【文献】
Sehaqui,H. et al,Fast Preparation Procedure for Large, Flat Cellulose and Cellulose/Inorganic Nanopaper Structures,Biomacromolecules,2010年,11(9),2195-2198
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水とフィブリル化セルロースとケイ酸塩生成用材料とを少なくとも含む混合系の中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩を前記フィブリル化セルロースに結合させることを特徴とする改質フィブリル化セルロースの製造方法。
セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを少なくとも含む混合系に対して湿式粉砕を行って前記セルロース原料をフィブリル化させ、前記混合系中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩を前記フィブリル化したセルロースに結合させることを特徴とする改質フィブリル化セルロースの製造方法。
水とフィブリル化セルロースとケイ酸塩生成用材料とを少なくとも含む混合系の中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩を前記フィブリル化セルロースに結合させ、得られる改質フィブリル化セルロースと樹脂とを少なくとも混合して樹脂製品を製造することを特徴とする樹脂製品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下に説明する実施形態は、本発明を例示するものに過ぎない。
【0017】
(1)改質フィブリル化セルロースを含む製品の製造方法の説明:
図1〜3は、改質フィブリル化セルロース30の製造方法の例を模式的に示している。本製法は、水11とフィブリル化セルロース22とケイ酸塩生成用材料13とを少なくとも含む混合系10の中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩23(
図4(a),(b)参照)をフィブリル化セルロース22に結合させて改質フィブリル化セルロース30を製造するものである。
【0018】
図1に示す製造方法例1は、水中にセルロース原料12とケイ酸塩生成用材料13とを少なくとも含む混合系10に対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させ、混合系10中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩23をフィブリル化したセルロース22に結合させて改質フィブリル化セルロース30を製造するものである。以下、改質フィブリル化セルロースを含む製品として樹脂製品40を製造する例を説明する。
【0019】
投入工程S1では、水11とセルロース原料12とケイ酸塩生成用材料13と必要に応じて添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。
【0020】
セルロース原料12は、木質系材料、草本系材料、海藻系材料、バクテリア系材料、動物系材料、等を用いることができる。木質系材料には、針葉樹系材料や広葉樹系材料が含まれ、木片、木粉、木材の破砕物、木材の粉砕物、木質系パルプ、これらの組合せ、等が含まれる。木質系材料に竹等が含まれてもよい。草本系材料には、麻、バガス、モミガラ、稲わら、麦わら、綿、草本系パルプ、これらの組合せ、等が含まれる。セルロース原料は、家具工場や建築現場等で発生する木材の切り屑、廃材の粉砕物、家具や建築用材といった廃棄物の粉砕物、等も用いることができ、パルプ化していてもよいし、パルプ化していなくてもよい。
【0021】
ケイ酸塩生成用材料13は、水熱合成法によりケイ酸カルシウム水和物といったケイ酸塩を生成することができる材料であればよく、例えば、ケイ素源14とカルシウム源15の組合せ、この組合せにアルミニウム源とマグネシウム源とアルカリ金属源の群から選ばれる一以上の物質を添加した材料、といった複数種類の材料の組合せでもよいし、単体の材料でもよい。むろん、ケイ酸塩生成用材料にカルシウムが含まれなくてもよい。ケイ素源14には通常ケイ酸原料として用いられている材料を幅広く使用することができ、ケイ素源の材料に制限は特に無い。例えば、ケイ素源に、石英、珪砂、非晶質ケイ酸、ホワイトカーボン、ナトリウム長石、カリ長石、ガラス、陶石、シラス、フライアッシュ、スラグ、パーライト、等のケイ酸含有材料を用いることができる。カルシウム源15には、酸化カルシウム、水酸化カルシウム(消石灰)、炭酸カルシウム、等のカルシウムを含む化合物を用いることができ、例えば、方解石、あられ石、セッコウ、硬セッコウ、蛍石、といったカルシウム含有鉱石、貝殻、等を用いることができる。アルミニウム源には、酸化アルミニウム、アルミノケイ酸塩、等のアルミニウムを含む化合物を用いることができ、例えば、長石、雲母、ギブス石、ダイアスポア、尖晶石、等のアルミニウム含有鉱石を用いることができる。マグネシウム源には、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、等のマグネシウムを含む化合物を用いることができ、例えば、マグネサイト、ドロマイト、等のマグネシウム含有鉱石を用いることができる。アルカリ金属源には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、といったアルカリ性物質を水に溶解して調整したもの等を用いることができる。
