特許第5660136号(P5660136)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5660136セラミック成形用乾燥収縮低減剤及びセラミック成形体の乾燥収縮低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5660136
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】セラミック成形用乾燥収縮低減剤及びセラミック成形体の乾燥収縮低減方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/622 20060101AFI20150108BHJP
   C08F 2/32 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   C04B35/00 F
   C08F2/32
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-529530(P2012-529530)
(86)(22)【出願日】2011年7月21日
(86)【国際出願番号】JP2011066530
(87)【国際公開番号】WO2012023376
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2013年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-184375(P2010-184375)
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 彰宏
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−001836(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/084844(WO,A1)
【文献】 特開2009−179767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00〜35/84
C08F 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤として油溶性酸化剤と水溶性還元剤を用いる逆相懸濁重合法により製造される重合体微粒子であって、イオン交換水で飽和膨潤した状態における平均粒子径が10μmを超えて100μm以下であり、常圧におけるイオン交換水の吸水量が0.1〜60mL/gである重合体微粒子を含むセラミック成形用の乾燥収縮低減剤。
【請求項2】
上記逆相懸濁重合が、(メタ)アクリル酸、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の1種以上を用いて行われるものである請求項1に記載の乾燥収縮低減剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の乾燥収縮低減剤を用いたセラミック成形体の乾燥収縮低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に水系のセラミック成形における乾燥工程での収縮を低減し、高精度の成型体を再現よく得るのに有効なセラミック成形用乾燥収縮低減剤及びこれを用いたセラミック成形体の乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックの一般的な成形方法としては、押出成形、射出成型、および鋳込み成形等の各種方法が挙げられる。例えば押出成形に関して言えば、セラミック粉体とバインダー、及び水などを混練した混練組成物(以下、坏土ともいう)に圧力をかけて金型から押し出すことにより成形する方法であり、一定の断面形状を持つ、棒状、又はパイプ状等の製品を効率よく製造するのに適している。この押出成形法によってフィルターや触媒担体等も製造されているが、近年ではこれらの性能向上のために高精度な押出成形が強く求められるようになってきており、成形体の寸法安定性及び加工時の保形性等についての要求も高まってきている。
一般的なセラミックの製造方法としては、押出等により成形体を得る成形工程、該成形品に熱風やマイクロ波等を照射して脱水する乾燥工程、及びバインダー等の有機物を焼成する焼成工程を経てセラミック製品を得る方法が挙げられる。上記した成形精度を向上させる手段としては、バインダー相の含水率を高めることにより坏土の流動性を向上させる方法が挙げられるが、この場合には乾燥工程で多量の水分が蒸発するために成形体の収縮度合いが大きくなり、生産ラインに適合する成形体寸法から外れる等の問題が生じる。
【0003】
セラミックの成形体乾燥時の収縮を効果的に低減する方法はあまり提案されていない。該収縮を低減するためには混練に使用する水の量をできる限り減らすことが有効であるが、この場合には坏土の粘度が高くなるために操作性に問題を生じる。これに対して特許文献1では特定の脂肪酸塩からなる分散剤を添加して坏土の粘度を低減する方法が開示されているが、成形性が不十分であり平滑な成形体が得られ難いという問題があった。また、特許文献2では成形体の潤滑性に優れたポリオキシアルキレンユニット含有分散剤が開示されているが、坏土の粘度を十分に下げるためには多量の分散剤が必要であり、これがバインダー分子間の相互作用を阻害するために、保形性や成形体強度が大きく低下する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−293645号公報
