(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態によるプリフォームの圧縮成形金型について図面を参照しながら説明する。
なお、金型構造,工程を理解しやすくするため切断端面図を用いているが、
図5及び
図8のAのスライドインサート金型36のノズル形成孔36aについては奥行線を記載し、コイルバネ45については全体を表示している。
図1及び
図2を参照にして、本発明の圧縮成形金型を組み込んだ圧縮成形装置のシステム例を示す。樹脂供給装置1はシリンダ状の溶融樹脂の押出機2とカッタホイール8を設けている。押出機2は、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂素材を加熱溶融及び混練して、溶融樹脂を安定に搬送するため内部のギヤポンプに搬送する。ギヤポンプは、導管を介して下向きのノズル(図示せず)が設けられている押出ノズル4に接続され、押出ノズル4はそのノズル下端部に押出開口を形成し、溶融樹脂は押出開口から略円柱形状に形成されて連続的に下方に押し出され、カッタホイール8に供給される。カッタホイール8には、回転ターレット9に設けられたカッタで溶融樹脂が切断され、カッタホイールには、その切断された溶融樹脂(ドロップ)を把持する把持部材9a(
図8のA)が設けられている。
【0012】
カッタホイール8の下流側には、圧縮成形装置31とブロー成形機52が配設され、圧縮成形装置31には、回転支持体32及び回転支持体32に配設された複数個の圧縮成形金型33が備えられている。回転支持体32は、
図2に示す場合では、カッタホイール8と反対方向の反時計方向に回転駆動させられる。圧縮成形金型33は、回転支持体32の周方向に等間隔をおいて複数個配設され、円軌道を移動する。
カッタホイール8は、溶融樹脂把持部材の回転軌道と圧縮成形金型33のキャビティ金型34(
図1参照)の回転軌道の接線が同方向に接し、それらの周速が一致するようにしている。それらの回転軌道の位置または区間では、溶融樹脂の把持部材9a(
図8のA)がキャビティ金型34の直上方に位置するように同調回転される。この際、溶融樹脂は把持部材9aから解放されてキャビティ金型34に投下される。
【0013】
次に、プリフォームの圧縮成形金型とこの圧縮成形金型で成形されるプリフォームについて、詳細に説明する。
先ず、
図3に示すプリフォーム5から説明する。
図に示すように、プリフォーム5は上部から下部に向かって、ノズル部5a、胴部5b及び底部5cを備えている。ノズル部5aには、容器の成形時に飲料などの注入・注出口となる開口5d、キャップの雌ネジが螺着する雄ネジ部5e、該雄ネジ部5eの下部に配置される環状のカブラ部5f、及びネックリング部5gとからなる。ブロー成形される部分である胴部5bは、ネックリング部5gの下方に形成され、胴部5bの下部には、縦断面が円弧形状の底部5cが設けられている。
【0014】
図4及び
図5は、上述した圧縮成形金型33の端面図であり、以下、圧縮成形金型33について詳細に説明する。
圧縮成形金型33は、雌型であるキャビティ金型34、雄型であるコア金型35、左右に分離する分割型であるスライドインサート金型36及び溶融樹脂が供給されるキャビティ金型34の外周囲に配設されるガイドリング37を備えている。そして、
図5に示す圧縮成形金型33の開状態では上下方向における上方側にコア金型35が配設され、コア金型35の支持部35aの下方にスライドインサート金型36が配設され、これらの下部にキャビティ金型34が配設される。
キャビティ金型34は、ほぼ円柱形状であって、上部の内側寄りに上方に突出する環状凸部34bが形成され、環状凸部34bの上部には円形の開口34aが設けられ、開口34aの下方に成形孔38(なお、成形孔38は、圧縮成形金型33の開時及び閉時において、形態が変化しても便宜上成形孔38とする)を形成し、成形孔38の内周面はプリフォームの胴部から底部にかけての外周面を形成する。この環状凸部34bの外周側には間隔を空けて円環形状の位置決めガイド部材34cが設けられている。
【0015】
そして、環状凸部34bと位置決めガイド部材34c下方との間には、
