜の面に直交する軸、又は、該軸に平行な軸を中心として前記試料素材を所定の速度で傾斜させながらイオンビームを試料素材に照射する様にし、前記イオンビーム非照射面の下方の試料素材部分に貫通孔が開いたら試料素材へのイオンビーム照射を停止する様にした薄膜試料作製方法において、前記試料素材の傾斜において、前記所定の速度で変化している傾斜角の少なくとも1箇所の僅かな傾斜角範囲において極めて低速度で試料素材を傾斜させる様に成した事を特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、透過電子顕微鏡等の観察に適した薄膜部分を広く形成した薄膜試料を作製することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図2】
図1に示す薄膜試料作製装置の真空チャンバ内の一構造例を示している。
【
図3】試料素材の繰り返し往復傾斜の様子を示している。
【
図4】イオン銃をZ軸に対して左に傾斜させた時の遮蔽ベルトと試料素材へのイオンビーム照射状態と試料素材のミリング状態を示す。
【
図5】イオン銃をZ軸に対して右に傾斜させた時の遮蔽ベルトと試料素材へのイオンビーム照射状態と試料素材のミリング状態を示す。
【
図6】試料素材がイオンミリングされて行く状態を示す。
【
図7】試料素材の代表的傾斜角度における試料素材へのイオンビーム照射領域を示す。
【
図8】試料素材へのイオンビーム照射領域QAの軌跡を示す。
【
図9】試料素材を最大角傾斜した時の試料素材へのイオンビーム照射領域示す。
【
図10】本発明の薄膜試料作製方法における試料素材へのイオンビーム照射領域QA,QA´及びQA´´の軌跡を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の原理について説明する。
【0044】
先ず、本発明者は前記従来の薄膜作製方法の問題点の成因について考察した。
【0045】
前記従来の薄膜作製方法においては、前記ステージ3はY軸を中心として繰り返し往復傾斜している。即ち、
図3に示す様に、前記試料素材11は前記遮蔽ベルト8と一緒に矢印Rに示す様に、繰り返し往復傾斜されている。この往復傾斜における各傾斜角度での前記試料素材11へのイオンビーム照射領域を探求すると、次の様に考えられる。
【0046】
図7の(a)〜(e)は、代表的傾斜角度における前記試料素材11へのイオンビーム照射領域を示したもので、
図7の(a)は傾斜角度0度の場合、
図7の(c)は傾斜角度が時計方向に最大の場合、
図7の(e)は傾斜角度が反時計方向に最大の場合、
図7の(b)は傾斜角度が時計方向に0度と最大角の中間にある場合、
図7の(d)は傾斜角度が反時計方向に0度と最大角の中間にある場合をそれぞれ示している。
【0047】
これら
図7の(a)〜(e)中において、帯状の領域QAは前記試料素材11の上面からHL辺りのイオンビーム照射領域、QBは該イオンビーム照射領域QAの上下のイオンビーム照射領域で、前者の領域QAは後者の領域QBに比べイオンミリングレートが高い。
【0048】
図8は前記試料素材11への前記前者のイオンビーム照射領域QAの軌跡を描いたもので、該軌跡の中心部分CRに常時イオンビームが照射されており、この部分に前記貫通孔Kが開き、該貫通孔のごく周辺部分が可なり薄く(透過電子顕微鏡等の観察に適した50nm程度の薄膜)ミリングされ、その他の軌跡領域は透過電子顕微鏡等の観察に適した薄さにはミリングされない。
