(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で「撥水性」とは、水を弾く性質を意味する。
【0011】
(本発明に至った知見)
実施の形態を説明する前に、まず、本発明に至った知見について、比較例における淡水化装置を用いて説明する。
【0012】
図1は、比較例における淡水化装置の構成を示す断面図である。
【0013】
比較例における淡水化装置70は、液体から淡水を得る淡水化装置であって、上側側壁72a、下側側壁72b及び底板72cからなる容器72と、容器72の内部に上から下に向かって次の順で位置する、水槽71、撥水粒子層73、及び、液化層74とを備える。
【0014】
淡水化装置70では、水槽71に貯められた液体(液体層75)は気化し水蒸気となる。水蒸気は撥水粒子層73を通過する。通過した水蒸気は、液化層74で液化して水(淡水)となる。
【0015】
撥水粒子層73は、多数の撥水粒子が密集することにより構成されている。1つの撥水粒子の表面は、複数の他の撥水粒子の表面に接している。各撥水粒子は、粒子と粒子表面を被覆している撥水膜とを備え、撥水性を有する。また、撥水粒子層73は、互いに接触している撥水粒子間に、液体から気化した水蒸気が通過可能な隙間を有する。
【0016】
本発明者らは、このような淡水化装置70において、水槽71に液体を導入する際に、撥水粒子が移動して撥水粒子層73の表面(上面)の一部が削れる場合があるという知見を見出した。
図2Aから
図2Iに、撥水粒子層73の表面の一部が削れる様子の一例を拡大した図を示す。
【0017】
<
図2A>
図2Aには、比較例における水槽71内に液体層75を導入する前の状態が示されている。
図2Aは、淡水化装置70のうち、水槽71の一部及び撥水粒子層73のみを拡大した図である。以下、撥水粒子層73の上面が平らな平面を有し、水槽71の開口から水槽71の上側側壁72aに沿って、液体層75を導入する例について説明する。
【0018】
<
図2B>
図2Bには、
図2Aの状態から、水槽71の開口から上側側壁72aに沿って、水槽71に液体層75aが導入されている状態が示されている。下向きの矢印は、導入される液体の流れ81を示している。水槽71の内部には、水槽71に溜まる液体が示されている。
【0019】
水槽71に液体を導入することにより、撥水粒子層73の上に、液体層75aとして液体が溜まる。また、導入された液体の流れ81により、撥水粒子層73の一部の撥水粒子(例えば撥水粒子731)が舞い上がって液体層75a内で浮遊している。
【0020】
つまり、撥水粒子層73の表面のうち液体が導入された部分近傍の表面の撥水粒子層73が部分的に削れられている。撥水粒子層73の表面が部分的に削れ、撥水粒子層73の表面に、凹部90が部分的に形成されている。言い換えれば、撥水粒子層73の表面に位置する撥水粒子731を含む複数の撥水粒子が移動し、撥水粒子層73の表面にへこんだ部分である凹部90が形成される。また、撥水粒子層73の凹部90が形成される部分に位置していた撥水粒子731が、液体層75aの内部に舞い上がって、浮いた状態となる。
【0021】
<
図2C>
図2Cには、
図2Bの状態から水槽71に液体をさらに大きな流量で導入されている状態が示されている。導入された液体の流れ82により、撥水粒子層73の表面がさらに削れられて凹部91が形成される。液体のさらなる導入に伴い、凹部91の深さは凹部90に比べて深くなっている。また、液体層75bの内部に浮いた撥水粒子731を含む撥水粒子群732は、液体の流れ82により、液体層75b内を、主として、凹部91から遠ざかる方向に移動する。
【0022】
<
図2D>
図2Dには、
図2Cの状態から、液体層75cの内部に浮いた撥水粒子731を含む撥水粒子群733が、撥水粒子層73の表面のうちの凹部91以外の部分の表面に堆積していく様子が示されている。これら複数の撥水粒子の堆積により、撥水粒子層73の表面のうちの凹部91以外の部分の表面に、複数個の凸部92が部分的に形成されている。
【0023】
<
図2E>
図2Eには、撥水粒子層73が削られる前の表面の高さを基準とし、所定の高さ(耐水圧未満の高さ)を有する液体層75cが形成された状態が示されている。
図2Eに示す状態では、水槽71への液体の導入を停止している。
図2C及び
図2Dに示すように、水槽71に液体を導入することにより、撥水粒子層73が部分的に削れて、撥水粒子層73の表面に凹部93及び凸部94が形成されている。すなわち、撥水粒子層73の上面の高さは一定(平面)ではなく、凹凸が形成されることにより、撥水粒子層73は高さが異なる部分を有する。その結果、凹部93における液体層75cの高さh1と、凸部94における液体層75cの高さh2とで示されるように、液体層75cの高さは部分的に異なることになる。
【0024】
つまり、例えば、液体を導入するときの水槽71の液体層75cの高さの変化に応じて、液体を導入するときの液体の流れは変化してしまう。それにより、液体層75cの内部に浮いた撥水粒子は、撥水粒子層73の異なる位置にそれぞれ堆積して、複数の凸部94が形成されることになる。
【0025】
よって、
図2Eに示すように、撥水粒子層73の表面に、少なくとも1つの凹部93と複数の凸部94とが形成され得る。ただし、1つの凹部93に限られず、水槽71に導入する液体の流れ又は液体の導入方法に応じて、複数の凹部93が撥水粒子層73の表面に形成され得る。
【0026】
<
図2F>
次に、
図2Eに示すように液体層75cを形成した後に、淡水化装置70では、液体層75cの液体が加熱されることにより水蒸気となり、この水蒸気が撥水粒子層73を通過して液化層74で水となることで淡水を得る淡水化処理が行われる。淡水化処理により、液体層75cの液体が水蒸気になって、液体層75cから移動するため、液体層75cの高さが低くなる。そのため、
図2Fに示すように、水槽71には、再度、流れ83で液体が導入されて、液体層75dの高さを維持する。
【0027】
<
図2G>
図2Fに示すように、水槽71に液体が再度導入されることにより、
図2Cと同様に、撥水粒子層73の表面の撥水粒子層73が部分的に削れる。
図2Gに示すように水槽71において、
図2Fまでと同じ場所から液体が導入されている場合、凹部95深さが凹部93に比較して深くなる。なお、液体層75cの内部に浮いている、例えば撥水粒子731を含む撥水粒子群734は、液体の流れ83により、液体層75c内を、主として、凹部95から遠ざかる方向などに向けて移動し、例えば凸部96に堆積する。
