(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5660199
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】鉛フリーはんだ合金
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20150108BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20150108BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20150108BHJP
B23K 35/363 20060101ALI20150108BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
C22C13/02
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/14 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-506040(P2013-506040)
(86)(22)【出願日】2012年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2012057540
(87)【国際公開番号】WO2012128356
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2014年8月19日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/056903
(32)【優先日】2011年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
(72)【発明者】
【氏名】島村 将人
(72)【発明者】
【氏名】大西 司
(72)【発明者】
【氏名】高斎 光弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 和順
(72)【発明者】
【氏名】野中 朋子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠之
(72)【発明者】
【氏名】林田 達
(72)【発明者】
【氏名】石橋 世子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊策
(72)【発明者】
【氏名】山中 芳恵
【審査官】
塩▲崎▼ 義晃
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−290150(JP,A)
【文献】
特開2007−237251(JP,A)
【文献】
特開2005−254298(JP,A)
【文献】
特開2002−018590(JP,A)
【文献】
特開平10−043882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
35/363
35/14
C22C 13/00
13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agが0.2〜1.2質量%、Cuが0.6〜0.9質量%、Biが1.2〜3.0質量%、Sbが0.02〜1.0質量%、Inを0.01〜2.0質量%含有し、残部Snで構成されることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
Agが0.2〜1.0質量%、Cuが0.6〜0.9質量%、Biが1.2〜2.0質量%、Sbが0.1〜0.5質量%、Inを0.01〜0.3質量%含有し、残部Snで構成されることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金のはんだ粉末とフラックスを混和した鉛フリーソルダペーストにおいて、該フラックスに用いられる有機酸としてコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸から選択された1種以上の有機酸を合計で0.5質量%以上、5質量%未満を用いた鉛フリーソルダペースト。
【請求項4】
請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだ線の中心部にフラックスを充填した脂入りはんだにおいて、該フラックスに用いられる有機酸としてコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸から選択された1種以上の有機酸を用いた鉛フリー脂入りはんだ。
【請求項5】
請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだボール。
【請求項6】
請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金からなるソルダプリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含まないはんだ合金、特に面実装基板に用いるソルダペーストや修正用の脂入りはんだに適した鉛フリーはんだ合金に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品のはんだ付け方法としては、鏝付け法、フロー法、リフロー法、等がある。
