(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の極性判別は、パルス電圧を所定間隔で出力し、例えば、4msの間隔で出力し、電源電圧の位相周期とは関係なく出力するようにしている。したがって、従来の極性判別では、安定したモータ電流の変化を得ることができないという問題があった。
【0007】
つまり、モータ駆動装置には、スイッチングによるリプル電圧を平滑化する程度の小容量コンデンサしか備わっていないものがる。例えば、コンバータとインバータの間の直流リンク部に小容量コンデンサを設け、脈動する直流をインバータに出力するようにしているものがある。
【0008】
このように、直流リンク部が小容量コンデンサを備える場合、電源電圧のピーク点でパルス電圧を出力した場合、コンデンサ電圧の低下時における電源電圧と直流リンク部電圧の電位差が大きくなり、リアクトルから小容量コンデンサに流れ込む電流が大きくなり、パルス電圧の出力を停止した後に直流リンク部の電圧が大きく上昇する。
【0009】
また、電源電圧のゼロクロス点でパルス電圧を出力した場合、コンデンサ電圧は0V付近まで低下し、パルス電圧の出力を維持できなくなる。その結果、モータには極性判別に必要なパルス電圧を印加できず、モータ電流の応答も不十分となる。
【0010】
したがって、上記パルス電圧を電源電圧の位相を考慮せずに出力していたのでは、単にモータ電流の大きさを検知しても永久磁石界磁の極性を正確に判別することができない、またはインバータ素子を破壊してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、永久磁石界磁の極性を正確に判別することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、パルス電圧の出力タイミングを電源電圧の位相に基づいて決定するようにしたものである。
【0013】
第1の発明は、交流電源(11)と、複数のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)および該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のスイッチングにより生じるリプル電圧を平滑するコンデンサ(31)を有し、上記交流電源(11)から入力される電力を上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のスイッチング動作によって所定の周波数の交流電力に変換する主回路(1A)と、該主回路(1A)が出力する交流によって駆動する永久磁石モータ(12)とを備えたモータ駆動装置を対象としている。そして、第1の発明は、上記永久磁石モータ(12)の極性を判別するためのパルス電圧を上記交流電源(11)の電源電圧の
所定位
相で複数回上記永久磁石モータ(12)に出力するように電圧指令を上記主回路(1A)に出力する電圧指令部(51)と、上記永久磁石モータ(12)のモータ電流を検知し、上記パルス電圧によるモータ電流の変動に基づいて上記永久磁石モータ(12)の極性を判別する判別部(52)とを備えている。
【0014】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記主回路(1A)は、上記交流電源(11)の交流電力を整流するコンバータ部(20)と、上記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のスイッチング動作によって上記コンバータ部(20)の出力電圧を所定の周波数の交流電力に変換するインバータ部(40)と、上記コンデンサ(31)が前記コンバータ部(20)とインバータ部(40)との間に接続される直流リンク部(30)とを備えたものである。
【0015】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記主回路(1A)がマトリクスコンバータである構成としている。
【0016】
上記第1〜第3の発明では、上記電圧指令部(51)が、電圧指令を出力する。この電圧指令により、増磁方向のパルス電圧が交流電源(11)の電源電圧に同期して主回路(1A)から永久磁石モータ(12)に出力される。例えば、第2の発明では、増磁方向のパルス電圧がインバータ部(40)より永久磁石モータ(12)に出力される。
【0017】
上記パルス電圧が永久磁石モータ(12)に出力されると、永久磁石モータ(12)を流れるモータ電流が上昇する。判別部(52)は、このモータ電流の変動を検出する。
【0018】
続いて、上記電圧指令部(51)の指令に基づき減磁方向のパルス電圧が交流電源(11)の電源電圧に同期して出力する。
