【課題を解決するための手段】
【0027】
この課題は、本発明によれば、
患者
の血液サンプルにおけるプラスモジウム感染を検出する方法であって、
a)
血液サンプルにおける多形核好中球性顆粒球の示差分析を実行し、細胞体積及び細胞密度の分布を決定するステップ、
b)
血液サンプルにおける血小板数を決定するステップ、
c)
血液サンプルにおける血小板の細胞密度の分布を決定するステップ、
d)ステップa)〜c)において実行された決定からサンプルパラメータを取得するステップ、
e)
あらかじめ定められた基準に比べてパラメータを評価するステップ
を含み、
その基準は1つ又は複数のサンプルパラメータに基づいて構築され、感染した血液サンプルを正常な血液サンプルの対応する値と比較することに基づいて決定され、その基準を満たす場合にはプラスモジウム感染が存在する
プラスモジウム感染の検出方法によって解決される(請求項1)。
本発明によるプラスモジウム感染の検出方法の有利な実施態様は次の通りである。
・パラメータの決定が散乱光測定によって行われる(請求項2)。
・プラスモジウム感染は、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫又はサルマラリア原虫による感染である(請求項3)。
・さらに、網赤血球及び赤血球の球形化及び示差分析が、散乱光測定及び吸収測定によって行われる(請求項4)。
・さらに、
血液サンプルにおけるすべての白血球の染色後、示差分析が散乱光測定及び吸収によって行われる(請求項5)。
・染色が基質として
4-クロロ-1-ナフトールを用いて実行される(請求項6)。
・さらに、染色後、好中球性顆粒球の体積分布の決定が行われる(請求項7)。
・さらに、パラメータとして、染色後のすべての白血球の体積分布及び吸収分布の標準偏差が用いられる(請求項8)。
・ステップa)における決定が、少なくとも好酸球および好中球の、しかし好塩基球でない白血球の適切な溶解試薬による溶解後に行われる(請求項9)。
・好塩基球を除くすべての細胞の特異的溶解後に、非特異的成分が散乱光ダイヤグラム(小さい角度及び大きい角度の散乱)から決定される(請求項10)。
・ステップa)、b)及びc)において決定されたパラメータ
の値が、正常な血液サンプルにおいて得られた標準値に比較して低い場合、その値はプラスモジウム感染の存在を予測する(請求項11)。
・
好中球性顆粒球の体積分布、すべての白血球の体積分布の標準偏差または非特異的成分の値が、正常な血液サンプルにおいて得られた標準値に比較して高い場合、その値はプラスモジウム感染の存在を予測する(請求項12)。
・自動細胞カウンタによって実行される(請求項13)。
【0028】
本発明は、患者の血液サンプルにおけるプラスモジウム感染を検出する方法を創造するものであり、以下を含む。
a)サンプルにおける多形核好中球性顆粒球の示差分析(differential analysis)の実行及び細胞体積及び細胞密度の分布の決定、
b)サンプルにおける血小板数の決定、
c)サンプルにおける血小板の細胞密度の分布の決定、
d)a)〜c)において実行された決定からのサンプルパラメータの取得、
e)前もって定められた基準に対するパラメータの評価。その基準を満たす場合にはプラスモジウム感染が存在する。
【0029】
本発明に従い検査される患者の血液サンプルは通常人間の血液サンプルである。しかしながら、哺乳類の血液サンプルを検査することも可能である。
【0030】
ここで使用された用語「示差分析(differential analysis)」は、患者の血液サンプルの成分の複数の測定可能な個々の値の取得を意味し、それらの値は実行すべき診断のため最終的に組み合わされ評価されるものである。
【0031】
本発明に従う方法のステップa)においては、そのため先ず細胞体積及び細胞密度の分布の決定に関してサンプルにおける多形核好中球性顆粒球の示差分析が実行される。このことはしかしながら、それ以外の白血球種、例えば好酸球性または好塩基球性の顆粒球が同様に検査に含められることを排除するものではない。
【0032】
