特許第5658782号(P5658782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5658782-炭素質フィルムの製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5658782
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】炭素質フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150108BHJP
   C01B 31/04 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   C01B31/04 101Z
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-64281(P2013-64281)
(22)【出願日】2013年3月26日
(62)【分割の表示】特願2008-230370(P2008-230370)の分割
【原出願日】2008年9月9日
(65)【公開番号】特開2013-126949(P2013-126949A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2013年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 卓
(72)【発明者】
【氏名】太田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】若原 修平
(72)【発明者】
【氏名】西川 泰司
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/023713(WO,A1)
【文献】 特開2007−284337(JP,A)
【文献】 特開2008−069061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルムを熱処理し炭素質フィルムを製造する方法であって、高分子フィルムを炭化する工程の少なくとも一部が、−0.001kPa〜−0.1MPaの範囲の減圧で行なわれ、前記減圧で処理を行うと同時に、不活性ガスを導入する事を特徴とする炭素質フィルムの製造方法。
【請求項2】
処理物の体積をV(L)、導入する不活性ガスの量をV1(L/s)とした時にV/V1(s)の値が0.01以上1000以下である事を特徴とする請求項記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項3】
減圧の範囲が−0.01kPa〜−0.08MPaである事を特徴とする請求項1又は2に記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項4】
高分子フィルムに上から荷重をかけて熱処理する事を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項5】
高分子フィルムの厚みが10μm以上250μm以下である事を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項6】
高分子フィルムの面積が40000mm2以上である事を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項7】
高分子フィルムがポリイミドフィルムである請求項1〜のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法により炭素質フィルムを得た後、当該炭素質フィルムを2400℃以上で熱処理することで黒鉛化工程を行いグラファイトフィルムを製造することを特徴とする、グラファイトフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、精密機器などで放熱部材として使用される炭素質フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトは抜群の耐熱性、耐薬品性、熱伝導性、電気伝導性、低ガス透過性のため熱拡散・放熱材料、耐熱シール材、ガスケット、燃料電池用セパレータ、等として広く使用されている。グラファイトはa−b面方向と、c軸方向でその熱的・電気的性質が大きく異なり、a−b面方向とc軸方向の熱伝導度の異方性は50〜400倍に達する。グラファイト放熱フィルムはこの様な性質を利用して、発生した熱をすばやく広範囲に拡散させる事を目的とするものである。放熱用途として用いられるグラファイトの製造方法として、以下に述べる二つの方法がある。
【0003】
その一つは、一般に膨張グラファイト法と呼ばれる方法である。これは天然グラファイト鉛を硫酸などの強酸で処理することで層間化合物を形成させ、これを加熱・膨張させた際に生じる膨張グラファイトを圧延したシート状のグラファイトのフィルムの事である(非特許文献1)。この様な膨張グラファイトフィルムは面状方向に100〜400W/(m・K)程度の熱伝導度を示し、放熱材料として使用されている。
【0004】
もう一つの方法が、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、またはポリアミド等の高分子フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や真空下で熱処理する高分子熱分解法(特許文献1、2、3)が知られている。具体的にはこれらの高分子フィルムを、例えば不活性ガス中、好ましくは窒素ガス中で1000℃程度の予備加熱を行ない、ガラス状の炭素質フィルムを調製する炭化工程と、その後に調製した炭素質フィルムを2400℃以上の温度で処理する黒鉛化工程の二つの工程を経る事によってグラファイトフィルムを得る事が出来る。放熱材料として見た高分子グラファイトフィルムは、600〜1800W/(m・K)の非常に高い熱伝導度を示し、薄いシートの作製が可能で25μm以下のシートも容易に作製できるという特徴がある。より詳細にその方法を説明すると以下の通りである。
【0005】
