特許第5658399号(P5658399)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5658399
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】プリント配線板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20141225BHJP
【FI】
   H05K3/46 Z
   H05K3/46 G
【請求項の数】3
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-105107(P2014-105107)
(22)【出願日】2014年5月21日
【審査請求日】2014年6月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小松 尚美
【審査官】 小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/046014(WO,A1)
【文献】 特開2009−010328(JP,A)
【文献】 特開2003−101432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーからなる第1絶縁性基材と、
前記第1絶縁性基材の一方主面に形成された第1信号線と、
液晶ポリマーからなる第2絶縁性基材と、
前記第2絶縁性基材の一方主面に、前記第1信号線の延在方向に沿って形成された第2信号線と、
前記第1絶縁性基材の一方主面と前記第2絶縁性基材の一方主面とを接着させる、変性ポリフェニレンエーテルからなる接着層と、を備え、
前記第1信号線の幅方向に沿い、前記第2信号線から最も遠い一方端部の位置から前記第2信号線の幅方向に沿い、前記第1信号線に最も近い一方端部の位置までの距離であるオフセット量が、前記第1信号線及び前記第2信号線が伝達する信号の周波数が2.5GHz以上かつ5.0GHz以下である場合には、前記第1信号線の回路幅よりも長く、130μm以上かつ300μm以下であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項2】
前記オフセット量は、200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
前記第1信号線は、第1周波数の信号を伝達し、
前記第2信号線は、第1周波数とは異なる第2周波数の信号を伝達することを特徴とする請求項1又は2に記載のプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度化を図りつつ高周波における伝送特性を向上させる観点から、積層される単位基板の間にエポキシ系の熱硬化型接着剤を用いた接着剤層が形成されたフレキシブルプリント回路が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−243923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エポキシ系熱硬化性接着材の誘電率は高いため、高周波の信号伝送時における伝送特性が不十分であるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高周波の信号伝送時における伝送特性が高く、配線密度の高いプリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明は、液晶ポリマーからなる第1絶縁性基材と、前記第1絶縁性基材の一方主面に形成された第1信号線と、液晶ポリマーからなる第2絶縁性基材と、前記第2絶縁性基材の一方主面に、前記第1信号線の延在方向に沿って形成された第2信号線と、前記第1絶縁性基材の一方主面と前記第2絶縁性基材の一方主面とを接着させる、変性ポリフェニレンエーテルからなる接着層と、を備え、前記第1信号線の幅方向に沿い、前記第2信号線から最も遠い一方端部の位置から前記第2信号線の幅方向に沿い、前記第1信号線に最も近い一方端部の位置までの距離であるオフセット量が、前記第1信号線の回路幅よりも長く、300[μm]以下であることを特徴とするプリント配線板を提供することにより、上記課題を解決する。
【0007】
[2]上記発明において、前記オフセット量を、200[μm]以下とすることにより上記課題を解決する。
【0008】
[3] 上記発明において、前記第1信号線は、第1周波数の信号を伝達し、前記第2信号線は、第1周波数とは異なる第2周波数の信号を伝達することを特徴とするプリント配線板を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伝送特性を維持しつつ信号線間の距離を短くできるので、信号線間の累積ピッチの量を抑制できる。この結果、高周波の信号伝送時における伝送特性が高く、配線密度の高いプリント配線板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態におけるプリント配線板の断面図である。
図2図1に示すプリント配線板の製造方法を説明するための図である。
図3】本実施形態の実施例に係るプリント配線板の構成を説明するための図である。
図4A】構造1においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数700MHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図4B】構造2においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数700MHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図4C】構造3においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数700MHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図4D】構造4においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数700MHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図5A】構造1においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数2.5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図5B】構造2においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数2.5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図5C】構造3においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数2.5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図5D】構造4においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数2.5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図6A】構造1においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図6B】構造2においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図6C】構造3においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図6D】構造4においてオフセット量Sを変化させた場合の、周波数5GHzにおけるクロストークS41の測定結果を示す図である。
