特許第5659417号(P5659417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5659417オリーブジュース抽出物からの苦味除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5659417
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】オリーブジュース抽出物からの苦味除去方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/212 20060101AFI20150108BHJP
   A23L 1/30 20060101ALI20150108BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20150108BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20150108BHJP
   A23K 1/16 20060101ALN20150108BHJP
   A61K 36/00 20060101ALN20150108BHJP
   A61K 9/19 20060101ALN20150108BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20150108BHJP
   A61K 9/08 20060101ALN20150108BHJP
【FI】
   A23L1/212 A
   A23L1/30 B
   A23L2/00 F
   A23L2/38 C
   !A23K1/16 304C
   !A61K35/78 Y
   !A61K9/19
   !A61P3/02
   !A61K9/08
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-521349(P2010-521349)
(86)(22)【出願日】2008年8月19日
(65)【公表番号】特表2010-536351(P2010-536351A)
(43)【公表日】2010年12月2日
(86)【国際出願番号】EP2008006788
(87)【国際公開番号】WO2009024316
(87)【国際公開日】20090226
【審査請求日】2011年8月1日
(31)【優先権主張番号】07016336.5
(32)【優先日】2007年8月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100094318
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 行一
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(72)【発明者】
【氏名】ウェールリ, クリストフ
【審査官】 小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/005986(WO,A1)
【文献】 特開平09−078061(JP,A)
【文献】 特開2003−128664(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/039262(WO,A1)
【文献】 特表2010−536353(JP,A)
【文献】 特表2010−536352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/
A23L 2/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
苦味化合物が加水分解し、それによってそれらの苦味を失うのに十分な時間、オリーブジュースを高いpH8〜12と温度60〜100℃に保つステップを含む、苦味化合物の存在に起因する苦味をオリーブジュースから除去する方法。
【請求項2】
pHが少なくとも10分間変化しなくなるまで前記高い温度を保つ、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pHが塩基の添加によって調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
塩基がNaOHまたはKOHあるいはそれらの混合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
温度が70〜90℃でありpHが8〜9である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法によって、苦くないヒドロキシチロソール濃縮オリーブジュースを製造するステップと、噴霧乾燥または凍結乾燥して粉末オリーブジュース誘導体を製造するステップを含む、粉末の苦くないヒドロキシチロソール濃縮オリーブジュース誘導体を製造する方法。
【請求項7】
乾燥ステップに先だって安定剤をオリーブジュースに添加するステップをさらに含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、もはや苦味を有さないオリーブジュース抽出物、およびこれらの抽出物を生成する方法、および生成された新しい抽出物に関する。本発明はまた、これらの抽出物を含有する栄養製品および食品にも関する。
【0002】
[背景技術]
