(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
送電側及び負荷側を考慮した実際の電力系統の等価回路の接続関係を示すデータを含む解析用ファイル、該等価回路の回路要素を含む高調波計算用パラメータ及び該高調波計算用パラメータごとに1つ又は2つ以上の高調波計算用パラメータの値を格納する高調波計算用パラメータファイル、並びに負荷側の高調波電圧・電流の実測値である実測結果及び該実測結果の値を格納する実測結果ファイルを記憶する記憶部と、
上記解析用ファイルから、上記データを読み込み、上記高調波計算用パラメータファイルから、上記高調波計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を対応させた高調波計算用パラメータデータを順次読み込み、読み込んだ該データ及び該高調波計算用パラメータデータから生成した計算用ファイルを所定の解析プログラムにしたがって回路解析し、高調波計算用パラメータの値を変えた異なる高調波計算用パラメータデータごとに生成した計算用ファイルについて回路解析を繰り返して、負荷側の実測可能な高調波電圧・電流推定計算結果を求解する解析部と、
上記実測結果の値と、上記解析部から出力される高調波電圧・電流推定計算結果の値とを順次比較して、該実測結果の値と該高調波電圧・電流推定計算結果の値とが所定の関係を満足する高調波電圧・電流推定結果を有する高調波計算用パラメータを抽出する比較部とを備える高調波計算用パラメータ解析装置。
上記高調波計算用パラメータは、送電側高調波電圧、負荷側発生高調波電流、送電側高調波電圧と負荷側発生高調波電流との位相差、調相設備容量及び該調相設備容量のうちのリアクトル接続容量比率を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の高調波計算用パラメータ解析装置。
送電側及び負荷側を考慮した実際の電力系統の等価回路の接続関係を示すデータを含む解析用ファイル、該等価回路の回路要素を含む高調波計算用パラメータ及び該高調波計算用パラメータごとに1つ又は2つ以上の高調波計算用パラメータの値を格納する高調波計算用パラメータファイル、並びに負荷側の高調波電圧・電流の実測値である実測結果及び該実測結果の値を格納する実測結果ファイルを記憶部に記憶し、
上記解析用ファイルから、上記データを読み込み、上記高調波計算用パラメータファイルから、上記高調波計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を対応させた高調波計算用パラメータデータを順次読み込み、読み込んだ該データ及び該高調波計算用パラメータデータから生成した計算用ファイルを所定の解析プログラムにしたがって回路解析し、高調波計算用パラメータの値を変えた異なる高調波計算用パラメータデータごとに生成した計算用ファイルについて回路解析を繰り返して負荷側の実測可能な高調波電圧・電流推定結果を求解し、
上記実測結果の値と、上記高調波電圧・電流推定計算結果の値とを順次比較して、該実測結果の値と該高調波電圧・電流推定計算結果の値とが所定の関係を満足する高調波電圧・電流推定結果を有する高調波計算用パラメータを抽出する高調波計算用パラメータ推定方法。
送電側及び負荷側を考慮した実際の電力系統の等価回路の接続関係を示すデータを含む解析用ファイル、該等価回路の回路要素を含む高調波計算用パラメータ及び該高調波計算用パラメータごとに1つ又は2つ以上の高調波計算用パラメータの値を格納する高調波計
算用パラメータファイル、並びに負荷側の基本波皮相電力、高調波電圧、高調波電流及び高調波電圧と高調波電流との位相差の実測結果及び該実測結果の複数の値を格納する実測結果ファイルを記憶する記憶部と、
上記実測結果ファイルを読み込んで、上記負荷側の基本波皮相電力、高調波電圧、高調波電流及び高調波電圧と高調波電流との位相差のそれぞれの実測結果の値の間の関係から導出される線形近似式に基づく高調波電圧の値及び高調波電流の値をそれぞれ実測結果の値とする新たな実測結果ファイルを生成し、上記解析用ファイルから上記データを読み込み、該高調波計算用パラメータファイルの負荷側発生高調波電流の値を0Aに、送電側高調波電圧と負荷側発生高調波電流との位相差を任意の固定値に設定した上記高調波計算用パラメータファイルを読み込んで、上記高調波計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を対応させた高調波計算用パラメータデータを順次読み込み、読み込んだ該データ及び該高調波計算用パラメータデータから生成した計算用ファイルを所定の解析プログラムにしたがって回路解析し、高調波計算用パラメータの値を変えた異なる高調波計算用パラメータデータごとに生成した計算用ファイルについて回路解析を繰り返して、負荷側の実測可能な高調波電圧・電流推定計算結果を求解する解析部と、
上記新たな実測結果ファイルの中の実測結果の値と、上記解析部から出力される高調波電圧・電流推定計算結果の値とを順次比較して、該実測結果の値と該高調波電圧・電流推定計算結果の値とが所定の関係を満足する高調波電圧・電流推定結果を有する高調波計算用パラメータを抽出する比較部とを備える高調波計算用パラメータ解析装置。
上記高調波計算用パラメータは、送電側高調波電圧、調相設備容量及び該調相設備容量のうちのリアクトル接続容量比率を含むことを特徴とする請求項6記載の高調波計算用パラメータ解析装置。
送電側及び負荷側を考慮した実際の電力系統の等価回路の接続関係を示すデータを含む解析用ファイル、該等価回路の回路要素を含む高調波計算用パラメータ及び該高調波計算用パラメータごとに1つ又は2つ以上の高調波計算用パラメータの値を格納する高調波計算用パラメータファイル、並びに負荷側の基本波皮相電力、高調波電圧、高調波電流及び高調波電圧と高調波電流との位相差の実測結果及び該実測結果の複数の値を格納する実測結果ファイルを記憶部に記憶し、
上記実測結果ファイルを読み込んで、上記負荷側の基本波皮相電力、高調波電圧、高調波電流及び高調波電圧と高調波電流との位相差のそれぞれの実測結果の値の間の関係から導出される線形近似式に基づく高調波電圧の値及び高調波電流の値をそれぞれ実測結果の値とする新たな実測結果ファイルを生成し、
上記解析用ファイルから上記データを読み込み、上記高調波計算用パラメータファイルの負荷側発生高調波電流の値を0Aに、送電側高調波電圧と負荷側発生高調波電流との位相差を任意の固定値に設定した該高調波計算用パラメータファイルを読み込んで、上記高調波計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を対応させた高調波計算用パラメータデータを順次読み込み、読み込んだ該データ及び該高調波計算用パラメータデータから生成した計算用ファイルを所定の解析プログラムにしたがって回路解析し、高調波計算用パラメータの値を変えた異なる高調波計算用パラメータデータごとに生成した計算用ファイルについて回路解析を繰り返して、負荷側の実測可能な高調波電圧・電流推定計算結果を求解し、
