(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化物半導体薄膜を露出させた後に、酸素を含む雰囲気で熱アニールすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ回路基板の製造方法。
前記ゲート絶縁層を形成した後であって前記ゲート層を形成する前に、窒素雰囲気で熱アニールすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ回路基板の製造方法。
前記ゲート絶縁層及び前記ゲート層をパターニングするに際して、少なくともフッ素を含むガスでプラズマドライエッチング法により前記ゲート絶縁層をエッチングすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ回路基板の製造方法。
前記酸化物半導体薄膜は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)の少なくとも1つを含む酸化物によって形成されたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ回路基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下、単にTFTと称する場合がある)は、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の各種平面表示装置に広く用いられている。
【0003】
大型平面表示装置に用いられているアモルファスシリコンTFTは、移動度が比較的低く1cm
2/(V・s)程度ではあるものの、大面積に亘って均一に形成しやすく、また、低コストであるといった利点がある。しかしながら、近年、さらに大型高精細化が望まれており、また大きな駆動電流を必要とするアクティブマトリクス型有機EL表示装置なども開発されており、低コスト、高均一、高信頼性、高移動度の新規活性材料が必要とされている。
【0004】
最近では、TFTのチャネル層に適用し得る材料として、酸化物半導体が注目されてきている。例えば、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする透明且つ導電性を有する酸化物半導体薄膜をチャネル層に用いたTFTの開発が活発に行われている。このような酸化物半導体薄膜は、比較的低温で大面積に亘って形成することができ、アモルファスシリコンに比べ高移動度が実現できる。例えば、In−Ga−Zn−O系(以下IGZO)のアモルファス酸化物を用いたTFTが最も注目されている。
【0005】
一般的に、IGZO−TFTの構造は、逆スタガ型ボトムゲート構造が主流である。しかしながら、このような構造のTFTには、チャネル長を小さくできず、回路面積を小さくすること及び高性能化(ON電流向上)が難しいといった問題がある。
【0006】
さらに、このような構造のTFTにおいては、バックチャネル側の保護が必要となる。バックチャネル側を保護しなかった場合には、TFT形成後のプロセスにおいて、酸化物半導体薄膜のチャネル領域の膜中酸素量が変動し、トランジスタ特性が不安定になってしまうという問題がある。具体的には、チャネル領域が抵抗体となってしまい、スイッチング素子と機能しなかったり、薄膜トランジスタの閾値電圧が大きく変動してしまったりするという不具合が発生しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本実施形態における薄膜トランジスタ回路基板1の構成を概略的に示す断面図である。
【0014】
すなわち、薄膜トランジスタ回路基板1は、ガラス基板や樹脂基板などの光透過性を有する絶縁基板10を用いて形成されている。この薄膜トランジスタ回路基板1は、絶縁基板10の上に形成された薄膜トランジスタAを備えている。また、図示した例では、薄膜トランジスタ回路基板1は、液晶表示素子や有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する画素電極PEを備えている。
【0015】
絶縁基板10の上には、アンダーコート層11が形成されている。このアンダーコート層11は、例えば、酸化シリコン(SiO)によって形成されている。アンダーコート層11の上には、薄膜トランジスタAを構成する酸化物半導体薄膜SCが形成されている。また、画素電極PEは、酸化物半導体薄膜SCと同様に、アンダーコート層11の上に形成されている。
