特許第5658935号(P5658935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5658935
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】組積造壁の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20150108BHJP
【FI】
   E04G23/02 E
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-167185(P2010-167185)
(22)【出願日】2010年7月26日
(65)【公開番号】特開2012-26200(P2012-26200A)
(43)【公開日】2012年2月9日
【審査請求日】2013年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】ウサレム ハッサン
(72)【発明者】
【氏名】宮内 靖昌
(72)【発明者】
【氏名】木林 長仁
【審査官】 小林 俊久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−133939(JP,A)
【文献】 特開平01−137035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置された組積造壁の上端部に架設され、前記上端部間に掛け渡された屋根架構と、
前記組積造壁の基礎部に端部が固定されると共に前記組積造壁から離れて配置され、前記屋根架構を下側に引っ張り前記屋根架構を介して前記組積造壁に圧縮力を付与する緊張材と、
を備える組積造壁の補強構造。
【請求項2】
前記緊張材は、対向して配置された前記組積造壁の夫々の壁面近傍に配置されている請求項1に記載の組積造壁の補強構造。
【請求項3】
前記組積造壁の面外方向から見て、前記緊張材は斜め下方に向かって配置され、前記屋根架構を斜め下方に引っ張っている請求項1又は請求項2に記載の組積造壁の補強構造。
【請求項4】
前記緊張材は、前記屋根架構に掛け渡され、両端部が前記組積造壁の基礎部に固定されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の組積造壁の補強構造。
【請求項5】
前記屋根架構には、前記緊張材における前記屋根架構に掛け渡された部位を下方に押す束材が設けられている請求項4に記載の組積造壁の補強構造。
【請求項6】
対向して配置された組積造壁の上端部に架設された屋根架構と、
前記組積造壁の基礎部に端部が固定されると共に前記組積造壁から離れて配置され、前記屋根架構を下側に引っ張り前記屋根架構を介して前記組積造壁に圧縮力を付与する緊張材と、
を備え、
前記組積造壁の面外方向から見て、前記緊張材は斜め下方に向かって配置され、前記屋根架構を斜め下方に引っ張っている組積造壁の補強構造。
【請求項7】
対向して配置された組積造壁の上端部に架設された屋根架構と、
前記組積造壁の基礎部に端部が固定されると共に前記組積造壁から離れて配置され、前記屋根架構を下側に引っ張り前記屋根架構を介して前記組積造壁に圧縮力を付与する緊張材と、
を備え、
前記緊張材は、前記屋根架構に掛け渡され、両端部が前記組積造壁の基礎部に固定されている組積造壁の補強構造。
【請求項8】
前記緊張材は、対向して配置された前記組積造壁の夫々の壁面近傍に配置されている請求項6又は請求項7に記載の組積造壁の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組積造壁の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
明治から昭和初期に建造された洋風のレンガ造に代表される古い組積造構造物を、景観保存の観点、文化財保存の観点、及び商業施設への転用の観点等から、保存活用する要望がある。しかし、古い組積造構造物の殆どが、現行の耐震基準を満足する設計が行なわれておらず、保存活用するためには、耐震補強を行なう必要がある。
【0003】
よって、組積造壁を上下方向にコア抜きして孔を形成し、この孔に緊張材を挿入すると共に緊張材に緊張力を付与して組積造壁にプレストレスを導入することで、組積造壁の耐力を向上させ、耐震補強することが提案されている。
【0004】
