(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5658035
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】酸化モリブデンで作られた電極を製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20141225BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20141225BHJP
H01L 31/0749 20120101ALI20141225BHJP
【FI】
H01L31/04 260
H01L31/04 420
H01L31/06 460
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-528457(P2010-528457)
(86)(22)【出願日】2008年10月8日
(65)【公表番号】特表2011-501404(P2011-501404A)
(43)【公表日】2011年1月6日
(86)【国際出願番号】FR2008051817
(87)【国際公開番号】WO2009053608
(87)【国際公開日】20090430
【審査請求日】2011年8月26日
(31)【優先権主張番号】0758271
(32)【優先日】2007年10月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】オーブレイ,ステファヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンケ,ニコラス
【審査官】
堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−043122(JP,A)
【文献】
特開平10−107015(JP,A)
【文献】
特開昭59−200417(JP,A)
【文献】
特開2003−331711(JP,A)
【文献】
特開平07−115185(JP,A)
【文献】
特開昭61−016572(JP,A)
【文献】
特開2007−109842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/0224
H01L 31/04 − 31/078
H01L 31/18 − 31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その一面である内面がモリブデン導電素子(2)を受ける太陽電池用ガラス基板(1’)を製造するための方法であって、
該ガラス基板(1’)上にいくつかの異なったモリブデン層を形成することからなるステップを含み、これらの層の少なくとも一層は酸化モリブデンの濃度が高い濃化層であり、該濃化層が、1〜75原子百分率の酸素を含み、
該いくつかの異なったモリブデン層が、マグネトロンスパッタリング法によって形成され、
該濃化層が、該モリブデン導電素子を製造するステップの際に、酸素、オゾンO3、または二酸化炭素CO2若しくは水蒸気H2Oを含む酸素原子を含むガスの混合物、を含む含酸素化合物を注入することによって得られ、
該注入は、装置のアルゴン供給ラインに該含酸素化合物の第2の供給を加えることによって行われ、該注入される含酸素化合物/アルゴンの圧力、流量、及び濃度が制御される、
ことを特徴とする、基板の製造方法。
【請求項2】
その一面である内面がモリブデン導電素子(2)を受けるガラス基板(1’)を用いて太陽電池を製造するための方法であって、
該ガラス基板(1’)上にいくつかの異なったモリブデン層を形成することからなるステップを含み、これらの層の少なくとも一層は酸化モリブデンの濃度が高い濃化層であり、該濃化層が、1〜75原子百分率の酸素を含み、
該いくつかの異なったモリブデン層が、マグネトロンスパッタリング法によって形成され、
該濃化層が、該モリブデン導電素子を製造するステップの際に、酸素、オゾンO3、または二酸化炭素CO2若しくは水蒸気H2Oを含む酸素原子を含むガスの混合物、を含む含酸素化合物を注入することよって得られ、
該注入は、装置のアルゴン供給ラインに該含酸素化合物の第2の供給を加えることによって行われ、該注入される含酸素化合物/アルゴンの圧力、流量、及び濃度が制御され、
カルコパイライト吸収剤に基づく機能層(3)を、該モリブデン導電素子(2)上に堆積し、該機能層(3)を、該機能層(3)と一緒にpn接合の形成を可能とする硫化カドミウム(CdS)の層(4)で被覆し、該CdS層(4)を、真性酸化亜鉛(ZnO:i)で形成された結合層(5)で被覆し、該結合層(5)を、透明導電性酸化物(TCO)の層(6)で被覆する、
ことを特徴とする、太陽電池の製造方法。
【請求項3】
該注入される酸素が、酸素及びアルゴンを含む混合物からもたらされることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該用いられるアルゴンが、マグネトロンスパッタリングを実施するために使用されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該濃化層が、該導電素子(2)が該基板(1’)と接する面に形成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
