特許第5658056号(P5658056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5658056
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】油圧式オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/12 20060101AFI20141225BHJP
【FI】
   F16H7/12 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-38321(P2011-38321)
(22)【出願日】2011年2月24日
(65)【公開番号】特開2012-172823(P2012-172823A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(72)【発明者】
【氏名】田中 唯久
(72)【発明者】
【氏名】里村 愛作
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−180898(JP,A)
【文献】 特開2001−221306(JP,A)
【文献】 特開平09−053693(JP,A)
【文献】 実開平07−006552(JP,U)
【文献】 特表2000−504395(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/097261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油が充填された底付きシリンダの底部上面にスリーブ嵌合孔を設け、そのスリーブ嵌合孔内に下端部が挿入されたスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入して、そのスリーブ内に圧力室を形成し、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの内底面間に、シリンダとロッドを伸張する方向に付勢するリターンスプリングを組込み、前記ばね座にリターンスプリングの上部を覆う筒状のスプリングカバーを設け、前記シリンダの上側開口部内に組込まれたシール部材の内周をスプリングカバーの外周に弾性接触させて、前記シリンダとスリーブ間に形成されたリザーバ室の上部開口を密閉し、前記スリーブと前記スリーブ嵌合孔の嵌合面間に前記リザーバ室と前記圧力室を連通する油通路を設け、前記スリーブの下端部内に、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなると閉じて圧力室と油通路の連通を遮断するチェックバルブを設け、前記シリンダの底部下面に設けられた連結片をエンジンブロックに回動可能に連結し、その連結部を中心にして揺動可能とされ、かつ、傾斜状に組み付けが可能とされた油圧式オートテンショナにおいて、
前記スリーブの軸心と直交してスリーブ嵌合孔の上側開口の中心を通り、前記連結部を中心に揺動可能なテンショナの揺動方向に延びる径方向の直線を基準線として、その基準線から周方向に位相がずれた位置に前記油通路の上端開口を配置し、その油通路が、平面十字状配置の4本の油通路からなり、それぞれの油通路の上端開口を前記基準線に対して周方向に45°位相ずれした位置に設けたことを特徴とする油圧式オートテンショナ。
【請求項2】
作動油が充填された底付きシリンダの底部上面にスリーブ嵌合孔を設け、そのスリーブ嵌合孔内に下端部が挿入されたスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入して、そのスリーブ内に圧力室を形成し、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの内底面間に、シリンダとロッドを伸張する方向に付勢するリターンスプリングを組込み、前記ばね座にリターンスプリングの上部を覆う筒状のスプリングカバーを設け、前記シリンダの上側開口部内に組込まれたシール部材の内周をスプリングカバーの外周に弾性接触させて、前記シリンダとスリーブ間に形成されたリザーバ室の上部開口を密閉し、前記スリーブと前記スリーブ嵌合孔の嵌合面間に前記リザーバ室と前記圧力室を連通する油通路を設け、前記スリーブの下端部内に、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなると閉じて圧力室と油通路の連通を遮断するチェックバルブを設け、前記シリンダの底部下面に設けられた連結片をエンジンブロックに回動可能に連結し、その連結部を中心にして揺動可能とされ、かつ、傾斜状に組み付けが可能とされた油圧式オートテンショナにおいて、