特許文献1、2の実施例1、2には、以下のように、枚葉で原料フィルムを熱処理する方法が開示されている。25ミクロンのPAフィルム(ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド))、PI(ポリ(ピロメリットイミド)) 、PBI(ポリ(m−フェニレンベンゾイミダゾール)) 、PBBI(ポリ(m−フェニレンベンゾビスイミダゾール))をステンレスの枠に固定し、電気炉を用いて、アルゴン中毎分10℃ の速度で室温から700℃まで予備的な加熱処理をした。ステンレスの枠がない場合、PAフィルムはこの温度領域でもとの寸法の50%に縮むので、ステンレス枠による固定は結果的に張力を加えながら予備加熱処理をした事を意味する。この様にして予備熱処理したフィルムを黒鉛板でサンドイッチし、アルゴン気流中、毎分10℃ の速度で昇温し、所望の温度(Tp)で1時間熱処理した。熱処理後毎分20℃ の速度で降温させた。使用した炉は、カーボンヒーターを用いた電気炉である。得られた黒色のフィルムはTpが1400℃ 以下ではもろくフレキシビリティのないものであったが、1800℃ 以上ではフレキシビリティのあるフィルムになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−275116号公報
【特許文献2】特開昭61−275117号公報
【特許文献3】特開昭63−256508号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】炭素材料の新展開、日本学術振興会 炭素材料 第117委員会 60周年記念出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高分子熱分解法で用いられる原料フィルムの一つであるポリイミドフィルムは、炭化工程で熱分解とともに収縮が起こり初期サイズの7〜8割ほどまでサイズの縮小が起こる。200mm角サイズのポリイミドフィルムを黒鉛材上に1枚水平に置き、フィルムの上面から全く荷重をかけない状態で1000℃まで熱処理を行なうと、炭化収縮により表面が大きく波打った炭化フィルムが得られてくる。炭化フィルムの波打ちを抑制する為には、黒鉛材や膨張黒鉛製ガスケット等の合紙でポリイミドフィルムを挟み、ポリイミドフィルムを固定して炭化処理を行なう事で波打ちのない炭化フィルムを得る事が可能となる。しかしポリイミドフィルムを合紙で固定して熱処理を行なうと、フィルム上もしくは合紙上にフィルムの分解ガス由来と考えられる小さい異物が発生し、その異物がフィルムの収縮の際に引っ掛かり炭化フィルム上に傷を作ってしまうという問題があった。この現象は2枚のポリイミドフィルムを直接に重ねて上下を合紙で固定して炭化処理を行なった場合にさらに顕著に現れる。フィルム間ではさらに異物の発生が促進してしまうという問題があった。
【0009】
また、フィルムを多数枚重ねた場合や、フィルム上面からの荷重を増やしフィルム同士の密着度が増した状態で炭化処理を行なった場合にフィルム同士が融着を起こしてしまうという問題があった。一度融着を起こしてしまった炭化フィルムはその後の黒鉛化過程においても元に戻る事はなく、結果として割れたグラファイトフィルムや、表面状態が極めて悪いグラファイトフィルムが得られてくる。
【0010】
この問題は膨張黒鉛製のガスケット等の合紙をフィルム間に挟んで処理する事で解決される。しかし膨張黒鉛製の合紙は通常200〜250μmと厚く、一定容積内での炭化処理量が極端に落ち込んでしまうという問題があった。例えば、有効深さ20cmの容器に50μmのポリイミドフィルムを直接積層した場合は一度に4000枚処理する事が可能であるが、200μmガスケットを合紙として使用した場合は処理量が約800枚と1/5に減少してしまう。
【0011】
フィルム間に合紙を挟まずにポリイミドフィルムを直接に積層して炭化処理をおこない、良質の炭素質フィルムを生産性良く作製する事は、本発明の目的の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
我々は上記異物や融着の原因が、ポリイミドフィルムからの分解ガスが系外に排出されずに炭化固着してしまったものである事を突き止め、分解ガスを速やかに系外に除去する事を目的として減圧条件での炭化処理検討を行なった。
【0013】
本発明の第一は、高分子フィルムを熱処理し炭素質フィルムを製造する方法であって、炭化工程の少なくとも一部が減圧で行なわれる事を特徴とする炭素質フィルムの製造方法である。ここで「炭化工程の少なくとも一部が減圧で行なわれる」とは、炭化工程の少なくとも一部において、加熱装置(炉ともいう)内の気体の圧力を加熱装置外よりも低くすることをいう。
【0014】
本発明の第二は、重ねたポリイミドフィルムを炭化する工程において、その工程が減圧で行なわれる事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。ここで「重ねたポリイミドフィルム」とは、ポリイミドフィルムどうしが、黒鉛材などを挟むことなく直接積層されたものをいう。
【0015】
本発明の第三は、重ねたポリイミドフィルム層が10層以上であること事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0016】
本発明の第四は、ポリイミドフィルムに上から荷重をかけて熱処理する事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0017】
本発明の第五は、減圧の範囲が−0.001kPa〜−0.1MPaである事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。ここで「減圧が−0.001kPa」とは、加熱装置内の気体の圧力が加熱装置外の気体の圧力(通常は大気圧と考えられる)よりも0.001kPa低いことをいう。同様に「減圧が−0.1kPa」は、加熱装置内の気体の圧力が加熱装置外の気体の圧力よりも0.1kPa低いことを意味する。
【0018】
本発明の第六は、減圧の範囲が−0.01kPa〜−0.08MPaである事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0019】
本発明の第七は、不活性ガスを導入しながら−0.01kPa〜−0.08MPaの範囲で減圧して炭化する事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0020】
本発明の第八は、処理物の体積をV(L)、導入する不活性ガスの量をV1(L/s)とした時にV/V1(s)の値が0.01以上1000以下である事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。ここで「処理物の体積V」とは、処理するポリイミドフィルム、ポリイミドフィルムの容器、黒鉛材など、加熱装置内に配置して加熱する全ての部材の総体積を表す。また「不活性ガスの量V1」とは、加熱装置外の気体の圧力(通常は大気圧と考えられる)における不活性ガスの導入速度(L/s)をいう。
【0021】