図6に示す円環形状の摺動部材44が配設されている。摺動部材44は成形孔38に気体を供給する気体導入部となる多孔質環44aと本体44eとによって形成され、本体44e上内端部に形成された段部44fに多孔質環44aが装着される。なお、摺動部材44の本体44eの材質は、金型用の合金材であれば特に問わないが、本実施形態では、好ましい鋼材SKD11や耐摩耗性銅合金SAM214(日立金属製)を使用している。
図5に戻って摺動部材44は、環状凸部34bの外周面及び位置決めガイド部材34c下方との間で、上下方向へ摺動可能に配設されている。この環状凸部34bと摺動部材44は後述のように溶融樹脂を圧縮成形する際、成形孔38を減容させて保圧を行うための成形摺動部となる。なお、摺動部材44を配設容易にするため、摺動部材44またはキャビティ金型34を適宜分解組み立て可能な構造にしておくと好ましい。
環状凸部34bと位置決めガイド部材34c下方との間には円環状の摺動床34dが設けられ、該摺動床34dには、周方向に間隔を空けて複数のバネ収容室34g(
図7参照)が設けられ、各バネ収容室34gには、コイルバネ45が配設されている。コイルバネ45は、圧縮状態で上端部が摺動部材44の下面に連結され、下端部がバネ収容室34gの底部に連結されている。
【0016】
コア金型35は上部に支持部35aを設け、支持部35aの下面には、該下面の中央から下方に延びる略円柱形状のコア本体35bが設けられている。このコア本体35bの外周面は、プリフォームの天面乃至内周面を形成する。また、支持部35aの下面には、コア本体35bと同心円上に配置されている環状凹部35cが上側に窪むようにして形成されている。
スライドインサート金型36は左右に2分割され、垂直面に対して左右対称の半円環であり、両者が一体となって環状になる。スライドインサート金型36は、分割型が組み付けられた状態で中央を上下に貫通するノズル形成孔36aが形成されている。ノズル形成孔36aはプリフォーム5(
図3参照)の口部(ノズル部ともいう)5aの外周面を形成し、雄ネジ5eやカブラ部5f,ネックリング部5gの上面側などを形成するノズル形成部となる。
図4に示すように、プリフォームの圧縮成形金型33の型締め時では、
図3に示すノズル部5aとほぼ同じ空間が形成される。
スライドインサート金型36の上部には、半円弧状突部36bが形成され、スライドインサート金型36が左右一体となった状態で環状の突部となって、コア金型35の環状凹部35cと嵌合するように形成されている。
【0017】
次に、キャビティ金型34とスライドインサート金型36についてさらに詳細に述べる。
ノズル5のネックリング5g(
図3参照)は、キャビティ金型34とスライドインサート金型36の境界部で形成され、ノズル形成孔36aの下部には、半径方向外側下方に広がる、ネックリング5gの上面側を形成するネックリング上形成部36cが設けられ、環状凸部34bの上端面にはネックリング5gの下面側を形成するネックリング下形成部34fが設けられている。
スライドインサート金型36には、ネックリング上形成部36cの外周側に隣接して押圧部36dを形成し、押圧部36dは摺動部材44の上端面44bに対応して当接する位置に配置される。これらの押圧部36dと上端面44bが圧接すると、摺動部材44の内周面が環状凸部34bの外周面を摺動する。こうして、当初ネックリング5gの厚さ以上にあった隙間を、ネックリング上形成部36cとネックリング下形成部34fとの間の長さを縮小して(
図10のA及びBの隙間S1,S2参照)、ほぼネックリング5gの厚さにほぼ一致するように構成している。スライドインサート金型36の押圧部36dの周囲には、環状に下方へ突出する位置決め突部36eが形成されている。位置決め突部36eは、キャビティ金型34の位置決めガイド部材34cの内側に嵌合する。
【0018】
図7は、キャビティ金型34に配設されている状態の気体供給手段を示す。キャビティ金型34の摺動部材44には、該摺動部材44の上端部内周面に位置させて上述した多孔質環44aが設けられている。多孔質環44aは多孔質材料で形成され、本実施形態では、ステンレス等の金属焼結材によって形成され、表面及び内部を網の目状に連通する孔径が約20μm乃至それ以下の微細な孔が無数に形成されている。この焼結材としては、例えば、ポーセラックスII(新東工業株式会社:ポーセラックスは登録商標),KuporeX(株式会社クボタ:登録商標),ヒポラス(株式会社神戸製鋼所:登録商標)などが挙げられる。この多孔質環44aを配設する箇所は、環状凸部34bの外周面と摺動部材44の内周面との摺動面近傍のプリフォーム形成面が好適であり、より好ましくは、保圧過程で摺動部材44が環状凸部34bと接触・摺動する部分である成形摺動面44a’(太線部)を含む域、もしくはその成形摺動面44a’の域にのみ配設するとよい。換言すれば、圧縮成形時において、圧縮成形初期乃至保圧中は成形孔に臨んで成形孔38を形成するが、保圧完了時において成形孔38に表れなくなる部分若しくはその周辺である。