【0028】
<
図2H>
次に、
図2Hに示すように、液体層75f内に浮き上がった撥水粒子731を含む撥水粒子群734が撥水粒子層73の表面に堆積することにより、撥水粒子層73の表面に凸部97が形成されている。詳細には、既に凸部96を形成している部分の上に、撥水粒子群734の一部が堆積するので、凸部97の高さは凸部96と比較して高くなっている。
【0029】
<
図2I>
図2Aから
図2Hで示したように、液体層75を形成する際には、撥水粒子層73の表面に、凹部及び複数の凸部が形成されてしまう。
【0030】
詳細には、
図2Iにおいて、凹部98の下面(例えば、最もくぼんだ部分)と液体層75gの上面との距離をh3で示し、凸部99の上面(例えば、最も突き出た部分)と液体層75gの上面との距離をh4で示す。液体層75gの上面(液面)を「水面」とも表記する。このように、液体層75gの上面(水面)の高さが同じ場合でも、凹部98の下面と水面との距離h3は、凸部99の上面と水面との距離h4よりも大きくなる。
【0031】
撥水粒子層73は、水面との距離で、撥水粒子層73に加わる圧力が決まる。そのため、
図2Iに示す撥水粒子層73の凹部98と凸部99とでは、撥水粒子層73に加わる圧力が異なる。
【0032】
したがって、撥水粒子層73の表面に凹部98及び凸部99が形成されることを考慮せずに、水槽71に液体を導入した場合には、撥水粒子層73の一部において、耐水圧を超えた液体が導入されることになる。この場合、撥水粒子層73は液体層75gを保持することができなくなり、撥水粒子層73の内部に液体が浸入する(決壊する)。以下、撥水粒子層73が液体を保持することができなくなることを「決壊」とも表記する。
【0033】
例えば、撥水粒子層73が削られる前の平らな表面を基準にして、撥水粒子層73上に液体層75gを所定の高さ(耐水圧未満の高さ)で形成した場合、凹部98には、基準とした平らな表面に作用する圧力以上の圧力(耐水圧を超える圧力)が加わり、凹部98で撥水粒子層73の決壊が起き得る。
【0034】
また、
図2Fから
図2Hに示したように、淡水化処理を行う前の液体層75と同じ厚みの液体層75を形成するように液体を導入した場合でも、撥水粒子層73の一部が削れ、撥水粒子層73の削れた部分(例えば凹部98)に加わる圧力が所定の耐水圧を越えて大きくなり、撥水粒子層73の削れた部分(例えば凹部98)で撥水粒子層73が決壊し得る。
【0035】
淡水化処理を続ける毎に、液体層75の液体は蒸発するため、水槽71に液体を導入する必要がある。
図2Fのように、淡水化処理の後に、再度、液体を導入することで、凹部(例えば凹部93)は徐々に深くなっていく。つまり、
図2Iで示す凹部98の下面と液体層75gの上面との距離h3は、撥水粒子層73の凹部98に撥水粒子を供給して補修しない限り、大きくなり続ける。
【0036】
撥水粒子層73の耐水圧は、上述したように、撥水粒子層73の表面と液体層75の上面との高さで決まる。そのため、撥水粒子層73の削れた部分(凹部)が深くなることで、液体層75の高さを低く調整しなければ、撥水粒子層73が決壊する恐れがある。
【0037】
以上のように、比較例における淡水化装置では、複数の撥水粒子で構成された撥水粒子層73は、複数の親水粒子で構成された粒子層と比較して、力が加わることによって、撥水粒子が簡単に移動して、層構成としての形状が変形しやすい知見を見出した。
【0038】
複数の撥水粒子で構成された撥水粒子層73は、複数の親水性の粒子で構成された粒子層と比較して、隣に接する粒子との接合が弱い。通常、親水性の粒子は、隣に接する他の親水性の粒子と、水分子を介して接合する。一方、撥水粒子は、隣に接する他の撥水粒子と接しているのみであり、力が加わることにより、撥水粒子は動きやすい。そのため、撥水粒子層73の一部に力が加わることで、力が加えられた撥水粒子は移動するが、力が加えられていない他の撥水粒子は移動しないため、撥水粒子層73の形状が変化しやすい。
【0039】
ここで、撥水粒子層73がその上面に液体を保持できる量は、液体の液面と撥水粒子層73の表面(上面)との高さに依存する耐水圧により決まる。撥水粒子層73が有する所定の耐水圧を超える液体が、撥水粒子層73の上に配置(形成)された場合、液体は撥水粒子層73を通過する。すなわち、撥水粒子層73が液体を保持できなくなり、撥水粒子層73が液体を通過させてしまう。撥水粒子層73の上部に液体層75を形成する場合には、撥水粒子層73の表面の形状が変化することにより、水面と撥水粒子層73の表面との高さが変化するため、撥水粒子層73の形状の変化を低減することが望ましい。
【0040】
そこで、本発明者らは、撥水粒子層73の決壊を抑制するために、撥水粒子の移動を抑制できる発明を創作するに至った。
【0041】
すなわち、本発明の一態様に係る淡水化装置は、液体から淡水を得る淡水化装置であって、前記液体を貯める空間である貯液層の下に位置し、かつ、複数の撥水粒子を含み、前記貯液層に貯められた液体が気化することにより発生する水蒸気を通過させる撥水粒子層と、前記撥水粒子層の下に位置し、前記撥水粒子層を通過した水蒸気を液化することにより前記淡水を得る液化層とを備え、前記撥水粒子層は、前記貯液層側の表層に設けられた、複数の移動防止粒子を含む移動防止層を備え、前記複数の移動防止粒子の各々は、長軸方向の長さを短軸方向の長さで除した値であるアスペクト比が前記撥水粒子より高い。
【0042】
このように、移動防止粒子のアスペクト比が撥水粒子のアスペクト比より高いので、移動防止粒子は撥水粒子と比べて動きにくい。また、移動防止粒子が障害となって撥水粒子が動きにくくなる。その結果、移動防止層、すなわち撥水粒子層の表層が削られにくくなる。つまり、撥水粒子層には凹部が形成されにくい。凹部が形成されなければ、撥水粒子層の内部に位置する撥水粒子が貯液層に貯められた液体に舞い上がることを抑制できる。したがって、撥水粒子層の決壊を抑制できる。その結果、淡水化できないという不具合を低減できる。
【0043】
例えば、前記液体は、水と、前記水に溶解した不純物とを含み、前記複数の移動防止粒子の各々の比重は、前記不純物の濃度が飽和濃度の場合における前記液体の比重より大きく、前記撥水粒子の比重以下であってもよい。
【0044】
このように、移動防止粒子の比重を、不純物濃度が飽和濃度の場合における液体の比重より大きくすることにより、移動防止粒子を貯液層に貯められた液体に浮かび上がりにくくできる。また、移動防止粒子の比重を撥水粒子の比重以下とすることにより、移動防止粒子を撥水粒子層の撥水粒子層にもぐり込みにくくできる。
