(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光電素子とは、光量子のエネルギーを何らかの物理現象を介して電気的信号に変換(光電変換)することが可能な素子をいう。太陽電池は、光電素子の一種であり、太陽光線の光エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換することができる。
【0003】
太陽電池に用いられる半導体としては、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi、GaAs、InP、CdTe、CuIn
1-xGa
xSe
2(CIGS)、Cu
2ZnSnS
4(CZTS)などが知られている。
これらの中でも、CIGSやCZTSに代表されるカルコゲナイト系の化合物は、光吸収係数が大きいので、低コスト化に有利な薄膜化が可能である。特に、CIGSを光吸収層に用いた太陽電池は、薄膜太陽電池中では変換効率が高く、多結晶Siを用いた太陽電池を超える変換効率も得られている。また、CZTSは、太陽電池に適したバンドギャップエネルギー(1.4〜1.5eV)を持ち、しかも、環境負荷元素や希少元素を含まないという特徴がある。
【0004】
薄膜太陽電池は、一般に、基板上に、裏面電極、光吸収層、バッファ層、窓層、及び、上部電極がこの順で形成された構造を備えている。薄膜太陽電池では、光吸収層と裏面電極との接合が変換効率に影響を及ぼす。光吸収層としてCZTSなどの硫化物を用いた薄膜太陽電池において、裏面電極には、通常、Moが使われている。しかしながら、硫化物からなる光吸収層とMo電極の積層構造を形成するプロセス(例えば、硫黄雰囲気中での熱処理、Mo表面への硫化物のスパッタリングなど)において、Mo表面にMo硫化物層が生じる。Mo硫化物層は、直列抵抗を増大させ、変換効率を低下させる原因となる。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(1)ソーダライムガラス(SLG)基板上に、同時スパッタ法によりニッケル−シリコンの2元混合膜(Siの組成比=50%)を形成し、
(2)2元混合膜の上に、同時スパッタ法により銅−亜鉛−錫薄膜を形成し、
(3)硫黄共存下において、基板を500〜570℃で加熱する
ことにより得られる硫化物薄膜デバイスが開示されている。
同文献には、
(a)加熱により、Cu
2ZnSnS
4結晶及びNiSi結晶が生成する点、及び、
(b)Mo膜は硫化後に大幅に抵抗値が上昇するのに対し、NiSi合金膜は、60分硫化した場合でも抵抗率の上昇はほとんど見られない点
が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、裏面電極の耐硫化性の向上を目的とするものではないが、
(1)Mo粉末と、0.1〜45at%のTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta又はWの粉末との混合物をダイプレス及び熱間静水圧プレスにより円形ブランクとし、円形ブランクを機械加工してスパッタターゲットとし、
(2)このスパッタターゲットを用いて、薄膜太陽電池の裏面電極を形成する
方法が開示されている。
同文献には、MoにTi等を添加することによって、裏面電極の長期耐久性が向上する点(すなわち、酸素の拡散侵入又は水の透過による裏面電極の腐食を抑制することができる点)が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、裏面電極の耐硫化性の向上を目的とするものではないが、
(1)青板ガラス上に、無アルカリのシリカ層を形成し、
(2)シリカ層の上に、セレンに対して耐触性のあるMo、Ti、Ta等からなる金属裏面電極を形成し、
(2)裏面電極の上にp型CIS系光吸収層、高抵抗バッファ層及びn型窓層を形成する
ことにより得られるCIS系薄膜太陽電池が開示されている。