本発明の第九は、高分子フィルムの厚みが10μm以上250μm以下である事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0022】
本発明の第十は、高分子フィルムの面積が40000mm2以上である事を特徴とする前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0023】
本発明の第十一は、2枚以上の高分子フィルムを直接積層したものから炭素質フィルムを製造する前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0024】
本発明の第十二は、10枚以上の高分子フィルムを直接積層したものから炭素質フィルムを製造する前記記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
炭化工程で原料フィルム同士の異物発生や融着を防ぐ事で、良質の炭素質フィルムを生産性良く提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明にかかる高分子フィルムの処理方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(減圧度と熱拡散率に関して)
ポリイミドフィルムを不活性ガス下、1000℃まで処理すると500℃付近から徐々に分解が始まり、一酸化炭素や二酸化炭素、窒素やアンモニアなどの低分子気体やベンゼン、アニリンやフェノール、ベンゾニトリルなどの低分子有機物が分解ガスとして観測される。900℃付近になるとこれらの分解ガスの発生はほぼ収束し、最終的に1000℃まで処理した後は6割ほどに重量が減少した炭素質フィルムが得られてくる。上記成分の他にも同定困難な低分子量物質が多数観測され、これらの有機物成分は炭化処理後に不揮発性のタール成分として回収される。
【0028】
このタール成分はフィルムから分解ガスとして発生した直後ではガス状、もしくは微細な霧状として存在している。フィルムを黒鉛材で挟んで処理した場合など、分解ガスの抜けが悪い条件下ではフィルム周辺にガスが滞留してしまう恐れがある。滞留したガスは凝集を起こし、タールとしてフィルム表面および黒鉛材に付着する。付着したタール成分はそのまま昇温とともに炭化され、フィルムや合紙上に異物として残存してしまう。ガス分の凝集を抑える為には、減圧雰囲気での炭化処理を行なえば良い。減圧下で炭化処理を行なう事によって、分解ガスの凝集を防ぎ異物の発生を大幅に抑制する事が出来る。その抑制効果は減圧度が大きいほど高い。例えば面積の広いポリイミドフィルムを黒鉛材に挟んで炭化処理を行なう場合には、面積の狭いポリイミドフィルムに比べてガスが抜ける行程が長くなる為により異物が発生しやすくなる事が予測される。こういった場合においても、減圧度をさらに高めて炭化処理を行なう事によって異物の発生を抑える事が出来る。
【0029】
また、ポリイミドフィルムを高真空下(101Pa以下)で1000℃まで炭化処理を行なうと、不活性ガス気流下(大気圧)で炭化処理を行なった時に比べて、単位面積当たりの重量が減少した炭素質フィルムが得られてくる。これは高真空下で熱処理を行なう事によって、フィルム内部からより多く出ガスが発生するためであると考えられる。
【0030】
ポリイミドフィルムからグラファイトフィルムを作製する工程は、炭化工程と黒鉛化工程に分かれる。熱拡散能力の高いグラファイトフィルムを得る為にはグラファイトの層を綺麗に配向させる必要がある。このようなグラファイト層が揃った良質なグラファイトフィルムを得るには、炭化処理後の時点である程度炭素平面を発達および配向させる事が好ましい。炭素平面の配向は炭化処理の昇温速度の調整によって操作する事が出来る。炭化処理速度は遅い方がより炭素平面が配向しやすい。例えば、同一のポリイミドフィルムを1000℃まで処理した場合、炭化処理速度が速い場合に比べて遅い場合は炭素配向度が良く、厚みが薄く面積の広い炭化フィルムが得られてくる。
【0031】
一方、高真空下で炭化処理を行なった場合は、フィルム内部からより多くガスが発生する為に、炭素構造が一部破壊された炭化フィルムが得られてくる。構造を乱された炭素平面は続く黒鉛化工程においてグラファイト層の成長が妨げられてしまい、結果として熱拡散能力が低下したグラファイトフィルムとなってしまう。減圧条件下で炭化処理を行なうと炭化フィルム上の異物を除去する事は出来るが、101Pa以下程度の高真空下で炭化処理を行なってしまうと、グラファイトフィルムの熱拡散能力は低下してしまう。
【0032】
上記問題を解決する為には炭素面を破壊しない程度の減圧下で炭化処理を行なう必要性がある。その減圧度は好ましくは−0.001kPa以上−0.1MPa以下、より好ましくは−0.01kPa以上−0.09MPa以下、さらに好ましくは−0.01kPa以上−0.08MPa以下である。減圧度が−0.001kPaより小さい場合は減圧度が小さ過ぎるので異物除去効果が十分に発揮されない恐れがある。逆に減圧度が−0.1MPaより大きい場合は得られるグラファイトフィルムの熱拡散率が低下してしまう恐れがある。
【0033】
(炭化フィルムの表面性)
異物による炭化フィルムの引っ掛かり傷は、その後の黒鉛化工程においても消える事は無く、そこから更に傷が広がり裂けを生じてしまったり、グラファイトフィルムの割れを誘発してしまったりと様々な問題を引き起こす。また、この炭素フィルム上に付いた傷がグラファイト層の発達を阻害し、熱拡散率の低下を引き起こすといった問題も出てくる。グラファイトフィルムを熱源に接続して放熱を行なう場合、グラファイトフィルム上に傷や裂けが存在するとその部分が大きな熱抵抗となり、グラファイトフィルムの放熱性能が大きく低下してしまう。グラファイトフィルムの放熱性能を最大限に発揮させる為にも、表面傷は出来る限り抑制しなくてはならない。
【0034】
一見すると異物が無いように見える炭化フィルムにおいても目視で確認できない細かい異物が付着している場合がある。これらの異物も黒鉛化工程において消失する事は無く、結果として黒鉛微粉の付着したグラファイトフィルムが得られてくる事となる。この黒鉛微粉は作業の際に微粉塵として舞い上がるため、周囲を汚してしまうという事の他にも、作業者や周囲の人が粉塵を吸い込んでしまうという危険性も孕んでいる。また、小型機器等にグラファイトフィルムを使用する場合は、粘着層や保護フィルム層を設ける場合が一般的であるが、表面に細かい黒鉛微粉が付着したグラファイトフィルムにおいては接着性の低下を引き起こす可能性がある。これら粘着層および保護フィルム層とグラファイトフィルムの接着性が低下する事によって界面に接触抵抗が生じてしまい、前述と同様にグラファイトフィルムの放熱性能を最大限に生かせない可能性も出てくる。
