(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シミュレーション部は、前記シミュレーションの結果が予め設定された仕様の範囲内に収まるまで、前記制御パラメータを変更して前記シミュレーションを繰り返し実行することを特徴とする請求項1に記載のエンジン試験装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン試験装置を新規に作成した場合や、新型のエンジンを新たに試験する場合には、エンジンやダイナモメータに不測の事態が発生するおそれがあり、たとえば想定以上の高負荷がかかったり高回転になったりして装置が破損するおそれがあった。このため、従来は、予備試験を繰り返し行うことによって安全性を確保したり、エンジンの重量等の計測値から適切な制御パラメータ(すなわち制御器の特性を変える値、たとえばPI制御器の比例ゲインや積分ゲイン)を算出したりしていた。このため、従来は、試験前の準備作業に時間がかかるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、安全性を確保でき、且つ、試験前の準備作業を容易に行うことのできるエンジン
試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は前記目的を達成するために、
試験対象であるエンジンに負荷を与えるダイナモメータと、前記エンジン及び前記ダイナモメータを制御する制御装置とを備えたエンジン試験装置において、前記制御装置は、制御指令値を出力する制御器と、前記エンジン及び前記ダイナモメータを含む実機部がモデル化され、少なくともエンジンモデルとダイナモモデルを含むベンチモデルを有し、該ベンチモデルに前記制御指令値を入力してシミュレーションを実行するシミュレーション部と、を備え、前記制御装置は、前記シミュレーションの結果に基づいて前記実機部を運転する際の制御パラメータを決定し、該決定した制御パラメータに基づいて前記実機部の運転を制御することを特徴とするエンジン試験装置を提供する。
【0007】
本発明の発明者は、試験対象であるエンジンをモデル化するだけでなく、エンジンを含めた試験装置の実機部そのものをモデル化したベンチモデルを用いてシミュレーションを行えば、試験装置全体のリスクを予め把握することができ、安全性を高めることができるという着想に至った。本発明はこのような着想に基づいて成されたものであり、ベンチモデルを用いてシミュレーションを実行することによって制御パラメータを決定し、その制御パラメータに基づいて実機部を運転するようにしたので、実機部の稼動を開始した際のリスクを低減することができる。また、本発明によれば、シミュレーションによって適切な制御パラメータを求めるだけなので、準備作業を大幅に低減することができる。
【0008】
請求項2の発明は請求項1において、
前記シミュレーション部は、前記シミュレーションの結果が予め設定された仕様の範囲内に収まるまで、前記制御パラメータを変更して前記シミュレーションを繰り返し実行することを特徴とする。これにより、適切な制御パラメータが決定され、その制御パラメータに基づいて実機部が制御されるので、実機部を仕様どおりに運転することができ、安全性を高めることができる。
【0009】
請求項3の発明は請求項1または2において、
前記制御装置は、前記制御器から出力された制御指令値の出力先を、前記シミュレーション部と前記実機部とで切り替える切替手段を備え、前記切替手段は、前記制御パラメータを決定した際に、前記制御指令値の出力先を前記シミュレーション部から前記実機部に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベンチモデルを用いてシミュレーションを実行することによって制御パラメータを決定し、その制御パラメータに基づいて実機部の運転を制御するようにしたので、実機部の運転を開始した際のリスクを低減することができる。また、本発明によれば、シミュレーションを実行するだけなので、準備作業を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って、本発明に係るエンジン
試験装置の好ましい実施形態について説明する。
図1は、本発明が適用されたエンジン試験装置10の主に実機部分の概略構成を示している。
【0016】
同図に示すエンジン試験装置10は、試験対象であるエンジン12の性能を測定・評価する装置であり、主としてエンジン12、ダイナモメータ14等からなる実機部分と、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、制御装置20等から成る制御部分とで構成される。
【0017】
エンジン12は、架台22に固定されており、その内部には燃焼室(不図示)が設けられる。燃焼室には空気吸引用の吸気管24が接続されており、その吸気管24には流入量調節用のスロットル26が設けられる。また、燃焼室には排気管28が接続されており、この排気管28には排ガス浄化用の触媒装着部30が設けられる。