【0019】
具体的には、本実施形態では、ネックリング上形成部36cとネックリング下形成部34fとの間の長さが縮小する部分であり、環状凸部34bの上端部が摺動部材44の内周面を摺動する部分に、少なくとも形成する。本実施形態では、摺動部材44の上内周端に多孔質環44aがフイットする段差部を形成して、多孔質環44aを段差無く(上端面44bや摺動部材44内周面(溝44cを除く)と面一に)嵌め込んでいる。
【0020】
多孔質環44aに、気体を供給する気体供給手段48は、供給ノズル49がキャビティ金型34に併設され、供給ノズル49のノズル部49aがガイドリング37に形成した貫通溝37bを通して、先端部が摺動部材44の底部とキャビティ金型34の摺動床34dとの間の手前側(
図7ではガイド部材34c下方の内周面)に配設され、それらの間に気体を供給することができる。
通常であれば、摺動部材44は、環状凸部34bと位置決めガイド部材34cとの間で気密性をもって配設され、摺動床34d側から多孔質環44aへ気体を供給するための孔を設ける。しかしながら、本実施形態では、摺動床34dから多孔質環44aに気体を供給できるように、摺動部材44の内周面の周方向に複数本の溝44cを上下方向に形成している(
図6)。溝44cの深さは気体が通る程度の大きさでよい。気体供給手段48には、図示しない気体の供給源や圧力調整弁などが配設され、成形孔38に噴出させる気体は、空気や炭酸ガス、窒素などの不活性ガスを使用することができる。
【0021】
図5に戻って、円筒状のガイドリング37は、キャビティ金型34の外周面34eに配置され、その外周面34eを上下方向へ摺動することができる。ガイドリング37の上端部には、上方に向かって半径方向外側に拡径するテーパ状の内周円錐台面37aを形成している。圧縮成形金型33の型締め時では、外周円錐台面36fが、スライドインサート金型36の内周円錐台面37aを若干摺動した後嵌合する。
詳細な説明は省略するが、本実施形態では、圧縮成形金型33に圧縮成形中のプリフォーム5のノズル部5a、胴部5b及び底部5cを冷却する冷却装置などの流路が配設されている。流路には、冷却水の供給源から冷却水が供給され、冷却水の流量調整や温度調整などもすることができる。また、説明は省略するが、本実施形態では、キャビティ金型34、コア金型35及びスライドインサート金型36には、各々相対的に上下動させる移動手段、スライドインサート金型36にはさらにこれを左右に開閉するスライド機構を備えている。
【0022】
図1に示すように、圧縮成形装置31の下流側には、回転式のプリフォームの取り出し機構50(
図1)が配設され、圧縮成形装置31で圧縮成形されたプリフォーム5を圧縮成形装置31から取り出し、ブロー成形機52に移送する。ブロー成形機52は、プリフォームを高圧空気で延伸してPETボトルを成形する。必要であれば、ブロー成形機52にヒータなどの加熱設備を配設する。
ブロー成形機52の後流側にはPETボトルの取出機53が設けられ、ブロー成形機52から取り出したPETボトルを充填機側へ移送する。
【0023】
次に、プリフォームの圧縮成形金型33によるプリフォームの成形手順について説明する。
図2及び
図8のAを参照にして、キャビティ金型34は回転支持体32によって円軌道を移動する。一方、カッタホイール8に設けられている溶融樹脂43を把持する把持部材9aが、キャビティ金型34とは別途の円軌道上を回転する。なお、
図8のAは、圧縮成形装置31の複数ある圧縮成形金型33の1つを示している。初期状態ではキャビティ金型34、スライドインサート金型36及びコア金型35は上下に離間して配置されている。把持部材9aとキャビティ金型34の円軌道は上下方向に1接点(接線)を共通にして、キャビティ金型34の成形孔38の底部に溶融樹脂43を供給するように構成されている。