前記スリーブの軸心と直交してスリーブ嵌合孔の上側開口の中心を通り、前記連結部を中心に揺動可能なテンショナの揺動方向に延びる径方向の直線を基準線として、その基準線から周方向に位相がずれた位置に前記油通路の上端開口を配置し、その油通路が、対向配置の2本の油通路からなり、それぞれの油通路の上端開口を前記基準線に対して周方向に90°位相ずれした位置に設けたことを特徴とする油圧式オートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オルタネータやウォータポンプ、エアコンのコンプレッサ等の自動車補機を駆動するベルトの張力調整用に用いられる油圧式オートテンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクシャフトの回転を各種の自動車補機に伝えるベルト伝動装置においては、図7に示すように、ベルト31の弛み側にテンションプーリ32を支持する揺動可能なプーリアーム33を設け、そのプーリアーム33に油圧式オートテンショナAの調整力を付与して、上記テンションプーリ32がベルト31を押圧する方向にプーリアーム33を付勢し、ベルト31の張力を一定に保持するようにしている。
【0003】
上記のようなベルト伝動装置に使用される油圧式オートテンショナAとして、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。図8および図9はその特許文献1に記載された油圧式オートテンショナを示し、作動油が充填された底付きシリンダ1の底部上面にスリーブ嵌合孔3を設け、そのスリーブ嵌合孔3内に下端部が挿入されたスリーブ4内にロッド5の下部を摺動自在に挿入してスリーブ4内に圧力室6を形成し、上記ロッド5の上部に設けられたばね座7とシリンダ1の底部上面間にリターンスプリング8を組込んでロッド5とシリンダ1を伸張する方向に付勢している。
【0004】
また、ばね座7の下部にリターンスプリング8の上部を覆う筒状のスプリングカバー11を設け、上記シリンダ1の上部開口に組込まれたシール部材13の内周をスプリングカバー11の外周に弾性接触させてシリンダ1とスリーブ4間に密閉されたリザーバ室14を形成し、そのリザーバ室14と圧力室6をスリーブ嵌合孔3とスリーブ4の嵌合面間に形成され油通路15で連通し、上記スリーブ4の下端開口部にチェックバルブ17を組込んでいる。
【0005】
上記の構成からなる油圧式オートテンショナは、シリンダ1の底部下面に設けられた連結片2をエンジンブロックに回動自在に連結し、ばね座7の上面に設けられた連結片9を図7に示すプーリアーム33に連結して、ベルト31からテンションプーリ32およびプーリアーム33を介してシリンダ1とロッド5を収縮させる方向の押込み力が負荷された際に、チェックバルブ17を閉じ、圧力室6内に封入された作動油をスリーブ4の内径面とロッド5の外径面間に形成された微小すきま21に流動させ、その流動時の作動油の粘性抵抗により圧力室6内に油圧ダンパ力を発生させて上記押込み力を緩衝するようにしている。
【0006】
ここで、シリンダ1内に封入された作動油の封入量が多くなり過ぎると、オートテンショナが最も収縮する状態において、雰囲気温度の上昇による内部圧力の上昇により作動油漏れを生じるおそれがある。
【0007】
そこで、上記従来の油圧式オートテンショナにおいては、作動油の封入量を、シリンダ1とロッド5が相対的に最も収縮したオートテンショナの最収縮状態での内部体積の50%未満としている。この50%未満の作動油封入量は、シリンダ1とロッド5が最も伸長したオートテンショナの最伸長状態での内部体積の32%にほぼ相当する。
【0008】
ここで、上記のような気液二層構造の油圧式オートテンショナにおいては、その取付け時の傾斜角度が大きくなって作動油の油面が油通路15の上側開口15cから下位に配置されるような組み付けであると、シリンダ1とロッド5の伸長時にリザーバ室14内の空気が圧力室6内に吸入され、収縮時にその空気を圧縮するため、油圧ダンパ効果を発揮させることができなくなる。
【0009】
