特許第5661092号(P5661092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661092
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】抽出装置及び抽出方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/10 20060101AFI20150108BHJP
   B01D 3/38 20060101ALI20150108BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20150108BHJP
   C11B 3/12 20060101ALI20150108BHJP
   C11B 3/16 20060101ALI20150108BHJP
   B01D 53/14 20060101ALN20150108BHJP
   B01D 53/18 20060101ALN20150108BHJP
【FI】
   B01D3/10
   B01D3/38
   C11B9/00 B
   C11B3/12
   C11B3/16
   !B01D53/14 102
   !B01D53/18 E
   !B01D53/18 A
   !B01D53/14 C
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-284062(P2012-284062)
(22)【出願日】2012年12月27日
(62)【分割の表示】特願2011-501667(P2011-501667)の分割
【原出願日】2010年2月26日
(65)【公開番号】特開2013-100520(P2013-100520A)
(43)【公開日】2013年5月23日
【審査請求日】2013年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2009-43709(P2009-43709)
(32)【優先日】2009年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】独立行政法人森林総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大平 辰朗
(72)【発明者】
【氏名】松井 直之
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−063304(JP,A)
【文献】 特開2005−046806(JP,A)
【文献】 特表平08−507250(JP,A)
【文献】 特表2007−520272(JP,A)
【文献】 実開昭59−135101(JP,U)
【文献】 実開平05−009300(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00−8/00
B01D 11/00−11/04
B01F 1/00−5/26
B01F 7/00−7/32
B01F 15/00−15/06
B01J 19/00−19/32
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00−5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部内の減圧下で加熱された対象物より気化した成分を液化して抽出する抽出装置において、
前記収容部内の圧力を目的圧に制御する制御手段を備え
該制御手段は、
前記対象物より気化した成分を前記収容部から取り出す取出経路と、
該取出経路に負圧を供給する負圧供給手段と、
前記収容部内に大気を取り込む取込路と、
該取込路から前記収容部内に取り込まれる大気の通流量を制御する取込側制御弁と、
前記収容部内の圧力を検出する圧力検出手段と、
該圧力検出手段で検出した圧力が前記目的圧となるように前記取込側制御弁を制御して該取込側制御弁での通流量を調整する通流量調整手段と、
を備え、
前記取込路は、取り込んだ大気を前記収容部の底部側へ案内して当該底部側から導入することを特徴とした抽出装置。
【請求項2】
前記収容部内に収容された対象物を攪拌する攪拌部を設けるとともに、前記取込路から取り込んだ大気を前記攪拌部の端部へ案内して前記収容部の底部側から噴出する為の案内路を当該攪拌部の軸部に設けたことを特徴とする請求項記載の抽出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記収容部内の圧力が20キロパスカルから80キロパスカルとなるように制御することを特徴とした請求項1又は2記載の抽出装置。
【請求項4】
モノテルペンを高濃度で含有した精油を針葉樹の葉から抽出する装置であることを特徴とした請求項1、2又は3記載の抽出装置。