【0018】
エンジン12は、その出力軸がシャフト部材32を介してダイナモメータ14に接続されている。シャフト部材32は、メインシャフトなどの複数の軸部材が連結されることによって構成されており、その連結部分にはユニバーサルジョイント34が介在される。また、シャフト部材32にはトルクメータ36が取り付けられ、このトルクメータ36によってトルクが計測される。なお、本実施の形態は、トルクメータ36によってトルクを計測するようにしたが、これに限定するものではなく、たとえばダイナモメータ14の出力値からトルクを検出してもよい。また、トルクメータ36の他に、クラッチ、変速機、各種の連結手段等を目的に応じて挿入してもよい。さらに、トルク以外のエンジン12の状態(たとえば排ガスの温度など)を計測する手段を挿入してもよい。
【0019】
ダイナモメータ14は、エンジン12に所定の負荷トルクを与える装置であり、電流・電圧を可変させることで負荷トルクを設定できるようになっている。ダイナモメータ14としては、低慣性ダイナモメータを用いることが好ましく、低慣性ダイナモメータを用いることによって、低速回転から高速回転までの急激な回転数の変化に応じた安定した出力が得られる。
【0020】
ダイナモメータ14にはダイナモ制御部16が接続されている。ダイナモ制御部16は、ダイナモメータ14に印加する電流・電圧を可変制御する手段であり、このダイナモ制御部16で電流・電圧を可変制御することによって、ダイナモメータ14に接続されたエンジン12の負荷トルクが制御される。
【0021】
一方、エンジン12は、エンジン制御部18に接続される。エンジン制御部18は、スロットル開度や点火進角等の制御信号をエンジン12に与えることによって、エンジン12を駆動制御する手段であり、通常はECU、もしくはECUにバイパス回路を付加したエンジン制御回路で実現される。ECUの代わりに仮想ECUと称されるDSP(Digital Signal Processor)で実現してもよい。このエンジン制御部18によってエンジン12に制御信号(たとえば所定のスロットル開度)が与えられる。これにより、エンジン12が回転し、その回転がシャフト32を介してダイナモメータ14に伝達される。なお、エンジン制御部18から与えられる制御信号としては、回転数、スロットル開度の他、燃料注入量、空気注入量、燃料と空気の混合比、点火時間(ガソリンエンジンの場合)、燃料噴射制御方法(ジーゼルエンジンの場合)など様々な制御信号がある。
【0022】
上述したダイナモメータ14、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、トルクメータ36は、制御装置20に接続されている。制御装置20は、ダイナモ制御部16とエンジン制御部18を介してダイナモメータ14とエンジン12をフィードバック制御する機能を備えており、
図2に示すように制御器40、シミュレーション部42、切替手段44を備えている。
【0023】
制御器40は、制御パラメータに基づいてPID制御を行う部分であり、En制御系用のPID制御器とDy制御系用のPID制御器を備えている。なお、Dy制御系においてトルク制御する場合は、さらにFF制御器を備えるようにしてもよい。この制御器40には、目標値(たとえばエンジン12のスロットル開度目標値とダイナモメータ14のトルク目標値)が設定(入力)されており、この目標値になるようにフィードバック制御が行われる。また、制御器40は、制御指令値として、スロットル開度制御指令値(以下、Th指令値)とダイナモメータ14へのトルク制御指令値(以下、Dy指令値)を出力するようになっている。
【0024】
切替手段44は、制御器40から出力された制御指令値の出力先を切り替える回路である。この切替手段44は、後述のシミュレーション結果が仕様範囲内に収まった際に、その出力先をシミュレーション部42から実機部に切り替えるようになっている。
【0025】
シミュレーション部42は、上述の実機部をモデル化したベンチモデルを備えており、このベンチモデルを用いてシミュレーションを実行する。ベンチモデルは、たとえばエンジン12とダイナモメータ14を接続した理想的な2マス系モデルとして
図3の如く作成される。
【0026】
図3はベンチモデルの一例を示すブロック図である。同図において、J
Eはエンジン12の慣性値であり、J
Dはダイナモメータ14の慣性値であり、Kは軸ねじりバネ定数であり、Cは軸ダンパ係数である。また、N
Eはエンジン12の回転数であり、N
Dはダイナモメータ14の回転数であり、T
Eはエンジン12のトルクであり、T
Dはダイナモメータ14のトルクであり、Tはシャフト50のトルクである。
【0027】
図3に示すように、エンジンモデルはエンジンマップを有しており、このエンジンマップはTh指令値とエンジン回転数N
Eを入力値として、駆動トルクT
Eを出力するようになっている。そして、出力した駆動トルクT
Eとシャフトモデルからの負荷トルクTとの差を積分し、エンジン12の慣性値J