【特許文献2】特開2009−46385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高精度の成形体を再現性良く得るために、押出成形などにより得られた成形体の乾燥による収縮を抑制するのに有効であり、かつ保形性も良好な乾燥収縮低減剤、及びこれを用いたセラミック成形体の乾燥収縮低減方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、イオン交換水で飽和膨潤した状態における平均粒子径が10μmを超えて100μm以下であり、常圧におけるイオン交換水の吸水量が0.1〜60mL/gである重合体微粒子をセラミック成形時に用いることが有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は以下の通りである。
1.重合開始剤として油溶性酸化剤と水溶性還元剤を用いる逆相懸濁重合法により製造される重合体微粒子であって、イオン交換水で飽和膨潤した状態における平均粒子径が10μmを超えて100μm以下であり、常圧におけるイオン交換水の吸水量が0.1〜60mL/gである重合体微粒子を含むセラミック成形用の乾燥収縮低減剤。
2.上記逆相懸濁重合が、(メタ)アクリル酸、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の1種以上を用いて行われるものである上記1に記載の乾燥収縮低減剤。
3.上記1又は2に記載の乾燥収縮低減剤を用いたセラミック成形体の乾燥収縮低減方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の重合体微粒子を含むセラミック成形用乾燥収縮低減剤をセラミック成形時に用いることにより坏土の流動性が高まるため、少ない水の量でも押出成形等が可能となる。このため、成形後の乾燥工程における乾燥収縮が抑制され、かつ良好な保形性も得られることから高精度の成型体を再現性良く得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】重合体微粒子の吸水量の測定に用いる装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、セラミック成形用乾燥収縮低減剤に関するものであり、具体的にはイオン交換水で飽和膨潤した状態における平均粒子径が10μmを超えて100μm以下であり、常圧におけるイオン交換水の吸水量が0.1〜60mL/gである重合体微粒子を含むセラミック成形体の乾燥収縮低減剤及びこれを用いたセラミック成形体の乾燥収縮低減方法に関する。
本発明の乾燥収縮低減剤は、セラミック粉体、バインダー及び水などと共に混練され、押出成形等のセラミック成形において用いられる。
以下、本発明のセラミック成形体の乾燥収縮低減剤、及び本発明の乾燥収縮低減剤を用いたセラミック成形体の乾燥収縮低減方法について詳しく説明する。尚、本願明細書においては、アクリル酸又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【0011】
本発明で使用される重合体微粒子は、イオン交換水で飽和膨潤した状態における重合体微粒子の平均粒子径が10μmを超えて100μm以下の範囲であることが必要であり、好ましくは15〜80μmの範囲である。平均粒子径が100μmを超えると平滑な表面のセラミック成形体が得られない。一方、10μm以下の場合は潤滑性が不十分となる。
【0012】
さらに、常圧における上記重合体微粒子のイオン交換水の吸水量は0.1〜60mL/gの範囲であることが必要であり、好ましくは0.1〜20mL/gの範囲である。上記吸水量が0.1mL/g未満の場合はバインダー相の含水量を十分に低減することができないため、乾燥収縮低減効果が不十分となる。一方、吸水量が60mL/gを越える場合、重合体微粒子の吸水量が大きくなりすぎるためにセラミックの混練に使用する水量を増やさなければ混練できず、結果として乾燥収縮が低減されない場合や成形体の保形性が低下する場合がある。
【0013】
本発明による乾燥収縮低減剤を用いた場合、それ自身が微粒子形状を有するために杯土の流動性を高める働きを有する。このため少ない水の量でも押出成形等が可能となり、乾燥時の収縮が低減されると推定される。
【0014】
本発明の重合体微粒子を製造する方法としては、水溶液重合、逆相懸濁重合、分散重合等の公知の重合方法を採用することが可能であるが、ミクロンサイズの高架橋球状微粒子が簡便に得られる点から逆相懸濁重合が好ましい。
【0015】
逆相懸濁重合は、一般的には、油相を分散媒とし水相を分散質とする逆相懸濁重合の意味であり、本発明では、分散安定剤を含む油相(疎水性有機溶媒よりなる分散媒)中に水相(ビニル系単量体混合物の水溶液)が水滴状に懸濁した、油中水型(W/O型)の逆相懸濁重合により重合体微粒子が製造されるのが好ましい。
また、逆相懸濁重合では、分散安定剤の種類、及び量、又は攪拌回転数等によって、得られる微粒子の粒子径を調整することができる。
【0016】
本発明の逆相懸濁重合における油相(分散媒)をなす疎水性有機溶媒として、例えば、炭素数6以上の脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素溶媒、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどのシリコーン系溶媒などを用いることができ、特にヘキサン、シクロヘキサン、およびn−ヘプタンが、ビニル系単量体および水の溶解度が小さく、かつ重合後に除去することが容易であることから好ましく用いられる。
【0017】
