(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪(2,3)とエンジン(5)を備えた車体(1)と、エンジン(5)からの出力に応じて油圧出力を変える可変油圧ポンプ(34a)と該可変油圧ポンプ(34a)に設けられた斜板(34d)と該斜板(34d)の回転角度を変更するトラニオン軸(30)と可変油圧モータ(34b)と該可変油圧モータ(34b)に設けられた斜板(34e)と該斜板(34e)の回転角度を変更するトラニオン軸(31a)とを有する油圧式無段変速装置(34)と、該油圧式無段変速装置(34)の出力により作動するギヤ噛合式の複数段の副変速装置(38)と、
前記油圧式無段変速装置(34)の可変油圧モータ(34b)の斜板(34e)の回動角度をトラニオン軸(31a)で回動して油圧式無段変速装置(34)の油圧出力を低速側ステージと高速側ステージの少なくとも2段階に手動で切り替えるそれぞれのステージ切替スイッチ(72a、72b)と、
前記低速側ステージと高速側ステージとの切り替えを自動的に行うステージ自動切替スイッチ(72c)と、
前記油圧式無段変速装置(34)の可変油圧ポンプ(34a)のトラニオン軸(30)に連結される斜板(34d)の前進方向又は後進方向の回転角度を調整して前進方向又は後進方向の油圧出力を踏み込み量に応じて調整するアクセルペダル(15)と、
車輪(2又は3)の車軸に作用する左右一対のブレーキペダル(16,16)と、
左右それぞれのブレーキペダル(16,16)に対応したブレーキ踏み込みを感知する各ブレーキスイッチ(77a,77b)と、
エンジン(5)が作動していることを検知するエンジン回転センサ(5a)と、
前記油圧式無段変速装置(34)の可変油圧モータ(34b)のステージをそれぞれ低速側又は高速側に切り替えるステージ切替弁(73)を備えた走行車両において、
前記ステージ自動切替スイッチ(72c)が入りとなってステージ切替弁(73)が高速側ステージになっているときに、左右それぞれのブレーキペダル(16,16)に対応したブレーキスイッチ(77a,77b)が両方のブレーキペダル(16,16)が踏み込まれたことを検知し、エンジン回転センサ(5a)がエンジン回転数が設定値以下に落ちたことを検知したときに、油圧式無段変速装置(34)の可変油圧モータ(34b)の低速側ステージへの切替を行わず、片方のブレーキペダル(16)が踏み込まれたときには前記ステージを低速側へ切替を行い、その後エンジン回転が復帰しても高速側ステージに切替を行わない制御構成と、
片方のブレーキペダル(16)が踏み込まれてエンジン回転数が設定回転数まで落ちたときに、前記手動の高速側ステージ切替スイッチ(72b)が入り状態になると、ステージを高速側に切り替える制御構成を有する制御装置(100)を備えたことを特徴とする走行車両。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
作業車両の一例としてトラクタを例に以下説明する。
図1(
図1にはフロントローダのない図を示す)に全体側面図、
図2に
図1のトラクタの平面図(キャビンを除いている)を示している。
図3は
図1のトラクタの変速装置の動力伝動機構線図、
図4は本実施例のトラクタの静油圧式無段変速装置の油圧回路図であり、
図5は本実施例のトラクタの制御ブロック図である。
なお、本明細書において作業車両の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後ろという。
【0021】
図1、
図2に示すトラクタは走行車体1の前後部に前輪2,2と後輪3,3を備え、車体1の前部に搭載したエンジン5の回転動力を伝動ケース内の変速装置によって適宜減速して、これらの前輪2,2と後輪3,3に伝えるように構成している。
車体1の中央のハンドルポスト6にはステアリングハンドル7が支持され、その後方には座席9が設けられている。
【0022】
図1に示すように、燃料タンク8をボンネット22内に収め、燃料タンク8本体の後側はハンドルポスト6内に収納状態となっている。