【0035】
本発明の炭化処理方法にて異物を除去すればこれらの問題は解決でき、表面状態の綺麗な放熱性能の高いグラファイトフィルムを得る事が出来る。
【0036】
(融着改善)
炭化処理量を増やすという観点でポリイミドフィルムを多数枚直接に積層して炭化処理を行なう事は効果的である。しかし、ポリイミドフィルムを2枚直接に重ねて黒鉛材ではさみ炭化処理を行なった場合、1枚のみを処理した時に比べてフィルム間では分解ガスがより多く発生するので異物が発生しやすくなってしまう。このようなフィルムを直接に積層した場合においても、本発明の炭化処理方法を用いれば異物の発生を大幅に削減できる。
【0037】
直接積層枚数がさらに多くなった場合や、波打ちを抑える為にフィルムにかける荷重を増やしフィルム同士の密着性が高くなった場合には、炭化フィルムがお互いに融着するという現象が起こる。200mm角サイズのポリイミドフィルムを10枚直接に積層し、不活性ガス気流下(大気圧)、上から荷重をかけない状態で1000℃まで炭化処理を行なうと、大きく表面が波打った炭化フィルムが得られてくるものの、フィルム同士の融着は発生しない。波打ちを抑制するために上から一定量の荷重をかけた場合には、炭化フィルムの平面性は高くなるものの一部が融着を起こしてしまう。これはフィルム間の密着性が高くなる事で分解ガスが抜けづらくなり、フィルム間で凝集したタール分が接着剤のように働いて昇温とともにそのまま固化してしまう為であると考えられる。
【0038】
前述のようにポリイミドフィルムは炭化工程においてサイズの収縮が起こる為に重しをかけないフリーな状態で熱処理を行なうと、表面全体が大きく波打った炭化フィルムが得られてくる。このまま続く黒鉛化処理を行なうと歪んだグラファイトフィルムが得られてくるのみならず、炭化処理後に得られるガラス状のフィルムは大変に機械的強度が弱い為に、波打った炭化フィルムでは作業性が極めて悪くなるといった問題も表れてくる。さらにポリイミドフィルムを多数枚積層して炭化処理を行なう場合は重なったフィルム同士で波打ちが増幅され、さらに表面波打ちが大きくなってしまう。この波打ちはフィルムの上から重しを乗せる、または上下から板でかしめる等の手段を用いて平面状に荷重をかけながら炭化処理を行なう事によって抑制する事が出来る。積層するポリイミドフィルムの枚数が増えるほど波打ちを起こす力が大きくなっていくので、かける荷重を重ねる枚数に応じて適宜変更していく必要性がある。
【0039】
以上の事より、ポリイミドフィルムを直接に積層し炭化処理を行なう場合にはポリイミドフィルムに荷重をかけながら炭化処理を行なう必要性があるが、フィルム同士が融着を起こしやすくなるという問題が生じてくる。こういった場合においても本発明の方法は極めて効果的であり、減圧下で炭化処理を行なう事によってフィルム間での分解ガスの滞留を防ぎ、複数枚直接に積層した場合においても融着を防止する事が可能となる。
【0040】
(不活性ガスの導入)
多層積層したポリイミドフィルムを炭化処理する場合は、減圧下で処理を行なうと同時に不活性ガスを導入するとより効果的に異物及び融着を防止する事が可能となる。焼成部の一方から不活性ガスを導入し、もう一方から排気を同時に行なう事によって焼成部に不活性ガスの流路が発生し、フィルム間に滞留する分解ガスをさらに速やかに系外に除去する事が出来る。この時、不活性ガスの流量V1(単位:L/s)と排気量V2(単位:L/s)を調整して、炉内部を適当な減圧状態に維持する事が重要である。導入する不活性ガスの量は多いほど効果が高いが、量が多過ぎる場合にはフィルムからの分解ガスが出にくくなってしまう為に好ましくない。また、不活性ガスの使用が多くなるとコストが高くなってしまうという問題もある。処理物の体積をVとした場合、処理物の体積と必要な不活性ガスの量は比例関係で表わす事が出来る。ここで言う処理物の体積Vとは、炉の焼成部の体積を指すのではなく、処理するポリイミドフィルム、ポリイミドフィルムの容器、合紙など、加熱装置内に配置して加熱する全ての部材の総体積を表す。不活性ガスの流量V1を処理物の体積Vで除した値V/V1の値(単位:s)が好ましくは0.01以上1000以下、より好ましくは0.1以上100以下、さらに好ましくは1以上10以下である。V/V1の値が0.01未満である場合は、導入する不活性ガスの量が処理物に対して多すぎるので良くない。また、V/V1の値が1000より大きい場合は不活性ガスの量が少なすぎる為に異物及び融着を十分に防止出来ない可能性がある。
【0041】
使用する不活性ガスの種類に関しては、窒素やアルゴン、ヘリウム等が挙げられる。前記不活性ガスであるならばどのガスを使用しても炭化処理の際にフィルムに影響を与える事はなく、同品質のものが得られてくる。この中でもコストの観点から窒素が好ましく用いられる。
【0042】
前記雰囲気条件に関して、炭化処理中常にこの雰囲気条件で処理を行なう必要はなく、少なくとも分解ガスが一番多く発生する400〜700℃付近のみがこの雰囲気条件であれば良い。例えば、400℃付近まで高真空下で処理を行ない、その後不活性ガスを導入し所定の減圧度を維持する方法や、700℃を過ぎた時点で不活性ガスの流量を減らす・高真空下での処理に切り替える等の方法が考えられる。このような処理方法にする事で不活性ガスを処理中に常に流し続ける必要性がなくなり、不活性ガスの消費量を大幅に削減する事が出来る。
【0043】
また、本発明の効果をさらに発揮させる為に、炉内の不活性ガス流路を最適化する事は好ましい。焼成部や焼成する容器の形状に合わせて不活性ガス導入口および排気口を設計する事や、ポリイミドフィルムを入れる容器自体を通気性が良くなる構造にする事はさらに効果的である。
【0044】
この不活性ガスを導入しながら減圧雰囲気下で炭化処理する方法は、多数積層したポリイミドフィルムを処理する場合のみならず、1枚だけを処理する場合においても効果的である。特に面積の広いポリイミドフィルムの場合は、ガスが抜けづらくなってくる為に、減圧のみでは完全に異物を除去出来なくなる時もある。そのような場合に不活性ガスを導入しながら減圧雰囲気で炭化を行なう事によってより効果的に異物を除去する事が可能となる。
【0045】
多くの枚数のポリイミドフィルムを処理した場合はガスの発生時に一時的に炉内が常圧もしくは加圧状態になってしまう事が想定できる。分解ガスの量を予測してなるべく処理雰囲気を減圧状態に保つ事も、異物や融着を改善するポイントとなる。
【0046】
(フィルム厚みに関して)