上記新たな実測結果ファイルの中の実測結果の値と、上記高調波電圧・電流推定計算結果の値とを順次比較して、該実測結果の値と該高調波電圧・電流推定計算結果の値とが所定の関係を満足する高調波電圧・電流推定結果を有する高調波計算用パラメータを抽出する高調波計算用パラメータ推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明が適用された高調波計算用パラメータ解析装置及び高調波計算用パラメータ推定方法について、図面を参照して以下の順序で説明する。
【0027】
1.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の構成
2.実際の電力系統に合わせた等価回路の構成
3.高調波計算用パラメータ及び高調波電圧・電流推定計算結果の説明
(1)高調波計算用パラメータ
(2)高調波電圧・電流推定計算結果
4.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の動作原理
5.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の動作
6.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置による高調波計算用パラメータ推定例と実測値との比較
7.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の変形例。
【0028】
1.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の構成
図1に示すように、本発明が適用された高調波計算用パラメータ解析装置1は、解析用ファイル22、高調波計算用パラメータファイル23及び実測結果ファイル24を入力する入力部2と、入力部2により入力された各ファイルを記憶する記憶部3とを備えている。また、本発明が適用された高調波計算用パラメータ解析装置1は、記憶部3に記憶された解析用ファイル22及び高調波計算用パラメータファイル23を読み込んで回路解析を行う解析部4を備えている。そして、解析部4により解析された解析結果データ25を順次保存するデータベース5と、解析結果データ25と実測結果ファイル24とを比較する比較部6と、比較部6で抽出された解析結果データ25を出力する出力部7とを備えている。
【0029】
具体的には、高調波計算用パラメータ解析装置1は、パーソナルコンピュータシステム(以下、PCシステムという。)により実現される。なお、高調波計算用パラメータ解析装置1は、PCシステムに限らず、ワークステーション等その他の計算機システムによっても実現可能である。
【0030】
ここで、解析用ファイル22は、送電側及び負荷側を考慮した実際の電力系統の等価回路41(
図2)の接続関係を表す解析用データを含んでいる。高調波計算用パラメータファイル23は、等価回路41の回路要素である高調波計算用パラメータ及びその高調波計算用パラメータごとに1つ又は2つ以上の高調波計算用パラメータの値を格納している。実測結果ファイル24の実測結果は、実測された負荷側の高調波電圧・電流を含んでおり、高調波電圧・電流推定計算結果に対応している。
【0031】
入力部2は、解析用データ、高調波計算用パラメータ、実測結果等を本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置1に入力する。入力部は、PCシステムにおけるキーボード及び/又はマウスにより実現される。なお、キーボード、マウス以外にも、モニタ装置のタッチセンサにより入力する場合、ローカル又はネットワーク上の外部補助記憶装置等からの入力によっても実現可能である。
【0032】
記憶部3は、入力部2により入力された解析用ファイル22、高調波計算用パラメータファイル23及び実測結果ファイル24を、次の処理で読み出すために一時的に記憶する。記憶部3は、PCシステムにおけるハードディスクドライブ等の記憶装置により実現される。なお、RAM(Random Access Memory)等の一時記憶装置や、ネットワーク上のファイルサーバ等により実現することもできる。
【0033】
解析部4は、記憶部3にアクセスして、解析用ファイル22から解析用データを読み込み、高調波計算用パラメータファイル23から1つの高調波計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を組合せた高調波計算用パラメータデータを順次読み込む。解析部4は、これらのデータから計算用ファイルを生成し、この計算用ファイルを、回路解析プログラムであるEMTP(Electro−Magnetic Transients Program)の動作にしたがって回路解析する。そして、1つの高調波計算用パラメータデータに関する解析が終了したら、解析部4は、異なる高調波計算用パラメータの値の組合せを有する他の高調波計算用パラメータデータを記憶部3から読み込み、新たな計算用ファイルを生成して回路解析を繰り返す。解析部4は、PCシステムにおけるCPU、又はCPUの制御の下数値演算プロセッサ等により実現される。
【0034】
ここで、回路解析プログラムEMTPは、PCシステム上で動作する回路シミュレーションツールであり、パワーエレクトロニクス向けに特化されたモデルを備え、電力系統解析を含め広く電力システムの解析に用いられるコンピュータプログラムである。なお、電力系統解析プログラムとしては、回路解析プログラムEMTPに限らず、他のプログラム、たとえばMATLAB(商標)、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)等さまざまなプログラムを利用することもできる。
【0035】
データベース5に保存される解析結果データ25には、高調波計算用パラメータ及びその値並びに負荷側の高調波電圧・電流推定計算結果及びその値が含まれる。データベース5は、PCシステムにおけるハードディスクドライブ等の外部記憶装置により実現される。また、他の記憶装置であってもよく、ネットワーク上のファイルサーバ等により実現することもできる。
【0036】
比較部6は、記憶部3にアクセスし実測結果ファイル24から実測結果及びその値を読み込み、データベース5にアクセスし保存されている解析結果データ25を順次読み込む。そして、実測結果の値と解析結果データ25の中の高調波電圧・電流推定計算結果の値とを比較して、実測結果の値と解析結果データ25の中の高調波電圧・電流推定計算結果の値とが所定の関係を満足する値を有する解析結果データ25を上記データベース5から抽出する。PCシステムにおいては、CPUの命令にしたがって実行される。
【0037】
出力部7は、比較部6により抽出された解析結果データ25の各高調波計算用パラメータの値等を出力する。出力部7は、PCシステムにおけるモニタやプリンタ等の出力装置により実現される。
【0038】
2.実際の電力系統に合わせた等価回路の構成