また、ステアリングハンドル7の下方には車体1の進行方向を前後方向に切り替える前後進レバー10が設けられている。この前後進レバー10を前側に移動させると車体1は前進し、後方へ移動させると後進する。また、ハンドルポスト6を挟んで前後進レバー10の反対側にはエンジン回転数を変更するスロットルレバー11が設けられ、また、ステップフロア13の右コーナー部にはアクセルペダル15と左右のブレーキペダル16,16が配置されている。前記アクセルペダル15は、基本的には路上走行時に使用し、その踏み込み量に応じてエンジン回転数が上昇すると共に、アクセルペダル15の踏み込み量をアクセルペダル位置センサ15a(
図5)が検出し、このアクセルペダル位置センサ15aの検出値に応じて静圧式無段変速装置(HST)34のトラニオン軸30(
図4)の回動角度を変更させることができる。該トラニオン軸30の回動角度により斜板34d(
図4)の傾斜角度を変化させてHSTの出力を無段状に連続的に変更させることができる。
【0023】
前記スロットルレバー11はエンジン回転数を変更するもので、作業走行時に使用する。スロットルレバー11は操作した位置で手を離してもその位置が保持される構成である。 また、操縦席9の左側に低速、中速、高速及び中立のいずれかの位置を選択できる副変速レバー21が配置され、その後方に前輪2と後輪3の間に装着しているミッド作業機(モーア等)のPTO軸の入り切りと変速を行うミッドPTO変速レバー23aと、機体後部に装着する作業機(モーア、ロータリ、除雪機等(図示せず))のPTO軸の入り切りと変速を行うリヤPTO変速レバー23bが設けられている。また、車体1の後方には作業機(図示せず)を連結する前記リンク31が設けられている。
【0024】
エンジン5の回転動力はHST入力軸33からHST34に伝達される。また、HST入力軸33から導入された動力により
図4に示す油圧ポンプ34aを作動させて、油圧ポンプ34aに設けられた斜板34dの傾斜角度に応じた圧油を油圧閉回路34cから油圧モータ34bに供給し、該油圧モータ34bにより走行出力軸35を駆動させて噛合式の変速装置38へ動力を伝達させる。
【0025】
図3に示すように、噛合式の変速装置38の副変速クラッチシフタ39は、変速軸43の回転がデフ装置46を介して後輪3が副変速高速段の走行速度で駆動される。
前記HST34から出力された動力は、走行出力軸35から回転軸36に伝達される。変速装置38による変速段は次のように設定される。すなわち、副変速高速段(3速)はギヤ38aからギヤ38bで変速された動力が変速軸43へ伝達される。また、副変速中速段(2速)は、ギヤ38cからギヤ38dで変速された動力が変速軸43へ伝達され、副変速低速段(1速)は、ギヤ38eからギヤ38fで変速された動力が変速軸43へ伝達される。これら副変速の3段変速は、副変速レバー21を操作してシフタ39が左右にスライドすることで切り替わる。変速軸43の回転がデフ装置46を介して後輪3が副変速中速段の走行速度で駆動される。
【0026】
一方、HST入力軸33から容量可変式の油圧ポンプ34a(
図4)に入力された動力はポンプ出力軸51(
図3にのみ図示)からPTO油圧クラッチ54などを経由してPTO軸52に設けられたPTO用の駆動系に伝達される。PTO軸52にはリヤPTO軸55とミッドPTO軸56に動力伝達される。
また、変速軸43の副変速下手側のギヤ58からPTO軸52のギヤ47、このギヤ47と一体のギヤ59を経由して、前輪出力軸48のギヤ57に伝達され、前輪2が駆動される。
【0027】
さらに、車体1の前方又は後方にローダ(図示せず)を取り付けたときはローダ昇降シリンダ(図示せず)でローダを昇降させる。
また、静油圧式無段変速装置(HST)34はトラニオン軸30(
図4)の回動角度、すなわち斜板34dの回動角度により、制御装置100で設定されているトラニオン軸30の回転数が決まり、詳細な説明は省略するが、アクセルペダル15の踏み込み量がアクセルペダル位置センサ15aで検出されると、アクセルペダル位置センサ15aの検出値に応じてトラニオン軸30の作動量(回転数)が制御装置100により自動的に設定され、静油圧式無段変速装置(HST)34の油圧出力が自動的に適切な値に設定される。
【0028】
なお、前後進レバー10の前進側又は後進側への切り替えで前後進レバー10の回動基部に設けている図示しない切替スイッチを作動させる等の方法で、制御装置100が静油圧式無段変速装置(HST)34のトラニオン軸30の回動方向を前進側又は後進側に設定する。このトラニオン軸30の回動方向は、切替弁63(
