特許第5661029号(P5661029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5661029低温時に自己着火式内燃機関を始動するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661029
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】低温時に自己着火式内燃機関を始動するための方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/06 20060101AFI20150108BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20150108BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   F02D41/06 380Z
   F02D41/06 385S
   F02D41/06 395
   F02D41/38 B
   F02D41/40 D
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-505419(P2011-505419)
(86)(22)【出願日】2009年4月21日
(65)【公表番号】特表2011-518285(P2011-518285A)
(43)【公表日】2011年6月23日
(86)【国際出願番号】EP2009002898
(87)【国際公開番号】WO2009129999
(87)【国際公開日】20091029
【審査請求日】2011年11月11日
(31)【優先権主張番号】102008020221.5
(32)【優先日】2008年4月22日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(74)【代理人】
【識別番号】100103573
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 栄一
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・コッホ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・リッツィンガー
【審査官】 本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−254645(JP,A)
【文献】 特開2000−320386(JP,A)
【文献】 特開2001−234778(JP,A)
【文献】 特開2002−242744(JP,A)
【文献】 特開平06−033812(JP,A)
【文献】 特開平5−86932(JP,A)
【文献】 特開2005−48739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00−41/40
F02D 43/00−45/00
F02D 13/00−28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温時に自己着火式内燃機関を始動する方法であって、
a)内燃機関の圧縮行程中にパイロット噴射より第一の燃料量が燃焼室内に導入され、部分的に均質な予混合気が燃焼室内で形成されるステップと、
b)メイン噴射によってメイン燃料量が燃焼室に導入され、自己着火によって混合気が燃焼するステップを有し、
パイロット噴射の噴射開始は、部分的に均質な予混合気がごく短い着火遅れで着火可能であるように選択され、メイン噴射の噴射開始は、燃焼段階中か又は着火した予混合気の燃焼段階の直後にメイン燃料量が燃焼室に導入されるように選択され、パイロット噴射がピストン上死点前クランク角度22°から100°の間で行われ、メイン噴射がピストン上死点前クランク角度20°からピストン上死点後クランク角度20°の間の範囲で行われ、メイン噴射が複数回のパーシャル噴射に分割され、内燃機関の始動動作の初めに第一のパーシャル噴射が上死点前クランク角度2°と上死点後クランク角度2°の間の範囲で、第二のパーシャル噴射が上死点後クランク角度2°と5°の間の範囲で行われ、
第二の及び/又は後続のパーシャル噴射中に導入される燃料量が、先行するパーシャル噴射中に導入される燃料量よりも大きく、第二の及び/又は後続のパーシャル噴射の噴射開始が回転数の増大につれて遅角の方向にずらされ、かつ
第一のパーシャル噴射の噴射開始が回転数の増大につれて進角方向にずらされる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
