特許第5658416号(P5658416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5658416熱水耐性を有するガスバリアフィルム及び該フィルムを用いた食品包装材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5658416
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】熱水耐性を有するガスバリアフィルム及び該フィルムを用いた食品包装材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20150108BHJP
【FI】
   B32B27/30 102
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-212392(P2014-212392)
(22)【出願日】2014年10月17日
【審査請求日】2014年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-86078(P2014-86078)
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】古屋 祐仁
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−088415(JP,A)
【文献】 特開2006−176758(JP,A)
【文献】 特開2004−143197(JP,A)
【文献】 特開平06−116539(JP,A)
【文献】 特開2000−328352(JP,A)
【文献】 特開2006−082239(JP,A)
【文献】 特開2010−000447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B05D1/00−7/26
C09D1/00−10/00,
101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの表面に、少なくとも、
ガスバリア性物質を積層してなるガスバリア層と、
高分子樹脂を積層してなる高分子樹脂層とを、この順で積層してなるガスバリア性フィルムであって、
前記高分子樹脂が、水溶性高分子と、金属アルコキシドと、カップリング剤とを含有する塗工組成物の架橋反応により得られてなり、
前記水溶性高分子が、ヒドロキシ基をアセトアセチル基で一部置換したアセトアセチル変性ポリビニルアルコールと、ヒドロキシ基をエチレン基で一部置換したエチレン変性ポリビニルアルコールとを混合したものであること、
を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、
前記水溶性高分子が、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール(a)とエチレン変性ポリビニルアルコール(b)とを、固形分比が(a)/(b)=3/1〜1/3となるような範囲で混合したものであること、
を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、
前記金属アルコキシドが、一般式M(OR)(Mは金属元素、Rはアルキル基、nは金属元素の酸化数)で表される金属アルコキシドであること、
を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、
前記カップリング剤が一般式YMR(OR)n−1−m(ただし、Yは反応性官能基、Mは金属元素、Rはアルキル基、nは金属元素の酸化数、mは0以上で(n−1)より小さい整数)で表される各種カップリング剤の1種または複数であること、
を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、
前記ガスバリア性物質が、ケイ素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、の一群よりなる群の何れか1つ若しくはその酸化物、窒化物、または化合物若しくはそれらの混合物の何れか、または前記一群の中の複数若しくはその酸化物、窒化物、または化合物若しくはそれら混合物の何れか、であること、
を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムの積層面に、ポリアミドと、シーラントフィルムとを、接着剤を介して積層してなること、
を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム積層体であって、
前記積層体のガスバリア性が、水蒸気透過度1g/m・day以下、酸素透過度0.1cc/m・day・atm以下であり、
且つ、前記積層体を温度100℃の熱水で30分間の熱水処理を行った後のガスバリア性が、水蒸気透過度1g/m・day以下、酸素透過度0.5cc/m・day・atm以下であり、