【0016】
このような酸化物半導体薄膜SC及び画素電極PEは、例えば、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)の少なくとも1つを含む酸化物によって形成されている。酸化物半導体薄膜SCを形成する代表的な例としては、例えば、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)、酸化インジウムガリウム(IGO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛スズ(ZnSnO)、酸化亜鉛(ZnO)などが挙げられる。
【0017】
酸化物半導体薄膜SCは、比較的高抵抗なチャネル領域SCCと、このチャネル領域SCCよりも低抵抗であってチャネル領域SCCを挟んだ両側にそれぞれ位置するソース領域SCS及びドレイン領域SCDと、を有している。
【0018】
この酸化物半導体薄膜SCのチャネル領域SCCの上には、ゲート絶縁膜12が形成されている。このゲート絶縁膜12は、酸化物半導体薄膜SCのソース領域SCS及びドレイン領域SCDの上には形成されず、これらを露出している。また、ゲート絶縁膜12は、アンダーコート層11及び画素電極PEの上にも形成されていない。このようなゲート絶縁膜12は、例えば、酸化シリコン(SiO)によって形成されている。
【0019】
薄膜トランジスタAを構成するゲート電極Gは、ゲート絶縁膜12の上に形成され、酸化物半導体薄膜SCのチャネル領域SCCの上方に位置している。このゲート電極Gは、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)のいずれかまたはこれらのうちの少なくとも1つを含む合金によって形成されている。
【0020】
酸化物半導体薄膜SC、ゲート絶縁膜12、及び、ゲート電極Gは、層間絶縁膜13によって覆われている。この層間絶縁膜13は、アンダーコート層11の上にも配置されている。また、層間絶縁膜13には、酸化物半導体薄膜SCのソース領域SCSに到達する第1コンタクトホールCH1、及び、ドレイン領域SCDに到達する第2コンタクトホールCH2が形成されている。
【0021】
薄膜トランジスタAを構成するソース電極S及びドレイン電極Dは、層間絶縁膜13の上に形成されている。ソース電極Sは、層間絶縁膜13を貫通する第1コンタクトホールCH1から酸化物半導体薄膜SCのソース領域SCSにコンタクトしている。ドレイン電極Dは、層間絶縁膜13を貫通する第2コンタクトホールから酸化物半導体薄膜SCのドレイン領域SCDにコンタクトしている。これらのソース電極S及びドレイン電極Dは、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)のいずれかまたはこれらのうちの少なくとも1つを含む合金によって形成されている。
【0022】
このような構造の薄膜トランジスタ回路基板1は、その表面、つまり、ソース電極S及びドレイン電極Dや、層間絶縁膜13が図示しない保護膜によって覆われていても良い。
【0023】
次に、本実施形態の薄膜トランジスタ回路基板1の製造方法についてその一例を説明する。
【0024】
まず、
図2の(A)で示したように、絶縁基板10の上に、アンダーコート層11を形成した後に、酸化物半導体薄膜SCを形成する。ここでは、絶縁基板10として、透明なガラス基板を用意した。また、アンダーコート層11は、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて、酸化シリコン(SiO)により形成した。
【0025】
酸化物半導体薄膜SCは、例えば、アンダーコート層11の上に、スパッタ法などを用いて酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)からなる半導体層を形成した後に、この半導体層をパターニングすることによって形成した。このような酸化物半導体薄膜SCを形成する際には、酸化物半導体薄膜SCの初期抵抗値が1E10Ω/□以上になる条件を選定した。なお、図示しないが、この酸化物半導体薄膜SCを形成する際に、アンダーコート層11上に画素電極PEも同時に形成した。
【0026】
続いて、
図2の(B)で示したように、酸化物半導体薄膜SCの上にゲート絶縁膜12を形成するためのゲート絶縁層12Aを形成する。図示した例では、ゲート絶縁層12Aは、酸化物半導体薄膜SCが形成されていないアンダーコート層11の上にも形成した。このゲート絶縁層12Aは、例えば、プラズマCVD法などを用いて、酸化シリコン(SiO)により形成した。