該濃化層が、20〜75原子百分率の酸素を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該濃化層が、該導電素子(2)の該基板(1’)に接する面とは反対側の自由表面上に形成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
該濃化層が、5〜40原子百分率の酸素を含むことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該濃化層がいくつかの層からなり、該導電素子(2)の厚みに沿って配置されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
該濃化層が、該導電素子(2)の厚み中で、酸化モリブデンの濃度勾配に従って、多層構造に分布することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該酸化モリブデンの最大濃度を有する層が該基板(1’)と接することを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
該酸化モリブデンの最大濃度を有する層が、該導電素子(2)の該基板(1’)に接する面とは反対側の自由表面の位置に配置されることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
該濃化層における酸素濃度が、1〜75原子百分率の濃度勾配の分布を有することを特徴とする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
該酸化モリブデンが、MoO、MoO2、MoO3、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるか、並びに/または、含まれる酸素が化学量論比超若しくは化学量論比未満のMoO、MoO2、MoO3、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
該導電素子(2)が太陽電池の電極を構成することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
バリア層が、該モリブデン層よりも前に堆積され、該バリア層が、アルカリに対するバリアを構成し、該バリア層がシリコンの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物、またはアルミニウムの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物、またはチタンの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物、またはジルコニアの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物からなり、単独でまたは組み合わせて使用されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、太陽電池の構造に入れる電極を構成するように設計された導電素子を備えた基板、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの太陽電池の構造において、通常、一般的なソーダライムシリカガラスからなる非導電性基板が用いられ、その基板の内面(空気面と呼ばれる)に、吸収材と完全に密着するように設計された裏面電極と呼ばれる導電性電極が堆積されることが知られている。
【0003】
吸収材は、好ましくは、銅、インジウム、及びセレニウムを概して含む三元カルコパイライト(chalcopyrite)化合物からなることができる。この化合物の層は、CISe
2吸収材層とよばれる。吸収材層にはまた、ガリウム(例えば、Cu(In,Ga)Se
2、またはCuGaSe
2)、アルミニウム(例えばCu(In,Al)Se
2)、または硫黄(例えばCuIn(Se,S))を加えることができる。本明細書において、それらは概してカルコパイライト吸収材という。
【0004】
明らかなように、裏面電極は、いくつかある特性の中でも特に、できるだけ低い電気抵抗を有するべきである。そのため、モリブデンが概して、多くの利点、特にその低抵抗率並びにセレニウム及び硫黄に対する耐性を有するという理由から、高価格にも関わらず、太陽電池の裏面電極を構成するために選ばれる。
【0005】
この種類の太陽電池に求められる高い性能を達成するためには、カルコパイライト吸収材層の結晶成長の正確な制御が必要であることが知られている。カルコパイライト吸収材層の粒子の成長は、モリブデン/吸収材の界面の領域における制御された量のナトリウム(Na)の存在によって非常に明確に改良され、吸収材の欠陥密度を低減することができ、その導電性を向上することができる。
【0006】
必要なNaは外部に由来することができ、特にNaF、Na
2O
2、Na
