(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5659969
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】低圧グラジエント装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/34 20060101AFI20150108BHJP
G01N 30/32 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
G01N30/34 A
G01N30/32 C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-149328(P2011-149328)
(22)【出願日】2011年7月5日
(65)【公開番号】特開2013-15451(P2013-15451A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2013年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】麻生 喜昭
(72)【発明者】
【氏名】井上 藤男
【審査官】
萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−156660(JP,A)
【文献】
実公平06−048100(JP,Y2)
【文献】
特開2007−090638(JP,A)
【文献】
実開昭62−148335(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 − 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液の吸引と吐出を行なうことにより送液を行なう往復動式ポンプと、
第1移動相を前記往復動式ポンプに導くための第1吸入流路と、
第2移動相を前記往復動式ポンプに導くための第2吸入流路と、
前記第1吸入流路と第2吸入流路とを合流させる合流部と、
前記合流部と前記往復動式ポンプとを接続する入口流路と、
前記第1吸入流路と前記第2吸入流路上にそれぞれに設けられ、各流路の開閉を互いに異なるタイミングで行なう電磁弁と、
各吸入流路においてそれぞれの前記電磁弁と前記合流部との間でその流路の内径が絞られた区間として設けられたオリフィスと、
前記第1吸入流路及び第2吸入流路のそれぞれの少なくとも一部とともに前記合流部を内部に形成した接続ブロックと、
を備え、
前記電磁弁はパッキンを介して前記接続ブロックに装着され、かつ前記パッキンを介して前記第1吸入流路又は第2吸入流路にそれぞれ接続されており、
前記オリフィスは前記パッキンに形成された流路孔により構成されている低圧グラジエント装置。
【請求項2】
前記オリフィスの内径はそのオリフィスが設けられている流路の内径の1/2以下である請求項1に記載の低圧グラジエント装置。
【請求項3】
他の移動相を導くために電磁弁とオリフィスを備えたさらなる吸入流路を少なくとも1つ備えており、そのさらなる吸入流路も前記合流部に接続され、そのさらなる吸入流路の少なくとも一部も前記接続ブロック内に形成されており、
前記さらなる吸入流路の電磁弁もパッキンを介して前記接続ブロックに装着され、かつ該パッキンを介して前記さらなる吸入流路に接続されており、
前記さらなる吸入流路のオリフィスも前記さらなる吸入流路に設けられた前記パッキンに形成された流路孔により構成されている請求項1又は2に記載の低圧グラジエント装置。
【請求項4】
前記合流部において、前記各吸入流路の端部は互いに対向しない位置に配置されている請求項1から3のいずれか一項に記載の低圧グラジエント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフの分析流路中で送液する移動相の組成を時間的に変化させるためのグラジエント装置に関し、特に低圧グラジエント装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフとして、移動相をその組成を時間変化させながら分析流路に供給する低圧グラジエント装置を備えたものがある(例えば、特許文献1参照。)。そのような低圧グラジエント装置は、複数種類の液が用意されており、それらの液がプランジャポンプなどの往復動式ポンプに吸引されるタイミングを制御してそれらの液の混合比率を調整することにより、移動相の組成を変化させるものが一般的である。
【0003】
図6に従来の低圧グラジエント装置の一例を示す。
ポンプヘッド6内でプランジャ8が摺動することにより液の吸入と吐出を行なうプランジャポンプ10があり、そのプランジャポンプ10の液入口に入口流路54、液出口に出口流路12が接続されている。プランジャ8はモータやカム機構からなる駆動部16によって一直線上で往復駆動され、駆動部16は制御部58によりその動作が制御されている。