【0019】
上記パルス電圧が永久磁石モータ(12)に出力されると、永久磁石モータ(12)のモータ電流が上昇する。判別部(52)は、このモータ電流の変化の大きさを検出する。
【0020】
上記判別部(52)は、このパルス電圧に伴うモータ電流の変動に基づき永久磁石モータ(12)の極性を判別する。
【0021】
第4の発明は、上記第1〜第3の発明の何れかにおいて、上記電圧指令部(51)は、パルス電圧を上記交流電源(11)の電源電圧の1/2n周期(nは電源の相数)の整数倍の間隔で出力するように構成されたものである。
【0022】
上記第4の発明では、パルス電圧が電源電圧の半周期の整数倍の間隔で出力されるので、常に一定の電源電圧に対してパルス電圧が出力されることになる。
【0023】
第5の発明は、上記第1〜第4の発明の何れかにおいて、上記電圧指令部(51)は、パルス電圧を上記交流電源(11)の電源電圧の1/2n周期(nは電源の相数)の後半に対応するタイミングで出力するように構成されたものである。
【0024】
上記第5の発明では、パルス電圧が電源電圧の半周期の後半で出力されるので、電源電圧と直流リンク部電圧の電位差が電源電圧の半周期の前半で出力した場合と比較して大きくならず、リアクトルに流れる電流がが小さくなり、直流リンク部(30)の電圧上昇が低減される。
【0025】
第6の発明は、上記第1〜第5の発明の何れかにおいて、上記判別部(52)は、モータ電流の変化の大きさで極性を判別するように構成されたものである。
【0026】
上記第6の発明では、増磁方向のパルス電圧であるとモータ電流の変化がN極においては大きく、S極においては小さくなり、減磁方向のパルス電圧であるとモータ電流の変化がN極においては小さく、S極においては大きくなるので、磁束の増減方向とモータ電流の変化の大きさとの組み合わせにより極性を判別する。
【0027】
第7の発明は、上記第1〜第5の発明の何れかにおいて、上記判別部(52)は、モータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量で極性を判別するように構成されたものである。
【0028】
上記第7の発明では、増磁方向のパルス電圧であるとモータ電流の変化がN極においては大きく、S極においては小さくなり、減磁方向のパルス電圧であるとモータ電流の変化がN極においては小さく、S極においては大きくなるので、磁束の増減方向とモータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量との組み合わせにより極性を判別する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、交流電源(11)の電圧位相を考慮してパルス電圧を出力するようにしたので、モータ電流の変化を安定化させることができる。つまり、常に一定の電源電圧の状態において、パルス電圧を出力するので、電圧の変化が安定する。この結果、モータ電流は、一定の電圧の変化に対する変化となり、モータ電流の変化が安定する。この結果、永久磁石モータ(12)の極性判別を正確に行うことができる。
【0030】
特に、電源電圧がゼロクロス以外の一定の電源電圧の状態において、パルス電圧を出力すると、電圧は、再現性のある変化にすることができる。
【0031】
特に、上記第2の発明によれば、常に一定の電源電圧の状態において、パルス電圧を出力するので、直流リンク部(30)の直流リンク電圧の変化が安定する。この結果、モータ電流は、一定の直流リンク電圧の変化に対する変化となり、モータ電流の変化が安定する。この結果、永久磁石モータ(12)の極性判別を正確に行うことができる。
【0032】
また、電源電圧がゼロクロス以外の一定の電源電圧の状態において、パルス電圧を出力すると、直流リンク部(30)の直流リンク電圧は、再現性のある変化にすることができる。
【0033】
なお、電源電圧の位相に応じたパルス電圧を出力することにより、所望のモータ電流を流し、直流リンク部(30)の電圧上昇を抑制することは可能である。よって、パルス電圧の出力は常に同じ位相である必要はない。
【0034】
また、上記第4の発明によれば、パルス電圧を交流電源(11)の電源電圧の半周期の整数倍の間隔で出力するので、直流リンク部(30)の直流リンク電圧の変化を確実に再現させることができる。
【0035】
また、上記第5の発明によれば、交流電源(11)の電源電圧の半周期に後半(電圧の低下時)にパルス電圧を出力するので、電源電圧の半周期の前半と比べて電源電圧と直流リンク部電圧の電位差が大きくならず、コンデンサ(31)の充電時におけるLC共振による直流リンク部(30)の電圧上昇がより低減される。この結果、素子の耐圧を超える電圧上昇を抑制することができる。