図4)で決定する。そして、トラニオン軸30の回動角度が、アクセルペダル15の踏み込み量に応じて変化する。トラニオン軸30の回動角度は、比例弁65の電磁弁への電流量で決定する。
【0029】
さらに、バルブスティック時などの緊急時には、操縦部にあるブレーキペダル16,16を目一杯踏み込むと強制的にHSTトラニオン軸30をニュートラルに戻すことができる。ブレーキ16,16を踏むときは、オペレータはアクセルペダル15から足を離しているので、トラニオン軸30は中立に戻る。このときトラニオン軸30が自然に戻る又は強制的に高速で戻すかは、機種により異なる。
【0030】
図4に示すHST34の油圧回路34cにおいて、不純物でバルブなどが詰まる(バルブスティック)際には、操縦部にある緊急停止レバー(図示せず)を引いて、HST34のトラニオン軸30をニュートラルに戻す。
【0031】
図2に示すトラクタの全体平面図に示すように、ハンドル7の回りのハンドルポスト6にはスロットルレバー11と前後進レバー10が左右に配置されている。スロットルレバー11の右側のステップフロア13上にはアクセルペダル15が配置されている。アクセルペダル15はHST34のトラニオン軸30の回動角度の調整を行うことができる。
【0032】
さらに、操縦席9の右側のレバーガイド12aには最高速設定ダイヤル14a、車速緩慢度応答ダイヤル14b及びクルーズ走行スイッチ14cが前側から後側に順に一列に配置されている。なお、前記ダイヤル14a,14bとスイッチ14cは前後方向に一列に順に配置されていれば良く、ダイヤル14a,14bとスイッチ14cの配列順序にはこだわらない。
最高速設定ダイヤル14aはダイヤル式であり、トラニオン軸30の回動角度を調整して車体の最高速度を規制するものであり、所定の最高速を操縦者が決めることができるように、例えば約15〜30km/hの範囲にダイヤル式に変更できる構成としている。したがって、アクセルペダル15を最大まで踏み込んでも、最高速設定ダイヤル14aで規制している速度までしか出せない構成としている。
【0033】
車速緩慢度応答ダイヤル14bもトラニオン軸30の回動速度を変更設定するものである。アクセルペダル15を踏むと、アクセルペダルセンサ15aで目標となる速度、すなわち目標となるトラニオン軸30の回動角度が決まるが、この目標となるトラニオン軸30の回動角度の位置までに、トラニオン軸30が到達する時間を変更するものである。例えば、車速緩慢度応答ダイヤル14bを鈍感(スロー)にしておくと、アクセルペダル15を素早く踏んでも、トラニオン軸30の目標となる回動角度への到達時間がゆっくりとなるので、ゆっくりと加速していく構成である。この目標位置への到達時間の変更は、比例弁65(
図4)への電流のデューティー比を変更することで行う。この車速緩慢度応答ダイヤル14bによる所定の車速に達するまでの時間は、例えば約3秒間から約6秒間までとダイヤル式に変更できる構成としている。
【0034】
クルーズ走行スイッチ14cは入り切り式のスイッチであり、ある特定の速度で走行しているときにこのクルーズ走行スイッチ14cを入りにすると、アクセルペダル15から足を離しても、そのときの速度を維持する構成である。すなわち、クルーズ走行スイッチ14cは該クルーズ走行スイッチ14cを入れたときの車速に合致するように、トラニオン軸30の回動角度を一定とし、したがってHST34の出力が一定に保持されて車速が一定に保持される。クルーズ走行スイッチ14cを入れた後でアクセルペダル15から足を離しても、そのときの速度を維持する。
【0035】
このように最高速設定ダイヤル14a、車速緩慢度応答ダイヤル14b及びクルーズ走行スイッチ14cのいずれかを入りとするだけで、HST34のトラニオン軸30の回動角度を予め設定された3種類のいずれかに設定できるので、これらのダイヤル14a,14bとスイッチ14cを設けない場合に比較して操縦性が良くなる。しかも、ダイヤル14a,14bとスイッチ14cは操縦席9の隣接位置に前後方向に一列に並べて配置されるので、これらのダイヤル14a,14bとスイッチ14cの選択に迷うことがなく、目的のダイヤル、スイッチを素早く入れることができる。