パイロット噴射がピストン上死点前クランク角度25°から30°の間の範囲で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらなるパイロット噴射が行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1回又は複数回のパイロット噴射中に導入された燃料量の合計が、1回の作動サイクル中に導入された燃料量全体の5〜20重量%であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
パイロット噴射の噴射開始が回転数の増大につれて進角方向にずらされることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
コモンレール式噴射システムを使用して噴射が行われることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
始動動作中の噴射圧が、内燃機関の回転数に依存して調整されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
メイン燃料量とパイロット噴射中に導入される燃料の部分量の合計との間の量比が回転数及び/又は内燃機関内の温度に依存して調整されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温時に自己着火式内燃機関を始動するための方法に関する。ここでは、最初に第一の燃料量が内燃機関の圧縮行程中に第一のパイロット噴射によって燃焼室に導入され、部分的に均質な予混合気が形成される。後続の行程では、メイン燃料量がメイン噴射によって燃焼室内に導入され、混合気は自己着火によって燃焼する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、低温時に自己着火式内燃機関を始動するための方法が公知である。ここでは、燃料が3回のパーシャル噴射で内燃機関の1つの燃焼室に導入される。1回のパイロット噴射中に、ピストンが圧縮ストロークの下死点にあるとき、第一の燃料量が噴射される。メイン燃料量はメイン噴射中に燃焼室に導入され、その際にメイン噴射はピストンが上死点の範囲にあるときに行われる。メイン噴射の直後には、より優れたエネルギー変換が得られるとされるポスト噴射が続く。この方法によって低温始動段階中のミスファイアを回避することができる。
【0003】
特許文献2から、低温時に自己着火式内燃機関を始動するための別の方法が公知である。ここでは少量の第一の燃料量が1つの燃焼室に導入され、その結果予混合気が形成される。適切なセンサーを使用して、予混合気が着火したかどうかが監視される。これらの行程は、第一の燃料量の自己着火が確認されるまで後続する作動サイクルで繰り返される。続いて、メイン燃料量が燃焼室に導入され、その際にメイン燃料量と空気から形成された混合気が、支配条件下で確実に着火する。移行段階中に1回のパイロット噴射及び1回のメイン噴射が内燃機関1回の爆発サイクル中又は前後して続く爆発サイクル中に燃焼室で行われることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102004053748号明細書
【特許文献2】特開2000−192836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、低温時におけるより確実で迅速な始動を実現する、内燃機関を始動するための改善された方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、第一のパイロット噴射の噴射開始は部分的に均質な予混合気がごく短い着火遅れで着火可能であるように選択され、メイン噴射の噴射開始は、燃焼段階中か又は着火した予混合気の燃焼段階の直後に続いてメイン燃料量が燃焼室に導入されるように選択される。圧縮行程中は、燃焼室にあるガスが圧縮され、それによって燃焼室温度が上昇する。この圧縮されたガス中に第一の燃料量が1回のパイロット噴射によって導入される。外気温度が低い状態では、従来式の拡散燃焼にとっては燃焼室内の温度が低すぎるため、最初に部分的に均質な予混合気が燃焼室に形成される。本発明による方法に従い、燃焼室内の温度が圧縮の結果十分に高く、形成された部分的に均質な予混合気が、典型的な部分的に均質な燃焼中に短い着火遅れの後で高められた温度で反応する時点で、第一の燃料量が燃焼室に導入される。短い着火遅れの例となる値は、第一のパイロット噴射の噴射開始から燃焼室内の温度が格段に高まる(例えば噴射開始直前の燃焼室温度を100K又はそれ以上上回る)までの1ミリ秒から15ミリ秒の間の期間である。内燃機関の回転数に依存して、ここに挙げた期間は対応するクランク角度に換算することができる。さらに、メイン噴射の噴射開始は、メイン燃料量が予混合気の燃焼段階中又は直後に燃焼室内に噴射されるように選ばれる。この時点で燃焼室内の温度レベルは予混合気の反応のためにさらに格段に高まり、その結果メイン燃料量によって形成された混合気の着火が容易になる。