図7A】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数700MHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
図7B】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数800MHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
図7C】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数900MHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
図7D】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数1.5GHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
図7E】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数1.7GHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
図7F】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数2GHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
図7G】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数2.5GHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
図7H】構造1におけるオフセット量Sを変化させた場合の、周波数5GHzの伝送特性S31の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、装置内部の回路間、回路と装置間、又は装置間を接続する伝送線路に、本発明に係るプリント配線板1を適用した例を説明する。本実施形態のプリント配線板1は、高速信号の伝送に適しており、LVDS、MIPI,HDMI(登録商標),USBなどの各種規格に基づく伝送を行うことができる。
【0012】
図1は、本実施形態におけるプリント配線板1の断面図である。図1に示すように、本実施形態のプリント配線板1は、第1基材10と第2基材20が積層された積層構造を有する。図1に示す例では、第2基材20の上側に第1基材10が積層される例を示すが、逆であってもよい。
【0013】
第1基材10は、第1絶縁性基材11と、この第1絶縁性基材11の一方主面11a(図中下側)に形成された第1信号線131、132、133(「第1信号線130」と総称することもある)と、第1絶縁性基材11の他方主面(図中上側)に形成された第1グランド層12とを備える。図1に示すプリント配線板1において、第1グランド層12は、第1保護層41により覆われている。
【0014】
第2基材20は、第2絶縁性基材21と、この第2絶縁性基材21の一方主面21a(図中上側)に形成された第2信号線231、232、233(「第2信号線230」と総称することもある)と、第2絶縁性基材21の他方主面(図中下側)に形成された第2グランド層22とを備える。図1に示すプリント配線板1において、第2グランド層22は、第2保護層42により覆われている。
【0015】
図1に示す本実施形態の第2信号線231は、第1信号線131の延在方向に沿って形成されている。本実施形態の第1信号線131の延在方向と第2信号線231の延在方向とは略平行である。つまり、第1信号線131と第2信号線231とは並列の関係にある。また、図1に示す本実施形態の第1信号線131と第2信号線231とは、信号線の幅方向にずれた位置に配置される。本実施形態において、第1信号線131の幅方向(図中横方向)に沿い、第2信号線231の位置から最も遠い一方端部の位置(X1)から第2信号線231の幅方向(図中横方向)に沿い、第1信号線131に最も近い一方端部の位置(X2)までの距離であるオフセット量Sは、第1信号線131の回路幅L1よりも長い。つまり、図1に示すように、互いに積層される第1基材10の第1信号線131と第2基材20の第2信号線231とは、その積層方向において対向しないように、幅方向(図中横方向)の位置をずらして配置される。言い換えると、第1信号線131の幅方向に沿い、第2信号線231に最も近い他方端部の位置(Y1)と、第2信号線231の幅方向に沿い、第1信号線131に最も近い他方端部の位置(Y2)との距離は、0より大きい値である。
【0016】
図1に示すプリント配線板1において、特に限定されないが、第1信号線131の幅方向に沿う一方端部の位置X1から第2信号線231の幅方向に沿う一方端部X2までの距離であるオフセット量Sは、300[μm]以下であることが好ましい。第1信号線131の回路幅L1が100[μm]である場合には、第1信号線131の幅方向に沿い、第1信号線に最も近い位置(Y1)から第2信号線231の幅方向に沿い、第1信号線131に最も近い位置(Y2)までの距離、つまり、第1信号線131と第2信号線231の回路幅方向の最短距離は200[μm]である。また、本実施形態において、オフセット量は、200[μm]以下であることが好ましい。この場合において、第1信号線131の回路幅L1が100[μm]である場合には、第1信号線131の幅方向に沿い、第1信号線に最も近い位置(Y1)から第2信号線231の幅方向に沿い、第1信号線131に最も近い位置(Y2)までの距離、つまり、第1信号線131と第2信号線231の回路幅に沿う方向の最短距離は100[μm]である。
【0017】
第1信号線131の回路幅L1と第2信号線231の回路幅L2は同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。また、第1信号線131と第2信号線231の厚さは同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。ここでは、第1信号線130の一例としての第1信号線131と、第2信号線230としての第2信号線132との関係について説明したが、第1絶縁性基材11の一方主面11aに形成された、図示しない他の第1信号線130と、第2絶縁性基材21の一方主面21aに形成された、図示しない他の第2信号線230との関係についても適用できる。本実施形態のプリント配線板1は、図1に示す第1信号線131及び第2信号線230に相当する信号線を複数備えるように構成することができる。