図2は、実際の電力系統に合わせた等価回路図を示す。等価回路41は、第5次高調波を想定した場合のものである。等価回路41は、送電側において、送電側の高調波電圧V
5を有する送電側高調波電圧源42と、高圧送電ケーブル及び変電所の変圧器のインピーダンスX
Cを有する送配電回路網43とを含んでいる。等価回路41は、負荷側において、需要者の使用状態を表す負荷回路網44を含んでいる。
【0039】
送電側高調波電圧源42は、一方の端子が送配電回路網43の1つの端子に接続され、他方の端子は接地される。送配電回路網43の他の1つの端子は、接地され、残りの1つの端子は、負荷回路網44に接続される。負荷回路網44の他方の端子は、接地される。
【0040】
送配電回路網43は、送配電線の等価インダクタンスL
1を有するインダクタ43aと、変電所の変圧器の等価インダクタンスL
2を有するインダクタ43bと、高圧送電ケーブルの対地等価静電容量C
Xを有するキャパシタ43cとを含んでいる。
【0041】
インダクタ43aと、インダクタ43bと、キャパシタ43cとは、一方の端子が互いに接続される。インダクタ43aの他方の端子は、送電側高調波電圧源42に接続され、インダクタ43bの他方の端子は、負荷回路網44に接続され、キャパシタ43cの他方の端子は、接地される。
【0042】
負荷回路網44は、需要者が電力使用することにより発生している負荷側発生高調波電流I
5を有する負荷側発生高調波電流源45と、需要者における調相設備の合成アドミタンスのうち、直列リアクトルを伴わない合成アドミタンスY
0を有するLなし調相設備合成アドミタンス46と、直列リアクトルを伴う合成アドミタンスY
1を有するLあり調相設備合成アドミタンス47とを含んでいる。静電容量のみで構成されている調相設備を電力系統へ投入した場合には、高調波電圧が拡大する現象は良く知られている。JIS規格等においても、高調波拡大防止に効果のある、静電容量に直列に接続する直列リアクトルの規定がなされている。最近の調相設備は、直列リアクトルを伴うことが一般的になってきているが、過去に設置された調相設備の中には、直列リアクトルを伴わないものも多く、正確に高調波計算用パラメータを推定するためには、それぞれをモデル化することが不可欠である。また、負荷回路網44は、需要その他の要因により変動する高調波電圧歪を低減させるために、変電所の変圧器二次側に投入されるアドミタンスY
f1を有する高調波フィルタ1群48aと、高調波フィルタ1群48aの投入有無を選択するスイッチ49aとを含んでいる。さらに、負荷回路網44は、アドミタンスY
f2を有する高調波フィルタ2群48bと、高調波フィルタ2群48bの投入有無を選択するスイッチ49bとを含んでいる。
【0043】
負荷回路網44は、負荷側発生高調波電流源45と、Lなし調相設備合成アドミタンス46と、Lあり調相設備合成アドミタンス47とはすべて並列に接続されて構成される。高調波フィルタ1群48a及びスイッチ49aの直列に接続されたものと、高調波フィルタ2群48b及びスイッチ49bの直列に接続されたものとが、負荷回路網44にそれぞれ並列に接続される。
【0044】
なお、上述においては、電力系統の高調波のうち第5次高調波が最も大きいことから、第5次高調波を想定した場合として説明したが、第5次高調波以外の高調波、たとえば第7次高調波等についてもまったく同様の等価回路を利用することができる。以下の説明において、特に断らない限り、第5次高調波についての等価回路を用いた場合の説明である。
【0045】
3.高調波計算用パラメータ及び高調波電圧・電流推定計算結果の説明
(1)高調波計算用パラメータ
[送電側高調波電圧V
5]
送電側高調波電圧V
5を有する送電側高調波電圧源42は、送電側、すなわち基幹系統の電圧を表す。たとえば、基幹系統の基本波電圧は、275kVである。
【0046】
[高圧送電ケーブル及び変電所の変圧器のインピーダンスX
C]
送配電回路網43の送配電線の等価インダクタンスL
1を有するインダクタ43a、変電所の変圧器の等価インダクタンスL
2を有するインダクタ43b、及び高圧送電ケーブルの対地等価静電容量C
Xを有するキャパシタ43cは、それぞれ任意の値とすることができる。基幹系統に高圧送電ケーブルを使用していない場合は、キャパシタ43cの対地等価静電容量C
Xをゼロと近似することができる。
【0047】
[負荷側発生高調波電流I
5]
需要者が電力使用することにより発生している負荷側発生高調波電流I
5を有する負荷側発生高調波電流源45は、電力の需要動向によって変電所二次側に流れる第5次高調波電流である。
【0048】
[送電側高調波電圧V
5と負荷側発生高調波電流I
5間の位相差θ
5]
送電側高調波電圧V
5と需要者が電力使用することにより発生している負荷側発生高調波電流I
5との位相差をθ
5とする。
【0049】
[調相設備合成アドミタンスY
0、Y
1]
需要者(負荷側)における調相設備の合成アドミタンスは、Lなし調相設備合成アドミタンス46とLあり調相設備合成アドミタンス47の合成である。
【0050】
[高調波フィルタY
f1、Y
f2]
需要により変動する負荷側の高調波電圧歪を低減させるために、変電所の変圧器二次側において投入されるフィルタのアドミタンスY
f1、Y
f2は、電力会社が投入可否を判断するもので、スイッチ49a、49bにより投入有無を選択する。
【0051】
(2)高調波電圧・電流推定計算結果
[負荷側高調波電圧V
m5]
変圧器二次側電圧(すなわち、負荷回路網44の両端電圧)の第5次高調波成分をV
m5とする。V
m5は負荷側の実測可能な高調波電圧であり、回路解析によって求解される。
【0052】
[負荷側高調波電流I
m5]
変電所の変圧器二次側から負荷回路網44に流れる高調波電流のうち第5次高調波成分をI
m5とする。I
m5は負荷側の実測可能な高調波電流であり、回路解析によって求解される。
【0053】
[V
m5とI
m5の位相差θ
m5]
θ
m5は負荷側の実測可能な、高調波電圧と高調波電流間の位相差である。
【0054】
4.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の動作原理
本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置1の高調波計算用パラメータ推定精度の有効性を評価するため、従来の高調波計算用パラメータ解析用の等価回路について説明する。
【0055】
図3は、従来の高調波計算用パラメータ解析用の等価回路図である。従来の等価回路61は、
図2の場合と同様に第5次高調波を想定した場合のものである。従来の等価回路61は、送電側高調波電圧V
5を有する送電側高調波電圧源62と、変電所の変圧器の等価インピーダンスX
tを有するインダクタ63と、負荷回路網64とを含んでいる。
【0056】
送電側高調波電圧源62は、一方の端子がインダクタ63の1つの端子に接続され、他方の端子は接地される。インダクタ63の他の端子は、負荷回路網64に接続される。負荷回路網64の他方の端子は、接地される。
【0057】
この等価回路61では、変電所の変圧器を1つのインダクタ63に簡素化しており、