或いは、組積造壁の外側に緊張材を配置して、組積造壁にプレストレスを導入し、組積造壁を耐震補強することが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0005】
しかし、特許文献1の発明は、組積造壁の上下の端部に緊張材が通る貫通孔が必要とされると共に、壁面に応力偏向部材等が当るので壁面が傷つく虞がある。
【0006】
また、特許文献2は、組積造壁の上下端部に設けられた上突出摺動杆及び下突出摺動杆に回転モーメントが発生しないように、圧縮力導入基杆と、圧縮力導入基杆が上下に移動可能に接続する接続具と、が必要であり、構造が複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3686654号
【特許文献2】特開昭60−4315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記を考慮し、組積造壁を傷付けることなく、簡単な構造で、組積造壁の耐力を向上させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、対向して配置された組積造壁の上端部に架設され、前記上端部間に掛け渡された屋根架構と、前記組積造壁の基礎部に端部が固定されると共に前記組積造壁から離れて配置され、前記屋根架構を下側に引っ張り前記屋根架構を介して前記組積造壁に圧縮力を付与する緊張材と、を備える。
【0010】
したがって、対向して配置された組積造壁の上端部に架設され、上端部間に掛け渡された屋根架構を緊張材で下側に引っ張ることで、組積造壁に圧縮力(プレストレス)が導入され、組積造壁の耐力が向上する。また、組積造壁に孔をあけるなどの加工が不要とされる。よって、組積造壁を傷付けることなく、簡単な構造で、組積造壁の耐力が向上する。
【0011】
請求項2の発明は、前記緊張材は、対向して配置された前記組積造壁の夫々の壁面近傍に配置されている。
【0012】
したがって、壁面から離れた位置に緊張材を配置する構成と比較し、屋根架構の撓みが抑制される。
【0013】
請求項3の発明は、前記組積造壁の面外方向から見て、前記緊張材は斜め下方に向かって配置され、前記屋根架構を斜め下方に引っ張っている。
【0014】
したがって、組積造壁の水平力に対する抵抗力が向上する。
【0015】
請求項4の発明は、前記緊張材は、前記屋根架構に掛け渡され、両端部が前記組積造壁の基礎部に固定されている。
【0016】
したがって、屋根架構における緊張材が掛け渡された部位全体が均一に下側に引っ張られる。よって、例えば、緊張材の端部を屋根架構に連結する構成と比較し、屋根架構の応力集中が少ない。また、緊張材が掛け渡された部位の撓みが抑制される。
【0017】
請求項5の発明は、前記屋根架構には、前記緊張材における前記屋根架構に掛け渡された部位を下方に押す束材が設けられている。
【0018】
したがって、緊張材における屋根架構に掛け渡された部位を束材が下方に押すことによって、屋根架構に上方向の反力が付与され、この反力が屋根架構の自重等の荷重を支持する、所謂張弦梁構造となる。つまり、一本の緊張材(繋ぎ合わせて一本も含む)が、組積造壁の耐力を向上する機能と、屋根架構を補強する機能と、両方の機能を有する。
請求項6の発明は、対向して配置された組積造壁の上端部に架設された屋根架構と、
前記組積造壁の基礎部に端部が固定されると共に前記組積造壁から離れて配置され、前記屋根架構を下側に引っ張り前記屋根架構を介して前記組積造壁に圧縮力を付与する緊張材と、を備え、前記組積造壁の面外方向から見て、前記緊張材は斜め下方に向かって配置され、前記屋根架構を斜め下方に引っ張っているである。
請求項7の発明は、対向して配置された組積造壁の上端部に架設された屋根架構と、
前記組積造壁の基礎部に端部が固定されると共に前記組積造壁から離れて配置され、前記屋根架構を下側に引っ張り前記屋根架構を介して前記組積造壁に圧縮力を付与する緊張材と、を備え、前記緊張材は、前記屋根架構に掛け渡され、両端部が前記組積造壁の基礎部に固定されている。
請求項8の発明は、前記緊張材は、対向して配置された前記組積造壁の夫々の壁面近傍に配置されている。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、本発明が適用されていない構造と比較し、組積造を傷付けることなく、簡単な構造で、組積造壁の耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係る組積造壁の補強構造が適用されて補強された構造物を斜め上方から見た斜視図である。