【0036】
これらのダイヤル14a,14bとスイッチ14cはまとめてサーボスイッチとも呼ばれているが、操縦席9に隣接する右のレバーガイド12aに前後方向に一列に並べる順序としては前側から後側に最高速設定ダイヤル14a、クルーズ走行スイッチ14c及び車速緩慢度応答ダイヤル14bの順に配置しても良い。
【0037】
また、操縦席9の左側には副変速レバー21、ミッドPTOレバー23a、リヤPTOレバー23b及び4WDレバー24が配置されている。4WDレバー24の外側には副変速レバー21が配置され、リヤPTOレバー23bの外側にはミッドPTOレバー23aが配置されている。
バルブスティック時などの緊急時には、
図2に示す操縦部にあるブレーキペダル16,16を目一杯踏み込むと強制的にHSTトラニオン軸30をニュートラルに戻すことができる。
【0038】
HSTサーボ付きのトラクタにおいて、スロットルレバーセンサ11aで検知するスロットルレバー11の操作位置がハーフスロットル位置の近傍にある場合(エンジン回転数は最高回転数の約半分の場合)には、機体の前方に昇降自在に取り付けられるローダ(図示せず)のバケット内に負荷のかかる荷をのせて作業中であると判定して、前後進レバー10が前進側にある場合(トラニオン軸30の回転方向が前進側にある場合)は、スロットルレバー11はそのままとしてエンジン回転数を一定に維持し、アクセルペダル15を踏み込んでHST34の油圧出力を上げて車速のみを上げるが、前後進レバー10が後進側にある場合にはアクセルペダル15の踏み込み量に応じたトラニオン軸30の回動角度に対応した回転数で、かつダイヤル14bで設定される車速緩慢応答速度より遅い変速速度で変化させて、車速を緩やかに上げる制御を行うようにしても良い。
【0039】
また、アクセルペダル15の踏み込みによりトラニオン軸30の回動角度を上げていき、エンジン回転数がハーフスロットル相当以上になってもアクセルペダル15の踏み込みがさらに続くと、エンジン回転数を上げる。このような車速の上げ方はアクセルペダル15の踏み込み量に応じてコントローラ100で制御されるトラニオン軸30の回動角度調整用の比例弁65の作動量の増加により行われる。
【0040】
上記したエンジン回転数の制御によりハーフスロットル状態では低燃費化が図れる。特に後進時にはエンジン回転数を緩やかに上げることで、エンジン駆動力を減らすことができて低燃費化が図れる。
【0041】
また、前後進レバー10の基部に設けた前後進レバー切替速度センサ10aで検出される前後進レバー10の前後進切替速度に応じて目標速度への到達速度を変更することができる。例えば、オペレータの意図を考慮して前後進レバー10が速く切り替わった場合は目標速度に達する時間を短くすることができる。
【0042】
さらに、前後進レバー10の前後進の切替速度に応じて目標速度への到達速度を変更することができる制御構成(前後進レバー10の前後進の切替速度に応じて、オペレータの意図を考慮し、速く前進と後進が切り替わると、目標とする速度に達するまでの時間を短くする構成)を採用した上で、さらに、このとき後進から前進への切替速度は前進から後進への切替速度に比べて、目標とする速度に達するまでの時間を長くする。これは、オペレータが後進から前進への切り替えに恐怖感を感じやすいので、それを防ぐためである。
【0043】
上記HSTサーボ付きトラクタにおいて、前後進レバー10の前後進の切替速度に応じて目標速度への到達速度を変更する制御と同時に、後進から前進への切替速度はその反対の前進から後進への切替速度より遅くして、目標速度への到達速度が遅くなるようにすることで、オペレータの恐怖感をなくすと共に、さらにHST出力軸回転センサ35aの検出値とトラニオン軸回動角度センサ30aの検出値との偏差(両検出値の差異における所定値からのずれ)により作業機の牽引負荷を判断し、その牽引負荷に応じて静油圧式無段変速装置34の出力の変更速度を調節することで、ローダ作業などの作業を容易に行うことができる。例えば、トラクタの牽引負荷を判断してローダ(図示せず)のバケットに土砂が入っていると判断されると、ローダバケットから土砂を落とさないように、土砂が入っていないときより緩やかに前後進の切り替えを行う制御構成を採用する。