【0007】
本方法の一実施形態では、パイロット噴射はピストン上死点の前クランク角度22°から100°の間、特に25°から30°の間の範囲で行われる。圧縮段階中にこの時点で燃焼室内の比較的暖かい、圧縮された空気又は混合気中へ遅れて導入することにより、短い着火遅れが保証される。さらに、温度が高められた状態では予混合気の部分的に均質な燃焼のために十分な期間が使えるため、著しい温度上昇が達成できる。
【0008】
本方法の別の一実施形態では、メイン噴射が上死点前クランク角度20°と上死点後クランク角度20°の間の範囲で行われる。この範囲では燃焼室ガスの最大圧縮によって及び予混合気の反動からの熱放出の進展によって、燃焼室内が最高温度になり、その結果メイン燃料量が着火及び燃焼する確率が高い。
【0009】
本方法の別の一実施形態では、メイン噴射を複数回のパーシャル噴射に分割する。つまりメイン燃料量は複数回のパーシャル噴射で燃焼室に導入される。燃焼室内への燃料噴射及び後に続く気化は、内在的に燃焼室内の短期間の温度低下をもたらし、それによって着火遅れが長くなる。メイン噴射を複数回のパーシャル噴射へ分割することにより、各パーシャル噴射で引き起こされる温度低下は比較的小さくなり、それによって短い着火遅れと確実な温度上昇が得られる。
【0010】
本方法の別の一実施形態では、内燃機関の始動動作の初めに、第一のパーシャル噴射が上死点前クランク角度2°と上死点後クランク角度2°の間の範囲で、及び第二のパーシャル噴射が上死点後クランク角度2°と5°の間の範囲で行われる。この条件下では、特に低温及び/又は低回転数時に、第一のパーシャル噴射によって導入された燃料量が反応するための十分な期間が与えられる。特に本方法のこの実施形態では、始動動作の開始あるいは混合気の最初の燃焼が改善される。
【0011】
本方法の別の一実施形態では、第一のパーシャル噴射の噴射開始が回転数の増大につれて進角方向にずらされる。このようにして予混合気の反応による温度上昇を最適に有効利用できる。
【0012】
本方法の別の一実施形態では、第二の及び/又は後続のパーシャル噴射の噴射開始は、回転数の増大につれて遅角の方向にずらされ、その結果先行するパーシャル噴射の終了と第二の及び/又は後続するパーシャル噴射の開始の間の期間が十分大きいため、持続的な温度上昇が保証できる。
【0013】
本方法の別の一実施形態では、第二の及び/又は後続のパーシャル噴射中に導入された燃料量は先行するパーシャル噴射中に導入された燃料量よりも大きい。これはつまり、前後して連続しながら、メイン噴射中は常により大きな燃料量が燃焼室に導入される。このようにして始動動作の安定性がさらに改善される。
【0014】
本方法の別の一実施形態では、さらなるパイロット噴射が行われる。それによって燃焼室温度はこのパイロット噴射段階中にも徐々に高められ、その結果安定した始動動作が可能になる。
【0015】
本方法の別の一実施形態では、1回又は複数回のパイロット噴射中に導入された燃料量の合計が、1回の作動サイクル中に導入された燃料量全体の5〜20重量%である。この量比では、予混合気の反応によって燃焼室の加熱が十分に大きいため、メイン燃料量の確実な燃焼が可能である。
【0016】
本方法の別の一実施形態では、パイロット噴射の噴射開始が回転数の増大につれて進角方向にずらされる。つまりパイロット噴射は、より進角のクランク角度で行われる。それによって予混合気の反応及び燃焼室の持続的な温度上昇の達成のために十分な期間が、回転数増大時にも使用できる。
【0017】
本方法の別の一実施形態では、噴射はコモンレール式噴射システムを使用して行われる。この噴射システムは、個々の噴射中の燃料噴射タイミング、燃料噴射期間及び燃料噴射量が可能な限り最善に制御あるいはコントロールできるようにするために、要求される可変性を提供する。
【0018】
本方法の別の一実施形態では、燃料の最適な霧化を可能にし、及び/又は燃焼室の壁面の濡れを最小化するために、始動動作中の噴射圧は内燃機関の回転数に依存して調整される。
【0019】
本方法の別の一実施形態では、メイン燃料量とパイロット噴射中に導入された燃料の部分量の合計との間の量比が、内燃機関の回転数及び/又は温度に依存して調整され、それによって内燃機関の低温始動特性がさらに改善される。