同文献には、青板ガラス上に無アルカリのシリカ層を形成すると、青板ガラスから光吸収層へのアルカリ成分の過剰な熱拡散を防止できる点が記載されている。
【0008】
特許文献1に記載されているように、NiSi合金は、Moに比べて耐硫化性が高い。しかしながら、NiSi合金の抵抗率は、Moの抵抗率よりも1桁以上高く、良好な電極材料にはなり得ない。
一方、特許文献2には、Ti等の元素を含むMoからなる裏面電極が開示されている。しかしながら、同文献に記載の裏面電極は、主成分がMoであるため、裏面電極の酸化を抑制することができたとしても、耐硫化性は乏しいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 光電素子用電極]
本発明に係る光電素子用電極は、Mo層と、耐硫化層とを備えている。
【0016】
[1.1. Mo層]
本発明において、Mo層は、電極の主要部を構成する。Moは、シート抵抗が低い、ガラス基板との密着性が高い等の利点がある。
Mo層の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。すなわち、Mo層は、薄膜であっても良く、あるいは、Mo層のみで自立可能な厚さを有するものでも良い。Mo層が薄膜である場合、Mo層は、通常、基板の上に形成される。Mo層が薄膜である場合、Mo層の厚さは、500nm〜5μmが好ましい。
【0017】
Mo層を基板上に形成する場合、基板の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。
基板の材料としては、
(1)ガラス(例えば、SLG、低アルカリガラス、非アルカリガラス、石英ガラス、Naイオンを注入した石英ガラス、サファイアガラスなど)、
(2)セラミックス(例えば、シリカ、アルミナ、イットリア、ジルコニアなどの酸化物、Naを含む各種セラミックスなど)、
(3)金属(例えば、ステンレス、Naを含むステンレス、Au、Mo、Tiなど)
などがある。
これらの中でも、ガラスは、安価であり、しかも、Mo層との密着性が良いので、基板の材料として好適である。
【0018】
[1.2. 耐硫化層]
耐硫化層は、Nb、Ti、Ta、Au、V、Mn、及び、Wからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素Xを含む。耐硫化層は、これらの元素Xのみからなるものでも良く、その他の元素が含まれていても良い。その他の元素としては、例えば、O、N、C、Moなどがある。耐硫化性に悪影響を及ぼすMoは、少ないほど良い。
耐硫化層は、1種又は2種以上の元素Xを含む単一の層からなるものでも良く、あるいは、同一又は異なる元素Xを含む2種以上の層の積層体であっても良い。
【0019】
元素Xは、
(a)硫化物を形成しない元素(例えば、Au)、又は、
(b)電気抵抗の低い安定な硫化物及び酸化物を形成し、それらの硫化物及び酸化物が硫黄の拡散を遅くする耐硫化バリヤとなるような元素
である。そのため、元素Xを主成分とする耐硫化層をMo層と光吸収層との間に挿入すると、光吸収層形成時におけるMo層の硫化を抑制することができる。
【0020】
耐硫化層を形成する際に故意にMoを添加しない場合であっても、製造プロセスによっては、耐硫化層中にMoが混入又は拡散することがある。
耐硫化層にMoが含まれている場合、Mo含有量が多くなるほど、耐硫化層の耐硫化性が低下する。従って、耐硫化層に含まれる元素XとMoのモル比は、X/(Mo+X)>0.5が好ましい。元素Xのモル比は、さらに好ましくは、X/(Mo+X)≧0.6、さらに好ましくは、X/(Mo+X)≧0.7、さらに好ましくは、X/(Mo+X)≧0.8である。
耐硫化層が異なる元素Xを含む2種以上の層の積層体からなる場合、少なくとも1つの層について、上述した元素Xのモル比の条件を満たしていれば良い。
【0021】