【0045】
つまり、移動防止粒子の比重を、不純物の濃度が飽和濃度の場合における液体の比重より大きく、撥水粒子の比重以下とすることにより、移動防止粒子を撥水粒子層の表層に留めやすくなり、撥水粒子の移動を一層抑制できる。
【0046】
例えば、前記複数の移動防止粒子の各々は親水性を有してもよい。
【0047】
これにより、移動防止粒子を一層動きにくくでき、かつ、淡水化効率の低下を抑制できる。
【0048】
例えば、前記移動防止層は、平面視において、前記複数の移動防止粒子が単位面積当たりに占める割合が1割以上5割以下であってもよい。
【0049】
これにより、淡水化効率の低下を抑制しつつ、撥水粒子の移動を十分に抑制することができる。
【0050】
例えば、前記複数の移動防止粒子の各々の短軸方向の長さは、前記複数の撥水粒子の平均粒子径より大きくてもよい。
【0051】
これにより、撥水粒子が移動防止粒子を乗り越えて動くことを抑制できる。また、移動防止層を含む撥水粒子層の少なくとも一部を取り出して篩にかけることにより、取り出した撥水粒子層に含まれる撥水粒子と移動防止粒子とを容易に選別することができる。
【0052】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、上記淡水化装置を用いて液体から淡水を得る淡水化方法淡水化方法として実現されてもよい。
【0053】
以下、各実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0054】
なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0055】
(実施形態)
[淡水化装置]
以下、図面を参照しながら、実施形態に係る淡水化システムを説明する前に、基本構成の淡水化装置10及びその淡水化処理を説明する。
図3は、淡水化装置10の構成を示す断面図である。
【0056】
図3に示す淡水化装置10は、水槽(water tank)11と、撥水粒子層(water−repellent particle layer)13と、液化層(depoliticizing layer)14とを備えている。水槽11、撥水粒子層13、及び液化層14は、上から下に向かって順に位置している。ここで、水槽11は、側面が容器12の上側側壁12aによって囲まれ、底面が撥水粒子層13によって覆われた、液体を貯める空間(貯液層)を有する。
【0057】
<水槽11>
水槽11は、平面視(上面視)において矩形又は円形など任意の形状でよい。水槽11は、側面が容器12の上側側壁12aで形成され、底面が撥水粒子層13の上面で形成されている。
【0058】
ここで、容器12について説明する。
図3に示す容器12は、鉛直方向に沿って立設された下側側壁12bと、下側側壁12bと接続され、かつ、上向きに広がるように傾斜した上側側壁12aと、下側側壁12bと接続された底板12cとを有する。上側側壁12aは上向きに広がるように傾斜することは必須ではなく、下側側壁12bと同様に、鉛直方向に沿って立設されてもよい。ただし、上側側壁12aは、水槽11に液体を導入する場合の液体の流路にも相当する場合があり、水槽11に導入される液体のエネルギーを低減するためには、上向きに広がるように傾斜していることが望ましい。
【0059】
容器12は、水槽11の上面以外の面を、上側側壁12aと下側側壁12bと底板12cとで囲むように形成されている。
【0060】
容器12の下部は、後述する撥水粒子層13と液化層14との側部を下側側壁12bですべて囲こむとともに、液化層14の底面を底板12cで保持する。容器12は、液化層14中に淡水化された淡水を保持可能としている。
【0061】
下側側壁12b及び上側側壁12aは、それぞれ、撥水性を有する材料で構成されている。下側側壁12b及び上側側壁12aの例は、それぞれ、金属板コンクリート、防水シート、又は、粘土などである。
【0062】
このように、容器12は、有底筒体形状であって、下側の開口と比べて上側の開口が大きい筒体形状の上側側壁12aと、上側の開口が上側側壁12aの下側の開口に当接する筒体形状の下側側壁12bと、下側側壁12bの下側の開口を塞ぐ底板12cとを備え、内部に、水槽11、撥水粒子層13及び液化層14が位置している。なお、容器12は、有底筒体形状に限らず、例えば、地面に掘られた凹部であって、この凹部に、水槽11、撥水粒子層13及び液化層14が位置する構成であってもよい。また、下側側壁12b及び上側側壁12aは、撥水性に限らず、防水性であってもよい。
【0063】
水槽11に注がれた(導入された)液体は、水槽11に液体層15を形成する。つまり、撥水粒子層13の上面でかつ容器12の内部(上側側壁12aの空間)に液体層15を形成する。
【0064】
なお、淡水化装置10は、水槽11に液体を導入するための導入通路を有していてもよい。一方、淡水化装置10が導入通路を有さない場合には、水槽11の開口(容器12の開口)から、液体が水槽11内に導入されていてもよい。ここで、水槽11に導入される液体は、一例として透明又は透光性を有している。
【0065】
水槽11に注がれて液体層15を形成している液体は、撥水粒子層13及び上側側壁12aが撥水性を有するため、液化層14に流れ落ちない。すなわち、水槽11に注がれた液体は、液体層15として、周囲が上側側壁12aで囲まれた撥水粒子層13の上面上に積み重ねられて維持されている。液体層15の高さ(液体層15の液面の高さ)の例は、1mmから50cmである。液体層15の高さが高すぎると(例えば、15cmよりも高いと)、後述するように液体を加熱するのに時間がかかり、大きな熱容量が必要となり、液体の淡水化の効率が悪くなる。一方、低すぎると(例えば、50cmよりも低いと)、液体の淡水化の効率が悪すぎる。このため、この数値範囲内であれば、淡水化の効率を良好な状態で保つことができる。
【0066】
このように、水槽11は、側面が容器の上側側壁12aで形成され、底面が撥水粒子層13で形成され、淡水化装置10の外部から導入された液体を液体層15として保持する。
【0067】
なお、水槽11は、水槽11の液体層15を加熱するヒーターを有していてもよい。その場合、例えば、ヒーターは、水槽11の上側側壁12aに配置される。
【0068】
<撥水粒子層13>
撥水粒子層13は、水槽11の下に位置している。撥水粒子層13の上面が水槽11の底面を形成する。水槽11に液体が注がれた場合、撥水粒子層13は、液体層15の下面に接して位置する。