【0036】
また、上記第6の発明によれば、極性をモータ電流の変化の大きさで判別するので、簡易に極性判別を行うことができる。
【0037】
また、上記第7の発明によれば、極性をモータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量で判別するので、増磁方向と減磁方向のパルス電圧が正確に一致していない場合であっても極性を正確に判別することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0040】
〈発明の実施形態1〉
−全体構成−
図1に示すように、本実施形態1に係るモータ駆動装置(10)は、主回路(1A)を備え、単相の交流電源(11)から与えられる電源電力を所定周波数の制御電力に変換してモータ(12)に供給するものである。そして、上記モータ(12)は、例えば、空気調和機の冷媒回路に設けられた圧縮機を駆動する永久磁石モータの三相交流モータである。
【0041】
上記モータ駆動装置(10)の主回路(1A)は、コンバータ部(20)と直流リンク部(30)とインバータ部(40)とを備える一方、上記モータ駆動装置(10)は、制御部(50)を備えている。
【0042】
−コンバータ部−
上記コンバータ部(20)は、交流電源(11)に接続され、交流電源(11)が出力した交流を直流に全波整流するものである。上記コンバータ部(20)は、4つのダイオード(D1〜D4)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路で構成され、これらのダイオード(D1〜D4)は、交流電源(11)の交流電圧を全波整流して、直流電圧に変換する。
【0043】
−直流リンク部−
上記直流リンク部(30)は、コンデンサ(31)を備えている。該コンデンサ(31)は、コンバータ部(20)の出力に並列接続され、つまり、コンバータ部(20)の出力端の間に接続されている。そして、上記コンデンサ(31)は、該コンデンサ(31)の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧)をインバータ部(40)に出力する。また、上記コンバータ部(20)とコンデンサ(31)との間には、リアクトル(13)が設けられている。
【0044】
上記コンデンサ(31)は、例えばフィルムコンデンサ(31)によって構成されている。このコンデンサ(31)は、インバータ部(40)のスイッチング素子(後述)がスイッチング動作する際に、スイッチング周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑化可能な静電容量を有している。すなわち、上記コンデンサ(31)は、コンバータ部(20)によって整流された電圧(電源電圧に起因する電圧変動)を平滑化するような静電容量を有さない小容量のコンデンサである。そのため、直流リンク部(30)が出力する直流リンク電圧は、その最大値がその最小値の2倍以上となるような大きな脈動を有し、脈動の周波数は電源周波数の2倍となる。
【0045】
−インバータ部−
上記インバータ部(40)は、入力ノードが直流リンク部(30)のコンデンサ(31)に並列に接続されている。そして、上記インバータ部(40)は、直流リンク部(30)の出力をスイッチングして三相交流に変換し、該三相交流をモータ(12)に供給するように構成されている。上記インバータ部(40)は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されて構成されている。このインバータ部(40)は、三相交流をモータ(12)に出力するので、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。詳しくは、インバータ部(40)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続してなる3つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおいて上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、それぞれモータ(12)の各相のコイル(図示は省略)に接続されている。また、上記各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が逆並列に接続されている。そして、上記インバータ部(40)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流リンク部(30)から入力された直流リンク電圧をスイッチングして三相交流電圧に変換し、モータ(12)へ供給する。