【0018】
特に限定されないが、本実施形態の第1信号線131は、第1周波数の信号を伝達し、第2信号線231は、第1周波数とは異なる第2周波数の信号を伝達する。近時、スマートフォンやタブレット端末において信号の処理速度の高速化の要請が高まっており、構成部品としてのプリント配線板1も高周波における伝送特性の向上が求められている。また、携帯電話の周波数帯は各キャリアによって異なるため、複数の周波数の信号を伝送ができることが求められている。本実施形態では、各信号線において安定した伝送特性を確保することにより、異なる周波数の信号を伝送する別個独立の複数の信号線を備えることができる。本実施形態では、高周波数を含む広い周波数帯において、複数の周波数の信号を高い特性で伝送できるプリント配線板1を提供する。
【0019】
第1絶縁性基材11及び第2絶縁性基材21は、液晶ポリマー(以下、「LCP」とも称する)を含む材料により構成される。本実施形態の第1絶縁性基材11及び第2絶縁性基材21は、液晶ポリマーから構成される。本実施形態の液晶ポリマーは、溶融状態において液晶性質を示す樹脂であれば特に限定されない。ポリエステル系の液晶ポリマーであってもよいし、アラミド系の液晶ポリマーであってもよい。
【0020】
第1信号線130及び第2信号線230は、銅、銀、金などの導電性材料で構成される。同じく第1グランド層12及び第2グランド層22は、銅、銀、金などの導電性材料で構成される。第1グランド層12と第2グランド層22とは、異なる導電性材料で構成してもよい。
【0021】
第1保護層41及び第2保護層42は、カバーレイや、感光性液状レジストなどのカバー材料である。材料としては、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル(PE)などの絶縁性材料を用いることができる。
【0022】
本実施形態の第1基材10と第2基材20との間には、接着層30が介在する。接着層30は、本実施形態の第1基材10を構成する第1絶縁性基材11の一方主面11aと、第2絶縁性基材21の一方主面21aとを接着させる。第1絶縁性基材11の一方主面11aには、第1信号線130が形成され、第2絶縁性基材21の一方主面21aには第2信号線230が形成される。
【0023】
本実施形態の接着層30は、変性ポリフェニレンエーテル(以下「m−PPE」とも称する)を含む材料により構成される。本実施形態の接着層30は、変性ポリフェニレンエーテルにより構成される。変性ポリフェニレンエーテルは、本願出願時において入手可能なものを適宜に選択して利用することができる。
【0024】
本実施形態において接着層30に用いられるm−PPEは、例えば、スチレン系化合物とビニル系化合物とを共重合させて得られたスチレン−ビニル系化合物共重合体に、ポリエーテルイミドを加熱溶融ブレンドすることにより、溶融流動性と高耐熱性とが付与された材料である。接着剤のm−PPEは、例えば周波数2GHzにおける比誘電率が2.2〜2.6及び誘電正接が0.002〜0.01、引っ張り強度が30〜50MPa、引っ張り弾性率が300〜400MPaの物性を備える。また、m−PPEは、ガラス転移温度が230〜250℃で、熱膨張係数が100〜300ppm/℃の物性を備える。
【0025】
特に限定されないが、本実施形態において用いられるm−PPEは、以下の物性を備える。
(a)キュア条件:200℃/1hr(60分)
(b)誘電率:2.4(2GHz)[空洞共振器測定]
(c)誘電正接:0.0029(2GHz)[空洞共振器測定]
(d)銅引き剥がし強さ:7(N/cm)[JIS C6471]
(e)引っ張り強さ:42(MPa)[IS C2318]
(f)延び:250(%)[JIS 2318]
(g)引っ張り係数:325(MPa)[JIS K7113]
(h)ガラス転移温度:235(℃)[DMA(Dynamic Mechanical Analysis):弾性率を検出する動的粘弾性測定] JIS 6481]
(i)熱膨張係数α1:110(ppm/℃) [TMA(Thermal Mechanical Analysis):熱膨張率を測定する熱機械分析 JIS 6481]
(j)体積抵抗:1(E15Ωcm)[JIS 2170]
(k)熱抵抗:370(℃)[TG−DTA(示差熱−熱重量同時測定)]
(l)吸水率:0.1より小(%)[JIS 2318]
(m)塩素イオン:10(ppm)より小[121℃/100%RH/20hr経過後に水分を抽出して測定]
(n)ナトリウムイオン:5(ppm)より小[121℃/100%RH/20hr経過後に水分を抽出して測定]
(o)カリウムイオン:5(ppm)より小[121℃/100%RH/20hr経過後に水分を抽出して測定]
【0026】
本実施形態のプリント配線板1は、いわゆるストリップライン構造を有する。第1グランド層12と第1信号線131(130)との間には第1絶縁性基材11が介在し、第2グランド層22と第2信号線231(230)との間には第2絶縁性基材21が介在する。第1信号線131(130)は、第1絶縁性基材11を介した第1グランド層12と、第2絶縁性基材21を介した第2グランド層22とに挟まれている。また、第2信号線231(230)は、第2絶縁性基材21を介した第2グランド層22と、第1絶縁性基材11を介した第1グランド層12とに挟まれている。
【0027】
図示はしないが、第1信号線131(130)が形成されている第1絶縁性基材11の一方主面11aにグランド線を形成し、第2信号線231(230)が形成されている第2絶縁性基材21の一方主面21aにグランド線を形成した、いわゆるコプレーナライン構造としてもよい。
【0028】
続いて、図2に基づいて、本実施形態のプリント配線板1の製造方法を説明する。
【0029】
まず、図2(a)に示すように、第1信号線130が形成された第1基材10と、第2信号線230が形成された第2基材20と、接着層30を構成する変性ポリフェニレンエーテル樹脂シート30´とを準備する。第1基材10は、例えば厚さ25[μm]の液晶ポリマーからなる第1絶縁性基材11の両主面に銅箔が形成された銅張基板(CCL:Copper Clad Laminated)を用いて作製される。特に限定されないが、本実施形態の第1基材10は、厚さ12.5[μm]の電解銅箔を有する。そして、サブトラクティブ法などの一般的なフォトリソグラフィー手法を用いて、第1絶縁性基材11の一方主面11a側の銅箔の所定領域をエッチングして、所望の第1信号線130を形成する。第1絶縁性基材11の他方主面側の銅箔についても、必要に応じて銅箔の所定領域をエッチングして、グランド層12を形成する。
【0030】
同様に、第2基材20は、例えば厚さ25[μm]の液晶ポリマーからなる第2絶縁性基材21の両主面に銅箔が形成された銅張基板(CCL:Copper Clad Laminated)を用いて作製される。特に限定されないが、本実施形態の第2基材20は、厚さ12.5[μm]の電解銅箔を有する。そして、第1基材10と同様に、サブトラクティブ法を用いて、第2絶縁性基材21の一方主面21a側の銅箔の所定領域をエッチングして、所望の第2信号線230を形成する。第2絶縁性基材21の他方主面側の銅箔についても、必要に応じて銅箔の所定領域をエッチングして、グランド層22を形成する。