図2】(A)は図1のA−A線に沿った断面図であり、(B)は図1のB−B線に沿った断面図であり、(C)は(A)の要部を拡大すると共にレンガ壁にかかる力の流れとモーメントを説明する説明図である。
図3】第一実施形態の第一のバリエーションを示す、(A)は図2(A)に対応する断面図であり、(B)は図2(C)に対応する説明図である。
図4】第一実施形態の第二のバリエーションを示す、(A)は図2(A)に対応する断面図であり、(B)は図2(C)に対応する説明図である。
図5】(A)は第一実施形態の第三のバリエーションを示す図2(A)に対応する断面図であり、(B)は第一実施形態の第四のバリエーションを示す図2(A)に対応する断面図である。
図6】(A)は第一実施形態の第五のバリエーションを示す図2(A)に対応する断面図であり、(B)は第一実施形態の第六のバリエーションを示す図2(A)に対応する断面図である。
図7】第一実施形態の第七のバリエーションを示す図1に対応する斜視図である。
図8】(A)は本発明の第二実施形態に係る組積造壁の補強構造が適用されて補強された構造物を示す斜め上方から見た斜視図であり、(B)は(A)のA−A線に沿った断面図であり、(C)はPC鋼線を外側鉄骨枠部に掛け渡した構成を説明する説明図であり、(D)はPC鋼線を外側鉄骨枠部と内側鉄骨部材とに掛け渡した構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第一実施形態>
図1図7を用いて、本発明の第一実施形態に係る組積造壁の補強構造によって耐震補強された組積造構造物としてのレンガ造の構造物10について説明する。なお、各図面では、鉛直方向を矢印Zで示す。
【0022】
図1に示すようにレンガ造の構造物10は、四方の壁が組積造壁としてのレンガ壁20で構成されている。より詳しく説明すると、対向して配置された対を成すレンガ壁20Xと、対向して配置された対を成すレンガ壁20Yと、で構成されている。
【0023】
ここで、レンガ壁20Xの壁面に沿った左右方向及びレンガ壁20Yの面外方向を矢印Xで示し、レンガ壁20Yの壁面に沿った左右方向及びレンガ壁20Xの面外方向を矢印Yで示す。なお、これらを区別する必要がない場合は、X,Yを省略する。
また、レンガ壁20X、20Yにそれぞれ対応する部材には符号の後にX、Yを付すことがある。更にレンガ壁20で囲まれた内部側(構造物10の中)を内側とする。なお、内側に配置された部材には符号の後にNを付し、外側に配置された部材には符号の後にMを付すことがある。
【0024】
構造物10を構成する各レンガ壁20は、レンガ12を積み上げて造られている。レンガ12の積み方はどのような積み方であってよい。なお、レンガ12は、粘土や頁岩と泥を型に入れ、窯で焼き固めて、或いは圧縮して作られる直方体の建築材とされている。また、レンガ壁20におけるレンガ12とレンガ12と間の目地には目地材(モルタル、グラウトなど)が充填されている。
【0025】
図2に示すように、各レンガ壁20は、地盤に形成された鉄筋コンクリート製等の基礎30の上に構築されている。つまり、レンガ壁20の下端部20Lが、この基礎30によって支えられている。
【0026】
図1に示すように、各レンガ壁20の上端部(頂部)20Uには、既存の屋根を構成する屋根架構100が架設されている。屋根架構100は、屋根トラス110と骨格部材130とが主な構成部材とされている。なお、レンガ壁20の上端部(頂部)20Uの上に臥梁が設けられ、この臥梁の上に屋根架構100が架設された構造であってもよい。
【0027】
図1図2(A)に示すように、三角形を基本にして部材115を組んだ構造の屋根トラス110が、対向配置された対を成すレンガ壁20X間に掛け渡されている。また、屋根トラス110は、Y方向に間隔をあけて複数架設されている。X方向に見ると、屋根トラス110の外形は略二等辺三角形となるように構成されている。また、二等辺三角形の斜面を構成する部位を上部112、底辺を構成する部位を下部114とする。
【0028】
図1図2(B)とに示すように、骨格部材130は、Y方向の両外側(レンガ壁20Yの近傍)に配置された屋根トラス110に接合されている。骨格部材130は、Y方向外側に向かってレンガ壁20Yの外側まで延出する。また、骨格部材130は軸方向がY方向に沿って配置されると共に、X方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0029】