且つ、300mm/minの剥離速度でT型剥離を行ったとき、上記各層の剥離強度が3N/15mm以上であること、
を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムおよび熱水耐性を有するガスバリアフィルム積層体を用いてなる食品包装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱水耐性を有するガスバリアフィルム及び該フィルムを用いた食品包装材に関するものであって、具体的には、熱水処理条件下でも層間剥離の発生を抑制、防止可能であると同時に水蒸気バリア性と酸素バリア性を両立できる、熱水耐性を有するガスバリアフィルム及び該フィルムを用いた食品包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素や湿気を嫌う物質の保護のためにガスバリア性を付与したプラスチックフィルム(以下単に「ガスバリアフィルム」とも言う。)が様々な用途、例えば食品や電子部品材料等の包装用材料などにおいて広く用いられている。そのような利用にあって包装材料は、内容物の変質を抑制・防止する性質を有してなることが強く求められている。
【0003】
これに対し、ガスバリアフィルムとして従来はポリ塩化ビニリデンやポリアクリロニトリル等によるプラスチックフィルムを用いていたが、これらのフィルムは廃棄の際に環境有害物を排出してしまうため利用されなくなってきている。また環境問題の観点から言えばポリビニルアルコール(PVA)によるプラスチックフィルムを用いることが好適であるかのように思われるが、このフィルムはガスバリア性の湿度依存性が高く、即ち高湿度条件下ではガスバリア性、特に水蒸気バリア性が著しく且つ容易に低下してしまうため、高度なガスバリア性を必要とする場面では利用できない。
【0004】
そこで、プラスチックフィルムの表面に酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の無機物を物理的蒸着法又は化学的蒸着法により設けたフィルムをガスバリアフィルムとして包装材料に用いていたが、これらのガスバリアフィルムは屈曲に対する耐久性に乏しく、即ち屈曲時において蒸着層にクラックが容易に生じるため、バリア性が容易に低下してしまうという問題があった。またプラスチックフィルムとその表面に蒸着した無機物との間の層間密着力が小さいので、屈曲等を繰り返すとフィルムの可撓性に無機物が追従できず、これらが容易に剥離してしまってガスバリア性を喪失してしまうため、実用面で問題があった。
【0005】
このような問題に対処すべく様々な提案がなされるようになってきた。例えば特許文献1には、熱可塑性樹脂の基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を介して複合ポリマー層を有し、前記複合ポリマー層が、アルコキシシラン又はその加水分解物と、PVA及びエチレン−ビニルアルコールコポリマーを含有する塗工組成物を重縮合してなることを特徴とするバリア性積層フィルムに関する発明が開示されている。これにより、無機蒸着層に生じるピンホールや物理的圧力による剥離を補い、耐熱水性を向上させることができるので、ガスバリア性及び耐熱水性に優れた積層フィルムを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4563122号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたガスバリアフィルムでは、主成分の一つであるエチレンビニルアルコールの溶解度が非常に低く、溶液の調製や再現性をとることが困難であり、大量生産や簡略化が目される製造の現場では用いることが困難であった。
【0008】
本願発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱水処理を行っても層間剥離やバリア性の低下が起こらない、熱水耐性を有するガスバリアフィルムと該フィルムを用いた食品包装材を、より簡便に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムに関する発明は、基材フィルムの表面に、少なくとも、ガスバリア性物質を積層してなるガスバリア層と、高分子樹脂を積層してなる高分子樹脂層とを、この順で積層してなるガスバリア性フィルムであって、前記高分子樹脂が、水溶性高分子と、金属アルコキシドと、カップリング剤とを含有する塗工組成物の架橋反応により得られてなり、前記水溶性高分子が、ヒドロキシ基をアセトアセチル基で一部置換したアセトアセチル変性ポリビニルアルコールと、ヒドロキシ基をエチレン基で一部置換したエチレン変性ポリビニルアルコールとを混合したものであること、を特徴とする。
【0010】
