(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
垂直配向型液晶表示素子は、二枚の表裏ガラス基板間に配置される液晶層内の液晶分子配向が、基板に対して略垂直に配向する垂直配向(vertical alignment; VA)モード液晶セルを略クロスニコルに配置された偏光板間に配置することにより構成される。ガラス基板法線方位から観察したとき、垂直配向型液晶表示素子の背景表示部(電圧無印加部)の光透過率は、略クロスニコルに配置された偏光板のそれとほぼ等しく、非常に低い。このため、垂直配向型液晶表示素子は、高コントラスト比での表示を比較的容易に実現することができる。
【0003】
VAモード液晶セルにおいて、表裏基板内面間に、垂直方向から傾斜した均一な配向処理を施す方法として以下の技術が公知である。たとえば(i)配向膜としてSiO
xなどの金属酸化膜を、基板内面となる面に、基板法線より傾いた方向から斜方蒸着することにより、蒸着した表面を鋸形状に形成し、この表面形状効果によって均一配向を実現する方法、(ii)ポリイミドなどの有機配向膜材料を基板内面となる面に成膜した後、配向膜面に紫外線を基板法線より斜め方位から照射する、いわゆる光配向処理方法(たとえば、特許文献1参照)、(iii)ある特定の表面自由エネルギを有する垂直配向膜を、基板内面となる面に成膜した後ラビング処理する方法(たとえば、特許文献2参照)である。これらの方法は、電圧無印加時のVAモード液晶セルの液晶層において、ある一方位に液晶分子を配向可能なモノドメイン配向処理方法である。
【0004】
図8(A)は、従来の垂直配向型液晶表示素子の概略を示す断面図であり、(B)〜(D)は、その電極構造の一部を示す概略的な平面図である。
【0005】
図8(A)を参照する。従来の垂直配向型液晶表示素子は、表側基板11、裏側基板12、及び両基板11、12間に配置された垂直配向液晶層13を含んで構成される。表側基板11は、表側ガラス基板11a、表側ガラス基板11a上に形成されたセグメント透明電極11b、及び、表側ガラス基板11a、セグメント透明電極11b上に形成された表側垂直配向膜11cを含んで構成される。同様に、裏側基板12は、裏側ガラス基板12a、裏側ガラス基板12a上に形成されたコモン透明電極12b、及び、裏側ガラス基板12a、コモン透明電極12b上に形成された裏側垂直配向膜12cを含んで構成される。セグメント透明電極11b及びコモン透明電極12bは、たとえば酸化インジウムスズ(indium tin oxide; ITO)で形成される。
【0006】
表側及び裏側垂直配向膜11c、12cには、たとえば上記した配向処理方法(ii)または(iii)により、一方位に配向処理が施されている。表側及び裏側基板11、12と平行な面内に、紙面垂直奥方位を12時方位(90°方位)、紙面右方位を3時方位(0°方位)、紙面垂直手前方位を6時方位(270°方位)、紙面左方位を9時方位(180°方位)とする方位座標系を定めるとき、一例として、表側垂直配向膜11cには12時方位、裏側垂直配向膜12cには6時方位に、液晶分子が一様に配向するように、配向処理がなされている。
【0007】
垂直配向液晶層13は、表側基板11の表側垂直配向膜11cと、裏側基板12の裏側垂直配向膜12cとの間に配置された略垂直配向する液晶層である。たとえば負の誘電率異方性を有する液晶材料を用いて形成され、モノドメイン構造を有する。たとえば、セグメント透明電極11bとコモン透明電極12bとの間に電圧が印加されない状態においては、液晶層13の液晶分子は、表側及び裏側基板11、12に対して略垂直に配列する。両電極11b、12b間に閾値電圧より大きい電圧が印加されると(以下、電圧印加状態)、液晶層13内の液晶分子の大部分は、基板11、12の面内方向に向かって配向処理方位へ倒れる。
【0008】