図3に示すように、撥水粒子層13の側面は下側側壁12bで囲まれていてもよい。
【0069】
撥水粒子層13は、少なくとも複数の撥水粒子を含む。各撥水粒子は、粒子と粒子表面を被覆している撥水膜とを備える。撥水粒子とは、粒子表面が撥水性を有する粒子である。
【0070】
撥水粒子層13は、多数の撥水粒子が密集することで形成されている。すなわち、1つの撥水粒子の表面は、複数の他の撥水粒子の表面に接している。このとき、撥水粒子層13は、互いに接触している撥水粒子間に、液体から加熱により蒸発した水蒸気が通過可能な隙間を有する。撥水粒子層13は、複数の撥水粒子を含むため、撥水粒子層13の内部に、液体の浸入を低減することができる。
【0071】
撥水粒子層13の側面は、下側側壁12bで全周囲が囲まれていてもよい。下側側壁12bで囲まれることにより、液体が撥水粒子層13の内部へ浸入するのを低減できる。撥水粒子層13を形成する複数の撥水粒子も撥水性を有するため、液体が撥水粒子層13の内部への浸入を低減できるため、下側側壁12bは必須の構成ではない。
【0072】
粒子とは、礫、砂、シルト、及び、粘土を含む。礫とは、2mmより大きく75mm以下の粒子径を有する粒子である。砂とは、0.075mmより大きく2mm以下の粒子径を有する粒子である。シルトとは、0.005mmより大きく0.075mm以下の粒子径を有する粒子である。粘土とは、0.005mm以下の粒子径を有する粒子である。
【0073】
撥水膜は、各粒子の表面を被覆している。撥水膜は、化学式−(CF
2)
n−によって表されるフッ化炭素基を具備することが望ましい。nは自然数である。望ましいnは2以上20以下である。
【0074】
撥水膜は、共有結合により粒子と結合していることが望ましい。以下の化学式(I)は、望ましい撥水膜を表す。
【0076】
ここで、Qは水素又はフッ素である。m1及びm2は、それぞれ、独立して、0又は1以上の自然数である。nは2以上20以下である。
【0077】
撥水粒子を製造する方法の一例が以下、説明される。
【0078】
まず、化学式CX
3−(CH
2)
m1−(CF
2)
n−(CH
2)
m2−SiX
3によって表される界面活性剤が、非水系溶媒に溶解され、界面活性剤溶液を調製する。Xはハロゲンであり、好ましくは塩素である。
【0079】
次に、乾燥雰囲気下において、界面活性剤溶液に複数の粒子が浸漬され、複数の撥水粒子を得る(特許文献;米国特許第5270080号公報(特公平07−063670号公報に対応)参照)。
【0080】
また、撥水膜の材料の例は、クロロシラン系材料、又は、アルコキシシラン系材料などである。クロロシラン系材料の例は、ペプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロデシルトリクロロシラン、又はノルマルオクタデシルジメチルクロロシランである。アルコキシシラン系材料の例は、ノルマルオクタデシルトリメトキシシラン、又はノナフルオロヘキシルトリエトキシシランである。
【0081】
撥水粒子層13は、水槽11及び液化層14の間で熱伝導を低減するように、低い熱伝導性を有することが望ましい。水槽11では液体を加熱することにより水蒸気化するため、水槽11は所定の温度以上(例えば、40℃以上80℃以下)を有する。液化層14は水蒸気を液化するため、液化層14は所定の温度以下(例えば、30℃以下)を有する。少なくとも水槽11の温度と液化層14の温度との差が10℃以上である。水槽11の温度と液化層14の温度は大きく異なり、水槽11と液化層14との間の熱伝導性が高い場合には、淡水化の効率が下がる場合がある。
【0082】
撥水粒子層13は複数の撥水粒子が密集して形成されているため、複数の粒子間に空気などが存在する。よって、撥水粒子層13は、一様な素材で形成された膜などよりも、低い熱伝導を有する。
【0083】
撥水粒子層13の厚みの例は、5mm以上30cm以下である。
【0084】
撥水粒子層13があまりにも薄いと(厚みが1cm未満であると)、水槽11に注がれた水が液化層14に流れ落ち得る。一方、撥水粒子層13があまりにも分厚いと(厚みが30cmを越えると)、後述する水蒸気が撥水粒子層13の隙間を通過しづらくなる。
【0085】
<液化層14>
液化層14は、撥水粒子層13の下に位置している。液化層14は、撥水処理をしていない粒子を含む複数の粒子で形成してもよい。又は、液化層14は、下側側壁12b及び底板12cで囲われた空間としてもよい。
【0086】
液化層14は、下側側壁12bで側部の全周囲が囲まれているとともに、底部は底板12cで覆われて、容器12により、淡水16を保持可能としてもよい。
【0087】
撥水粒子層13から撥水粒子層13の隙間を通過して液化層14に到達した水蒸気は、液化層14で液化し、液体の水(淡水16)となる。詳細は後述する。
【0088】
液化層14は、必要に応じて冷却されている。
【0089】
冷却の例としては、以下のような方法が考えられる。液化層14の少なくとも一部が土壌中(地中)に配置されることにより、液化層14が冷却されている。例えば、液化層14と撥水粒子層13との界面の高さを地表の高さと同じにして、液化層14を撥水粒子層13よりも低い温度にする。
【0090】
また、液化層14が冷却部を有していてもよい。
【0091】
このように、液化層14は、撥水粒子層13の直下に位置し、撥水粒子層13を通過した水蒸気を冷却することにより液化する。ここで、液化層14は所定の温度以下(例えば、15℃以下)である。
【0092】
なお、淡水化装置10は、液化層14と撥水粒子層13との界面には、撥水粒子層の撥水粒子が液化層14へと落ちにくくするための、例えばメッシュ等の支持層を有してもよい。
【0093】
[淡水化装置の特徴構成]
以下、本実施形態に係る淡水化装置の特徴的な構成、および、各種の変形例について、図面を用いて説明する。
【0094】
図3に示すように、本実施形態に係る淡水化装置10において、撥水粒子層13は、下部粒子層13aと移動防止層13bとを備える。
【0095】
下部粒子層13aは、撥水粒子層13のうちの下側に位置し、複数の撥水粒子からなる。つまり、隣り合う複数の撥水粒子間には水蒸気が通過し、液体が通過しない隙間が形成されている。これにより、液体は通過させず、液体が蒸発したことにより生成された水蒸気は通過させる。
【0096】
移動防止層13bは、撥水粒子層13の表層に設けられ、複数の撥水粒子と複数の移動防止粒子と備える。各々の移動防止粒子のアスペクト比は、撥水粒子のアスペクト比より高い。本明細書において、アスペクト比とは、長軸方向の長さを短軸方向の長さで除した値又は割合を意味する。