リフロー法は、はんだ粉とフラックスからなるソルダペーストをプリント基板の必要箇所だけに印刷法や吐出法で塗布し、該塗布部に電子部品を搭載してからリフロー炉のような加熱装置でソルダペーストを溶融させて電子部品をプリント基板にはんだ付けする方法である。このリフロー法は、一度の作業で多数箇所のはんだ付けができるばかりでなく、狭いピッチの電子部品をはんだ付けしてもブリッジの発生がなく、しかも不要箇所にははんだが付着しないという生産性と信頼性に優れたはんだ付けが行えるものである。
【0003】
ところで、従来、はんだには、Pb-Sn合金が用いられていた。このPb-Sn合金は、共晶組成(Pb-63Sn)では融点が183℃であり、熱に弱い電子部品に対しても熱影響が少なく、またはんだ付け性に優れているため、未はんだやディウエット等のはんだ付け不良の発生も少ないという特長を有している。
【0004】
しかし、近年Pbの毒性の問題から、電子機器業界からはPbを含まない所謂「鉛フリーはんだ」が強く要求されてきている。
現在多く使用されている鉛フリーはんだは、特開平5−050286号公報に開示されているようなAgを3〜5質量%、Cuを0.5〜3質量%含有したSn-Ag-Cu組成の鉛フリーはんだである。この鉛フリーはんだは、従来のSn-Pbはんだよりも温度サイクル特性に優れ、またクリープ特性に優れているので普及している。特に温度サイクル特性は、電子機器の寿命を評価したり、製品保証をする上で、重要な要素である。
【0005】
ところが、現在使用されているSn-Ag-Cu組成の鉛フリーはんだ合金は、従来使用されてきたSn-Pbはんだに比べて硬いために、携帯電話などの小型機器に使用されると誤って携帯機器を落とすと、部品とはんだ付けした部分との界面で割れる、所謂「界面剥離」が発生し易いことが問題となっている。この界面剥離は、接合部のはんだの量が比較的多いフローソルダリングを用いた基板では起こり難いが、接合部のはんだ量が少なく、接合部が微細なリフローソルダリングではんだ付けした基板で発生し易い。
【0006】
なお、リフローソルダリングではんだ付けする基板には、ソルダペーストやはんだボール、ソルダプリフォームなどが用いられる。また、はんだ付け部の修正には、脂入りはんだが用いられる。これらのはんだ材料が使用されたプリント基板には、特に界面剥離の問題が発生し易い。
【0007】
本出願人は、Cuランドのはんだ付けに用いる落下衝撃に強いはんだ合金として、はんだのAgの含有量が0.8〜2.0質量%、Cuの含有量が0.05〜0.3質量%でIn、Ni、Pt、Sb、Bi、Fe、Al、Pを添加したはんだ合金(WO2006/129713A1)を開示している。
【0008】
また、温度サイクル特性に優れたはんだ合金として、固溶元素を含有するSn−Ag−Cu系はんだ合金であって、且つ、室温では過飽和固溶体、もしくは、固溶元素が析出した固溶体からなる合金組織を有し、ヒートサイクル環境における高温時には、低温で析出した固溶元素がSnマトリックス中に再固溶する固溶体からなる合金組織を有する合金からなる、Sn-Ag-Cu-Bi系鉛フリーはんだ(WO2009/011341A1)を開示している。
【0009】
さらに、Sn-Ag-Cuはんだ組成にBiやSbを添加してBiやSbとSnとで固溶体を形成し、また、AgやCuは、Snと金属間化合物を形成して、その固溶体や金属間化合物のミクロ組織によって、機械的な強度を保っているはんだ合金(特開平9−327790号公報)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2006/129713A1
【特許文献2】WO2009/011341A1
【特許文献3】特開平9−327790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鉛フリーはんだは、耐落下衝撃性、特にはんだ付け面積の小さいはんだ付け部の耐落下衝撃性、が強いとは言えない。最近の電子機器は高性能・小型化されてきているから、それに組み込まれる電子部品も小型化で高機能化されてきており、近年の電子機器は電極数が増えているにもかかわらず、全体の大きさは逆に小さくなっている。このように小さくなった電子部品の電極に形成するはんだ付け部も小さくなっているが、小さな鉛フリーはんだはんだ付け部のはんだが耐落下衝撃性に弱いと、落下のような衝撃を電子機器が受けたときに、はんだ付け部が簡単に剥離して、電子機器としての機能が果たせなくなってしまう。
【0012】
携帯機器でも、リモコンのように電子機器のプリント基板のサイズが比較的大きく、はんだが多く付着するフローソルダリングではんだ付けさせている電子機器は問題となり難いが、携帯電話やモバイルパソコンのように、小型で密集度が高い製品はソルダペーストやはんだボールなどを使ったリフローソルダリングのはんだ付けしか行えず、はんだ接合に使用されるはんだ量も微少量になっている。
【0013】