【0022】
また、ケイ酸塩生成用材料13には、セメントやC−S−H(カルシウムシリケートハイドレート)に代表されるように、ケイ酸塩とカルシウム塩を共に含む原料を用いても良い。
【0023】
さらに、湿式粉砕装置MI1には、水11とセルロース原料12とケイ素源14とカルシウム源15に含まれない一種以上の添加剤16が投入されてもよい。添加剤16には、ケイ酸塩生成用材料13に含まれるものと、ケイ酸塩生成用材料13に含まれないものとが考えられる。ケイ酸塩生成用材料13に含まれる添加剤16には、上述したアルミニウム源やマグネシウム源やアルカリ金属源等が含まれる。ケイ酸塩生成用材料13に含まれない添加剤16には、樹脂、相溶化剤、滑剤、繊維状素材、核剤、顔料といった着色剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、充填材、可塑剤、補強剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、防カビ剤、ケトンパーオキサイドやハイドロパーオキサイド等といった過酸化物、これらの組合せ、等を用いることができる。
【0024】
各材料の配合比は、フィブリル化セルロース22の凝集を抑制しながらケイ酸塩を水熱合成することができる範囲で様々に設定することができる。セルロース原料の重量比は、例えば、水100重量部に対して0.05〜100重量部(より好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは2〜20重量部)とすることができる。セルロース原料の重量比を前記下限以上にすると、改質フィブリル化セルロースを好ましい収量にすることができる。セルロース原料の重量比を前記上限以下にすると、混合系中で水によりフィブリル化セルロースの凝集が抑制され、フィブリル化セルロース添加製品を好ましい強度にすることができる。ケイ酸塩生成用材料の重量比は、例えば、セルロース100重量部に対して0.1〜10000重量部(より好ましくは1〜200重量部、さらに好ましくは5〜100重量部)とすることができる。水100重量部に対するケイ酸塩生成用材料は、例えば、0.1〜100重量部(より好ましくは1〜60重量部、さらに好ましくは2〜30重量部)とすることができる。ケイ酸塩生成用材料の重量比を前記下限以上にすると、改質フィブリル化セルロースを好ましい収量にすることができる。ケイ酸塩生成用材料の重量比を前記上限以下にすると、フィブリル化セルロースに結合しないケイ酸塩の生成が抑制され、フィブリル化セルロース添加製品を好ましい強度にすることができる。ケイ酸塩生成用材料13に含まれない添加剤16を添加する場合、例えば、フィブリル化セルロース添加製品を好ましい強度にするため、セルロース原料100重量部に対する添加剤の配合比を100000重量部以下(より好ましくは100重量部以下)とすることができる。水100重量部に対する添加剤16は、例えば、100重量部以下(より好ましくは50重量部以下)とすることができる。
【0025】
湿式粉砕装置MI1は、混合系10Aに対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させることができればよく、処理媒体ME1を用いるミル、ディスクミル、ジェットミル、アトリションミル、高圧ホモジナイザー、高速ミキサー、ニーダーといった混練機、等を用いることができる。これらの機械は、セルロース原料にせん断力を与えてセルロース原料をフィブリル化する。湿式粉砕は、水存在下で行う粉砕を意味する。フィブリル化は、セルロース繊維を裂けた状態にすることを意味し、ナノオーダーのミクロフィブリルにすることを含むが、ミクロフィブリル化に限定されない。処理媒体ME1は、粉砕媒体とも呼ばれ、ボール状媒体、ロッド状媒体、ビーズ状媒体、等が含まれる。従って、ミルには、ボール状媒体を用いるボールミル、ロッド状媒体を用いるロッドミル、ビーズ状媒体を用いるビーズミル、等が含まれる。ミルは、混合系10Aに入れた処理媒体ME1の動きによりセルロース原料12をフィブリル化させる。処理媒体ME1からの強い機械的エネルギーは、水により膨潤しているセルロース原料12を解繊(叩解)して十分にフィブリル化させるとともに、ケイ酸塩生成用材料13を微細化させる。粉砕媒体を用いるミルには、粉砕媒体が挿入されているドラム状の粉砕筒を振動させて中の粉砕媒体を運動させる振動ミルや、粉砕筒を回転させて中の粉砕媒体を運動させるミル等がある。
【0026】
処理媒体ME1の材質には、鋼鉄やステンレス等の金属、アルミナ等のセラミックス、ポリアミド(ナイロン)等の合成樹脂、等を用いることができる。ボール状媒体には、例えば、径10〜50mm程度の球状媒体が用いられる。ロッド状媒体には、例えば、径10〜50mm程度の円柱状媒体が用いられる。
【0027】
湿式粉砕工程S2では、上述した材料を含む混合系10Aに対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させる。セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時に湿式粉砕することにより、改質フィブリル化セルロース自体の耐熱性が向上する。湿式粉砕の時間は、セルロース原料をフィブリル化することができる時間であればよく、例えば、1〜24時間程度とすることができる。水100重量部に対するセルロース原料の重量比が5重量部程度である場合、フィブリル化セルロース22を含む混合系10Bはヨーグルト状、すなわち、非常に細かい粒子が分散したスラリー状になる。