したがって、油圧式オートテンショナにおいては、傾斜状での組付けによる使用に際しては、作動油の油面が油通路15の上側開口15cから下位に配置されることのない組み付けとする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−275757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記従来の油圧式オートテンショナにおいては、圧力室6とリザーバ室14を連通する油通路15が4本とされて十字状の配置とされ、対向配置された2本の油通路15の一組が、スリーブ4の軸心と直交してスリーブ嵌合孔3の上側開口の中心を通り、オートテンショナの揺動可能な方向に延びる径方向の直線x−x(基準線x−x)を含む仮想垂直面上に配置されて、それぞれの油通路15の上側開口15cが基準線x−x上に配置されているため、オートテンショナの取付け傾斜角度を大きくとることができず、作動油の封入量との関係で垂直線からの傾斜角度αが45°を超えると、作動油の油面が油通路15の上側開口15cから下がり、取付け時の制約を受けやすいという問題があった。
【0012】
なお、図8は油圧式オートテンショナの傾斜角度αが、45°未満の状態を示し、作動油の油面は油通路15の上側開口15cからδだけ上位に位置している。
【0013】
この発明の課題は、取付け傾斜角度を大きくとることができるようにした油圧式オートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明においては、作動油が充填された底付きシリンダの底部上面にスリーブ嵌合孔を設け、そのスリーブ嵌合孔内に下端部が挿入されたスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入して、そのスリーブ内に圧力室を形成し、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの内底面間に、シリンダとロッドを伸張する方向に付勢するリターンスプリングを組込み、前記ばね座にリターンスプリングの上部を覆う筒状のスプリングカバーを設け、前記シリンダの上側開口部内に組込まれたシール部材の内周をスプリングカバーの外周に弾性接触させて、前記シリンダとスリーブ間に形成されたリザーバ室の上部開口を密閉し、前記スリーブと前記スリーブ嵌合孔の嵌合面間に前記リザーバ室と前記圧力室を連通する油通路を設け、前記スリーブの下端部内に、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなると閉じて圧力室と油通路の連通を遮断するチェックバルブを設け、前記シリンダの底部下面に設けられた連結片をエンジンブロックに回動可能に連結し、その連結部を中心にして揺動可能とされ、かつ、傾斜状に組み付けが可能とされた油圧式オートテンショナにおいて、前記スリーブの軸心と直交してスリーブ嵌合孔の上側開口の中心を通り、前記連結部を中心に揺動可能なテンショナの揺動方向に延びる径方向の直線を基準線として、その基準線から周方向に位相がずれた位置に前記油通路の上端開口を配置した構成を採用したのである。
【0015】
ここで、油通路は、平面十字状配置の4本の油通路からなるものであってもよく、あるいは、対向配置された2本の油通路からなるものであってもよい。油通路を4本とする場合は、それぞれの油通路の上端開口が前記基準線に対して周方向に45°位相ずれした位置に配置されるようにし、また、油通路を2本とする場合は、それぞれの油通路の上端開口が前記基準線に対して周方向に90°位相ずれした位置に配置されるようにする。
【発明の効果】
【0016】
この発明においては、上記のように、スリーブの軸心と直交し、スリーブ嵌合孔の上側開口の中心を通ってテンショナの揺動可能な方向に延びる径方向の直線を基準線とし、その基準線から周方向に位相がずれた位置に油通路の上端開口を配置したことにより、上記基準線上に油通路の上端開口が配置された従来のオートテンショナに比較して、そのオートテンショナの取付け時の傾斜角度を大きくとることができ、取付け時に制約を受けることが少ないオートテンショナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明に係る油圧式オートテンショナの実施の形態を示す縦断面図
図2図1の一部を拡大して示す断面図
図3図2のIII-III線に沿った断面図
図4図3のIV−IV線に沿った断面図
図5】この発明に係る油圧式オートテンショナの他の実施の形態を示す横断面図
図6図1に示す油圧式オートテンショナの傾斜状態での使用の一例を示す縦断面図
図7】補機駆動用ベルトの張力調整装置を示す正面図
図8】従来の油圧式オートテンショナを示す縦断面図