図1図2とに示すように、各レンガ壁20の内壁面20Nと外壁面20Mとのそれぞれの近傍に、内壁面20N及び外壁面20Mと間隔をあけて、PC鋼線150N,20Mが鉛直方向を軸方向として配置されている。
【0030】
図1図2(B)とに示すように、レンガ壁20Yの内壁面20NY及び外壁面20MYとの近傍に配置されたPC鋼線150NY、150MYは、上端部150UNY,150UMYが屋根架構100を構成する骨格部材130の軸方向の両端部にそれぞれ固定され、下端部150LNY,150LMYが基礎30に固定(定着)されている。
【0031】
図1図2(A)とに示すように、レンガ壁20Xの内壁面20NX及び外壁面20MXとの近傍に配置されたPC鋼線150NX、150MXは、それぞれ屋根架構100を構成する屋根トラス110の上部112に沿って掛け渡されている。そして、PC鋼線150NX,150MXの各両端150ENX,150EMXが基礎30に固定(定着)されている。なお、PC鋼線150NX、150MXが、屋根トラス110の上部112に沿った状態が維持されるように、PC鋼線150NX、150MXは屋根トラス110の上部112にワイヤーなどで保持(固定)されている。
【0032】
そして、各PC鋼線150に緊張力が付与されることによって、屋根架構100の全体が下側に引っ張られ、屋根架構100を介して、レンガ壁20に圧縮力(プレストレス)が導入されている。
【0033】
なお、各PC鋼線150に緊張力を付与する方法はどのような構成であってもよい。本実施形態では、PC鋼線150Yは三本のPC鋼線がターンバックル50Yで連結されており、ターンバックル50Yによって各PC鋼線150に緊張力を付与する構成とされている。また、PC鋼線150Xは、二本のPC鋼線がターンバックル50Xで連結されており。ターンバックル50XによってPC鋼線150Xに緊張力を付与する構成とされている。
【0034】
図2(C)に示すように、本実施形態においては、屋根架構100を構成する屋根トラス110が下側に引っ張られると、レンガ壁20Xの面外方向の中央部に力がかかるように構成されている。また、図示は省略するが、屋根架構100を構成する骨格部材130が下側に引っ張られると、同様に、回転モーメントを表し、Pは圧縮力(プレストレス)を表している。
【0035】
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
図1図2とに示すように、対向して配置された対を成すレンガ壁20X及びレンガ壁20Yの上端部20UX,20UYに架設された既存の屋根架構100を、PC鋼線150X,150Yに緊張力を付与して下側に引っ張ることで、屋根架構100を介してレンガ壁20に圧縮力(プレストレス)が導入されている。そして、レンガ壁20に圧縮力(プレストレス)が導入されることによって、レンガ壁20の耐力が向上し、その結果、レンガ壁20の耐震性能が向上する。言い換えると、レンガ壁20が耐震補強される。
【0036】
このように既存の屋根架構100を下側に引っ張ることで、レンガ壁20に圧縮力が導入される。また、レンガ壁20に孔をあけるなどの加工が不要とされる。更に、PC鋼線150とレンガ壁20の外壁面20M及び内壁面20Nが傷つく虞がない。したがって、レンガ壁20を傷付けることなく、簡単な構造で、レンガ壁20の耐力が向上する。また、美観を損ねることなくレンガ壁20の耐力を向上させることができる。
【0037】
また、PC鋼線150は、レンガ壁20の内壁面20Nと外壁面20Mとの夫々近傍に配置されているので、PC鋼線150を壁面から離れた位置に配置する構成と比較し、屋根架構100の撓みが抑制される。
【0038】
また、PC鋼線150Xは、屋根架構100を構成する屋根トラス110に掛け渡され、両端部150EXが基礎30に固定されている。したがって、PC鋼線150Xが掛け渡された屋根トラス110全体が均一に下側に引っ張られるので、PC鋼線150Xから屋根トラス110に作用する応力集中が少ない。また、屋根トラス110の撓みが抑制される。
【0039】
ここで、本実施形態においては、屋根架構100が下側に引っ張られると、レンガ壁20の面外方向の中央部に力がかかるように構成されている(図2(C)を参照)。よって、レンガ壁20には回転モーメントM(図2(C)を参照)が発生しないか、回転モーメントMが発生したとしても非常に小さい。したがって、回転モーメントMによるレンガ壁20の面外方向の曲げ変形が、防止又は抑制される。