オリーブ油およびオリーブ抽出物の医療上の利点は、広く認識されている。オリーブ油を製造するためには、オリーブ果実をすりつぶしてペーストにする。ペーストに圧力をかけて、つぶした果実から油を分離する。オリーブ油を提供するのに加えて、圧搾はまた、多数の水溶性植物化学物質を含有するオリーブ果実の水性内容物も放出する。この水は、「植物水(vegetation water)、オリーブジュース、およびオリーブ廃棄水」をはじめとするいくつかの名称で知られている。興味深いことに、オリーブジュースとその廃棄はオリーブ油製造業者にとって問題となることがある一方で、それはまた有益な栄養特性を有することができるフェノール化合物の望ましい豊かな供給源であることができる。その自然状態では、オリーブジュースはかなり希釈されているためオリーブジュース抽出物が作られる。
【0003】
従来、オリーブジュースを濃縮する方法は、時間のかかるインキュベーション、濾過および/または遠心分離、および噴霧乾燥ステップを伴った。別の問題は、オリーブジュースの匂い、苦味、および濁度、ならびに活性ポリフェノールの1つであるヒドロキシチロソールの低含量のために、食物または栄養補助食品中における乾燥または液体オリーブジュースの有用性が限定されることである。
【0004】
したがって完全に天然で、ヒドロキシチロソールが豊富で、かつ苦くないオリーブジュース抽出物を製造するための、効率的で対費用効果の高いより良い方法を開発することが望ましいであろう。
【0005】
[発明の説明]
本発明に従って、完全に天然で苦くないオリーブジュース抽出物を製造する新規な方法が提示される。またこの抽出オリーブジュースを含有する新規な栄養組成物、および新しいオリーブジュース抽出物、および粉末形態のオリーブジュース誘導体もまた、本発明の一環である。
【0006】
したがって本発明は、オリーブジュースを苦味化合物が加水分解し、それによってそれらの苦味を失うのに十分な時間、高いpHと温度に保つステップを含む、苦味化合物の存在に起因する苦味をオリーブジュースから除去する方法に関する。
【0007】
典型的なオリーブは、およそ50%の水、22%の油、19%の炭水化物、6%のセルロース、2%のタンパク質、および(合わせて)0.2%のオレウロペインとヒドロキシチロソールを含有する。果実(および後の抽出物)の正確な組成は、オリーブ栽培品種、収穫期、および生育条件によってさえ、様々であり得ることが理解される。
【0008】
明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、次の定義が適用される。
「HT」とはヒドロキシチロソールを意味する。
「オリーブジュース」、「オリーブ廃棄水」、および「植物水」は、全て同義的に使用されることが意図される用語である。それらはオリーブ油製造中にオリーブ果実を破砕する際に生じる水相を指す。これはHTおよびオレウロペイン(結合HTを含有し、引き続いて分解してHTを得てもよい)などの目的とする化合物に加えて、炭水化物の複合混合物を含むスラリーである。
【0009】
文献報告(例えばBrianteら,2002年,J.Biotechn.93:109〜119頁,およびSoler−Rivasら,2000年,J Sci Food Agric 80:1013〜1023頁を参照されたい)に反して、オリーブジュースに苦味を与える未知の化合物は、ヒドロキシチロソールまたはオレウロペインのどちらでもないことが、本発明に従って分かった。理論による拘束は望まないが、それらは不安定なフェノールエステル基を含有するかもしれない。苦味化合物が何であるかにかかわらず、それらは塩基に対して非常に感応性であり高pHでは不安定である。
【0010】
任意の形態のオリーブジュースを本発明の方法の出発原料として使用してもよいが、最適結果のために、方法の軽微な変更が必要かもしれない。典型的に約85〜90%の水および10〜15%の固形物を含有する未処理ジュースを購入して、本発明の方法の出発原料として使用できる。固形物のいくらかまたは全てを除去するために供給者によって濾過されたオリーブジュースのその他の市販形態もまた、同じく適切な出発原料である。濃縮形態(例えば3〜4倍)で購入されたオリーブジュース、または当該技術分野で知られている単純な蒸発技術によって使用前に濃縮されたオリーブジュースもまた適切である。他の事例ではオリーブジュースを好都合には、クエン酸が添加されてそれを安定化する安定化凍結乾燥形態で購入してもよい。乾燥オリーブジュースは、約60%の炭水化物、10%の繊維、10%の脂質、および6%のポリフェノール(これはおよそ2%のヒドロキシチロソール、0.2%のチロソール、およびその他のポリフェノールを含む)、および有機酸、タンパク質、およびミネラルを含有する。一般に経済的理由から濃縮物が好ましいが、述べられている方法は任意のジュースで機能する。
【0011】
本発明の一態様に従って、オリーブジュースの味に付随する苦味は、ジュースを高いpHで全ての苦味を除去するのに十分な時間、熱処理することで容易に除去できることが分かった。一般に苦味を除去するステップは、オリーブジュース抽出物を製造するための多段階プロセスの最初のステップの1つである。好ましい方法ではこのステップは、オリーブジュース抽出物を製造する全工程において、早期に実施される。しかしこのステップは、抽出工程中の都合よいと思われる任意の時点で実施してもよい。
【0012】