【0024】
把持部材9aは、溶融樹脂43をキャビティ金型34に供給すると、キャビティ金型34の軌道から離れる。次に、左右に開状態であったスライドインサート金型36をコア本体35bの中心方向に向けて移動させて、
図8のBに示すように閉じて環状にする。コア金型35が、閉じられたスライドインサート金型36へ下降すると、スライドインサート金型36は、上部で半円弧状突部36bが環状凹部35cと嵌合して一体となる。また、コア本体35bが、ノズル形成孔36aを貫通した状態となる。
図8のCに示すように、さらにコア金型35が下降すると、コア本体35bの先端部が成形孔38内に進入し、スライドインサート金型36がガイドリング37に当接する。すなわち、スライドインサート金型36の下側外周部にある外周円錐台面36fが、ガイドリング37の上側内周面の内周円錐台面37aに一時的に当接後、これらの面が互いに嵌合して摺動し、ガイドリング37とスライドインサート金型36とが芯出しされた状態で当接する。
【0025】
コア金型35の下降によって、コア本体35bが溶融樹脂43を圧縮し始め、プリフォーム底部を形成する側から胴部を形成する側に向かって流動させるとともに、さらなるコア金型35の下降によって、キャビティ金型34とスライドインサート金型36とが、位置決めガイド部材34cと位置決め突部36eとによって嵌合する。これらの位置決めガイド部材34cと位置決め突部36eは位置決め部材であり、スライドインサート金型36(及びコア金型35)とキャビティ金型34と、よりいっそうのセンター出しを行うことができる。
なお、本発明においては、摺動部材44がプリフォームの圧縮成形稼働中(プリフォームの生産中)、常に摺動される金型(本実施形態ではキャビティ金型34の環状凸部34b)に嵌合されている状態であり、プリフォームの圧縮成形,金型取り出しのたびに成形摺動部の抜き差しによる分離,結合がないため、前述の内周円錐台面37aと外周円錐台面36fとの嵌合によるガイドリンク37とスライドインサート金型36との芯出しにより、キャビティ金型34とスライドインサート金型36との芯出しがガイドリング37を介して十分行われる場合は、位置決めガイド部材34cと位置決め突部36eの嵌合は緩めに設定することが可能であるし、省略することも可能である。また、キャビティ金型34、コア金型35及びスライドインサート金型36を相対的に上下動させる移動手段の前後左右方向(水平方向)のガタつきに問題がないようであれば、さらにガイドリング37も省略可能である。ガイドリング37を省略する場合は、左右のスライドインサート金型36をコア金型35との当接押圧により型締めできるよう、環状凹部35cの外寄り内周面、及び、半円弧状突部36bの外周面を内周円錐台面37a及び外周円錐台面36fと同様に円錐台面同士で当接させるのが好ましい。
【0026】
圧縮成形が行われると、
図8のC、
図9のDに示すように、キャビティ金型34、コア金型35及びスライドインサート金型36によって、プリフォーム形状の隙間が形成され、溶融樹脂43がその隙間を充填しようとする。
詳しくは、
図10のAに示すように、スライドインサート金型36の押圧部36dが摺動部材44の上端面44bに圧接(当接)することによって、プリフォーム形状の隙間が形成される。ネックリング下形成部34fとネックリング上形成部36c(以下、ネックリング形成部34f,36cとする)の隙間は、実際のプリフォーム5のネックリング5gの厚さよりも大きな隙間S1を有している。
【0027】
そして、コア金型35によって溶融樹脂がさらに圧縮され、プリフォーム胴部側からの溶融樹脂の流動はネックリング側とノズル側とへ分岐しようとするが、
図8のCに示すように、少なくともネックリング下形成部34f(ネックリング形成部34f、36c)に溶融樹脂が浸入する前に、空気供給手段48によって多孔質環44aに気体を供給し、ネックリング形成部34f,36cの間の隙間S1に気体を噴出・圧入させる。したがって、
図9のDに示すように、溶融樹脂43がネックリング形成部34f,36cを通過する際には、摺動面44dへの接触が抑制される。
気体の噴出圧力は圧縮成形中の溶融樹脂が成形孔38内を満たす前には多孔質環44aの摺動面44dに溶融樹脂が接しない程度以上に圧力調整するのが好ましい。すなわち、圧縮流動されている溶融樹脂が最後に摺動面44dに到達して成形孔38内を満たせる程度以上に圧力調整するのが好ましい。