【0020】
以下では、本方法を1つの好ましい実施例を使用して詳しく説明する。上に挙げて述べられ、以下に説明される特徴は、それぞれ提示された特徴の組み合わせだけでなく、他の組み合わせでも、又は単独でも、本発明の枠を離れることなく使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】クランク角度に基づいた燃焼室内の噴射経過及び発熱経過を示す図である。
図2】内燃機関の回転数に基づいた着火遅れ及び噴射タイミングの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図には示していない内燃機関は、本実施例では6つの燃焼室を備えたディーゼルエンジンである。この内燃機関はコモンレール式噴射装置を備えている。この装置は、定義された燃料量を時間的に正確に個々の燃焼室へ配量することを可能にする。内燃機関はさらに、クランク角度を測定するための角度センサーとコントロールユニットを備えている。このコントロールユニットの支援によって、測定したクランク角度及び場合によっては温度、回転数、出力要求量などの内燃機関で測定した別のパラメーターに依存してコモンレール式噴射装置を制御することができる。
【0023】
内燃機関の始動動作においては、最初に内燃機関のクランクシャフトが始動装置を使用して回転させられる。このクランクシャフトはコンロッドを介して個々の燃焼室のピストンと結合しており、その結果クランクシャフトの回転によって個々のピストンに往復のストローク動作が引き起こされる。
【0024】
本発明の観点では、内燃機関の作動のために重要な温度が、確実な始動を困難にするほど低い場合に低温始動がもたらされる。外気温度及び/又はクーラント温度が−15°C以下が基準値とみなされる。
【0025】
図1の下部分には、内燃機関の低温始動中の内燃機関の燃料噴射装置の制御信号を例として示している。内燃機関の各燃焼室には、少なくとも1つの噴射装置が割り当てられている。この噴射装置は、好ましくは1つのソレノイドバルブを備えており、このソレノイドバルブを介して1つの多孔ノズル内のニードル弁を制御することができる。図1に示された制御信号は、コントロールユニットからソレノイドバルブへ伝達することができ、多孔ノズル内のニードル弁のリフト量の調整を実現させる。このようにして、燃焼室内への燃料の正確なドージングが可能になる。残りの5つの燃焼室に割り当てられた内燃機関の噴射装置は、6気筒ディーゼルエンジンの着火順序に従って同様にクランク角度間隔0°、120°、及び240°で制御される。
【0026】
図1に示された制御信号から、すべての燃料量が内燃機関の点火上死点ZOTの範囲で燃焼室に導入されることが明らかである。本実施例では、パイロット噴射Pil1中の第一の燃料量が、圧縮行程中にクランク角度約−25°で、つまり点火上死点ZOTの前で、燃焼室内に噴射される。第一の燃料量は、好ましくは1mg〜30mgの間にあり、この量は燃焼サイクル中に噴射される燃料量全体の5%から20%に相当する。
【0027】
次に、メイン噴射中にメイン燃料量が燃焼室内に導入される。メイン噴射は第一のパ−シャル噴射Main1と第二のパーシャル噴射Main2に分割される。第一のパーシャル噴射Main1は、クランク角度約0°で行われる。第二のパーシャル噴射Main2は、第一のパーシャル噴射Main1の終了後クランク角度約1.5°の間隔をおいて始まり、上死点ZOT後クランク角度約3.5°まで及ぶ。
【0028】
図1の上部分は、上死点ZOTの範囲の燃焼室内の発熱経過を示している。上死点ZOT前で観察できる発熱経過の負の勾配は、主に燃焼室壁への熱伝達による熱損失に起因している。この発熱経過は周囲温度−27°Cで測定された。
【0029】
クランク角度約−25°における第一の燃料量Pil1の噴射により、部分的に均質な混合気が燃焼室内に形成される。導入された第一の燃料量は噴射の際に気化し、それによってまず燃焼室温度がわずかに低下する(図1では、パイロット噴射Pil1後ろのやや平坦な発熱経過勾配から読み取れる)。しかし、パイロット噴射Pil1の時点では、燃焼室内の温度は従来型の拡散燃焼にとっては低すぎるため、第一の燃料量が形成した予混合気は典型的な部分的に均質な燃焼で反応する。均質化中、熱伝導及び燃焼室中の渦流並びに圧縮の進展によって予混合気が暖められる。本実施例では約−25°から約−9°のクランク角度に及び、やはり低温段階と呼ばれる第一の反応段階1においては、予備反応が行われてその中で基本的に過酸化物とアルデヒドが形成されて分解され、その際にはわずかな熱量が放出されるだけである。これに続く、最高温度段階とも呼ばれる、約−9°から約0°のクランク角度に及ぶ第二の反応段階2では、混合気の熱による着火が起こり、その結果ここでは予混合気の反応からの本来の熱放出が行われる。第一の反応段階1及び第二の反応段階2は、一緒に予混合気の1つの燃焼段階を形成する。