【0027】
このゲート絶縁層12Aを形成する条件としては、少なくとも形成初期に、少なくともシラン(SiH
4)及び亜酸化窒素(N
2O)を含む混合ガスを導入し、SiH
4/N
2O流量比が1%以下の条件とした。一例として、SiH
4/N
2O流量比は、SiH
4/N
2O=15/2000sccm=0.75%であり、形成時の圧力は120Paに調圧し、形成時の温度は270℃とした。
【0028】
このような酸化物半導体薄膜SCを覆うゲート絶縁層12Aを形成するに際して、シランガスと酸化物半導体薄膜SCとの接触をできるだけ低減することが重要である。つまり、シランガス比を比較的小さく設定することにより、酸化物半導体薄膜SCの表面のシランガスによる還元が抑制され、酸化物半導体薄膜SCの低抵抗化を抑制することが可能である。これにより、ゲート絶縁層12Aによって覆われた酸化物半導体薄膜SCは、初期抵抗値よりも僅かに低抵抗化される場合もありうるが、比較的高抵抗の状態に維持される。
【0029】
続いて、
図2の(C)で示したように、ゲート絶縁層12Aの上にゲート電極Gを形成するためのゲート層GAを形成する。このゲート層GAは、スパッタ法などを用いて形成した。
【0030】
続いて、
図3の(D)で示したように、ゲート層GAの上にレジストパターン20を形成する。このレジストパターン20は、例えば、感光性樹脂などによって形成されている。このようなレジストパターン20は、酸化物半導体薄膜SCにおいて高抵抗状態を維持すべき領域、つまり、チャネル領域が形成される領域の直上に位置しており、酸化物半導体薄膜SCにおいて低抵抗化される領域、つまり、ソース領域及びドレイン領域が形成される領域の直上には配置されていない。
【0031】
続いて、
図3の(E)で示したように、レジストパターン20をマスクとして、ゲート絶縁層12A及びゲート層GAを一括してパターニングして、ゲート絶縁膜12上にゲート電極Gを形成するとともに、ソース領域及びドレイン領域となる酸化物半導体薄膜SCを露出させる。その後、レジストパターン20を除去する。
【0032】
これらのゲート絶縁層12A及びゲート層GAのパターニングには、プラズマドライエッチング法の一種である反応性イオンエッチング法(RIE)を用いた。このとき、エッチングガスとしては、還元性のフッ素を少なくとも含むガス、あるいは、還元性のフッ素及び水素を少なくとも含むガスなどが適用可能である。具体的には、少なくともフッ素を含むガスの例としては、四フッ化メタン(CF
4)及び酸素(O
2)の混合ガスが挙げられる。また、少なくともフッ素及び水素を含むガスの例としては、パーフルオロシクロブタン(C
4F
8)、水素(H
2)、及び、アルゴン(Ar)の混合ガスが挙げられる。
【0033】
このようなゲート絶縁層12A及びゲート層GAをパターニングするに際して、少なくともフッ素を含むガスを用いてプラズマドライエッチング法によりゲート絶縁層12Aをエッチングすることにより、ソース領域及びドレイン領域となる酸化物半導体薄膜SCを露出させるとともに、露出した酸化物半導体薄膜SCを還元し、補助的に低抵抗化することが可能となる。
【0034】
このように、ドライエッチングに用いるガス条件によって、酸化物半導体薄膜SCの抵抗値は異なるが、この工程で酸化物半導体薄膜SCの露出した部分の抵抗値を1E10Ω/□以下となるように補助的に低抵抗化しておくことにより、以降の工程での低抵抗化処理に際して負担を軽減することが可能となる。
【0035】
続いて、
図3の(F)で示したように、少なくとも酸素(O
2)を含む雰囲気で熱アニールを行う。ここでは、酸素(O
2)及び窒素(N
2)の混合ガス雰囲気で、300℃の温度で、1時間の熱アニールを行った。なお、酸素(O
2)及び窒素(N
2)の混合比は、例えば、O
2:N
2=の5:1とした。また、この熱アニールの温度範囲は、250℃〜340℃の範囲が望ましい。このような熱アニールにおいて、少なくとも酸素ガスを含む雰囲気を用いることにより、酸化物半導体薄膜SCの酸素欠損を防止して、抵抗値の変化を抑制することが可能となる。
【0036】
続いて、
図4の(G)で示したように、露出させた酸化物半導体薄膜SCを、少なくともシラン(SiH