【0004】
プランジャポンプ10により送液する移動相としてA〜Dの4種類の移動相が用意されているものとする。一端からそれぞれ移動相A〜Dを吸入するための吸入流路52a〜52dの他端が合流部55で合流して入口流路54に接続されている。吸入流路52a〜52dのうちいずれか一つのみを開くように構成された切替機構53が設けられている。切替機構53は各吸入流路52a〜52d上に設けられた開閉弁53a〜53dからなり、いずれか一つの移動相のみをプランジャポンプ10に吸入させる。切替機構53の動作は制御部18により制御されている。図示は省略されているが、入口流路54と出口流路12にはそれぞれ逆止弁が設けられており、プランジャポンプ10の吸入動作時は入口流路54が開いて出口流路12が閉じ、逆に吐出動作時は出口流路12が開いて入口流路54が閉じるようになっている。
【0005】
このグラジエント装置では、A〜Dの4種類の移動相のうち、例えば2種類をプランジャポンプ10に順次所定のタイミングで切り替えて吸入して混合し、その混合液を液体クロマトグラフの分析流路へ送液する。そして、プランジャポンプ10に吸引する移動相を切り替えるタイミングを時間的に変化させることにより分析流路へ送液する移動相の組成を変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−312795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のグラジエント装置では、プランジャポンプ10に吸入される移動相が合流部55において互いに接しているが、プランジャポンプ10に吸入される移動相の吸入流路のみが開いた状態となり、それ以外の移動相の吸入流路は閉じられているため、閉じられている吸入流路への他の移動相の逆流は発生しない。しかし、互いに接する移動相間に密度差があると、密度の高い移動相が密度の低い移動相の流路側へ流入(逆流)するという現象が起こることがわかった。この逆流が起こると、本来はプランジャポンプ10に吸入されるべき移動相が他の移動相の流路側へ流入するために、所定の吸入量が得られず、プランジャポンプ10から送液される移動相の組成に影響を与え、液体クロマトグラフの分析結果の再現性が得られなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、移動相の密度の違いによって発生する移動相の逆流を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液の吸引と吐出を行なうことにより送液を行なう往復動式ポンプと、第1移動相を往復動式ポンプに導くための第1吸入流路と、第2移動相を往復動式ポンプに導くための第2吸入流路と、第1吸入流路と第2吸入流路とを合流させる合流部と、合流部と往復動式ポンプとを接続し、第1吸入流路又は第2吸入流路からの液を往復動式ポンプに導く入口流路と、第1吸入流路と第2吸入流路上にそれぞれに設けられ、各流路の開閉を互いに異なるタイミングで行なう電磁弁と、各吸入流路においてそれぞれの電磁弁と合流部との間でその吸入流路の内径が絞られた区間として設けられたオリフィスと、を備えたグラジエント装置である。
ここで、「オリフィス」は、流路の一部において内径が他の流路部分よりも小さくなっている部分を指している。流路を絞ってその部分の内径を小さくしたものの他、流路を遮る板に小孔をあけたものも含む。そのようなオリフィスが各吸入流路上に設けられていることにより、このオリフィスよりも先へ各吸入流路に他吸入流路からの移動相が逆流することが抑制される。
【0010】
また、液体クロマトグラフの低圧グラジエント分析には、水系溶媒とアセトニトリルなどの有機溶媒がよく使用される。水系溶媒の代表的なものとしてリン酸緩衝液などの緩衝液が挙げられるが、緩衝液は有機溶媒と混合されると緩衝液中に溶けていた塩が析出する。上記のグラジエント装置で緩衝液と有機溶媒を使用すると、緩衝液による有機溶媒の流路側への逆流が発生し、有機溶媒の流路側で塩が析出する。この塩の析出が有機溶媒の流路を開閉する電磁弁やその近傍で発生すると、析出した塩が電磁弁の弁体と弁座の間に入り込んで閉じる際の弁体と弁座の間の液密性が損なわれ、電磁弁が完全に閉じられなくなるといった不具合が発生することがある。
【0011】
本発明のグラジエント装置において、例えば第1移動相を有機溶媒、第2移動相を水系溶媒としても、第1吸入流路の電磁弁と合流部との間にオリフィスが設けられていることによって第1吸入流路側に流入する水系溶媒が電磁弁まで到達することが抑制されるので、電磁弁において塩が析出することを防止することができる。