図9図8のIX−IX線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を図1乃至図6に基づいて説明する。図1に示すように、シリンダ1は底部を有し、その底部に下面にエンジンブロックに連結される連結片2が設けられている。
【0019】
連結片2には、一側面から他側面に貫通する軸挿入孔2aが設けられ、その軸挿入孔2a内に筒状の支点軸2bとその支点軸2bを回転自在に支持する滑り軸受2cとが組み込まれ、上記支点軸2b内に挿通されてエンジンブロックにねじ係合されるボルトの締め付けにより支点軸2bが固定され、その支点軸2bを中心にしてシリンダ1が揺動自在の取付けとされる。
【0020】
シリンダ1の底部上面には、スリーブ嵌合孔3が設けられ、そのスリーブ嵌合孔3内に鋼製のスリーブ4の下端部が圧入されている。スリーブ4内にはロッド5の下部が摺動自在に挿入され、そのロッド5の挿入によって、スリーブ4内に圧力室6が設けられている。
【0021】
ロッド5のシリンダ1の外部に位置する上端部にはばね座7が固定され、そのばね座7とシリンダ1の底面間に組込まれたリターンスプリング8は、シリンダ1とロッド5が相対的に伸張する方向に付勢している。
【0022】
ばね座7の上端には図7に示すプーリアーム33に対して連結される連結片9が設けられている。連結片9には一側面から他側面に貫通するスリーブ挿入孔9aが形成され、そのスリーブ挿入孔9a内にスリーブ9bと、そのスリーブ9bを回転自在に支持する滑り軸受9cとが組み込まれ、上記スリーブ9b内に挿通されるボルトによって連結片9がプーリアーム33に回転自在に連結される。
【0023】
ばね座7は成形品からなり、その成形時にシリンダ1の上部外周を覆う筒状のダストカバー10とリターンスプリング8の上部を覆う筒状のスプリングカバー11とが同時に成形されて、ばね座7に一体化されている。
【0024】
ここで、ばね座7は、アルミのダイキャスト成形品であってもよく、あるいは、熱硬化性樹脂等の樹脂の成形品であってもよい。
【0025】
スプリングカバー11は、ばね座7の成形時にインサート成形される筒体12によって外周の全体が覆われている。筒体12は、鋼板のプレス成形品からなる。
【0026】
シリンダ1の上側開口部内にはシール部材としてのオイルシール13が組込まれ、そのオイルシール13の内周が筒体12の外周面に弾性接触して、シリンダ1の上側開口を閉塞し、シリンダ1の内部に充填された作動油の外部への漏洩を防止し、かつ、ダストの内部への侵入を防止している。
【0027】
上記オイルシール13の組み込みにより、シリンダ1とスリーブ4との間に密閉されたリザーバ室14が形成される。リザーバ室14と圧力室6は、スリーブ嵌合孔3とスリーブ4の嵌合面間に形成された油通路15およびスリーブ嵌合孔3の底面中央部に形成された円径凹部からなる油溜り16を介して連通している。
【0028】
図2乃至図4に示すように、油通路15は、軸方向溝15aと、その軸方向溝15aの下端から半径方向内方に延びて油溜り16に連通する径方向溝15bとからなり、上記軸方向溝15aの上側開口15cは半径方向外方に向く長孔状とされている。
【0029】
油通路15は、4本とされ、その4本の油通路15は平面十字状の配置とされ、それぞれの油通路15の上側開口15cは、図3に示すように、基準線x−xに対して周方向に45°位置がずれている。
【0030】
ここで、基準線x−xとは、スリーブ4の軸心と直交してスリーブ嵌合孔3の上側開口の中心を通り、図1に示す支点軸2bを中心として揺動可能なオートテンショナの揺動方向に延びる径方向の直線(支点軸2bを中心としてオートテンショナを傾けた際の傾き方向の直線)をいう。
【0031】
図2に示すように、スリーブ4の下端部内にはチェックバルブ17が組み込まれている。チェックバルブ17は、圧力室6内の圧力がリザーバ室14内の圧力より高くなると閉鎖して、圧力室6と油通路15の連通を遮断し、圧力室6内の作動油が油通路15を通ってリザーバ室14に流れるのを防止するようになっている。
【0032】
ロッド5には、スリーブ4内に位置する下端部にリング溝18が形成され、そのリング溝18に嵌合した止め輪19はスリーブ4の内周上部に形成された段部20に対する当接によってロッド5を抜止めするようになっている。
【0033】
ここで、シリンダ1内に充填された作動油の封入量は、シリンダ1とロッド5が最も収縮したオートテンショナの最収縮状態での内部体積の70〜85%未満とされている。この70〜85%の作動油の封入量は、シリンダ1とロッド5が最も伸長したオートテンショナの最伸長状態での内部体積の40〜60%にほぼ相当している。