4)を含むガスに晒し、このシランを含むガスに晒した後に連続して層間絶縁膜13を形成する。図示した例では、層間絶縁膜13は、ゲート電極G、ゲート絶縁膜12、ゲート絶縁膜12から露出した酸化物半導体薄膜SC、さらには酸化物半導体薄膜SCが形成されていないアンダーコート層11の上にも形成した。この層間絶縁膜13は、例えば、プラズマCVD法などを用いて、酸化シリコン(SiO)により形成した。
【0037】
このような層間絶縁膜13を形成するためのプラズマCVD法を行うに際して、まず、シラン(SiH
4)ガスのみ、もしくは、シラン(SiH
4)、亜酸化窒素(N
2O)、及び、アルゴン(Ar)を含む混合ガスを導入して所望の圧力に調整して120sec処理する。そして、シランガスのみを導入した場合には、さらに、酸化シリコン(SiO)の層間絶縁膜13を形成するのに使用するガスを導入する。もしくは、シラン、亜酸化窒素、及び、アルゴンの混合ガスを導入した場合には、追加のガスを導入する必要はない。このように、層間絶縁膜13を形成するのに必要なガスを導入し、それらの流量を調整する。
【0038】
上記の「露出させた酸化物半導体薄膜SCを、少なくともシラン(SiH
4)を含むガスに晒す」工程は、このようなプラズマCVD法による層間絶縁膜13の形成開始前のガスの調圧時に行われる。つまり、酸化物半導体薄膜SCの低抵抗化処理を行う工程は、層間絶縁膜13を形成する前の準備段階(ガスの調圧時)に行われる。このため、低抵抗化処理のみを目的とした工程は必要としない。
【0039】
露出させた酸化物半導体薄膜SCがシランを含むガスに晒されることにより、酸化物半導体薄膜SCはシランによって還元され、低抵抗化される。つまり、比較的高抵抗な状態に維持された領域を挟んだ両側に低抵抗な領域が形成される。低抵抗な領域はそれぞれソース領域SCS及びドレイン領域SCDに相当し、これらの間の高抵抗な領域はチャネル領域SCCに相当する。ここでは、シランを含むガスに晒すことにより、酸化物半導体薄膜SCにおけるソース領域SCS及びドレイン領域SCDの抵抗値は4kΩ/□になった。
【0040】
そして、層間絶縁膜13を形成するのに必要なガスの調圧が完了した後に、パワーを導入してガスをプラズマ状態に励起することにより、酸化シリコンからなる層間絶縁膜13を形成する。層間絶縁膜13を形成する条件の一例として、SiH
4/N
2O/Ar流量比は、SiH
4/N
2O/Ar=50/1600/450sccmであり、形成時の温度は250℃とした。層間絶縁膜13を形成する際の温度範囲としては、200℃〜300℃の範囲が好適である。層間絶縁膜13として必要な緻密さを得るためには、温度範囲の下限として200℃以上が必要である。一方で、酸化物半導体薄膜SCの特にチャネル領域SCCからの脱酸素による高抵抗化を避けるためには、温度範囲の上限として300℃以下とする必要がある。
【0041】
このような層間絶縁膜13として、窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO)でも水素含有量が比較的多い材料を用いると、後工程にて酸化物半導体薄膜SCのチャネル領域SCCまで水素が拡散してしまいTFT特性が大きく変動してしまうため、水素含有量が少ない酸化シリコン(SiO)を用いることが望ましい。
【0042】
続いて、
図4の(H)で示したように、層間絶縁膜13に、酸化物半導体薄膜SCのソース領域SCSに到達する第1コンタクトホールCH1及び酸化物半導体薄膜SCのドレイン領域SCDに到達する第2コンタクトホールCH2をそれぞれ形成する。このような第1コンタクトホールCH1及び第2コンタクトホールCH2は、詳述しないレジストパターンをマスクとして、反応性イオンエッチング法(RIE)を用いて形成した。このとき、エッチングガスとしては、少なくともフッ素を含むガスを用いた。このため、第1コンタクトホールCH1から露出したソース領域SCSの一部、及び、第2コンタクトホールCH2から露出したドレイン領域SCDの一部のエッチングガスによる高抵抗化を抑制することが可能となる。
【0043】
続いて、
図4の(I)で示したように、第1コンタクトホールCH1からソース領域SCSにコンタクトしたソース電極S、及び、第2コンタクトホールCH2からドレイン領域SCDにコンタクトしたドレイン電極Dを形成する。これらのソース電極S及びドレイン電極Dは、スパッタ法などを用いて金属膜を成膜した後に、この金属膜をパターニングすることによって形成した。金属膜は、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などの積層膜とした。
【0044】