【0012】
オリフィスの内径はそのオリフィスが設けられている吸入流路の内径の1/2以下であることが好ましい。そうすれば、オリフィスが設けられている吸入流路内における溶媒の逆流防止の効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグラジエント装置によれば、少なくとも第1吸入流路を含む吸入流路の電磁弁と合流部との間にその流路の内径が絞られたオリフィスが設けられているので、第1移動相よりも密度の高い第2移動相が第2流路から第1吸入流路へ流入して逆流することをオリフィスで抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】グラジエント装置の一実施例を概略的に示す流路構成図である。
【
図2】同実施例の切替機構部分の構造を示す図であり、(A)は上面図、(B)は(A)のX−X位置における断面図である。
【
図3】同実施例のオリフィスの構造の一例を示す図である。
【
図4】有機溶媒系移動相と水系移動相を往復動式ポンプに吸引する際の各流路内の状態のシミュレーション結果を示す図であり、(A)はいずれの流路にもオリフィスを設けていない場合、(B)は有機溶媒系移動相用の流路にオリフィスを設けている場合である。
【
図5】吸入流路が合流ブロックで合流する場合の合流ブロック内の空間の概念図であり、(A)は合流ブロックの正面側から見た概念図、(B)は合流ブロックの上方から見た概念図である。
【
図6】従来のグラジエント装置の一例を概略的に示す流路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を用いて液体クロマトグラフの低圧グラジエント装置の一実施例について説明する。
このグラジエント装置は、液の吸入と吐出を行なうことにより送液する往復動式ポンプの一例としてのプランジャポンプ10を備えている。プランジャポンプ10はポンプヘッド6とプランジャ8を備えており、ポンプヘッド6には入口流路4と出口流路12が接続されている。プランジャ8は、ポンプヘッド6内で摺動するようにモータやカム機構を備えた駆動部16により一直線上で往復駆動される。
【0016】
ポンプヘッド6内でプランジャ8が摺動することにより、ポンプヘッド6内に入口流路4から液が吸入され、吸入された液が出口流路12から吐出される。図示は省略されているが、入口流路4上、出口流路12上には、それぞれ逆流を防止するための逆止弁が設けられており、吸引動作時には入口流路4が開かれて出口流路12が閉じられ、逆に吐出動作時には出口流路4が開かれて入口流路4が閉じられる。
【0017】
このグラジエント装置では、プランジャポンプ10によりA〜Dの4種類の移動相を単体で又は混合して送液することができる。移動相A〜Dをそれぞれ吸入するための吸入流路2a〜2dは合流部5で合流し、入口流路4の一端に接続されている。
各吸入流路2a〜2dの開閉を制御することができる開閉機構3が設けられている。開閉機構3は、各吸入流路2a〜2d上に設けられた電磁弁3a〜3dからなり、各電磁弁3a〜3dを互いに異なるタイミングで開閉することができる。
【0018】
吸入流路2a〜2dのそれぞれの電磁弁3a〜3dと合流部5との間にオリフィス14a〜14dが設けられている。オリフィス14a〜14dとは、それぞれ吸入流路2a〜2dにおいてその内径が絞られた区間である。密度の高い移動相がいずれかの吸入流路からプランジャポンプ10に吸入される際、その高密度の移動相がより密度の低い移動相用の吸入流路側へ流入することがあるが、その逆流は内径が小さく絞られたオリフィスで抑制され、その流路に設けられている電磁弁まで到達することを防止する。
【0019】
オリフィス14a〜14dの内径を吸入流路2a〜2dの内径の1/2以下にすることで、他の吸入流路から逆流してきた移動相を堰き止める効果を高めることができる。吸入流路2a〜2dの内径が例えば1〜2mm程度である場合には、オリフィス14a〜14dの内径を例えば0.3〜0.6mm程度にすることが好ましい。
【0020】
この実施例のグラジエント装置の切替機構3の具体的な構造の一例について
図2を用いて説明する。
この例の切替機構3は、複数のポートとそれらのポートを接続するための流路を備えた接続ブロック20からなる。接続ブロック20は直方体であり、その周囲4面にそれぞれ電磁弁3a〜3dが取り付けられている。接続ブロック20の周囲面のそれぞれの電磁弁3a〜3dの装着部分に流路接続部の気密性を高めるためのパッキン29が挿入されている。
【0021】
電磁弁3a〜3dはそれぞれ入口流路と出口流路を備えており、入口流路−出口流路間の接続と遮断を例えばダイヤフラム弁を駆動することによって切り替えるものである。電磁弁3aは入口流路27aと出口流路28a、電磁弁3bは入口流路27bと出口流路28b、電磁弁3cは入口流路27cと出口流路28c、電磁弁3dは入口流路27dと出口流路28dをそれぞれ備えているが、図では、(B)において入口流路27a,27c、出口流路28a,28cのみを図示している。