【0046】
−制御部−
上記制御部(50)は、モータ電流を検出する電流センサである電流検出部(60)からモータ電流の電流値が入力されると共に、直流リンク部(30)のコンデンサ(31)の両端電圧を検出する電圧センサである電圧検出部(61)から直流リンク電圧の電圧値が入力されている。そして、上記制御部(50)は、モータ(12)に流れる電流(モータ電流)が、電源電圧の脈動に同期して脈動するように、インバータ部(40)におけるスイッチング(オンオフ動作)を制御している。
【0047】
さらに、上記制御部(50)は、モータ(12)の極性を判別するための電圧指令部(51)と判別部(52)とを備えている。
【0048】
上記電圧指令部(51)は、上記モータ(12)の極性を判別するためのパルス電圧を電源電圧の位相と同期したタイミングで複数回上記永久磁石モータ(12)に出力するように電圧指令を上記インバータ部(40)に出力するように構成されている。
【0049】
つまり、上記電圧指令部(51)は、上記モータ(12)の起動時において、該モータ(12)の極性が分からないので、この極性を判別するためのパルス電圧の電圧指令を出力する。上記電圧指令部(51)は、パルス電圧を電源電圧の半周期の整数倍の間隔で出力するように指令し、本実施形態では、上記電圧指令部(51)は、電源電圧の半周期ごとに2回指令するように構成されている。特に、上記電圧指令部(51)は、パルス電圧を電源電圧の半周期の後半に対応するタイミングで出力するように指令する。なお、図には記載されていないが、電源電圧の位相は、一般的に交流波形である電源電圧波形のゼロクロスタイミングを検出するゼロクロス検出回路を用いて検出される。もちろん、電源電圧の位相は、電源電圧波形の変化より求めることも可能である。
【0050】
上記判別部(52)は、電流検出部(60)から電流値に基づいてモータ(12)に流れるモータ電流を検知し、上記パルス電圧によるモータ電流の変動に基づいて上記モータ(12)の極性を判別する。具体的に、上記判別部(52)は、モータ電流の変化の大きさで極性を判別するように構成されている。
【0051】
−極性判別の原理−
そこで、上記パルス電圧の出力タイミングと交流電源(11)の位相周期とを同期させる基本的理由について説明する。
【0052】
先ず、起動時において、モータ(12)の界磁極軸に近い位置にパルス電圧を印加すると、つまり、所定の電圧を印加すると、電機子鉄心の磁化特性は、
図4に示すようになる。
図4の横軸は、上記モータ(12)を流れるモータ電流であり、
図4の縦軸は、上記モータ(12)に印加した電圧に比例した磁束である。そして、
図4におけるφ0は、モータ(12)の永久磁石による磁束である。なお、パルス電圧を印加する界磁極軸の位置は、極性判別を行う前に検知されている。一般的には、高周波の電圧または電流をモータ(12)に印加する検知方法が用いられる。
【0053】
上記電機子鉄心の磁化特性は、増磁方向の電圧を印加した場合、電圧に比例した磁束の変化(+Δφ)に対するモータ電流の変化の大きさ(I1)が大きく、減磁方向の電圧を印加した場合、電圧に比例した磁束の変化(−Δφ)に対するモータ電流の変化の大きさ(I2)が小さくなる。これは、N極における特性を示したものであり、S極においては電流の変化の大きさが逆になる。したがって、上記モータ(12)の極性は、磁束の増減方向とモータ電流の変化との組み合わせによって判別することができる。
【0054】
一方、
図2および
図3に示すように、電源電圧Vac(電源電圧波形参照)に対して、インバータ部(40)がパルス電圧Pを出力すると、直流リンク部(30)のコンデンサ(31)が放電する。したがって、パルス電圧Pの出力と同時に直流リンク部(30)の直流リンク電圧Vdcが低下する。この直流リンク電圧Vdcの低下を補うために、リアクトル(13)からコンデンサ(31)に電流が流れ込むので、上記パルス電圧Pの出力が停止した後に、直流リンク電圧Vdcが跳ね上がる(直流リンク電圧波形のV1〜V3参照)。上記直流リンク部(30)のコンデンサ(31)の容量が小さいほど、直流リンク電圧Vdcの上昇が大きくなる。なお、
図2および
図3における直流リンク電圧波形の破線は、コンバータ部(20)による全波整流後の波形を示している。
【0055】
従来、
図2に示すように、パルス電圧Pは、電源電圧Vacの周期と無関係に出力している。この結果、電源電圧Vacのピーク時またはゼロクロス時にパルス電圧Pを出力するとになる。このような場合、直流リンク部(30)の過大な電圧上昇によるインバータ部(40)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の破壊という問題および永久磁石界磁の極性を正確に判別できないといった問題が発生する。