細胞体積及び細胞密度の分布の規準からのずれは、通例病的状態を示す。この場合、通常測定される普通の値に比べて低い値はプラスモジウム感染を示す。プラスモジウム感染に伴う細胞体積及び細胞密度の減少は、感染の進行中に現れる白血球の防御機構によって説明することができる。例えば好中球性顆粒球は血管から組織中へ移動し、そこでタンパク質分解酵素を分離させ、その結果細胞間の結合を解きそこで細菌を取り込む。これによって、細胞体積及び細胞密度の変化になる。
【0033】
驚くべきことに、プラスモジウム感染の検出方法の感度及び特異度は、上述の決定と並んで(すなわち逐次的または同時に)、患者血液サンプルにおける血小板数及びサンプルにおける血小板の細胞密度の分布が決定される場合には明らかに高められることが判明した。この場合も、規準から下方へずれる値はプラスモジウム感染の存在を予測する。このことは、本発明に従えば現存の方法に比べて検出方法の明らかに高められた感度及び特異度に通じる。
【0034】
ステップa)〜c)で獲得される測定結果からサンプルパラメータが得られ、あらかじめ定められた判断基準に比べて評価され、その判断基準を満たす場合にはプラスモジウム感染が存在する。
【0035】
パラメータは導出された量であり、例えば用語「細胞体積パラメータ」は、細胞体積分布と関係があるパラメータ、例えば標準の細胞体積または与えられた細胞部分集団の細胞体積分布の標準偏差のようなパラメータを代表している。
【0036】
ここで用いられる用語「あらかじめ定められた判断基準」は、1つ又は複数のサンプルパラメータに基いて、本発明の場合特に細胞体積パラメータ、細胞数パラメータ及び細胞密度パラメータに基いて、構築された基準に関係する。この基準は、感染した血液サンプルを正常な血液サンプルの対応する値と比較することに基いて決定され、例えば本発明に基礎を置く実験に基く検査のために204個の熱帯熱マラリア原虫に感染した血液サンプルと3240個の正常な血液サンプルの対応する値との比較が実施された。
【0037】
多形核好中球性顆粒球のサンプルパラメータ(細胞体積及び細胞密度)の組合せ及び評価によって、また加えて、サンプルにおける血小板数及び血小板の細胞密度の分布を考慮することにより、本発明によれば検出方法の感度及び特異度について予期しない高い値を得ることができた。例において述べられるように、この場合99%の特異度値及び98%の感度値を得ることに成功した。このことは、全面的な、自動血液検査において、偽陽性ないし偽陰性の診断結果の数が従来知られていなかった程度に減少し得たこと、そしてほとんど無視し得ることを意味する。このことは、保障されたプラスモジウム感染診断、特にマラリア診断に関する一大進歩を意味し、マラリア感染の高い有病率/発病率に見舞われている国々において、時機を失しない有効な医療処置を介して全体的な健康状態の明らかな改善に導くであろう。
【0038】
本発明に従う方法の一実施形態においては、パラメータの決定は散乱光測定によって行われる。散乱光測定は先に説明されたように(「光学的方法」)、インピーダンス測定と異なりレーザ光が用いられる方法であり、血液サンプルが(細胞毎に)レーザ光を通して導かれ、レーザビームの偏向が適切な装置によって検出される。レーザビームの使用のもとに実施される方法は添付された
図1に説明されている。その際個々の細胞によって散乱された光線は異なる角度範囲(低い角度/low angle及び大きい角度/high angle)で検出され、それらの角度範囲はそれぞれ体積(低い角度)及び密度(大きい角度)への指示を与える。本発明に従えば、レーザ光軸からのずれが約2°〜3°の角度を「小さな角度」といい、約5°〜15°の角度を「大きな角度」という。散乱光測定は、インピーダンス測定より測定結果の妨害され易さが少ないため優れていることが明らかになった。
【0039】
一実施形態に従えば、プラスモジウム感染は卵形マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、または熱帯熱マラリア原虫による感染である。本発明に従う検出方法は、これらのプラスモジウム感染に対し同じように用いることができる。
【0040】
一実施形態においては、上述の方法ステップに加えてさらに、患者血液サンプルにおける網赤血球及び赤血球の球形化及び示差分析が散乱光測定によって実施される。ここでも示差分析が関係しており、最終的に評価すべきパラメータは、細胞体積、細胞密度、並びに細胞のヘモグロビン含有量及び網赤血球成分に関係する。網赤血球は若い赤血球であり、それらは赤血球そのものと異なりなおRNAを含み、それによって示差分析が可能である。
【0041】
赤血球又は網赤血球の球形化は、血球をその元の形に左右されないで散乱光測定の際に評価可能な形へ変えるために必要である。このために、血液サンプルは網赤血球及び赤血球の球形化に導く試薬と混合される。模範的な試薬は、米国特許第5045472号明細書、米国特許第5284771号明細書、米国特許第5633167号明細書及び米国特許第6114173号明細書に開示されている。例えば米国特許第5045472号明細書は、等張水溶液、球形化剤(例えばアルキル硫酸塩のアルカリ金属塩)並びに球形化剤を可逆的に結合するタンパク質を含む試薬混合物を明らかにしている。
【0042】
網赤血球及び赤血球を本発明に従う検出方法に取り入れることによって、特異度及び感度をさらに高めることができる。網赤血球の赤血球に対する比は、血液内のプラスモジウム感染の存在への重要な手がかりである。網赤血球の比が高いほど、すなわち成熟した赤血球に対する未熟の赤血球の比が高いほど、プラスモジウム感染の存在の可能性は高い。
【0043】
別の実施形態においては、血液サンプルにおけるすべての白血球のペルオキシダーゼ染色後散乱光測定及び吸収による示差分析が実施される。
【0044】
ペルオキシダーゼ染色は、通常、4-クロロ-1-ナフトールとの反応後の細胞のペルオキシダーゼ活性によって行われる。4-クロロ-1-ナフトールはここでは過酸化水素をして、白血球の顆粒におけるペルオキシダーゼ活性の内生位置に暗色の沈殿物が生成するのを可能にする基質として用いられる。その結果、散乱光測定においては、僅かな又は温和なペルオキシダーゼ活性をもった細胞は、より少なく光を吸収し、一方高いペルオキシダーゼ活性を有する細胞はより多く光を吸収することになる。
【0045】
別の実施形態においては、上述のようなペルオキシダーゼ染色後に加えて、好中球性顆粒球の体積分布が測定される。この場合も、好中球性顆粒球の体積分布が大きいほど、患者血液サンプルのプラスモジウム感染の存在の可能性は大きい。
【0046】
別の実施形態においては、さらにパラメータとしてペルオキシダーゼ染色後のすべての白血球の体積分布の標準偏差が用いられる。すべての白血球の体積分布の標準偏差が大きいほど、プラスモジウム感染の存在の可能性は大きい。
【0047】
一実施形態においては、ステップa)における決定、すなわちサンプルにおける多形核好中球性顆粒球の示差分析の実行が、少なくとも好酸球及び好中球の、しかし好塩基球でない白血球の適切な溶解試薬による溶解後に行われる(BASO溶解試薬)。この場合も広範な体積ないし密度分布の存在はプラスモジウム感染の存在の間接証拠である。溶解試薬としては、フタル酸及び洗浄薬を基礎とする混合物が有利であることが判明しており、例えばそのような試薬は塩酸、フタル酸、界面活性剤及び自由選択で保存料を含むことができる。この場合フタル酸と塩酸との比はほぼ2.5:1である(mmol/l中のそれらの濃度に基く)。この試薬によって、赤血球、血小板及びすべての白血球(好塩基球性顆粒球は除く)は溶解される。この付加の方法によってもマラリア原虫特有の予測値を高めることができる。
【0048】
別の実施形態においては、好塩基球の白血球を除くすべての細胞の特異的溶解後、散乱光ダイヤグラム(小さい角度及び大きい角度の散乱)から非特異性の成分が決定される。この成分が高いほど、プラスモジウム感染が存在する可能性は高い。
【0049】
本発明に従う検出方法において実行される決定ステップa)、b)及びc)は、上述のように、プラスモジウム感染の存在に対し予測性を持っている。本発明の文脈における用語「低い」値は、個々の場合に実行された決定の値が正常な患者サンプル(すなわち感染していない患者サンプル)において得られた標準値に比較して低い値を意味する。
【0050】
これに対し、ペルオキシダーゼ染色並びに好中球性顆粒球の体積分布及びすべての白血球の体積分布の標準偏差の決定によって達成されるパラメータの付加的利用、並びにすべての細胞の特異的溶解後の散乱光ダイヤグラムからの非特異的成分の決定は、それらの値が高いほど、プラスモジウム感染の存在の可能性が高いことを意味する。
【0051】
さらに本発明に従う方法の実施形態が添付図面に関連して詳細に説明される。