図2における送配電回路網43と相違する。
【0058】
負荷回路網64は、需要者が電力使用することにより発生している負荷側発生高調波電流I
5を有する負荷側発生高調波電流源65と、需要者における調相設備の合成アドミタンスY
Cを有する調相設備合成アドミタンス66と、需要により変動する高調波歪を低減させるために、変圧器二次側に投入されるアドミタンスY
fを有する高調波フィルタ68と、高調波フィルタ68の投入有無を選択するスイッチ69とを含んでいる。
【0059】
負荷回路網64は、負荷側発生高調波電流源65と、調相設備合成アドミタンス66とが並列に接続されて構成される。高調波フィルタ68及びスイッチ69の直列に接続されたものが、負荷回路網64に並列に接続される。
【0060】
需要者における調相設備の合成アドミタンスY
Cについては、上述したようにLの有無が一般には不明であり、高調波計算用パラメータとして取り込まれていない点が
図2の等価回路41と異なる。
【0061】
上述したように、負荷側の回路要素を考慮するのみでは、高調波計算用パラメータの正確な把握は困難であり、負荷状態等が同一条件であっても、高調波電圧歪率として約20%もの相違が生じる場合がある。また、高圧送電ケーブルを用いた送配電系統と架空電線による送配電系統との高調波電圧歪率の相違を説明することができない。
【0062】
そこで、
図2に示すような送電側及び負荷側を考慮した実際の電力系統の等価回路41を用いて回路解析を行う。
【0063】
一般に、コンピュータプログラムによる回路解析は、電圧源やインピーダンス素子等の回路要素に特定の定数を設定して、ある端子間の電圧、ある経路に流れる電流を求めるべき変数とし、変数である電圧、電流を求める。しかしながら、負荷側発生高調波電流I
5のように回路要素、すなわち高調波計算用パラメータの値に未知のものがあると、上述の回路解析を行うことができない。そこで、高調波計算用パラメータに仮の固定値を設定する。また、変数である電圧、電流を実測可能な電圧、電流となるよう選択する。このような回路網について、回路解析を行って変数である電圧、電流、すなわち高調波電圧・電流推定計算結果を求める。そして、異なる仮の固定値を数多く用意して、これらの値を入れ替えて、異なる固定値の組合せによる回路網のそれぞれについて高調波電圧・電流推定結果を求める。求めた高調波電圧・電流推定結果の値を、実測した電圧、電流の値と比較して、それらが等しい又は所定の関係を満たせば、高調波計算用パラメータの値は、真の値に等しい又は所定の関係を満たすと推定することができる。
【0064】
さらに、発明者は、送電側の回路素子が負荷側の高調波歪等に影響を与えることを検討するうちに、いくつかの高調波計算用パラメータを導入することで、実測値に近い高調波電圧・電流推定値を得られるとの知見を得た。すなわち、送電側高調波電圧V
5と需要者が電力使用することにより発生している負荷側発生高調波電流I
5の間の位相差をθ
5とすると、位相差θ
5の変化に応じて負荷側高調波電圧V
m5が変化する。このことを利用して、θ
5を0°〜360°と変化させて、本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置1は、負荷側高調波電圧V
m5の最悪値を精度よく推定する。
【0065】
図5は、負荷側高調波電圧V
m5と負荷側高調波電流I
m5間の位相差θ
m5と、負荷側高調波電圧歪率との関係をプロットした図である。
図5のうちのプロット101は、簡易な等価回路61(
図3)において、位相差θ
5を変化させ、他の高調波計算用パラメータ(V
5、I
5、Y
C、スイッチ69をオフ)を固定して、本発明の高調波計算用パラメータ解析装置1を動作させたときに、負荷側高調波電圧V
m5を高調波電圧歪率としてプロットしたものである。したがって、ここでは高圧送電ケーブルの等価静電容量C
Xを考慮していない。なお、後述するように、実測値との関係で比較するために、プロットしたのは、位相差θ
5ではなく、V
m5とI
m5の間の位相差θ
m5である。
【0066】
図5に示すように、送電側高調波電圧V
5と負荷側発生高調波電流I
5との間の位相差θ
5と負荷側の電圧の高調波歪率の間に一定の関係があり、θ
m5が約90°程度のときに負荷側高調波電圧歪率が最大、すなわち最悪値になる。
【0067】
また、発明者は、高圧送電ケーブルで基幹系統配電をしている地域と、架空配電をしている地域とでは、高圧送電ケーブルでの配電を行っている地域の方が、高調波計算用パラメータの誤差が大きいとの知見も得ている。そこで、高圧送電ケーブルを考慮した
図2の等価回路41において対地静電容量C
Xに適切な値を設定して解析したのが、
図5のプロット102である。なお、プロット102では、他の高調波計算用パラメータについては、プロット101の場合の高調波計算用パラメータと同じ値を用いている。
【0068】
図5のプロット101とプロット102とでは、プロット102の方が、位相差θ
m5の変化(すなわち、θ
5の変化)に対して負荷側高調波電圧V
m5が大きく変化しているのがわかる。つまり、送電側に存在する高圧送電ケーブルの対地静電容量C
Xにより、負荷側の高調波計算用パラメータが影響を受けていることになる。
【0069】
上述のとおり、本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置1は、従来、考慮されていなかった、高調波計算用パラメータを等価回路に組み込み、繰り返し回路解析を行うことで、真の値に近い高調波計算用パラメータを抽出し、さらに高調波計算用パラメータの最悪値をも予測する。つまり、従来は、最悪値を示していない実測結果に応じて設備対策を講じて、対策不足を招くことがあったが、本発明による最悪値の認知により、必要にして十分な設備対策を講じることが可能となる。
【0070】
5.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の動作
図1に示すように、等価回路41(
図2)の回路接続情報を、入力部2であるマウスを利用したGUIによりコンピュータに入力する。コンピュータ処理により接続情報に展開されて、解析用ファイル22として記憶部3に一時保存される。等価回路41に高調波計算用パラメータファイル23を設定する。高調波計算用パラメータファイル23に格納される高調波計算用パラメータは、以下のとおりとする。
【0071】
送電側高調波電圧V
5、送配電回路網43のインピーダンスX
C、負荷側発生高調波電流I
5、Lなし調相設備合成アドミタンスをY
0、Lあり調相設備合成アドミタンスをY
1、高調波フィルタ1群のアドミタンスをY
f1、高調波フィルタ2群のアドミタンスをY
f2とする。
【0072】
また、実測可能な負荷側の高調波電圧・電流を高調波電圧・電流推定計算結果とし、負荷側高調波電圧をV
m5、負荷側高調波電流をI
m5とし、V
m5とI
m5の位相差をθ
m5とする。
【0073】