本願発明の請求項2に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムに関する発明は、請求項1に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、前記水溶性高分子が、アセトアセチル変性PVA(a)とエチレン変性PVA(b)とを、固形分比が(a)/(b)=3/1〜1/3となるような範囲で混合したものであること、を特徴とする。
【0011】
本願発明の請求項3に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムに関する発明は、請求項1または請求項2に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、前記金属アルコキシドが、一般式M(OR)(Mは金属元素、Rはアルキル基、nは金属元素の酸化数)で表されるものであること、を特徴とする。
【0012】
本願発明の請求項4に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムに関する発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、前記カップリング剤が一般式YMR(OR)n−1−m(ただし、Yは反応性官能基、Mは金属元素、Rはアルキル基、nは金属元素の酸化数、mは0以上で(n−1)より小さい整数)で表される各種カップリング剤の1種または複数であること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項5に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムに関する発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムであって、前記ガスバリア性物質が、ケイ素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、の一群よりなる群の何れか1つ若しくはその酸化物、窒化物、または化合物若しくはそれらの混合物の何れか、または前記一群の中の複数若しくはその酸化物、窒化物、または化合物若しくはそれら混合物の何れか、であること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムの積層面に、ポリアミドフィルムと、シーラントフィルムとを、接着剤を介して積層してなること、を特徴とする、熱水耐性を有するガスバリアフィルム積層体であって、前記積層体のガスバリア性が、水蒸気透過度1g/m・day以下、酸素透過度0.1cc/m・day・atm以下であり、且つ、前記積層体を温度100℃の熱水で30分間の熱水処理を行った後のガスバリア性が、水蒸気透過度1g/m・day以下、酸素透過度0.5cc/m・day・atm以下であり、且つ、300mm/minの剥離速度でT型剥離を行ったとき、上記各層の剥離強度が熱水処理前後共に3N/15mm以上であること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の熱水耐性を有するガスバリアフィルムおよび熱水耐性を有するガスバリアフィルム積層体を用いてなる食品包装材であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願発明に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルムであれば、100℃の熱水による30分間の浸漬処理を行った後も層間剥離が起こらず、また酸素透過度および水蒸気透過度が共に維持されガスバリア性の低下も起こらないため、酸素透過度と水蒸気透過度とを両立した熱水耐性に優れた高性能なガスバリアフィルムを得ることができる。また、従来利用されていたエチレンビニルアルコールは溶解性が低く、混合などの調製が困難であったが、本願発明において用いる変性PVAであれば容易に溶解することができるので、より簡便に高性能なガスバリアフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
本願発明に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルムに関して、第1の実施の形態として説明する。
【0019】
本実施の形態に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルムは、基材フィルムの表面に、少なくともガスバリア層と、高分子樹脂層とをこの順に積層してなる構成を有する。
【0020】
以下、順番に説明をする。