【請求項5】
収容部内の減圧下で加熱された対象物より気化した成分を液化して抽出物として抽出する抽出方法において、
前記収容部内の圧力を目的圧に保った状態で特定の成分を主成分とした前記抽出物を前記対象物より抽出する際に、前記対象物より気化した成分を前記収容部から取り出す取出経路に負圧を供給して前記収容部内の気化成分の取り出しを促進しつつ前記収容部内を減圧する一方、前記収容部内へ大気を取り込む取込路での通流量を調整して前記収容部内の圧力が前記目的圧となるように制御するとともに、
前記取込路から取り込んだ大気を前記収容部の底部側から導入することを特徴とした抽出方法。
【請求項6】
前記収容部内に収容された前記対象物を攪拌部で攪拌しながら前記抽出物を抽出する際に、前記取込路から取り込んだ大気を前記攪拌部の軸部を介して前記収容部の底部側へ噴出することを特徴とした請求項記載の抽出方法。
【請求項7】
前記収容部内の圧力が20キロパスカルから80キロパスカルとなるように制御することを特徴とした請求項5又は6記載の抽出方法。
【請求項8】
モノテルペンを高濃度で含有した精油を針葉樹の葉から抽出することを特徴とした請求項5、6又は7記載の抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物から抽出物を抽出する抽出装置及び抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物から目的とする成分を効率的に抽出する適切な方法は案出されていなかった。
【0009】
特許文献1には、植物を水蒸気蒸留して得た精油と、水蒸気蒸留の際に得られた水溶性画分と、水からなる植物精油含有水溶液を有効成分とする有害化学物質除去剤が報告されている。
【0011】
しかし、水蒸気蒸留で得られたものには、フェノールなどの成分を大量に含んでいるため、これらの刺激性成分を取り除くための精製が必要であるが、このような精製を行うとコストアップになってしまい、経済性で問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−210526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は、目的とする成分を効率的に抽出することができる抽出装置及び抽出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために本発明の請求項1の抽出装置にあっては、収容部内の減圧下で加熱された対象物より気化した成分を液化して抽出する抽出装置において、前記収容部内の圧力を目的圧に制御する制御手段を備え、該制御手段は、前記対象物より気化した成分を前記収容部から取り出す取出経路と、該取出経路に負圧を供給する負圧供給手段と、
前記収容部内に大気を取り込む取込路と、該取込路から前記収容部内に取り込まれる大気の通流量を制御する取込側制御弁と、前記収容部内の圧力を検出する圧力検出手段と、
該圧力検出手段で検出した圧力が前記目的圧となるように前記取込側制御弁を制御して該取込側制御弁での通流量を調整する通流量調整手段と、を備え、前記取込路は、取り込んだ大気を前記収容部の底部側へ案内して当該底部側から導入する。
また、請求項2の抽出装置においては、前記収容部内に収容された対象物を攪拌する攪拌部を設けるとともに、前記取込路から取り込んだ大気を前記攪拌部の端部へ案内して前記収容部の底部側から噴出する為の案内路を当該攪拌部の軸部に設けた。
さらに、請求項3の抽出装置では、前記制御手段は、前記収容部内の圧力が20キロパスカルから80キロパスカルとなるように制御する。
加えて、請求項4の抽出装置にあっては、モノテルペンを高濃度で含有した精油を針葉樹の葉から抽出する装置である。
本発明の請求項5の抽出方法にあっては、収容部内の減圧下で加熱された対象物より気化した成分を液化して抽出物として抽出する抽出方法において、前記収容部内の圧力を目的圧に保った状態で特定の成分を主成分とした前記抽出物を前記対象物より抽出する際に、前記対象物より気化した成分を前記収容部から取り出す取出経路に負圧を供給して前記収容部内の気化成分の取り出しを促進しつつ前記収容部内を減圧する一方、前記収容部内へ大気を取り込む取込路での通流量を調整して前記収容部内の圧力が前記目的圧となるように制御するとともに、前記取込路から取り込んだ大気を前記収容部の底部側から導入する。
また、請求項6の抽出方法においては、前記収容部内に収容された前記対象物を攪拌部で攪拌しながら前記抽出物を抽出する際に、前記取込路から取り込んだ大気を前記攪拌部の軸部を介して前記収容部の底部側へ噴出する。
さらに、請求項7の抽出方法では、前記収容部内の圧力が20キロパスカルから80キロパスカルとなるように制御する。