【0097】
図4(a)〜(c)は、実施形態における移動防止層13bの詳細な構成を示す図である。
図4(a)は移動防止層13bに含まれる移動防止粒子の構成を示す斜視図である。
図4(b)は移動防止層13bの平面図である。
図4(c)は移動防止層13bの断面図である。なお、
図4(c)には、下部粒子層13aの一部も図示されている。ただし、下部粒子層13aを構成する各撥水粒子については、図示を省略している。
【0098】
図4(c)に示すように、撥水粒子層13は、表層に移動防止粒子132を含む移動防止層13bを有する。具体的には、移動防止層13bは、移動防止粒子132と撥水粒子131とが混在している。これにより、移動防止層13bでは、移動防止粒子132が障害となることにより、撥水粒子131が動きにくくなる。その結果、移動防止層13b、すなわち撥水粒子層13の表層が削られにくくなる。つまり、撥水粒子層13には凹部が形成されにくい。凹部の形成を抑制できるので、撥水粒子層13の決壊を抑制できる。
【0099】
以下、移動防止粒子132について詳細に説明する。
【0100】
移動防止粒子132のアスペクト比は、撥水粒子131のアスペクト比より高い。例えば、移動防止粒子132の短軸方向の長さが200μmより長くかつ2mm以下であり、移動防止粒子132の長軸方向の長さが1mm以上かつ10mm以下である。
【0101】
また、移動防止粒子132の長軸方向の長さは、撥水粒子131の長さよりも所定以上長いことが望ましい。例えば、2倍以上の長さである。詳細は後述する。
【0102】
移動防止粒子132は、例えば、ガラス繊維又は金属ワイヤ等で構成される。移動防止粒子132は、人工的に製造され得る。ここで、人工的に製造されるとは、天然に算出する原料(例えば、石又は鉱物等)を破断又は粉砕等することにより所望の形状に製造することを意味する。または、天然に算出する原料に熱処理及び化学処理することにより所望の材料(例えば、セラミック又は樹脂等)を取り出し、所望の材料に破断又は粉砕等の加工をすることにより、所望の形状に製造することを意味する。
【0103】
ただし、移動防止粒子132は、天然に算出する原料に熱処理又は化学処理することにより所望の材料を取り出し、破断や粉砕等することにより製造されることが好ましい。これにより、各移動防止粒子132は、天然に算出する原料の組成のバラつきによらず、均一な性質を有することができる。また、所望の性質を有する移動防止粒子132を製造することが容易になる。
【0104】
上述したように、移動防止粒子132のアスペクト比は撥水粒子131のアスペクト比より高いことにより、撥水粒子層13の決壊を抑制できる。このことについて、比較例を用いて説明する。比較例は、撥水粒子131と実質的に同一のアスペクト比を有する移動防止粒子を有する移動防止層である。
【0105】
図5(a)〜(c)は、比較例における移動防止層の詳細な構成を示す図である。
図5(a)は、移動防止層213bに含まれる移動防止粒子232の構成を示す斜視図である。
図5(b)は、移動防止層213bの平面図である。
図5(c)は移動防止層213bの断面図である。なお、
図5の(c)には、下部粒子層13aの一部も図示されている。ただし、下部粒子層13aを構成する各撥水粒子については、図示を省略している。
【0106】
図5(a)に示す移動防止粒子232の長軸方向の長さbであり、かつ、短軸方向の長さaである。長軸方向の長さb及び短軸方向の長さaと表現しているが、
図5(a)に示す長さb及び長さaは、およそ同一である。つまり、
図5(a)に示す移動防止粒子232のアスペクト比(b/a)は、実質的に1である。
【0107】
図5(b)及び(c)に示す撥水粒子131のアスペクト比は、移動防止粒子232のアスペクト比と同様に、実質的に1である。この場合、移動防止粒子232は、
図5(a)の長軸方向及び単軸方向のうちのいずれの方向へも転がりやすい。粒子のアスペクト比が1に近いとき、粒子の転がりやすさに方向による依存性が少ない。
【0108】
よって、撥水粒子131が移動し、移動防止粒子232に接触したとき、移動防止粒子232は撥水粒子131の移動を止めることはできず、移動防止粒子232及び撥水粒子131は共に動く。これにより、移動防止層213bの撥水粒子131が移動して、移動防止層213bに凹部が形成される。移動防止層213bを有する撥水粒子層213を有する比較例は、決壊が生じる虞が高くなる。
【0109】
比較例に対して、
図4(a)に示すように、本実施形態における移動防止粒子132のアスペクト比(長軸方向の長さbを短軸方向の長さaで除した値b/a)は、撥水粒子131のアスペクト比より高い。
【0110】
これにより、移動防止粒子132は、長軸方向に、撥水粒子131よりも動きにくくなる。移動防止粒子132が長軸方向に移動するためには、短軸方向に移動する場合と比較して、大きな角運動量を必要とする。
【0111】
一般的に、物体の回転しやすさは、慣性モーメント(mr2)で表される。mは、物体の重さであり、rは、物体の半径を意味する。当然ながら、移動防止粒子132は、回転方向に寄らず、同じ重さを有する。したがって、移動防止粒子132回転のしやすさは、回転方向の半径に依存する。半径の大きい方向である長軸方向に移動するためのトルクは、短軸方向に移動するためのトルクよりも大きくなる。特に、アスペクト比が異なる軸を有することにより、長軸方向への転がりやすさは低下する。
【0112】
次に、移動防止粒子132が転がる時の運動エネルギーを考える。撥水粒子131が移動して移動防止粒子132に衝突したとき、衝突により移動防止粒子132に運動エネルギーが加わる。しかし、移動防止粒子132は長軸方向に転がりにくいことにより、衝突により撥水粒子131が失うエネルギーが大きくなり、移動防止粒子132の移動距離が低減することになる。
【0113】
また、移動防止粒子132を乗り越えて撥水粒子131も動きにくくなり、その結果、移動防止層13bでは移動防止粒子132及び撥水粒子131ともに動きにくくなる。
【0114】
撥水粒子層13は、表層(移動防止層13b)以外の層である中間層及び底層(下部粒子層13a)においても動きにくくなる。つまり、移動防止層13bには、
図2C〜
図2Fで示した凹部が形成されにくくなる。したがって、本実施形態に係る淡水化装置10は、撥水粒子層13の決壊を抑制することができる。また、水に溶解した不純物(例えばイオン)が、撥水粒子層13が薄くなった箇所を通り抜けるのを抑制できる。その結果、液体を淡水化できない虞を低減できる。