次に、電子機器の温度サイクル特性はその電子機器の寿命に関係する重要な要素であり、携帯電話やモバイルパソコンは、常時空調の効いた室内で使用させる訳ではなく、自動車の車内のような高温環境下や雪天の野外のような低温環境下で使用されることも珍しくもない。そのために、温度サイクル特性に優れていることは必須の条件であり、携帯機器に使用されるはんだも優れた温度サイクル特性を有していなければならない。
【0014】
すなわち、電子機器が使用される環境によって、電子機器を接合するはんだ付け部は膨張・収縮を繰り返し、はんだ部分に亀裂が入り、最後にははんだ部分が破壊してしまう。これを一般的に熱疲労と呼んでいる。携帯電話やモバイルパソコンに使用させるはんだ合金としては、熱疲労が発生しない、温度サイクル特性の良いはんだ合金が求められている。
【0015】
しかし、耐落下衝撃性に優れたはんだが、同時に、温度サイクル特性に優れているとは言えなかった。例えば特許文献1のような、従来の耐落下衝撃性を考慮したはんだ合金は、Sn-Ag-CuはんだのAgやCuの含有量を少なくして、電極とはんだ付け部との界面に発生するCu6Sn5やAg3Snなどの金属間化合物が厚くなることを抑制することで、電極とはんだ付け部との界面から剥離が起こることを防止して耐落下衝撃性を確保している。しかし、従来のSn-Ag-Cu系はんだ合金のAgやCuの量を減少させると耐落下衝撃性は向上するが、Sn-Ag-Cu系はんだ合金の優位性である温度サイクル特性が悪くなってしまうという問題が発生する。このように、今までは温度サイクル特性と耐落下衝撃性の両方の特性をともに有するはんだ合金は開発されていなかった。
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、Sn-Ag-Cu系はんだ合金の特徴である温度サイクル特性を維持しながら、耐落下衝撃性に優れたはんだ合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、Sn-Ag-Cu系はんだ合金組成において、Cuが共晶付近から離れた組成としてしまうと温度サイクル特性が低下してしまうこと、Agは共晶付近から離れた組成としてもCuに比べて温度サイクル特性の低下が少ないこと、Agの量を減少させた代わりにBiとSbにInを加えることにより温度サイクル特性が向上することを見いだし、本発明を完成させた。
【0018】
本発明は、Agが0.2〜1.2質量%、Cuが0.6〜0.9質量%、Biが1.2〜3.0質量%、Sbが0.02〜1.0、Inを0.01〜2.0質量%含有し、残部Snで構成されることを特徴とする鉛フリーはんだ合金である。
【0019】
電子機器のはんだ付け部に温度サイクルが加わると、接合部のはんだ組織は粗大化を起こすので、一般的に温度サイクル特性は、はんだ組織が微細のものが優れている。特許文献3では、実施例で使用するはんだ合金のAgの量が3.0質量%又は3.4質量%であることから考えて、Agの量が共晶付近のはんだ合金の技術であるのに対して、本発明では耐落下衝撃特性を持たせるために、Agの量を0.2〜1.2質量%としており、SnとAgとCuとBiとSbからなるはんだ合金組成では、温度サイクル特性が良好とは言えなかった。そこで、本発明ではSn-Ag-Cuのはんだ合金組成にBiとSbの他にInを添加することによって、Agの量が0.2〜1.2質量%と少なくしても、従来のSn-Ag-Cu-Bi-Sb組成と同様に熱疲労が少ないばかりでなく、予想外に、温度サイクル特性が良好なはんだ合金となっている。
【0020】
本発明のはんだ合金に添加したInは、BiとSbと同じようにSnと固溶体を形成する金属である。本発明のはんだ合金に添加したInは同じSnと固溶体を形成するBiやSbに比較して原子量が小さいので、BiやSbの間に入り込んでより耐温度サイクル特性が良好な固溶強化型のはんだ合金を形成することが可能である。特に、Bi、Sb、Inの中で一番原子量が大きいBiの含有量がInより原子%で2倍より多く含まれている、つまり質量%で約4倍以上多いと、Biの原子の隙間にInが入り込んでより耐温度サイクル特性が良好になる。
より好ましくは、Biの含有量がInより原子%で3倍以上のときである。
【0021】
しかし、InはZnなどに似て反応性が激しく、ソルダペーストに用いるとソルダペーストが粘度の経時変化を起こし易く、扱いが難いとされていた。本発明では、はんだ合金中に添加するInの量を限定すること、及びソルダペーストのフラックスに用いる有機酸を限定することによって、ソルダペーストへの使用も可能となっている。
【発明の効果】
【0022】
本発明のはんだ合金を使用することにより、微細なはんだ付けパターンを持った携帯機器などが落下してもはんだ付け部が破損しない耐落下衝撃性に優れた携帯機器を得ることができる。また、本発明のはんだ合金を使用することにより、炎天下の車内などの高温の環境下でも、雪天の野外などの低温下の環境で用いても、熱疲労が発生しない、温度サイクル特性に優れた携帯機器を得ることができる。
【0023】