2Seの添加に由来することができ、または内部に由来することができ、すなわちNa貯蔵層としての機能を有するガラス基板自体に由来することができる。このガラス基板に由来する技術によれば、Naに透過性のモリブデンの層が、ガラス基板、好ましくはソーダライムシリカガラス上に堆積され、太陽電池を製造するプロセスにおいて従来と同じように施される熱アニールの際に、Naが、基板から、Mo/吸収材の界面に自由に拡散し、上述の機能を確保することを可能とする。
【0007】
この技術を実施するときに直面する困難なものの一つは、実際に、アニール処理の際にモリブデン層を通して拡散するNaの量について、部分的及び不正確な量でしか制御することができないことである。
【0008】
この困難性の原因のいくつかは良く知られており、一つは、ガラス基板の表面におけるNaの不均一な分布であり、他方では、ガラス基板の上に堆積するモリブデン層の特性の非均一性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このたび、太陽電池におけるモリブデン層のNa含有量が、この層の酸化モリブデンの含有量に近い相関性があることを発見し、立証した。
【0010】
それゆえに、Na含有量及びそれによるカルコパイライト吸収材層の結晶品質が、モリブデン層の酸素含有量の制御と強い関連があるということを結論付けることができる。
【0011】
本発明の目的は、太陽電池の製造するときに、太陽電池の上部活性層に拡散し得るNaの量を制御することを可能とする基板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、特に太陽電池の構造に入れるように設計された基板の、その一面である内面がモリブデン系導電素子を受けるように設計された基板であって、導電素子がいくつかのモリブデン系の層で形成され、これらの層の少なくとも一層は酸化モリブデンの濃度が高いことを特徴とする基板に関する。
【0013】
本発明の好ましい実施態様において、所望により、次の構成の一つ及び/またはいくつかを、さらに加えることができる。
−濃化層が、基板と接する導電素子の表面に形成され、濃化層が、1〜75原子百分率、好ましくは20〜70原子百分率の酸素を含む。
−濃化層が、導電素子の自由表面に形成され、濃化層が、1〜75原子百分率、好ましくは5〜40原子百分率の酸素を含む。
−いくつかの濃化層が、導電素子の厚みに沿って配置されている。
−濃化層が、導電素子の厚み中で、酸化モリブデンの濃度勾配に従って、多層構造に分布している。
−酸化モリブデンの最大濃度を有する層が、基板と接しているか、または導電素子の自由表面の位置に配置されている。
−原子状酸素の濃度勾配が1〜75%の範囲である。
−酸化モリブデンが、その酸素含有量によって過剰当量または不足当量のMoO及び/またはMoO
2及び/またはMoO
3からなる。
−導電素子が、光電池の電極を構成する。
【0014】
本発明はまた、上述の基板を含むことを特徴とする太陽電池に関する。
【0015】
本発明はまた、特に太陽電池の構造に入れるように設計された基板の、その一面である内面がモリブデン系導電素子を受けるように設計された基板を製造するための方法であって、基板上にいくつかのモリブデン系の層を形成することからなるステップを含み、これらの層の少なくとも一層は酸化モリブデンの濃度が高いことを特徴とする、基板の製造方法に関する。
【0016】
本発明の好ましい実施態様において、所望により、次の構成の一つ及び/またはいくつかを、さらに加えることができる。
−前記層が、マグネトロンスパッタリング法によって形成される。
−酸化モリブデンの濃度が高い層が、モリブデン系の導電素子を製造するステップの際に、酸素、オゾンO
3、または二酸化炭素CO
2若しくは水蒸気H
2Oなどの原子形態の酸素を含むガスの混合物などの、含酸素化合物を注入することよって得られる。
−注入される含酸素化合物が、酸素、またはオゾンO
3、または二酸化炭素CO
2若しくは水蒸気H
2Oなどの原子形態の酸素を含むガスの混合物、及びアルゴンの混合物から由来する。
−用いられるアルゴンが、マグネトロンスパッタリングを実施するために使用される。
−含酸素化合物の存在下においてモリブデン層に熱アニールを行うことによって、酸化モリブデンの濃度が高い層が、導電素子の内面に形成される。
【0017】
本発明の実施の形態を、以下に、添付の図面を参照しながら、限定されない例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】太陽電池の裏面電極のモリブデン系層における、ナトリウム及び酸素のそれぞれの濃度の間に存在する関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の方法にしたがって製造された太陽電池の模式図である。
【
図3】マグネトロンスパッタリングデバイスの模式図である。
【
図4】酸化モリブデンの下層が間に堆積されたモリブデン層で覆われた基板の模式図である。
【
図5】モリブデン層が被覆され、モリブデン層が酸化モリブデン層で被覆された基板の模式図である。
【