【0028】
そして、
図9のEに示すように成形孔38内が溶融樹脂で満たされた直後は、コア金型35は最下端位置よりも僅かに上方にある(
図10のAに示す状態)。スライドインサート金型36、コア金型35、キャビティ金型34は、冷却水の循環により冷却されているので、型締め時には溶融樹脂43が冷却されていき、溶融樹脂の収縮が生じる。
この溶融樹脂の収縮分に合わせて、さらにコア金型35が下降して保圧がされる。すなわち、コア金型35が下降すると、押圧部36dがコイルバネ45の付勢力に抗して摺動部材44を下方へ押圧する。コア金型35の下降によって、
図10のBに示すように、ネックリング形成部34f,36cの間の隙間S2が狭くなる。この際、摺動部材44の内面および多孔質環44aの成形摺動面44a’(
図7、X部拡大図)と環状凸部34bの外面とが摺動する。
【0029】
多孔質環44aで気体が噴出されない場合は、早期にネックリング形成部34f,36cの間の隙間S2に溶融樹脂が入り込み、溶融樹脂が多孔質環44aの内面と接触し、その後、環状凸部34bが多孔質環44aの内面を相対的に上昇すると、溶融樹脂が多孔質環44aの内面に接触しながら大きく上昇する。このように、溶融樹脂が大きく動いている部位に触れると、溶融樹脂がPETのように配向性のある性質のものであると、過度の樹脂配向を起こし、プリフォームの外観に不良をもたらし、ブロー成形時においてはネックリングが変形するおそれがある。
【0030】
本実施形態では、気体噴出手段48によって多孔質環44aの摺動面44dから気体を噴出しているので、内面と溶融樹脂の接触を抑制させることができる。気体は溝44cの隙間を通り溝44cの上端から多孔質環44aの網目状の通路全体に行き渡り、ネックリング形成部34f,36c間の隙間S2の周部全体に気体を噴出(
図7のX部拡大図参照)することによって、圧縮成形の当初、多孔質環44aの摺動面44dに溶融樹脂を接触しないようにする。そして、保圧時において、好ましくはコア金型35が最下端位置に達したときに、多孔質環44aと環状凸部34bとの摺動が終了し、隙間S2がプリフォーム5のネックリング5bと同じ間隔になるときに、溶融樹脂が摺動面44dに到達するように気体の圧力調整や気体噴出のON/OFF、圧力開放を設定すると、多孔質環44aの成形摺動面44a’が成形孔38のネックリング成形面を構成しなくなるので、溶融樹脂と成形摺動面44a’との接触が免れることができる。
図8を参照にした気体噴出開始のタイミングとしては、例えば、キャビティ金型34,コア金型35,スライドインサート金型36が組み合わさって成形孔38が形成された直後(
図8C)が挙げられるが、より好適には樹脂がネックリング部に差し掛かったとき(
図8Cより僅かに後)が好ましい。また、気体噴出のタイミングは、タイマーなどでもよいが、雌金型の位置や雄金型位置、あるいは雄金型と雌金型との相対位置関係から成形孔38が形成されたときまたはその直後に気体を噴出するように設定すると好ましい。
こうして、溶融樹脂の樹脂配向を防止することができ、品質のよいプリフォームを成形することができる。
【0031】
また、従来では摺動部の一方をスライドインサート金型に設け、摺動部の他方をキャビティ金型に設けてそれぞれを嵌合摺動部とし、これらの金型を上下に移動させながら、摺動部を嵌合(;分離/結合)させていたので、従来ではスライドインサート金型とキャビティ金型との位置決めを行うガイドリング37や、位置決めガイド部材34cおよび位置決め突部36eを高精度に設けるなど、成形孔の一部をなす嵌合摺動部が厳しい嵌め合い代の中で成形(金型の分離/結合)のたびに極めて正確に嵌め合わせられるよう、工夫や配慮が必要であった。
本実施形態では、摺動部材44をキャビティ金型34の環状凸部34に設け成形摺動部としたので、摺動する部分がキャビティ金型34に常に接触することとなり、摺動部(成形摺動部)の嵌め合わせのための苦慮が必要なくなった。よって、圧縮成形金型33の製造コストを安くすることができる。
また、ネックリング5gを形成する箇所の近傍に成形摺動部を設けているため、保圧中、ネックリング部を形成する部分に溜まっている樹脂を、間近にあるノズル側に保圧補充できるので、ノズルのヒケを抑制でき、効果的に保圧することができる。