Eで割ることで、回転数N
Eが求まる。
【0028】
ダイナモモデルはダイナモマップを有しており、このダイナモマップはDy指令値(トルク指定値)とダイナモ回転数N
Dを入力として、駆動トルクT
Dを出力するようになっている。そして、出力した駆動トルクT
Dとシャフトモデルからの負荷トルクTとの差を積分し、ダイナモメータ14の慣性値J
Dで割ることで、回転数N
Dが求まる。
【0029】
シャフトモデルは、エンジン12とダイナモメータ14を接続するシャフト部材32をモデル化したものであり、エンジン12とダイナモメータ14の回転数の差によってねじれて、バネ・ダンパの役割をする。バネ・ダンパによる力は負荷トルクTとしてエンジンモデルとダイナモモデルに出力される。
【0030】
上記の如く構成されたベンチモデルは、実機部と同様に、Dy指令値とTh指令値を入力することによって、回転数とトルク値をシミュレーション結果として出力する。そして、そのシミュレーション結果が予め設定された仕様範囲内かどうかを判断し、仕様範囲内に収まった場合に前述の切替手段44が制御指令値の出力先を実機部に切り替える。これにより、制御器40からの制御指令値が実機部(実際にはダイナモ制御部16とエンジン制御部18)に出力され、実機部の運転が開始される。実機部の出力値は、制御器40に入力され、これによってフィードバック制御が行われる。
【0031】
次に上記の如く構成されたエンジン試験装置10を運転する際のフローについて
図4に基づいて説明する。同図に示すように、本実施の形態では、実機運転(ステップS7)を行う前に、シミュレーションの実行(ステップS3)を伴う処理を行い、制御パラメータを決定している。具体的には、まず、計測仕様を予め決定しておく(ステップS1)。ここで、仕様とは特定の制御条件における許容範囲を意味しており、たとえばダイナモメータ14の回転数によって制御を行う場合、目標値変動を1000rpmから1200rpmに変動する際のオーバーシュートを80rpm以内、時定数を0.3s以内に設定する。別の例として、シャフト32のトルクによって制御を行う場合、目標値変動を500Nmから450Nmに変動する際の時定数を0.3s以内、トルクを±20Nm以内に設定する。
【0032】
次に、制御器40に制御パラメータを入力する(ステップS2)。制御器40は制御パラメータに基づいて制御指令値を出力する。その際、制御器40の出力先は切替手段44によってシミュレーション部42に切り替えておく。これにより、制御指令値がシミュレーション部42に入力し、ベンチモデルに基づいてシミュレーションが実行される(ステップS3)。
【0033】
次に、シミュレーションの結果が前述の仕様を満たすか否かを判定し(ステップS4)、満たさない場合には制御パラメータを変更する(ステップS5)。その後、ステップS2に戻ってシミュレーションを実行し、これを繰り返す。
【0034】
一方、シミュレーションの結果が仕様を満たした場合には、制御器40からの制御指令値の出力先を切替手段44によって実機部に切り替える(ステップS6)。これにより、適切な制御パラメータで出力した制御指令値が実機部に出力され、実機部の運転が開始される(ステップS7)。このようにベンチモデルを用いてシミュレーションを実行して制御パラメータを決定し、その制御パラメータに基づいて実機部を運転するようにしたので、実機部に不測の事態が発生することを防止できる。
【0035】
なお、実機部を本格稼動する前にテストモードを行うようにしてもよい。テストモードでは、実機部の運転結果とシミュレーションの結果とを比較し、両者の差が所定の範囲内であると判定した際に実機部の本格稼動を開始する。
【0036】
次に上記の如く構成されたエンジン試験装置10の作用について
図5、
図6に基づいて説明する。
図5は、ダイナモメータ14の回転数を目標値として制御した際の試験結果であり、
図6は、トルクを目標値として制御した際の試験結果である。具体的に説明すると、
図5は、ダイナモメータ14の回転数を1000rpmから1200rpmに変化させた場合のダイナモメータ14の回転数(
図5上側)とトルク(
図5下側)を示している。一方、
図6は、トルクを500Nmから450Nmに変化させた場合のダイナモメータの回転数(
図6上側)とトルク(
図6下側)を示している。なお、
図5、
図6において、(a)はシミュレーション結果を示しており、(b)は実機部を稼動した結果を示している。
【0037】
これらの図に示すように、実機部の稼動結果はシミュレーションの結果に非常に近い値になっている。シミュレーションの結果は仕様の範囲内になるように決定しているので、実機部の運転結果も略同等の結果になり、不測の事態が発生することを防止することができる。
【0038】
このように本実施の形態によれば、ベンチモデルを用いてシミュレーションを行い、制御パラメータを決定し、その制御パラメータで実機部を稼動しているので、実機部を稼動した際に不測の事態が発生することを防止することができる。