【0115】
移動防止粒子132は、次のような比重を有する。具体的には、移動防止粒子132の比重は、不純物の濃度が飽和濃度の場合における液体の比重より大きく、撥水粒子131の比重以下である。
【0116】
移動防止粒子132の比重が、不純物濃度が飽和濃度の場合における液体の比重より大きいことにより、移動防止粒子132を液体層15に浮かび上がりにくくできる。詳細には、水槽内の液体層15において、液体に含まれる水が水蒸気となり蒸発することにより、液体の不純物濃度が高くなる。ここで、液体の比重は不純物濃度が高いほど高くなるので、液体に含まれる水が蒸発することにより不純物濃度が高くなった液体は、液体層15の下へと沈んでいく。その結果、液体層15における液体の不純物濃度は、上面から下面に向かって高くなる。したがって、移動防止粒子132の比重を、不純物の濃度が飽和濃度の場合における液体の比重より大きくすることにより、液体層15の不純物濃度が高くなった場合でも、移動防止粒子132を液体層15に浮かび上がりにくくできる。
【0117】
一方、移動防止粒子132の比重を撥水粒子131の比重以下とすることにより、移動防止粒子132を撥水粒子層13の表層から内部へもぐり込みにくくできる。
【0118】
つまり、移動防止粒子132の比重を、不純物の濃度が飽和濃度の場合における液体の比重より大きく、撥水粒子131の比重以下とすることにより、移動防止粒子132を撥水粒子層13の表層に留めやすくなり、撥水粒子131の移動を一層抑制できる。
【0119】
ここで、不純物の濃度が飽和濃度の場合における液体の比重は、液体の種類、気圧、及び温度等に基づき、撥水粒子131の比重は、撥水粒子131を構成する粒子の材質等と、粒子表面を被覆する撥水膜の材質等に基づく。ただし、撥水粒子131の質量に対して撥水膜の質量が占める割合は僅かであるため、撥水粒子131の比重の算出において撥水粒子131の質量はほぼ無視できる。例えば、液体が塩水の場合、飽和食塩水の比重は約1.2であり、撥水粒子131として「豊浦砂」の商品名を有する砂を用いた場合、撥水粒子131の比重は2.64である。よって、移動防止粒子132としては、例えば、比重1.2のポリカーボネート樹脂及びポリウレタン樹脂、比重1.4のポリアセタール樹脂、比重1.29以上1.40以下のPET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)樹脂、比重1.30以上1.58以下の硬質PVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニル)樹脂、比重1.77以上2.20以下のフッ素樹脂、又は、比重約2.5のガラス材料等を用いることができる。
【0120】
なお、移動防止粒子132の比重は撥水粒子131の比重より高くてもよく、移動防止粒子132としては、例えば、比重7.7以上8.0以下のステンレス等の金属材料、又は、比重3.9のアルミナ等のセラミック材料等を用いてもよい。
【0121】
また、移動防止粒子132は親水性を有してもよい。
【0122】
これにより、移動防止粒子132を一層動きにくくでき、かつ、淡水化効率の低下を抑制できる。
【0123】
具体的には、移動防止粒子132が撥水性を有する場合、移動防止粒子132の表面が液体にぬれることがないため、周囲の撥水粒子131及び移動防止粒子132と水を介して相互作用を及ぼすことがなく動きやすい。したがって、水槽11に液体を導入する際に、移動防止粒子132が舞い上がりやすくなる。これに対して、移動防止粒子132が親水性を有する場合、移動防止粒子132の表面が液体にぬれる。よって、周囲の撥水粒子131及び移動防止粒子132と水を介して相互作用を及ぼすことにより、動きが抑制される。
【0124】
また、移動防止粒子132が撥水性を有する場合、移動防止粒子132の表面が液体にぬれることがないため、この移動防止粒子132により覆われた、すなわち蓋をされた撥水粒子131の表面には液体が到達しない。したがって、撥水粒子層13の平面視において、撥水粒子層13の面積に対して、表面まで液体が到達している撥水粒子131によって形成される領域の面積が小さくなる。その結果、淡水化装置10の淡水化効率が低下する恐れがある。これに対して、移動防止粒子132が親水性を有する場合、移動防止粒子132の表面を液体がぬれ広がることにより、この移動防止粒子132の直下に位置する撥水粒子131の表面まで液体が到達する。したがって、撥水粒子層13の平面視において、撥水粒子層13の面積に対して、表面まで液体が到達している撥水粒子131によって形成される領域の面積が実質的に同一となる。その結果、淡水化装置10の淡水化効率の低下を抑制できる。
【0125】
このように、移動防止粒子132が親水性を有することにより、移動防止粒子132が一層動きにくくなり、かつ、淡水化装置10の淡水化効率の低下を抑制できる。
【0126】
なお、移動防止粒子132は親水性でなく、撥水性を有してもよい。これにより、撥水粒子層13の厚みに対する移動防止粒子132の高さが高くなっても、撥水粒子層13の内部への液体の浸入を抑制できる。すなわち、移動防止粒子132が親水性を有する場合には、移動防止粒子132の表面を液体がぬれ広がることにより、撥水粒子層13の内部に液体が浸入する虞がある。したがって、液体の浸入箇所において決壊が生じる場合がある。これに対して、移動防止粒子132が撥水性を有する場合には、撥水粒子層13内部への液体の浸入を抑制できる。
【0127】
また、移動防止粒子132と撥水粒子131とが混在する移動防止層13bは、移動防止層13bの上方からの平面視において、移動防止粒子132が単位面積当たりに占める割合が1割以上5割以下であってもよい。
【0128】
これにより、淡水化効率の低下を抑制しつつ、撥水粒子131の移動を十分に抑制することができる。具体的には、移動防止粒子132が単位面積当たりに占める割合を5割より多くした場合であっても、撥水粒子131の移動を一層抑制することは見込めない。さらに、液体と撥水粒子131との界面の面積が減少することにより、淡水化効率が低下する虞がある。一方、移動防止粒子132が単位面積当たりに占める割合を1割未満とした場合、撥水粒子131の移動を十分に抑制することが困難になる。そこで、移動防止層13bの上方からの平面視において、移動防止粒子132が単位面積当たりに占める割合を1割以上5割以下とすることにより、淡水化効率の低下を抑制しつつ、撥水粒子131の移動を十分に抑制することができる。