【0028】
水熱合成工程S3では、得られた混合系10Bを湿式粉砕装置MI1から水熱合成装置HS1へ移し、混合系10B中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩23をフィブリル化セルロース22に結合させる。この水熱合成法は、高温の水の存在下で活性の高くなったケイ酸塩生成用材料からケイ酸塩を水熱合成する方法である。水熱合成の条件は、例えば、100℃(飽和水蒸気圧0.1MPa)〜300℃(飽和水蒸気圧8.59MPa)とすることができ、より好ましくは150℃〜250℃、さらに好ましくは175℃(飽和水蒸気圧0.89MPa)〜200℃(飽和水蒸気圧1.55MPa)とすることができる。水熱合成の時間は、ケイ酸塩生成用材料からケイ酸塩を生成することができる時間であればよく、例えば、1〜24時間程度とすることができる。水熱合成の初期段階では、フィブリル化セルロース表面の活性が高い水酸基にケイ酸塩が結合していくと考えられる。水熱合成の時間が経過すると、フィブリル化セルロース表面のケイ酸塩が結晶成長していくと考えられる。なお、試験を行ったところ、混合系にフィブリル化セルロースが無いとケイ酸塩の結晶成長が遅くなることが分かった。形成されるケイ酸塩は、例えば、初期段階では非晶質のC−S−Hであり、やがてトバモライトといった結晶質のケイ酸塩水和物になると考えられる。
【0029】
水熱合成装置HS1には、一種以上の添加剤26が投入されてもよい。添加剤26には、上述した添加剤16に使用可能な材料を用いることができる。ケイ酸塩生成用材料13に含まれない添加剤16,26を添加する場合、例えば、フィブリル化セルロース添加製品を好ましい強度にするため、セルロース原料100重量部に対する添加剤16,26の配合比の合計を100000重量部以下(より好ましくは100重量部以下)とすることができる。水100重量部に対する添加剤16,26の配合比の合計は、例えば、100重量部以下(より好ましくは50重量部以下)とすることができる。
水熱合成装置HS1は、混合系10B中でケイ酸塩を水熱合成することができればよく、オートクレーブ等を用いることができる。
【0030】
水熱合成工程S3で得られるウェットな改質フィブリル化セルロース30は、必要に応じて乾燥工程S4で乾燥させることができる。この乾燥は、例えば40〜120℃程度の加熱による乾燥、送風による乾燥、加熱と送風を併用した乾燥、室温乾燥、減圧乾燥、等の通常の方法により行うことができるが、凍結乾燥等の特別な方法により行ってもよい。例えば、60℃程度で乾燥する場合、ウェットな改質フィブリル化セルロースを5〜7日程度加熱すればよい。真空乾燥する場合、ウェットな改質フィブリル化セルロースを1〜3日程度真空引きをすればよい。得られる改質フィブリル化セルロース32は、凝集が抑制され、落雁状の塊となっていても個々の改質フィブリル化セルロースに解繊することが容易である。フィブリル化セルロースを樹脂製品に混合する場合、フィブリル化セルロースを乾燥させることが求められることが多いため、このような場合に本製造方法は好適である。
【0031】
得られる改質フィブリル化セルロース30,32は、デッキ材用途等のウッドプラスチックの補強材、ガラス繊維補強プラスチックの代替品、機械部品用途等の難燃化したエンジニアリングプラスチックの代替品、コンクリート等のセメント建材の補強材、断熱材、燃焼により気泡化セラミックスを形成するためのグリーン体添加材、等に利用することができる。
【0032】
図1には、改質フィブリル化セルロースを用いて樹脂製品40を製造する例も示している。樹脂製品40には、樹脂成形品、塗料、接着剤、等が含まれる。むろん、改質フィブリル化セルロース30,32をセメントに混合したコンクリート製品といったセメント建材、多孔質セラミックスグリーン体、等の製品を製造してもよい。樹脂製品化工程S5では、乾燥した改質フィブリル化セルロース32とウェットな改質フィブリル化セルロース30の少なくとも一方と、樹脂33と、必要に応じて一種以上の添加剤36とを混合して樹脂製品40を製造する。
【0033】
樹脂33は、固体でも液体でもよく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂といった合成樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂には、例えば、ポリオレフィン(ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE),ポリブテン、等),パラフィン,ポリスチレン,ポリメチルメタアクリレート,塩化ビニル,ポリアミド(ナイロン),ポリカーボネート,ポリアセタール,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレングリコール(PEG),ポリビニルアルコール(PVA),オレフィン系熱可塑性エラストマー,スチレン系熱可塑性エラストマー、これらの樹脂の原料に不飽和酸等の不飽和単量体(アクリル酸,メタクリル酸等の不飽和カルボン酸、メチル(メタ)アクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート等の不飽和カルボン酸のアルキルエステル誘導体、マレイン酸,無水マレイン酸,フマル酸等の不飽和ジカルボン酸又は酸無水物、アクリルアミド,マレイン酸のモノ又はジエチルエステル等の不飽和カルボン酸又は不飽和ジカルボン酸の誘導体、等)を添加して合成して得られる樹脂、これらの混合物、等を用いることができる。