【0031】
図2(a)に示すように、変性ポリフェニレンエーテル樹脂シート30´を、第1基材10と第2基材20との間に介在させる。具体的には、具体的に第1絶縁性基材11の一方主面11aと第2絶縁性基材21の一方主面21aとの間に、変性ポリフェニレンエーテル樹脂シート30´を配置する。そして、変性ポリフェニレンエーテル樹脂シート30´を介在させた状態で、第1基材10と第2基材20とを重ねて積層ラミネートを行い、一括して積層プレスを行う。具体的に、第1基材10を図2(a)の矢印Z1方向に移動させて第2基材20に接近させ、第2基材20を矢印Z2方向に移動させて第1基材10に接近させる。そして、加熱状況下で第1基材10、変性ポリフェニレンエーテル樹脂シート30´及び第2基材20を積層方向に沿って熱圧着する。これにより、第1信号線130が形成される第1絶縁性基材11の一方主面11aと、第2信号線230が形成される第2絶縁性基材21の一方主面21aとを接着させる、変性ポリフェニレンエーテルからなる接着層30が形成される。
【0032】
上記熱圧着の工程は、加熱温度170〜190℃、加圧圧力5〜20kg/cmにて、30〜60分間、真空雰囲気下において行われる。ちなみに、本実施形態の接着層30を構成する接着剤のm−PPEの加圧硬化温度は、例えば180℃±10℃程度である。本実施形態では、温度:180℃±10℃、時間:60分程度のプレス条件で、真空雰囲気下において行う。これにより、接着層30を構成するm−PPEの高分子がアロイ化して高耐熱性を備えた柔らかい特性を示す。本実施形態の接着層30は柔軟性を備えるので、フレキシブルなプリント配線板1を得ることができる。本実施形態の第1絶縁性基材11、第2絶縁性基材21のガラス転移温度は、例えば300℃以上である。接着層30の加圧硬化温度は、第1絶縁性基材11/第2絶縁性基材21のガラス転移温度(300℃以上)よりも低い。これにより、熱圧着工程において第1絶縁性基材11、第2絶縁性基材21に生じる変形などのダメージを最小限に抑制できる。
【0033】
また、本実施形態の熱圧着工程では、高温での熱プレス処理が不要であるので、ポリイミド系樹脂を絶縁性基材として用いる既存のFPCの製造設備を用いて本発明の実施形態に係るプリント配線板1を作製できる。本実施形態の熱圧着工程においては、例えば蒸気加熱タイプや熱溶媒過熱油タイプなどの安価なプレス装置を用いることができるので、プリント配線板1の製造コストを低減させることができる。
【0034】
続いて、図2(c)に示すように、第1基材10と第2基材20とを貫通する所定径のスルーホールTHを形成する。スルーホールTHの形成手法は特に限定されず、NCドリルを用いて穿孔してもよいし、レーザー処理により穿孔してもよい。
【0035】
その後、図2(d)に示すように、第1基材10及び第2基材20にダイレクトプレーティングプロセスを施した後、スルーホールTHにめっき処理を行う。めっき処理により層間導通層50を形成する。層間導通層50により第1信号線130、第2信号線230、第1グランド層12、及び第2グランド層22を電気的に接続し、層間導通を図る。
【0036】
そして、図2(e)に示すように、第1グランド層12、第2グランド層22に所定の回路を形成する。
【0037】
図1に示すように、第1グランド層12を覆う保護層41と、第2グランド層22を覆う保護層42を形成し、図1に示すプリント配線板1を得る。なお、第1グランド層12、第2グランド層22は、基準電位(電源電位、接地電位)が付与されているため、第1信号線132、第2信号線232も基準電位となる。
【0038】
さらに、図示は省略するが、本実施形態では、同軸コネクタをプリント配線板1の表面に実装する。本実施形態において、信号の入出力は、プリント配線板1の上に表面実装された同軸コネクタを介して行う。同軸コネクタは、従来の実装ラインを用いて実装が可能であるので、新たな設備を導入することなく本実施形態に係るプリント配線板1を作製できる。また、信号の入出力に表面実装コネクタを使用することにより、部品着脱が容易になる。製品の小型化に応じて組み込みスペースが縮小された場合であても、効率よく製品の組み立てを行うことができる。この結果、作業工数の削減とプロセスコストの削減を実現できる。
【0039】
なお、プリント配線板1の外形を枝分かれさせることにより、全方向にパターニングができ、設計の自由度が向上する。プリント配線板1の外形加工は、金型又はレーザーにより行うことができるので、寸法精度も高く維持できる。
【0040】
本実施形態のプリント配線板1は、第1絶縁性基材11及び第2絶縁性基材21がLCPからなると共に、接着層30がm―PPEからなるため、誘電率及び誘電正接を低く抑えることができる。従来のポリイミド系の樹脂等を用いたものよりも高周波特性に優れ、柔軟性を損なわずに信号を高速で伝送できる構造を実現できる。
【0041】
本実施形態のプリント配線板1は、液晶ポリマーからなる第1、第2絶縁性基材11、21と、変性ポリフェニレンエーテルの接着層30との組み合わせにより、誘電率を低く抑制し、高周波での高速伝送を実現できる。また、本実施形態のプリント配線板1は、独立した複数の信号線を、多層基板を構成する接着層30の内部に配線できるので、一つのプリント配線板1において異なる二種類以上の周波数の信号を伝送できる。
【0042】
さらに、本実施形態のプリント配線板1は、第1信号線131(130)と第2信号線231(230)とが回路幅方向に沿ってずらして配置されているので、第1信号線131(130)と第2グランド層22との距離及び第2信号線231(230)と第1グランド層12との距離が確保されるので、信号線同士が互いに干渉せずに信号を伝送できる。このため、第1信号線131(130)及び第2信号線231(230)のいずれにおいても信頼性の高い信号伝送を実行できる。各信号線の特性インピーダンスをマッチングさせても、各信号線の回路幅を太く設計できるので、伝送特性を高く維持できる。また、プリント配線板1の厚さが厚くならないようにできるので、フレキシブル性、折り曲げ特性も損なわれない。
【0043】
<実施例>
以下、本発明の本実施形態における実施例を説明する。以下に説明する実施例により、本実施形態のプリント配線板1のクロストークなどの伝送特性を検証する。
【0044】
実施例として、図3に示す、所定の態様のプリント配線板1を得た。図3に示すように、本実施例に係るプリント配線板1は、1本の第1信号線131と1本の第2信号線231とを有する。第1信号線131の線幅を回路幅L1と定義し、第2信号線231の線幅を回路幅L2と定義した。実験の便宜のため、第1信号線131の回路幅L1と第2信号線231の回路幅L2とを共通する。第1基材10と第2基材20の積層方向に沿う第1信号線131の厚みを厚さt1と定義し、同じく積層方向に沿う第2信号線231の厚みを厚さt2と定義した。実験の便宜のため、第1信号線131の厚さt1と第2信号線231の厚さt2は同じ厚さとした。
【0045】