逆相懸濁重合に用いる開始剤は、熱分解型開始剤、またはレドックス型開始剤等、公知の開始剤を使用することが可能であるが、レドックス型開始剤を使用することが好ましい。レドックス反応は低温での重合開始が可能であり、重合反応液中のビニル系単量体濃度を高くすること、また重合速度を大きくすることが可能となるため、生産性、および生成重合体の分子量を高くすることが可能となる。
また、油溶性酸化剤と水溶性還元剤を使用するレドックス系開始剤を使用した場合、凝集粒子を生じることなく、粒度分布の狭い重合体微粒子が得られるため、特に好ましい。
【0018】
上記のとおり、逆相懸濁重合では疎水性有機溶媒が連続相(油相)として用いられるので、油溶性酸化剤とは、これらの連続相に溶解する酸化剤を意味する。また、油相には分散安定剤を溶解または分散させておいても良い。
【0019】
本発明における油溶性酸化剤としては、日本工業規格Z7260−107やOECDTEST Guideline107に定められるオクタノール/水分配係数(logPow)が−1.4以上のものが好ましく、0.0以上のものがさらに好ましく、1.0以上のものが特に好ましい。
【0020】
具体例としてt−ブチルヒドロパーオキサイド(logPow=1.3)、ジ−t−ブチルヒドロパーオキサイド、t−ヘキシルヒドロパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド(logPow=2.2)、ジクミルパーオキサイド(logPow=5.5)、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、過酸化ベンゾイル(logPow=3.5)、過酸化ラウロイルなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの中でもt−ブチルヒドロパーオキサイドおよびクメンヒドロパーオキサイドが好ましく、特に好ましくはクメンヒドロパーオキサイドである。
【0021】
水溶性還元剤としては、レドックス重合開始剤に使用する還元剤として既知の還元剤が使用できるが、これらの中でも、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウムが好ましく、特に好ましくはハイドロサルファイトナトリウムである。なお、これらの水溶性還元剤は空気と接触することによって徐々に失活するため、所望の重合開始タイミングの数分前に水に溶解し、添加することが好ましい。
【0022】
油溶性酸化剤と水溶性還元剤を用いる際は、先に水溶性還元剤を反応器に供給した後に、油溶性酸化剤を反応器に供給する方が生成粒子の粒度の均一性が高くなるために好ましい。水溶性還元剤を水溶化して反応器に供給した後、0.5〜15分以内に油溶性酸化剤を供給して重合させるのがより好ましく、1〜5分以内に油溶性酸化剤を供給することが更に好ましい。
【0023】
また、油溶性酸化剤の全量を20秒〜120秒の時間をかけて反応器に供給することが好ましく、特に好ましくは20秒〜60秒である。
油溶性酸化剤の供給時間が20秒よりも短い場合、酸化剤の供給に対して拡散が追いつかず、ラジカルの発生が局部的に起こって凝集物が発生するなどの不具合が起こりやすくなる場合があり、好ましくない。また120秒よりも長い場合、還元剤が別の機構で分解消費されることによって、一部の酸化剤が未反応のまま系内に残ってしまう場合がある。酸化剤が未反応のまま残存すると、後の共沸脱水工程や乾燥工程などで凝集物を発生させるなど、不具合の原因となる場合があるため好ましくない。
水溶性還元剤の供給時間に関しては特に制限は無いが、一般に還元剤は空気などとの接触により分解しやすいため、15分間以内で供給するのが好ましい。
【0024】
また、油溶性酸化剤は反応液の液面より下部に位置する供給口から反応器に供給することが好ましい。一般に重合触媒の投入口は反応器の上部に取り付けられており、この投入口から反応液の液面に重合触媒を一括または連続的に供給するが、本発明においては、重合触媒を反応器側面に接続された配管を通して反応液中に供給する方法が、触媒の均一拡散の観点から好ましい。
供給口の位置は、常時反応液中に浸かる位置にあれば制限は無いが、攪拌翼上端または下端から垂直方向の高さにして±1m以内の位置にあるのが好ましく、±50cm以内の位置にあるのがより好ましい。
油溶性酸化剤を供給する方法としては、反応液の液面より下部に位置する供給口に通じる配管を通してポンプ、あるいは窒素のような不活性ガスのガス圧で供給する方法が挙げられる。
【0025】
上記重合開始剤の使用量は、使用するビニル系単量体の種類、得られる重合体微粒子の粒径や分子量などに応じて調整することができるが、ビニル系単量体の合計量100モルに対して、油溶性酸化剤の使用量は0.001〜0.15モルであることが好ましく、特に好ましくは0.003〜0.07モルである。
また、油溶性酸化剤と水溶性還元剤の比率は特に限定されないが、モル比率で油溶性酸化剤:水溶性還元剤が1.0:0.25〜15.0であることが好ましく、特に好ましくは1.0:1.0〜10.0である。
上記範囲を外れると、単量体の反応率が低下したり、粒子を構成する重合体の鎖長が短くなったり、重合終了後も触媒が残存するなどによって、凝集物が発生するなどの不具合が生じる恐れがある。
【0026】
本発明の逆相懸濁重合においては、分散安定剤を使用することができる。
分散安定剤の具体例としては、マクロモノマー型分散安定剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
これらの中でも、マクロモノマー型分散安定剤を用いることが好ましい。マクロモノマー型分散安定剤は、ビニル系単量体由来の重合体の末端にラジカル重合性不飽和基を有するものである。