原料ポリイミドフィルムの厚みが厚いほど、炭化処理の際に発生する分解ガスの量は多くなり、より異物の発生や融着が起こりやすくなってくる。グラファイトフィルム自体の熱拡散能力は熱伝導率(単位:W/(m・K))で表わされるが、実際に熱を輸送する能力は、この熱伝導率の値にグラファイトフィルムの厚みを掛けた値が指標となる。例えば平面方向の熱伝導率が同じ1000W/(m・K)のグラファイトフィルムであっても、厚みが25μmと40μmでは40μmのグラファイトフィルムの方が高い熱輸送能力を有するという事となる。すなわち、同一面積を使用した場合に40μmのグラファイトフィルムはより熱源からの熱を拡散しやすいという事となる。最小限の面積で大量の熱輸送を行ないたいという観点において、厚いグラファイトフィルムを作製する事は極めて有効な手段である。
【0047】
一般的に、高分子グラファイト法では出来上がり厚みの厚いフィルムを作製する場合、厚みの厚いポリイミドフィルムを原料として用いる必要性がある。前述のように厚みの厚いポリイミドフィルムは炭化処理においてより異物や融着が発生しやすい。さらに厚みの厚いポリイミドフィルムは薄いものに比べて、同一容積内での処理枚数が低下してしまう為にフィルム間に挟む合紙等はなるべく使用しない事が好まれる。本発明の減圧下での炭化方法を用いる事で、厚みの厚いポリイミドフィルムでも合紙を用いる事なく炭化処理が可能となる。この時も不活性ガスを流しながらの減圧炭化処理は極めて効果的である。厚みの厚いポリイミドフィルムを処理する場合は、薄い時に比べ不活性ガスの流量をさらに多くすれば良い。
【0048】
(排気方法に関して)
排気方法に関しては、真空ポンプや排気ファンを使用した方法など、焼成炉自体の安全性を損なわない範囲であれば既知のあらゆる方法を用いる事が出来る。特に真空ポンプは様々な種類のものが各社から市販されており、操作も簡便な事から本発明に好適に用いられる。本発明の圧力範囲−0.001kPa〜−0.1MPaで用いる事が出来る真空ポンプとしては、アスピレーター(水流ポンプ)、ドライ真空ポンプ、メカニカルブースターポンプ、油回転ポンプ、ソープションポンプ、油エゼクタポンプなどが挙げられる。減圧度の調整は真空ポンプの排気部にバルブを取り付け、排気量を調節して使用すれば良い。ここで「圧力−0.001kPa」とは真空ポンプで0.001kPaだけ減圧することをいい、「圧力−0.1kPa」とは真空ポンプで0.1kPaだけ減圧することをいう。
【0049】
(出ガスの処理に関して)
ポリイミドフィルムの分解ガスには前述した成分の他に様々な低分子量物質が含まれていて、ポリイミドフィルムを炭化処理した際にはこれらの物質が不揮発性のタール状物質として得られてくる。多くの枚数のポリイミドフィルムを一度に炭化する場合には、この発生したタールの処理は一つの課題となってくる。タールの成分には有毒なものも多く、掃除の手間や人体に対する危険性などを考えると出ガスは効率的に処理する必要がある。また、ヒーターや断熱材にタールが付着したまま連続運転を続けると劣化が促進するという恐れもある。この事から炭化処理時の分解ガスは発生後、素早く炉の外部に誘導する必要性がある。真空ポンプにて高真空中(101Pa以下)でポリイミドフィルムを処理した場合、フィルムから発生した出ガスは一気に炉内で拡散を起こしてしまう。その為、真空ポンプの排気方向に上手く出ガスが誘導されずに炉の内部に滞留してしまい、炉を汚染してしまう。上手く炉の外へ出ガスを誘導する為には、高真空下で炭化処理を行なうのではなく、一方から不活性ガスを導入し、一方から排気を行ない炉内に不活性ガスの流れを作れば良い。こうする事で発生した出ガスが速やかに炉外に排出され、炉内を汚染する危険性が大幅に減少する。本発明の炭化処理方法においては分解ガスの処理も有効に行なう事が出来る。
【0050】
(黒鉛化に関して)
本発明の方法で作製した炭素質フィルムは2400℃以上の高温で熱処理する黒鉛化過程を経る事により、さらに良質な炭素質フィルム(グラファイトフィルム)にする事が出来る。この黒鉛化過程は炭化処理後に炉を一度降温させた後に再度炉を昇温させて行っても良いし、途中で降温過程を経る事なく一度に黒鉛化を行っても良い。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに具体的に説明していく。なお実施例及び比較例における窒素気流の流量は、電気炉外の大気圧における窒素ガスの流量を表す。
【0052】
(ポリイミドフィルムAの作製方法)
4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ビロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。
【0053】
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布した。アルミ箔上の混合溶液層を、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。
【0054】
以下に出来上がり厚みが75μmの場合におけるフィルム作製をする場合の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥して、自己支持性を有するゲルフィルムにした。そのゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がし、フレームに固定した。さらに、ゲルフィルムを、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱して乾燥した。
【0055】
なお、その他厚みのフィルムを作製する場合には、厚みに比例して焼成時間を調整した。例えば厚さ50μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を2/3倍に、125μmのフィルムの場合には、5/3倍に設定した。なお、厚みが厚い場合には、ポリイミドフィルムの溶媒やイミド化触媒蒸発による発泡を防ぐために低温での焼成時間を十分とる必要がある。
【0056】
(実施例1)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.01kPaを保ったまま昇温を続けた。室温まで冷却後、得られた炭化フィルムの厚みと表面状態、および単位面積当たりの重量(g/m2)を測定した。またフィルム処理前後において炉内汚れの評価も行なった。続けてこの炭化フィルムを、縦250mm×横250mm×厚み250μmの膨張黒鉛シートで上下から挟み、グラファイト化炉を用いて2900℃まで2℃/minで昇温してグラファイト化処理をおこなった。室温まで冷却後、熱処理後のグラファイトフィルムを、縦250mm×横250mm×厚み125μmのポリイミドフィルムで上下から挟み圧縮成型機を用いて後面状加圧工程を実施した。加えた圧力は10MPaとした。最終的に得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な(商品名)「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定した。その結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.01kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.01kPa低いことをいう。
【0057】
(実施例2)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.1kPa低いことをいう。
【0058】
(実施例3)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.5kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.5kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.5kPa低いことをいう。
【0059】
(実施例4)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも1kPa低いことをいう。
【0060】
(実施例5)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0061】
減圧下で窒素を流しながら炭化処理を行なうと、表面傷の無い炭化フィルムが得られてくる事が分かった。また炉内の汚染もほとんど無い事が分かった。
【0062】
(実施例6)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0063】
ポリイミドフィルムを1枚処理する場合は、窒素を流さなくても減圧下で炭化処理を行なえば表面傷の無い炭化フィルムが得られてくる事が分かった。しかし窒素を流さない時に比べて若干炉内が汚れる事が分かった。
【0064】
(実施例7)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−80kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−80kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも80kPa低いことをいう。
【0065】
比較的高い減圧下での炭化処理においても、表面傷が無く、熱拡散率の高い炭化フィルムが得られてくる事が分かった。
【0066】
(比較例1)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が±0kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。
【0067】
窒素気流中のみの条件では炭化フィルムの表面傷を完全に取り除くことは出来なかった。
【0068】
(比較例2)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が+2kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて+2kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも2kPa高いことをいう。
【0069】
窒素加圧の条件で炭化処理を行なうと、常圧下での処理に比べ炭化フィルムの表面傷がさらに増えてしまった。また、炉内汚染の度合いも大きくなってしまう事が分かった。
【0070】
(比較例3)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて10-1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例1と同じ工程で行った。結果を表1にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて10-1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10-1kPa高いことをいう。
【0071】
高真空下では傷の無い炭化フィルムが得られてくるものの、その後の黒鉛化工程では熱拡散率の低いグラファイトフィルムが得られてくることが分かった。また、炉内汚染の度合いも大きくなってしまう事が分かった。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例8)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.01kPaを保ったまま昇温を続けた。室温まで冷却後、得られた炭化フィルムの厚みと表面状態、および単位面積当たりの重量(g/m2)を測定した。またフィルム処理前後において炉内汚れの評価も行なった。続けてこの炭化フィルムを、縦250mm×横250mm×厚み250μmの膨張黒鉛シートで上下から挟み、グラファイト化炉を用いて2900℃まで2℃/minで昇温してグラファイト化処理をおこなった。室温まで冷却後、熱処理後のグラファイトフィルムを、縦250mm×横250mm×厚み125μmのポリイミドフィルムで上下から挟み圧縮成型機を用いて後面状加圧工程を実施した。加えた圧力は10MPaとした。最終的に得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な(商品名)「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定した。その結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.01kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.01kPa低いことをいう。
【0074】
(実施例9)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.1kPa低いことをいう。
【0075】
(実施例10)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.5kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.5kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.5kPa低いことをいう。