スペーサ14は、たとえば表側基板11と裏側基板12との間の間隔を保持する。両基板11、12は、シール部15により貼り合わされている。
【0009】
表側視角補償板16、表側偏光板18が、この順に、液晶層13とは反対側の表側ガラス基板11a上に配置される。同様に、裏側視角補償板17、裏側偏光板19が、この順に、液晶層13とは反対側の裏側ガラス基板12a上に配置される。表側、裏側偏光板18、19は、たとえば略クロスニコルに、かつ、基板面と平行な面内において吸収軸方位が、液晶層13の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の電圧無印加時における配向方位(6時方位)と、45°の角度をなすように配置されている。一例として、表側偏光板18は、吸収軸方位が45°−225°方位となるように配置され、裏側偏光板19は、吸収軸方位が135°−315°方位となるように配置される。
【0010】
表側、裏側視角補償板16、17は、負の一軸または負の二軸の光学異方性を有する視角補償板である。表側、裏側視角補償板16、17に面内遅層軸が存在する場合、表側、裏側視角補償板16、17は、遅層軸と、近接する偏光板18、19の透過軸とが略平行となるように配置される。
【0011】
図示は省略したが、裏側偏光板19の外側にバックライトが配置される。バックライトから発せられた光は、裏側偏光板19及び裏側視角補償板17を透過して液晶セルに入射する。セグメント透明電極11bとコモン透明電極12bとの間に閾値電圧より大きい電圧が印加されていないとき、及び、電圧が印加されている場合でも、表示部(基板11、12の法線方向に関して両電極11b、12bが重なって形成され、表示が行われる領域)以外の領域においては、液晶セルに入射し、これを透過した光は、表側偏光板18で遮光される。このため、表側偏光板18の外側から液晶表示素子を観察する観察者に対して、暗表示(黒表示)が行われる。他方、両電極11b、12b間に閾値電圧より大きい電圧が印加された状態の表示部においては、液晶セルに入射した光は、液晶セル及び表側偏光板18を透過する。このため、表側偏光板18の外側から液晶表示素子を観察する観察者に対して、明表示(白表示)が行われる。
【0012】
図8(B)、(C)は、それぞれセグメント透明電極11b、コモン透明電極12bの一部を示す概略的な平面図である。また、
図8(D)は、表側基板11の鉛直上方(基板法線方向)から観察した両電極11b、12bの一部を示す概略的な平面図である。
【0013】
図8(A)〜(D)に示す液晶表示素子は、表示部の形状を主にセグメント電極11bの形状によって実現する、いわゆるセグメント表示液晶表示素子である。セグメント表示液晶表示素子においては、電極の形状により、任意形状の表示部を作製することができる。
図8(B)〜(D)には、表示部が「AUTO」の文字列となる電極11b、12b領域を示した。なおセグメント表示液晶表示素子は、たとえば単純マトリクス駆動、一例としてマルチプレックス駆動により動作される。
【0014】
「AUTO」の表示を実現するため、セグメント透明電極11bは、たとえば
図8(B)に示す形状に、表側ガラス基板11a上に形成される。また、コモン透明電極12bは、
図8(C)に示す形状に、裏側ガラス基板12a上に形成される。表側基板11と裏側基板12とは、電極11b、12b形成面が対向するように略平行配置され、両基板11、12の法線方向から見たとき、両電極11b、12b形成領域の重なり部分が、「AUTO」のみとなるように、たとえば
図8(D)に示すように位置合わせされ、貼り合わされている。
図8(B)〜(D)に示す電極構造と、モノドメイン垂直配向液晶層とを組み合わせることにより、表示部以外の良好な暗表示を実現することが可能となる。
【0015】