さらに、ネックリングの半径方向から偏った荷重を加えることなく、上下方向の摺動により保圧を行うため、ノズルやネックリングの半径方向の歪みは抑制される。
【0032】
なお、隙間S2が形成されたときに、多孔質環44aの内面が成形孔38から遮蔽される場合では、供給ノズル49からの気体の噴出を停止させず、連続的に気体をノズル部49aへ供給し続けても良い。摺動面44dが閉塞されるので、成形孔38への気体の噴出が自動的に停止される。また、圧縮成形時の最終時において、成形孔38に摺動面44dを露出させるような場合では、摺動が終了したときのタイミングを見計らって、供給ノズル49からの気体の噴出を別途設けられたバルブなどを制御することによって停止または圧力を開放するとよい。
具体的には、気体噴出終了のタイミング、または気体噴出終了と共に圧力開放するタイミングとしては、圧縮成形終了直前(本実施形態では
図9E,F:拡大
図J,K)が好適である。また、気体噴出終了、または気体噴出終了と共に圧力開放するタイミングは、気体噴出のときと同様、タイマーの他に、雌金型の位置や雄金型位置、あるいは雄金型と雌金型との相対位置関係から割り出して設定すると好ましい。
気体の噴出を停止または圧力を開放しても、多孔質環44aの気孔は微細であるので、溶融樹脂が入り込むことも詰まることもない。
圧縮成形が終了すると、コア金型35及びスライドインサート金型36が上方へ移動し、キャビティ金型34との離型が行われる。次いで、プリフォーム5からコア本体35bが引き抜かれる。そして、スライドインサート金型36が左右に開かれることによって、プリフォーム5がスライドインサート金型36から取り除かれる。
【0033】
図1に示すように、圧縮成形装置31の回転方向の下流側には、キャビティ金型34から成形されたプリフォーム5を取り出す取り出し機構50を配設し、スライドインサート金型36から取り除かれたプリフォーム5が取り出し機構50によって下流側のブロー成形機に回転搬送される。
ところで、圧縮成形終了後のプリフォームの取り出しやブロー成形における圧縮エアーのシール(ノズルシール)の際にプリフォーム5のノズル部5aの変形を防止する観点からノズル部5aの温度は低い方が好ましく、一方、ブロー成形するためには、胴部5bの温度が低いと近赤外などの赤外線ヒータや熱風、幅射熱などで熱を加える必要がある。よって、成形されたプリフォーム5は、取り出し機構50において、プリフォームの搬送中に温度が低い場合は、赤外線ヒータなどでプリフォーム5を加熱する。
【0034】
圧縮成型金型33より圧縮成形が終わったプリフォームが逐次連続して取り出されブロー成形機52に投入されるため、ブロー成形機52の成形速度が圧縮成形金型33の成形速度以上であれば、圧縮成形されたプリフォームはブロー成形までの待機時間がなく、すぐさまブロー成形が可能となる。取り出し機構50からブロー成形機に搬送されたプリフォーム5はブロー成形金型にセットされ、高圧空気が注入され縦、横方向に延伸して容器に成形される。なお、圧縮成形装置31、取り出し機構50およびブロー成形機52を歯車等により機械的に連結させるか、若しくはサーボモータにより電気的に同期させ、圧縮成形されたプリフォームがブロー成形までの時間を一定とすると、ブロー成形直前の個々のプリフォーム温度のばらつきを抑えることができるので、安定したブロー成形が可能となる。
本実施形態では、保圧時における圧縮成形金型の成形孔を一時的に構成するような摺動する部分や、その近傍に、気体を噴出させて溶融樹脂の金型摺動部分への接触を防止し、著しい樹脂配向を防止できる。よって、その後のブロー成形によって品質の良いボトルを形成することができる。
【0035】
図11は、多孔質環の配設場所を変更した例を示す。
上記実施形態では、
図7に示すように、多孔質環44aを摺動部材44に装着し、摺動部材44の内周面に溝44cを形成して多孔質環44aに気体を供給したが、
図11に示すように、多孔質環36gをスライドインサート金型36のネックリング形成部に装着し、摺動部材44には、溝44cに代えて摺動部材44の内部に多孔質環36gの底面まで延びる気体を流通させる通気孔44c’を形成し、多孔質環36gに気体を供給することもできる。