まず基材フィルムであるが、これは従来ガスバリアフィルムにおいて周知に用いられる樹脂フィルムを用いれば良い。好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムまたはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、あるいはこれらの複合フィルム状物、等である。本実施の形態においてはPETフィルムを用いることとする。
【0021】
本実施の形態に係る基材フィルムの厚みは、特段制限するものではないが、本実施の形態における各種工程を施しても破損しない程度の厚みは必要であり、また最終的にハイバリア性を有するガスバリアフィルムを得た際にある程度の可撓性が必要であれば、係る可撓性を確保できる程度の厚み以下とする必要があることは詳細を述べるまでもなく当然のことである。この点を考慮してより具体的に検討するならば、6μm以上250μm以下が好ましい。これは6μmより薄いフィルムであると本実施の形態における各種工程を施す際に行われる種々の処理に耐えられずに破損する可能性が高く、250μmより厚いフィルムであると実際に得られるフィルムの可撓性が乏しいものとなってしまい、ひいては包装材料として不適なものとなってしまうからである。本実施の形態においては12μmとする。
【0022】
次にガスバリア層について説明する。
本実施の形態に係るガスバリア層としては、従来ガスバリアフィルムにおいて周知に用いられるガスバリア性物質を用いれば良いが、好ましくはケイ素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、の一群よりなる群の何れか1つ若しくはその酸化物、窒化物、又は化合物若しくはそれらの混合物の何れか、又は前記一群の中の複数若しくはその酸化物、窒化物、又は化合物若しくはそれら混合物の何れか、である。さらに具体的に述べるならば、例えばケイ素を用いても良く、また酸化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ素化合物でも良く、更に酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合物であっても良い。またスズとインジウムの合金の酸化物や窒化物であっても良い。即ちこれら一群の金属を原材料とした物質によるガスバリア層とすれば良い。本実施の形態では酸化ケイ素を用いることとする。
【0023】
また、上記物質の中でも透明なもの、例えば酸化ケイ素などを用い、本実施の形態に係るガスバリアフィルムに用いる物質を全て基本的に透明なものとすることによって、本実施の形態により得られるガスバリアフィルム全体も透明なものとなる。かようなガスバリアフィルムを包装材料として用いれば内容物も容易に視認可能となるので、単にガスから内容物を保護するだけではなく、内容物の状態も視認できる、という利点が生じる。
【0024】
ガスバリア層の積層方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着法や化学的蒸着法など、従来公知の技術を適宜用いることができるが、本実施の形態においては真空蒸着法を用いることとする。
【0025】
ガスバリア層の厚みとしては5nm以上40nm以下であることが好ましい。5nmより薄くなるとガスバリア層自身が発揮すべきガスバリア性が不十分なものとなってしまい、また40nmより厚くすると、それ以上厚くすることによるバリア性の向上が見込めない上に、ガスバリアフィルム全体の可撓性が乏しくなってしまうため、コストと性能の面で不利であるからである。本実施の形態においては30nmとする。
【0026】
次に高分子樹脂層について説明する。
本実施の形態に係る高分子樹脂は、水溶性高分子と、金属アルコキシドと、カップリング剤とを含有する塗工組成物を架橋反応させることにより得られる。このような成分を架橋反応させることによってより強固な膜とすることができる。
【0027】
本実施の形態に係る水溶性高分子は、PVAのヒドロキシ基を一部アセトアセチル基で置換したアセトアセチル変性PVAと、PVAのヒドロキシ基を一部エチレン基で置換したエチレン変性PVAとを混合したものであることを特徴とする。従来は、単体の未変性PVAや変性PVA、あるいは未変性PVAと変性PVAの混合体や変性PVAとエチレンビニルアルコール共重合体との混合体などによりガスバリア性の向上を試みていたが、いずれもガスバリア性の熱水処理に対する耐久性は不十分であった。しかし本願発明のようにヒドロキシ基を架橋反応性の高い官能基で一部置換した変性PVAと、ヒドロキシ基を疎水性官能基で一部置換した変性PVAの2種類を混合することで、従来の組成で得られる性能以上の効果が得られることを見出した。
【0028】
このことについて以下説明する。
未変性PVAは架橋反応によって強固な膜となるため、ガスバリア性物質として広く用いられているが、高湿度条件下ではガスバリア性、特に水蒸気バリア性が著しく且つ容易に低下してしまう。これは、未変性PVAのみではヒドロキシ基のみでの反応となるが、全てのヒドロキシ基が反応するわけではないため架橋が強固でなく、熱水処理により容易に架橋が外れてしまうためである。