【0022】
パッキン29は、
図3に示されているように、電磁弁3a〜3dのそれぞれの入口流路27a〜27dに対応する位置に流路孔29aを、出口流路28a〜28dに対応する位置に流路穴29bを備えている。
【0023】
接続ブロック20の上面に、入口ポート22a〜22d及び出口ポート24が設けられている。入口ポート22a〜22dは、移動相A〜Dを吸入するための吸入流路2a〜2d(
図1)を構成する配管を接続するためのポートである。出口ポート24は、プランジャポンプ10の吸入口に繋がる入口流路4(
図1)を構成する配管の一端を接続するためのポートである。
【0024】
入口ポート22a〜22dはそれぞれ電磁弁3a〜3dに対応するように設けられている。すなわち、入口ポート22aは電磁弁3a側、入口ポート22bは電磁弁3b側、入口ポート22cは電磁弁3c側、入口ポート22dは電磁弁3d側にそれぞれ設けられている。出口ポート24は入口ポート22a〜22dに囲まれるように接続ブロック20上面の中心付近に設けられている。
【0025】
接続ブロック20の内部には、入口ポート22aと電磁弁3aの入口流路27aを接続するための流路26a、入口ポート22bと電磁弁3bの入口流路27bを接続するための流路26b、入口ポート22cと電磁弁3cの入口流路27cを接続するための流路26c、及び入口ポート22dと電磁弁3dの入口流路27dを接続するための流路26dが設けられている。なお、流路26a〜26dのうち流路26a,26cのみが
図2(B)において図示されている。流路26a〜26dはそれぞれパッキン29の流路孔29aを介して入口流路27a〜27dに接続されている。
【0026】
さらに、接続ブロック20の内部には、一端がパッキン29の流路孔29bを介して電磁弁3a〜3dの出口流路28a〜28dに接続された流路30a〜30dが設けられている。流路30a〜30dの他端は合流部31で合流し、出口ポート24へと繋がる流路32に接続されている。
【0027】
接続ブロック20の内部に設けられている流路26a〜26d、30a〜30dの内径は1〜2mm程度である。パッキン29の流路孔29aは流路26a〜26d、30a〜30dと同程度の1〜2mm程度の内径を有する。他方、流路孔29bは0.3〜0.6mm程度の内径を有し、
図1におけるオリフィス14a〜14dを実現する。これにより、出口ポート24に接続された往復動式ポンプに移動相を吸入する際、流路30a〜30dのいずれかを通って出口ポート24側へ吸入される移動相が各流路を満たす移動相との密度差によって他の流路側へ流入して逆流が発生したとしても、その逆流がパッキン29の部分で抑制され、各電磁弁3a〜3dまで到達することを防止する。
【0028】
図4は、有機溶媒系移動相と水系移動相を混合して送液する際の流路内の状態のシミュレーション結果を示す図であり、(A)はいずれの流路にもオリフィスを設けていない場合、(B)は有機溶媒系移動相を送液するための流路にオリフィスを設けている場合である。
オリフィスを設けていない場合、水系移動相が往復動式ポンプに吸入される際に、有機溶媒系移動相よりも高密度の水系移動相が有機溶媒系移動相の下側へ潜り込んで流入し、有機溶媒系移動相側の流路へ逆流している。これに対し、オリフィスを設けている場合には、オリフィス部分までは水系移動相が有機溶媒系移動相側の流路へ逆流しているものの、オリフィスよりも上流側へは水系移動相がほとんど逆流していない。このことから、オリフィスを設けることによって移動相の逆流を抑制できることがわかる。
【0029】
図2の構造のほかに、
図1の合流部として、複数の流路を合流させるブロックを備えている場合もある。
図5は合流ブロック内の空間の概念図であるが、この図に示されているように、合流ブロック内の合流空間40に四方から合流する流路42a〜42dの端面を互いに対向しない位置に配置することで、移動相の逆流抑制効果をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0030】
2a〜2d 吸入流路
3 切替機構
3a〜3d 電磁弁
4 入口流路
5 合流部
6 ポンプヘッド
8 プランジャ
10 プランジャポンプ
12 出口流路
14a〜14d オリフィス
16 駆動部
18 制御部
20 接続ブロック
22a〜22d 入口ポート
24 出口ポート
26a,26c,30a,30c,32 流路(接続ブロック内)
27a,27c 入口流路(電磁弁)
28a,28c 出口流路(電磁弁
29 パッキン
29a 流路孔
29b 流路孔(オリフィス)