【0056】
これに対し、本実施形態では、
図3に示すように、電源電圧Vacの半周期に同期してパルス電圧Pを出力するので、モータ電流の変化が安定する(
図3のi3、i4参照)。よって、永久磁石モータの極性判別を正確に行うことができる
また、電源電圧Vacの半周期に後半(電圧の低下時)にパルス電圧Pを出力するので、上記リアクタに流れる電流が小さくなり、コンデンサ(31)の充電時におけるLC共振による直流リンク部(30)の電圧上昇が低減される。
【0057】
−運転動作−
次に、本実施形態のモータ駆動装置(10)に動作について説明する。
【0058】
先ず、交流電源(11)から与えられる交流は、コンバータ部(20)によって直流に全波整流される。この全波整流された直流は、直流リンク部(30)を介してインバータ部(40)に出力される。直流リンク部(30)のコンデンサ(31)は、インバータ部(40)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がスイッチング動作する際に、スイッチング周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑している。
【0059】
上記インバータ部(40)は、直流リンク部(30)の出力を制御部(50)の指令に基づきスイッチングして三相交流に変換し、該三相交流をモータ(12)に供給する。そして、該モータ(12)の駆動により圧縮機が駆動する。
【0060】
特に、上記直流リンク部(30)は、小容量のコンデンサ(31)を有しているために、直流リンク電圧がより大きく脈動する。この直流リンク電圧の脈動により、コンバータ部(20)のダイオード(D1〜D4)の電流導通幅が広くなり、その結果、力率が改善する。
【0061】
また、制御部(50)は、モータ電流が、電源電圧の脈動に同期して脈動するように、インバータ部(40)におけるスイッチングを制御する。これにより、交流電源(11)からモータ駆動装置(10)に入力される入力電流の高調波が低減される。
【0062】
一方、上記モータ駆動装置(10)は、モータ(12)の起動時にモータが停止している状態において、界磁極軸の位置を検出した後にその極性を判別する。この極性判別動作について、
図5に基づいて説明する。
【0063】
先ず、ステップST1において、増磁方向のパルス電圧Pを出力する。つまり、電圧指令部(51)は、増磁方向のパルス電圧Pがインバータ部(40)よりモータ(12)に出力されるように、電圧指令をインバータ部(40)に出力する。
【0064】
上記ステップST1からステップST2に移り、判別部(52)は、モータ電流の変化の大きさ(I1)を検出する(
図4のI1参照)。つまり、上記パルス電圧Pは、
図3に示すように、交流電源(11)の電源電圧Vacの半周期に同期し、且つ電源電圧Vacの半周期の後半に出力される。上記パルス電圧Pがモータ(12)に出力されると、モータ(12)を流れるモータ電流が上昇する(
図3のi3参照)。判別部(52)は、このモータ電流の変化の大きさ(I1)を検出する。
【0065】
続いて、ステップST3に移り、減磁方向のパルス電圧Pを出力する。つまり、電圧指令部(51)は、減磁方向のパルス電圧Pがインバータ部(40)よりモータ(12)に出力されるように、電圧指令をインバータ部(40)に出力する。
【0066】
上記ステップST3からステップST4に移り、判別部(52)は、モータ電流の変化の大きさ(I2)を検出する(
図4のI2参照)。つまり、上記パルス電圧Pは、
図3に示すように、電源電圧Vacの半周期に同期し、且つ電源電圧Vacの半周期の後半に出力される。上記パルス電圧Pがモータ(12)に出力されると、モータ(12)を流れるモータ電流が上昇する(
図3のi4参照)。判別部(52)は、このモータ電流の変化の大きさ(I2)を検出する。
【0067】
その後、上記ステップST4からステップST5に移り、上記2つのパルス電圧Pに伴うモータ電流の変化の大きさ(I1とI2)を比較する。1回目のモータ電流の変化の大きさ(I1)が2回目のモータ電流の変化の大きさ(I2)よりも大きければ、ステップST6に移り、判別部(52)は、モータ(12)の極性をN極と判別する。
【0068】
一方、上記ステップST5において、1回目のモータ電流の変化の大きさ(I1)が2回目のモータ電流の変化の大きさ(I2)よりも小さければ、ステップST7に移り、判別部(52)は、モータ(12)の極性をS極と判別する。
【0069】
−実施形態1の効果−