図8(A)〜(D)に示した液晶表示素子は、12時方位からは、明表示状態が良好に観察され、逆に6時方位からは明表示が観察されない極角方位観察角度が存在することが知られている。12時方位は、最良視認方位と呼ばれ、6時方位は反視認方位と呼ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来の垂直配向型液晶表示素子を電圧印加状態時に反視認方位から見ると暗状態が観察される。しかし表示部に、最良視認方位または反視認方位と略直交する辺(たとえば
図8(A)〜(D)に示す例においては「A」の横棒)が存在する場合には、その辺のエッジ付近で光抜けが生じる。そして光抜けの度合いに不均一が観察され、表示品位を低下させる場合がある。更に、同じ表示パターンにもかかわらず、反視認方位から見たときに表示部エッジ付近の光抜け状態に違いが観察されることがあり、表示パターンの配置によっては表示品位を低下させる。これらの表示品位の低下が認められるのは、反視認方位を中心に、時計回り方向、反時計回り方向の各方向に、それぞれ約70°以内の範囲から観察した場合においてである。
【0022】
本願発明者らは、光抜けやその度合いの不均一が生じる理由を以下のように考察した。
【0023】
図1は、
図8(A)〜(D)に示した従来の垂直配向型液晶表示素子について、
図8(A)とは異なる断面の液晶セル部分を示す概略図である。前述のように、表側垂直配向膜11cには12時方位、裏側垂直配向膜12cには6時方位に、ラビング処理が施されている。このため電圧印加状態においては、液晶層13の厚さ方向の中央に位置する液晶分子(液晶層中央分子13m)は、6時方位に倒れるように傾斜する。このため、液晶表示素子の最良視認方位は12時方位となり、反視認方位は6時方位となる。
【0024】
セグメント透明電極11b及びコモン透明電極12bのエッジ部においては、液晶層13内に斜め電界が生じる。本図には、液晶層13内の斜め電界を破線で示した。斜め電界の影響を強く受ける液晶層13内の領域では、液晶層中央分子13mが斜め電界に直交するように配向する。したがって電極11b、12bのエッジ付近の一部領域においては、液晶層中央分子13mの配向方位が、斜め電界の影響を受けない領域(配向膜11c、12c上の配向処理方位で液晶分子の配向方位が決定される領域)の液晶層中央分子13mの配向方位とは逆方位(180°異なる方位)となる。このようにモノドメイン構造を有する液晶表示素子であっても、電圧印加状態の表示部内は、実質的にエッジ付近で配向方位が異なるマルチドメイン構造が実現されている。これにより、反視認方位からであるにもかかわらず、表示部のエッジ付近で光抜けが観察されると考えられる。
【0025】
液晶層中央分子13mの配向方位が相互に逆方位となる領域の中間の領域においては、暗領域(暗線)が形成される。
【0026】
図2(A)及び(B)は、
図8(A)〜(D)に示した従来の垂直配向型液晶表示素子の表示部「AUTO」の「A」の文字の横棒付近の電圧印加時配向組織を示す偏光顕微鏡写真である。両写真は、同じ電極パターンの配向組織を表している。
図2(A)、(B)の双方において、「A」の横棒部分の上側エッジ付近に、曲線状の暗領域が2本形成されているのが認められる。
【0027】
図3は、暗領域と液晶層中央分子13mの配向方位との関係を示す概略的な平面図である。本図には、矢印の向きでその位置における電圧印加時の液晶層中央分子13mの配向方位を示した。
【0028】
図示するように、斜め電界の影響を受けない領域の液晶層中央分子13mの配向方位(電圧無印加時における配向方位)は6時方位である。また「A」の横棒の上側エッジにおける液晶層中央分子13mの配向方位は12時方位となる。暗領域は、両者の中間に2本(たとえば第1の暗領域(暗線)及び第2の暗領域(暗線))形成される。
【0029】