【0027】
また、マクロモノマー型分散安定剤とソルビタンモノオレエートおよびソルビタンモノパルミテートなどの、HLBが3〜8である比較的疎水性が高いノニオン性界面活性剤を併用することが好ましく、これらは、1種を併用しても、2種以上を併用しても良い。
【0028】
前記マクロモノマー型分散安定剤として好ましいマクロモノマーは、ビニル系単量体を150〜350℃でラジカル重合して得られる、ビニル系単量体由来の重合体の末端に式(1);H2C=C(X)−(式中、Xは1価の極性基)で表されるα置換型ビニル基を有するマクロモノマーおよび/またはビニル系単量体由来の重合体の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーが、分散安定剤としての機能に優れていて好適であり、マクロモノマーの重量平均分子量は1000〜30000であることが好ましく、マクロモノマーは親水性ビニル系単量体由来の構造単位と疎水性ビニル系単量体由来の構造単位の両方を有していることが好ましく、その際の疎水性ビニル系単量体由来の構造単位としては、(メタ)アクリル酸の炭素数8以上のアルキルエステルに由来する構造単位が好ましく、親水性ビニル系単量体由来の構造単位としてはカルボキシル基を有するビニル系単量体に由来する構造単位が好ましい。
【0029】
特に、マクロモノマー型分散安定剤を使用して、親水性ビニル系単量体を逆相懸濁重合させて親水性の重合体微粒子を製造する際には、単官能化合物と共に多官能ビニル系単量体を用いることが好ましく、それによって強度や形状保持性の向上した親水性の架橋した重合体微粒子が得られる。
【0030】
分散安定剤は分散媒(油相)である疎水性有機溶媒中に溶解、もしくは均一分散させて重合系に加えることが好ましい。
分散安定剤の使用量は、良好な分散安定性を維持しながら、粒径の揃った親水性重合体微粒子を得るために、ビニル系単量体の合計100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.2〜20質量部であることがより好ましく、0.5〜10質量部であることが更に好ましい。分散安定剤の使用量が少なすぎると、重合系でのビニル系単量体および生成した重合体微粒子の分散安定性が不良になり、生成した重合体微粒子同士の凝集、沈降、粒径のばらつきが生じ易くなる。一方、分散安定剤の使用量が多すぎると、副生微粒子(1μm以下)の生成量が多くなる場合がある。
【0031】
本発明の逆相懸濁重合に用いるビニル系単量体としては、ラジカル重合性のビニル系単量体であればいずれでもよく、特に制限されない。例えば、カルボキシル基、アミノ基、リン酸基、スルホン酸基、アミド基、水酸基、アミノ基、4級アンモニウム基などの親水性基を有する親水性ビニル系単量体を使用することができる。
【0032】
本発明の逆相懸濁重合に用いるビニル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、シクロヘキサンジカルボン酸などのカルボキシル基を有するビニル系単量体またはそれらの(部分)アルカリ中和物;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアミノ基を有するビニル系単量体またはそれらの(部分)酸中和物、もしくは(部分)4級化物;N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン;アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、アシッドホスホオキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピルメタクリレートなどのリン酸基を有するビニル系単量体またはそれらの(部分)アルカリ中和物;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルホスホン酸、ビニルホスホン酸などのスルホン酸基またはホスホン酸基を有するビニル系単量体またはそれらの(部分)アルカリ中和物;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのノニオン性親水性単量体を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0033】
これらの中でも(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが親水性が高く、逆相懸濁重合に好適な点から好ましい。
さらに、これらの中でも(メタ)アクリル酸、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の1種以上を用いて逆相懸濁重合を行うことが、重合性に優れる点、および得られた重合体微粒子が、吸水性能や保水性能などに優れた重合体微粒子となる点から特に好ましい。
【0034】
また、本発明ではビニル系単量体として、上記した単官能の親水性ビニル系単量体のうちの1種または2種以上と共に、ラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する多官能ビニル系単量体を使用することができる。
したがって、本発明でいう「ビニル系単量体」は、単官能ビニル系単量体および多官能ビニル系単量体の総称である。
【0035】