【0034】
なお、熱可塑性樹脂の原料に酸(特に有機酸)を添加して合成して得られる酸変性樹脂も、通常、熱可塑性であり、熱可塑性であれば熱可塑性樹脂となる。添加する酸としては、熱可塑性樹脂に親水基を付与するマレイン酸等のカルボキシル基を有する有機酸がよく用いられる。熱可塑性樹脂をマレイン酸で変性した酸変性樹脂を製造するには、付加重合前の熱可塑性樹脂の原料にマレイン酸を添加して付加重合を行えばよい。すると、付加重合後の高分子には親水基が付加される。熱可塑性樹脂の少なくとも一部に酸変性樹脂を用いることにより、親水性の充填材等の添加剤を添加した樹脂製品を製造する場合に親水性の添加剤とのなじみが良くなる。
【0035】
熱硬化性樹脂には、例えば、不飽和ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,フェノール樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂、これらの混合物、等を用いることができる。液状熱硬化性樹脂には、必要に応じて、スチレンやビニルトルエン等のラジカル重合性モノマー、これらのオリゴマー、ハイドロキノンやp−ベンゾキノン等の重合禁止剤、充填材(フィラー)、相溶化剤、滑剤、繊維状素材、核剤、顔料、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、等の添加剤が含まれていてもよい。
【0036】
樹脂100重量部に対する改質フィブリル化セルロースの重量比は、例えば、1〜1000重量部、2〜100重量部、5〜50重量部、10〜30重量部、等とすることができる。
【0037】
添加剤36は、固体でも液体でもよく、相溶化剤、滑剤、繊維状素材、核剤、顔料といった着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、充填材、可塑剤、補強剤、金属不活性化剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、防カビ剤、これらの組合せ、等を用いることができる。添加剤36を添加する場合、例えば、樹脂製品を好ましい強度にするため、樹脂100重量部に対する添加剤36の配合比を100重量部以下(より好ましくは50重量部以下)とすることができる。
【0038】
樹脂製品40の成形装置には、投入された材料を射出成形、押出成形、プレス成形、注型成形、等により成形する射出成形機、押出成形機、プレス成形機、注型成形機、等を用いることができる。また、成形装置を用いず、材料を被塗布物に刷毛等で塗布して樹脂製品を形成してもよい。さらに、特開2004-17502号公報に記載されるペレット製造装置等で一旦ペレット化し、形成されたペレットを押出成形等により後成形して樹脂製品を形成してもよい。
【0039】
図4(a),(b)には、水熱合成工程S3で得られる改質フィブリル化セルロース30の凝集抑制作用を模式的に示している。フィブリル化セルロース22の表面には、極性の高い官能基である水酸基が多数ある。従って、水及びフィブリル化セルロースを含む混合系を加熱等の通常の方法により乾燥させると、
図4(c)に示すように、フィブリル化セルロース同士が水素結合により結び付き、フィブリル化セルロースの凝集塊が生じる。フィブリル化セルロースは、水酸基が多いので結合が強固となり、微細化しているので結合が複雑となる。従って、凝集塊を個々のフィブリル化セルロースに解繊するのは困難であり、樹脂等に混合したときにフィブリル化セルロースが均一に分散しない。これでは、フィブリル化セルロースの高アスペクト比に由来する補強効果を製品内で発揮させることができない。なお、混合系を凍結乾燥等の特別な方法により乾燥させることは、製造コストが高くなる。
【0040】
本製造方法によると、
図4(a),(b)に示すように、フィブリル化セルロース表面にケイ酸カルシウム水和物といったケイ酸塩23が結合して水酸基が少なくなる。この結合は、フィブリル化セルロースとケイ酸塩とを相互作用により結びつける広義の結合、すなわち、物理吸着及び化学結合を含む。改質フィブリル化セルロースの表面にあるケイ酸塩に水酸基があると考えられるものの、ケイ酸塩の水酸基はフィブリル化セルロースの水酸基よりも少ないと考えられる。改質フィブリル化セルロース30の中には
図4(b)に示すようにフィブリル化セルロース同士が水素結合により結び付く可能性があるものの、
図4(c)に示すような凝集塊は生じ難いと考えられる。得られる改質フィブリル化セルロース同士は、結び付き難くなっており、加熱等の通常の方法により乾燥させても凝集し難い。また、乾燥により落雁状に固まったとしても、改質フィブリル化セルロース32の塊を個々の改質フィブリル化セルロースに解繊することが容易であり、樹脂等に混合したときに改質フィブリル化セルロース32が良好に分散する。従って、本製造方法は、廃液処理の負荷増大を抑制しながらフィブリル化セルロース添加製品の強度を向上させることが可能になる。
【0041】
また、樹脂は一般に疎水性である一方、改質されていないセルロースは親水性である。このことからも、改質されていないフィブリル化セルロースは樹脂に混合されたときに分散され難い。本技術の改質フィブリル化セルロースは、表面の水酸基の数が減らされているため、マレイン酸変性樹脂といった酸変性樹脂で表面改質し易い。このことは、改質フィブリル化セルロースを樹脂製品化工程といった後工程で十分に疎水化することが可能であることを意味する。