なお、多孔質環44aはインサートスライド金型36と同様に2分割(若しくは2分割以上)となり、併せて多孔質間44aとなる。また、インサートスライド金型36に通気孔を形成し、インサートスライド金型36側から気体を流通させることも構成上可能である。
このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を得ることができ、さらに設計上のレイアウトの向上を図ることができる。
【0036】
図12は、気体導入部の変形例を示す。
上記実施形態では、摺動部材44に多孔質環44aを配設して気体導入を行ったが、本変形例では、多孔質環44aを用いない例であり、
図12はスライドインサート金型36の分割面を正面にして見た端面図である。
図12のように、スライドインサート金型36の分割面にプリフォーム5のネックリング5g(
図3参照)の形成部に臨む(連通する)部分に深さ約20μm程度の溝67を気体導入部として形成している。溝67は気体供給用孔68と連通し、気体供給用孔68はスライドインサート金型36の内部を貫通する管路を介して気体供給装置69と連結されている。この溝67を気体導入部として活用し、前後に分断されているスライドインサート金型36が結合したときにできるその約20μm程度のスリット状の溝67から気体を圧入するようにしてもよい。気体の圧入によって、ネックリング5gの形成部への溶融樹脂の入り込みを遅らせることができる。
また、
図12のように、プリフォーム5のノズル天面側に気体を流通させ、溶融樹脂の入り込み防止するエアベント70を形成し、エアベント70は気体吸引用孔71と連通し、エアベント7を介して気体吸引装置72を接続するようにしてもよい。このノズル天面側のエアベント70については、ノズル部5a(
図3)側へ樹脂の流動を促進するよう、気体を吸引するようにしている。
【0037】
図13は、気体導入部の他の変形例である。
本変形例では、
図7における摺動部材44の多孔質環44aを排し、
図13に示すように摺動部材44と環状凸部34bとの嵌合のクリアランス(隙間)cを約20μmに設定し、摺動面44dに臨む輪状のスリットsを形成して、気体を導入可能にしてもよい。気体の導入は、摺動部材44に形成された溝44cから供給される。
さらに、上記実施形態では、圧縮成形金型の成形対象をプリフォームとしたが、
図14又は
図15に示すようなブロー成形する必要の無い通常の雄型61と雌型62とで形成されるカップ63などの圧縮成形による製品にも適用が可能である。
すなわち、
図14では、雄型61に多孔質環64を配設し、カップ63のフランジ63aを形成する雌型62の摺動面62aに気体を供給するようにしている。また、
図15では、雌型62に多孔質環64を配設し、多孔質環64は摺動部材65と協働してカップ63の足部63bを形成し、摺動部材65との摺動面64aを有する。
その際は、
図14のように上端にフランジ63aを備えたカップ63でもよいが、
図15のように例えば足つきのカップ63で、足部63bと胴部63cとの方向へ樹脂流動が2方向(若しくは多方向)へ分岐するものの方が、成形摺動面64a側への樹脂の流動を抑えることができ、成形早期の溶融樹脂の成形摺動面64a側への流入を抑制し、過度の樹脂配向を抑制する点で、より効果的である。
なお、
図14及び
図15中の符号66は多孔質環64への気体導入孔である。
【0038】
図16は、本発明の第2の実施形態である。
なお、本実施形態では、上記第1の実施形態に対して、摺動部材のみ異なるので、他の部分については、上述の第1の実施形態で用いた符号を付して説明する。
上記第1の実施形態では、摺動部材44に気体噴出環44aを備え、気体噴出環44aから気体を噴出することによって、圧縮成形時における成形摺動面での溶融樹脂の樹脂配向を防止するのが好ましい形態であった。しかしながら、上述したプリフォームのネックリングなどの樹脂配向が問題とならない場合は、
図7(X部拡大図)に示すような気体導入部(多孔質環44a、溝44c)や気体供給手段48は必要としない。
したがって、プリフォームのネックリングに限らず、このような樹脂配向が特に問題とならない成形品では、気体の噴出は必要がないので、気体導入部や気体供給手段は必要としない。
本実施形態では、