多官能ビニル系単量体としては、上記親水性ビニル系単量体とラジカル重合可能な基を2個以上有するビニル系単量体であればいずれでもよく、具体例として、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性物のトリ(メタ)アクリレートなどのポリオール類のジまたはトリ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどのビスアミド類、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0036】
これらの中でも、多官能ビニル系単量体としてはポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびメチレンビス(メタ)アクリルアミドが、ベースをなす親水性ビニル系単量体および水の混合液に対する溶解度に優れ、高架橋密度を得るために使用量を多くする際に有利であり好ましく用いられ、特に好ましくはポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである。
【0037】
上記多官能ビニル系単量体の使用割合は、使用するビニル系単量体の種類、得られる重合体微粒子の用途などに応じて異なり得るが、重合体微粒子に架橋特性が必要な場合には、全単量体中0.01〜30mol%含まれることが好ましく、0.05〜10mol%であることがより好ましい。0.01mol%以上であれば微粒子の強度が確保され、30mol%以下の場合は十分な吸水性能を得ることができる。
【0038】
本発明で使用される重合体微粒子は、アルカリで中和された酸性官能基を1.5〜9.0mmol/g含むことが好ましく、更に好ましくは3.0〜9.0mmol/gの範囲である。アルカリで中和された酸性官能基が1.5mmol/g未満の場合、十分な吸水量が得られないために乾燥時の収縮低減効果が不十分となる場合がある。一方、9.0mmol/gを越えると溶出成分量が増加し、粗大粒子発生により平滑な表面の成形体が得られない場合がある。
ここで酸性官能基はカルボン酸(塩)、又はスルホン酸(塩)等の酸性基を有するビニル系単量体を使用することにより導入される。また、これとは別にアルキルエステル(メタ)アクリレート等を用いて重合体を得た後、アルカリによりケン化することによって得ることもできる。
【0039】
上記した通り、本発明では、カルボキシル基やスルホン酸基等の酸性基を有するビニル系単量体を適当なアルカリで中和することができる。中和により該酸性基を有するビニル系単量体を、アンモニウム塩、揮発性有機アミン塩、又はアルカリ金属塩とすることにより、ビニル系単量体混合物を良好に溶解した水溶液を調整することができる。
【0040】
ここで、上記揮発性有機アミン塩を得る具体的なアルカリとしては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、及びN,N−ジメチルプロピルアミン等が挙げられる。
また、上記アルカリ金属塩を得る具体的なアルカリとしては、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等が挙げられる。
【0041】
本発明の乾燥収縮低減剤はセラミック粉体、バインダー及び水等とともに坏土中に混練される。好ましい使用量は坏土中に占める重合体微粒子の割合として0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.1〜5質量%である。0.1質量%以上であれば乾燥収縮低減効果を示すことができ、10質量%以下であれば乾燥時の乾燥ムラ等に起因するクラック発生等を抑制できる。
【0042】
一般にセラミック成形においては各種成形方法によって成形体が得られ、その後乾燥工程において熱風やマイクロ波を照射して脱水処理が行われる。本発明の乾燥低減収縮剤を用いた場合には、該乾燥工程において水分が蒸発することに起因する成形体の収縮が低減される。
【0043】
本発明におけるセラミックとしては、水系で成形可能なものであれば特に制限はない。具体例としては、アルミナ、コージェライト、ムライト、シリカ、ジルコニア、及びチタニア等の酸化物系セラミック、並びに、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、及び炭化チタン等の非酸化物系セラミックを挙げることができる。
【0044】
また、セラミック混練組成物中に含まれるバインダーとしては、水系で適用可能なものであれば特に制限はない。例としてメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の合成高分子化合物等が使用される。上記のうち、押出成形にはセルロース誘導体が広く使用されている。
【0045】
なお、本明細書における重合体微粒子のイオン交換水による飽和膨潤状態での平均粒径、および吸水量は、以下の実施例の項に記載する方法で測定または求めた値をいう。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の記載において「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0047】
製造例0:マクロモノマー組成物UM−1の製造
オイルジャケットを備えた容量1000mlの加圧式攪拌槽型反応器のオイルジャケットの温度を240℃に保った。
単量体としてラウリルメタクリレート(以下、「LMA」という)75.0部、アクリル酸(以下、「AA」という)25.0部、重合溶媒としてメチルエチルケトン(以下、「MEK」という)10.0部、重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド0.45部の比率で調整された単量体混合液を原料タンクに仕込んだ。