硫化雰囲気に曝される前の耐硫化層の厚さ(初期膜厚)は、光電素子の直列抵抗に影響を与える。初期膜厚が薄すぎると、光吸収層を形成する際にSがMo層まで拡散し、Mo層の表面にMo硫化物層が形成される。直列抵抗の増大を抑制するためには、初期膜厚は、3nm以上が好ましい。初期膜厚は、さらに好ましくは、5nm以上、あるいは、10nm以上である。
一方、初期膜厚を必要以上に厚くしても、効果に差が無く、実益がない。従って、初期膜厚は、200nm以下が好ましい。初期膜厚は、さらに好ましくは、100nm以下、50nm以下、あるいは、30nm以下である。
【0022】
光吸収層が硫化物系化合物半導体からなる光電素子は、一般に、裏面電極(下部電極)の表面に硫化物系化合物半導体の前駆体を形成し、前駆体を硫化させることにより製造される。裏面電極として本発明に係る光電素子用電極を用いた場合、前駆体を硫化させる際に耐硫化層も硫化雰囲気に曝され、耐硫化層の厚さが増大する。耐硫化層の膨張量は、元素Xの種類、初期膜厚、硫化条件などにより異なる。
例えば、耐硫化層の初期膜厚が3〜100nm程度である場合、硫化後の耐硫化層の厚さは、5〜550nm程度となる。
【0023】
[1.3. 用途]
本発明に係る光電素子用電極は、種々の用途に用いることができるが、特に光吸収層が硫化物系化合物半導体からなる光電素子の裏面電極に用いるのが好ましい。
硫化物系化合物半導体としては、例えば、
(1)Cu(In,Ga)(S,Se)
2、Cu
2ZnSn(S,Se)
4、SnS、Cu
xS、FeS
2、Cu
2SnS
3、Cu
xZn
yS、
(2)(1)の材料に各種ドーパントを添加したもの
などがある。
光吸収層の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。
【0024】
光電素子は、必要に応じて、基板、裏面電極(Mo層+耐硫化層)、及び、光吸収層以外の構成要素をさらに備えていても良い。
例えば、薄膜太陽電池は、一般に、基板、裏面電極、光吸収層、バッファ層、窓層、及び上部電極がこの順で積層された構造を備えている。各層の間には、付加的な層が形成されていても良い。
【0025】
付加的な層としては、具体的には、
(1)基板と裏面電極の接着性を高めるため接着層、
(2)入射した光を反射させ、光吸収層での光吸収効率を高めるため光散乱層であって、光吸収層より上部電極側に形成するもの、
(3)光吸収層より基板側に設けられる光散乱層、
(4)入射した光の窓層での反射量を低減し、光吸収層での光吸収効率を高めるための反射防止層、
などがある。
本発明において、各層の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。
【0026】
光電素子が太陽電池である場合、光吸収層以外の各層の材料としては、具体的には、以下のようなものがある。
バッファ層の材料としては、例えば、CdSなどがある。
窓層の材料としては、例えば、ZnO:Al、ZnO:Ga、ZnO:B、In−Sn−O、In−Zn−O、SnO
2:Sb、TiO
2:Nbなどがある。
上部電極の材料としては、例えば、Al、Cu、Ag、Au、又は、これらのいずれか1以上を含む合金などがある。また、このような合金としては、具体的には、Al−Ti合金、Al−Mg合金、Al−Ni合金、Cu−Ti合金、Cu−Sn合金、Cu−Zn合金、Cu−Au合金、Ag−Ti合金、Ag−Sn合金、Ag−Zn合金、Ag−Au合金などがある。
【0027】
基板としてガラス基板を用いる場合、接着層の材料としては、例えば、Ti、Cr、Ni、W、あるいは、これらのいずれか1以上を含む合金などがある。
光吸収層より上に設ける光散乱層の材料としては、例えば、SiO
2、TiO
2などの酸化物、Si−Nなどの窒化物などがある。
光吸収層より基板側に設ける光散乱層の材料としては、例えば、表面に凹凸のある層などがある。
【0028】
反射防止層の材料としては、例えば、窓層よりも屈折率の小さい透明体、太陽光の波長よりも十分に小さい径を持つ透明粒子から構成された集合体、内部に太陽光の波長よりも十分に小さい径を持つ空間のあるもの、サブマイクロメーターの周期の凹凸構造を表面に有するものなどがある。具体的には、