【0129】
また、複数の移動防止粒子132の各々の短軸方向の長さは、複数の撥水粒子131の平均粒子径より長くてもよい。これにより、撥水粒子131が移動防止粒子132を乗り越えて動くことを抑制できる。また、移動防止層13bを含む撥水粒子層13の少なくとも一部を取り出して篩にかけることにより、取り出した撥水粒子層13に含まれる撥水粒子131と移動防止粒子132とを容易に選別することができる。例えば、水槽内の液体層15の不純物濃度が飽和濃度を超えることにより不純物が撥水粒子層13上に析出した場合、析出した不純物により淡水化装置の淡水化効率が低下する虞がある。そこで、不純物が析出した際には、移動防止層13bを含む撥水粒子層13の少なくとも一部を取り出してから析出した不純物を流し、不純物を流した後で篩にかける。これにより、不純物が洗い流された、撥水粒子131と移動防止粒子132とを容易に選別することができる。このように選別された撥水粒子131及び移動防止粒子132を淡水化装置に戻すことで、淡水化装置の淡水化効率の低下を抑制できる。
【0130】
以上のように、本発明の実施形態に係る淡水化装置10によれば、撥水粒子層13は、水槽11(貯液層)側の表層に設けられた、複数の移動防止粒子132を含む移動防止層13bを備え、これら複数の移動防止粒子132の各々は、長軸方向の長さを短軸方向の長さで除した値であるアスペクト比が撥水粒子131より高い。
【0131】
このように、移動防止粒子132のアスペクト比が撥水粒子131のアスペクト比より高いので、移動防止粒子132は撥水粒子131と比べて動きにくい。また、移動防止粒子132が障害となって撥水粒子131が動きにくくなる。その結果、移動防止層13b、すなわち撥水粒子層13の表層が削られにくくなる。つまり、撥水粒子層13には凹部が形成されにくい。凹部が形成されなければ、撥水粒子層13の内部(下部粒子層13a)に位置する撥水粒子131が液体層15に舞い上がることを抑制できる。したがって、撥水粒子層13の決壊を抑制できる。
【0132】
なお、複数の移動防止粒子132の各々の短軸方向の長さは、複数の撥水粒子131の平均粒子径以下であってもよい。
【0133】
また、移動防止粒子132の形状は、
図4に示したような回転楕円体(長球)形状に限らず、例えば、角柱形状、錐体形状であってもよい。
【0134】
また、移動防止層13bは、平面視において、移動防止粒子132が単位面積当たりに占める割合が5割より高くてもよく、例えば10割であってもよい。つまり、移動防止層13bは、撥水粒子131を含まず、複数の移動防止粒子132が密集することにより形成されていてもよい。この場合、上記実施形態と比較して淡水化効率は低下する虞があるものの、実施形態と同様に移動防止粒子132が動きにくいことにより、移動防止層13b、すなわち撥水粒子層13の表層は削られにくくなる。したがって、撥水粒子層13の決壊を抑制できる。
【0135】
また、上記実施形態では、撥水粒子131のアスペクト比を1として説明したが、撥水粒子131のアスペクト比としては1に限らない。
図6は、撥水粒子131として用いられる「豊浦砂」の商品名を有する砂の光学顕微鏡写真である。同図から読み取れるように、アスペクト比b/aとしては2程度までの撥水粒子131が存在すると思われる。よって、移動防止粒子132のアスペクト比は3以上としてもよい。これにより、移動防止粒子132の移動をより確実に抑制できるので、移動防止層13bにおける各撥水粒子131の移動をより確実に抑制できる。よって、撥水粒子層13の決壊を十分に抑制できる。
【0136】
また、移動防止粒子132は、集熱を促すような構成であってもよく、例えば黒色であってもよい。
【0137】
[淡水化システム]
以上のように構成された淡水化装置は、装置として実現できるだけでなく、システムとしても実現することができる。以下、本実施形態における淡水化システムの一例について、
図7を用いて説明する。
【0138】
図7は、本実施形態における淡水化システムの構成を示す断面図の一例である。
【0139】
図7に示す淡水化システム20は、例えば、海水から淡水を得るシステムであり、第1実施形態に係る淡水化装置10と、水門22とを備える。なお、
図3と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0140】
水門22は、開閉することにより、淡水化装置10の外部から水槽11への液体の導入を開始する又は停止する。より具体的には、水門22は、導入通路21に設けられており、導入通路21を介して水槽11に導入する液体の量(導入量)を調整する。
【0141】
図7に示す例では、水門22は、水槽11と液体が溜められている外部槽23との間の液体の流量を調整する。水門22は、開くことにより、外部槽23から導入通路21を介して水槽11に液体を導入する。水門22は、閉まることにより、外部槽23から導入通路21を介しての水槽11への液体の導入を停止する。なお、水門22は、例えばユーザ等により開閉されてもよいし、例えば水門制御部等により、開閉が制御されるとしてもよい。
【0142】
外部槽23は、例えば、海、海から導入した海水を溜める前処理槽、又は、別途供給されている塩水が溜められている槽である。
【0143】
以上のように構成された淡水化システム20では、撥水粒子の移動を抑制する移動防止層13bを有するので、撥水粒子層13の決壊を抑制できる。その結果、淡水化できないといった不具合を低減することができる。
【0144】
[淡水化方法]
以下、本実施形態に係る淡水化システム20による淡水化処理について説明する。
【0145】
<淡水化の処理>
図8は、淡水化システム20の淡水化処理の工程を示すフロー図である。なお、以下で説明する淡水化処理は、淡水化システム20の淡水化処理に限らず、第1実施形態、第1実施形態の変形例、又は、第2実施形態に係る淡水化装置の淡水化処理であってもよい。
【0146】
まず、水槽11に液体を導入し、撥水粒子層13の上に液体(液体層15)を配置する(S101)。ここで、液体は、例えば塩水である。
【0147】
なお、
図7に示す淡水化システム20で淡水化処理を行う場合、外部槽23から水門22及び導入通路21を介して水槽11に液体を注ぎ、撥水粒子層13の上面に液体層15を形成する。
【0148】
次いで、撥水粒子層13の上に配置された液体を加熱することにより蒸発させて水蒸気を生成する(S102)。詳細には、水槽11に貯められた液体(液体層15)を一定以上の温度まで加熱すると、液体は水蒸気となる。