上記高調波計算用パラメータのそれぞれに対して、値を設定して入力部2によりコンピュータに入力する。高調波計算用パラメータの値は、各高調波計算用パラメータに対して、1つ又は2つ以上設定する。高調波計算用パラメータとして既知の値があれば、その値を1つだけ入力する。既知の値ではなくても、解析時間短縮のために確からしい値として、その値を1つ入力することもできる。V
5、X
C、I
5、Y
0、Y
1、Y
f1、Y
f2、θ
5のうち、たとえばV
5として1つの値を入力し、他の高調波計算用パラメータの値としては、2つ以上の値を入力して、以下に述べる繰返し処理により、それらの各高調波計算用パラメータに対する組合せのすべてを回路解析する。入力された高調波計算用パラメータ及びその値は、コンピュータ処理されて、高調波計算用パラメータファイル23として記憶部3に一時保存される。
【0074】
負荷側の実測可能な高調波電圧・電流を実測結果として、V
m5’、I
m5’及びθ
m5’を設定し、それぞれの実測値を、入力部2によりコンピュータに入力する。コンピュータ処理されて、実測結果及びその値は、実測結果ファイル24として記憶部3に一時保存される。
【0075】
解析部4は、解析用ファイル22の解析用データ及び高調波計算用パラメータファイル23から1つの高調波計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を組合せた高調波計算用パラメータデータを読み込んで、これらのデータから1つの回路解析ごとに計算用ファイルを生成する。解析部4は、この計算用ファイルを回路解析プログラムEMTPにより回路解析する。
【0076】
回路解析された結果である解析結果データ25は、データベース5に保存される。解析結果データ25には、各高調波計算用パラメータ(すなわち、V
5、X
C、I
5、Y
0、Y
1、Y
f1、Y
f2、θ
5)とその値及び求解した高調波電圧・電流推定計算結果(すなわち、V
m5、I
m5及びθ
m5)とその値が含まれる。
【0077】
比較部6は、データベース5にアクセスし、データベース5に保存された1つ以上の解析結果データ25を1つずつ順次読み込む。比較部6は、記憶部3にアクセスし、実測結果ファイル24から実測結果及びその値を読み込む。そして、比較部6は、実測結果の値と、実測結果に相当する解析結果データ25中の高調波電圧・電流推定計算結果の値とを比較する。具体的には、解析結果データ25中の求解された高調波電圧・電流推定計算結果V
m5、I
m5及びθ
m5の値と、実測結果ファイル24中のV
m5’、I
m5’及びθ
m5’の値とをそれぞれ比較する。そして、高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値が、所定の条件を満足するときに、その高調波電圧・電流推定計算結果の値を有する解析結果データ25を抽出する。ここで、所定の条件とは、たとえば高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との比が所定の範囲内にある場合等であり、具体的には、高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との比が±10%以内の場合等である。
【0078】
なお、解析結果データ25中の高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との所定の関係は、上述した高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との比を±10%とするものに限るものではなく、±5%や±1%等自由に設定することができるのはいうまでもない。また、高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との関係は、これらの相対比に限られず、特定の数式を満足する等としてもよい。さらに、複数ある高調波電圧・電流推定計算結果のすべてについて、実測結果の値と所定の関係を満足する必要はなく、高調波電圧・電流推定計算結果のうち少なくとも1つ又は2つの値が、所定の関係を満たす等としてもよく、他の条件を設定することも自由にできる。
【0079】
出力部7は、抽出された解析結果データ25を、たとえば、すべての高調波計算用パラメータの値、高調波電圧・電流推定計算結果の値及び実測結果の値を、比較部6内のバッファ領域に一旦蓄積し、別途プリンタ等を用いて出力する。また、たとえば高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との比が±10%以内の条件を満足する高調波電圧・電流推定計算結果の値を有する解析結果データ25にフラグを付与して、データベース5に書き戻し、フラグの付与された解析結果データ25のみを抽出して、別途データ処理を行うこともできる。
【0080】
本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置の動作を、
図4に示すフローチャートにしたがって以下に説明する。
【0081】
入力部2(
図1)は、ステップS1において、解析用ファイル22を入力し、ステップS2において、高調波計算用パラメータファイル23を入力し、ステップS3において、実測結果ファイル24を入力し、それぞれのファイルを記憶部3(
図1)に記憶する。
【0082】
解析部4(
図1)は、ステップS4において、記憶部3に記憶された解析用ファイル22から解析用データを読み込み、高調波計算用パラメータファイル23から高調波計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を対応させた高調波計算用パラメータデータを順次読み込む。そして、読み込んだ解析用データ及び高調波計算用パラメータデータから生成された計算用ファイルを回路解析プログラムEMTPにしたがって回路解析する。
【0083】
データベース5(
図1)は、ステップS5において、ステップS4で回路解析された結果である解析結果データ25を順次保存する。
【0084】
解析部4は、ステップS6において、異なる高調波計算用パラメータの値の組合せの高調波計算用パラメータデータすべてについて回路解析を終了するまで、高調波計算用パラメータデータを読み込み、計算用ファイルを生成して、回路解析を実行することを繰り返す。高調波計算用パラメータファイル23の各高調波計算用パラメータは、1つ又は2つ以上の高調波計算用パラメータの値を有しており、すべての高調波計算用パラメータの値の組合せについて回路解析を実行する。
【0085】
たとえば、V
5、X
C、Y
0、Y
1、Y
f1、Y
f2を固定とし、すなわち、それぞれ1つの高調波計算用パラメータの値を入力し、I
5に適切な値を複数入力する。ここでは、V
5の固定値をV
5(0)、X
Cの固定値をX
C(0)、Y
0の固定値をY
0(0)、Y
1の固定値をY
1(0)、Y
f1の固定値をY
f1(0)、Y
f2の固定値をY
f2(0)とする。I
5の値をI
5(1)、I
5(2)、I
5(3)・・・、I
5(n)とする。また、θ