この制御構成もオペレータが後進から前進への切り替えに恐怖感を感じやすいので、それを防ぐために行う。
【0044】
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの両検出値の差異が所定値からずれていると、トラクタに牽引負荷があると判断してフィードバックのスピードを変更することができる。
【0045】
通常はトラニオン軸回動角度とHST出力軸回転数とは比例関係にあるが、走行負荷によってはトラニオン軸回動角度が一定でも、負荷が掛かるとHST出力軸回転数が変化する。エンジン回転数が一定のときに、エンジン回転数の変化を読み取り、その時間当たりの変化量に応じてHSTトラニオン比例弁65の変更速度を調整する。例えば、HSTトラニオン比例弁65(
図5)の変更速度をゆっくりすると、車速もゆっくり下げることができる。
なお、本実施例のトラクタの制御装置の制御ブロック図を
図5に示す。
【0046】
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの前記偏差により、トラクタの牽引負荷を判断してフィードバックのスピードを変更する際に、トラクタの牽引負荷に変化がないにも拘わらず、PTO負荷によりエンジン回転数が減少する場合には、PTO負荷があると判断して車速を下げる制御を行い、PTO負荷によるエンストを防止する。
【0047】
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの前記偏差により、トラクタの牽引負荷を判断して、牽引負荷に変化がなく、スロットルレバー11を操作していないためにスロットルレバーセンサ11aによるスロットルレバー11の動きの検知がない場合に、PTO負荷によるエンジン回転数の変動があったときにはHSTトラニオン比例弁65の変更速度を調整して車速を下げる。
これはPTO作業時に一定車速で走行中にPTO負荷によりエンジンドロップがあった場合は、最悪の場合にエンストするので、そのエンストの防止のためである。
【0048】
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの前記偏差とエンジン回転数の変動を総合的に判断して(トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの検出値にズレがあり、かつエンジン回転数が低下しているときは、負荷大と判定する。またトラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの検出値にズレがあっても、エンジン回転数が低下していない場合は、負荷ではなく機械的な部材の構成によるトラブルが考えられる)、トラクタの牽引負荷とPTO負荷の変動とを両方感知してHSTトラニオン比例弁65の変更速度を調整して車速を変更する制御構成としても良い。
こうしてPTO負荷と牽引負荷の変動を検出し、この負荷に応じて車速を下げることでエンストの防止を図ることができる。
【0049】
本実施例の電子制御式のHST34では、HST34のトラニオン軸30の斜板34dの傾斜角度を低速側と高速側の2ステージ仕様に切替可能とした構成としても良い。
【0050】
図4に示すように、HST34のポンプ34a側に斜板34dがあり、斜板34dは傾斜角度を変更可能であり、一般に可変ポンプ34aという。一方、モータ34b側に一般に斜板はなく、定量モータ34bという。このように以下に述べるHST34のステージの切替機能がない定量モータ34bを用いる場合は、ステージが固定されており、この固定は機種によりいろいろ異なるため、通常は高速、高速近傍、又は高速と低速の中間などである。
【0051】
また、モータ34b側に斜板34eを設けたモータ34bを可変モータ34bという。本実施例では、モータ34b側にも斜板34eを設けて、この斜板34eを動かす制御を行うことができる構成を採用しても良い。そして、可変式としたモータ34bの出力を高速と低速の2段切り替えとしている。これを、斜板34eを有する可変モータ34bのステージ切替という。
【0052】
低速側と高速側の2ステージ仕様は、可変油圧モータ34bの斜板34e角度を変化させることで行い、可変油圧ポンプ34aではできない。可変油圧ポンプ34aの斜板34dは、変速ペダル15の踏み込み量に応じて、その回転角度が変化する。