【0030】
メイン燃料量は、メイン噴射Main1、Main2中、予混合気の一部が第二の反応段階2で燃焼する時点で燃焼室内に導入され、その結果この時点においてすでに燃焼室内の温度は格段に高められている。第一のパーシャル噴射Main1によって形成された混合気は、第三の反応段階3で化学反応し、燃焼することが図1から読み取れる。第一のパーシャル噴射Main1噴射開始と熱による着火の発生との間の着火遅れは、予混合気の反応における着火遅れと比べて格段に短縮される。燃焼室内の温度が高められたために第一のパーシャル噴射Main1後に形成された混合気の気化はより迅速になり、すでに上死点ZOT後クランク角度1°で着火し、それによって燃焼室内の温度がさらに上昇する。続いて、第二のパーシャル噴射Main2では比較的大きな燃料量が暖められた燃焼室に導入され、高温のためにほとんど噴射開始直後に第四の反応段階4で着火する。
【0031】
第二のパーシャル噴射Main2中に導入された燃料量は、好ましくは第一のパーシャル噴射Main1に導入された燃料量よりも大きく、それによって気化が与える燃焼室温度への影響、ひいては着火遅れへの影響が和らげられる。第一のパーシャル噴射中に噴射された燃料量は比較的小さく、その結果気化後に燃焼室温度がわずかに低下するだけである。混合気の燃焼から放出されたエネルギーにより、気化による温度低下が相殺され、燃焼室温度は上昇する。より高い温度になったことによって後続する第二のパーシャル噴射中に導入される燃料量の着火遅れが短縮される。
【0032】
修正された一実施例では、メイン噴射はさらなるパーシャル噴射に分割され、その際に好ましくは各パーシャル噴射における燃料量は、先行するパーシャル噴射中に燃焼室に導入される燃料量よりも大きい。このようにして、全体として比較的大きな燃料量が低温時に確実に燃焼する。
【0033】
修正された別の一実施例では、さらなるパイロット噴射が行われ、その際に各パイロット噴射後に導入された燃料量が小さいことで温度低下が少なく、着火遅れが短く調整され、その結果全体としてより迅速な温度上昇とより迅速な予混合気の反応が可能になる。
【0034】
パイロット噴射及びメイン噴射は、低温始動時に複数の圧縮行程中で行われることが可能である。その際に、最初の着火が場合によってはクランクシャフトが数回回転してから初めて行われることに注意しなければならない。
【0035】
図2には、第一のパーシャル噴射の噴射開始BOI_Main1及びその噴射終了EOI_Main1、第二のパーシャル噴射の噴射開始BOI_Main2、並びに内燃機関の回転数に依存する、測定された着火遅れの変化が例として示されている。パーシャル噴射の噴射開始及び噴射終了並びにパイロット噴射は、好ましくは内燃機関の回転数並びに外気温度及び/又はエンジン温度に依存して調整される。その際に、第一のパーシャル噴射Main1は最も早くても予混合気が高温段階中に反応するときに行われなければならないことに注意しなければならない。なぜならさもなければ予混合気の燃焼が第一のパーシャル噴射Main1によって消火されてしまう危険があるからである。より高い回転数域では燃焼室温度がより高いために予混合気がより迅速に反応し、第一のパーシャル噴射の噴射開始BOI_Main1は回転数の増大につれて進角に、つまりより大きなクランク角度の上死点ZOT前にずらすことができる。第二のパーシャル噴射の噴射開始BOI_Main2は、回転数の増大につれて遅角に、つまりより大きなクランク角度の上死点ZOT後にずらされ、その結果として第一のパーシャル噴射によって形成された混合気と反応するための十分な期間が残される。
【0036】
本発明による方法では、1回又は複数回のパイロット噴射中及びメイン噴射の第一のパーシャル噴射中にそれぞれわずかな燃料量だけが燃焼室内に導入される。これによって個々の噴射時に生じる気化に起因する温度低下が小さく、それぞれ噴射された燃料量で形成された混合気が比較的短い着火遅れの後で着火する。燃焼時に生じた熱によって温度低下が相殺されるだけでなく、さらに燃焼室温度の上昇がもたらされる。続いて噴射された燃料量は、それに対応してより迅速に反応し、これより前に噴射された燃料量よりも短い着火遅れの後で燃焼する。このようにして、燃焼室温度が徐々に上昇するように大きい燃料量が燃焼室内にもたらされ、最終的に低い外気温度において大きい燃料量が確実に着火することが可能になる。


図1
図2