図6】モリブデン層で覆われたガラス基板、並びにモリブデン層及び酸化モリブデン層で覆われたガラス基板のそれぞれの、ナトリウムについてのSIMS(2次イオン質量分析)プロファイルを表すグラフである。
【
図7】4層、8層、及び16層からそれぞれ形成されたモリブデンの導電素子についての、Na及びOの各濃度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施態様によれば、太陽電池は、まず第1に、太陽電池の裏面電極と呼ばれる電極を構成するように設計された導電素子2で覆われた透明基板1’から製造される。
【0020】
基板1’は好ましくは、質量のほとんど(すわなち、少なくとも98質量%)またはその全てが、可能な範囲で最良の透明性、及び好ましくは用途(太陽電池)に有益なスペクトル部分であって概して380nm〜1200nmのスペクトルにおいて0.01mm
-1未満の線吸収、を有する1つまたは複数の材料からなる、ソーダライムシリカガラスで構成される。
【0021】
本発明の好ましい実施態様によれば、モリブデン系の電極2は、
図3に模式的に表されたこの種類の方法において良く知られたマグネトロンスパッタリング法によって、ガラス基板1’に堆積される。この方法は、いくつかのモリブデンターゲットa,b,c,d,...nを使用し、その下側に、被覆するガラス基板1’を通して、それによって、使用される各ターゲットに対応した2a,2b,2c,...2nの各層で形成されたモリブデンの厚みを達成する。
【0022】
マグネトロンスパッタリングによる基板1’に電極を形成する技術によって、電極2の厚みを形成する各層に、完全に制御された固有の特性を与えることができる。
【0023】
このたび、本発明者らは、モリブデン層に存在するナトリウム濃度が、Naのマイグレーションによって、その酸化モリブデンの濃度と非常に密接な相関があることを立証した。この相関は、この層の酸素濃度の値に対するこの層のNa濃度の値を表す
図1に示される。
図1は、様々な製造時間にて基板に堆積したモリブデン層に対応した様々な点を示す。この曲線上の各点は、同じ試料について行ったナトリウム及び酸素の濃度についてのSIMS測定に対応する。
【0024】
本発明の第1実施態様において、酸化モリブデンの濃度が高いモリブデン層2aが、ガラス1’に接して堆積され、次いで、この層がいくつかの他の層で覆われて、モリブデン系の電極2を構成する、
図4に示すような基板を製造することが望ましい。
【0025】
これを製造するために、装置10の第1のターゲットaに、マグネトロンスパッタリング法を実施するための公知の方法で使用されるアルゴンを用いて、酸素、オゾンO
3、または二酸化炭素CO
2若しくは水蒸気H
2O若しくは好ましくは100ppm程度の少ない酸素濃度のアルゴン/含酸素化合物の混合物などの原子形態の酸素を含むガス混合物などの、含酸素化合物の流れを注入する。本発明の実施態様のこの例において、この注入は、装置に存在するアルゴン供給ラインに含酸素化合物の第2の供給を加えることによって行われ、注入される酸素系化合物/アルゴンの圧力、流量、及び濃度を正確に制御することができる。
【0026】
このようにして、
図4に示すように、酸化モリブデンの濃度が高い第1モリブデン層2aまたは下層が得られ、そして第1モリブデン層2aまたは下層が、電極2を形成するモリブデンの一連の多層で覆われる。
【0027】
この実施態様において、酸素でさらにドープすると下層の導電性が減少することが明らかであるが、導電性は電極2によって与えられるため、下層の導電性は臨界パラメータを構成しない。そのため、酸化モリブデンの酸素濃度は、良好なNa「ポンピング(pumping)」を提供する約1〜75原子百分率、好ましくは20〜75原子百分率の高い濃度であることができる。
【0028】
太陽電池を構成するために、次いで、公知の方法で、この電極2上に、カルコパイライト吸収層に基づく機能層3を堆積する。機能層3は、カルコパイライト層と一緒にpn接合の形成を可能とする硫化カドミウム(CdS)の薄層4で被覆される。実際、カルコパイライト材は概してn型にドープされ、CdS層はp型にドープされ、電流を生成するために必要なpn接合を形成することを可能とする。最後に、CdS層は、真性(ZnO:i)と呼ばれる酸化亜鉛で形成された結合層5で覆われる。
【0029】
太陽電池の第2の電極を形成するために、ZnO:i層が、TCO(透明導電性酸化物)と呼ばれる透明導電性酸化物の層6で覆われる。この導電性層6は、不必要に太陽電池の効率を減少させないように、可能な限り透明であるべきであり、機能層を構成する材料の吸収スペクトルに対応する全ての波長において高い光透過性を有するべきである。
【0030】
これらの様々な薄層の積層体7は、積層挿入部8、例えばポリウレタン(PU)、ポリビニルブチラール(PVB)、またはエチレンビニルアセテート(EVA)が介在し、図の最上部の透明基板1によって終端される。この組立体は、公知の方法で、シールまたは不浸透性樹脂を用いて周囲を封入される。このようにして、
図2に示す太陽電池が得られる。
【0031】