【0053】
HST34の特性として、ポンプ34a側で斜板34dの傾斜角度を変更して速度を変えてもトルクは変わらず、トルクの変動はエンジン回転数が変更されたときのみ発生する。しかし、モータ34b側の斜板34eの傾斜角度を変更して速度を変えると、トルクも変わり、低速にするとトルクが大きくなり、高速にするとトルクは小さくなる。
【0054】
エンジン負荷が大きくなり、エンジン回転数が低下すると、モータ34b側の斜板34eの傾斜角度を変更してHSTステージを低速にすることにより、HST34の出力速度が低速になるとトルクが大きくなるので、エンスト防止ができ、安定した作業ができるようになる。このときポンプ34a側の斜板34dを低速側にしてもトルクが大きくならないので、安定した駆動力を得られない。
【0055】
このように可変油圧モータ34bの斜板34eの回転角度を変えて車両の走行速度を変えることでトルクが変化するが、可変油圧ポンプ34aで速度を変えてもトルクは変化しないのが油圧式無段変速装置34の特徴であり、本発明は前記HST34の特徴点を利用したものである。
【0056】
また、前記2ステージ切替用のステージ切替スイッチ72(72a、72b、72c)は
図5のブロック図に示す。低速ステージ切替スイッチ72a、高速ステージ切替スイッチ72b、ステージ自動切替スイッチ72cをそれぞれ別々のスイッチとしても良いし、
図12に示すように1つのダイヤルスイッチで前記3種類のステージを選択できる構成としてもよい。
ステージ自動切替スイッチ72cを選択すると、例えば負荷が作用してエンジン回転数が下がると、可変油圧モータ34bの斜板34eの回転角度を低速側(低速ステージ)に自動的に切り替えてトルク増大を図ることができる。
【0057】
また、本実施例の制御構成では高速側ステージで、車両の作業負荷又は走行負荷でエンジン回転数が低下した場合は、低速側ステージに自動切替が出来るようにステージ切替弁73(
図4参照)が設けられている。この場合の制御ブロック図を
図5に示す。
【0058】
また、ステージ切替弁73の切り替えは走行開始前に高速か低速かを選択しておく必要があり、制御装置100が、選択されたステージで走行中にステージを自動で切り替えた方が良いと判断すると一時的に変更可能である。ただし、本実施例とは別の考えで、ステージの切り替えを全自動で行う構成もある。この場合は、車速センサ等により自動切替を行う。また、本実施例では高速ステージと低速ステージの2段のステージ切替の例を示したが、高速と低速の2段に限らず、3段、4段などとしてもよい。
【0059】
エンジン回転数が低下しており、左右両ブレーキ16,16が作動するときは、モータ34b側の斜板34eが高速側にあっても低速側に切り替えない構成とすることができる。すなわち、左右のブレーキペダル16,16が踏み込まれたことを検知するスイッチ77a,77bを左右に設けておけば、左右のブレーキペダル16,16のいずれかが踏み込まれてエンジン回転数が低下しているときは、前記HST34が高速側のステージにある場合は、前記2ステージの切り替えを行わない制御構成とする。この制御のフローチャートを
図6に示す。
【0060】
この
図6に示す制御のフローチャートは、HST34の出力回転がそのままで動力が車輪に伝わっている状態で、HST34の出力が高速側ステージにある場合に、ブレーキペダル16,16を踏むと、エンジン回転数が落ちて低速側ステージに自動で切り替わり、駆動トルクが上がり、ブレーキペダル16,16で車両を止めることができなくなるおそれがあるので、これを防ぐために、上記構成にすることでステージを高速側のままにすることで安全に停止できるというものである。
【0061】
図6のフローチャートで、左右のブレーキペダル16,16を踏んでエンジン回転数が低下したときに、HST34のステージが高速側の場合でもステージの切替は行わないが、片方のブレーキペダル16を踏んだときにエンジン回転数が落ちた場合は切替を行う制御構成としたが、これは、左右のブレーキペダル16,16を踏むということは停車が目的なので、ステージを高速側のままにしてトルクを増大させずに安全に停止させるためである。また、片ブレーキのときには旋回走行であるため負荷の高い作業走行状態であるので、エンジン回転が落ちた場合は、エンスト防止のためにステージを低速側に切り替えて低速走行にしてトルクを増大させる。