液晶層中央分子13mの配向方位が相互に逆方位である両者の中間領域においては、一方側から他方側に向かって、液晶層中央分子13mの配向方位は連続的に変化する。このため第1の暗領域は、たとえば液晶層中央分子13mの配向方位が、表側偏光板吸収軸方位(45°−225°方位)と平行な方位である、45°方位となる位置に形成される。また第2の暗領域は、たとえば液晶層中央分子13mの配向方位が、裏側偏光板吸収軸方位(135°−315°方位)と平行な方位である、315°方位となる位置に形成される。
【0030】
第1及び第2の暗領域が形成されている領域と、3時方位または9時方位で隣接している領域においては、液晶層中央分子13mの配向方位が連続的に変化する向き(回転方向)は逆となる。たとえば第1及び第2の暗領域が形成されている領域において、液晶層中央分子13mの配向方位が右方向に回転するように連続的に変化するとき、それに隣接する領域においては、液晶層中央分子13mの配向方位は左方向に回転する。このため、たとえば液晶層中央分子13mの配向方位が135°方位となる位置を結んで、「A」の横棒の上側エッジに近い暗領域が形成され、225°方位となる位置を結んで、「A」の横棒の上側エッジから遠い暗領域が形成される。そして液晶層中央分子13mの配向方位が連続的に変化する向きが逆となる位置に、液晶分子の配向が不連続となるディスクリネーションが現れる。
【0031】
このように、本願発明者らは、液晶層中央分子13mの配向方位が相互に逆方位となる領域の中間の領域に生じる暗領域は、たとえば液晶層中央分子13mを電圧無印加時における配向方位と逆方位に配向させる斜め電界に起因し、液晶層中央分子13mの配向方位が偏光板の吸収軸方位と略平行になる位置に形成されており、また、ディスクリネーションは、液晶層中央分子13mの配向方位が連続的に変化する向きが逆となる位置に形成される、と考えた。
【0032】
図2(A)及び(B)を再参照する。本願発明者らの考察は、「A」の横棒部分の上側エッジ付近に曲線状の暗領域が2本形成されているのが認められる一方で、斜め電界の影響を受ける領域と受けない領域の液晶分子の配向方位が同方位となる下側エッジには暗領域は認められないことと整合する。
【0033】
また2枚の写真を比較すると、同じ電極パターンにもかかわらず、「A」の横棒部分の上側エッジ付近に発生するディスクリネーションの位置、及び、暗領域の曲線形状は全く異なり、不規則であることがわかる。本願発明者らは、暗領域パターンの不規則性により、反視認方位から観察したときの光抜けに不均一が生じていると考えた。
【0034】
本願発明者らは、表示部を構成する電極のエッジが、液晶層中央分子の電圧無印加時配向方位と直交しない電極構造を有する液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子は、ディスクリネーションの発生位置を通して、暗領域の曲線形状を制御し、暗領域パターンの不規則性を解消して、光抜けの不均一性を抑止することが可能な液晶表示素子である。
【0035】
図4は、実施例によるモノドメイン垂直配向型液晶表示素子の概略を示す断面図である。実施例による垂直配向型液晶表示素子は、
図8(A)〜(D)に示した従来例とは、セグメント透明電極11B及びコモン透明電極12Bにおいて相違する。その他の構成要件は、従来例と同様である。
【0036】
以下、
図4を参照しながら、実施例によるモノドメイン垂直配向型液晶表示素子の製造方法を説明する。
【0037】
片面が研磨処理され、その表面にSiO
2アンダーコートが施された後、ITO膜が成膜された青板ガラス基板を2枚準備し、フォトリソグラフィ工程及びエッチング工程で各基板のITO膜をパターニングして、セグメント透明電極11Bの形成された表側ガラス基板11a、及び、コモン透明電極12Bの形成された裏側ガラス基板12aを作製する。必要に応じて、電極11B、12Bの一部表面上にSiO
2などによる絶縁層を形成してもよい。
【0038】