加えて、請求項8の抽出方法にあっては、モノテルペンを高濃度で含有した精油を針葉樹の葉から抽出する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明の抽出装置及び抽出方法にあっては、目的とする成分を効率的に抽出することができる。
【0021】
明の装置は、一般の水蒸気蒸留装置に比べ小型であり、しかも商用電源があれば利用することができるので、低コストで運用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明方法で使用するマイクロ波減圧水蒸気蒸留装置の構成を模式的に示した図面である。
図2】実施例9で用いた揮散装置を示す図面である。
図3】実施例10で用いた加圧空気霧化噴霧装置を示す図面である。
図4】二酸化窒素の粒子径の分布
図5】スギ葉精油ヘッドスペース及びスギ葉精油ヘッドスペースに二酸化窒素を混合した後の粒子径の分布
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のモノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油は、針葉樹の葉を、減圧下で加熱して蒸留を行い(以下、「減圧水蒸気蒸留法」という)、得られた油性抽出画分を採取することにより特に再度の精製を要することなく得ることができる。
【0024】
原料である針葉樹の葉としては、特に限定されないが、ヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、サワラ、ローソンヒノキ、チャボヒバ、クジャクヒバ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ヒムロスギ等のヒノキ科ヒノキ属の樹木;ニオイヒバ、ネズコ等のヒノキ科クロベ属の樹木;ヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ、ホソバアスナロ等のヒノキ科アスナロ属の樹木;ハイビャクシン、ネズミサシ、エンピツビャクシン、オキナワハイネズ等のヒノキ科ビャクシン属の樹木;スギ、アシウスギ、エンコウスギ、ヨレスギ、オウゴンスギ、セッカスギ、ミドリスギ等のヒノキ科スギ属の樹木;トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等のマツ科モミ属の樹木;ヒマラヤスギ等のマツ科ヒマラヤスギ属の樹木、アカエゾマツ、トウヒ等のマツ科トウヒ属の樹木;アカマツ、ダイオウショウ、ストローブマツ、ハイマツ等のマツ科マツ属の樹木;カラマツ等のマツ科カラマツ属の樹木;ツガ等のマツ科ツガ属の樹木;コウヤマキ等のコウヤマキ科コウヤマキ属の樹木;カヤ等のイチイ科カヤ属の樹木等からの葉がそれぞれ挙げられる。これらの葉は、間伐材や、枝打ちで得た枝葉をそのまま用いても良いが、好ましくは、粉砕機や圧砕機等により粉砕・圧砕して使用される。
【0025】
上記針葉樹の葉から高モノテルペン成分含有精油を得るために用いられる減圧水蒸気蒸留法での加熱は、ヒーターによる加熱でもかまわないが、マイクロ波を照射することにより、マイクロ波が水分子を直接加熱する性質を利用して、葉等の原料中に元から含まれている水分のみで精油の抽出を行う方法(以下、「マイクロ波減圧水蒸気蒸留法」という)を採用することが好ましい。
【0026】
このマイクロ波減圧水蒸気蒸留法を実施するには、マイクロ波減圧水蒸気蒸留装置が必要であるが、この装置の一態様の概要を図1に示す。図中、1はマイクロ波蒸留装置、2は蒸留槽、3はマイクロ波加熱装置、4は撹拌はね、5は気流流入管、6は蒸留物流出管、7は冷却装置、8は加熱制御装置、9は減圧ポンプ、10は圧力調整弁、11は圧力制御装置、12は蒸留対象物、13は抽出物をそれぞれ示す。
【0027】
この装置1では、抽出対象物12となる原料(本発明では針葉樹の葉)を蒸留槽2中に入れ、撹拌はね4で撹拌しながら、蒸留槽2の上面に設けられたマイクロ波加熱装置3からマイクロ波を放射し、原料を加熱する。この蒸留槽2は、気流流入口5および蒸留物流出管6と連通されている。気流流入管5は、空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスを反応槽2中に導入するものであり、この気流は、蒸留槽2の下部から導入される。また、蒸留物流出管6は、原料からの蒸留物を、蒸留槽2の上部から外に導出するものである。
【0028】
上記蒸留槽2内部は、これに取り付けられた温度センサおよび圧力センサ(共に図示せず)により温度および圧力が測定されるようになっており、加熱制御装置8および圧力制御装置11、圧力調整弁10を介してそれぞれ調整されるようになっている。
【0029】
また、蒸留物流出管6を介して蒸留槽2から流出した気体状の蒸留物は、冷却装置7により液体に代えられ、抽出物13として得られる。この抽出物13には、水性画分13bと油性画分13aとがあるが、このうち油性画分13aが精油となる。