【0029】
このような未変性PVAに替わり、ヒドロキシ基を架橋反応性の高い官能基と置換させた変性PVAを用いることにより、架橋反応を促進させ、未変性PVAよりも強固な膜とすることができる。例えばヒドロキシ基をアセトアセチル基に置換したアセトアセチル変性PVAは、アセトアセチル基同士、またはアセトアセチル基とヒドロキシ基との反応などにより、未変性PVAよりも強固な架橋となる。しかし、これらの反応は可逆反応となる脱水反応であるため、熱水処理を行うことで容易に逆反応が起こり、架橋が外れてしまう。
【0030】
そこで、発明者らが鋭意検討を行った結果、上記ヒドロキシ基を架橋反応性の高い官能基と置換した変性PVAに、ヒドロキシ基を疎水性の官能基と置換した変性PVAを混合することによって、従来は保つことができなかった熱水耐性が向上することを見出したのである。この理由は定かではないが、ヒドロキシ基が疎水性官能基と置換された変性PVAを用いることにより、架橋密度が向上し、且つ疎水性官能基が他の官能基による架橋を熱水によるアタックから保護するため、より高い熱水耐性を発揮することができるものと考えられる。
【0031】
上記変性PVAにおいて、ヒドロキシ基と置換される官能基としてはそれぞれ従来公知のものを適宜用いれば良いが、架橋反応性の高い官能基としてはアセトアセチル基、疎水性官能基としてはエチレン基を用いることが好ましい。アセトアセチル基はヒドロキシ基よりも反応性が高く、アセトアセチル基同士のアルデヒド反応、アセトアセチル基とヒドロキシ基とのメチロール反応など、より強固な架橋とすることができる。また、エチレン基は疎水性を有しており、上記のようなアセトアセチル基による架橋を熱水から保護することができる。
【0032】
このとき、ヒドロキシ基と各官能基の置換率は、それぞれ適宜選択すれば良いが、全体のヒドロキシ基に対して15%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以上10%以下である。このような範囲であれば、水への溶解性や溶媒との親和性、塗液中での分散性を保つことができる。本実施の形態においては、アセトアセチル変性PVA、エチレン変性PVA共に3%とする。
【0033】
このような変性PVAを複数用いることによって、従来よりも高い熱水耐性が上記のような変性PVAを混合するだけで得られるため、より簡便に高性能なガスバリアフィルムを得ることができるのである。また、従来ガスバリアフィルムのバリア層高分子樹脂として用いられてきたエチレンビニルアルコール共重合体は溶解度が低く、安定した生産性に欠けていた。しかし本願発明にて用いるヒドロキシ基を置換した変性PVAは溶解度が高く、容易に溶液を調製することができるため、簡便に高性能なガスバリアフィルムを得ることができる。さらに、積層する必要が無く、混合するだけで高い効果が得られることから、工程数や全体の膜厚を減らして、コストダウンすることができる。
【0034】
また、本願発明において用いる変性PVAは、未変性PVAのヒドロキシ基を任意の官能基に置換することによって得られるが、この未変性PVAはビニルアルコール成分が91%以上であることが好ましい。より好ましくはビニルアルコール成分が99%以上である完全けん化型PVAである。このような未変性PVAをベースとすることによって、より被膜強度と耐水性の高い層とすることができる。
【0035】
前記2種類の変性PVAにおいて、アセトアセチル変性PVAを(a)、エチレン変性PVAを(b)としたとき、その固形分比が(a)/(b)=3/1〜1/3となるような範囲で混合したものであることが好ましい。このような比率よりも各種成分が多くなると、水蒸気透過度と酸素透過度とを良好な値で維持し、且つ層間密着力を保つことが困難になる。本実施の形態においては、アセトアセチル変性PVAとエチレン変性PVAを1/1の固形分比で混合したものを用いることとする。
【0036】
本実施の形態に係る金属アルコキシドは、一般式M(OR)で表されるものであることが好ましい。このとき、Mは金属元素、Rはアルキル基、nは金属元素の酸化数である。このような金属アルコキシドとしては特段限定されるものではなく、用途や構成に応じて適宜選択すれば良いが、用いる金属元素としては例えばケイ素、マグネシウム、ゲルマニウム、ホウ素、リチウム、ナトリウム、鉄、ガリウム、リン、アンチモン、スズ、タンタル、バナジウムなどが挙げられる。金属アルコキシドは酸触媒により加水分解し、その加水分解生成物同士、または前記水溶性高分子の水酸基などと脱水縮合反応することにより、三次元架橋反応が促進して耐熱性や緻密度の高い強固な被膜とすることができる。本実施の形態においてはエチルシリケートを用いることとする。
【0037】
