(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の非水二次電池は、下記の正極、負極、セパレータおよび非水電解質を含む非水二次電池である。以下、それぞれについて説明する。
【0017】
〔負極〕
本発明の非水二次電池に係る負極は、例えば、負極活物質およびバインダなどを含有する負極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものである。
【0018】
負極活物質には、ケイ素(Si)と酸素(O)とを構成元素に含む負極材料であって、上記ケイ素に対する上記酸素の原子比xが0.5≦x≦1.5である負極材料(以下、当該材料を「SiO
x」という。)を使用する。
【0019】
SiO
xは、Siの微結晶または非晶質相を含んでいてもよく、この場合、SiとOの原子比は、Siの微結晶または非晶質相のSiを含めた比率となる。すなわち、SiO
xには、非晶質のSiO
2マトリックス中にSi(例えば、微結晶Si)が分散した構造のものが含まれ、この非晶質のSiO
2と、その中に分散しているSiを合わせて、上記原子比xが0.5≦x≦1.5を満足していればよい。これは、xが小さすぎる場合には、SiO
2によるSiの保護効果が十分でなく、電池の充放電サイクルによって容量劣化が著しくなり、一方、xが大きすぎると、Liイオンを充放電するSiが減って初期の充放電容量が低下するからである。
【0020】
例えば、非晶質のSiO
2マトリックス中にSiが分散した構造で、SiO
2とSiのモル比が1:1の材料の場合、材料全体でのSiに対するOの原子比:x=1であるので、組成式としてはSiOで表記される。このような構造の材料の場合、例えば、X線回折分析では、Si(微結晶Si)の存在に起因するピークが観察されない場合もあるが、透過型電子顕微鏡で観察すると、微細なSiの存在が確認できる。
【0021】
SiO
xの表面は、炭素材料などの導電性材料で被覆されていることが好ましい。SiO
xは電子伝導性が乏しいため、良好な電池特性を確保するには、その表面を炭素材料などの導電性材料で被覆して、電子伝導性を補うことが有効である。
【0022】
SiO
xの表面を被覆するための炭素材料には、例えば、低結晶性炭素、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などを使用することができる。
【0023】
炭化水素系ガスを気相中で加熱し、炭化水素系ガスの熱分解により生じた炭素を、SiO
x粒子の表面上に堆積する方法[気相成長(CVD)法]で、SiO
xの表面を炭素材料で被覆すると、炭化水素系ガスがSiO
x粒子の隅々にまで行き渡り、粒子の表面や表面の空孔内に、電子伝導性を有する炭素材料を含む薄くて均一な皮膜(炭素被覆層)を形成できることから、少量の炭素材料によってSiO
x粒子に均一性よく電子伝導性を付与できる。
【0024】
上記CVD法で使用する炭化水素系ガスの液体ソースとしては、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどを用いることができるが、取り扱いやすいトルエンが特に好ましい。これらを気化させる(例えば、窒素ガスでバブリングする)ことにより炭化水素系ガスを得ることができる。また、メタンガスやエチレンガス、アセチレンガスなどを用いることもできる。
【0025】
上記CVD法の処理温度としては、例えば、600〜1200℃であることが好ましい。また、CVD法に供するSiO
xは、公知の手法で造粒した造粒体(複合粒子)であることが好ましい。
【0026】
上記SiO
xの表面を炭素材料で被覆する場合、炭素材料の量は、SiO
x:100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、また、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
負極活物質には、例えば黒鉛質炭素材料を、SiO
xと共に用いることができる。SiO
xは高容量である一方で、電池の充放電に伴う体積変化量が大きいため、例えば負極の膨張・収縮を引き起こして電池特性を低下させる虞があるが、SiO
xよりも充放電に伴う体積変化量の小さな黒鉛質炭素材料をSiO
xと併用することで、電池容量への影響を可及的に抑制しつつ、充放電に伴う負極の体積変化量を低減して、電池特性の低下などを抑えることができる。
【0028】
SiO
xと併用し得る黒鉛質炭素材料としては、例えば、鱗片状黒鉛などの天然黒鉛;熱分解炭素類、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの易黒鉛化炭素を2800℃以上で黒鉛化処理した人造黒鉛;などが挙げられる。
【0029】
負極活物質にSiO
xと黒鉛質炭素材料とを併用する場合、SiO
xの使用による電池の高エネルギー密度化の効果を良好に確保する観点から、負極活物質100質量%中のSiO
xの含有量を、3質量%以上とすることが好ましく、5質量%以上とすることがより好ましい。また、負極活物質にSiO
xと黒鉛質炭素材料とを併用する場合、黒鉛質炭素材料の使用による前述の効果を良好に確保する観点から、負極活物質100質量%中のSiO
xの含有量を、90質量%以下とすることが好ましく、80質量%以下とすることがより好ましい。
【0030】
負極合剤層に係るバインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが好適に用いられる。更に、負極合剤層には、導電助剤として、アセチレンブラックなどの各種カーボンブラックやカーボンナノチューブ、炭素繊維などを添加してもよい。
【0031】
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水などの溶剤に分散させた負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい。)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、負極の製造方法は、上記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。
【0032】