【0062】
なお、
図6に示す制御では走行開始後において、エンジン回転数が低下して左右ブレーキ16,16の操作状況を見てステージを判断しており、また、「ステージを設定されているレンジにする」なるステップは走行前にステージをステージ切替スイッチ72で設定することである。また、
図6の最後のステップではエンジン回転数が低下して、片ブレーキのときに高速側ステージであるときには、低速側ステージに切り替えることができる。
【0063】
前記した電子制御HST2ステージ仕様を有するトラクタにおいて、作業走行負荷でエンジン回転数が設定回転数(例えば、アイドリング回転数+300rpm程度)まで落ちたときに、
図7のフローチャートに示すように、HST34のステージが高速側の場合に低速側にステージを切り替え、その後エンジン回転数が復帰しても高速側には切り替えない制御とする。
【0064】
これは、トラクタが作業(走行)負荷でエンジン回転数が落ちたときに自動でステージを低速側に切り替えることでトルクを増大させて安定した作業(走行)ができるようになる。また、エンジン回転数が復帰した時に速度が急に変わるのを防止することで安全性が増す。また、エンジン回転数が復帰しても、一旦エンジン回転数が低下するということは湿田などの負荷が作用してエンジン回転数が低下しやすい状況が予測されるため、その後エンジン回転数が復帰しても高速側には切り替えない制御としている。
【0065】
ただし、ステージ切替スイッチ72を手動で高速側にした場合は操縦者の意思が反映されているので、高速側ステージに切り替える構成とする。
【0066】
また、速度の増減側でステージが自動で切り替わる時及びステージが手動で切り替わる時にブザー60を短く鳴らし、ステージの切替をオペレータに知らせる構成とする。
【0067】
さらに、最高速規制ダイヤル14aの100%の位置でステージ切替スイッチ72の位置が低速の場合(スイッチ72aがオンのとき)、低速ステージの最高速となり、高速の場合(スイッチ72bがオンのとき)も高速ステージの最高速とし、最高速規制ダイヤル14aを回すことで、それに伴い最高速が比例で遅くなるような構成とする。
【0068】
例えば、「高速50%」とある場合は、最高速規制ダイヤル14aの50%のダイヤル位置でステージ切替スイッチ72の位置が低速の場合(スイッチ72aがオンのとき)、低速の最高速の半分の速度となり、高速の場合(スイッチ72bがオンのとき)も高速の最高速の半分の速度となる構成である。こうして、ステージ切替に関係なく最高速規制値を同じにすることができ、操作が容易となる。
【0069】
制御装置100は、ステージ切替スイッチ72が「自動」の場合、すなわち前記ステージ自動切替スイッチ72cが入りのときには、最高速規制ダイヤル14aが100%の位置にあるときは高速側ステージの最高速となるように自動的に設定する構成とする。
【0070】
図8について説明すると、「高速」は高速ステージ選択時において、アクセルペダル15を踏み込んで行ったときの高速での速度変化を示し、「低速」は低速ステージ選択時においてアクセルペダル15を踏み込んで行ったときの速度変化である。「自動」を選択したときのアクセルペダル15を最大踏んだときの最高速度は、高速ステージの最高速度にするという内容である。
【0071】
実線の高速100%は、最高速規制ダイヤルを100%(最大速度)の位置に合わせることで、アクセルペダル15を最大に踏み込むと可変油圧ポンプ34aのトラニオン軸30が100%回動する。点線の高速50%は、最高速規制ダイヤルを50%の位置に合わせることで、アクセルペダル15を最大に踏み込んでもトラニオン軸30は50%までしか回動しない。即ち、アクセルペダル15を最大に踏み込んでもトラニオン軸30は50%までしか回動しないので、速度は半分までしか出ない。
【0072】
低速ステージを選択した場合においても同じであり、低速の速度が高速の速度より低いのは、可変油圧モータ34b側のトラニオン軸31aで斜板34eを低速側に回動させているためである。
この場合はステージ切替に関係なく最高速規制値を同じにすることができ、操作が容易となる。