本実施の形態に係るカップリング剤は、一般式YMR(OR)n−1−mで表される各種カップリング剤の1種または複数であることが好ましい。このとき、Yは反応性官能基、Mは金属元素、Rはアルキル基、nは金属元素の酸化数、mは0以上で(n−1)より小さい整数である。このようなカップリング剤としては特段限定されるものではないが、用いる金属元素としては例えばケイ素、チタン、ジルコニウムなどが挙げられ、反応性官能基としては例えばアミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基などが挙げられる。代表的なものにシランカップリング剤やチタネートカップリング剤などが挙げられる。このようなカップリング剤は無機物と有機物、即ち無機物であるガスバリア層と、有機物である高分子樹脂層との親和性を向上させる効果があるので、ガスバリア層の上に高分子樹脂を直接塗布することができ、またガスバリア層と高分子樹脂層の密着力が向上する。よって、作業効率が向上する上、層間剥離を抑制することができる。本実施の形態においてはシランカップリング剤を用いることとする。
【0038】
前記高分子樹脂には架橋剤を混合しても良い。架橋剤を用いることにより、変性PVAの架橋が促進され、より強固な膜とすることができる。また、その他にも硬化触媒を混合しても良い。硬化触媒を混合することにより、樹脂の硬化が促進され作業効率が向上する。これらの反応補助剤としては用いる樹脂に応じて従来公知のものを適宜用いれば良い。
【0039】
以上述べたような水溶性高分子、金属アルコキシドおよびカップリング剤を混合して架橋反応させることによって高分子樹脂を得ることができる。そして該樹脂を塗布することで目的とする高分子樹脂層を得るが、その積層方法としては、従来ウェットコーティング法として知られる手法を適宜用いればよい。例えばバーコート法、流延法、ローラーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、フローコート法、カーテンコート法、ダイレクトグラビア法、キスグラビアリバース法、スリットリバース法、等である。本実施の形態においてはバーコート法を用いるものとする。
【0040】
前記高分子樹脂層の膜厚は、0.1〜1μmであることが好ましい。0.1μm以下ではその効果を十分発揮することができず、1μm以上ではそれ以上厚くすることによるバリア性の向上が見込めない上に、高分子樹脂層の厚さが厚くなることによって実際の製造時においても乾燥工程などに時間を要するため、コストがかかる。本実施の形態においては0.4μmとする。
【0041】
上記のようにして得られた本実施の形態に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルムは、その積層面に対しポリアミドフィルムとシーラントフィルムとを接着剤を介して貼り合わせた積層体としても良い。ポリアミドフィルムは耐ピン強度に優れるため、液体などの包装材として用いれば、熱水処理による破袋や内容物による穴あきを防ぐことができる。また、強靭性に優れるため、重量のある内容物に対しても包装材の強度を高めることができる。一方、シーラントフィルムは本実施の形態にかかるガスバリアフィルムと基材とをヒートシールさせるために設けられるものである。ここで、シール部分の密着強度が低いと破袋してしまうため、そのシールする基材や用途、熱水処理条件に適したシーラントフィルムを選択することが必要である。シーラントフィルムとしては例えばポリフッ化ビニル(PVF)フィルム、リニア低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムなどが挙げられる。本実施の形態においてはLLDPEフィルムを用いることとする。以上のように、これらのフィルムを積層することにより、ガスバリア性だけでなく、突き刺し強度が強く強靭性のある、シール性を有した積層体とすることができる。積層の際には接着剤を介してこれらのフィルムを貼り合わせるが、従来公知の手法により適宜行えば良い。
【0042】
一般にガスバリアフィルムの熱水耐性は、100℃の熱水シャワーにより試験片を30分間さらした前後で、上述した水蒸気透過度、酸素透過度および密着強度を評価するが、本実施の形態においては100℃の熱水に試験片を30分間浸漬し、その前後の水蒸気透過度、酸素透過度をカップ法(JIS Z 0208)によって測定した。その結果、本実施の形態により得られた熱水耐性を有するガスバリアフィルムの積層体は、熱処理前で水蒸気透過度が1g/m・day以下、酸素透過度が0.1cc/m・day以下であり、熱処理後においても、水蒸気透過度が1g/m・day以下、酸素透過度が0.5cc/m・day以下、という良好なガスバリア性と熱水耐性を示した。また、前記積層体の300mm/minの剥離速度でのT型剥離による密着強度測定においても、熱水処理の前後で3N/15mm以上となり、高度な密着性と熱水耐性を示した。
【0043】
