【実施例】
【0060】
明視野3Dスタック投影を使用するコントラスト強調および全細胞検出
図5は、z軸にそった、例えば、視野に垂直な投影を使用する明視野顕微鏡法の使用例を示している。
図5Aは、元の明視野画像である。
図5Bは、
図5Aに示されている明視野の明視野zスタック(蛍光なし)を使用するコントラスト強調投影である。
図5Cは、自動的な細胞分割の結果である。蛍光核は、それぞれの細胞に対するマーカとして使用され、全細胞領域はコントラスト強調明視野画像を使用して検出される。
【0061】
図5Dは、もう1つの元の明視野画像である。
図5Eは、
図5Dに示されている明視野の明視野zスタック(蛍光なし)を使用するコントラスト強調投影である。
図5Fは、自動的な細胞分割の結果である。蛍光核は、それぞれの細胞に対するマーカとして使用され、全細胞領域はコントラスト強調明視野画像を使用して検出される。
【0062】
われわれは、明視野画像スタック内のコントラスト強調に対する異なるz投影法について説明し、投影アプローチがマクロファージ画像のわれわれの集合に対し全細胞蛍光染色を置き換えることができることを示した。単一細胞検出および分割では、われわれの方法は、すでに提示されている明視野ベースの技術に勝るいくつかの利点を有している。第1に、フリーウェアのCellProfilerソフトウェアまたは他のツールで、投影画像を全細胞分割に直接使用することができる。第2に、試験される異なる投影方法のうち、標準偏差投影は、計算の実行が非常に軽く、実装しやすく、パラメータの設定が不要であり、それでも優れた分割性能を示す。第3に、われわれは、全細胞検出法を、さまざまな突起を有し、コントラストが低く形態が非常に複雑な細胞型であるマクロファージに適用することに成功している。第4に、無作為に選択されたzスライスを使用した分割結果から、正確な焦点合わせは、重要でないことが示唆される。そして最後に、その結果として得られる投影画像に対し、背景光量変動は何ら影響を有しないということである。われわれのアプローチの欠点は、画像を1つではなく3つ撮る必要があり、細胞を移動することなく画像を取得するために生細胞撮像のかなり高速なステージが要求されることであり、今のところ、分割結果は、誤った全細胞検出から結果として生じる外れ値を含む。その一方で、空間に対する要求条件は、分析のため投影画像のみ格納すればよいので増大しない。
【0063】
2009年10月22日にわれわれが公開した資料では、細胞全体にわたってコントラストが低く、細胞境界がはっきりとは見えない、1つの細胞型の画像のみを使用した。他の多くの細胞型、例えば、酵母の明視野画像中に存在する、後光効果は、投影において誤って強調される可能性がある。さらに、さまざまな細胞密度および異なる撮像設定で分割性能を研究すること、また撮像およびその後の分析に最適な状態を探すことは興味深いことであろう。前処理のために、多くの異なるアプローチを試験することもありえ、この作業では、標準ガウス・フィルタが適切であると判明したが、厳密なパラメータ最適化または方法比較については、実行しなかった。
【0064】
明視野細胞分割を完全自動化するために、それぞれの細胞に対するマーカが、蛍光核なしで特定される必要があるが、われわれが知る限りでは、ロバストな明視野ベースの方法は文献に記載されていない。これらのマーカは、手動で設定することも可能であるが、特に高スループット研究では、手動アプローチは現実的でない。いくつかの研究では、細菌または酵母細胞など、細胞が非常に特徴的な形状を有している場合、物体分離を細胞形状に基づいて実行することが可能であるため、核マーカが不要になり、したがって蛍光もまったく必要なくなる。
【0065】
明視野画像は、標準偏差または他の投影がより詳細に研究されるべきである唯一のスタックではない。蛍光顕微鏡では、研究される現象は、細胞下スポットとして見えることが多く、光量はzレベルに応じて変化する。これは、平均および最大投影など、一般に使用される方法と比較して標準偏差投影においてよく見える可能性があることを示唆している。投影アプローチも、細胞対象物に限定されず、ほぼ透明のターゲットは、特別な光学系がなくても、高いコントラストから恩恵を受けるべきである。
【0066】
図6は、蛍光を使用せずに、4つの異なる型の個別細胞を同定するために明視野顕微鏡法をどのように使用できるか、また細胞を自動的にどのように計数できるかを示す追加の例である。
【0067】
図6は、3つの画像を含む。
図6Aの第1の画像では、良好な焦点の状態の下で撮像された標準明視野光学画像が示されており、これは、細胞間に示される低コントラスト差、および細胞の視野がいかなる方法でも処理されなかったときの背景を示す。