また、第1信号線131の幅方向に沿い、第1信号線131の両側の端部のうち第2信号線231から最も遠い一方端部の位置P1から、第2信号線231の幅方向に沿い、第2信号線231の両側の端部のうち第1信号線131に最も近い一方端部の位置P2までの距離をオフセット量Sと定義した。さらに、第1絶縁性基材11の主面に沿う第1信号線131の平面(第1絶縁性基材11と接しない方の平面)の位置と、第2絶縁性基材21の主面に沿う第2信号線231の平面(第2絶縁性基材21と接しない方の平面)の位置との距離を導体間距離Dと定義した。
【0046】
本実施例のプリント配線板1において、図3に示す基本的構造を有しつつ、回路幅Lの設計値を25[μm]、50[μm]、100[μm]に変化させるとともに、及び導体間距離Dの設計値を30[μm]、60[μm]に変化させた構造1、構造2、構造4及び構造4を以下の表1のとおりに定義した。
【表1】
【0047】
また、比較例として、第1絶縁性基材11´(相当の構成、以下同じ)及び第2絶縁性基材21´(相当の構成、以下同じ)がポリイミドからなり、接着層30´(相当の構成、以下同じ)がアクリルエポキシ系接着剤(誘電率3.6〜3.8(2GHz)、誘電正接0.03〜0.04、銅引き剥がし強さ9N/cm、吸水率2.0%である)であるプリント配線板1´を作製した。この比較例に係るプリント配線板1´は、本実施例と同じ上記表1の構造1、構造2、構造3及び構造4を備える。
【0048】
本実施例の第1絶縁性基材11及び第2絶縁性基材21において用いるLCPフィルムと、比較例の第1絶縁性基材11´及び第2絶縁性基材21´において用いるPIフィルムの物性値を表2に示す。
【表2】
【0049】
本実施例の接着層30において用いるm−PPE樹脂フィルムは、誘電率2.2〜2.6(2GHz)、誘電正接0.002〜0.01、銅引き剥がし強さ7N/cm、吸水率0.2%である。m−PPE樹脂フィルムにより接着層30を構成するので、多層基板を作製する際の積層工程で180±(プラスマイナス)10℃程度でプレスをすることができる。このように比較的低温で処理ができるので、既存のフレキシブルプリント基板の製造装置を用いて製造できる。また、比較的低温で処理ができるので、作製するプリント配線板1の寸法バラツキを抑制することができる。
【0050】
また、m−PPE樹脂フィルムは柔らかく、低圧(0.1〜1MPa)においても回路への埋め込みが可能であるので、積層ラミネート処理を一括で行うことができる。このような材質のm−PPE樹脂フィルムを接着層30として用いることにより、製造に要する工程数を低減させ、積層プレスを行う際に用いる副資材を削減できる。m−PPE樹脂フィルムは吸湿耐性がある。また、m−PPE樹脂フィルムは誘電率が低いため、これを介在させることにより伝送特性を向上させる。
【0051】
続いて、構造1〜4を備えた実施例及び構造1〜4を備えた比較例について、各周波数におけるオフセット量Sを変更させた場合のクロストークS41[dB]を計測し、これを比較した。本実施形態において計測したクロストークS41[dB]は、複数の信号線のうち、一の信号線(伝送路)における伝送信号が、他の信号線(伝送路)に漏れる程度を示す計測値である。本実施形態では、クロストークS41の値が低い実施例は信号の漏れが少なく、良好な伝送特性を示すものとして評価する。
【0052】
下掲の表3に、伝送する信号の周波数が700MHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例1−1〜1−4及び比較例1−1〜1−4のクロストークS41[dB]の測定結果を示す。実施例1−1及び比較例1−1は構造1を備え、実施例1−2及び比較例1−2は構造2を備え、実施例1−3及び比較例1−3は構造3を備え、実施例1−4及び比較例1−4は構造4を備える。
【表3】
【0053】
構造1を備える実施例1−1及び比較例1−1について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図4Aに示す。構造2を備える実施例1−2及び比較例1−2について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図4Bに示す。構造3を備える実施例1−3及び比較例1−3について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図4Cに示す。構造4を備える実施例1−4及び比較例1−4について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図4Dに示す。実施例は実線で示し、比較例は破線で示す。
【0054】
下掲の表4に、伝送する信号の周波数が800MHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例2−1〜2−4及び比較例2−1〜2−4のクロストークS41[dB]の測定結果を示す。実施例2−1及び比較例2−1は構造1を備え、実施例2−2及び比較例2−2は構造2を備え、実施例2−3及び比較例2−3は構造3を備え、実施例2−4及び比較例2−4は構造4を備える。本測定結果は、700MHzと同じ傾向を示したので、図示は省略する。
【表4】
【0055】
下掲の表5に、伝送する信号の周波数が900MHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例3−1〜3−4及び比較例3−1〜3−4のクロストークS41[dB]の測定結果を示す。実施例3−1及び比較例3−1は構造1を備え、実施例3−2及び比較例3−2は構造2を備え、実施例3−3及び比較例3−3は構造3を備え、実施例3−4及び比較例3−4は構造4を備える。本測定結果は、700MHzと同じ傾向を示したので、図示は省略する。
【表5】
【0056】
下掲の表6に、伝送する信号の周波数が1.5GHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例4−1〜4−4及び比較例4−1〜4−4のクロストークS41[dB]の結果を示す。実施例4−1及び比較例4−1は構造1を備え、実施例4−2及び比較例4−2は構造2を備え、実施例4−3及び比較例4−3は構造3を備え、実施例4−4及び比較例4−4は構造4を備える。本測定結果は、700MHzと同じ傾向を示したので、図示は省略する。
【表6】
【0057】
下掲の表7に、伝送する信号の周波数が1.7GHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例5−1〜5−4及び比較例5−1〜5−4のクロストークS41[dB]の測定結果を示す。実施例5−1及び比較例5−1は構造1を備え、実施例5−2及び比較例5−2は構造2を備え、実施例5−3及び比較例5−3は構造3を備え、実施例5−4及び比較例5−4は構造4を備える。本測定結果は、700MHzと同じ傾向を示したので、図示は省略する。
【表7】
【0058】
下掲の表8に、伝送する信号の周波数が2.0GHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例6−1〜6−4及び比較例6−1〜6−4のクロストークS41[dB]の測定結果を示す。実施例6−1及び比較例6−1は構造1を備え、実施例6−2及び比較例6−2は構造2を備え、実施例6−3及び比較例6−3は構造3を備え、実施例6−4及び比較例6−4は構造4を備える。本測定結果は、700MHzと同じ傾向を示したので、図示は省略する。