電極11B、12B付きのガラス基板11a、12aをアルカリ溶液等で洗浄した後、 電極11B、12B上及びガラス基板11a、12a上に、(株)チッソ石油化学製の垂直配向膜をフレキソ印刷法にて塗布し、クリーンオーブン内で180℃で30分間焼成する。こうして得られた表側及び裏側垂直配向膜11c、12cの各々に、綿製ラビング布を用いて、基板面内の所定の一方位にラビング処理を施す。こうして、表側ガラス基板11a、表側ガラス基板11a上に形成されたセグメント透明電極11B、及び、表側ガラス基板11a、セグメント透明電極11B上に形成された表側垂直配向膜11cを含んで構成される表側基板(セグメント基板)11を得る。また、裏側ガラス基板12a、裏側ガラス基板12a上に形成されたコモン透明電極12B、及び、裏側ガラス基板12a、コモン透明電極12B上に形成された裏側垂直配向膜12cを含んで構成される裏側基板(コモン基板)12を得る。
【0039】
表側基板11の全面に、乾式散布法にて粒径約5μmの(株)早川ゴム製黒色プラスチックスペーサを散布する。裏側基板12には約4.5μmの(株)日本電気硝子製ロッド状ガラススペーサ14を混入した、(株)三井化学製熱硬化型シール材15をディスペンサで所定のパターンに塗布する。その後、両基板11、12を、電極11B、12B形成面が対向し、配向方位(ラビング方位)がアンチパラレルとなるように位置合わせして略平行に貼り合わせ、熱圧着にてシール材を硬化させて空セルを完成させる。表側基板11、裏側基板12の配向方位は、それぞれ12時方位、6時方位である。
【0040】
誘電率異方性Δεが負の(株)メルク製液晶材料を、真空注入法を用いて空セルに注入した後、プレス処理をしながら封止し120℃にて1時間焼成する。
【0041】
表側及び裏側ガラス基板11a、12a表面に、(株)ポラテクノ製偏光板SHC13Uを、表側及び裏側偏光板18、19が略クロスニコルとなり、かつ各偏光板18、19の吸収軸が、ラビング処理により定められる液晶層13の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方位(電圧無印加時の配向方位、6時方位)と略45°をなすように貼り合わせる。必要に応じて、表側、裏側ガラス基板11a、12aと偏光板18、19との間に、表側、裏側視角補償板16、17を配置することができる。最後に、液晶セルの電極取り出し端子にリードフレームを取り付ける。
【0042】
なお、測定の結果、実施例による垂直配向型液晶表示素子の液晶層13の厚さは約4.3μm、液晶層13におけるプレチルト角は約89.9°であった。液晶層13のリタデーションは約1100nmである。
【0043】
図5(A)〜(C)は、実施例によるモノドメイン垂直配向型液晶表示素子のセグメント透明電極11B及びコモン透明電極12Bの一部を示す概略的な平面図である。
【0044】
図5(A)に、セグメント透明電極11Bの構造を示す。セグメント透明電極11Bは、
図8(B)に示した従来例のセグメント透明電極11bとは、図中に太線で囲んだ部分(屈曲線領域)の電極エッジが3時−9時方位(液晶層中央分子の電圧無印加時配向方位と直交する方位)と平行な直線を用いないで形成されている点において異なる。
【0045】
図5(B)に、コモン透明電極12Bの構造を示す。コモン透明電極12Bは、
図8(C)に示した従来例のコモン透明電極12bとは、図中に太線で囲んだ部分(屈曲線領域)の電極エッジが3時−9時方位と平行な直線を用いないで形成されている点において異なる。セグメント透明電極11B、コモン透明電極12Bは、その他の点においては従来例におけるセグメント透明電極11b、コモン透明電極12bと等しい。なお、セグメント透明電極11B及びコモン透明電極12Bの屈曲線領域は、全体として3時−9時方位に延在している。
【0046】
図5(C)は、基板11、12法線方向から見た電極11B、12B配置を示す概略的な平面図である。電極11B、12Bは、
