【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について説明する。
まず、フェース面での打点位置とバックスピン量との関係およびアイアンゴルフクラブヘッドの重心深度とバックスピン量との関係について説明する。
【0047】
発明者等は、三次元反発シミュレーションを用いてフェース面での打点位置とバックスピン量との関係およびアイアンゴルフクラブヘッドの重心深度とバックスピン量との関係について調べた。
【0048】
三次元反発シミュレーションは以下のようにして行われた。
滑り係数、反発係数、インパクト角、ブロー角を入力パラメータとして所定の演算を行った。そして、スイートスポットを原点として、スイートスポットからリーディングエッジ部側およびトップエッジ部側のそれぞれに5mmの範囲で0.5mm単位で打点位置を変化させたときのボールの回転数を算出した。
【0049】
図8を参照して、重心深度が一定で打点位置が変化した場合のボールのバックスピン量を説明する。重心深度は0.1mmである。このため、重心はフェース面よりバック部側に位置している。
図8に示される打点位置の0がスイートスポットの位置に該当する。
図8において、打点位置のマイナス側がリーディングエッジ部側の位置を示しており、プラス側がトップエッジ部側の位置を示している。スイートスポットからリーディングエッジ部側に5mm(−5mm)およびトップエッジ部側に5mm(+5mm)の範囲で0.5mmずつ打点位置(mm)を変化させた場合のボールのバックスピン量(rpm)を算出した。
【0050】
シミュレーションの結果、スイートスポットではバックスピン量は、約4578rpmとなった。スイートスポットよりリーディングエッジ部側(下側)の打点位置で、スイートスポットから離れるほどバックスピン量が増加した。一方、スイートスポットよりトップエッジ部側(上側)の打点位置で、スイートスポットから離れるほどバックスピン量が減少した。これにより、スイートスポットよりリーディングエッジ部側(下側)の打点位置で、ギア効果によってバックスピン量が増加することを確認した。
【0051】
続いて、
図9を参照して、打点位置が一定で重心深度が変化した場合のボールのバックスピン量を説明する。打点位置はスイートスポットである。
図9に示される重心深度の0がスイートスポットの位置に該当する。
図9において、重心深度のマイナス側がスイートスポットの上方側(フェース面の前方側)の位置を示しており、プラス側がスイートスポットの下方側(フェース面の後方側)の位置を示している。スイートスポットから上方側に2mm(−2mm)および下方側に2mm(+2mm)の範囲で0.2mmずつ重心深度を変化させた場合のバックスピン量(rpm)を算出した。重心深度が0の場合にバックスピン量は最大となり、重心深度があるとバックスピン量は減少した。
【0052】
以上より、重心深度があるとバックスピン量は減少するが、打点位置によってギア効果によりバックスピン量を増大することができることがわかった。
【0053】
ところで、本発明者等が鋭意検討したところ、スイートスポットで打撃した場合と比較してバックスピン量が約500rpm増加すると、ゴルファはスピン性能が向上したと評価する傾向があることを見出した。
【0054】
表1を参照して、スピン性能の向上を体感できるバックスピン量の増加量を調べるために3名のプロゴルファ(被験者A〜C)による試打試験を行った。50ヤードショットで、バックスピン量を変化させてスピン性能の向上を体感できるバックスピン量の増加量を調べた。バックスピン量の増加量は100rpmから700rpmまで100rpmずつ増加させた。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の○はスピン性能の向上を体感できたとの評価を示し、△はスピン性能が向上したと思われるとの評価を示し、×はスピン性能の向上を体感できなかったとの評価を示している。被験者Aおよび被験者Bは、バックスピン量が500rpm増加するとスピン性能の向上を体感できたと評価した。また、被験者Cは、バックスピン量が400rpm増加するとスピン性能が向上したと思われると評価し、バックスピン量が500rpm増加するとスピン性能の向上を体感できたと評価した。
【0057】
これより、バックスピン量が400rpmを超えて増加するとスピン性能が向上したと評価され得ることがわかった。さらに、試打試験を行った全ての被験者A〜Cはバックスピン量が500rpm増加するとスピン性能の向上を体感できたと評価したことからバックスピン量が500rpm増加するとスピン性能の向上を体感できることがわかった。したがって、バックスピン量が約500rpm増加すればスピン性能の向上を体感できると考えられる。より具体的には、バックスピン量が500rpmから−10%までの範囲で増加すればスピン性能の向上を体感できると考えられる。そして、バックスピン量が500rpm増加すると確実にスピン性能の向上を体感できると考えられる。
【0058】
そこで、
図10〜
図14を参照して、重心深度が0.1mm、1.0mm、3.0mm、5.0mm、7.0mmのそれぞれについて、打点位置(mm)が変化した場合のバックスピン量(rpm)を算出した。そして、スイートスポットで打撃した場合と比較してバックスピン量が500rpm増加する打点位置を算出した。
【0059】
図10〜