以上の工程により、薄膜トランジスタAを備えた薄膜トランジスタ回路基板1が製造される。
【0045】
上記の薄膜トランジスタ回路基板1の製造方法では、
図3の(F)で示したように、ゲート絶縁層12A及びゲート層GAのパターニング後に少なくとも酸素(O
2)を含む雰囲気で熱アニールを行ったが、これに代えて、
図2の(B)で示したゲート絶縁層12Aを形成した後であって、
図2の(c)で示したゲート層GAを形成する前に、窒素雰囲気で熱アニールを行っても良い。
【0046】
すなわち、
図5に示すように、ゲート絶縁層12Aから酸化物半導体薄膜SCが露出していない状態で、窒素(N
2)雰囲気で、320℃の温度で、1時間の熱アニールを行う。酸化物半導体薄膜SCは、ゲート絶縁層12Aで保護された状態でアニールするため、酸化物半導体薄膜SCに不均一性は起きず、欠陥回復がなされる。
【0047】
この場合、
図3の(F)での熱アニールを省略することができる。なお、これ以降の工程は上記の通りである。
【0048】
以上説明したように、本実施形態において製造された薄膜トランジスタAは、コプラナ型トップゲート構造であり、チャネル長を小さくすることができ高性能化できるとともに、チャネル領域SCC上がゲート絶縁膜12及びゲート電極Gなどで覆われるためチャネル領域SCCの膜質の変化を抑制できるという利点がある。一方で、酸化物半導体薄膜SCにおいて、チャネル領域SCCは高抵抗を維持しながら、チャネル領域SCCからソース電極Sまでのソース領域SCS及びチャネル領域SCCからドレイン電極Dまでのドレイン領域SCDとなる領域を低抵抗化する必要がある。
【0049】
本実施形態においては、酸化物半導体薄膜SCのうちソース領域SCS及びドレイン領域SCDを形成すべき領域が露出した状態で、これらの領域を覆う層間絶縁膜13を形成する過程で用いる還元性のシランガスに晒すことによって10kΩ/□以下に低抵抗化することが可能である。このように、層間絶縁膜13を形成する過程で行うガスの調圧時に低抵抗化処理がなされるため、酸化物半導体薄膜SCの低抵抗化のためだけに水素プラズマ処理などの別工程を追加する必要がなく、プロセスを簡素化することが可能となる。したがって、製造コストを削減することが可能となる。
【0050】
また、ゲート絶縁層12A及びゲート層GAのパターニングに際して、プラズマドライエッチング法で適用されるガス種として、還元性のフッ素ガスもしくはフッ素及び水素を含む混合ガスを用いることにより、エッチング後に良好な形状が得られる上に露出させた酸化物半導体薄膜SCの低抵抗化が可能であり、後の低抵抗化処理を安易に行うことが可能となる。
【0051】
図6は、酸化物半導体薄膜SCが晒されるガス種と、ガス種に晒された後の酸化物半導体薄膜SCの抵抗値との測定結果の一例を示す図である。
【0052】
ここでは、酸化物半導体薄膜SCとして、膜厚が50nmであり、初期の抵抗値が5E12Ω/□のIGZOをガラス基板上に形成し、各ガス種に晒した。「シラン(SiH
4)ガスフローのみ」は、本実施形態で説明した
図4の(G)のプラズマCVD工程に相当し、いわゆる水素プラズマ処理(「H
2ガス、プラズマ放電あり」の場合に相当)の場合と同等レベルまで酸化物半導体薄膜SCの抵抗値を低減できることが確認された。また、「シラン(SiH
4)/亜酸化窒素(N
2O)/アルゴン(Ar)ガスフローのみ」も、本実施形態で説明した
図4の(G)の工程に相当し、酸化物半導体薄膜SCの抵抗値を低減できることが確認された。
【0053】
また、「四フッ化メタン(CF
4)/酸素(O
2)ガス、プラズマ放電あり」もしくは「パーフルオロシクロブタン(C
4F
8)/水素(H
2)/アルゴン(Ar)ガス、プラズマ放電あり」は、本実施形態で説明した
図3の(E)のプラズマドライエッチング工程に相当し、酸化物半導体薄膜SCを補助的に低抵抗化できることが確認された。
【0054】
また、本実施形態においては、ゲート絶縁層12Aを形成する少なくとも形成初期において、シランガスの少ない条件に設定することによって、チャネル領域となる領域を含む酸化物半導体薄膜SCの低抵抗化を抑制することが可能となる。
【0055】
また、ゲート絶縁層12Aを形成した後であってゲート絶縁層12Aのパターニングを行う前(つまり、酸化物半導体薄膜SCのソース領域及びドレイン領域となる領域が露出していない状態)に窒素雰囲気で熱アニールを行う、あるいは、酸化物半導体薄膜SCのソース領域及びドレイン領域となる領域を露出させた後に、酸素を含む雰囲気で熱アニールを行うことにより、酸化物半導体薄膜SCのチャネル領域となる領域の低抵抗化を抑制するとともに、酸化物半導体薄膜SCとゲート絶縁膜12との界面での欠陥を低減することが可能となる。このため、プロセス中の酸化物半導体薄膜SCの膜質(主に膜中の酸素欠損)の変動を抑制することができ、トランジスタ特性の安定化を図ることが可能となる。