図6Bの第2の画像では、ピンぼけ画像が提示されており、そこでは、それぞれの細胞は、明るい領域によって識別可能であると観察され、これは背景との感知できるコントラストをもたらす。一実施例を示さなくても、z軸にそって反対方向でピンぼけになった後、細胞は、背景に関して、明るい領域と反対に、暗い領域によって識別されうることを理解されたい。
図6Cの第3の画像では、細胞が自動閾値化アルゴリズムによって識別され、また擬似カラーで示される画像が示されている。したがって、細胞を計数するのは、適切にプログラムされたコンピュータ・ベースのシステムを使用して実行されうる直接的な自動化タスクとなる。
【0068】
操作
図7は、本発明の方法および自動システムを使用する際に実行されるステップを示す流れ図である。ステップ710で示されているように、光照射に敏感なセンサを有する光学顕微鏡が使用される。光学顕微鏡は、光学顕微鏡の焦点状態を変更するための1つまたは複数のアクチュエータ(電気モータ)を備え、また適宜、レンズ(対物レンズまたは接眼レンズ)の1つまたは複数を変更し視野の倍率または寸法を変更するための1つまたは複数のアクチュエータを備える。明視野モードで光学顕微鏡を操作するための照明源が備えられる。光照射に敏感なセンサは、センサによって監視される視野を表す信号を出力として出すように構成された出力端子を有する。光学顕微鏡で観察するために表面を有する試料スライドを配置する。ステップ720で示されているように、少なくとも1つの細胞を含む試料を試料スライドの表面上に配置する。試料は、外来化学物質を含まない。ステップ730で示されているように、少なくとも1つの細胞がセンサの視野内に入り、少なくとも1つの細胞が焦点はずれ状態になるように、試料スライドの表面の法線方向にそって焦点が合うように光照射により明視野モードで光学顕微鏡を操作する。ステップ740で示されているように、焦点はずれ状態に応じて、1つまたは複数の明るいスポットまたは1つまたは複数の暗いスポットを有する画像を観察することができ、それぞれのスポットは1つの細胞に対応する。焦点はずれ状態は、スライドの表面と対物レンズの表面との間の相対距離を記録しながら、観察された画像が明るいスポットの1つから、スポットなし、暗いスポットへ(またはその逆の順で)変化するようにスライドの表面と対物レンズの表面との間の距離を変化させることによって自動的に決定されうる。次いで、明るいスポットの状態または暗いスポットの状態のいずれかの状態に対応する距離を再現することができる。センサは、ステップ750で示されているように、画像を表す出力信号を供給する。次いで、上で説明されているようなコンピュータおよび適当なソフトウェアを使用して画像を表す出力信号を処理し、ステップ760で示されているように、明るいスポットの個数または暗いスポットの個数を計算する。次いで、ステップ770で示されているように、コンピュータは、明るいスポットの個数または暗いスポットの個数を試料中に存在する細胞の個数として報告する。レポートは、擬似カラーで表示される画像の形式、または数値の形式とすることができる。レポートは、後で使用するために記録されうるか、またはユーザに対し表示されうるか、または都合のよい形式により他の方法で出力として供給されうる。
【0069】
図8は、例示的な自動画像処理システム内に存在するコンポーネントおよび接続部を示す図である。
図8において、顕微鏡810は、双方向信号伝送リンク850を使ってコンピュータ・ベースの画像プロセッサ820に接続されている。いくつかの実施形態では、コンピュータ・ベースの画像プロセッサ820は、適宜プログラムされたパーソナル・コンピュータとすることができる。コンピュータ・ベースの画像プロセッサ820は、コンピュータ用ディスプレイなどの報告装置830と通信する。電源840は、リンク870を使って顕微鏡810に電力を供給し、リンク860を使ってコンピュータ・ベースの画像プロセッサ820および報告装置830に電力を供給する。いくつかの実施形態では、光学顕微鏡、コンピュータ・ベースの画像プロセッサ、および報告装置を動作させるための1つまたは複数の電源が備えられる。
【0070】
いくつかの実施形態では、試料は、染色剤を含まず、他の実施形態では、試料は、蛍光剤を含まない。いくつかの実施態様では、人間のオペレータが、分析対象の細胞を見ることができる。いくつかの場合において、光学顕微鏡は、センサおよび人間のオペレータに適した接眼レンズを同時に装着できるように構成される。いくつかの場合において、顕微鏡は、細胞計数法を実行する前に視野内にある1つまたは複数の細胞に焦点を合わせるように操作される。
【0071】
明視野画像スタックからの細胞検出のためのフレームワーク