(1)MgF
2、SiO
2等からなる薄膜、
(2)酸化物、硫化物、フッ化物、窒化物などの多層膜、
(3)SiO
2などの酸化物からなる微粒子、
などがある。
【0029】
[2. 光電素子用電極の製造方法]
本発明に係る光電素子用電極は、Mo層の表面に耐硫化層を形成することにより製造することができる。
【0030】
[2.1. Mo層準備工程]
まず、Mo層を準備する。Mo層は、自立可能な厚さを有するものでもよく、あるいは、基板表面に形成された薄膜であってもよい。
薄膜状のMo層の形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。Mo層の形成方法としては、具体的には、スパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法、メッキ法、化学溶液析出(CBD)法、電気泳動成膜(EPD)法、化学気相成膜(CVD)法、スプレー熱分解成膜(SPD)法、スクリーン印刷法、スピンコート法、微粒子堆積法などがある。
【0031】
[2.2. 耐硫化層形成工程]
次に、Mo層の上に、元素Xを含む耐硫化層を形成する。耐硫化層は、上述した元素Xのいずれか1種を含むものでもよく、あるいは、2種以上を含むものでもよい。耐硫化層及び元素Xの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0032】
耐硫化層の形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。耐硫化層の形成方法の詳細は、薄膜状のMo層の形成方法と同様であるので、説明を省略する。
【0033】
[2.3. その他の工程]
上述したように、Mo層の上に耐硫化層を形成した後、必要に応じて光吸収層及びその他の層を形成する。光吸収層以外の層としては、例えば、バッファ層、窓層、上部電極などがある。光吸収層以外の層の形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。光吸収層以外の層の形成方法の詳細は、耐硫化層と同様であるので、説明を省略する。
【0034】
[3. 作用]
図1(a)に、裏面電極にMoを用いた従来の太陽電池の概略図を示す。
図1(b)に、裏面電極に本発明に係る電極を用いた太陽電池の概略図を示す。
図1(a)に示すように、ガラス基板上にMo及び前駆体をこの順で形成する。次いで、前駆体を硫化させると、前駆体が硫化物光吸収層となる。これと同時に、Moと光吸収層との界面にMo硫化物層が形成される。その結果、太陽電池の直列抵抗が増大する。
【0035】
これに対し、
図1(b)に示すように、Mo層と光吸収層(前駆体)との界面に所定の元素Xを含む耐硫化層を形成すると、Mo層の硫化が抑制される。これは、耐硫化層の上に硫化物系化合物半導体の前駆体を形成し、前駆体を硫化させる際に、耐硫化層に含まれる元素Xが選択的に硫化され、若しくは、残存している酸素により酸化されるため、又は、耐硫化層がSの拡散を抑制するためと考えられる。また、元素Xは金属元素であるため、Siのような半金属元素を含む耐硫化層を形成した場合に比べて、電気抵抗の増分は小さい。
【0036】
Mo層の表面に元素Xを含む耐硫化層が形成された電極は、耐硫化性が高く、かつ電気抵抗も低いため、硫化物系太陽電池などの光電素子の電極材料として好適である。その使用により、直流抵抗成分が低下するため、太陽電池の場合は、曲線因子(FF)や電流密度の向上などが期待できる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
スパッタ法を用いて、ガラス基板上にMo層(膜厚:1μm)を形成した。次いで、EB蒸着法(Ti)又はスパッタ法(Ti以外の元素X)を用いて、Mo層の上に耐硫化層(初期膜厚:3nm〜100nm)を形成した。耐硫化層には、Nb、Ti、Ta、Au、V、Mn、W、又は、Ptを用いた。成膜中の基板加熱は行っていない。次に、窒素フロー中、上流で硫黄を150℃で加熱し、580℃×30分、耐硫化層の表面を硫化させた。