本実施形態によれば、上記交流電源(11)の電圧位相に同期してパルス電圧を出力するようにしたので、モータ電流の変化を安定化させることができる。つまり、常に一定の電源電圧の状態において、パルス電圧を出力するので、直流リンク部(30)の直流リンク電圧の変化が安定する。この結果、モータ電流は、一定の直流リンク電圧の変化に対する変化となり、モータ電流の変化が安定する。この結果、永久磁石モータ(12)の極性判別を正確に行うことができる。
【0070】
特に、電源電圧がゼロクロス以外の一定の電源電圧の状態において、パルス電圧を出力すると、直流リンク部(30)の直流リンク電圧は、再現性のある変化にすることができる。
【0071】
また、パルス電圧を交流電源(11)の電源電圧の半周期の整数倍の間隔で出力するので、直流リンク部(30)の直流リンク電圧の変化を確実に再現させることができる。
【0072】
また、交流電源(11)の電源電圧の半周期に後半(電圧の低下時)にパルス電圧を出力するので、電源電圧の半周期の前半(電圧の上昇時)にパルス電圧を出力した場合と比較して、リアクトル(13)から流れる電流が小さくなり、コンデンサ(31)の充電時におけるLC共振による直流リンク部(30)の電圧上昇がより低減される。この結果、素子の耐圧を超える電圧上昇を抑制することができる。
【0073】
また、極性をモータ電流の変化の大きさで判別するので、簡易に極性判別を行うことができる。
【0074】
−実施形態1の変形例−
次に、実施形態1の変形例について、
図6に基づいて説明する。この変形例は、パルス電圧Pを実施形態の振幅よりも小さくし、出力時間を長くしたものである。
【0075】
このように、パルス電圧Pの振幅を小さくし、出力時間を長くすると、実施形態1に比して、リアクタに流れる電流が小さくなり、LC共振による直流リンク部(30)の電圧上昇がさらに低減される。その他の構成、作用および効果は、実施形態1と同様である。
【0076】
〈発明の実施形態2〉
次に、本発明の実施形態2を図面に基づいて詳細に説明する。
【0077】
本実施形態は、実施形態1が極性判別をモータ電流の変化の大きさによって行ったのに代えて、モータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量であるインダクタンスで極性判別を行うようにしたものである。
【0078】
つまり、
図4に示すインダクタンスLは、次式(1)で表される。式(1)のNは巻数、Δφは磁束変化、ΔIはモータ電流の変化、Vはパルス電圧の大きさ(PWMの場合、キャリア周期間における平均出力電圧となり、直流リンク電圧とデューティの積により求めることが可能)、Δtはパルス電圧の出力時間である。
【0079】
L=(N×Δφ)/ΔI=(V×Δt)/ΔI ……(1)
要するに、
図4に示すインダクタンスLは、モータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量に相当する。増磁方向のパルス電圧Pの場合、インダクタンスL1は、小さくなり、減磁方向のパルス電圧Pの場合、インダクタンスL2は、大きくなる。
【0080】
そこで、極性判別動作について、
図7に基づいて説明する。
【0081】
先ず、ステップST11において、増磁方向のパルス電圧Pを出力する。つまり、電圧指令部(51)は、増磁方向のパルス電圧Pがインバータ部(40)よりモータ(12)に出力されるように、電圧指令をインバータ部(40)に出力する。
【0082】
上記ステップST11からステップST12に移り、判別部(52)は、モータ電流の変化の大きさ(I1)を検出する(
図4のI1参照)。つまり、上記パルス電圧Pは、実施形態1と同様に(
図3参照)、交流電源(11)の電源電圧Vacの半周期に同期し、且つ電源電圧Vacの半周期の後半に出力される。上記パルス電圧Pがモータ(12)に出力されると、モータ(12)を流れるモータ電流が上昇する(
図3のi3参照)。判別部(52)は、このモータ電流の変化の大きさ(I1)を検出する。
【0083】
上記判別部(52)は、ステップST13ステップST14に移り、インダクタンスL1を演算する。つまり、上記判別部(52)は、式(1)に基づき、モータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量であるインダクタンスL1を演算する。
【0084】
続いて、ステップST14に移り、減磁方向のパルス電圧Pを出力する。つまり、電圧指令部(51)は、減磁方向のパルス電圧Pがインバータ部(40)よりモータ(12)に出力されるように、電圧指令をインバータ部(40)に出力する。
【0085】
上記ステップST14からステップST15に移り、判別部(52)は、モータ電流の変化の大きさ(I2)を検出する(
図4のI2参照)。つまり、上記パルス電圧Pは、実施形態1と同様に(