原料タンクの単量体混合液を反応器に供給を開始し、反応器内の重量が580g、平均滞留時間が12分となるように、単量体混合液の供給と反応混合液の抜き出しを行った。反応器内温度は235℃、反応器内圧は1.1MPaとなるように調整を行った。反応器より抜き出した反応混合液は、20kPaに減圧され、250℃に保たれた薄膜蒸発機に連続的に供給し、単量体や溶剤等が留去されたマクロモノマー組成物として排出される。留去した単量体や溶剤等はコンデンサーで冷却し、留出液として回収した。単量体混合液の供給開始後、反応器内温が235℃に安定してから60分後を回収開始点とし、これから48分間反応を継続してマクロモノマー組成物UM−1を回収した。この間、単量体混合液は反応器に2.34kg供給され、薄膜蒸発機より1.92kgのマクロモノマー組成物が回収された。また留出タンクには0.39kgの留出液が回収された。
留出液をガスクロマトグラフにて分析したところ、留出液100部に対して、LMA31.1部、AA16.4部、その他溶剤等が52.5部であった。
単量体混合液の供給量および組成、マクロモノマー組成物の回収量、留出液の回収量および組成より、単量体の反応率は90.2%、マクロモノマー組成物UM−1の構成単量体組成比は、LMA:AA=76.0/24.0(質量比)と計算された。
【0048】
また、溶離液にテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、「GPC」という)により、マクロモノマー組成物UM−1の分子量を測定したところ、ポリスチレン換算での重量平均分子量(以下、「Mw」という)および数平均分子量(以下、「Mn」という)は、それぞれ、3800、および1800であった。またマクロモノマー組成物の1H−NMR測定より、マクロモノマー組成物中の末端エチレン性不飽和結合の濃度を測定した。1H−NMR測定による末端エチレン性不飽和結合の濃度、GPCによるMn、および構成単量体組成比より、マクロモノマー組成物UM−1の末端エチレン性不飽和結合導入率を計算した結果、97%であった。尚、150℃、60分加熱後の加熱残分による固形分は、98.3%であった。
なお、単量体、重合溶剤、および重合開始剤等の各原料については、市販の工業用製品を精製等の処理を行うことなく、そのまま使用した。
【0049】
(製造例1:重合体微粒子A−1の製造)
重合には、ピッチドパドル型攪拌翼および2本垂直バッフルからなる撹拌機構を有し、さらに温度計、留出液分離器付き還流冷却器、窒素導入管を備えた、容量2Lの反応器を用いた。なお窒素導入管は反応器の外でふたつに分岐しており、一方からは窒素を、もう一方からはポンプを用いて重合触媒を供給できるようになっている。また、窒素導入管は攪拌翼上端とほぼ同じ高さの反応器壁面に接続されている。
反応器内に分散安定剤としてUM−1を1.5部、及びソルビタンモノオレエート(花王社製、商品名「レオドールAO−10」)10.0部、更に重合溶媒としてn−ヘプタン400.3部を仕込み、溶液の温度を40℃に維持しながら攪拌混合して油相調整した。油相は、40℃で30分間攪拌した後20℃まで冷却した。
一方、別の容器にてAA30.0部、濃度40%のアクリルアミド水溶液(以下、「40%AMD」という)175.0部、ポリエチレングリコールジアクリレート(東亞合成社製、商品名「アロニックスM−243」、平均分子量425)8.7部、およびイオン交換水30.0部を仕込み、攪拌、均一溶解させた。さらに混合液の温度を40℃以下に保つように冷却しながら、25%アンモニア水21.3部をゆっくり加えて中和し単量体混合液を得た。
【0050】
攪拌機の回転数を870rpmに設定した後、調製した単量体混合液を反応器内に仕込み、単量体混合液が油相に分散した分散液を調整した。この時、反応器内温は20℃に保持した。また分散液に窒素を吹き込むことで反応器内の酸素を除去した。単量体混合物の仕込みから1時間30分経過した時点で、ハイドロサルファイトNa0.18部とイオン交換水2.9部の水溶液を反応器上部に設けられた投入口から添加した。その3分後、クメンハイドロパーオキサイドの80%溶液(日油社製、商品名「パークミルH80」)0.039部をn−ヘプタン3.1部で希釈した溶液を、窒素導入管を通じてポンプで供給した。なお供給は30秒間で行った。供給開始時点から直ちに反応器内温が上昇し、重合が開始したことが確認された。内温の上昇は約30秒でピークに達し、その温度は66.0℃であった。
【0051】
反応液を冷却し温度を20℃とした後、攪拌しながらハイドロサルファイトNa0.05部とイオン交換水1.8部の水溶液を反応器上部に設けられた投入口から添加した。その3分後、t−ブチルハイドロパーオキサイドの69%水溶液(日油社製、商品名「パーブチルH」)0.016部をイオン交換水1.6部で希釈した溶液を、同投入口から添加した。内温が23.6℃まで上昇し、残存モノマーが重合したことが確認された。
次いでオイルバスを130℃に昇温して反応液を加熱し、粒子内に含まれる水とn−へプタンとを共沸させることによって脱水率98%まで脱水した。得られた脱水スラリーを吸引濾過し、濾別された微粒子をn−ヘプタンで繰り返し洗浄して分散安定剤を除去した後、乾燥機で溶剤を完全に揮発させて重合体微粒子A−1の乾燥粉末を得た。
【0052】
(製造例2:重合体微粒子A−2の製造)
モノマー水溶液組成として、AA 50部、40%AMD 125部、アロニックスM−243 4.8部、25%アンモニア水35.4部に変更し、攪拌回転数を640rpmとした点以外は製造例1と同様に製造し、重合体微粒子A−2の乾燥粉末を得た。
【0053】
(製造例3:重合体微粒子A−3の製造)