また、本発明のはんだ合金はInが含まれているが、本発明のはんだ合金を粉末にしてソルダペーストにしても粘度の経時変化が少なく、優れたソルダペーストを得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一般的にSn主成分の鉛フリーはんだにおいて、Agは耐温度サイクル性に効果があるが、逆に多く添加すると耐落下衝撃性が低下する。本発明の鉛フリーはんだでは、Agの添加量が0.2質量%よりも少ないとはんだ合金中のSn-Agの金属間化合物の生成量が少なく、はんだ組織の微細化効果が現れずに耐温度サイクル性向上の効果が現れない。また、Agの添加量が1.2質量%を超えるとはんだ内部にAg3Snの金属間化合物の生成量が多くなり、網目状の構造が得られるため、材料の強度が上がり、耐衝撃性が悪くなる。そのためAgの添加量は、1.2質量%以下とする。本発明のはんだ合金におけるAgの添加量は0.2〜1.2質量%であり、より好ましい本発明のはんだ合金におけるAgの添加量は0.5〜1.0質量%である。
【0025】
また本発明の鉛フリーはんだにおいて、Cuが0.6質量%よりも少ないとはんだ合金中のSn-Cuの金属間化合物の生成量が少なく、はんだ組織の微細化効果が現れずに耐温度サイクル性向上の効果が現れない。Cuの添加量が0.9質量%よりも多くなると、はんだ凝固時にCu6Sn5の金属間化合物層が初晶となり、溶融性が阻害される。そのため、本発明のはんだ合金におけるCuの添加量は0.6〜09質量%であり、より好ましくは0.7〜0.8質量%である。
【0026】
本発明のBiの含有量は、1.2質量%より少ないと、はんだ合金中のSnに対するBiの固溶量が少ないので、温度サイクル特性の向上に効果がない。しかし、Biの含有量が3.0質量%より多いと、はんだの硬度が急激に増し、延性がなくなるために耐落下衝撃性を悪くしてしまう。そのために、Biの添加量は3.0質量%以下とする。本発明のはんだ合金におけるBiの添加量は1.2〜3.0質量%であり、より好ましい本発明のはんだ合金におけるBiの添加量は1.5〜2.0質量%である。さらに好ましくはBiの下限は1.6質量%である。
【0027】
次に、本発明のSbの含有量は、0.02質量%より少ないとはんだ合金中のSnへのSbの固溶量が少ないので、温度サイクル特性の向上に効果がなく、Sbの含有量が1.0質量%より多いと、はんだ中にAgSbの金属間化合物が生成して、耐落下衝撃性悪くしてしまう。
また、Sbの含有量が1.0質量%より多いとはんだのぬれ性が悪くなり、ボイドが増加する。そのために、Sbの添加量は1.0質量%以下とする。本発明のはんだ合金におけるSbの添加量は0.02〜1.0質量%であり、好ましい本発明のはんだ合金におけるSbの添加量は0.15〜0.5質量%である。
【0028】
はんだ合金におけるInの添加は、温度サイクル特性向上に効果がある。しかしInは酸化しやすい金属であるため、そのはんだ合金も容易に酸化してしまう。Inの酸化によって、はんだ合金の黄変が起こり、またはんだ接合部にボイドが発生してしまうので、Inの添加量は限定する必要がある。さらに、Inを含有するはんだ合金を粉末にして、フラックスと混和しソルダペーストを作るとInとフラックスが反応するので、ソルダペーストの粘度が経時変化を起こし易い。
【0029】
本発明のInの含有量は、0.01質量%より少ないとはんだ合金中のSnとInの固溶体量が少ないので、温度サイクル特性の向上に効果がなく、Inの含有量が2.0質量%より多いと、リフロー後にはんだバンプ表面に黄色変化が生じ、またボイド発生率も高くなる為、好ましくない。本発明のはんだ合金におけるInの添加量は0.1〜2.0質量%であり、より好ましくは本発明のはんだ合金におけるInの添加量は0.2〜0.5質量%である。
【0030】
Inを含有しているはんだ合金のソルダペーストは、Inが反応性の高い金属であるので粘度の経時変化を起こし易い。本発明のはんだ合金は、Inの量を限定することによってソルダペーストの経時変化を防止しているが、In専用のフラックスを用いる事によってフラックスとIn含有はんだ粉末との反応を防ぐことができる。
【0031】
本発明のフラックスは、ロジン、溶剤、チキソ剤、活性剤と補助活性剤として有機酸を含有するフラックスにおいて、補助活性剤として用いる有機酸にコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸のInと反応性が少ない有機酸を選択して用いており、フラックスとはんだ粉末が反応して粘度の経時変化を起こすことがない。補助活性剤とは、腐食信頼性を高めるために主活性剤のハロゲン化物等の量を制限されるときに、ぬれ性を高めるために添加されるもので、ハロゲン成分を含まない活性剤として添加されている。
【0032】
本発明のフラックスに用いるコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸は、合わせて0.5質量%未満では補助活性剤としての効果が現れず、ぬれ性が悪く、はんだボール発生などの不具合が多くなる。また、5質量%以上添加すると、本発明のコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸のInと反応性の少ない有機酸でもInと反応して経時変化が起きてしまう。従って、本発明に添加するコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸の量は、合計で0.5質量%以上、5.0質量%未満である。
【0033】