5を0°から360°まで10°きざみで設定するものとする。なお、求解すべき高調波電圧・電流推定計算結果である、負荷側高調波電圧V
m5をV
m5(var)、負荷側高調波電流I
m5をI
m5(var)とし、位相差θ
m5をθ
m5(var)とする。
【0086】
1回目の回路解析における高調波計算用パラメータの値の組合せである高調波計算用パラメータデータを、{θ
5,I
5,V
5,X
C,Y
0,Y
1,Y
f1,Y
f2,V
m5(var),I
m5(var),θ
m5(var)}={0°,I
5(1),V
5(0),X
C(0),Y
0(0),Y
1(0),Y
f1(0),Y
f2(0),V
m5(var),I
m5(var),θ
m5(var)}として、ステップS4により計算用ファイル生成し、回路解析を行う。ステップS5において、解析結果データ25(
図1)をデータベース5に保存した後、高調波計算用パラメータのうちのI
5の値をI
5(2)に入れ替え、他の値はそのままにした高調波計算用パラメータデータをステップS4において記憶部3から解析部4に読み込んで解析プログラムEMTPを実行する。θ
5及びI
5の値のすべての組合せについて回路解析を繰返し実行し、解析結果データ25をデータベース5に保存する。上述の例の場合には、θ
5が36通り、I
5がn通りなので、ステップS4とステップS5の実行を36n回繰り返す。36n通りの回路解析を行ったか否かをステップS6において判断して、すべての回路解析が終了したときは、次のステップに移行させる。
【0087】
なお、上述においては、36n通りのすべての組合せを回路解析するものとして説明したが、すべての組合せについて回路解析を終了する前に次のステップに移行させることもできる。たとえば回路解析回数に上限を設けることにより実現できる。高調波計算用パラメータの値の数が大きい場合や、Y
0等他の高調波計算用パラメータについても2つ以上の値を設定して、回路解析回数が多くなる場合等に結果を早く見たいとき等に設定する。高調波計算用パラメータの値の組合せ数に拘束されず、別途繰返し解析回数を設定(たとえば、高調波計算用パラメータファイル23中に記述)することもできる。
【0088】
また、上述においては、θ
5及びI
5の値をすべての値を入力する場合を説明したが、これらの高調波計算用パラメータの値の上限及び下限を設定し、その増分を指定して、高調波計算用パラメータファイル23の読込みを行うステップS4において、増分を反映させて回路解析の繰返し動作をするようなスクリプトを高調波計算用パラメータファイル23中に記述することによっても実現することができる。たとえば、θ
5の最小値を0°、最大値を360°、増分を10°とし、I
5の最小値をI
5min、最大値をI
5max、増分をΔI
5とすると、高調波計算用パラメータの値として、{0°/360°/10°,I
5min/I
5max/ΔI
5,V
5(0),X
C(0),Y
0(0),Y
1(0),Y
f1(0),Y
f2(0),V
m5(var),I
m5(var),θ
m5(var)}のように設定することができる。
【0089】
比較部6は、ステップS7において、データベース5から解析結果データ25を順次読み込み、記憶部3に記憶されている実測結果ファイル24中の実測結果及びその値を読み込む。そして、解析結果データ25の中の負荷側の高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値とをそれぞれ比較し、これらが所定の関係を満たす値を有する解析結果データ25をデータベース5から抽出する。
【0090】
上述の例においては、解析結果データ25中のV
m5(var)、I
m5(var)及びθ
m5(var)と、実測結果の値であるV
m5’、I
m5’及びθ
m5’とをそれぞれ比較する。高調波計算用パラメータの値が真の値に等しい又は近似するものと推定されるためには、これらの値のそれぞれが等しいことが望ましい。しかしながら、有限回数の回路解析においては、高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値のすべてが等しい結果になるとは限らない。そこで、解析の結果を見ながら、たとえば求解されたV
m5(var)、I
m5(var)及びθ
m5(var)の値と実測値であるV
m5’、I
m5’及びθ
m5’がそれぞれ±10%の範囲である場合にそれらの値を有する解析結果データ25を抽出する。そうすれば、高調波計算用パラメータの値は、真の値との誤差が±10%程度であると推定できる。このような所定の範囲内にある実測可能な高調波計算用パラメータの値を有する解析結果データ25を抽出して、そのデータ群の中から、たとえばI
5の最悪値をさらに抽出することができる。
【0091】
なお、解析結果データ25中の高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との所定の関係は、上述した高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との比を±10%とするものに限るものではなく、±5%や±1%等自由に設定することができるのは上述と同様である。また、高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との関係は、これらの相対比に限られず、特定の数式を満足する等としてもよいのも上述のとおりである。さらに、複数ある高調波電圧・電流推定計算結果のすべてについて、実測結果の値と所定の関係を満足する必要はなく、高調波電圧・電流推定計算結果のうち少なくとも1つ又は2つの値が、所定の関係を満たすとしてもよく、自由に他の条件を設定することもできるのも上述と同様である。
【0092】
6.本発明の高調波計算用パラメータ解析装置による高調波計算用パラメータ推定例と実測値との比較
図6は、負荷側高調波電圧V
m5、負荷側高調波電流I
m5及び位相差θ
m5の値について、実測値と本発明の高調波計算用パラメータ解析装置により推定された値を比較して示す図である。
図6の「実測結果」の列に示される値は、実測結果としてのV
m5、I
m5及びθ
m5の値を示している。「推定計算結果」の列に示される値は、
図1及び
図4の高調波計算用パラメータ解析により得られた解析結果データ25のうち、実測結果の値との比較により、実測結果の値に最も近い高調波電圧・電流推定計算結果の値を有する解析結果データ25を抽出したものである。V
m5、I
m5及びθ
m5すべてについて略一致する値を有する解析結果データ25を得ることができなかったため、3つの実測結果のうち少なくとも2つとの差が±5%以下の値を有するか否かを比較後の抽出基準とした。I
m5については、実測値に対して、+26%となったが、V
m5は略一致しており、θ
m5は、実測値に対して+3%以内となる解析結果データ25を得ることができた。
【0093】
図7は、
図6に示す解析結果を有する解析結果データ25の各高調波計算用パラメータの値である。得られた高調波計算用パラメータは、送電側高調波電圧V