【表8】
【0059】
下掲の表9に、伝送する信号の周波数が2.5GHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例7−1〜7−4及び比較例7−1〜7−4のクロストークS41[dB]の測定結果を示す。実施例7−1及び比較例7−1は構造1を備え、実施例7−2及び比較例7−2は構造2を備え、実施例7−3及び比較例7−3は構造3を備え、実施例7−4及び比較例7−4は構造4を備える。
【0060】
【表9】
【0061】
構造1を備える実施例7−1及び比較例7−1について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図5Aに示す。構造2を備える実施例7−2及び比較例7−2について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図5Bに示す。構造3を備える実施例7−3及び比較例7−3について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図5Cに示す。構造4を備える実施例7−4及び比較例7−4について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図5Dに示す。実施例は実線で示し、比較例は破線で示す。図5A図5Dに示すように、伝送する信号の周波数が2.5GHzのクロストークS41のパターンは、700MHz〜2.0GHzのクロストークS41のパターンとおおむね同様である。
【0062】
下掲の表10に、伝送する信号の周波数が5.0GHzにおけるオフセット量Sを変更させた場合の実施例8−1〜8−4及び比較例8−1〜8−4のクロストークS41[dB]の測定結果を示す。実施例8−1及び比較例8−1は構造1を備え、実施例8−2及び比較例8−2は構造2を備え、実施例8−3及び比較例8−3は構造3を備え、実施例8−4及び比較例8−4は構造4を備える。
【表10】
【0063】
構造1を備える実施例8−1及び比較例8−1について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図6Aに示す。構造2を備える実施例8−2及び比較例8−2について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図6Bに示す。構造3を備える実施例8−3及び比較例8−3について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図6Cに示す。構造4を備える実施例8−4及び比較例8−4について、オフセット量に対するクロストークS41の測定結果を図6Dに示す。実施例は実線で示し、比較例は破線で示す。
【0064】
表3乃至表10、並びに図4A図4D図5A図5D及び図6A図6Dに示すように、オフセット量Sが400[μm]以下において、実施例1−1〜1−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例1−1〜1−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。実施例2−1〜2−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例2−1〜2−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。実施例3−1〜3−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例3−1〜3−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。実施例4−1〜4−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例4−1〜4−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。実施例5−1〜5−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例5−1〜5−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。実施例6−1〜6−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例6−1〜6−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。実施例7−1〜7−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例7−1〜7−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。実施例8−1〜8−4のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、比較例8−1〜8−4のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。さらに、オフセット量Sが300[μm]以下である場合には、各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果に対して有利な差を示した。さらにまた、オフセット量Sが200[μm]以下である場合には、各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果に対してより有利な差を示した。
【0065】
特に、伝送する信号の周波数が5.0GHz未満である場合に、オフセット量Sが400[μm]以下において各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低い値を示す傾向が見られ、良好な結果を示した。同様に、伝送する信号の周波数が5.0GHz未満である場合に、オフセット量Sが300[μm]以下である場合には、各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低い値を示す傾向が見られた。同様に、伝送する信号の周波数が5.0GHz未満である場合に、オフセット量Sが200[μm]以下である場合には、各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果に対してさらに低い値を示す傾向が見られ、有利な差を示した。
【0066】
少なくとも、伝送する信号の周波数が2.5GHz未満である場合に、オフセット量Sが400[μm]以下において各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果よりも低く、良好な値を示した。同様に、伝送する信号の周波数が2、5GHz未満である場合に、オフセット量Sが300[μm]以下である場合には、各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果に対して有利な差を示した。同様に、伝送する信号の周波数が2.5GHz未満である場合に、オフセット量Sが200[μm]以下である場合には、各実施例のプリント配線板1のクロストークS41の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´のクロストークS41の測定結果に対してさらに有利な差を示した。