攪拌回転数を420rpmに変更下げた点以外は製造例2と同様に製造し、重合体微粒子A−3の乾燥粉末を得た。
【0054】
(製造例4:重合体微粒子A−4の製造)
単量体としてAA50.0部、40%AMD125.0部、アロニックスM−243 4.8部、およびイオン交換水30.0部を仕込み、攪拌、均一溶解させた。さらに混合液の温度を40℃以下に保つように冷却しながら、25%アンモニア水35.4部をゆっくり加えて中和し単量体混合物を得た。重合開始剤として2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.01部と過硫酸アンモニウム0.10部を加え、これを内径146mmの円筒形ガラス容器に仕込み、水溶液の温度を20℃に保ちながら30分間窒素バブリングを行った。その後、反応器の上方から100Wブラックライトを用いて5.0mW/cm2の照射強度で3分間紫外線を照射し、シート状含水架橋重合体ゲルを作成した。このゲルを乾燥、破砕し、ロールミル及び電動石臼で更に細かく粉砕することにより重合体微粒子A−4の乾燥粉末を得た。
【0055】
(製造例5:重合体微粒子B−1の製造)
連続相の組成をUM−1 1.5部、及びレオドールAO−10V 5.0部、n−ヘプタン160.0部とし、モノマー水溶液組成としてアロニックスM−243を11.0部に変更し、攪拌回転数を1600rpmに上げた点以外は製造例2と同様に製造し、重合体微粒子B−1の乾燥粉末を得た。
【0056】
(製造例6:重合体微粒子B−2の製造)
攪拌回転数を300rpmに下げた点以外は製造例2と同様に製造し、重合体微粒子B−2の乾燥粉末を得た。
【0057】
(製造例7:重合体微粒子B−3の製造)
モノマー水溶液組成として、アロニックスM−243を0.95部に変更し、攪拌回転数を830rpmとした点以外は製造例2と同様に製造し、重合体微粒子B−3の乾燥粉末を得た。
【0058】
(製造例8:重合体微粒子B−4の製造)
重合には、ピッチドパドル型攪拌翼および2本垂直バッフルからなる撹拌機構を有し、さらに温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応器を用いた。反応器は温度調節機付きヒーターを備えた浴槽に設置した。
反応器内に分散安定剤としてポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「PVA−420」)26.7部及びイオン交換水1200.0部を仕込み、均一に溶解するまで攪拌した。一方、別の容器にてスチレン(以下、「St」という)100.0部、純度55%のジビニルベンゼン(以下「55%DVB」という)33.3部及び純度75%の過酸化ベンゾイル3.0部からなる単量体混合液を調整し、全量を反応器に投入した。
窒素気流下、800rpmで攪拌しながら内温を80℃に昇温し、8時間加熱攪拌を続けた。分散液の全量を200メッシュのポリネットで濾過し、遠心分離によって沈降部を回収後、90℃に設定した通風乾燥機で1.5時間乾燥させて重合体微粒子B−4を得た。樹脂微粒子B−4の乾燥状態での平均粒径は32.5μmであった。
【0059】
(実施例1)
表1に示す標準配合処方により、セラミック押出成形体の乾燥収縮試験を実施した。
セラミック原料粉末として表1に示す量のタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、およびシリカを秤量した。ここへバインダーとしてメチルセルロース4.6部を加えてドライブレンドした。更に重合体微粒子A−1 0.4部を加えて更にドライブレンドした。
上記の粉末混合物をニーダーで混練しながらイオン交換水を少量ずつ添加し、混練を続けた。混練するにつれてメチルセルロースが溶解してニーダーの電流値が上昇し、やがて一定となった時点で混練が完了したと判断して混練物を取り出した。この混練物をピストンに押し込んで円柱状に押出成形し、概略寸法がφ15mm×50mm、コージェライト系のセラミックの押出成形体を得た。
【0060】
【表1】
【0061】
《乾燥収縮度合いの評価》
得られたセラミック押出成形体の長さと直径をノギスで測定し、110℃の通風乾燥機内で120分間加熱乾燥した。乾燥後の成形体寸法を同様に測定し、乾燥前後の成形体の体積を算出した。これらの値から、式(1)に従って寸法比を算出した(寸法比が1に近いほど成形体の乾燥収縮度合いは小さい)。試験結果を表2に示す。
【0062】
【数1】
【0063】
《保形性の評価》
上記押出成形により得られた成形体の外観を乾燥前後について目視で確認し、以下基準に従って評価した。結果を表2に示す。
○:円柱形状を良好に維持
△:円柱形状がわずかに変形
×:円柱形状が大きく変形
【0064】
《成形体表面状態の評価》
また、得られた成形体乾燥物を1000℃まで昇温した後、昇温速度50℃/時間で1400℃まで昇温した。更に、1420℃に達したところで温度を維持し、4時間焼成した。焼成体の表面状態を目視により観察し、以下に示す基準に従って平滑性を評価した。結果を表2に示す。
◎:表面が平滑。
○:表面の一部に微細な凹凸が見られる。
△:表面の一部に微細な凹凸、およびクラックが見られる。
×:表面の全体に微細な凹凸、およびクラックが見られる。
××:表面の平滑性が著しく不良であり、全体にクラックが見られる。
【0065】
(実施例2〜3及び比較例6
重合体微粒子にA−2〜A−4を用いた点以外は実施例1と同様の操作により乾燥収縮度合い、および焼成体の表面状態を評価した。試験結果を表2に示す。
【0066】
(比較例1〜4)