さらに、水熱合成されるケイ酸塩は、それ自身、強度及び耐熱性を有する。従って、本技術の改質フィブリル化セルロースを樹脂等の製品の強化材として用いたとき、フィブリル化セルロースだけ、又は、水酸基をエーテル化若しくはエステル化したフィブリル化セルロースを製品に混合した場合と比較して製品の強度及び耐熱性能が向上する。このことから、改質フィブリル化セルロースを樹脂製品に混合することにより、難燃化したエンジニアリングプラスチック等の有用な機能性樹脂製品を提供することができる。
特に、セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時に湿式粉砕する本製造方法例1は、セルロース原料を湿式粉砕した後にケイ酸塩生成用材料を添加する場合と比べてフィブリル化セルロース自体の耐熱性を向上させることが可能になる。これは、セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時に湿式粉砕すると、フィブリル化セルロース表面と微細化されたケイ酸塩生成用材料の表面とにメカノケミカル活性が付与されて反応性が高くなり、水熱合成時にフィブリル化セルロース表面で結晶化し易くなっている可能性が考えられる。ここで、メカノケミカル活性とは、固体物質に摩砕、摩擦、延伸、圧縮などの機械的エネルギーを加えることによってひきおこされる表面活性をいうものとする。また、湿式粉砕時にケイ酸塩生成用材料の細かい粒子がフィブリル化セルロースの表面に付着し、これらの粒子を核としてケイ酸塩の結晶化が進み易くなっている可能性が考えられる。
なお、本製造方法は、有機溶媒や有機のイオン液体等を含む有機溶液を使用する必要が無いので、有機溶液の廃液処理が不要であるとともに、フィブリル化セルロース表面の水酸基を減らす工程が容易になる。
【0042】
図2は、改質フィブリル化セルロースの製造方法例2を示している。この製造方法例2は、セルロース原料12を少なくとも含む混合系10に対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させた後、混合系10にケイ酸塩生成用材料13を少なくとも添加して混合系10に対して湿式粉砕を行い、混合系10中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩23をフィブリル化セルロース22に結合させて改質フィブリル化セルロース30を製造するものである。なお、セルロース原料12、ケイ酸塩生成用材料13、添加剤16,26、湿式粉砕装置MI1、処理媒体ME1、及び、水熱合成装置HS1には、製造方法例1で示したものを用いることができる。セルロース原料12、ケイ酸塩生成用材料13、及び、添加剤16の配合比も、製造方法例1で示した比にすることができる。水熱合成、及び、乾燥の条件も、製造方法例1と同じ条件にすることができる。
図3に示す製造方法例3も、同様である。
【0043】
投入工程S1では、水11とセルロース原料12と必要に応じて一種以上の添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。湿式粉砕工程S21では、前述の材料を含む混合系10Aに対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させる。湿式粉砕の時間は、例えば、1〜24時間程度とすることができる。その後、ケイ酸塩生成用材料13と必要に応じて一種以上の添加剤17とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。添加剤17には、上述した添加剤16に使用可能な材料を用いることができる。ケイ酸塩生成用材料13に含まれない添加剤16,17を添加する場合、例えば、フィブリル化セルロース添加製品を好ましい強度にするため、セルロース原料100重量部に対する添加剤16,17の配合比の合計を100000重量部以下(より好ましくは100重量部以下)とすることができる。水100重量部に対する添加剤16,17の配合比の合計は、例えば、100重量部以下(より好ましくは50重量部以下)とすることができる。湿式粉砕工程S22では、フィブリル化セルロース22とケイ酸塩生成用材料13とを少なくとも含む混合系に対して湿式粉砕を行う。この湿式粉砕により、ケイ酸塩生成用材料13が微細化する。また、セルロース原料12のフィブリル化が進むことがある。湿式粉砕の時間は、例えば、1〜24時間程度とすることができる。
【0044】
水熱合成工程S3では、得られた混合系10Bを湿式粉砕装置MI1から水熱合成装置HS1へ移し、必要に応じて一種以上の添加剤26を計量して水熱合成装置HS1に投入し、混合系10B中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩23をフィブリル化セルロース22に結合させる。ケイ酸塩生成用材料13に含まれない添加剤16,17,26を添加する場合、例えば、フィブリル化セルロース添加製品を好ましい強度にするため、セルロース原料100重量部に対する添加剤16,17,26の配合比の合計を100000重量部以下(より好ましくは100重量部以下)とすることができる。水100重量部に対する添加剤の配合比の合計は、例えば、100重量部以下(より好ましくは50重量部以下)とすることができる。
水熱合成工程S3で得られるウェットな改質フィブリル化セルロース30は、必要に応じて乾燥工程S4で乾燥させることができる。
【0045】