次に、異なる焦点面で撮られた明視野画像のスタックから自動的に細胞を検出するための一般フレームワークについて説明する。明視野画像の自動分析は、蛍光標識された画像の分析よりも難しいと考えられているが、それは、標識しないと、細胞は背景に比べて低いコントラストを持つからである。ここで説明する分析フレームワークは、深度情報に依存しており、これにより、蛍光画像分析と同等の方法で細胞を検出することができる。フレームワークは、フレームワークの実現と考えられる、さまざまな分析パイプラインを記述する直截的な手段である。そこで、そのような分析パイプラインの実施例を提示し、細胞の染色を全く行わずにさまざまな顕微鏡で撮られた画像スタックから細胞検出を効率よく実行できることを示すことにする。
【0072】
一般に、蛍光標識法を使用すると、細胞検出に使用可能である核標識法が利用できるという主な理由からより効率的な自動分析を実行することができ、またその後、検出された細胞をさらなる分析のための細胞マーカまたはシードとして使用することができる。しかし、蛍光標識するのは有益であるが、標識せずに明視野内で細胞を撮像するのも役立つ。蛍光体を含まないということは、細胞が光毒性の影響を受けたり、蛍光体の光退色がその結果に影響を及ぼしたりしないことを意味する。さらに、細胞検出を信頼性の高い自動的な方法で実行することが可能であるという前提の下で、細胞形状の検出は細胞体内の標識分布に依存しないため、明視野画像から実際の細胞形状がより正確に得られる。
【0073】
蛍光標識法は、高特異性染色が発生するけれども、特定の細胞下構造の染色には理想的であり、したがって、細胞応答が細胞下活動の定量化を通じて測定されることが多い高スループット研究における貴重な測定プラットフォームとなる。しかし、特異的染色の開発で、限られた数のチャネルのみを同じ試料から同時に撮像できる。例えば、核および細胞体標識法に蛍光染色液を使用すると、特異的プロセスを研究するために必要な可能な細胞下染色の使用は2倍減らせる。このような場合、明視野画像からの細胞の検出を可能にする技術により、他の用途で使用できるように蛍光チャネルが解放される。
【0074】
従来から、明視野画像の完全自動分析は、多くの分割方法が手動で与えるシードに依存する難しい問題として認識されてきている。細胞を空間的にぎっしり配置することは、典型的には細胞境界がくっきり見えないため、分析に対しては特に難題である。われわれは、異なる焦点レベルで同じ試料を連続的に撮像した明視野画像のスタックを使用することに依存する細胞境界検出のための方法を説明した。zスタックとも称される、焦点スタックは、z次元で投影を撮ることによって処理された。投影を細胞領域に対するマーカとして使用することで、蛍光標識法と同様の性能を持つ細胞形状および境界決定が可能になった。個別細胞検出の完全自動化は、全細胞領域を決定する際に有用であるが、ユーザ側で、または核蛍光マーカを細胞シードとして使用することによって、シード点を取得する必要があることがネックとなっていた。しかし、焦点スタックの使用は、細胞境界検出に限定されない。個別細胞を検出するための完全明視野アプローチは、細胞シード検出と境界検出とを組み合わせることによって可能である。ここで、われわれは、明視野画像からの完全自動化細胞検出のための一般フレームワークを提示することによってzスタック・ベースの分析の原理を拡張し、定式化する。焦点が合っているフレーム上に表れる雑音、背景変動、異物、またはほこりなどの小さな粒子は、検出に影響を及ぼさない。
【0075】
明視野焦点画像スタックの構成および特性
まず、明視野画像のスタックをIz(x,y)として定義しよう。ただし、z∈1、...、Nは、焦点の上のフレームI1から始まり、焦点の下のINで終わるフレームを定義し、x,yは、n×m画像内の空間ピクセル座標である。試料を通して焦点を合わせることによって撮像されるスタックは、焦点を完全に外れているフレームを含むが、一部は焦点が合っているか、または部分的に焦点が合っていると言える。通常、明視野画像の分析では、焦点はずれフレームを完全に無視し、それによってスタック内のデータの大半を省く。おそらく、焦点スタックを利用するための最も一般的な方法は、いくつかのデータ駆動型発見的手法を用いて、焦点が合っているフレームを選択し、それのみを使ってその後の分析を行うことである。細胞集団の明視野画像スタックは、分析で利用可能ないくつかの特性を有する。焦点が合っているフレームに来る前に、細胞は、明るい、ぼやけた対象として見える(つまり、明るいスポットであるように見える)。最適な焦点レベルの方へ移動するにつれ、細胞の光量は急激に変化し、ほとんど透明になるが、細胞に焦点が合っているときには細部は見える。さらに、焦点が合っているフレームから離れるにつれ、細胞は再びぼやけてくるが、高い光量で見える代わりに、このときには細胞は低い光量を有する(つまり、暗いスポットのように見える)。