【0076】
(実施例11)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも1kPa低いことをいう。
【0077】
(実施例12)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0078】
(実施例13)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0079】
(実施例14)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−80kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−80kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも80kPa低いことをいう。
【0080】
75μmのポリイミドフィルムを炭化処理した場合は、50μmの時に比べて炭化フィルム上の異物および傷が発生しやすい事が分かった。これはポリイミドフィルムの厚みが厚くなるほど、分解ガスの発生が多くなる為であると考えられる。減圧下で炭化処理を行なうと、炭化フィルムの表面傷を減らす事は可能だが、完全に無くすことは出来なかった。また、50μmの時と同様に窒素気流中での処理を行なうと炉内の汚れが減少する事が分かった。
【0081】
(実施例15)
上記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量5L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0082】
窒素流量を増やして減圧下で炭化処理を行なった場合、75μmのポリイミドフィルムでも完全に表面異物および傷を除去する事が出来た。
【0083】
(比較例4)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が±0kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。
【0084】
窒素気流中のみの条件では炭化フィルムの表面傷を取り除くことは出来なかった。
【0085】
(比較例5)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が+2kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて+2kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも2kPa高いことをいう。
【0086】
窒素加圧の条件で炭化処理を行なうと、常圧下での処理に比べ炭化フィルムの表面傷がさらに増えてしまった。また、炉内の汚れも多くなってしまった。
【0087】
(比較例6)
上記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)を黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて10-1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例8と同じ工程で行った。結果を表2にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて10-1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10-1kPa高いことをいう。
【0088】
高真空下では比較的傷の少ない炭化フィルムが得られてくるものの、その後の黒鉛化工程では熱拡散率の低いグラファイトフィルムが得られてくることが分かった。また、炉内の汚れも多くなってしまった。
【0089】
【表2】
【0090】
(実施例16)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.01kPaを保ったまま昇温を続けた。室温まで冷却後、得られた炭化フィルムが融着しているかどうかを、○:融着なし、△:わずかに融着、×:全面的に融着の3段階で評価を行なった。同様の工程で10枚、50枚、75枚、100枚を直接積層したものに関しても、炭化処理後に融着しているかどうかの評価を行なった。その結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.01kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.01kPa低いことをいう。
【0091】
(実施例17)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.1kPa低いことをいう。
【0092】
(実施例18)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.5kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.5kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.5kPa低いことをいう。
【0093】
(実施例19)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも1kPa低いことをいう。
【0094】
(実施例20)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0095】
減圧下で窒素を流しながら炭化処理を行なうと、多数枚ポリイミドフィルムを積層した場合においても融着を起こさずに炭化を行なう事が出来た。
【0096】
(実施例21)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0097】
(実施例22)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−80kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−80kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも80kPa低いことをいう。
【0098】
窒素を流さずに減圧雰囲気のみで多数枚積層のポリイミドフィルムを処理した場合においても、融着を起こさずに炭化を行なう事が出来た。しかし、積層枚数が多い場合は窒素を流しながら炭化を行なう事によって、さらに融着を起こさずにポリイミドフィルムを炭化する事が可能となった。