【0038】
[2. 試験方法]
[2.1. シート抵抗]
図2に示すように、シート抵抗を4端子法により測定した。
[2.2. 光電子スペクトル]
図4(b)に示すように、耐硫化層の上から硬X線(8eV)を当て、放出される光電子のスペクトルを測定した。
[2.3. オージェ電子分光]
オージェ電子分光により、深さ方向の組成分布を測定した。
【0039】
[3. 結果]
[3.1. シート抵抗]
図3に、耐硫化層(初期膜厚:100nm)として種々の元素Xを用いた電極の硫化前と硫化後のシート抵抗を示す。
図3より、以下のことがわかる。
(1)硫化前のMo/ガラスのシート抵抗は0.442Ω/□であるのに対し、硫化後のMo/ガラスのシート抵抗は0.977Ω/□と高抵抗化した。これは、硫化プロセスでMo表面にMo硫化物層ができたためである。
(2)耐硫化層/Mo/ガラスの硫化後のシート抵抗が0.977Ω/□より低ければ、耐硫化層を入れることで硫化後の直列抵抗が低減することを意味する。すなわち、耐硫化層として、Nb、Ti、Ta、Au、V、Mn、Wを用いると、耐硫化層を用いないMo/ガラスに比べて、直列抵抗が低減する。
【0040】
[3.2. 光電子スペクトル]
図4(a)に、Ti:10nm/Mo/ガラスの硫化前後の光電子スペクトルを示す。
初期膜厚:10nmのTiでは、硫化後もMoの3dピークはシフトしなかった。このことは、下地のMoの硫化がTiにより妨げられたことを意味する。
【0041】
[3.3. オージェ電子分光]
図5に、Nb:100nm/Mo/ガラスの硫化後の深さ方向の組成分布を示す。
図6に、オージェ電子分光によるTi:100nm/Mo/ガラス(
図6(a))、及び、Ta:100nm/Mo/ガラス(
図6(b))の硫化後の深さ方向の組成分布を示す。
図5及び
図6より、以下のことがわかる。
【0042】
(1)耐硫化層として初期膜厚:100nmのTi、Nb又はTaを用いた場合、Mo内部へのSの拡散が抑制されている。
(2)耐硫化層は、硫化雰囲気に曝されると膨張する。膨張量は、元素Xの種類により異なる。硫化後の耐硫化層の膜厚を「表面からX/(Mo+X)≧0.5の領域までの長さ」と定義すると、Ti:100nm/Mo/ガラスでは、硫化後の耐硫化層の膜厚は、初期膜厚の4.5倍(450nm)であった。
(3)同様に、Nb:100nm/Mo/ガラスでは、硫化後の耐硫化層の膜厚は、初期膜厚の1.7倍(170nm)であった。また、Ta:100nm/Mo/ガラスでは、硫化後の耐硫化層の膜厚は、初期膜厚の3.6倍(360nm)であった。
【0043】
図7に、硫化前後の耐硫化層膜厚とシート抵抗との関係(
図7(a):元素Xの区別あり、
図7(b):元素Xの区別無し)を示す。
図7より、以下のことがわかる。
(1)元素Xにより、硫化後の膜厚の膨張量が異なる。しかし、耐硫化層の硫化後の膜厚とシート抵抗は、元素Xの種類によらず相関がある。すなわち、元素Xの種類によらず、硫化後の膜厚が厚くなるほど、シート抵抗は低下する。一方、硫化前のシート抵抗は、膜厚(初期膜厚)が30nm以上で一定の値となる。
(2)硫化前後のシート抵抗が一致するのは、耐硫化層の硫化後の膜厚が約530nmのときである。硫化後の膜厚を530nmより厚くしても、増えた膜厚分だけ直列抵抗が増大する(換言すれば、硫化前のシート抵抗を下回ることはない)ので、実益がない。
(3)初期膜厚:3nmであっても、シート抵抗の低減には、効果がある。
(4)耐硫化層として、NbとTaの同時スパッタにより形成したTa
66Nb
34を用いた場合、硫化後のシート抵抗は、単一の元素Xを用いたときのシート抵抗−耐硫化層膜厚の相関上にあった。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。