図3は、改質フィブリル化セルロースの製造方法例3を示している。この製造方法例3は、セルロース原料12を少なくとも含む混合系10に対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させた後、混合系10にケイ酸塩生成用材料13を少なくとも添加し、混合系10中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩23をフィブリル化セルロース22に結合させて改質フィブリル化セルロース30を製造するものである。
【0046】
投入工程S1では、水11とセルロース原料12と必要に応じて一種以上の添加剤16とをそれぞれ計量して湿式粉砕装置MI1に入れる。湿式粉砕工程S2では、前述の材料を含む混合系10Aに対して湿式粉砕を行ってセルロース原料12をフィブリル化させる。湿式粉砕の時間は、例えば、1〜24時間程度とすることができる。水熱合成工程S3では、得られた混合系を湿式粉砕装置MI1から水熱合成装置HS1へ移し、ケイ酸塩生成用材料13と必要に応じて一種以上の添加剤26とをそれぞれ計量して水熱合成装置HS1に投入し、混合系10B中で水熱合成法により生成されるケイ酸塩23をフィブリル化セルロース22に結合させる。水熱合成工程S3で得られるウェットな改質フィブリル化セルロース30は、必要に応じて乾燥工程S4で乾燥させることができる。
【0047】
上述した製造方法例2,3によっても、
図4(a),(b)に示すように、フィブリル化セルロース表面にケイ酸塩23が結合した改質フィブリル化セルロース30が得られ、加熱等の通常の方法により乾燥させても凝集し難い。また、乾燥による改質フィブリル化セルロース32の塊を個々の改質フィブリル化セルロースに解繊することが容易であり、樹脂等に混合したときに改質フィブリル化セルロース32が良好に分散する。従って、製造方法例2,3も、廃液処理の負荷増大を抑制しながらフィブリル化セルロース添加製品の強度を向上させることが可能になる。
なお、セルロースナノファイバーといったフィブリル化セルロースの市販品を使用すれば、投入工程S1及び湿式粉砕工程S2,S21,S22を省略可能である。
【0048】
以上のことから、本技術は、廃液処理の負荷増大を抑制しながらフィブリル化セルロース添加製品の強度を向上させることが可能になる新規な改質セルロースナノファイバーといった改質フィブリル化セルロースを提供することができる。
また、本技術は、廃液処理の負荷増大を抑制しながら強度を向上させた樹脂製品等の製品を提供することが可能になる。
【0049】
(2)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
[実施例1]
水には、イオン交換水を用いた。セルロース原料には、100メッシュパス90%以上、見掛け比重0.30〜0.40g/cc、平均粒子径約37μmのセルロースパウダー(日本製紙ケミカル株式会社製W−100GK)を用いた。ケイ素源には、99.95重量%以上のSiO
2を含有する珪石(株式会社ニッチツ製ハイシリカHQ−S)を用いた。カルシウム源には、水酸化カルシウムCa(OH)
2(武井薬品製)を用いた。これらの材料の配合比は、以下の通りにした。
水 100 重量部
セルロース原料 6.75重量部
ケイ素源 9 重量部
カルシウム源 10.95重量部
【0050】
湿式粉砕装置には、フリッチェ社製遊星ボールミルP−5/4型を用いた。容器には、フリッチェ社製アルミナI製粉砕容器を用いた。処理媒体には、直径20mmのアルミナ製ボール25個を用いた。このとき、処理媒体の容積率は30%であった。回転数は、200rpmに設定した。
水熱合成用のオートクレーブには、耐圧硝子工業株式会社製TAF−SR型テフロン(登録商標)内筒密閉容器を用いた。加熱機には、アズワン株式会社製恒温乾燥機SONW−600Sを用いた。加熱温度は、175℃(飽和水蒸気圧0.89MPa)に設定した。
乾燥機には東京理化器械株式会社製真空凍結乾燥機FDU−1200を用い、この乾燥機の真空機能だけを使用した。乾燥時間は、48時間に設定した。到達真空圧力は、0.9Paであった。
【0051】
上述した配合重量で水とセルロース原料とケイ素源とカルシウム源とをボールミルに投入し、4時間、湿式粉砕した。得られた混合系をオートクレーブに移し、6時間、水熱合成を行った後、得られたウェットな改質フィブリル化セルロースを乾燥機で乾燥させた。
【0052】
[実施例2]
水熱合成時間を18時間に変えた他は実施例1と同様にして改質フィブリル化セルロースサンプルを作製した。
【0053】
[比較例1]
実施例1と同様にして湿式粉砕を行った後、水熱合成を行わずに混合系を乾燥機で乾燥させ、ケイ素源及びカルシウム源を含むフィブリル化セルロースサンプルを作製した。
【0054】
[実施例3]
上述した配合重量で水とセルロース原料とをボールミルに投入し、3時間50分、湿式粉砕した後、上述した配合重量でケイ素源とカルシウム源とをボールミルに投入し、10分、湿式粉砕した。得られた混合系をオートクレーブに移し、18時間、水熱合成を行った後、得られたウェットな改質フィブリル化セルロースを乾燥機で乾燥させた。
【0055】
[比較例2]
実施例3と同様にして湿式粉砕を行った後、水熱合成を行わずに混合系を乾燥機で乾燥させ、ケイ素源及びカルシウム源を含むフィブリル化セルロースサンプルを作製した。
【0056】
[比較例3]
上述した配合重量で水とセルロース原料とをボールミルに投入し、4時間、湿式粉砕した。得られた混合系を乾燥機で乾燥させ、フィブリル化セルロースサンプルを作製した。
【0057】
[比較例4]
上述した配合重量で水とセルロース原料とをボールミルに投入し、4時間、湿式粉砕した。得られた混合系をオートクレーブに移し、18時間、175℃に加熱した後、得られたウェットなフィブリル化セルロースを乾燥機で乾燥させた。