負極合剤層の組成としては、例えば、負極活物質の量が80〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜20質量%であることが好ましく、導電助剤を使用する場合には、その量が1〜10質量%であることが好ましい。また、負極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、10〜100μmであることが好ましい。
【0033】
負極の集電体には、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはそれらの合金などからなる箔、パンチドメタル、エキスパンドメタル、網などを用い得るが、通常、厚みが5〜30μmの銅箔が好適に用いられる。
【0034】
〔正極〕
本発明の非水二次電池に係る正極は、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダを含有する正極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものである。
【0035】
正極活物質には、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物を使用する。
【0036】
LiNi
yMn
2-y-zM
1zO
4 (1)
ただし、上記一般式(1)中、M
1は、Co、Cr、Fe、Ti、Al、Mg、ZnおよびLiよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、yは0.45≦y≦0.55、zは0≦z≦0.1である。
【0037】
LiM
2O
2 (2)
ただし、上記一般式(2)中、M
2は、NiおよびCoを含む2種以上の元素を少なくとも含み、M
2の全元素数に対する、Ni、CoおよびMnの元素数の割合を、それぞれa(mol%)、b(mol%)及びc(mol%)としたときに、20≦a≦65、15≦b≦55、0≦c≦45、90≦a+b+c≦100である。
【0038】
上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物は、スピネル型結晶の正極活物質LiMn
2O
4のMnの一部をNiに置換するなどしたもので、Li基準で約4.7Vの高い放電電圧が得られる。
【0039】
上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物において、Liイオンの脱離・挿入による電荷補償をしているのは、主にNi
2+/Ni
4+の酸化・還元である。Niの置換量yは、0.5から大きくずれると放電電圧が低下するため、0.45≦y≦0.55である必要がある。
【0040】
上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物は、Co、Cr、Fe、Ti、Al、Mg、ZnおよびLiよりなる群から選択される少なくとも1種の添加元素M
1を含有してもよい。ただし、これらの添加元素M
1の量が多すぎると放電容量が低下するため、添加元素M
1の量zは、0.1以下とする。
【0041】
上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物は、LiCoO
2などと同じ層状結晶の正極活物質であるが、充電電圧をLi基準で4.4V以上に高めることによって、高電圧かつ高容量の放電特性が得られる。この活物質では、Liイオンの脱離・挿入によって、Ni、Co、Mnの各々が価数変化して、充放電特性に寄与している。
【0042】
上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物に係るM
2は、NiおよびCoを含む2種以上の元素を少なくとも含んでいる。
【0043】
上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物において、Niの量が少なすぎると、放電容量が低下する。よって、上記一般式(2)において、M
2の全元素数を100mol%としたとき、Niの割合aは、20mol%以上とする。また、上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物において、Niの量が多すぎると、例えば、CoやMnの量が減って、これらによる効果が小さくなる虞がある。よって、上記一般組成式(2)おいて、M
2の全元素数を100mol%としたとき、Niの割合aは、65mol%以下とする。
【0044】
また、上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物において、Coの量が少なすぎると、4.4V以上で高電圧充電したときの、放電電圧および放電容量の増加が少なくなる。よって、上記一般式(2)において、M
2の全元素数を100mol%としたときに、Coの割合bは、15mol%以上とする。また、上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物において、Coの量が多すぎると、充電時にLiが脱離したときの結晶の安定性が低下する。よって、上記一般式(2)において、M
2の全元素数を100mol%としたときに、Coの割合bは、55mol%以下とする。
【0045】
上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物は、Mnを含有していてもよい。ただし、上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物中のMnの量が多すぎると放電容量が低下する。よって、上記一般式(2)において、M
2の全元素数を100mol%としたときに、Mnの割合cは、0mol%以上45mol%以下とする。
【0046】
上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物に係るM
2は、Ni、CoおよびMn以外の添加元素を含有していてもよい。このような添加元素としては、例えば、Al、Mg、Zn、Ca、Ti、Cr、Zr、Liなどが挙げられる。ただし、上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物において、これらの添加元素の量が多すぎると、放電容量が低下する虞がある。よって、上記一般式(2)において、M