図3参照)、電源電圧Vacの半周期に同期し、且つ電源電圧Vacの半周期の後半に出力される。上記パルス電圧Pがモータ(12)に出力されると、モータ(12)を流れるモータ電流が上昇する(
図3のi4参照)。判別部(52)は、このモータ電流の変化の大きさ(I2)を検出する。
【0086】
上記判別部(52)は、ステップST15ステップST16に移り、インダクタンスL2を演算する。つまり、上記判別部(52)は、式(1)に基づき、モータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量であるインダクタンスL2を演算する。
【0087】
その後、上記ステップST16からステップST17に移り、上記2つのパルス電圧Pに伴うインダクタンスL1とインダクタンスL2とを比較する。1回目のインダクタンスL1が2回目のインダクタンスL2よりも小さければ、ステップST18に移り、判別部(52)は、モータ(12)の極性をN極と判別する。
【0088】
一方、上記ステップST17において、1回目のインダクタンスL1が2回目のインダクタンスL2よりも大きければ、ステップST19に移り、判別部(52)は、モータ(12)の極性をS極と判別する。
【0089】
本実施形態によれば、モータ電流の変化に対するパルス電圧の変化量であるインダクタンスにより極性を判別するようにしたために、増磁方向と減磁方向で出力したパルス電圧が直流リンク部電圧の変動等の何らかの要因により正確に一致していない場合であっても、極性を正確に判別することができる。その他の、構成、作用および効果は実施形態1と同様である。
【0090】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記各実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0091】
(1)上記各実施形態は、単相の交流電源(11)について説明したが、本発明は、三相の交流電源(11)を適用してもよい。この場合、電源周期の1/6周期に同期してパルス電圧を出力することができる。
【0092】
(2)また、上記パルス電圧は、電源電圧の半周期ごとに連続して出力するようにしたが、半周期の2以上の整数倍の間隔で3回以上出力してもよい。三相の交流電源の場合は、電源周期の1/6周期の2以上の整数倍の間隔で3回以上出力してもよい。
【0093】
(3)また、上記パルス電圧の出力は、第1の発明等では、電源電圧の半周期の後半に限られるものではない。三相の交流電源(11)の場合は、電源周期の1/6周期の後半に限られるものではない。
【0094】
(4)また、本発明は、いわゆるマトリクスコンバータにも適用できる。
【0095】
例えば、
図8は、(A)がいわゆる単相マトリクスコンバータの構成例を示すブロック図であり、(B)が該単相マトリクスコンバータに用いるスイッチング素子(S1,S2,…,S6)の構成例である。主回路(1A)を構成する単相マトリクスコンバータは、単相交流電圧をスイッチングすることで、異なる周波数と電圧をモータ(12)に印加する。この例では、単相の交流電源(11)に接続された6個のスイッチング素子(S1,S2,…,S6)で単相交流をスイッチングしてモータ(12)に三相交流を供給する。それぞれのスイッチング素子(S1,S2,…,S6)は、
図8(B)のように構成された双方向スイッチを採用することができる。また、コンデンサ(31)の容量は、スイッチング素子(S1,S2,…,S6)のスイッチングにより生じるリプル電圧を除去できる程度の小容量である。
【0096】
また、
図9は、(A)がいわゆる三相マトリクスコンバータの構成例を示すブロック図であり、(B)が該三相マトリクスコンバータに用いるスイッチング素子(S1,S2,…,S9)の構成例である。主回路(1A)を構成する三相マトリクスコンバータは、三相交流電圧をスイッチングすることで、異なる周波数と電圧をモータ(12)に印加する。この例では、三相の交流電源(11)と接続された9個のスイッチング素子(S1,S2,…,S9)で三相交流をスイッチングしてモータ(12)に三相交流を供給する。また、コンデンサ(31)の容量は、スイッチング素子(S1,S2,…,S9)のスイッチングにより生じるリプル電圧を除去できる程度の小容量である。
【0097】
これらのマトリクスコンバータにおいても、上記実施形態1および2の直流リンク部(30)と同様に電源(11)の位相に同期してモータ(12)に出力できる電圧の最大値が変化するため、同様の効果を得ることができる。
【0098】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。