【0040】
つぎに、PC鋼線150の配置のバリエーションについて説明する。
上記実施形態では、PC鋼線150は、レンガ壁20の内壁面20Nと外壁面20Mとの夫々の近傍に配置されていたが、これに限定されない。
【0041】
例えば、図3に示す第一のバリエーションのように、レンガ壁20Xの外側に配置されたPC鋼線150MXのみが設けられた構成であってもよい。つまり、レンガ壁20Xの外壁面20MXの近傍にのみPC鋼線150が配置された構成であってもよい。
【0042】
また、例えば、図4に示す第二のバリエーションのように、レンガ壁20Xの内側に配置されたPC鋼線150NXのみが設けられた構成であってもよい。つまり、レンガ壁20Xの内壁面20NXの近傍にのみPC鋼線150が配置された構成であってもよい。
【0043】
なお、図示は省略するが、レンガ壁20Yについても、外壁面20MY又は内壁面20NYの、いずれかの近傍にのみPC鋼線150が配置された構成であってもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、屋根架構100を構成する屋根トラス110の上部112にPC鋼線150Xが掛け渡されていたが、これに限定されない。つまり、上部112にPC鋼線150Xが掛け渡されていなくてもよい。
【0045】
例えば、図5(A)に示す第三のバリエーションのように、レンガ壁20Yの内壁面20NY及び外壁面20MYの近傍に配置されたPC鋼線150NY、150MY(図2(B)参照)のように、レンガ壁20Xの外壁面20MX及び内壁面20NXの近傍に配置するPC鋼線150Xも、上端部150UNX,150UMXが屋根トラス110に夫々固定され、下端部150LNX,150LMXが基礎30に固定(定着)された構成であってもよい。
【0046】
更に、レンガ壁20の壁面から離れて配置されていてもよい。
例えば、図5(B)に示す第四のバリエーションのように、対向配置された対を成すレンガ壁20Xの中間部分に一本のみPC鋼線150Sを配置した構成であってもよい。
【0047】
また、例えば、図6(A)に示す第五のバリエーションのように、屋根架構100を構成する屋根トラス110の下部114に沿ってPC鋼線150MX,150NXが掛け渡された構成であってもよい。
【0048】
なお、図示は省略するが、一方のPC鋼線150XMは屋根トラス110の上部112に沿って掛け渡され、他方のPC鋼線150NMが屋根トラス110の下部114に沿って配置された構成であってもよい。
【0049】
また、例えば、図6(B)に示す第六のバリエーションのように、屋根架構100を構成する屋根トラス110のPC鋼線150Xが掛け渡された部位150Qを下側に押す束材116を、屋根トラス110(本バリエーションでは下部114)に設けてもよい。
【0050】
なお、図6(B)のような構成とすると、屋根架構100に上方向の反力が付与され、この反力が屋根架構100の自重等の荷重を支持する、所謂張弦梁構造となる。つまり、一本のPC鋼線150(本実施形態では繋ぎ合わせて一本とされている)が、レンガ壁20に圧縮力を導入してレンガ壁20の耐力を向上する機能(補強する機能)と、屋根架構100に上方向の反力を与え屋根架構100を補強する機能と、二つの機能を有する。
【0051】
また、例えば、本実施形態では、PC鋼線150は、鉛直方向を軸方向として配置されていたが、これに限定されない。
【0052】
例えば、図7に示す第七のバリエーションのように、レンガ壁20Yの面外方向(X方向)から見て、PC鋼線150MYが斜め下方に向かって配置され、更にPC鋼線150MY同士が交差するように配置されていてもよい。
【0053】
なお、このようにPC鋼線MXを斜めに配置することで、ブレース(筋交い)としての機能を有し、レンガ壁20Xの水平力に対する抵抗力が向上する。
【0054】
図示は省略するが、PC鋼線150NY、PC鋼線150MX,150NXも斜め下方に向かって配置されていてもよい。
【0055】
また、既存のレンガ壁20(構造物10)を耐震補強する場合だけでなく、例えば、レンガ壁20(構造物10)を別の場所に移設する際や新たにレンガ壁20(構造物10)を構築する場合(新築の場合)にも、本発明を適用することができる。
【0056】
<第二実施形態>
図8を用いて、本発明の第二実施形態に係る組積造壁の補強構造によって耐震補強された組積造構造物としてのレンガ造の構造物について説明する。なお、レンガ壁20は第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。また、他の部材も第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0057】
図8(A)と図8(B)とに示すように、各レンガ壁20の上端部(頂部)20Uには、新たに屋根架構200が架設されている。屋根架構200は、外側鉄骨枠部210、内側鉄骨枠部220、及び連結鉄骨部材230が主な構成部材とされている。
【0058】
平面視において、外側鉄骨枠部210は各レンガ壁20の外側を囲むように配置され、内側鉄骨枠部220は各レンガ壁20の内側を囲むように配置されている。そして、これら外側鉄骨枠部210と内側鉄骨枠部220とに、各レンガ壁20の面外方向に沿って配置された連結鉄骨部材230が接合された構造とされている。
【0059】
各レンガ壁20の内壁面20Nと外壁面20Mとの夫々近傍に、内壁面20N及び外壁面20Mと間隔をあけて、PC鋼線150N,150Mが鉛直方向を軸方向として配置されている。
【0060】
外壁面20Mに沿って配置されたPC鋼線150Mは、上端部150UMが外側鉄骨枠部210と連結鉄骨部材230との接合部に固定され、下端部150LMが基礎30に固定(定着)されている。
【0061】
内壁面20Nに沿って配置されたPC鋼線150Nは、上端部150UNが内側鉄骨枠部220と連結鉄骨部材230との接合部に固定され、下端部150LNが基礎30に固定(定着)されている。
【0062】
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
本実施形態においても、第一実施形態と同様に、新設の屋根架構200を下側に引っ張ることで、レンガ壁20に圧縮力(プレストレス)が導入される。また、レンガ壁20に孔をあける等の加工が不要とされる。更に、PC鋼線150とレンガ壁20の外壁面20M及び内壁面20Nが傷つく虞がない。したがって、レンガ壁20を傷付けることなく、簡単な構造で、レンガ壁20の耐力が向上する。また、美観を損ねることなくレンガ壁20の耐力を向上させることができる。
【0063】
なお、外壁面20Mに沿って配置されたPC鋼線150Mと、内壁面20Nに沿って配置されたPC鋼線150Nと、のいずれか一方のみが設けられた構成であってもよい。
【0064】
また、PC鋼線150が斜め下方に向かって配置された構成であってもよい(図7参照)。
【0065】
なお、図8(A)と図8(B)とに想像線(一点破線)で示すように、この屋根架構200の上に屋根トラス110を架設してもよい。なお、既存の構造物の場合は、一旦、屋根トラス110を撤去して屋根架構200を新設した後、屋根架構200の上に屋根トラス110を架設してもよい。
【0066】
更に、図8(C)に示すように、PC鋼線150を外側鉄骨枠部210間(又は内側鉄骨枠部220間)に掛け渡してもよい。また、図8(D)に示すように、PC鋼線150を外側鉄骨枠部210と内側鉄骨枠部220との間に掛け渡してもよい。
【0067】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0068】
例えば、上記実施形態では、緊張材はPC鋼線150を用いたが、これに限定されない。PC鋼より線、PC鋼棒、PC鋼材以外の弾性を有する線材(炭素繊維やビニロン繊維などの繊維材料)等を用いてもよい。或いは、これらが組み合わされて構成されていてもよい。例えば、PC鋼線とPC鋼材とが連結された構成であってもよい。
【0069】
また、例えば、上記実施形態では、組積材としてレンガ12を用いたレンガ壁20(組積造壁)の耐力の向上(耐震補強)に適用したが、これに限定されない。本発明は、組積材としてコンクリートブロック、石材等を用いた組積造壁の耐力の向上(耐震補強)に広く適用することができる。
【0070】
また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない
【符号の説明】
【0071】
10 構造物
20 レンガ壁(組積造壁)
20U 上端部
20M 外壁面(壁面)
20N 内壁面(壁面)
30 基礎(基礎部)
100 屋根架構
116 束材
150 PC鋼線(緊張材)
200 屋根架構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8