図14では、打点位置のマイナス側がリーディングエッジ部側の位置を示しており、プラス側がトップエッジ部側の位置を示している。また、スイートスポットからリーディングエッジ部側に5mm(−5mm)およびリーディングエッジ部側に5mm(+5mm)の範囲で0.5mmずつ打点位置(mm)を変化させた場合のボールのバックスピン量(rpm)を示している。
【0060】
図10を参照して、重心深度が0.1mmの場合、スイートスポット(打点位置0mm)ではバックスピン量は約4578rpmとなる。バックスピン量と打点位置との関係は、バックスピン量をyとして打点位置をxとすると、近似式としての次の第(1)式で表される。
【0061】
y=−0.3522x+4578.2 ・・・(1)
第(1)式より、バックスピン量が500rpm増加した場合、つまりバックスピン量yが5078rpmの場合の打点位置xは、−1419mmとなる。この結果、スイートスポットからリーディングエッジ側に1419mm離れた位置が打点位置となる。このような打点位置を有するアイアンゴルフクラブヘッドは、寸法上実現困難であるため、現実的には採用されない。
【0062】
図11を参照して、重心深度が1.0mmの場合、スイートスポット(打点位置0mm)ではバックスピン量は約4578rpmとなる。バックスピン量と打点位置との関係は、バックスピン量をyとして打点位置をxとすると、近似式としての次の第(2)式で表される。
【0063】
y=−3.5348x+4577.6 ・・・(2)
第(2)式より、バックスピン量が500rpm増加した場合、つまりバックスピン量yが5078rpmの場合の打点位置xは、−142mmとなる。この結果、スイートスポットからリーディングエッジ側に142mm離れた位置が打点位置となる。このような打点位置を有するアイアンゴルフクラブヘッドは、寸法上実現困難であるため、現実的には採用されない。
【0064】
図12を参照して、重心深度が3.0mmの場合、スイートスポット(打点位置0mm)ではバックスピン量は約4573rpmとなる。バックスピン量と打点位置との関係は、バックスピン量をyとして打点位置をxとすると、近似式としての次の第(3)式で表される。
【0065】
y=−10.595x+4573 ・・・(3)
第(3)式より、バックスピン量が500rpm増加した場合、つまりバックスピン量yが5073rpmの場合の打点位置xは、−47.2mmとなる。この結果、スイートスポットからリーディングエッジ側に47.2mm離れた位置が打点位置となる。このような打点位置を有するアイアンゴルフクラブヘッドは、寸法上実現困難であるため、現実的には採用されない。
【0066】
図13を参照して、重心深度が5.0mmの場合、スイートスポット(打点位置0mm)ではバックスピン量は約4564rpmとなる。バックスピン量と打点位置との関係は、バックスピン量をyとして打点位置をxとすると、近似式としての次の第(4)式で表される。
【0067】
y=−17.62x+4563.6 ・・・(4)
第(4)式より、バックスピン量が500rpm増加した場合、つまりバックスピン量yが5064rpmの場合の打点位置xは、−28.4mmとなる。この結果、スイートスポットからリーディングエッジ側に28.4mm離れた位置が打点位置となる。このような打点位置を有するアイアンゴルフクラブヘッドは、寸法上実現可能である。
【0068】
平均的ゴルファの打点位置は、リーディングエッジ部からスイートスポット側に約10mmの位置となることが多い。そのため、現実的な打点としては、リーディングエッジ部からスイートスポット側に約10mmの打点位置が好適である。したがって、リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離は38.4mmに設定される。
【0069】
図14を参照して、重心深度が7.0mmの場合、スイートスポット(打点位置0mm)ではバックスピン量は約4549rpmとなる。バックスピン量と打点位置との関係は、バックスピン量をyとして打点位置をxとすると、近似式としての次の第(5)式で表される。
【0070】
y=−24.587x+4549.7 ・・・(5)
第(5)式より、バックスピン量が500rpm増加した場合、つまりバックスピン量yが5049rpmの場合の打点位置xは、−20.3mmとなる。この結果、スイートスポットからリーディングエッジ側に20.3mm離れた位置が打点位置となる。このような打点位置を有するアイアンゴルフクラブヘッドは、寸法上実現可能である。
【0071】
現実的な打点としては、リーディングエッジ部からスイートスポット側に約10mmの打点位置が好適であるため、リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離は30.3mmに設定される。
【0072】
表2を参照して、重心深度(mm)が4mm、5mm、6mm、7mmのそれぞれについて、スイートスポットからリーディングエッジ部までの距離(mm)が変化した場合のバックスピン量(rpm)を算出した結果を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
実際に本発明例のアイアンゴルフクラブを作製して実打試験を行い、バックスピン量の増加を確認した。
【0075】
ミズノ株式会社製MP−T11ウェッジ(ロフト角56°)に銅製の重量体を接着してアイアンゴルフクラブを作製した。銅製の重量体の重さを調整して、重心深度が7mm、6mm、5mmのアイアンゴルフクラブヘッドを備えたアイアンゴルフクラブをそれぞれ作製した。
【0076】