【0067】
伝送する信号の周波数が2.5GHzである場合において、構造1を有する本実施例7−1のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが22[μm]以上かつ400[μm]以下である場合に、比較例7−1に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。伝送する信号の周波数が2.5GHzである場合において、構造2を有する本実施例7−2のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが400[μm]以下であるときに、比較例7−2に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。伝送する信号の周波数が2.5GHzである場合において、構造3を有する本実施例7−3のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが400[μm]以下であるときに、比較例7−3に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。構造4を有する本実施例7−4のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが400[μm]以下であるときに、比較例7−4に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。
【0068】
伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合において、構造1を有する本実施例8−1のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが130[μm]以上かつ400[μm]以下であるときに、比較例8−1に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合において、構造2を有する本実施例8−2のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが42[μm]以上であるときに、比較例8−2に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合において、構造3を有する本実施例8−3のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが20[μm]以上であるときに、比較例8−3に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。構造4を有する本実施例8−4のプリント配線板1のクロストークS41[dB]の測定結果は、オフセット量Sが76[μm]以上であるときに、比較例8−4に係るプリント配線板1のクロストークS41よりも良好な値を示した。
【0069】
次に、各周波数における、構造1を備えた実施例10−1〜10−8及び構造1を備えた比較例10−1〜10−8について、オフセット量Sを変更させた場合の伝送特性S31[dB]を計測し、これを比較した。本実施形態において計測した伝送特性S31[dB]は、入力した信号がどれだけ出力されたかを示す計測値である。つまり、本実施形態における伝送特性S31[dB]は、入力信号に対して信号がどれだけ流れたかを示す指標値である。本実施形態における伝送特性S31は、0〜1の値をとる。本実施形態では、伝送特性S31の値が1.0に近いもの(差が小さいもの)を良好な伝送特性を示すものとして評価する。
【0070】
下掲の表11に、伝送する信号の周波数が700MHz〜5.0GHzにおける伝送特性S31[dB]の測定結果を示す。実施例10−1〜実施例10−8は構造1を備える。比較例10−1〜10−8も同様に構造1を備える。
【0071】
【表11】
【0072】
伝送する信号の周波数が700MHzである実施例10−1及び比較例10−1について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Aに示す。伝送する信号の周波数が800MHzである実施例10−2及び比較例10−2について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Bに示す。伝送する信号の周波数が900MHzである実施例10−3及び比較例10−3について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Cに示す。伝送する信号の周波数が1.5GHzである実施例10−4及び比較例10−4について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Dに示す。伝送する信号の周波数が1.7GHzである実施例10−5及び比較例10−5について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Eに示す。伝送する信号の周波数が2.0GHzである実施例10−6及び比較例10−6について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Fに示す。伝送する信号の周波数が2.5GHzである実施例10−7及び比較例10−7について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Gに示す。伝送する信号の周波数が5.0GHzである実施例10−8及び比較例10−8について、オフセット量に対する伝送特性S31の測定結果を図7Hに示す。
【0073】
実施例は実線で示し、比較例は破線で示す。図7A図7Hに示すように、各実施例に係るプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、各比較例のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0に近く、良好な値を示した。なお、伝送する信号の周波数が700MHz〜2.5GHzの実施例の伝送特性S31のパターンはおおむね同様である。
【0074】
表11、及び図7A図7Hに示すように、オフセット量Sが400[μm]以下である場合に、実施例10−1〜10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−1〜10−8のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1に近い値乃至同等の値を示した。さらに、オフセット量Sが300[μm]以下である場合に、実施例10−1〜10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−1〜10−8のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0により近い値乃至同等の値を示した。特に、オフセット量Sが200[μm]以下である場合に、実施例10−1〜10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−1〜10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果よりも1.0に近い値を示した。