そこで、本発明者は、前記貫通孔Kのごく周辺だけではなく、前記比較的イオンミリングレートの高いイオンビーム照射領域QAの軌跡部分中にも透過電子顕微鏡等の観察に適した薄膜領域を作製する方法を模索し、前記ステージの往復傾斜において、少なくとも或る1つの傾斜角度で所定時間ステージを一時停止させれば、その傾斜角度時における、前記比較的イオンミリングレートの高いイオンビーム照射領域QAのイオンミリングレートが著しく大きくなり、この領域も透過電子顕微鏡等の観察に適した薄膜領域に出来るものと考えた。尚、多くの傾斜角度で一時停止すると、常時イオンビームが照射されている前記中心部分CRのイオンミリングレートが短時間に極めて大きくなり、一時停止傾斜角度におけるイオンビーム照射領域QAが透過電子顕微鏡等の観察に適した薄膜に成る前に、該中心部分CRに貫通孔Kが開いてしまうので、1〜数箇所で一時停止するのが良いと思われる。又、一時停止させる代わりに、一定速度で変化している傾斜角の或る狭い傾斜角範囲で試料ステージを極めて低速度で傾斜させる様にしても、その傾斜角度範囲における、前記比較的イオンミリングレートの高いイオンビーム照射領域QAのイオンミリングレートが著しく大きく成ると考えられる。
本発明はこの様な考えに基づいて成されたもので、本発明の薄膜試料作成方法の実施形態を以下に図面を用いて説明する。
本発明の薄膜試料作成方法を実施する薄膜試料作製装置は前記
図1及び
図2に示すものと殆ど構成は同一である。異なる構成点は、中央制御装置14´、該中央制御装置の指令を受けるステージ傾斜制御回路14c´、及び該ステージ傾斜制御回路からの傾斜信号で作動する傾斜駆動源17´にある。即ち、中央制御装置14´はステージ3を正負各最大傾斜角度時に所定時間一時停止させながら繰り返し往復傾斜させる指令を前記ステージ傾斜制御回路14c´を送り、該ステージ傾斜制御回路は前記ステージ傾斜機構4を正負最大傾斜角度時にステージ3を所定時間一時停止させながら繰り返し往復傾斜させる傾斜信号を傾斜駆動源17´に送る様に構成されている。
【0049】
この様な構成を持つ薄膜試料作製装置によって、薄膜試料作製が次の様に行われる。
【0050】
先ず、オペレータが前記入力手段18でイオンミリング開始を指示すると、前記中央制御装置14´のイオン銃傾斜制御回路14bは、前記イオン銃12を左(−Y方向)に角度θ1傾斜させるための傾斜信号を前記傾斜駆動源16に送る。該傾斜駆動源はその傾斜信号に基づいてイオン銃傾斜機構13を傾斜させる。この結果、前記イオン銃12はZ軸に対して左に角度θ1傾斜する。
【0051】
又、同時に、中央制御装置14´はステージ3を正負各最大傾斜角度時に所定時間一時停止させながらY軸を中心として繰り返し往復傾斜させる指令を前記ステージ傾斜制御回路14c´を送るので、該ステージ傾斜制御回路は前記ステージ傾斜機構4を正負各最大傾斜角度時に所定時間一時停止させながらY軸を中心として繰り返し往復傾斜させる傾斜信号を傾斜駆動源17´に送る。従って、該傾斜駆動源はその傾斜信号に基づいて前記ステージ傾斜機構4を傾斜させる。この結果、試料素材11は前記遮蔽ベルト8と一緒に、正負各最大傾斜角度時に所定時間一時停止しながらY軸を中心として繰り返し往復傾斜される。
【0052】
この時、前記イオン銃制御回路14aは、前記イオン銃12よりイオンビームIBを放出させるための信号を前記イオン銃電源15に送る。すると、該電源は前記イオン銃12の各電極間にイオンビームを放出させるための所定電圧を印加するので、Z軸に対して左に角度θ1傾斜した前記イオン銃12からイオンビームIBが放出される。
【0053】
該イオンビームは、前記遮蔽ベルト8の左斜め上方から該遮蔽ベルトと試料素材11に照射されるので、前記試料素材11はY軸を中心として傾斜されながらイオンミリングされることになる。
【0054】
この際、前記試料素材11が時計方向に最大角傾斜した時及び反時計方向に最大角傾斜した時に予め決められた所定時間一時停止する。
図9の(a)は、試料素材11が時計方向に最大傾斜角で一時停止した時のイオンビーム照射領域を示したもの、
図9の(b)は試料素材11が反時計方向に最大傾斜角で一時停止した時のイオンビーム照射領域を示したもので、何れの時も、前記試料素材11の上面からHL辺りのイオンビーム照射領域QA´,QA´´は、他の傾斜角度時の同一位置のイオンビーム照射領域QAよりもイオンミリングレートが可なり高い。従って、前記試料素材11の上面からHL辺りのイオンビーム照射領域の軌跡を示している