【0056】
また、層間絶縁膜13は、水素含有量が少ない材料を用いて形成することにより、液晶表示装置や有機EL表示装置などを形成する後工程で行われる熱アニール工程での水素拡散を低減することができ、酸化物半導体薄膜SCのチャネル領域SCCにおける抵抗変化を抑制することができ、トランジスタ特性の安定化を図ることが可能となる。
【0057】
上述した工程(A)乃至(I)を経て形成された薄膜トランジスタ回路基板1は、その後、液晶表示素子や有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程を経て、表示装置に組み込まれる。なお、工程(I)の後工程において、平坦層を形成する工程などで250℃前後の加熱プロセスを経る場合があるが、上述した工程(A)乃至(I)を用いて形成した薄膜トランジスタ回路基板によれば、酸化物半導体薄膜SCは安定化しており、トランジスタ特性の変動を抑制することが可能である。
【0058】
次に、本実施形態の製造方法によって製造された薄膜トランジスタAの特徴的な構造について説明する。
【0059】
図7は、本実施形態の製造方法によって製造された薄膜トランジスタAの酸化物半導体薄膜SCを拡大した断面の模式図である。
【0060】
すなわち、酸化物半導体薄膜SCにおいて、ゲート絶縁膜12から露出したソース領域SCS及びドレイン領域SCDは、底面側よりも上面側が低抵抗である。これは、酸化物半導体薄膜SCがゲート絶縁膜12などをマスクとして、シランガスに晒されたため、シランガスに触れた酸化物半導体薄膜SCの表面ほど還元され、酸素濃度が低下したためである。つまり、酸化物半導体薄膜SCのソース領域SCS及びドレイン領域SCDにおける膜中の酸素濃度は、アンダーコート層11に接する底面側よりも、シランガスに晒される過程で表面となる上面側(つまり、後に層間絶縁膜13に覆われたりソース電極Sやドレイン電極Dとコンタクトしたりする部分)の方が低い。このため、上面側の抵抗値は、底面側の抵抗値よりも低い。このような抵抗値の差異は、本実施形態の製造方法によって製造された薄膜トランジスタAの特徴である。
【0061】
図8は、本実施形態の製造方法によって製造された薄膜トランジスタのトランジスタ特性(I−V特性)の一例を示す図である。本実施形態では、上述した通り、IGZOからなる酸化物半導体薄膜のソース領域及びドレイン領域はシランガスフローによって形成した。この場合、図示したように、チャネル長Lにかかわらず、閾値電圧が略一定であることが確認された。このように、本実施形態の製造方法によって製造された薄膜トランジスタによれば、その閾値電圧にチャネル長依存性がなく、安定したI−V特性を得ることが可能となる。
【0062】
図9は、比較例の製造方法によって製造された薄膜トランジスタのトランジスタ特性(I−V特性)の一例を示す図である。比較例では、IGZOからなる酸化物半導体薄膜のソース領域及びドレイン領域は、シランガスフローに代えて、水素プラズマ処理よって形成した。この場合、図示したように、チャネル長Lに依存して閾値電圧が変化してしまい、特に、チャネル長が短い場合には閾値電圧が負側にシフトしてしまう。これは、IGZO全体が低抵抗化してその水素拡散がチャネル側まで進行し、チャネル内が不均一になるためである。
【0063】
このため、酸化物半導体薄膜の低抵抗化処理によるソース領域及びドレイン領域の形成に際しては、本実施形態で説明したようなシランガスフローを適用することが有効である。特に、安定したトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタの小型化(チャネル長が比較的短い)には、本実施形態で説明した製造方法を適用することが極めて有効である。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、製造コストの削減が可能であるとともに、安定したトランジスタ特性を得ることが可能な薄膜トランジスタ回路基板及び薄膜トランジスタ回路基板の製造方法を提供することができる。
【0065】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。