図15を参照して、重心深度が7mmのアイアンゴルフクラブヘッドでは、バック部2に重量体が接着されている。リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離は30.3mmに設定されている。図示しない重心深度が6mmのアイアンゴルフクラブヘッドでは、リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離は33.7mmに設定されている。同様に図示しない重心深度が5mmのアイアンゴルフクラブヘッドでは、リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離は38.4mmに設定されている
株式会社ミヤマエ製メカニカルゴルファーを用いて重心深度が7mm、6mm、5mmのそれぞれのアイアンゴルフクラブでボールを打ってバックスピンの回転数毎分を計測した。具体的には、50ヤードショットでのバックスピンの回転数毎分を計測した。ボールのバックスピン回転数毎分は、Interactive Sports Games社製弾道測定器トラックマンで測定した。ボールはミズノ株式会社製MP801を使用した。
【0077】
図16〜
図18を参照して、図中のdeepは重量体が接着されているアイアンゴルフクラブヘッドのバックスピン量を示している。一方、図中のnormalは重量体が接着されていないアイアンゴルフクラブヘッドのバックスピン量を示している。図中のnormalは図中のdeepと比較するために示している。また、
図16〜
図18の各図では、図中のnormalの重心深度は−0.1mmで一定である。一方、図中のdeepの重心深度はそれぞれ7mm、6mm、5mmである。
【0078】
図16〜
図18の各図では、打点A(図中A)、打点B(図中B)、打点C(図中C)、スイートスポットn(図中n)、スイートスポットd(図中d)のそれぞれについてバックスピン量(rpm)が示されている。
図1を再び参照して、打点A(
図1中A)はリーディングエッジ部から10mmの位置である。打点B(
図1中B)はリーディングエッジ部から17.2mmの位置である。打点C(
図1中C)はリーディングエッジ部から24.4mmの位置である。
【0079】
スイートスポットnは、図中のnormalの場合のアイアンゴルフクラブヘッドのスイートスポットからリーディングエッジ部までの距離である。具体的にはスイートスポットnはリーディングエッジ部から21.6mmの位置である。スイートスポットdは、図中のdeepの場合のアイアンゴルフクラブヘッドのスイートスポットからリーディングエッジ部までの距離である。具体的にはスイートスポットdはリーディングエッジ部から30.1mmの位置である。
【0080】
図16を参照して、重心深度が7mmのアイアンゴルフクラブヘッドで実打試験を行った。
図16に示される重心深度が7mmの場合、現実的な打点である打点Aでバックスピン量は7620rpmとなった。打点Aでは、スイートスポットdのバックスピン量(7100rpm)に比べてバックスピン量は520rpm増加した。また、打点Aでは、図中のnormalのバックスピン量(7122rpm)に比べて図中のdeepのバックスピン量は498rpm増加した。
【0081】
図17を参照して、重心深度が6mmのアイアンゴルフクラブヘッドで実打試験を行った。
図17に示される重心深度が6mmの場合、現実的な打点である打点Aでバックスピン量は7692rpmとなった。打点Aでは、スイートスポットdのバックスピン量(7110rpm)に比べてバックスピン量は582rpm増加した。また、打点Aでは、図中のnormalのバックスピン量(7122rpm)に比べて図中のdeepのバックスピン量は570rpm増加した。
【0082】
図18を参照して、重心深度が5mmのアイアンゴルフクラブヘッドで実打試験を行った。
図18に示される重心深度が5mmの場合、現実的な打点である打点Aでバックスピン量は7692rpmとなった。打点Aでは、スイートスポットdのバックスピン量(7102rpm)に比べてバックスピン量は590rpm増加した。また、打点Aでは、図中のnormalのバックスピン量(7122rpm)に比べて図中のdeepのバックスピン量は570rpm増加した。
【0083】
以上より、実打試験によって、本発明例のアイアンゴルフクラブにおけるバックスピン量の増加を確認した。さらに、重心深度が7mm、6mm、5mmのそれぞれのアイアンゴルフクラブにおいて、打点Aではスイートスポットdのバックスピン量に比べてバックスピン量が500rpm以上増加することを確認した。
【0084】
図19を参照して、リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離(SD)と重心深度との関係を説明する。重心深度が5mm以上7mm以下の範囲でリーディングエッジ部とスイートスポットとの距離(SD)は30.3mm以上38.4mm以下となった。
【0085】
リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離(SD)と重心深度との関係は、リーディングエッジ部とスイートスポットとの距離(SD)をyとし、重心深度をxとすると、近似式として次の第(6)式で表される。なお、この場合、決定係数R
2は1となる(R
2=1)。
【0086】
y=0.65x
2−11.85x+81.40 ・・・(6)
第6式より、y≧0.65x
2−11.85x+81.40の場合にバックスピン量を約500rpm増加することができる。
【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。