以上のように、本実施の形態に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルムは、100℃の熱水で30分間浸漬処理された後においてもガスバリア性および密着力が低下しない、熱水耐性に優れたガスバリアフィルムである。故に、本実施の形態に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルムは、熱水処理されるような食品包装材に使用することができる。また、溶液調製や構成が非常に簡便であるため、低コストで再現性良く安定して生産することができる。
【実施例】
【0044】
本願発明に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルム及び該フィルムを用いた積層体に関し、更に実施例を交えて以下説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(基材フィルム)
基材フィルムとして、東洋紡(株)社製:商品名「UV402」(片面易接着コートフィルム)を用いることとする。
【0046】
(高分子樹脂の調製)
高分子樹脂の水溶性高分子としては、完全けん化型PVAにおいてヒドロキシ基が3%アセトアセチル基に置換されたアセトアセチル変性PVA、完全けん化型PVAにおいてヒドロキシ基が3%エチレン基に置換されたエチレン変性PVA、および完全けん化型PVAより各水準において選択したPVAを所定の比率で混合したものを用いることとする。金属アルコキシドとしてはエチルシリケートを、カップリング剤としてはシランカップリング剤を用いることとする。また、加水分解触媒として3%希塩酸、脱水反応触媒として東京化成工業(株)製のN,N−ジメチルベンジルアミン、熱硬化触媒として日本化学産業(株)製のナーセムAl、架橋剤として日本合成化学工業(株)製のSafelink SPM−02を用いることとする。
表1の配合表に示された配合比に従って高分子樹脂の調製を行う。まず、エチルシリケート、シランカップリング剤、イソプロピルアルコール(IPA)、3%希塩酸、N,N−ジメチルベンジルアミンを順に混合して、エチルシリケートとシランカップリング剤の加水分解溶液を調製したものを水/IPA混合溶液で必要固形分に希釈し、ナーセムAlを混合・撹拌してA液を得た。同様に、各水準で選択したPVAを必要固形分となるよう水に分散し、温浴で加温・撹拌して水溶性高分子溶液を得た。該水溶性高分子溶液を自然降温させた後、あらかじめ3%希塩酸により加水分解させたシランカップリング剤と、Safelink SPM−02を混合・撹拌してB液を得た。上記で得られたA液とB液とを混合・撹拌し、目的の塗工液を得た。表中の数字は重量比であり、PVA重量比は用いたPVAの合計である。
【0047】
(表1)
【0048】
(実施例1)
基材フィルムの未処理面に、ガスバリア層として真空蒸着法を用いて酸化ケイ素を30nm形成した。ガスバリア層の表面に、高分子樹脂層をバーコーター法により塗布し、乾燥させて0.4μmの高分子樹脂層を形成し、目的とするガスバリアフィルムを得た。水溶性高分子としてはアセトアセチル変性PVAとエチレン変性PVAを用い、各PVAの固形分の重量%濃度比は、アセトアセチル変性PVA/エチレン変性PVA=3/1とする。
【0049】
(実施例2)
高分子樹脂におけるPVAの固形分の重量%濃度比が、アセトアセチル変性PVA/エチレン変性PVA=1/1となるようにした以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0050】
(実施例3)
高分子樹脂におけるPVAの固形分の重量%濃度比が、アセトアセチル変性PVA/エチレン変性PVA=1/3となるようにした以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0051】
(比較例1)
基材フィルムの易接着コート処理面に、ガスバリア層として真空蒸着法を用いて酸化ケイ素を30nm形成し、目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0052】
(比較例2)
水溶性高分子として未変性の完全けん化型PVAのみを使用する以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0053】
(比較例3)
水溶性高分子としてアセトアセチル変性PVAのみを使用する以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0054】
(比較例4)
水溶性高分子としてエチレン変性PVAのみを使用する以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0055】
(比較例5)
水溶性高分子としてアセトアセチル変性PVAと未変性の完全けん化型PVAを用い、その固形分の重量%濃度比を、アセトアセチル変性PVA/未変性PVA=1/1とする以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0056】