本発明にかかるはんだ合金は、上述のようにソルダペーストとして用いられるだけでなく、はんだボールとして、脂(ヤニ)入りはんだとして、あるいは、プリフォームはんだの形態で用いることができる。
【実施例】
【0034】
表1の実施例及び比較例はんだ組成(質量%)のはんだ粉末と表2の実施例13のフラックス組成のフラックスを混和してソルダペーストを作製して、3216サイズのSnめっき電極の抵抗をプリント基板の搭載した場合の、温度サイクル試験を行った。さらに、直径0.3mmボールで実装したCSPを同様に搭載し、落下衝撃試験を行った。
【0035】
温度サイクル試験及び落下衝撃試験の結果を、表1に示す。
ここで、比較例2は特許文献1のはんだ合金組成であり、比較例3、4は特許文献2のはんだ合金組成、比較例5は特許文献3のはんだ合金組成である。
【0036】
落下衝撃試験
1.はんだバンプを形成したCSPとプリント基板間に、落下による衝撃を加え、はんだ付け部に亀裂が発生するまでの落下回数を測定する。基板は、はんだ付け後に室温で5日間放置したものを用いた。亀裂進展についての判断は、電気抵抗値が、初期値から50%上昇した点を落下回数として記録する。
【0037】
2.落下衝撃試験の工程は以下のとおりに行う。
1.)外形12×12(mm)、電極196個のバンプを有する電解Ni/AuめっきのCSPに、フラックスを印刷し、表1の組成をもった直径0.3mmのはんだボールを載置する。
【0038】
2.)はんだボールが載置されたCSPをリフロー炉で加熱して電極にはんだバンプを形成する。
3.)はんだバンプが形成されたCSPを30×120(mm)のソルダペーストが塗布されたガラスエポキシプリント基板中央に搭載し、リフロー炉で加熱してCSPをプリント基板にはんだ付けする。
【0039】
4.)CSPがはんだ付けされたプリント基板の両端を、落下治具上に治具と1cmの間隔をあけて固定する。
5.)落下治具に加速度1500Gが負荷する高さから落下させてプリント基板に衝撃を与える。このとき両端を治具に固定されたプリント基板は、中央部が振動し、プリント基板とCSPのはんだ付け部は、この振動による衝撃を受ける。この落下試験でCSPのはんだ付け部にき裂が生じるまでの落下回数を測定する。試験記録は、6点試験を行い、最低値を記録する。
【0040】
温度サイクル試験
1.JIS C0025に規定された試験方法であり、はんだ付け部が高温、低温の温度変化の繰り返しによって、与えられる影響について調べるもので、電子機器の寿命の指数として、用いられている。
【0041】
2.温度サイクル試験の工程は以下の通りに行う。
1.)外形3.2×1.6(mm)のSnめっき抵抗をソルダペーストが塗布されたガラスエポキシプリント基板に搭載し、リフロー炉で加熱してはんだ付けする。
【0042】
2.)はんだ付けされたプリント基板を低温条件が−40℃、高温条件が、+85℃、各30分の二槽式の自動試験装置に投入して、初期、800サイクル目、1200サイクル目、1600サイクル目、2000サイクル目でプリント基板を取り出して、はんだ付け部のせん断強度試験を150点行い、強度の推移を確認した。
【0043】
3.)各サイクルでの最低強度において、強度の低下率が著しい(初期値より50%以下)、もしくは強度が10N以下になる段階で劣化したと見なし、そのサイクル数を表に記載する。
【0044】
表1から分かるように、本発明の鉛フリーはんだ合金は、耐落下衝撃試験において比較例の鉛フリーはんだよりも各段に優れているものであり、また温度サイクル特性も長時間の温度サイクルにおいても著しい強度劣化の発生がないものである。
【0045】
粘度経時変化試験
次に、表1の実施例4のはんだ組成ではんだ粉末を作製し、表2のフラックス組成(質量%)のフラックスと混和して、ソルダペーストを作製し、はんだボール試験とソルダペーストの粘度経時変化を確認した。
【0046】
はんだボール試験は、JIS Z3284 付属書11に従った。JIS Z3284 付属書11の
図1において、カテゴリー1及び2を◎とし、カテゴリー3を○とし、カテゴリー4を×とした。
【0047】
ソルダペーストの粘度経時変化は、JIS Z3284 付属書6に従い、マルコム社製粘度計PCU-205を用いて測定温度25℃、回転速度10RPMで10時間測定して、初期粘度から20%以上粘度が上昇したものを×、粘度の上昇が10%以上、20%未満のものを○、粘度の上昇が10%未満のものを◎と判定した。はんだボール試験及びソルダペーストの粘度経時変化試験の結果は、表2に記載する。
【0048】
表2から分かるように、本発明はソルダペーストの経時変化が発生し易いInを含有しているにも関わらず、安定した粘度のソルダペーストを得ることができる。また、リフロー後のはんだボールが少なく、不具合の無いはんだ接合を得ることが可能になる。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、微小はんだ付け部における耐衝撃性の向上を目的としたものであり、この目的に適した用途としてははんだバンプをはじめとする、一般のはんだ付けに使用しても耐落下衝撃性に効果を発揮する。はんだバンプ形成には、はんだボールやソルダペーストとして使用することが多いが、これらの微小はんだ付け部分は、修正用として脂入りはんだも使用されるものであり、脂入りはんだでも本発明の作用効果が現れると考えられる。