【0058】
[比較例5]
上述した配合重量で水とケイ素源とカルシウム源とをボールミルに投入し、4時間、湿式粉砕した。得られた混合系をオートクレーブに移し、18時間、水熱合成を行った後、得られたウェットなケイ酸カルシウムを乾燥機で乾燥させた。
【0059】
[メジアン径の測定]
上述した実施例及び比較例のそれぞれについて、乾燥直前の混合系と乾燥後の混合系のメジアン径を測定した。具体的には、乾燥直前の混合系と乾燥後の混合系のそれぞれを超音波により水(分散媒)に分散させ、株式会社堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置 Partica LA-950V2でJIS K5600-9-3:2006(塗料一般試験方法−第9部:粉体塗料−第3節:レーザ回折による粒度分布の測定方法)に準拠した粒子径分布を測定し、メジアン径を求めた。
【0060】
[X線回折測定]
実施例1,2,3及び比較例1,2の各乾燥サンプルについて、X線回折広角法(XRD)によりX線回折測定を行った。
【0061】
[FE−SEM撮像]
実施例2,3及び比較例1,2の各乾燥サンプルについて、FE−SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)の写真を撮影した。
【0062】
[樹脂製品サンプルの曲げ弾性率測定]
樹脂製品サンプル用の樹脂には、MFR(JIS K7210:1999に規定されたメルトマスフローレイト、試験条件230℃)が0.8g/10minであるPP(株式会社プライムポリマー製J707EG)を用いた。樹脂製品サンプル用の相溶化剤には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(化薬アクゾ株式会社製カヤブリッド005PP)を用いた。
樹脂成形装置には、射出成形機付き小型混練機(DSM社製Xplore MC5)を用いた。混練温度は190℃に設定し、混練スクリュー回転数は100rpmに設定し、混練時間は5分に設定した。
【0063】
上述した実施例1〜3及び比較例1,2,5のそれぞれについて得られた乾燥サンプル5重量部と、樹脂95重量部と、相溶化剤5重量部とを樹脂成形装置に投入して、縦6mm、横50mm、厚み2mmの樹脂製品サンプルを射出成形した。得られた樹脂製品サンプルの曲げ弾性率をJIS K7171-1994確認2006(プラスチック−曲げ特性の試験方法)に準拠して試験速度2mm/min、支点間距離L=32mmの条件で測定した。
【0064】
また、実施例2の乾燥改質フィブリル化セルロースサンプルの配合比を0,5,10,20重量部に変え、樹脂の配合比を100,95,90,80に変えた樹脂製品サンプルをそれぞれ射出成形し、上述した条件で樹脂製品サンプルの曲げ弾性率を測定した。
さらに、比較例5の乾燥ケイ酸カルシウムサンプルの配合比を0,5,10,20重量部に変え、樹脂の配合比を100,95,90,80に変えた樹脂製品サンプルをそれぞれ射出成形し、上述した条件で樹脂製品サンプルの曲げ弾性率を測定した。
【0065】
[フィブリル化セルロース自体の耐熱性の測定]
実施例2,3及び比較例3の各乾燥フィブリル化セルロースサンプルについて、50℃から650℃まで10℃/minで加熱するTG(熱重量)測定を行い、初期重量Wsから終了時の重量Weまでの差(Ws−We)に対する80%の重量減少時、すなわち、重量がWs−0.8×(Ws−We)になった時の温度を測定した。この温度が高いとフィブリル化セルロースが燃焼し難い、すなわち、耐熱性が高いことになる。
【0066】
[試験結果]
メジアン径の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0067】
実施例1,2及び比較例1の各フィブリル化セルロースサンプルのX線回折測定結果を
図5(a)に示す。
図5(a)には、水熱合成を3時間行ったフィブリル化セルロースサンプルのX線回折測定結果も示している。実施例3及び比較例2の各フィブリル化セルロースサンプルのX線回折測定結果を
図5(b)に示す。なお、
図5(a),(b)の横軸は2θ(°)、縦軸は回折強度である。
実施例2のFE−SEM写真を
図7に示す。比較例1のFE−SEM写真を
図8に示す。実施例3のFE−SEM写真を
図9に示す。比較例2のFE−SEM写真を
図10に示す。
曲げ弾性率の測定結果を表2に示す。
【表2】
実施例2及び比較例5のサンプルの配合比を変えた樹脂製品サンプルの曲げ弾性率測定結果を
図6に示す。なお、横軸は乾燥サンプルの配合重量部、縦軸は曲げ弾性率(GPa)である。
実施例2,3及び比較例3の各フィブリル化セルロースサンプルのTG測定結果を表3に示す。
【表3】
【0068】
表1に示すように、ケイ酸塩生成用材料を使用しなかった比較例3,4のフィブリル化セルロースサンプルのメジアン径は、乾燥前よりも乾燥後の方が大きくなった。また、乾燥後のメジアン径自体も、17.42〜22.48μmであり、他の例と比べて大きかった。これは、ケイ酸塩の無いフィブリル化セルロースが乾燥により凝集したためと考えられる。フィブリル化セルロースが凝集すると、樹脂に混合したときにフィブリル化セルロースが均一に分散せず、フィブリル化セルロースの高アスペクト比に由来する補強効果を樹脂製品内で発揮させることができない。