5、負荷側発生高調波電流I
5、V
5とI
5間の位相差θ
5、基本波容量に換算した全調相設備容量、全調相設備容量におけるインダクタLありの調相設備容量の比率である。なお、ここで、送電側高調波電圧V
5については、275kV系統において実測されている第5次高調波電圧含有率から固定値の834Vとした。したがって、
図7では推定値としているが、実際には実測値に近い値である。
【0094】
基本波容量に換算した調相設備容量及び調相設備におけるインダクタLの有無は、設備台帳により管理されている。この実測例の場合においては、台帳管理されている調相設備容量は、8,844kVAであり、インダクタLの有無の比率は41%程度であった。本発明の高調波計算用パラメータ解析装置1による推定値は、それぞれ7,066kVA、28.7%であるから、推定値と管理台帳のよる値とが大きく乖離している。しかしながら、管理台帳が更新されていない場合も考えられ、解析結果を最悪値としてとらえるべきである。
【0095】
上述したとおり、送電側高調波電圧V
5と負荷側発生高調波電流I
5の位相差θ
5の変動が高調波計算用パラメータに影響を及ぼすと考えられる。そこで、
図6の実測結果の値を用い、さらに、θ
5、送電側高調波電圧V
5、調相設備容量及びLあり調相設備比率を
図7の値に固定にして、θ
5と負荷側発生高調波電流I
5とを未知の高調波計算用パラメータとして、本発明の高調波計算用パラメータ解析装置1により解析した。
【0096】
図8に示すように、本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置1による高調波計算用パラメータの推定値と実測値とを比較するために、実測できないθ
5ではなく、負荷側高調波電圧V
m5と負荷側高調波電流I
m5の間の位相差θ
m5との関係で負荷側高調波歪率をプロットした。
図8には、変圧器二次側(負荷側)に高調波フィルタを投入していない状態、高調波フィルタ1群を投入した状態、さらに高調波フィルタ2群を投入した状態のそれぞれにおける、θ
5(θ
m5)に対する負荷側高調波電圧歪率の推定値をプロットした。また、本発明の高調波計算用パラメータ解析装置1による推定値と実測値とを比較するために、実測値も同時にプロットしている。
【0097】
図8において、「14:15実測投入直前」とは、高調波フィルタ1群を投入する直前の負荷側高調波電圧歪率と、V
m5とI
m5間の位相差θ
m5との関係の実測データをプロットしたものである。「14:20実測」とは、高調波フィルタ1群を投入直後の負荷側高調波電圧歪率と位相差θ
m5との関係の実測データをプロットしたものである。「14:25実測投入直前」とは、高調波フィルタ1群投入後であって、高調波フィルタ2群投入直前の負荷側高調波電圧歪率と、位相差θ
m5との関係の実測データをプロットしたものである。「14:30実測」とは、高調波フィルタ2群投入直後の負荷側高調波電圧歪率と、位相差θ
m5との関係の実測データをプロットしたものである。
【0098】
これらの実測値において、「14:20実測」と「14:25実測投入直前」とでは、いずれも高調波フィルタ1群を投入した状態であり、他の負荷条件も一定であると考えられるから本来は同一の値となるべきところが若干相違している。これは、θ
5が時間に対して変動しているものと考えられ、θ
5に応じて位相差θ
m5及び高調波電圧歪率が変化しているものと考えられる。
【0099】
また、いずれの実測値についても、本発明の高調波計算用パラメータ解析装置1による推定値とよく一致しているので、推定値としては妥当であると考えられる。
【0100】
θ
5は、実測できない高調波計算用パラメータであるが、上述のように時間的に変化していると考えられ、他の高調波計算用パラメータの値に影響を与えている。本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置1は、θ
5を変化させることにより、
図8に示すように高調波歪率等、負荷側における高調波計算用パラメータの最悪値を推定し、高調波フィルタの投入効果も予測する。
【0101】
そして、本発明に係る高調波計算用パラメータ解析装置1は、送電側の高圧送電ケーブルの対地等価静電容量C
Xの存在を考慮しているので、実際の電力系統に合った等価回路とすることにより、さらに真の値に近い高調波計算用パラメータの推定値を求める。
【0102】
7.高調波計算用パラメータ解析装置の変形例
上述した高調波計算用パラメータ装置は、負荷側発生高調波電流I
5、送電側高調波電圧V
5と負荷側発生高調波電流I
5との位相差θ
5、調相設備容量及びLあり調相設備比率(調相設備合成アドミタンスY
0、Y
1)を推定すべき高調波計算用パラメータとしている。ここで、推定すべき高調波計算用パラメータの数を減らせば、高調波計算用パラメータの精度を上げることができ、計算時間の短縮を図ることが可能となる。
【0103】
本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の変形例は、負荷側発生高調波電流I
5が変電所の変圧器二次側を通過する基本波皮相電力P
1に比例するとの測定結果に基づく知見に基づいて動作する。具体的には、本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の変形例では、基本波皮相電力P
1を0VAに仮定することにより、負荷側発生高調波電流I
5を0Aと仮定している。また、負荷側発生高調波電流I
5が0Aと仮定しているから、位相差θ
5を考慮する必要がない。さらに、本発明の高調波計算用パラメータ解析装置の変形例では、実際の測定結果に基づいて、基本波皮相電力P
1は、負荷側高調波電圧V
m5及び負荷側高調波電流I
m5とそれぞれ線形近似することができる。つまり、基本波皮相電力P
1が0VAと仮定したときの負荷側高調波電圧V
m5(0)及び負荷側高調波電流I
m5(0)を線形近似式から計算できる。したがって、基本波皮相電力P
1が0VAと仮定したときの回路解析をすることによって、基本波皮相電力P
1や負荷側発生高調波電流I
5の値に依存しない調相設備容量及びLあり調相設備比率(調相設備合成アドミタンスY
0、Y
1)のみを推定すべき高調波計算用パラメータとすることができる。
【0104】
図9を参照して、以下詳細に説明する。
図9に示す高調波計算用パラメータ推定装置1aの構成は、
図1に示したものと基本的には同じである。
【0105】
図9に示す本発明が適用された高調波計算用パラメータ解析装置1aは、解析用ファイル22a、高調波計算用パラメータファイル23a及び実測結果ファイル24aを入力する入力部2aと、入力部2aにより入力された各ファイルを記憶する記憶部3aとを備えている。
【0106】
高調波計算用パラメータ解析装置1aは解析部4aを備えているが、解析部4aの動作は、以下のように
図1に示す高調波計算用パラメータ解析装置1と次の点で異なっている。
【0107】
実測結果ファイル24aには、基本波皮相電力P