図8(D)に示した従来例の電極11b、12bと同様に、両基板11、12の法線方向から見たとき、両電極11B、12Bが形成されている領域が重なりあう部分が、「AUTO」のみとなるように位置合わせされている。
【0047】
電極11B、12Bの屈曲線領域は、
図8(A)〜(D)に示した従来の垂直配向型液晶表示素子において、液晶表示素子を基板11、12法線方向から見たとき、「AUTO」の文字列を表示する表示部のエッジ(輪郭線)を構成する電極11b、12bのエッジのうち、3時−9時方位に沿う直線で形成されているエッジ部分を含む電極11b、12bエッジを屈曲線とした領域である。したがって、実施例による垂直配向型液晶表示素子においては、「AUTO」の文字列を表示する表示部のエッジ(電極11B、12Bエッジ)は、3時−9時方位と平行な直線部分を備えない。
【0048】
なお、屈曲線領域は、表示部のエッジ部分にエッジをもつ方の電極(表示部のエッジを自らの電極エッジで構成する電極)に形成されている。
【0049】
図6(A)及び(B)は、セグメント透明電極11B及びコモン透明電極12Bのエッジに形成される屈曲線を示す概略的な平面図である。なお、
図6(A)及び(B)においては、3時−9時方位を破線で示している。
【0050】
実施例による垂直配向型液晶表示素子の電極11B、12Bのエッジは、たとえば
図6(A)に実線で示す屈曲線を備える。屈曲線は、相互に異なる2つの方位(3時方位と反時計周りにθ
1の角をなす方位、及び、3時方位と時計周りにθ
2の角をなす方位)に延びる線分(それぞれ長さl
1、l
2を有する線分)が交互にその端部で連続する形状を有する。本図に示す例においては、θ
1とθ
2とは等しく、l
1とl
2とは等しい。θ
1(θ
2)は5°より大きく15°以下、より好ましくは10°以上15°以下の角度である。連続する二つの線分(延在方位が相互に異なり、長さがl
1とl
2である二つの線分)を一単位としてみるとき、それは0.2174mmピッチで3時−9時方位に沿って並んでいる。また、二つの線分が連続する端部(屈曲点)も、全体として3時−9時方位に延在している。隣接する屈曲点間の、3時−9時方位に沿う距離は0.1087mmである。
【0051】
図6(B)に、屈曲線の変形例を示す。たとえばθ
1とθ
2とは互いに異なり、一方の方位に延在する線分の長さ(l
1)が、他方の方位に延在する線分の長さ(l
2)の3倍以上であり、θ
1が5°より大きく15°以下、より好ましくは10°以上15°以下となるように、屈曲線を形成することもできる。この屈曲線は、本図に示すように鋸歯形状を呈する。なお、このときθ
2は、たとえば90°であってもよい。
【0052】
図6(A)及び(B)に例示したように、屈曲線は、相互に異なる2つの方位に延びる長さl
1の第1の線分と、長さl
2の第2の線分であって、3時−9時方位と、相互に異なる回り方向に、角度θ
1をなす第1の線分と、角度θ
2をなす第2の線分とが、交互にその端部で連続する形状を備え、角度θ
1、角度θ
2の少なくとも一方が5°より大きく15°以下、より好ましくは10°以上15°以下となるように形成することができる。
【0053】
図7(A)〜(C)は、表示部「AUTO」の「A」の文字の横棒付近の電圧印加時配向組織を示す偏光顕微鏡写真である。表示部「A」の横棒部分の上側及び下側のエッジは、その箇所に対応するセグメント透明電極11Bエッジの屈曲線の形状が反映され、屈曲線状に構成される。
図7(A)、(B)、(C)は、
図6(A)におけるθ
1(θ
2)がそれぞれ5°、10°、15°である液晶表示素子の表示部の写真である。
【0054】