2の全元素数を100mol%としたときに、Ni、CoおよびMn以外の添加元素の割合は、10mol%以下であることが好ましい。すなわち、上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物において、元素群M
2の全元素数を100mol%としたときに、Niの割合aと、Coの割合bと、Mnの割合cとの合計(a+b+c)は、90mol%以上100mol%以下とする。
【0047】
本発明の非水二次電池に係る正極活物質には、上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物および上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物のいずれか一方のみを使用してもよく、両方を併用してもよく、上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物および上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物のいずれか一方または両方と、他の正極活物質とを併用してもよい。
【0048】
上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物や上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物と併用し得る他の正極活物質としては、例えば、LiCoO
2;LiCoO
2のCoの一部を、Ti、Zr、Mg、Alなどの他の金属元素で置換したLi含有複合酸化物[ただし、上記一般式(2)を満たさないもの];などが挙げられる。
【0049】
正極活物質に、上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物や上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物と、他の正極活物質とを併用する場合には、上記一般式(1)で表されるLi複合酸化物および上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物の全正極活物質中における量[上記一般式(1)で表されるLi複合酸化物および上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物のうち、いずれか一方のみを使用する場合は、その量であり、両方を使用する場合はそれらの合計量。]を、例えば、50質量%以上とすることが好ましく、80質量%以上とすることがより好ましい。
【0050】
正極の導電助剤には、通常の非水二次電池と同様に、黒鉛;カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど)や、表面に非晶質炭素を生成させた炭素材料などの非晶質炭素材料;繊維状炭素(気相成長炭素繊維、ピッチを紡糸した後に炭化処理して得られる炭素繊維など);カーボンナノチューブ(各種の多層または単層のカーボンナノチューブ)などを用いることができる。正極の導電助剤には、上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
正極のバインダには、PVDF、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリアクリル酸;SBR;などを用いることができる。
【0052】
正極は、例えば、正極活物質、バインダおよび導電助剤を、NMPなどの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい。)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、正極の製造方法は、上記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。
【0053】
正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質が70〜99質量%であることが好ましく、導電助剤が1〜20質量%であることが好ましく、バインダが1〜30質量%であることが好ましい。また、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、1〜100μmであることが好ましい。
【0054】
正極の集電体には、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはそれらの合金からなる箔、パンチドメタル、エキスパンドメタル、網などを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0055】
〔セパレータ〕
本発明の非水二次電池において、上記負極と上記正極とは、例えば、セパレータを介在させつつ積層した積層電極体や、更にこれを渦巻状に巻回した巻回電極体の形で用いられる。
【0056】
セパレータとしては、強度が十分で、かつ非水電解質を多く保持できるものがよく、そのような観点から、厚さが10〜50μmで開口率が30〜70%の、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはエチレン−プロピレン共重合体を含む微多孔フィルムや不織布などが好ましい。
【0057】
〔非水電解質〕
本発明の非水二次電池に係る非水電解質には、通常、有機溶媒にリチウム塩などの電解質塩が溶解した非水系の液状電解質(非水電解液)が用いられる。そして、本発明に係る非水電解質には、ハロゲン置換された環状カーボネートと、ホウ酸トリエステルとを含有させる。かかる非水電解質の使用によって、高電圧での充放電を繰り返したときの充放電容量の低下を抑制できることから、非水二次電池の高エネルギー密度化を図りつつ、優れた充放電サイクル特性を確保することができる。
【0058】
本発明による充放電サイクル劣化の抑制機構については、以下のように考えられる。SiO
xを負極活物質に用いた負極での充放電サイクル劣化は、充放電による体積の膨張・収縮によってSiO