【0030】
本発明方法においては、上記蒸留槽2内の圧力を、10ないし95キロパスカル、好ましくは、20ないし80キロパスカル、さらに好ましくは30ないし60キロパスカル程度として行なえば良く、その際の蒸気温度は40℃から100℃になる。圧力が10キロパスカル以下では精油の収率が著しく少なくなってしまい、95キロパスカル以上ではモノテルペン含有率が低くなってしまう。また、蒸留時間は、0.2ないし8時間程度、好ましくは、0.4ないし6時間程度とすれば良い。0.2時間以下では十分な蒸留が行えず、8時間以上蒸留しても収率は向上しないばかりか、セスキテルペンやジテルペンをはじめとする不純物の含有率が多くなってしまう。
【0031】
更に、蒸留槽2内に導入する気体としては、空気でもかまわないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、その流量としては、1分当たりの流量が、蒸留槽2の0.001ないし0.1容量倍程度とすれば良い。
【0032】
かくして得られる本発明の高モノテルペン成分含有精油は、モノテルペン成分を90%以上含有するという特徴を有するものである。これに対し、従来の水蒸気蒸留で得た精油では、後記実施例でも示すように、相当量のセスキテルペンやジテルペンを含むものであり、同じ原料を用いても蒸留手段により異なる構成のテルペンが得られることが明らかになった。
【0033】
本発明の高モノテルペン成分含有精油は、環境汚染物質の除去に有利に利用することができる。すなわち、NOxやSOxなどの有害酸化物や、ホルムアルデヒド等を有効に除去できるので、環境物質除去剤として利用することができる。すなわち、高モノテルペン成分含有精油を紙(パルプ)、不織布、樹脂シート、木材シート、木粉、樹脂ビーズ等で構成されたフィルターに含浸させ、このフィルター中に、NOx、SOxを含む空気を通過させ、有効成分と接触させる方法や、NOx、SOxを含む空気を、高モノテルペン成分含有精油を含む除去剤中でバブリングさせることにより有効成分と接触させる方法等により、大気中のNOx、SOxを除去することが可能である。
【0034】
また、本発明の高モノテルペン成分含有精油を大気と接触させ、大気中の環境汚染物質を除去する方法の別の例としては、本発明の高モノテルペン成分含有精油を含有する環境汚染物質除去剤をそのままあるいは適当な揮散装置を用いて揮散させる方法、ポンプスプレー、エアゾール、超音波振動子、加圧液噴霧スプレー、加圧空気霧化噴霧装置等の霧化装置を用い、霧化させた状態で揮散させる方法等が挙げられ、これらの方法により、通常の生活空間中から環境汚染物質を除去させることが可能である。
【0035】
前記したように、本発明の高モノテルペン成分含有精油は、何れも香料の成分であり、人体への危険性もないモノテルペン成分を高濃度で含むものである。従って、これを生活空間の大気中に接触や噴霧した場合であっても、人間やその他の動植物に不快感や悪影響を及ぼすことがない。
【0036】
また、本発明の高モノテルペン成分含有精油は、モノテルペン成分を90%以上含有するものであるから、これを個々のモノテルペンの原料として利用することもできるものである。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0038】
実 施 例 1
原料として、スギの葉を用い、以下のようにしてスギ精油を得た。すなわち、スギ葉を圧砕式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕したもの約50kgを、図1に示すマイクロ波水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入し、攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20KPaの減圧条件下に保持し、(蒸気温度は約67℃)1時間マイクロ波照射し精油を蒸留した。得られた精油の量は180mLであり、投入試料に対する精油の割合は、0.34%であった。
【0039】
得られたスギ精油中のテルペン構成を、ガスクロマトグラフ/質量分析計を用いて測定したところ、後記表1の通りであった。
【0040】
比 較 例 1
実施例1と同じスギの葉を用い、以下の水蒸気蒸留法により、スギ精油を得た。すなわち、圧搾式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕したスギ葉約101gをパイレックス(登録商標)ガラス製フラスコに入れ、5〜8倍量の水を加えた後、当該フラスコを湯浴中で90〜100℃に加熱し沸騰させる。精油採取管には加熱前に基準線まで水を入れておいた。
【0041】
6時間煮沸を続けて精油を蒸留したところ、精油を0.8mLが得られた。投入資料に対する精油の割合は、0.79%であった。得られた精油のテルペン組成について実施例1と同様にして測定したところ、表1のような結果となった。
【0042】
【表1】


【0043】
この結果から、同じ針葉樹の葉(スギ葉)を原料として用いても、マイクロ波減圧水蒸気蒸留装置を用いて得た精油と、一般の水蒸気蒸留で得た精油では、その構成が大きく違うことが明らかになった。
【0044】
実 施 例 2
植物の葉を、スギからトドマツに代える以外は実施例1と同様にして精油を取得した。得られた精油中のテルペン構成を表2に示す。
【0045】
【表2】


【0046】
実 施 例 3
植物の葉を、スギからヒノキに代える以外は実施例1と同様にして精油を取得した。得られた精油中のテルペン構成を表3に示す。
【0047】
【表3】


【0048】
実施例1ないし3から、マイクロ波減圧水蒸気蒸留装置を用いて得た精油は、何れもモノテルペンの含量が極めて高いことが明らかになった。
【0049】
試 験 例 1
(1)二酸化窒素の濃度低減性試験:
内径が5mmΦのガラス管内に、紙製のウエス約0.1gを充填し、この紙製ウエスに下記表1に示す量の本発明の除去剤を含浸させた。このガラス管の一方の端を8.5ppmの二酸化窒素を入れたテドラーバックと連結し、他方の端を二酸化窒素用ガス検知管(ガステック社製)に連結した。ガス検知管の他方には、吸引用シリンジに接続した。
【0050】
この状態で、吸引用シリンジによりテドラーバック内の二酸化窒素を吸引し、ガラス管内で除去されなかった二酸化窒素濃度をガス検知管で測定した。なお、ブランクとしては、紙製のウエスに除去剤を含浸させないものを用い、以下の式により二酸化窒素除去効果を確認した。この結果を下記の表4に示す。
【0051】
除去率(%)= (B−A)/ B × 100
A:除去剤を通過させた後の二酸化窒素濃度
B:ブランクを通過させた後の二酸化窒素濃度
【0052】
(2)二酸化硫黄の濃度低減性試験:
8.5ppmの二酸化窒素を4.2ppmの二酸化硫黄にかえ、検知管として二酸化硫黄用ガス検知管(ガステック社製)を利用する以外は、上記(1)と同様にして試験を行った。二酸化窒素濃度を二酸化硫黄濃度に代えた上記式を用い、二酸化硫黄の除去効果を確認した。この結果も表4に示す。
【0053】
【表4】


【0054】
実 施 例 4
ホルムアルデヒドの濃度低減性試験:
実施例1〜3で得た精油1をn―ヘキサンで5%に調整し、インピンジャーに3ml入れた。インピンジャーの一方の口を、ホルムアルデヒド(0.95ppm)の入っているテドラーバックに接続し、他方の口をアルデヒド検出用のDNPHカートリッジに接続して、100ml/分で吸引した。30分間吸引後、DNPHカートリッジより吸着成分を所定の方法で溶出させHPLCにて分析してホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの除去率は、n―ヘキサンのみを通過させたときのホルムアルデヒド濃度をコントロールとして下記の式により算出した。この結果を表5に示す。
【0055】
除去率(%)= (B−A)/ B × 100
A:サンプル通過後のホルムアルデヒド濃度
B:このトロールのホルムアルデヒド濃度
【0056】
【表5】


【0057】
実 施 例 5
実施例1から3で得た精油を用いて、気体状態における二酸化窒素の除去効果を、下記方法により確認した。
【0058】
まず、1Lのテドラーバック内にボンベ空気1Lと本発明の精油50μLを注入し、40℃の恒温装置内に10分以上放置し、精油のヘッドスペース(本発明ガス)を作成した。
【0059】
次いで、上記本発明ガスの全量を、20Lのテドラーバッグ内に注入し、清浄空気にて20Lになるまで満たした。これに二酸化窒素(6.2ppm)を注入し、注入3分後、および30分後の二酸化窒素濃度を検知管で測定し二酸化窒素除去率を算出した。結果を表6に示す。
【0060】
【表6】


【0061】
実 施 例 6
二酸化窒素と精油成分の反応による粒子の生成:
1Lのテドラーバッグ内に、ボンベ空気1Lと実施例1で得たスギ葉精油50μLを注入し、40℃にて10分間放置した。その後、20Lのテドラーバッグ内に揮発したスギ葉精油のヘッドスペースを全量注入し、清浄空気にて20Lになるまで満たした。これに二酸化窒素(6.2ppm)を注入し、注入3分後の粒子径をパーティクルカウンター(Wide−Range Particle Spectrometer)MODEL1000XP:米国MSP社製)を用いて測定した。なおブランクとして、二酸化窒素単独およびスギ葉精油単独を注入したもの(二酸化窒素混合前のもの)を同様の方法により測定した。結果を図4及び図5に示す。
【0062】
以上の結果より、二酸化窒素単独および本発明のスギ葉精油単独を注入したものについては3分経過後もより大きな粒子の生成は確認できなかった。それと比較して、本発明のスギ葉精油に二酸化窒素を注入したものは、3分経過後には大きな径の粒子の生成が確認できた。すなわち、本発明のスギ葉精油は気体状態で二酸化窒素と混合することにより速やかに径の大きな粒子を生成することで二酸化窒素の反応性を抑制しているものと考えられた。
【0063】
実 施 例 7
二酸化窒素の酸化反応抑制確認試(1)
リノール酸の過酸化物の生成の阻害率により、本発明の精油による二酸化窒素の酸化能抑制効果を以下の手順にて確認した。
【0064】
リノール酸10%を含有するクロロホルム溶液を直径約9cmのシャーレに0.1mL滴下し、緩やかに回転させながら溶媒を揮散させて、シャーレ底面にリノール酸を均一に塗布した。10Lのテドラーバッグの一角を切断して開口し、このシャーレを入れた後に開口部を熱シールした。
【0065】
一方、1Lのテドラーバッグに、本発明の高モノテルペン成分含有精油であるスギ葉精油50μLを注入し、ボンベ空気で満杯にした後、40℃恒温槽に10分放置してスギ葉精油のヘッドスペーステドラーバッグを作成した。スギ葉精油ヘッドスペース1Lを、上記で調製したリノール酸塗布シャーレの入ったバッグに注入し、ついで100ppmの二酸化窒素を150mL加えた後、ボンベ空気で満杯に膨らませ40℃の恒温槽内に放置した。
【0066】
90分経過後にシャーレを取り出し、シャーレ底面のリノール酸を、エタノール2.5mLを用いてバイアル内に洗い込んだ。このエタノール溶液16μLを計り取って、75%エタノール4mL、30%チオシアン酸アンモニウム水溶液41μL、さらに0.02M塩化鉄(II)の3.5%塩酸溶液41μLを加えて充分に混合した。塩化鉄溶液を加えてから正確に3分後に、吸光度計にて赤色(500nm)の吸光度を測定した。なお、コントロールとして二酸化窒素のみで測定した吸光度及びブランクとして、二酸化窒素および本発明の除去剤を添加しないもの(空気のみ)で測定した吸光度を求め、以下の式により過酸化物量増減を評価した。
【0067】
(A2−A0)
過酸化物生成阻害率(%)=(1− ―――――― )×100
(A1−A0)

A0:ブランクの吸光度
A1:二酸化窒素のみで測定した吸光度
A2:本発明の除去剤を添加した際の吸光度
【0068】
この結果、過酸化物生成阻害率は、72%であった。この結果は、スギ葉精油ヘッドスペースを二酸化窒素に添加することでリノール酸の過酸化生成は阻害されることを示している。すなわち本発明の精油であるスギ葉精油は二酸化窒素の酸化能を抑制していることがわかる。
【0069】
実 施 例 8
二酸化窒素の酸化反応抑制確認試(2):
本発明の精油と二酸化窒素を24時間接触した場合の酸化能抑制効果を以下の手順にて確認した。
【0070】
1Lのテドラーバッグにスギ葉精油50μLを注入した。このテドラーバッグを、ボンベ空気で満杯にして40℃恒温槽に10分放置し、スギ葉精油のヘッドスペーステドラーバッグを作成した。このスギ葉精油のヘッドスペース1Lをそれぞれ10Lのテドラーバッグに注入し、ついで100ppmの二酸化窒素を1350mL加えた後、ボンベ空気で満杯に膨らませ40℃の恒温槽内に24時間放置した。
【0071】
一方、実施例7と同様の操作を行ってリノール酸を均一に塗布したシャーレを用意し、10Lのテドラーバッグ内に入れ、開口部を熱シールしたものを用意した。このテドラーバッグに、24時間前に調製したそれぞれの気体を注入し40℃の恒温槽に放置した。90分経過後にシャーレを取り出し、前試験の方法と同様の操作を行って、吸光度計にて赤色(500nm)の吸光度を測定し、実施例7の式を用いて過酸化物量増減を評価した。
【0072】
この結果、本発明の精油と二酸化窒素を混合後、24時間経過した気体では、リノール酸の過酸化物生成は100%阻害された。つまり、本発明の精油と二酸化窒素を24時間混合後は二酸化窒素の酸化能を完全に抑制していることがわかった。
【0073】
実 施 例 9
ジプロピレングリコール90質量%に、実施例1で得たスギ葉精油10質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。得られた空間噴霧用有害酸化物除去剤を、超音波霧化装置(エコーテック(株)製)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。またこのものは空間に対し、さわやかな芳香を付与することができた。
【0074】
比 較 例 2
ジプロピレングリコール90質量%に、比較例1で得たスギ葉精油10質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。得られた空間噴霧用有害酸化物除去剤を超音波霧化装置(エコーテック(株)製)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。しかし、噴霧後の空間には、木酢様の臭気が残存してしまった。