重合体微粒子にB−1〜B−4を用いた点以外は実施例1と同様の操作により乾燥収縮度合い、および焼成体の表面状態を評価した。なお、B−1については33.4部全量の水を添加してもまだ混練物の一部にパサツキが見られたため、更に5.2部の水を追加して混練した。同様にB−3については14.0部の水を追加して混練した。試験結果を表3に示す。
【0067】
(比較例5)
重合体微粒子を用いなかった点以外は実施例1と同様の操作により乾燥収縮度合い、および焼成体の表面状態を評価した。ただし、混練の際に水8.0部の追加が必要であった。試験結果を表3に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
上記実施例における、重合体微粒子の分析条件(1)〜(3)は以下に記載のとおりである。
(1)固形分
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、無風乾燥機150℃、60分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067−1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
固形分(%)=(b/a)×100
【0071】
(2)水膨潤粒子径
測定サンプル0.02gにイオン交換水20mlを加え、十分に振り混ぜて、サンプルを均一分散させた。また粒子を水飽和膨潤状態とするために、30分以上分散させた分散液について、レーザー回折散乱式粒度分布計(日機装製、MT−3000)を用いて、超音波1分照射後に粒度分布測定を行った。測定時の循環分散媒にはイオン交換水を使用し、分散体の屈折率は1.53とした。測定により得られた体積基準での粒度分布よりメジアン径(μm)を計算し、水膨潤粒子径とした。
【0072】
(3)吸水量
吸水量は以下の方法によって測定した。測定装置を図3に示す。
測定装置は図1における<1>〜<3>から構成される。
<1> 空気抜きするための枝管が付いたビュレット1、ピンチコック2、シリコンチューブ3およびポリテトラフルオロエチレンチューブ4から成る。
<2> ロート5の上に底面に多数の穴が空いた支柱円筒8、さらにその上に装置用濾紙10が設置されている。
<3> 重合体微粒子の試料6は2枚の試料固定用濾紙7に挟まれ、試料固定用濾紙は粘着テープ9によって固定される。なお、使用する濾紙は全てADVANTEC No.2 内径55mmである。
<1>と<2>とはシリコンチューブ3によって繋がれる。
また、ロート5および支柱円筒8は、ビュレット1に対する高さが固定されており、ビュレット枝管の内部に設置されたポリテトラフルオロエチレンチューブ4の下端と支柱円筒8の底面とが同じ高さになる様に設定されている(図1中の点線)。
【0073】
測定方法について以下に説明する。
<1>にあるピンチコック2を外し、ビュレット1の上部からシリコンチューブ3を通してイオン交換水を入れ、ビュレット1から装置用濾紙10までイオン交換水12で満たされた状態とする。次いで、ピンチコック2を閉じ、ビュレット枝管にゴム栓で接続されたポリテトラフルオロエチレンチューブ4から空気を除去する。こうして、ビュレット1から装置用濾紙10までイオン交換水12が連続的に供給される状態とする。
次に、装置用濾紙10からにじみ出た余分なイオン交換水12を除去した後、ビュレット1の目盛りの読み(a)を記録する。
測定試料の乾燥粉末0.1〜0.2gを秤量し、<3>にある様に、試料固定用濾紙7の中央部に均一に置く。もう1枚の濾紙でサンプルを挟み、粘着テープ9で2枚の濾紙を留め、サンプルを固定する。サンプルが固定された濾紙を<2>に示される装置用濾紙10上に載置する。
次に、装置用濾紙10上に蓋11を載置した時点から、30分間経過した後のビュレット1の目盛りの読み(b)を記録する。
測定試料の吸水量と2枚の試料固定用濾紙7の吸水量の合計(c)は(a−b)で求められる。同様の操作により、重合体微粒子試料を含まない、2枚の濾紙7のみの吸水量を測定する(d)。
上記操作を行い、吸水量を以下の式より計算した。なお、計算に使用する固形分は、(1)の方法により測定した値を使用した。
吸水量(mL/g)=(c−d)/{測定サンプル重量(g)×(固形分%÷100)}
【0074】
本発明の重合体微粒子を使用していない比較例5に対して実施例1〜はいずれも少ない水の量で成形が可能であり、乾燥前後の寸法比も小さく、乾燥による収縮度合いが低減されていることが確認できる。この中でも、また、重合体微粒子が塊状重合で製造された比較例6に対し、重合体微粒子が逆相懸濁重合で製造された実施例1〜3は成形体の表面状態も良好であった。
一方、イオン交換水で飽和膨潤した状態の平均粒子径が本発明の範囲外となる比較例1および2では良好な表面状態の成形体が得られず、また吸水量が本発明の範囲外となる比較例3および4では乾燥収縮低減効果が認められなかった。この中でも吸水量の高い比較例3は、混練に多量の水を必要とするために成形体の保形性が不十分であった。


【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の重合体微粒子をセラミック成形に用いた場合には成形後の乾燥工程における成形体の収縮が低減され、かつ該成形体も良好な保形性を示す。このため、高精度のセラミック成形体を再現性良く得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 ビュレット
2 ピンチコック
3 シリコーンチューブ
4 ポリテトラフルオロエチレンチューブ
5 ロート
6 試料(重合体微粒子)
7 試料(重合体微粒子)固定用濾紙
8 支柱円筒
9 粘着テープ
10 装置用濾紙
11 蓋
12 イオン交換水
図1