図7(A)〜(C)のすべての写真において、ディスクリネーションが屈曲点近傍の表示部内に出現しているのが認められる。また暗領域の曲線形状が類似しており、暗領域パターンが規則的であることもわかる。暗領域の曲線形状の類似、及び暗領域パターンの規則性は、ディスクリネーションが屈曲点近傍に発生しているため、暗領域が、ほぼ屈曲点を基点として形成されていることに基くであろう。
【0055】
暗領域の曲線形状の類似性、及び暗領域パターンの規則性は、
図7(B)、(C)に示すθ
1(θ
2)が10°、15°である場合に顕著であり、これらに比べると、
図7(A)に示す5°の場合には不十分であるといえる。このため実施例におけるθ
1(θ
2)は5°より大きく15°以下とすることが好ましい。また、10°以上15°以下とすることがより好ましい。変形例のθ
1についても同様である。
【0056】
なお、正面からの外観観察により、θ
1(θ
2)が15°以下であれば、直線部を屈曲線で構成することによる表示品質の低下は許容できるものであることがわかった。
【0057】
複数の同表示パターンを観察したところ、「A」の横棒部分の上側エッジには、θ
1(θ
2)が10°、15°である場合、ほぼ等しい暗領域の曲線形状、及び暗領域パターンが形成されることが確認された。また、実施例による液晶表示素子を反視認方位から外観観察した結果、表示部エッジ付近の光抜けの不均一性が大きく改善されていることが確認された。
【0058】
実施例による液晶表示素子はディスクリネーションの発生する位置を制御し、暗領域の曲線形状の均一化、及び暗領域パターンの規則化を実現して、光抜けの不均一性を抑止する、良好な表示品質を有する液晶表示素子である。
【0059】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0060】
たとえば、実施例においては、
図5(A)〜(C)に示すように、表示部のエッジを構成する電極エッジが、電圧無印加時の液晶層中央分子の配向方位と直交する直線部をもたない構成とした。しかし、たとえば「A」の横棒の下側エッジは、屈曲線を用いず、直線で形成してもよい。下側エッジにおいては、電圧印加時の斜め電界によって液晶層中央分子が配向する方位と、電圧無印加時における液晶層中央分子の配向方位とが等しいためである。
【0061】
屈曲線領域は、屈曲線がその延在方向に沿う直線であった場合には、電圧印加時の液晶層中央分子の配向方位が、電圧無印加時とは逆方位になる位置の電極エッジに形成すればよい。そのような電極エッジが、セグメント透明電極11Bのみにあるときは、セグメント透明電極11Bのみに屈曲線領域を形成すればよいし、コモン透明電極12Bのみにあるときは、コモン透明電極12Bのみに形成すればよい。屈曲線領域は、セグメント透明電極11B、コモン透明電極12Bの少なくとも一方に形成されればよい。
【0062】
また、実施例においては、
図5(B)に示すように、表示部エッジを構成しない電極エッジにも屈曲線領域を形成したが、これについても同様で、屈曲線領域は上述の位置の電極エッジに形成すればよい。
【0063】
電極パターン設定の容易さ等の観点から、表示部のエッジを構成する電極エッジが、電圧無印加時の液晶層中央分子の配向方位と直交する直線部をもたない構成としたり、表示部エッジを構成しない電極エッジにも屈曲線領域を形成したりすることができる。
【0064】
更に、実施例においては、屈曲線を、相互に異なる2方位に延びる線分を交互に接続した折れ線で形成したが、相互に異なる3以上の方位に延びる線分を、その端部で連続させて形成してもよいし、線分に限らず、曲線を用いて形成することもできる。
【0065】
また、実施例においては、垂直配向膜11c、12cの双方に配向処理を施したが、たとえば一方のみに配向処理を行ってもよい。更に、液晶層13の液晶分子がツイストするように配向処理、またはカイラル材の添加がなされていてもよい。
【0066】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。