【0149】
なお、この一定の温度は、液体の種類及び気圧に基づいて、飽和蒸気圧曲線に応じて決まる温度である。例えば液体が塩水の場合、一定の温度は50度以上60度以下である。液体層15の加熱は、例えば太陽光により行われるとしてもよいし、水槽11がヒーターを有する場合には、ヒーターにより行われるとしてもよい。また、加熱された物体を水槽11の液体層15に供給することにより、行われるとしてもよい。
【0150】
次いで、液化層14で水蒸気を液化することにより、淡水を得る(S103)。
【0151】
詳細には、水槽11において加熱により液体から蒸発した水蒸気は、上方向だけでなく、下方向にも移動する。下方向に移動する水蒸気は、撥水粒子層13における撥水粒子間の隙間を通り抜け、液化層14に到達すると、液化層14で液化し、液体の水となる。つまり、水槽11において加熱により液体から蒸発した水蒸気は、液化層14において冷却され、液体の水になる。
【0152】
このようにして、淡水化システム20の淡水化処理は行われる。
【0153】
なお、液体の水とは、水槽11に注がれた液体に含まれる固体、及び、溶解している不純物が低減された水であり、典型的には淡水(蒸留水)である。液体に溶解している不純物は、例えばイオンである。
【0154】
(変形例)
上記実施形態では、淡水化システムの例として
図7を用いて説明したが、淡水化システムは、
図7に示す例に限られない。淡水化システムの別の例を、変形例として説明する。
【0155】
図9は、実施形態の変形例における淡水化システムの構成を示す断面図の一例である。
【0156】
図9に示す淡水化システム20Aは、例えば、海水から淡水を得るシステムであり、淡水化装置10Aと、導入通路21と、水門22と、外部槽23と、淡水通路24と、排出管26と、排出弁27と、水門制御部28とを備える。なお、
図7と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0157】
淡水化装置10Aは、
図7に示す淡水化装置10と比較して、フタ17を有している。その他の構成については、淡水化装置10と同様のため、説明を省略する。
【0158】
フタ17は、水槽11に設けられ、水槽11(上側側壁12a)の開口を覆う。フタ17は、淡水化装置10Aの液体層15を太陽光により加熱する場合には、透明の部材で形成される。淡水化装置10Aはフタ17を有することにより、水槽11から上方向に逃げる水蒸気を低減できるだけでなく、水槽11の開口から混入する不純物を低減できる。
【0159】
淡水通路24は、液化層14と接続されており、液化層14の淡水(蒸留水)を外部に排出する。なお、淡水通路24には、淡水排出弁(不図示)が設けられているとしてもよい。その場合、淡水排出弁を開けることにより、淡水通路24を介して液化層14の淡水(蒸留水)を外部に排出することができ、淡水排出弁を閉めることにより、液化層14の淡水(蒸留水)の排出を停止することができる。なお、淡水排出弁の開閉は、水門制御部28により制御されるとしてもよい。
【0160】
排出管26は、水槽11と接続され、液体層15の液体を外部に排出する。
【0161】
排出弁27は、排出管26に設けられている。排出弁27は、開けられることにより、水槽11から液体層15の液体を排出し、閉められることにより、水槽11から液体層15の液体の排出を停止する。排出弁27の開閉は、水門制御部28により制御されている。
【0162】
水門制御部28は、入力部(不図示)を利用してユーザ等から入力された情報に応じて、水門22や排出弁27等の開閉を制御してもよい。なお、入力部は、例えばタッチパネル、キーボード、カーソル、マイクなどである。また、入力部に対してユーザ等により入力される情報は、例えば水門22を開ける指示を示す情報、又は、水門22を閉める指示を示す情報である。
【0163】
図10は、実施形態の変形例における水門制御部28のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0164】
水門制御部28は、
図10に示すように、例えばCPU2811、RAM2812、ROM2814、受信部2815、及び、バス2818で構成される。
【0165】
CPU2811は、RAM2812に格納されているプログラム2813を実行する。プログラム2813には、例えば上述した
図8に示される処理手順が記述されている。なお、プログラム2813は、ROM2814に格納されるとしてもよい。
【0166】
受信部2815は、アンテナ2817と受信回路2816とを有し、水門等の開閉を指示する情報を受信する。例えば、ユーザ等が入力部に情報を入力した場合、入力部が有するアンテナ2817から情報が送信される。その場合、水門制御部28では、送信された情報を、アンテナ2817で受信し、受信回路2816で受け付ける。
【0167】
受信回路2816とCPU2811とは、互いにバス2818で接続されており、相互にデータの授受できる。受信部2815すなわち受信回路2816で受け付けた情報は、バス2818を経由してCPU2811に送られる。
【0168】
以上のように構成された淡水化システム20Aは、導入水量(水流)を調整することができるので、水流による撥水粒子層13の決壊を抑制することができる。
【0169】
以上、一つまたは複数の態様に係る淡水化装置、及び、淡水化方法について、実施形態及び変形例に基づいて説明したが、本発明は、これら実施形態及び変形例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施形態及び変形例に施したものや、異なる実施形態及び変形例における構成要素を組み合わせて構築される形態も、一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
本発明に係る淡水化装置(10)は、液体から淡水を得る淡水化装置であって、液体を貯める空間である水槽(11)の下に位置し、かつ、複数の撥水粒子(131)を含み、水槽(11)に貯められた液体が気化することにより発生する水蒸気を通過させる撥水粒子層(13)と、撥水粒子層(13)の下に位置し、撥水粒子層(13)を通過した水蒸気を液化することにより淡水を得る液化層(14)とを備え、撥水粒子層(13)は、水槽(11)側の表層に設けられた、複数の移動防止粒子(132)を含む移動防止層(13b)を備え、複数の移動防止粒子(132)の各々は、長軸方向の長さを短軸方向の長さで除した値であるアスペクト比が撥水粒子(131)より高い。