なお、ケイ酸塩の水熱合成を18時間行った実施例2,3の改質フィブリル化セルロースサンプルは、乾燥前のメジアン径が18.23〜20.27μmと大きかった。これは、水熱合成によりフィブリル化セルロース表面にケイ酸カルシウム水和物が結合したためと考えられる。乾燥後のメジアン径は、実施例1〜3のいずれも比較例3,4よりも小さくなった。従って、ケイ酸塩を水熱合成すると、乾燥による改質フィブリル化セルロースサンプルの凝集が抑制されることが分かる。
【0069】
図5(a)に示すように、セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時湿式粉砕した場合、水熱合成6時間から2θ=29°付近にC−S−H(ケイ酸カルシウム水和物)由来と考えられるブロードなピークが認められ、水熱合成18時間では29°付近のC−S−Hのピークが顕著になるとともに2θ=7.8℃付近にトバモライト(ケイ酸カルシウム水和物)由来と考えられるピークが発現している。これは、水熱合成が進むことによりC−S−Hがトバモライト結晶へ移行したためと考えられる。
【0070】
図7に示すように、水熱合成を18時間行った実施例2の改質フィブリル化セルロースサンプルは、フィブリル化セルロース自体は観測されず、トバモライト由来と考えられる板状結晶が観測された。このことから、実施例2の改質フィブリル化セルロースサンプルはフィブリル化セルロースをトバモライト由来の板状結晶が取り囲んだ構造であると考えられる。
一方、
図8に示すように、水熱合成を行わなかった比較例1のフィブリル化セルロースサンプルは、結晶質ではなかった。
【0071】
図5(b)に示すように、セルロース原料を湿式粉砕した後にケイ酸塩生成用材料を添加した場合、水熱合成18時間で2θ=29°付近にC−S−H由来と考えられるブロードなピークが認められたが、7.8℃付近のトバモライト由来のピークは発現しなかった。これは、湿式粉砕によるケイ酸塩生成用材料の微細化が実施例3では同時湿式粉砕を行った実施例2よりも進んでおらず、ケイ酸塩生成用材料の反応性が低かったためと考えられる。
【0072】
図9に示すように、水熱合成を18時間行った実施例3の改質フィブリル化セルロースサンプルは、トバモライト由来の板状結晶が観測されなかった。このことから、実施例3の改質フィブリル化セルロースサンプルはフィブリル化セルロースをC−S−Hが取り囲んだ構造であると考えられる。
一方、
図10に示すように、水熱合成を行わなかった比較例2のフィブリル化セルロースサンプルは、結晶質ではなかった。
【0073】
また、表2に示すように、ケイ酸塩を水熱合成した実施例1〜3の改質フィブリル化セルロースサンプルを用いた樹脂製品サンプルの曲げ弾性率は、1.30〜1.36GPaであり、比較例1,2,5の樹脂製品サンプルの曲げ弾性率よりも大きかった。従って、フィブリル化セルロースに少なくともケイ酸塩が結合した改質フィブリル化セルロースは、廃液処理の負荷増大を抑制しながらフィブリル化セルロース添加製品の強度を向上させることが可能であることが確認された。
【0074】
さらに、セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時湿式粉砕して18時間水熱合成を行った実施例2の樹脂製品サンプルの曲げ弾性率は、1.36GPaであり、セルロース原料を湿式粉砕した後にケイ酸塩生成用材料を添加して18時間水熱合成を行った実施例3の曲げ弾性率1.30GPaよりも大きかった。従って、セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時湿式粉砕すると、フィブリル化セルロース添加製品の強度をさらに向上させることが可能であることが確認された。
【0075】
図6に示すように、フィブリル化セルロースが入った混合系を水熱合成した実施例2の樹脂製品サンプルの曲げ弾性率は、セルロース原料を入れずにケイ酸塩を水熱合成した比較例5の樹脂製品サンプルの曲げ弾性率よりも大きくなった。従って、ケイ酸塩を水熱合成した改質フィブリル化セルロースは、相乗効果により、フィブリル化セルロースの無いケイ酸塩と比べて同じ重量比でフィブリル化セルロース添加製品の強度を向上させることが可能であることが確認された。
【0076】
表3に示すように、セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時湿式粉砕した実施例2の改質フィブリル化セルロースサンプルは、TG測定を行ったときの80%減量時の温度が423℃と高かった。一方、セルロース原料を湿式粉砕した後にケイ酸塩生成用材料を添加した実施例3の改質フィブリル化セルロースサンプルは、80%減量時の温度が398℃と低かった。なお、セルロース原料を湿式粉砕しケイ酸塩生成用材料を用いなかった比較例3のフィブリル化セルロースサンプルは、80%減量時の温度が376℃とさらに低かった。
以上のことから、セルロース原料とケイ酸塩生成用材料とを同時湿式粉砕すると、フィブリル化セルロース自体の耐熱性を向上させることが可能になることが確認された。
【0077】
(3)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、廃液処理の負荷増大を抑制しながらフィブリル化セルロース添加製品の強度を向上させることが可能な技術等を提供することができる。むろん、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる技術等でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
【0078】
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。