【0076】
われわれの提案しているフレームワークにおける重要な要素の1つは、画像スタックが2つに分けて処理されるという点である。これはフレームNlを、上半分(または上側の群)がフレームI1(x,y)...INl(x,y)からなり、その後下半分(または下側の群)がフレームINl+1(x,y)...IN(x,y)からなるように分割フレームとして定義することによる。したがって、フレームNlを定義することは、分析の残り部分にとって重要である。フレームNlは、例えば、スタックの真ん中でフレームを選択することによって選択されうるが、ただし、撮像は、ほぼ同じ数のフレームが焦点の上および下で撮られるようになされているものとする。フレームNlを選択するための他の選択肢は、J. M. Geusebroek、F. Cornelissen、A. W. Smeulders、およびH. Geerts、「Robust autofocusing in microscopy.」Cytometry、vol.39、no.1、1〜9頁、2000年1月、またはA. G. Valdecasas、D. Marshall、J. M. Becerra、およびJ. J. Terrero、「On the extended depth of focus algorithms for bright field microscopy.」Micron、vol.32、no.6、559〜569頁、2001年8月で説明されているように、当技術分野で知られているロバストなオートフォーカス法などの焦点が合っているフレームを決定するためのいくつかの発見的手法を使用することである。
【0077】
スタック視差に基づく検出
最初に、いわゆる視差ベースの細胞マーカ検出を定式化する。視差は、zスタックの異なるレベルを考えたときの細胞の異なる外観を指す。異なるレベルの細胞の外観における視差は、検出の基盤をなす。特に、焦点上の部分において明るい外観を有する細胞の特性、およびその一方で、焦点の下の暗い外観は、画像内の細胞の配置を特徴付けることが可能である。それに加えて、背景は、スタック全体を通して一般的に変化がないという事実は、視差ベースの検出を裏付けるもう1つの観察結果である。次に、
図9で説明されているフレームワークを考えよう。演算OP1(OP1HとOP1Lの両方)をz方向における中央値として設定することによって、スタックに基づき2つの投影を形成する。そこで、演算OP1Hは、
SH(x;y)=med{I1(x,y),I2(x,y),...,INl(x,y)} 式(7)
のように定義され、この式は、z寸法のピクセル毎の中央値であり、Nlは、スタックを分割するフレームを定義する。同様に、OP1Lは、
SL(x;y)=med{INl+1(x,y),INl+2(x,y),...,IN(x,y)} 式(8)
のように定義される。
【0078】
式7および式8からの出力は、いわゆるスタック記述子SHおよびSLである。とりわけ、スタック内のすべてのフレームは、スタック記述子を構築するときに考えられる。全zスタックを利用することによって、異なる焦点レベルで出現する物体を検出することができる。フレームワークは、いっさい演算を制限しないことに留意されたい。例えば、中央値演算は、百分位の特別な場合として見なせ、OP1Hを第P百分位として、OP1Lを第1−P百分位として選択することによって、フレームワークの他の修正を行うことができる。さらに、中央値フィルタも、スタック・フィルタのファミリの特別な場合として見なせる(J. AstolaおよびP. Kuosmanen、Fundamentals of nonlinear digital filtering、CRC Press、1997年)。他の実施形態では、スタック・フィルタは、J. Yoo、E. Coyle、およびC. Bowman、「Dual stack filters and the modified difference of estimates approach to edge detection」IEEE Transactions on Image Processing、vol.6、1634〜1645頁、1997年で説明されているように中央値の代わりに検出を可能にするために適用することが可能である。
【0079】
次いで、演算OP2を使用してスタック記述子を比較する。ここで、OP2は、記述子のピクセル毎の差分として定義される。したがって、スタック記述子差分として称される、この結果は、
D(x,y)=SH(x,y)−SL(x,y)
で定義される。
【0080】