x粒子が徐々に粉砕され、表面に露出した活性な超微粒子のSiが非水電解質の溶媒などと反応し、その反応により生成した反応生成物によりSiとLiとの反応が阻害されることにより、電池の内部抵抗を増大させることにより生じると考えられる。非水電解質に含有させるハロゲン置換された環状カーボネートは、非水二次電池の非水電解質溶媒として一般に用いられているカーボネートに比べて還元されやすい性質を有しているため、負極側で優先的に還元分解し、SiO
xの膨張・収縮による粉砕によって生じた新生面に皮膜を形成し、この皮膜が非水電解質とSiとの反応を抑制すると考えられる。
【0059】
一方、非水電解質中のハロゲン置換された環状カーボネートは耐酸化性が高いため、正極側では分解され難い。しかし、上記一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物や上記一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物を正極活物質とする正極を有し、高電位で充電される非水二次電池においては、ハロゲン置換された環状カーボネートが正極側で従来よりも高い電位に晒されるため、酸化分解してしまうと考えられる。ハロゲン置換された環状カーボネートが正極側で酸化分解すると、負極側で果たすべき機能が失われるため、SiO
x粒子の新生面における非水電解質とSiとの反応を十分に制御することができず、電池の充放電サイクル特性が低下してしまう。
【0060】
これに対して、本発明に係る非水電解質に含有させるホウ酸トリエステルは、例えば非水電解質溶媒に汎用されるカーボネートよりも酸化されやすいため、正極側で優先的に酸化分解して、正極表面に皮膜を形成することが期待される。このホウ酸トリエステル由来の皮膜が、ハロゲン置換された環状カーボネートの正極側での分解を抑制する保護作用を発揮し、ハロゲン置換された環状カーボネートが負極表面で良好に皮膜形成できることから、本発明の非水二次電池では、充放電サイクル特性の劣化が改善される。ホウ酸トリエステルは耐還元性が高いために負極側で還元分解し難く、正極側での上記保護作用が良好に発揮されると推測される。
【0061】
非水電解質に含有させるハロゲン置換された環状カーボネートとしては、下記一般式(3)で表される化合物を用いることができる。
【0063】
上記一般式(3)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、水素、ハロゲン元素または炭素数1〜10のアルキル基を表しており、アルキル基の水素の一部または全部がハロゲン元素で置換されていてもよく、R
1、R
2、R
3およびR
4のうちの少なくとも1つはハロゲン元素であり、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれが異なっていてもよく、2つ以上が同一であってもよい。R
1、R
2、R
3およびR
4がアルキル基である場合、その炭素数は少ないほど好ましい。上記ハロゲン元素としては、フッ素が特に好ましい。
【0064】
このようなハロゲン元素で置換された環状カーボネートの中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)が特に好ましい。
【0065】
非水二次電池に使用する非水電解質中におけるハロゲン置換された環状カーボネートの含有量は、負極におけるSiO
x粒子の新生面での反応抑制効果をより良好に確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。ただし、非水電解質中のハロゲン置換された環状カーボネートの量が多すぎると、負極活物質であるSiO
xの活性が低下したり、皮膜形成の際に過剰なガスが発生して電池外装体の膨れの原因となったりする虞がある。よって、非水二次電池に使用する非水電解質中におけるハロゲン置換された環状カーボネートの含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
非水電解質に含有させるホウ酸トリエステルとしては、ホウ酸のトリアルキルエステルが好ましい。ホウ酸のトリアルキルエステルにおけるアルキル部分は、炭素数が1〜4であることが好ましく、また、アルキル部分の水素の一部または全部がフッ素で置換されていてもよい。ホウ酸のトリアルキルエステルにおける3つのアルキル部分は、全てが同じ構造であってもよく、2つが同じ構造で他の1つが異なる構造であってもよく、全てが互いに異なる構造であってもよい。
【0067】
ホウ酸トリエステルの好適な具体例としては、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ジメチルエチルホウ酸などが挙げられる。ホウ酸トリエステルは、例えば、上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記例示のホウ酸トリエステルの中でも、ホウ酸トリエチル(TEB)が特に好ましい。
【0068】
非水二次電池に使用する非水電解質中におけるホウ酸トリエステルの含有量は、正極表面により良好な皮膜を形成できるようにして、前述の保護作用を良好に発揮させる観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。ただし、非水電解質中のホウ酸トリエステルの量が多すぎると、Liイオンの移動を阻害する虞がある。よって、非水二次電池に使用する非水電解質中におけるホウ酸トリエステルの含有量は、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
非水電解質に係る有機溶媒としては、特に限定されることはないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートなどの鎖状エステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの誘電率の高い環状エステル;鎖状エステルと環状エステルとの混合溶媒;などが挙げられ、特に鎖状エステルを主溶媒とした環状エステルとの混合溶媒が適している。
【0070】
また、非水電解質の調製にあたって有機溶媒に溶解させる電解質塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiC
nF
2n+1SO
3(2≦n≦7)、LiN(RfSO
2)(Rf’SO
2)、LiC(RfSO
2)
3、LiN(RfOSO
2)
2〔ここで、Rf、Rf’はフルオロアルキル基を表す。〕などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。非水電解質中における電解質塩の濃度は、特に限定されることはないが、0.3mol/L以上であることが好ましく、0.4mol/L以上であることがより好ましく、また、1.7mol/L以下であることが好ましく、1.5mol/L以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明の非水二次電池において、非水電解質には、上記液状電解質(非水電解液)以外にも、上記非水電解液をポリマーなどからなるゲル化剤でゲル化したゲル状電解質も使用することができる。
【0072】
〔電池の形態〕
本発明の非水二次電池の形態としては、例えば、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)が挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0073】
図1Aは、本発明の非水二次電池の一例を示す平面図であり、
図1Bは、
図1Aの断面図である。また、
図2は、
図1A、Bに示す本発明の非水二次電池の斜視図である。
【0074】
図1Bに示すように、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回電極体6として、角筒形の外装缶4に非水電解液と共に収容されている。但し、
図1Bでは、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や非水電解液などは図示しておらず、また、巻回電極体6の内周側の部分は断面にしていない。
【0075】
外装缶4はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この外装缶4は正極端子を兼ねている。そして、外装缶4の底部にはポリエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる巻回電極体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、外装缶4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用の蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
【0076】
そして、この蓋板9は外装缶4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、外装缶4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、
図1A、Bの電池では、蓋板9に非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている。従って、
図1A、Bおよび
図2の電池では、実際には、非水電解液注入口14は、非水電解液注入口と封止部材であるが、説明を容易にするために、非水電解液注入口14として示している。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
【0077】
上記電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって外装缶4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、外装缶4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
【0078】
図3は、本発明の非水二次電池の他の例を示す平面図である。
図3において、本発明の非水二次電池20は、正極、負極、および非水電解質が、平面視で矩形のアルミニウムラミネートフィルムからなる外装体21内に収容されている。そして、正極外部端子22および負極外部端子23が、外装体21の同じ辺から引き出されている。
【0079】
本発明の非水二次電池は、高電圧充電を行っても優れた充放電サイクル特性を発揮し得る。本発明の電池は、このような特性を生かして、電子機器(特に携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器)、電源システム、乗り物(電気自動車、電動自転車など)などの各種機器の電源用途などに、好ましく用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0081】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質であるLiNi
0.5Mn
1.5O
4[前述の一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物に該当、平均粒径:15μm]:85質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック(平均粒径:50nm):10質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを混合して正極合剤とし、これをNMPに分散させて正極合剤含有ペーストを調製した。この正極合剤含有ペーストを、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる集電体の片面に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、プレスした後に120℃で乾燥して正極シート材を得た。この正極シート材を、直径13mmの円形に打ち抜いて正極とした。得られた正極は、正極合剤層の厚みが60μmであり、正極合剤層における導電助剤およびバインダを除いた正極活物質の量は15mg/cm
2であった。
【0082】
<負極の作製>
非晶質のSiO
2マトリックス中にSiが分散した構造で、SiO