図10に示す様に、常時イオンビームが照射されている該軌跡の中心部分CR程ではないが、前記イオンビーム照射領域QA´,QA´´に対応する軌跡部分(実線部分)は他の軌跡部分よりイオンミリングレートが可なり高くなっている。
【0055】
次に、前記イオン銃傾斜制御回路14bは、前記イオン銃12を右(Y方向)に角度θ1傾斜させるための傾斜信号を前記傾斜駆動源16に送る。該傾斜駆動源はその傾斜信号に基づいてイオン銃傾斜機構13を傾斜させる。この結果、前記イオン銃12はZ軸に対して右に角度θ1傾斜する。
【0056】
該イオン銃の傾斜により、Z軸に対して右にθ1傾斜したイオンビームIBが前記遮蔽ベルト8と試料素材11を照射する。該イオンビーム照射は、前記と同様、前記試料素材11は前記遮蔽ベルト8と一緒に傾斜されながらイオンミリングされる。
【0057】
この際、前記と同様に、前記試料素材11が時計方向に最大角傾斜した時及び反時計方向に最大角傾斜した時に予め決められた所定時間一時停止するので、試料素材11が時計方向に最大傾斜角で一時停止した時及び試料素材11が反時計方向に最大傾斜角で一時停止した時の各試料素材11の上面からHL辺りのイオンビーム照射領域QA´,QA´´は、他の傾斜角度時の同一イオンビーム照射領域QAよりもイオンミリングレートが可なり高くなる。
【0058】
以後、前記と同様にして前記イオン銃12が左右に繰り返し傾斜され、Z軸に対して左右にそれぞれθ1傾斜したイオンビームによって前記試料素材11はミリングされる。
【0059】
そして、この様なイオンミリング過程において、CCDカメラ23から前記試料素材11に貫通孔Hが開いたこと示す像信号が前記イオンミリング終了判定回路14dに送られると、該イオンミリング終了判定回路は該像信号に基づいて前記試料素材11へのイオンミリング終了信号を前記イオン銃制御回路14aに送る。
【0060】
すると、該イオン銃制御回路は、イオン照射を停止させるための信号を前記電源15に送るので、前記イオン銃12からのイオンビーム放出は停止される。
【0061】
同時に、前記イオンミリング終了判定回路14dからのイオンミリング終了信号は前記イオン銃傾斜制御回路14bとステージ傾斜制御回路14c´にも送られ、それによりこれらの制御回路は傾斜停止信号をそれぞれの駆動源16,17´に送るので、前記イオン銃12の傾斜とステージ3の傾斜は停止される。
【0062】
以上の様にして薄膜試料が出来上がる。該出来上がった試料は前記貫通孔Hのごく周辺部分だけではなく、試料素材を時計方向に最大傾斜した時のイオンビーム照射領域及び試料素材を反時計方向に最大傾斜した時のイオンビーム照射領域も透過電子顕微鏡観察に適した50nm程度の薄膜となっている。
【0063】
尚、前例では、試料素材を時計方向に最大傾斜した時と反時計方向に最大傾斜した時に該試料素材を一時停止するようにしたが、他の1箇所以上の傾斜角度で一時停止させるようにしても良い。但し、一時停止させる角度により、貫通孔以外にイオンミリングレートが高く成る試料素材におけるイオンビーム照射領域が変化する。
【0064】
又、試料素材を或る傾斜角度で一時停止する代わりに、所定の速度で変化している傾斜角の或る1つ以上の僅かな傾斜角範囲において極めて低速度で試料素材を傾斜させ、該傾斜角範囲において試料素材の上面からHL辺りのイオンビーム照射領域のエッチングレートを上げる様にしても良い。
【符号の説明】
【0065】
1:真空チャンバ,2:排気装置,3:ステージ,4:ステージ傾斜機構,5:試料台,5a:切り欠き,6a,6b:ガイドピン,7a,7b,7c,7d:プーリー,8:遮蔽ベルト,9:モータ,10:試料ホルダ,11:試料素材,12:イオン銃,13:イオン銃傾斜機構,14:中央制御装置,14a:イオン銃制御回路,14b:イオン銃傾斜制御回路,14c:ステージ傾斜制御回路,14d:イオンミリング終了判定回路,15:電源,16:駆動源源,17:駆動源,18:入力手段,19:CCDカメラ