【0099】
(実施例23)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量5L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0100】
窒素の流量を増やした場合、さらに融着を防止する事が出来た。
【0101】
(比較例7)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が±0kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。
【0102】
(比較例8)
前記方法によって作製した厚さ50μmのポリイミドフィルムA(PI−A)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が+2kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例16と同じ工程で行った。結果を表3にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて+2kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも2kPa高いことをいう。
【0103】
内圧が常圧および加圧の場合はフィルム同士が融着を起こしてしまった。
【0104】
【表3】
【0105】
(実施例24)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.01kPaを保ったまま昇温を続けた。室温まで冷却後、得られた炭化フィルムが融着しているかどうかを、○:融着なし、△:わずかに融着、×:全面的に融着の3段階で評価を行なった。同様の工程で10枚、50枚、75枚、100枚を直接積層したものに関しても、炭化処理後に融着しているかどうかの評価を行なった。その結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.01kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.01kPa低いことをいう。
【0106】
(実施例25)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.1kPa低いことをいう。
【0107】
(実施例26)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−0.5kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−0.5kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも0.5kPa低いことをいう。
【0108】
(実施例27)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−1kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−1kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも1kPa低いことをいう。
【0109】
(実施例28)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0110】
(実施例29)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−10kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−10kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも10kPa低いことをいう。
【0111】
(実施例30)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素を流さずに行ない、内圧は真空ポンプにて−80kPaを保ったまま昇温を続けたその後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−80kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも80kPa低いことをいう。
【0112】
75μmのポリイミドフィルムを炭化処理した場合は、50μmの時に比べて融着が起こりやすい事が分かった。これはポリイミドフィルムの厚みが厚くなるほど、分解ガスの発生が多くなる為であると考えられる。窒素を流しながら減圧下で炭化処理を行なうと融着を更に抑制する事が出来た。
【0113】
(実施例31)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量5L/min)で行ない、内圧は真空ポンプにて−80kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて−80kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも80kPa低いことをいう。
【0114】
窒素の流量を増やした場合、さらに融着を防止する事が出来た。
【0115】
(比較例9)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が±0kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。
【0116】
(比較例10)
前記方法によって作製した厚さ75μmのポリイミドフィルムB(PI−B)(縦200mm×横200mm)2枚を直接に積層したものを黒鉛材に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで2℃/minで昇温して炭化処理を行なった。炭化処理は窒素気流中(流量1L/min)で行ない、内圧が+2kPaを保ったまま昇温を続けた。その後は実施例24と同じ工程で行った。結果を表4にまとめた。なおここで「内圧が真空ポンプにて+2kPaである」とは、電気炉の内圧が電気炉外よりも2kPa高いことをいう。
【0117】
内圧が常圧および加圧の場合はフィルム同士が融着を起こしてしまった。
【0118】
【表4】
【0119】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0120】
10 黒鉛製板
20 ポリイミドフィルム

図1