高温は広い範囲、すなわち約20℃〜約100℃にわたって存在できる。実際の温度は特に重大でない。好ましい温度範囲は約60〜約95℃であり、より好ましい温度は約80℃である。
【0013】
温度上昇に加えて、ジュースのpHは、未処理のオリーブジュース中に元からあるのよりも高いpHに調節されるべきである。調節されたpHは約6〜約12の範囲にあるべきで、好ましいpHは約7〜約10であり、なおもより好ましくは8〜約9である。pH約10を超えるpHではHTが迅速に分解するためこのpHでは酸素の注意深い排除が必要であり、したがってpH≦9が好ましい。pHを調節できるあらゆる塩基性化合物が使用できる。好ましい化合物はNaOH、KOH、およびそれらの混合物である。
【0014】
高い温度とpHの条件下では、結合HTを含有する複合化合物は分解してHTが遊離する。したがって反応が実質的に完結した後、ジュースは出発原料よりも高い量のHTを含有する(出発原料が未処理であり、または単に濃縮されたオリーブジュースであると想定して)。
【0015】
反応が起きる間にpHは変化するかもしれず、所望のpHを保つために再調節が必要になるかもしれない。反応中はpHを持続的に調節することが好ましい。加水分解反応が実質的に完結したことを判定する1つの方法は、pHが少なくとも約10分間にわたり比較的安定を保つことである(すなわち比較的無変化である)。バッチが約10分間にわたる安定点に達するまでの所用時間は、バッチの個々の組成物次第で大幅に変動し得る。
【0016】
この時点では、HT量が増大しただけでなくオリーブジュースはもはや苦くない(出発原料が苦かったと想定して)。したがって本発明のさらなる態様は、未加工のオリーブジュースと比較して、増大した量のHTを含み、苦くないオリーブジュース抽出物である。加工業者は所望の任意の方法で、この苦くない組成物を使用できる。例えばそれは例えば食物または飲料組成物などである栄養組成物に直接組み込むことができる。食物はヒト消費に適したものか、または動物飼料であり得る。あるいは、それは栄養補給剤にすることができ、例えばそれは既知の方法を使用してカプセル、錠剤などに配合できる。あるいは、組成物は化粧品組成物中で使用できる。
【0017】
本発明の別の実施態様では、苦くない抽出物は、従来の技術を使用して噴霧乾燥または凍結乾燥させて粉末誘導体を形成し、次に最終製品に組み込む。任意選択的に、乾燥ステップに先だって、ジュースに安定剤などを添加してもよい。得られた粉末は、例えば食物または飲料組成物などの栄養組成物に直接組み込むことができる。食物はヒト消費に適したものか、または動物飼料であり得る。あるいは、それは栄養補給剤にすることができ、例えばそれは既知の方法を使用してカプセル、錠剤などに配合できる。あるいは、組成物は化粧品組成物中で使用できる。
【0018】
あるいは、ジュースまたは粉末誘導体のどちらかを栄養補給剤にすることができ、例えばそれは既知の方法を使用してカプセル、錠剤などに配合できる。
【0019】
本発明の他の態様では、このようにして作られたオリーブジュース抽出物は、同時係属特許出願第号明細書[代理人整理番号26254WO]で述べられているようなさらなる加工のための出発原料である。
【0020】
次の非限定的実施例は、本発明をより良く例示するために提示される。
【0021】
[実施例]
[実施例1]
[出発原料]
特に断りのない限り、全ての%は重量%を指す。
【0022】
出発原料はHIDROX 6%(カリフォルニア州ヘイウッドのCreAgriからのLot 6022406002。これはクエン酸で安定化された凍結乾燥オリーブジュースである。その内容物(重量部)は次のとおりである。
炭水化物:約60%
脂質(オリーブ油):約15%
繊維:約10%
ヒドロキシチロソール:2.1%
水:約2%
外観:
水への溶解度:濁った微細懸濁液
味:苦い
色:ベージュないし褐色の粉末
【0023】
[実施例2]
[苦味の除去]
反応フラスコ内で、100gのHIDROX 6%(実施例1から、2.1%のHTおよび0.24%のチロソールを有する)および80mlの水の溶液を調製した。混合物を窒素ブランケット下で撹拌し、80℃まで加温した。混合物をpH=9.0に調節し、計38mlのNaOH(10mo/l)、計380ミリモルを連続して添加しながら、一定のpHにおいて80℃で30分間撹拌した。乾燥ジュースはおよそ1%のクエン酸で安定化されており、その開始pHは未処理ジュースよりも低いので、未処理オリーブジュースはより少ないNaOHを必要とすることが注目される。
【0024】
懸濁液はもはや苦くなかった。これはそのまま使用でき、または例えば凍結乾燥または噴霧乾燥などの既知の様式で乾燥粉末に濃縮できる。
【0025】
ヒドロキシチロソール含量は、塩基処理によっておよそ130%増大した。
【0026】
[実施例3]
次の表1は、表に示すpHおよび/または雰囲気調節を除いては、本質的に実施例2のようにして実施された結果を示す。オリーブの匂いを変えることなく、80℃において苦味はpH8ではおよそ30分間で消え、pH9ではおよそ10分間で消える。より高いpH(≧10)では、オリーブジュースの匂いが不快な木臭味に変化する。pH9を超えると酸素がHTをますます迅速に破壊する。
【0027】
下の表1では、色は次のように表示される。++=増大;+=標準;(=)=減少;および(−)=判定されず。苦味検査で使用した希釈はおよそ1mg/ml水道水であった。HT重量%は乾燥オリーブジュースについて正規化した。
【0028】
【表1】