1、負荷側高調波電圧V
m5、負荷側高調波電流I
m5及びV
m5とI
m5との位相差θ
m5の各実測データが複数格納されている。そして、解析部4aは、記憶部3aに記憶された実測結果ファイル24aを読み込んで、P
1とV
m5、及びP
1とI
m5のそれぞれの実測値の間の線形近似式を位相差θ
m5又は位相差θ
m5の範囲(以下、単に位相差θ
m5という。)ごとに計算する。この2つの線形近似式から、解析部4aは、P
1=0VAと仮定したときの負荷側高調波電圧V
m5及び負荷側高調波電流I
m5を計算して、それぞれ実測結果の値V
m5(0)及びI
m5(0)として、修正実測結果ファイル27aを生成する。
【0108】
また、解析部4aは、読み込んだ高調波計算用パラメータファイル23aの負荷側発生高調波電流I
5を0A、θ
5を0°と仮定した修正高調波計算用パラメータファイル26aを生成する。なお、θ
5の値自体は推定計算上、意味をもたないので、0°以外の任意の値とすることができる。
【0109】
解析部4aは、生成された修正高調波計算用パラメータファイル26aと、読み込んだ解析ファイル22a中のデータとにより生成された計算用ファイルを解析プログラムEMTPによって回路解析する。
【0110】
なお、上述では、解析部4aにおいて、負荷側発生高調波電流I
5を0A、θ
5を0°に仮定した修正高調波計算用パラメータファイル26aを生成することとしたが、入力部2aに入力する負荷側発生高調波電流I
5を0A、θ
5を0°とあらかじめ仮定した高調波計算用パラメータファイル23aを入力部1aに入力してもよい。
【0111】
また、
図1の場合と同様に、高調波計算用パラメータ解析装置1aは、解析部4aにより解析された解析結果データ25aを順次保存するデータベース5aと、解析結果データ25aと修正実測結果ファイル27aとを比較する比較部6aと、比較部6aで抽出された解析結果データ25aを出力する出力部7aとを備えている。
【0112】
比較部6aは、解析結果データ25a中の高調波電圧・電流推定計算結果V
m5及びI
m5のそれぞれの値と、修正実測結果ファイル27a中の実測結果V
m5(0)及びI
m5(0)のそれぞれの値とを比較して所定の関係を満たすものを抽出し、そのデータを出力部7aにより出力する。なお、所定の関係とは、高調波電圧・電流推定計算結果の値と実測結果の値との比が±10%以内の条件を満足する関係であってもよく、±5%や±1%等自由に設定することができる。また、これらの相対比に限られず、特定の数式を満足する等としてもよいのも上述のとおりである。等価回路については、
図2に示すものと同じものを用いることはいうまでもない。
【0113】
次に、改良された高調波計算用パラメータ解析装置1aの動作を、
図10のフローチャートにしたがって以下に説明する。
【0114】
入力部2aは、ステップS11において、解析用ファイル22aを入力し、ステップS12において、高調波計算用パラメータファイル23aを入力し、ステップS13において、実測結果ファイル24aを入力し、それぞれのファイルを記憶部3aに記憶する。
【0115】
解析部4aは、ステップS14において、記憶部3aに記憶された実測結果ファイル24aから実測結果を読み込み、実測結果の複数の値に基づいて、位相差θ
m5ごとに、基本波皮相電力P
1と高調波電圧V
m5、基本波皮相電力P
1と高調波電流I
m5それぞれの線形近似式を計算する。
【0116】
さらに、解析部4aは、ステップS15において、高調波計算用パラメータファイル23aを読み込んで、負荷側発生高調波電流I
5に0Aを、位相差θ
5に0°と仮定する。そして、解析部4aは、新たな高調波計算用パラメータファイルを修正高調波計算用パラメータファイル26aとして生成する。さらに、解析部4aは、ステップS14において生成された線形近似式に基づいて、基本波皮相電力P
1=0VAと仮定したときの負荷側高調波電圧V
m5及び負荷側高調波電流I
m5のそれぞれの値を計算して、その値であるV
m5(0)及びI
m5(0)をV
m5及びI
m5の実測結果の値として実測結果ファイルに設定した修正実測結果ファイル27aを生成する。
【0117】
解析部4aは、ステップS16において、記憶部3aに記憶された解析用ファイル22aから解析用データを読み込み、修正高調波計算用パラメータファイル26aから高調波
計算用パラメータごとに1つの高調波計算用パラメータの値を対応させた高調波計算用パラメータデータを順次読み込む。そして、読み込んだ解析用データ及び高調波計算用パラメータデータから生成された計算用ファイルを回路解析プログラムEMTPにしたがって回路解析を行う。
【0118】
データベース5aは、ステップS17において、ステップS16で回路解析された結果である解析結果データ25aを順次保存する。
【0119】
解析部4aは、ステップS18において、異なる高調波計算用パラメータの値の組合せの高調波計算用パラメータデータすべてについて回路解析を終了するまで、高調波計算用パラメータデータを読み込み、計算用ファイルを生成して、回路解析を実行することを繰り返す。
【0120】
比較部6aは、ステップS19において、解析結果データ25a内のV
m5及びI
m5の値と修正実測結果ファイル27a内のV
m5(0)及びI
m5(0)の値とをそれぞれ比較して所定の関係を満たす解析結果データ25aを抽出する。
【0121】
上述のように高調波計算用パラメータ推定装置1aを動作させれば、負荷側発生高調波電流I
5を直接推定することなく、アドミタンスY
0、Y
1、すなわち調相設備容量とそのリアクトル接続容量比率(Y
0とY
1との比率)を推定することができる。
【0122】
なお、上述で推定計算されるのは、調相設備合成アドミタンスY
0、Y
1である。これらの値は、負荷側の高調波電圧V
m5、高調波電流I
m5や発生高調波電流I
5とは無関係に定まる定数であり、負荷側の条件には依存しない。所望の基本波皮相電力P
1に対応する高調波電圧歪、すなわちV
m5については、ステップ14で求めた線形近似式により、θ
m5を変数として手計算によって求めることもできるし、推定したY
0、Y
1を既知の値の高調波計算用パラメータとして固定し、
図1に示す高調波計算用パラメータ推定装置1によって、θ
5を可変することによって、
図8のような特性図を描いて、最悪値を推定することも可能である。
【0123】
以上説明したように、本発明の高調波計算用パラメータ解析装置によれば、負荷側の基本波皮相電力、高調波電圧、高調波電流及びこれらの位相差の実測値に基づく線形近似式を用いて、推定すべき高調波計算用パラメータの数を減らすことにより、より精度よく結果を得ることができるようになる。また、推定すべき高調波計算用パラメータの数を減らすことで、高調波計算用パラメータの値の組合せの数が減少するので、結果を得るための時間を短縮することができる。
【0124】
なお、本発明は、上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはもちろんである。