(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
缶蓋本体の上面中央部に突出して形成されるリベットと、主スコアにより画成された開口片と、前記主スコアの内側に隣接してその主スコアより浅く形成された補助スコアと、前記開口片の上に一端部を重ねて前記リベットに取り付けられるタブとを備え、前記タブの他端部を上方に引き上げることにより、前記一端部が前記開口片を下方に押圧して前記主スコアを破断させ、前記開口片を開口させる缶蓋であって、前記主スコアと前記補助スコアとは、少なくとも始端部で前記主スコアから前記補助スコアに漸次変化する移行区間によって接続されるとともに、前記始端部は複数の円弧の連続体によって外方に凸となるように形成され、これら円弧のうち前記リベットから最も離間する外方先端部分を構成する円弧の中心を通り、前記タブの長手方向に垂直な線を基準として、前記円弧の中心回りに反時計方向に100°以上回転した位置から前記移行区間が開始されており、前記円弧に沿って案内される破断の進行方向のベクトルが前記ヒンジ部に向かう方向となる範囲を避けて前記移行区間の開始点が設けられていることを特徴とする缶蓋。
【背景技術】
【0002】
飲料缶の缶蓋として、特許文献1に示されるように、タブを缶蓋本体に取り付けたままの状態で飲み口が開口可能なステイオンタブ方式のものが知られている。
このタブを備えた缶蓋は、タブがリベットによって取り付けられており、タブの引き上げ部を引き上げることにより、リベット近傍が支点となり、タブノーズ部(タブの先端)が作用点となって、パネル表面のスコアに囲まれた開口片を押圧、没入してスコアを破断させ、開口片を開口させるようになっている。この際、スコアは始端部と終端部とが離間しており、開口片は缶蓋と離れることなく飲料缶内部に押し入れられて開缶する。
【0003】
スコアは、タブの押圧によって破断されて開口片を形成する主スコアと、この主スコアの内側に隣接して平行に形成されるとともに、これよりも切り込み深さが浅くされた補助スコアとを備えた二重構造とされており、スコアの始端部及び終端部で、主スコアと補助スコアとが接続されて形成されている。そして、開口片は、このスコア始端部と終端部との間にパネル表面との接続部(ヒンジ部)を一部残して形成されている。
【0004】
このように構成された缶蓋において、特に、開缶するためにタブを起こすと、リベット付近の主スコアの途中部が最初に破断し(ポップ動作)、次いで、主スコアの始端方向に向けて破断が進み、同時に、それと反対方向の主スコアの終端方向に向けて破断が進む(ティア動作)。主スコアの始端方向への破断は始端部までの距離が短いため、すぐに止まるが、主スコアの終端方向へはその後も開口片を周回するように破断が進み、スコアの始端部と終端部との間のヒンジ部で開口片が折れ曲がって完全に開口片が缶蓋内側まで入り込むと破断が終端部に達して止まる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ティア動作時、主スコアの残厚のばらつきなどにより抵抗が大きくなり、開缶に不利な状況が発生すると、スコア始端部からスコア終端部を繋ぐように開口片のヒンジ部が破断し、完全に開口片が開き切る前にタブの先端が缶蓋の内側に潜り込んでしまうことによって、開口不良などの不具合が生じることがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、開口片のヒンジ部に生じるスコア始端部からスコア終端部への不用意な破断を防止し、好適な開缶性を確保することができる缶蓋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の缶蓋は、缶蓋本体の上面中央部に突出して形成されるリベットと、主スコアにより画成された開口片と、前記主スコアの内側に隣接してその主スコアより浅く形成された補助スコアと、前記開口片の上に一端部を重ねて前記リベットに取り付けられるタブとを備え、前記タブの他端部を上方に引き上げることにより、前記一端部が前記開口片を下方に押圧して前記主スコアを破断させ、前記開口片を開口させる缶蓋であって、前記主スコアと前記補助スコアとは、少なくとも始端部で前記主スコアから前記補助スコアに漸次変化する移行区間によって接続されるとともに、前記始端部は複数の円弧の連続体によって外方に凸となるように形成され、これら円弧のうち前記リベットから最も離間する外方先端部分を構成する円弧の中心を通り、前記タブの長手方向に垂直な線を基準として、前記円弧の中心回りに反時計方向に100°以上回転した位置から前記移行区間が開始されて
おり、前記円弧に沿って案内される破断の進行方向のベクトルが前記ヒンジ部に向かう方向となる範囲を避けて前記移行区間の開始点が設けられていることを特徴とする。
【0009】
主スコアの始端方向への破断は、その主スコアに沿って案内されるが、主スコアから補助スコアへの移行区間の開始点(変曲点)が、スコア始端部と終端部とが接近するヒンジ部近傍の円弧先端部分にあると、その変曲点が抵抗となり、破断方向がスコア形状から逸れて、ヒンジ部に亀裂が入り易くなる。
この缶蓋においては、スコア始端部で折り返すように設けられる円弧に沿って案内される破断の進行方向のベクトルがヒンジ部に向かう方向となる範囲を避けて、その円弧の中心回りに反時計方向に100°以上回転した位置に変曲点を設けることにより、ヒンジ部に生じる不用意な破断が防止され、タブの先端の開口片が開き切る前の缶蓋内側への潜り込みを防止し、その押圧力を効果的に伝達することができ、好適な開缶性を確保することができる。
また、主スコアと補助スコアとの接続に際して、その段差が大きいと、その部分から亀裂が入り易くなるが、主スコアから補助スコアにかけて緩やかな傾斜面で接続する移行区間を設けることによって、確実に亀裂の発生を防止して、好適な開缶性を得ることができる。この移行区間は1〜2mmとするのが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、開口片のヒンジ部に生じるスコア始端部からスコア終端部への不用意な破断を防止し、好適な開缶性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の缶蓋の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の缶蓋100は、飲料用の缶に用いられる、いわゆるステイオンタブ式缶蓋であり、
図1に示すように、缶蓋本体1とタブ2とにより構成され、これらの缶蓋本体1およびタブ2は、それぞれアルミニウム合金により形成されている。
【0013】
缶蓋本体1は、
図1および
図2に示すように、その中央部分に配置される円板状をなすパネル部10aと、パネル部10aの外周縁からコーナー部11を介して連続し下方に向けた環状凹部12を形成するカウンターシンク部13と、カウンターシンク部13の外周縁から上方に向けてほぼ拡径しながら延在するチャック壁部14と、チャック壁部14の外周縁から連なるショルダー部15と、ショルダー部15に連続するショルダーカール部16とから構成されている。
【0014】
パネル部10aの上面には、
図1に示すように、パネル部10a(缶蓋本体1)の中央部に突出したリベット3が形成されており、このリベット3にタブ2が取り付けられている。また、パネル部10aの上面のリベット3から特定の半径方向に延びる部分(
図1ではリベット3の下側)にスコア部4により画成される開口片5が形成され、開口片5とはリベット3を介して反対側(
図1ではリベット3の上側)に指かけ凹部6が形成されており、リベット3と指かけ凹部6との間にディンプルと称される一対の凸部7が形成されている。
そして、これら開口片5、指かけ凹部6、凸部7を取り囲むように凹状のパネルデボス10bがタブ2の長さ方向に延在して形成されており、そのパネルデボス10bを構成する外周壁10cによってパネル部10a全体の剛性が高められている。
【0015】
タブ2は、アルミニウム等の金属板を切り抜いてプレス加工等により平坦に形成されており、開口片5の上方に重なって配置された一端部21と、リベット3を挟んで反対側に形成された他端部の引き上げ部22とを備え、引き上げ部22には、タブ2の厚さ方向に開口するタブホール部23が形成されている。一端部21と引き上げ部22との間には、U字状のスロット24aによりタング部24が形成され、タング部24にリベット孔が形成されており、そのリベット孔にリベット3が挿入されてタング部24の下面がパネルデボス10bの表面に当接した状態でタブ2が取り付けられている。
なお、リベット3は、パネル部10aの中心の周囲を上方からリング状に圧印するコイニング加工を施して、パネル部10aの中心部を上方に張り出させることにより形成される。
【0016】
スコア部4は、
図1に示すように、始端部41と、リベット3をほぼ半分囲む円弧状の初期破断部となる凹円弧部42と、略楕円形状の中間部43と、終端部44とで構成され、始端部41と終端部44との間にパネル部10aとの接続部であるヒンジ部45を一部残して形成され、開口片5を画成している。凹円弧部42は、リベット3周囲のコイニングにより押しつぶされたリング状圧印部に形成される。
また、スコア部4は、タブ2による押圧によって破断されて開口片5を形成する主スコア4aと、主スコア4aの内側に隣接して平行に形成された補助スコア4bとを備えた二重構造とされており、スコア部4の始端部41および終端部44で、主スコア4aと補助スコア4bとが接続されている。
主スコア4a及び補助スコア4bは、
図5に示すように、それぞれ逆台形状に形成されており、補助スコア4bの側面は、主スコア4aの側面の一部分と連続して設けられている。また、補助スコア4bは、隣接する主スコア4aよりも浅く形成されるとともに、主スコア4aよりも底面の幅が大きく形成されており、タブ2の押圧によっては破断されない構成となっている。
【0017】
始端部41は、
図3に示すように、複数の円弧の連続体によって外方に凸となるように形成され、主スコア4aと補助スコア4bとの間隔よりも大きな円弧形状とされている。また、終端部44は、主スコア4aと補助スコア4bとの間隔とほぼ同じ寸法を直径とする円弧形状とされている。
始端部41における主スコア4aと補助スコア4bとの間の接続は、
図4に示すように、漸次変化する所定長さの移行区間Lによって開始点P(変曲点)から終点Eにかけて、主スコア4aの底面40aと補助スコア4bの底面40bとが緩やかな傾斜面40で接続され、徐々に遷移している。
【0018】
また、開始点Pは、リベット3から最も離間する始端部41の外方先端部分を構成する円弧の中心Cを通り、タブ2の長手方向に垂直な線(基準線B)を基準とし、円弧中心C回りに反時計方向に100°以上回転した位置(角度θ)に配置され、この開始点Pから移行区間Lが開始されている。
なお、始端部41の主スコア4aの残厚t1は元板厚t0=0.235mmに対して0.08〜0.13mmとされ、補助スコア4bの残厚t2は、主スコア4aの残厚t1よりも0.046〜0.056mm大きく設定されている。また、この場合の移行区間Lは、1〜2mmに設定されている。
【0019】
開口片5上には、スコア部4に沿うようにして突出させられたインナービード8が形成され、開口片5を補強している。
指かけ凹部6は、タブ2の引き上げ部22を引き上げる際に、引き上げ部22の下方に指先を配置して引き上げ易くするものであり、引き上げ部22下方近傍のパネル部10aに半径方向外方にかけて形成されている。
また、指かけ凹部6の側面61は、パネルデボス10bの外周壁10cの一部分と連続して設けられており、その底面62はパネルデボス10bの上面から、さらに下方に窪んで形成されている。
【0020】
凸部7は、パネルデボス10bの上面に突出し、タブ2の幅方向に並んで間隔をおいて二つ形成されている。そして、タブ2の外縁部がこの一対の凸部7に引っ掛かり、タブ2の回転移動を防止できるようになっている。
【0021】
このように構成される缶蓋100において、タブ2の引き上げ部22を上方に引き上げると、まず、開口片5上のタブ2の一端部21が支点となってリベット3が上方に持ち上げられる。これにより、主スコア4aの凹円弧部42の開口片5側がタブ2により押さえられた状態で、凹円弧部42のリベット3側が上方に持ち上げられ、凹円弧部42にせん断力が作用して破断する(ここまでをポップ動作とする)。そして、さらにタブ2を持ち上げていくと、リベット3が支点で、作用点がタブ2の一端部21となり、主スコア4aに囲まれた開口片5がタブ2により缶内に押し込まれながら主スコア4aが順次破断して開口する(ポップ動作後をティア動作とする)。
【0022】
この際、主スコア4aは、ポップ動作からティア動作の際に、始端方向にも若干破断する。この主スコア4aは、始端部41の円弧に沿って折り返すように形成されており、この円弧部分の上半分では破断の進行方向のベクトルがヒンジ部45に向かう方向となる。このため、この部分に主スコア4a及び補助スコア4bの移行区間Lの開始点P(変曲点)があると、その部分が抵抗となり、破断方向が主スコア4aの円弧から逸れ易くなる。したがって、開始点Pは、少なくとも基準線Bより下方に配置されている必要があるが、基準線Bからの角度θが100°未満では主スコア4aから逸れて亀裂が生じるおそれがある。
本実施形態の缶蓋100においては、開始点Pは、始端部41の外方先端部分を構成する円弧の中心Cを通り、タブ2の長手方向に垂直な線(基準線B)を基準とし、円弧中心C回りに反時計方向に100°(角度θ)以上回転した位置の開始点Pから移行区間Lが開始されているので、ヒンジ部45に生じる不用意な破断が確実に防止され、タブ2の一端部21の開口片5が開き切る前の缶蓋100内側への潜り込みが防止される。
このように、タブ2による押圧力を効果的に伝達することができるので、好適な開缶性を確保することができる。
【0023】
また、主スコア4aと補助スコア4bとの接続に際して、その段差が大きいと、その部分から亀裂が入り易くなるが、本実施形態の缶蓋100においては、主スコア4aから補助スコア4bにかけて緩やかな傾斜面40で遷移する移行区間Lを設けることによって、確実に亀裂の発生を防止している。
【0024】
次に、前述のように構成した缶蓋100について、スコア部4の始端部41における主スコア4aと補助スコア4bとの開始点Pの角度θの位置を表1に示す条件で種々のサンプルを作製し、開缶時にヒンジ部45に亀裂が生じるか否かを確認した。
表1の「角度θ(°)」は、
図3に示す角度θに対応したものである。また、始端部41の主スコア4aの残厚t1は元板厚t0=0.235mmに対して0.13mm、補助スコア4bの残厚t2は主スコア4aの残厚t1よりも0.046〜0.056mm大きく設定し、開始点Pから終点Eまでの移行区間Lは1.5mmに設定した。
表1の「亀裂の発生状況」の欄に示す「○」は、主スコアの残厚を規格上限値(0.13mm)よりも3μm厚くした缶蓋を用いて開缶時の亀裂発生を確認し、20缶全数のヒンジ部45に亀裂の発生がなかったことを表している。また「△」は、主スコアの残厚を規格上限値よりも3μm厚くした缶蓋では「○」の評価は得られなかったが、主スコアの残厚を規格上限値で作製された缶蓋で再評価した結果、20缶全数のヒンジ部に亀裂がみられなかったことを表している。また、「×」は、再評価においても、20缶のうち少なくとも1つの缶に亀裂が生じたものがあったことを示している。
【0026】
表1に示すとおり、開始点Pが100°以上の範囲にある場合では、主スコアの残厚を規格上限値よりも3μm厚い残厚としても、ヒンジ部に亀裂が生じたものはなかった。70〜90°の範囲では、規格上限値よりも3μm厚い残厚では一部に亀裂が認められたものがあったが、規格上限値の残厚では亀裂は生じなかった。0〜60°の範囲では、規格上限値の残厚でも、ヒンジ部に亀裂が生じた。
以上のとおり、主スコア4aから補助スコア4bへの移行区間Lの開始点Pの角度位置θを100°以上とすることにより、ヒンジ部45に生じる不用意な破断(亀裂)を確実に防止することができることが確認できた。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。