【0034】
また、スリーブ嵌合孔3の底面に設けられた油溜り16の容積は、作動油の最大封入量の10〜20%とされ、シリンダ1とロッド5が急激に伸長して圧力室6の容積が急激に大きくなった場合に、その油溜り16の作動油が圧力室6に送り込まれて圧力室6への作動油の供給が不足することのない大きさとされている。
【0035】
実施の形態で示す油圧式オートテンショナは上記の構成からなり、図7に示す補機駆動用ベルト31の張力調整に際しては、シリンダ1の閉塞端に設けた連結片2をエンジンブロックに連結し、かつ、ばね座7の連結片9をプーリアーム33に連結して、そのプーリアーム33に調整力を付与する。
【0036】
上記のようなベルト31の張力調整状態において、補機の負荷変動等によってベルト31の張力が変化し、上記ベルト31の張力が弱くなると、リターンスプリング8の押圧によりシリンダ1とロッド5が伸張する方向に相対移動してベルト31の弛みが吸収される。
【0037】
ここで、シリンダ1とロッド5が伸張する方向に相対移動するとき、圧力室6内の圧力はリザーバ室14内の圧力より低くなるため、チェックバルブ17が油通路15を開放する。このため、リザーバ室14内の作動油は油通路15から圧力室6内にスムーズに流れ、シリンダ1とロッド5は伸張する方向にスムーズに相対移動してベルト31の弛みを直ちに吸収する。
【0038】
一方、ベルト31の張力が強くなると、ベルト31から油圧式オートテンショナのシリンダ1とロッド5を収縮させる方向の押込み力が負荷される。このとき、圧力室6内の圧力はリザーバ室14内の圧力より高くなるため、チェックバルブ17は閉鎖して、圧力室6と油通路15の連通を遮断する。
【0039】
また、圧力室6内の作動油はスリーブ4の内径面とロッド5の外径面間に形成された微小すきま21に流れてリザーバ室14内に流入し、上記微小すきま21に流れる作動油の粘性抵抗によって圧力室6内に油圧ダンパ力が発生し、その油圧ダンパ力によって、油圧式オートテンショナに負荷される上記押込み力が緩衝されると共に、シリンダ1とロッド5は、押込み力とリターンスプリング8の弾性力とが釣り合う位置まで収縮する方向にゆっくりと相対移動する。
【0040】
実施の形態で示すように、スリーブ4の軸心と直交し、スリーブ嵌合孔3の上側開口の中心を通ってテンショナの揺動可能な方向に延びる基準線x−xから周方向に45°位相がずれた位置に油通路15の上側開口15cを位置させるとともに、シリンダ1内に充填された作動油の封入量を、シリンダ1とロッド5が最も収縮したオートテンショナの最収縮状態での内部体積の70〜85%未満とすることにより、図6に示すように、支点軸2bを中心にして油圧式オートテンショナを垂直線から60°傾斜させた取付け状態においても、作動油の油面は油通路15の上側開口15cから上位に配置されることになる。δは作動油の油面と油通路15の上側開口15c間の間隔を示している。
【0041】
このため、図6に示す傾斜状の取付け状態における使用において、シリンダ1とロッド5の伸長時に、リザーバ室14内の空気が油通路15から圧力室6内に吸い込まれるようなことはなく、図8に示す従来の油圧式オートテンショナに比較して、オートテンショナの取付け傾斜角度を大きくとることができ、取付け時に制約を受けることが少ないオートテンショナを得ることができる。
【0042】
図1乃至図4に示す実施の形態においては、スリーブ4とスリーブ嵌合孔3の嵌合面間に4本の油通路15を形成したが、油通路15の数は4本に限定されるものではない。
【0043】
図5では、油通路15を2本とし、その2本の油通路15を対向位置に配置し、それぞれの油通路15の上側開口を基準線x−xに対して周方向に90°位相ずれした位置に配置するようにしてもよい。この場合、油圧式オートテンショナの傾斜角度を図1に示す場合よりさらに大きくすることができ、取付け時の制約をきわめて少なくすることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 シリンダ
2 連結片
4 スリーブ
5 ロッド
6 圧力室
7 ばね座
8 リターンスプリング
11 スプリングカバー
13 オイルシール(シール部材)
14 リザーバ室
15 油通路
15c 上側開口
17 チェックバルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9