【0075】
伝送する信号の周波数が5.0GHz未満である場合には、オフセット量Sが200[μm]以下において実施例10−1〜10−7のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−1〜10−7のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0に近い値を示した。
【0076】
少なくとも、伝送する信号の周波数が2.5GHz以下である場合に、オフセット量Sが400[μm]以下である場合において、実施例10−1〜10−7のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−1〜10−7のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0に近い値乃至同等の値を示した。同様に、伝送する信号の周波数が2.5GHz以下である場合に、オフセット量Sが300[μm]以下において上記効果を確認できた。同様に、伝送する信号の周波数が2.5GHz以下である場合に、オフセット量Sが200[μm]以下において、実施例10−1〜10−7のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−1〜10−7のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0に低い値を示した。
【0077】
伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合には、オフセット量Sが400[μm]以下において実施例10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−8のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0に近い値を示した。伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合には、オフセット量Sが300[μm]以下において実施例10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−8のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0により近い値を示した。伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合には、オフセット量Sが200[μm]以下において実施例10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−8のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0により近い値を示した。伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合には、オフセット量Sが61[μm]以上において実施例10−8のプリント配線板1の伝送特性S31の測定結果は、比較例10−8のプリント配線板1´の伝送特性S31の測定結果よりも1.0により近い値を示した。
【0078】
伝送する信号の周波数が5.0GHzである場合に、オフセット量Sが155[μm]以上において、本実施例10−8のプリント配線板1の伝送特性S31[dB]の測定結果が0.6以上という、高周波において比較例10−8よりも良好な値を示した。オフセット量Sが174[μm]以上において、本実施例10−8のプリント配線板1の伝送特性S31[dB]の測定結果が0.8以上という、高周波において比較例10−8よりも良好な値を示した。
【0079】
本実施例のプリント配線板1は、液晶ポリマーからなる第1絶縁性基材11と、第1絶縁性基材11の一方主面に形成された第1信号線131と、液晶ポリマーからなる第2絶縁性基材21と、第2絶縁性基材21の一方主面21aに、第1信号線131の延在方向に沿って形成された第2信号線232と、第1絶縁性基材11の一方主面11aと第2絶縁性基材21の一方主面21aとを接着させる変性ポリフェニレンエーテルからなる接着層30を備える構成を備える。本構成において、第1信号線131の幅方向に沿い、第2信号線231から最も遠い一方端部の位置から第2信号線231の幅方向に沿い第1信号線131に最も近い一方端部の位置P2までの距離であるオフセット量Sを、第1信号線131の回路幅L1よりも長く、かつ300[μm]以下とすることができるので、伝送特性を維持しつつ、薄型化及び小型化に対応可能なプリント配線板1を提供できる。特に、複数の信号線を備える場合には、ピッチ幅の累積量を小さくできるので、薄型化及び小型化に適したプリント配線板1を提供できる。
【0080】
さらに、オフセット量を200[μm]以下としても伝送特性を維持できるので、更なる薄型化及び小型化に寄与できる。特に、高周波の信号を伝送するプリント配線板1としては、オフセット量Sの縮小を図ることができる。
【0081】
信号線間のオフセット量を小さくできるので、設計の自由度が向上し、様々な配線のパターンに対応できる。
【0082】
各信号線の伝送特性を維持できるので、それぞれの信号線に異なる周波数の信号を伝達させることができる。つまり、第1信号線には第1周波数の信号を伝達させ、第2信号線には第2周波数の信号を伝達させることができる。これにより、一つの機器において複数の周波数の信号を伝達するという要請に応じることができる。
【0083】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0084】
1…プリント配線板
11…第1絶縁性基材
131,132,133…第1信号線
12…第1グランド層
21…第2絶縁性基材
231,232,233…第2信号線
20…保護層
22…第2グランド層
30…接着層
41,42…カバー部材
TH…スルーホール
50…層間導通層
【要約】
【課題】高周波数帯においても伝送特性を高く維持しつつ信号線間の距離を短くする。
【解決手段】液晶ポリマーからなる第1絶縁性基材11と、第1絶縁性基材11の一方主面11aに形成された第1信号線131と、液晶ポリマーからなる第2絶縁性基材21と、第2絶縁性基材21の一方主面21aに、第1信号線131の延在方向に沿って形成された第2信号線231と、第1絶縁性基材11の一方主面11aと第2絶縁性基材21の一方主面21aとを接着させる、変性ポリフェニレンエーテルからなる接着層30と、を備え、第1信号線131の幅方向に沿う一方端部の位置から第2信号線231の幅方向に沿う一方端部の位置までの距離であるオフセット量Sは、第1信号線131の回路幅L1よりも長く、300μm以下とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H