2とSiのモル比が1:1の材料であるSiO粒子を、CVD法によって炭素材料で被覆して負極活物質とした。その炭素被覆SiO(平均粒径:5μm):82質量部と、導電助剤であるケッチェンブラック(平均粒径40nm):10質量部と、バインダであるPVDF:8質量部とを混合して負極合剤とし、これをNMPに分散させて負極合剤含有ペーストを調製した。上記炭素被覆SiOにおいて、CVD法による被覆前後の質量変化から求めたSiOと炭素材料との比率(質量比)は、80:20であった。
【0083】
上記負極合剤含有ペーストを、厚みが15μmの銅箔からなる集電体の片面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、プレスした後に120℃で乾燥して負極シート材を得た。この負極シート材を、直径14mmの円形に打ち抜いて負極とした。得られた負極は、負極合剤層の厚みが25μmであり、負極合剤層における導電助剤およびバインダを除いた負極活物質の量は3mg/cm
2であった。
【0084】
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比3:7の混合溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解させた溶液を調製し、この溶液に、8質量%の量となるFECと、0.3質量%の量となるTEBとを添加し、攪拌・混合して非水電解質を得た。
【0085】
<電池の組み立て>
電池の組み立てはアルゴングローブボックス内で行った。セパレータには、多孔性のポリエチレンフィルム(厚さ:16μm)を用いた。電池の外装体には宝泉株式会社製の「HSフラットセル」を用い、正極、セパレータ、負極の順に積み重ねた積層体を外装体内に収容した後に、FECとTEBとを添加した上記非水電解質を100μL注入した。その後、外装体を封止して、非水二次電池を作製した。
【0086】
上記非水二次電池について、下記の方法で充放電特性として初期特性および充放電サイクル特性を評価した。
【0087】
<初期特性>
上記非水二次電池を、25℃の環境下で、電池電圧が5Vになるまで0.2mA/cm
2の定電流で充電し、その後、0.2mA/cm
2の定電流で電池電圧が3.0Vになるまで放電した。この一連の操作を1サイクルとして5サイクル繰り返して、5サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
【0088】
<充放電サイクル特性>
初期特性を測り終えた非水二次電池を、25℃の環境下で、電池電圧が4.85V(充電終了電圧)になるまで1mA/cm
2の定電流で充電し、その後、1mA/cm
2の定電流で電池電圧が3.0V(放電終了電圧)になるまで放電した。この一連の操作を1サイクルとして100サイクル繰り返した。次に、この100サイクル充放電した電池を、電池電圧が5Vになるまで0.2mA/cm
2の定電流で充電し、その後、0.2mA/cm
2の定電流で電池電圧が3.0Vになるまで放電し、この放電容量を充放電サイクル後の放電容量とした。そして、上記初期特性として測定した初期放電容量を充放電サイクル前の放電容量として、この充放電サイクル前の放電容量に対する上記充放電サイクル後の放電容量の割合を百分率で表して、容量維持率を求めた。
【0089】
(実施例2)
正極活物質を、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2[前述の一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物に該当、平均粒径:10μm]に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。この正極の正極合剤層における導電助剤およびバインダを除いた正極活物質の量は、10mg/cm
2であった。そして、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
【0090】
上記非水二次電池について、充電終了電圧を4.6Vとし、放電終了電圧を2.5Vとした以外は、実施例1の非水二次電池と同様の方法で充放電サイクル特性(容量維持率)を評価した。
【0091】
(比較例1)
TEBを添加しない以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。そして、この非水二次電池について、実施例1の非水二次電池と同じ方法で充放電サイクル特性(容量維持率)を評価した。
【0092】
(比較例2)
FECを添加しない以外は、実施例1と同様にして非水電解質を調製し、この非水電解質を用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。そして、この非水二次電池について、実施例1の非水二次電池と同じ方法で充放電サイクル特性(容量維持率)を評価した。
【0093】
実施例1〜2および比較例1〜2の非水二次電池における充放電サイクル前後での容量維持率の測定結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示す通り、ハロゲン置換された環状カーボネートとホウ酸トリエステルとを含有する非水電解質を用いた実施例1、2の非水二次電池は、SiO
xを負極活物質とする負極と、前述の一般式(1)で表されるLi含有複合酸化物または前述の一般式(2)で表されるLi含有複合酸化物を正極活物質とする正極とを有していて、高電位での充放電を行っても、充放電サイクル前後での容量維持率が高く、良好な充放電サイクル特性を確保できていることが分かる。
【0096】
これに対し、ホウ酸トリエステルを含有しない非水電解質を用いた比較例1の電池、およびハロゲン置換された環状カーボネートを含有しない非水電解質を用いた比較例2の電池では、充放電サイクル前後での容量維持率が低く、充放電に伴うSiO
xの膨張・収縮に起因すると考えられる充放電サイクル特性の低下が十分に抑制できていないことが分かる。
【0097】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定はされない。本発明の範囲は、上述の明細書の記載よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。