(比較例6)
水溶性高分子としてエチレン変性PVAと未変性の完全けん化型PVAを用い、その固形分の重量%濃度比を、エチレン変性PVA/未変性PVA=1/1とする以外は、実施例1と同様にして目的とするガスバリアフィルムを得た。
【0057】
各実施例及び比較例につき、以下の項目を調べた。その結果を表2に示し、評価を表3に示す。表中のPVA(a)はアセトアセチル変性PVAを、PVA(b)はエチレン変性PVAを、PVA(c)は未変性の完全けん化型PVAをそれぞれ示す。また、評価サンプルは、各実施例及び比較例のガスバリアフィルムのガスバリア層側に厚み15μmのポリアミドフィルム(ユニチカ(株)製:商品名「ONBC」)と厚み50μmのLLDPE(三井化学東セロ(株)製:商品名「T.U.X FC−S」)とを従来公知な手法によりドライラミネートしたものを用いた。
【0058】
(ガスバリア性)
上記サンプルの水蒸気透過度および酸素透過度について、「カップ法(JIS Z 0208)」により測定した。次に得られたサンプルを100℃の熱水に30分間浸漬し、その後の水蒸気透過度および酸素透過度についても同様に測定した。その結果はそれぞれ表中の酸素透過度は「OTR」、水蒸気透過度は「WVTR」とした欄に記載する。
【0059】
(密着力)
上記サンプルの片端を固定し、オートグラフ((株)島津製作所社製、型番:AGS−100A)を使用して他端を引っ張り、サンプルが剥離した際の荷重(N/15mm)を測定し、その境界面における密着性について評価を行った。測定方法は T型剥離:引張速度300mm/min によるものとした。また、ガスバリア性試験で行った熱水処理を行ったものについても同様に測定した。サンプルその結果はそれぞれ表中の「密着」とした欄に記載する。ちなみに表中の「密着」における「3<」「4<」とは、サンプルが層間で剥離せずに3N/15mmまたは4N/15mmで破断してしまい、境界面の密着力が測定不能であったことを示す。即ち、該水準の層間密着力は3N/15mmまたは4N/15mm以上ということになる。
【0060】
(表2)
【0061】
(表3)
【0062】
以上の結果より、本願発明に係るガスバリアフィルムが従来と比較してより高度な熱水耐性を有することが分かる。
【0063】
以下詳細に比較する。比較例1においては酸素透過度が熱水処理前後共に条件を満たしていない。未変性PVAのみによる高分子樹脂層を設けた比較例2においては、熱水処理前の酸素透過度については改善したが、熱水処理後の酸素透過度、水蒸気透過度、密着強度全てにおいて劣化しており、未変性PVAでは耐熱水性が不足していることが分かる。また、高分子樹脂としてアセトアセチル変性PVAのみを用いた比較例3においては、熱水処理後の水蒸気透過度は改善したが酸素透過度および密着強度が劣化している。高分子樹脂としてエチレン変性PVAのみを用いた比較例4では、酸素透過度、水蒸気透過度、密着強度全てにおいて熱水処理により劣化している。未変性PVAと変性PVAを混合した比較例5および比較例6においても同様に熱水処理後において、要求される酸素透過度、水蒸気透過度、密着強度は得られていない。これらに対し、実施例1ないし実施例3においては、酸素透過度、水蒸気透過度、密着強度全てにおいて熱水処理の前後で良好な結果を示している。即ち、良好なガスバリア性を保持したまま密着強度も維持しており、ガスバリア層のみのガスバリアフィルムや、未変性PVAや変性PVAのみ、または未変性PVAと変性PVAの混合物を水溶性高分子として用いたガスバリアフィルムと比較して、本願発明のガスバリアフィルムは良好な耐熱水性を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明した本願発明に係る熱水耐性を有するガスバリアフィルムおよび該フィルムを用いた積層体であれば、熱水処理を行ってもそのバリア性や層間密着力が劣化することがないため、加熱殺菌などを行う食品包装のような熱水耐性を要する包装フィルムなどに用いることができる。
【要約】
【課題】 熱水処理を行っても層間剥離やバリア性の低下が起こらない、熱水耐性を有するガスバリアフィルムと該フィルムを用いた食品包装材。
【解決手段】 基材フィルムの表面に、少なくとも、ガスバリア性物質を積層してなるガスバリア層と、高分子樹脂を積層してなる高分子樹脂層とを、この順で積層してなるガスバリア性フィルムであって、前記高分子樹脂が、水溶性高分子と、金属アルコキシドと、カップリング剤とを含有する塗工組成物の架橋反応により得られてなり、前記水溶性高分子が、ヒドロキシ基をアセトアセチル基で一部置換したアセトアセチル変性PVAと、ヒドロキシ基をエチレン基で一部置換したエチレン変性PVAとを混合したものであることを特徴とする熱水耐性を有するガスバリアフィルムと、該フィルムを用いた食品包装材を提供する。
【選択図】 なし