【0073】
オートクルーズスイッチ14cが「オン」の場合は
図9のフローチャートに示すように、ステージ切替スイッチ72を自分で高速から低速に切り替えた時だけステージを切り替える構成としている。これにより、作業(走行)負荷でエンジン回転が落ちたときに自動でステージを低速側に切り替えることで駆動トルクが上昇し、安定した作業(走行)が可能になる。またオートクルーズ自体の目的はあくまでも一定の速度で走行を維持することであるので、オートクルーズスイッチ14cがオンの時にステージを低速側にしないことで速度変動が防止できる。なお、オートクルーズスイッチ14cがオンである時にも前述のように手動操作でステージを切替ができ、作業性が向上する。
【0074】
図10のフローチャートに示すように、オートクルーズスイッチ14cが「オフ」の時には、作業(走行)負荷でエンジン回転数が設定回転数まで落ちた時にHST34のステージが高速側の場合に、低速側にステージの切替をする構成を採用する。そして、作業(走行)負荷でエンジン回転数が設定回転数まで落ちた時にオートクルーズスイッチ14cが「オン」の場合はステージ切替スイッチ72が自動の場合(スイッチ72cがオン)のみステージを切り替える構成とする。
【0075】
こうして、作業(走行)負荷でエンジン回転数が落ちたときに自動でステージを低速側に切り替えることで駆動トルクが上昇し、安定した作業(走行)ができるようになり、また、オートクルーズ走行を実行中の時に速度変動が防止できる。また、オートクルーズ走行を実行中でも手動操作で切替ができ、作業性が向上する。
【0076】
図11の副変速レバー21のグリップ部の側面図(
図11(a))と背面図(
図11(b))に示すようにステージ切替スイッチ72を副変速レバー21のグリップの背面に設けた。また、副変速レバー21のグリップの側面上にオートクルーズ14cの増速スイッチ14caを設け、グリップの側面下に減速スイッチ14cbを設けても良い。
【0077】
このように変速操作をするレバー21にステージ切替スイッチ72とオートクルーズ14cの増速スイッチ14caと減速スイッチ14cbを設けることで、これらのスイッチ72、14ca、14cbが変速に関するスイッチであることをオペレータが認識しやすく、間違った操作を防止できる。また、ステージ切替スイッチ72が副変速レバー21のグリップの背面にあるため、不用意に操作することがない。
【0078】
なお、
図11に示す場合は、高速スイッチ72b、低速スイッチ72a及び自動スイッチ72cが別々に設けられるのではなくダイヤル式のスイッチ72でステージ低速、ステージ自動、ステージ高速を選択するものであり、スイッチ72の配置位置を示したものである。
【0079】
このように、副変速レバー21のグリップ部の側面図(
図11(a))に示すようにダイヤル式のステージ切替スイッチ72を副変速レバー21のグリップの背面に設けることで変速に関するスイッチ72であることをオペレータが認識し易く、間違った操作を防止できる。また、切替操作が容易にでき、自動的なステージ切替についてはステージ切替スイッチ72が副変速レバー21のグリップの背面にあるため不用意に操作することがない。
【0080】
図11(a)に示すようにダイヤル式のステージ切替スイッチ72を副変速レバー21のグリップの背面に設けているが、副変速レバー21は操縦席9の左側にあり、操縦席9の右側のレバーガイド12aにオートクルーズ自動スイッチ14cやオートクルーズ自動スイッチ14cの増速スイッチ14caを配置している。このようにステージ切替スイッチ72とオートクルーズ関連のスイッチ14c、14caが互いに離れた場所に配置されるので、誤操作を防止できる。また、副変速レバー21のグリップの側面下に減速スイッチ14cbを設けても良い。
【0081】
図12に示すように、ステージ自動切替スイッチ72cとステージ切替スイッチ72の低速スイッチ72aと高速スイッチ72bに代えて一つのダイヤルスイッチ72で自動ステージ切替とステージ低速切替、ステージ高速切替が可能な構成として操縦席の側に配置すると、一つのダイヤルスイッチ72でステージ切替を行うことができ、この場合はオペレータによるステージ切替の誤操作をなくして、操作性が優れたものとなり、省スペース、低コスト化が図れる。