明視野画像スタックの一般的特性−背景はむしろ変化せず、細胞は上半分において明るく、下半分において暗い−を思い出せば、この正反対の特性の差によって、細胞が強調され、背景が抑制される画像が形成されると仮定できる。その結果、細胞の検出は、演算OP3で差分画像Dを分割することによって実行されうる。ここで、自動化された方法で閾値tmeを決定するために、J. KittlerおよびJ. Illingworth、「Minimum error thresholding」、Pattern Recognition、vol.19、41〜47頁、1986年において説明されている最小誤差閾値化法を使用し、初期細胞検出は、
BW(x,y)=1、D(x;y)>tmeの場合、BW(x,y)=0、それ以外の場合 式(9)
となる。しかし、原則として、蛍光標識された画像からの細胞核検出において適用可能な方法は、ここではOP3としても使用可能である。
【0081】
最適な光量フレームに基づく検出
フレームワークの他の実現は、焦点が合っているレベルの前のスタック内の細胞の明るさが他の方法で利用されるときに得られる。このときに、最初の演算OP1Hは、単純に基準
【0082】
【数6】
によりスタック内のフレームのうちの1つのフレームI
jを選ぶが、ただし、zはスタック内のフレームを定義し(z∈1,...,Nl)、p
izは光量ヒストグラムから求めることができるフレームz内の光量iの確率であり、Lはスタック内の光量最大値であり、lはスタック内の光量の第P百分位(P∈[0,1]として与えられる)に対応する光量として定義される。この演算は、スタック光量における最上位1−Pランクに属する明るいピクセルの最高数を有するフレームを選ぶ。次に、Pを0.995に設定すると、最上位0.5%のピクセル値の大半を有するフレームが得られ、実際、このフレームは、細胞をぼけてはいるが、明るい物体として示している。視差法と異なり、このアプローチでは、さらなる分析のために、すべてのフレームに基づいてスタック記述子フレームを作成する代わりに、元のフレームの1つを使用する。ここで、OP1Lの詳細な定義を省略するが、これは、式10においてスタックの上半分を下半分で置き換えることによって得られる。
【0083】
半分にわけたスタックの両方からの式10の基準を最大化する最適な光量フレームを選択した後に、第2の演算OP2は、実現可能な焦点範囲から来るそれら2つからフレームを選択する(この場合、フレームは、明るいスポットとして見える細胞を有するべきであり、したがって、演算は焦点の上のスタックを発生元とするフレームを選ぶべきである)。これは、典型的には、細胞の明るい外観が最初の半分においてピークとなり、したがってOP1によって選択された2つの最大値から、式10で表される基準に対しより大きな値を持つものが正しいものであると仮定することによって実行されうる。同様に、スタック視差法のように、ここでもまた、核分割において典型的な多数の演算が適用可能である。比較のため、われわれは、前のように同じ最小誤差閾値化を適用する。
【0084】
焦点微分に基づく検出
フレームワークの第3の実現は、視差ベースの方法と同じ原理に依存する、つまり、焦点の上から焦点の下へ移動するときに、細胞領域は、通常、明るいスポットから暗いスポットに変わり、細胞境界の外側または近くにある領域はそれと反対の挙動を示し、背景はむしろ一定に留まる。そのため、導関数の方向を検出の基盤として使用することが可能である。OP1(OP1HおよびOP1Lの両方に対する)を
【0085】
【数7】
として定義しよう。
【0086】
検出結果
これらの結果は、典型的な細胞画像分析事例において細胞検出フレームワークをどのように使用できるかの例となっている。さらに詳細に、われわれは、このフレームワークで、細胞が密集しているときに明視野画像スタックから細胞定量化をどのように行えるか、また明視野画像のみを使用して細胞検出を細胞追跡の基盤としてどのように使用できるかを示す。
【0087】
画像スタックからの細胞検出
蛍光標識されている細胞集団画像に対する典型的な分析パイプラインは、核が標識されているチャネルからの細胞検出(ときには一次物体検出と称される)で開始し、次いで、他の蛍光チャネルからの細胞境界検出(二次物体検出)へ進む。細胞外形検出は、明視野画像からも可能であるが、細胞核標識が行われないため、細胞が接近して配置されている場合に問題が生じる。ここで、フレームワークを核標識法の代替手段としてどのように使用できるかを示す。投影ベースの細胞外形検出と併せたこの方法は、蛍光標識法と同等の全細胞画像分析の問題を解決する。
【0088】
われわれは、40倍の倍率で撮像された細胞の全部で12個の明視野画像スタックからの細胞検出を試験した。検出精度は、正しく検出された細胞(真陽性、tp)、偽検出(偽陽性、fp)、および検出漏れ(偽陰性、fn)を観察することによって決定した。これらの数字を使って、検出精度を記述する一般に使用される計量、つまり、精度p=tp/(tp+fp)、リコールr=tp/(tp+fn)、およびFスコア=2×精度×リコール=(精度+リコール)を計算した。これらの結果を、表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
フレームワークによって生細胞監視が可能になる
ここで、提案されたフレームワークを使用することによってマクロファージ細胞追跡の一例を示す。試験のため16時間にわたって5分間隔で撮像した、193個の画像スタックの集合を使用した。細胞検出は、「焦点微分に基づく検出」で説明されている演算とともに提案されているフレームワークを使用することによって行い、X. Chen、X. Zhou、およびS. Wong、「Automated segmentation, classification, and tracking of cancer cell nuclei in time-lapse microscopy」、IEEE Transactions on Biomedical Engineering、vol.53、no.4、762〜766頁、2006年の核追跡法を細胞の追跡に使用した。追跡結果は、
図18に示されている。
【0091】
提案されているフレームワークは、スタックを処理するために使用される操作を修正することによってさまざまな分析パイプライン内にカスタマイズできる。特に、これらの方法は、手動初期化、シード点または標識付けを必要とせず、これらは、細胞核標識法を細胞マーカとして使用するための潜在的代替手段として考えることができる。実際、核標識法の代替手段は、処理されたスタックからの細胞マスク分割に対し標準蛍光分析ソフトウェア(A. Carpenter、T. Jones、M. Lamprecht、C. Clarke、I. Kang、O. Friman、D. Guertin、J. Chang、R. Lindquist、J. Moffat、P. Golland、およびD. Sabatini、「CellProfiler: image analysis software for identifying and quantifying cell phenotypes.」Genome Riot、vol.7、no.10、R100頁、2006年)を使用することによって実証された。このフレームワークは、蛍光標識された画像の典型的な特性を共有するように明視野画像スタックを変換する。これの結果、適切な画像スタックが利用可能である限り、蛍光顕微鏡用に開発された多種多様な分析方法が、明視野画像に対し適用可能になった。また、フレームワークを使用しても、細胞構造および機能を細部をさらに調べるために蛍光標識法を使用する可能性がなくなるわけではないことに留意されたい。実際、このフレームワークを使用することで、細胞核および細胞体標識法に必要なチャネルを置き換えることによって特異的細胞区画を標識するための1つ乃至2つの追加の蛍光チャネルを使用することが可能になる。
【0092】
定義
例えば、特定の焦点状態で結果を記録することなど、撮像操作または画像取得からの結果を記録することは、本明細書では、記憶素子、機械可読記憶媒体、または記憶装置に出力データを書き込むことを意味すると理解され、またはそのように定義される。本発明で使用されうる機械可読記憶媒体は、磁気フロッピー(登録商標)・ディスクおよびハードディスクなどの電子、磁気、および/または光学記憶媒体、DVDドライブ、いくつかの実施形態ではDVDディスク、CD−ROMディスク(つまり、読み出し専用光学記憶ディスク)、CD−Rディスク(つまり、1回だけ書き込むことができ、何回でも読み出せる光学記憶ディスク)、およびCD−RWディスク(つまり、書き換え可能光学記憶ディスク)のうちのどれかを使用できるCDドライブ、およびRAM、ROM、EPROM、コンパクト・フラッシュ・カード、PCMCIAカード、あるいはSDまたはSDIOメモリなどの電子記憶媒体、および記憶媒体を収納し、記憶媒体との間で読み出しおよび/または書き込みを行う電子コンポーネント(例えば、フロッピー(登録商標)・ディスク・ドライブ、DVDドライブ、CD/CD−R/CD−RWドライブ、またはコンパクト・フラッシュ/PCMCIA/SDアダプタ)を含む。機械可読記憶媒体の技術分野において当業者に知られているように、データ記憶のための新しい媒体およびフォーマットは、絶えず考案されており、将来利用可能になる可能性のある使いやすい市販の記憶媒体および対応する読み出し/書き込みデバイスも、特に記憶容量の増大、アクセス速度の高速化、小型化、および格納される情報のビット当たりのコスト低減のいずれかが実現した場合に、使用するのに適切なものとなる可能性がある。穿孔紙テープまたは穿孔カード、磁気記録テープ、磁気ワイヤ、印刷文字(例えば、OCRおよび磁気符号化記号)ならびに1次元および2次元のバーコードなどの機械可読記号の光学的または磁気的読み取りなどの、よく知られている旧式の機械可読媒体も、特定の条件の下での使用に利用可能である。後で使用するため画像データを記録すること(例えば、画像をメモリまたはデジタル・メモリに書き込むこと)を実行して、記録されている情報を出力として、ユーザに対して表示するためのデータとして、または後から使用するために利用可能にすべきデータとして使用するようにできる。このようなデジタル・メモリ素子またはチップは、スタンドアロンのメモリ・デバイスであるか、または注目するデバイス内に組み込むことができる。「出力データを書き込むこと」または「画像をメモリに書き込むこと」は、本明細書では、変換されたデータをマイクロコンピュータ内のレジスタに書き込むことを含むものとして定義される。
【0093】
「マイクロコンピュータ」は、本明細書では、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、およびデジタル・シグナル・プロセッサ(「DSP」)と同義として定義される。例えば、「ファームウェア」としてコーディングされている撮像または画像処理アルゴリズムを格納する、マイクロコンピュータによって使用される記憶域は、マイクロコンピュータ・チップの物理的内部にあるメモリ内に配置されるか、またはマイクロコンピュータの外部のメモリに配置されるか、または内部メモリと外部メモリとの組み合わせのメモリ内に配置されうることは理解される。同様に、アナログ信号は、スタンドアロンのアナログ−デジタル・コンバータ(「ADC」)あるいは1つまたは複数のADCによってデジタル化されうるか、または多重ADCチャネルをマイクロコンピュータ・パッケージ内に配置することができる。また、フィールド・プログラマブル・アレイ(「FPGA」)チップまたは特定用途向け集積回路(「ASIC」)チップは、ハードウェアの論理回路を使用して、またはマイクロコンピュータのソフトウェア・エミュレーションを使用して、またはこれら2つの組み合わせを使用してマイクロコンピュータ機能を実行できることも理解される。本明細書で説明されている本発明の特徴のどれかを有する装置は、全体が1つのマイクロコンピュータで動作可能であるか、または複数のマイクロコンピュータを備えることができる。
【0094】
本発明の説明に従って計装の制御、信号の記録、信号またはデータの分析を行うのに有用な汎用プログラム可能コンピュータは、パーソナル・コンピュータ(PC)、マイクロプロセッサ・ベースのコンピュータ、ポータブル・コンピュータ、または他の種類の処理デバイスのどれかとすることができる。汎用プログラム可能コンピュータは、典型的には、中央演算処理装置、機械可読記憶媒体を使用して情報およびプログラムの記録および読み出しを行うことができる記憶装置またはメモリ・ユニット、有線通信デバイスまたは無線通信デバイスなどの通信端末、ディスプレイ端末などの出力デバイス、およびキーボードなどの入力デバイスを備える。ディスプレイ端末は、タッチ・スクリーン・ディスプレイとすることができ、その場合、これは、表示デバイスと入力デバイスの両方の機能を持つことができる。マウスまたはジョイスティックといったポインティング・デバイスなどの異なる、および/または追加の入力デバイスが存在し、音発生装置、例えば、スピーカー、第2のディスプレイ、またはプリンタなどの異なる、または追加の出力デバイスが存在しうる。コンピュータは、例えば、いくつかのバージョンのWindows(登録商標)、MacOS、またはUNIX(登録商標)、またはLinuxのうちのどれか1つなどの、さまざまなオペレーティング・システムのうちのどれか1つの下で動作することができる。汎用コンピュータのオペレーションで得られた計算結果は、後で使用するために格納することができ、および/またはユーザに対して表示することができる。最低限でも、それぞれのマイクロプロセッサ・ベースの汎用コンピュータは、マイクロプロセッサ内のそれぞれの計算ステップの結果を格納するレジスタを有し、そこで、その結果は一般的に、後で使用するためにキャッシュ・メモリ内に格納される。
【0095】
電気および電子装置の多くの機能は、ハードウェア(例えば、配線論理回路)、ソフトウェア(例えば、汎用プロセッサ上で動作するプログラム内に符号化された論理回路)、およびファームウェア(例えば、必要に応じてプロセッサ上で動作させるために呼び出される不揮発性メモリ内に符号化された論理回路)で実装することができる。本発明は、ハードウェア、ファームウェア、およびソフトウェアの1つの実装を、ハードウェア、ファームウェア、およびソフトウェアの異なる実装を使用する同等の機能の他の実装の代わりに使用することを企図する。実装が伝達関数によって数学的に表現されうる、つまり、指定された応答が伝達関数を示す「ブラック・ボックス」の入力端に加えられる特定の励起に対して出力端に生成される範囲において、伝達関数の部分またはセグメントのハードウェア、ファームウェア、およびソフトウェア実装の任意の組み合わせを含む、伝達関数の任意の実装は、実装の少なくとも一部がハードウェアで実行される限り本明細書において企図される。
【0096】
理論的検討
本明細書で述べた理論の説明は、正しいものと考えられるけれども、本明細書で説明され、また特許請求の範囲に記載されているデバイスの動作は、理論の説明の正確さまたは有効性に依存しない。つまり、本明細書で提示されている理論と異なる基礎に基づき観察された結果を説明できる理論の発展が後であっても、本明細書で説明されている発明を損なうことはない。
【0097】
明細書に明記されている特許、特許出願、または公開は、参照により本明細書に組み込まれる。参照により本明細書に組み込まれると言われるが、本明細書において明示的に記載されている既存の定義、陳述、または他の開示資料と食い違う資料、またはその一部は、その組み込まれている資料と本発明の開示資料との間に食い違いが生じない範囲においてのみ組み込まれる。食い違いが生じた場合、その食い違いは、好ましい開示として本発明の開示に有利なように解決されるものとする。
【0098】
本発明は、図面に例示されているように好ましい様式を参照しつつ具体的に図示され、説明されているが、当業者であれば特許請求の範囲によって定められているとおりに本発明の精神および範囲から逸脱することなく細部のさまざまな変更を加えうることを理解するであろう。
【0099】
付録A
MATLABコード
function proj=projstack(stack)
% 3D画像スタックを2Dに投影するためのPROJSTACK法
%
% IN: スタック x*y*z行列、画像の3Dスタック
%
% このMatlab関数は、以下の論文の補足資料の
% 一部である。
%
% J. Selinummiら、「Bright field microscopy as an alternative to whole cell staining in % automated analysis of macrophage images」
%
% この関数の使用に際しては、著者らにきちんと謝意を表明するよう
% (著者らからの許諾に対する引用または要請)、
% 心よりお願いしたい。
%
% ウェブサイト: http://sites.google.com/site/brightfieldorstaining
%
%
% 著者: Jyrki Selinummi <jyrki.selinummi@tut.fi>
stack=double(stack);
% MADは、ある程度の処理時間を必要とする唯一の投影であり、現在は
% forループを使用しただけで実装されている
% 必ずしもこの方法を必要としないのであれば、コメントアウトすると
% 処理が著しく高速化される
proj.mad=zeros(size(stack, l),size(stack,2));
proj.mad_mean=zeros(size(stack, l ),size(stack,2));
for iter=l:size(stack,1)
for iter2=1:size(stack,2)
proj.mad(iter,iter2)=mad(stack(iter,iter2,:),l );
proj.mad_mean(iter,iter2)=mad(stack(iter,iter2,:),0);
end
end
proj. mad=scale_image(proj.mad);
proj.mad_mean=scale_image(proj.mad_mean);
% IQR
proj.iqr=scale_image(iqr(stack,3));
% 平均投影
proj.mean=scale_image(mean(stack,3));
% STD投影
proj.std=scale_image(std(stack,0,3));
% COV投影
proj.cov=scale_image(std(stack,0,3)./mean(stack,3));
% スケーリングされたCOV投影
proj.cov_scaled=imadjust(std(stack,0,3)./mean(stack,3),[0.01 0.99]);
function out=scale_image(in)
% データを0から1までの間でスケーリングする
in=double(in);
in=in-min(in(:));
out=in/max(in(:));