本発明の実施態様において、カルコパイライト吸収材の結晶化に必要なアニール処理の際に、ガラス基板に存在するNaが、酸化モリブデンの下層2aによって、飽和するまで「ポンピング」され、モリブデン系電極2との界面におけるNaの分布の均一化がもたらされる。このようにして、本発明によれば、Na貯蔵層が作られ、アニール処理の際に、その濃度の一定の供給を保証し、カルコパイライト吸収材の良好な結晶化が確保される。
【0032】
本発明はまた、一定の品質、並びに保証され、調整可能であり、それゆえに完全に制御されたNa濃度、を有する電極で被覆された基板を製造することを可能とする。このようにして、Naでモリブデン層を濃化する通常のステップを省くことが可能となる。
【0033】
図5に示す本発明の他の実施態様において、基板1’上に形成されたモリブデン系層2上に、酸化モリブデン層が堆積される。これを製造するために、前述の方法とは反対に、酸化モリブデンの濃度が高い層が、電極2を形成する層上に堆積される層2nとなるように、装置10の最後のターゲットnの酸素化が行われる。
【0034】
上記の実施態様は、2つの重要な利点を有する。まず第1に、「Na貯蔵層」は、カルコパイライト吸収材の層に近接して配置され、カルコパイライト吸収材の良好な結晶化が素早く且つ十分となるNaの供給が保証される。次に、この解決法は、基板を保管しているときの、基板の外側層の汚染の問題を解決する。
【0035】
実際、モリブデン系電極を製造する方法は、被覆された基板が架台に積み重ねられて保管され、吸収材料を含む層がモリブデン電極の表面に堆積されるプロセスにおいて、被覆された基板が繰り返し続けて使用されるという、連続的な方法であることが知られている。ここで、基板を架台に保管する工程において、モリブデン系層はガラス基板に面する。このナトリウムリッチな面は、モリブデン面を汚染しやすく、経時でモリブデン面を濃化しやすい。この制御されないドープのメカニズムは、繰り返しのモリブデン堆積工程の際に製造方法におけるずれ(drift)をもたらし得る。本発明によれば、外側層はNaで飽和されるため、その表面にNaの分布のばらつきを形成する危険性がない。
【0036】
この実施態様において、酸化モリブデンの濃化層を酸素で少なくともドープすることが有益であるように、酸化モリブデンの濃化層の導電性が必要である。その原子状酸素の濃度は、約1〜75%、好ましくは5〜40%であることができる。
【0037】
本発明はまた、マグネトロンスパッタリング装置10のターゲットa,b,c,...nの制御された酸素化を行うことによって、酸化モリブデンの濃化層を、電極2の厚み中に延在する濃度勾配にしたがって分布させることを可能とする。このようにして、1〜75原子百分率の酸素の濃度勾配、及び逆の濃度勾配を有することが可能となる。
【0038】
本発明によれば、マグネトロンスパッタリング装置10で用いられるターゲットの数n、並びにそれによる酸素をドープ可能な堆積する層の数を増加することによって、電極2の酸化モリブデンの濃度及びそれによるNaの濃度を調整することが可能である。したがって、一連の交代層、Mo//Mo−O//Mo//Mo−Oなどで形成される電極2を作ることが可能である。このようにして、
図7のグラフにみられるように、一定厚みの電極層について、電極の層の数が増加すると、同時にその酸素濃度が増加し、ひいてはNa濃度も増加する。
【0039】
本発明によれば、酸化モリブデン層は、マグネトロンスパッタリング法以外の任意の方法によって、基板1’及び/またはモリブデン系導電素子、すなわち電極2の自由表面に形成され得る。特に、酸化モリブデン層は、含酸素化合物の存在下において、熱アニールを施して、モリブデン電極2の表面を酸化することにより、モリブデン電極2上に形成され得る。
【0040】
図6に、モリブデン層で被覆したガラス基板、及びモリブデン系層が堆積され、熱アニール法によってその表面が酸化モリブデン層で覆われた本発明によるガラス基板のそれぞれの、ナトリウムについてのSIMSプロファイルを示す。本発明によるガラス基板について、酸化モリブデン層の位置にてNaの存在を立証する幅広いNaのピークの曲線が表れていることが分かる。
【0041】
もちろん、本発明によれば、基板の内面、すわなち、モリブデン層を受けるように設計された面(ガラス/Moの界面)、及びモリブデン層の自由表面、すわわち基板と反対の面(空気/Moの界面)に、同時に、酸化モリブデンの下層を堆積することができる。この変形例は、両方の技術の利点を組み合わせることを可能とする。
【0042】
本発明の他の変形例によれば、本発明はまた、モリブデン系層を堆積する前に、アルカリへのバリアを構成するように設計された層であって、特に、シリコンの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物、またはアルミニウムの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物、またはチタンの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物、またはジルコニアの窒化物、酸化物、若しくはオキシ窒化物からなることができ、単独でまたは組み合わせて使用される層で覆われた基板にも適用可能である。