図16に示すように、摺動部材54の本体54aの内面は段差や溝のない内周面54bを形成し、内周面には筒部材54cが配設されている。本体54aと筒部材54cは異種材料で形成され、筒部材54cは摩擦係数が小さく磨耗に強い材料で形成されている。
このように、本体54aと筒部材54cを異種材料とすることによって、筒部材54cの部分のみを高価な材料とすることで、キャビティ金型の材料コストを軽減することができる。
なお、本実施形態では、摺動部材54の本体54aと筒部材54cについては別部材(2部材)によって形成したが、一体成形で1つの部材で形成してもよい。
また、摺動部材54の本体54aの材質は、上記第1の実施形態と同様に、金型用の合金材であれば特に問わないが、好ましい鋼材SKD11や耐摩耗性銅合金SAM214(日立金属製)を使用している。
【0039】
図17は、本発明の第3の実施形態である。
なお、本実施形態では、上記第1の実施形態に対して、摺動部材の配置箇所のみ異なるので、同一名称部分については、第1の実施形態で用いた符号を付して説明する。
上記実施形態では、摺動部材44をキャビティ金型34に設けたが、
図17のように、スライドインサート金型36側に摺動部を設けてもよい。なお、
図17中の圧縮成形金型の中心線よりも左側は、溶融樹脂の保圧前の圧縮状態、右側は保圧時の圧縮状態を示す切断端面図である。
圧縮成形金型33のスライドインサート金型36の、成形孔(この実施形態では
図3におけるプリフォーム5のノズル5a外面乃至ネックリング5g上面の形成部分)の下部周縁部に摺動部材44の収容孔36gを形成し、収容孔36gに摺動部材44を上下方向へ摺動可能に配設し、収容孔36gの上面と摺動部材44の上面との間にはコイルバネ45を配設し、摺動部材44を下方側へ付勢している。収容孔36gの下部側には、摺動部材44の抜け止め及びストッパとしての役割を果たすストッパリング60を取付けている。スライドインサート金型36が下降若しくはキャビティ金型34が上昇すると、摺動部材44は、摺動部材を設けなかったキャビティ金型34によって押圧されることにより、収容孔36gを上方へ摺動する。
【0040】
ただし、スライドインサート金型36は半割型のため摺動部材44の製作が幾分難しくなるので、上記実施形態1,2のようにキャビティ金型34側に設ける方が好ましい。また、
図17では、
図4などに示すガイドリング37および位置決めガイド部材34cと位置決め突部36eを採用しておらず、摺動部材44は一種類の材料で製作されている。
なお、ネックリング5g外周側面を形成する金型は、上記実施形態1(
図10)のように摺動部材44でもよいし、
図17のようにキャビティ金型34でもよい。また、図示しないが、スライドインサート金型36によってネックリング5g外周側面を形成してもよいし、摺動部材44を、スライドインサート金型36またはキャビティ金型34と組み合わせてネックリング5g外周側面を形成してもよい。
【0041】
以上、本発明を実施形態に基づいて添付図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく、更に他の変形あるいは変更が可能である。
上記実施形態では、キャビティ金型34、
図12に示す変形例では、スライドインサート金型36に気体導入部を備えたが、例えば、特許文献4のようにコア金型に摺動面を備えた金型の場合は、コア金型に気体導入部を設け、気体導入のタイミングを制御するようにしてもよい。また、特許文献1のように別々の金型にそれぞれ摺動面を備えている金型に適用可能である。また、これまでの実施形態では個々の金型に気体導入部を設けていたが、複数の金型に備えるようにしてもよい。
このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を得ることができ、さらに設計上のレイアウトの向上を図ることができる。
また、上記実施形態では、保圧時にコイルバネ45によって摺動部材44を摺動させて圧縮成形時における保圧を行ったが、コイルバネ45に代えてゴムなどの弾性部材や空気ばね、空圧シリンダ、油圧シリンダ、モータなどの機構を用いるなどの他の摺動手段を用いることができる。
また、摺動部材44はスライドインサート金型36とキャビティ金型34の両側に設けてもよいが、煩雑になるためいずれか一方に設ける方が好ましく、上述のようにスライドインサート金型36への製作の困難さからキャビティ金型34側に設ける方がより好ましい。