【0075】
実 施 例 10
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール50質量%に、実施例2で得たヒノキ葉精油50質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を加熱蒸散装置(エステー(株)社製消臭プラグ)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0076】
比 較 例 3
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール50質量%に、スギ葉に代えトドマツ葉を用いた以外は比較例1と同様の方法で得たトドマツ葉精油50質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を加熱蒸散装置(エステー(株)社製消臭プラグ)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。しかし、噴霧後の空間には強いフェノール様の臭気が残存してしまった。
実 施 例 11
【0077】
実施例3で得たヒノキ葉精油2質量%を、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)5質量%で水に可溶化させて、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を市販のポンプスプレーを用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0078】
実 施 例 12
実施例3で得たヒノキ葉精油0.1質量%を、水99.9質量%に分散させて、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を超音波霧化装置(エコーテック(株)製)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0079】
実 施 例 13
実施例1で得たスギ精油3.0g、プロピレングリコール10gおよび水84gの混合液中に、ゲル化剤としてκ−カラギーナン3gを分散させ、約60℃に加熱分散後、上面開放のカップ型容器に充填し、冷却固化してゲル状の空間揮散用有害酸化物除去剤を製造した。このものを石油ストーブを使用する室内空間に設置し、揮散させたところ、約1ヶ月間、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0080】
実 施 例 14
実施例2で得たトドマツ葉精油2質量%を、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)5質量%で水に可溶化させて、空間揮散有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を図2に示すような揮散装置を用い石油ストーブを使用する室内空間に設置し、揮散させたところ、約3ヶ月間、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0081】
実 施 例 15
実施例3で得たヒノキ精油を、図3に示すような加圧空気霧化噴霧装置を用い、石油ストーブを使用している室内に5ml/分で8時間噴霧した。使用前に比べ8時間後のホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物の濃度は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の高モノテルペン成分含有精油は、針葉樹の葉から得ることができるものである。そして、この精油は環境汚染物質除去剤や、個々のモノテルペンを製造するための原料として利用できるものである。
【0083】
従って、本発明は、ほとんど廃棄されていた針葉樹の葉から経済性のある物質を生産する技術として、資源のリサイクルや林業経営等において利用可能なものである。
【符号の説明】
【0084】
1 … … マイクロ波蒸留装置
2 … … 蒸留槽
3 … … マイクロ波加熱装置
4 … … 撹拌はね
5 … … 気流流入管
6 … … 蒸留物流出管
7 … … 冷却装置
8 … … 加熱制御装置
9 … … 減圧ポンプ
10 … … 圧力調整弁
11 … … 圧力制御装置
12 … … 蒸留対象物
13 … … 抽出物
21 … … 揮散装置
22 … … 揮散体
23 … … 吸上芯
24 … … 容器
25 … … 除去剤
30 … … 加圧空気霧化噴霧装置
31 … … 気液混合噴霧ノズル
32 … … 2液流量調整供給装置
33 … … コンプレッサ
34 … … 精油
35 … … 水
36 … … 空気
図1
図2
図3
図4
図5