特許第5661105号(P5661105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5661105固結防止塩組成物、その製造方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661105
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】固結防止塩組成物、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C01D 3/26 20060101AFI20150108BHJP
【FI】
   C01D3/26
【請求項の数】16
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-513546(P2012-513546)
(86)(22)【出願日】2010年5月27日
(65)【公表番号】特表2012-528774(P2012-528774A)
(43)【公表日】2012年11月15日
(86)【国際出願番号】EP2010057286
(87)【国際公開番号】WO2010139587
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2012年1月24日
(31)【優先権主張番号】09161722.5
(32)【優先日】2009年6月2日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/183,254
(32)【優先日】2009年6月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】バッケンス,ヘンドリクス,ウィルヘルムス
(72)【発明者】
【氏名】ベルジュヴォート,ロベルト,アロイシウス,ジェラルドゥス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】メイジェル,ヨハネス,アルベルトゥス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】スティーンズマ,マリア
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−042817(JP,A)
【文献】 特表2012−528817(JP,A)
【文献】 国際公開第00/059828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 3/00 − 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒石酸の鉄錯体を含み、前記酒石酸のうちの55〜90重量%がメソ−酒石酸である、塩化ナトリウム組成物。
【請求項2】
前記組成物の10重量%の水溶液は、pH値が3〜12を有することを特徴とする、請求項1に記載の塩化ナトリウム組成物。
【請求項3】
前記酒石酸のうちの60〜80重量%がメソ−酒石酸である、請求項1又は2に記載の塩化ナトリウム組成物。
【請求項4】
前記鉄が鉄(III)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物。
【請求項5】
鉄と酒石酸とのモル比が0.1〜2である、請求項1から4のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物。
【請求項6】
前記酒石酸の鉄錯体が、鉄に基づく1ppm〜200ppmの間の濃度で固結防止塩化ナトリウム組成物中に存在する、請求項5に記載の塩化ナトリウム組成物。
【請求項7】
酒石酸のうち55〜90重量%がメソ−酒石酸である酒石酸の鉄錯体を含む処理水溶液であって、pH3〜5を有する水溶液を、塩化ナトリウム組成物にスプレーする工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項8】
前記酒石酸のうち55〜90重量%がメソ−酒石酸である酒石酸の鉄錯体を含む処理水溶液が、
(i) 35〜65重量%のL−酒石酸のジアルカリ金属塩、D−酒石酸のジアルカリ金属塩、L−酒石酸のジアルカリ金属塩とD−酒石酸のジアルカリ金属塩の混合物、または、L−酒石酸のジアルカリ金属塩とメソ−酒石酸のジアルカリ金属塩との混合物、並びに2〜15重量%のアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物を含む水性混合物を調製する工程、
(ii) 前記水性混合物を、酒石酸のうちの55〜90重量%がメソ−酒石酸に転化されるまで100℃から前記水性混合物の沸点の間の温度にて3〜200時間の間、攪拌及び加熱する工程、
(iii) 冷却し、任意で水を加える工程、
(iv) 任意でpHを5〜9のpHに調整する工程、
(v) 前記得られた混合物を鉄(II)塩及び/又は鉄(III)塩と撹拌及び混合する工程、ならびに
(vi) pHが3〜5の範囲外である場合、pH3〜5の間のpHに調整する工程、
によって得ることのできる、請求項7に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項9】
前記pHは、HCl、ギ酸、シュウ酸、硫酸からなる群から選択される1つの酸又はそれらの組み合わせの添加によって調整される、請求項7又は8に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項10】
前記酒石酸塩中の前記アルカリ金属はナトリウムを含み、前記アルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウムを含む、請求項8または9のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項11】
前記鉄(III)供給源がFeCl3又はFeCl(SO)である、請求項から10のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項12】
前記処理水溶液は、0.5〜25重量%の酒石酸を含み、酒石酸のうちの55〜90重量%がメソ−酒石酸である、請求項7から11のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項13】
鉄と酒石酸とのモル比が0.1〜2である、請求項7から12のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項14】
前記水溶液は、前記固結防止塩化ナトリウム組成物中の1〜200ppmの間の鉄の濃度を得られる量で前記塩化ナトリウム組成物にスプレーされる、請求項9から13のいずれか一項に記載の塩化ナトリウム組成物を調製するための方法。
【請求項15】
食餌用塩、食用塩、医薬品用塩、小売用塩、工業用塩、道路用塩としての、又は電解操作における、請求項1から5のいずれか一項に記載の固結防止塩化ナトリウム組成物の使用。
【請求項16】
前記酒石酸のうちの55〜90重量%がメソ−酒石酸である酒石酸の鉄錯体は、鉄に基づく1ppm〜200ppmの濃度で前記塩化ナトリウム組成物中に存在し、前記塩化ナトリウム組成物は膜型電解操作において使用される、請求項15に記載の塩化ナトリウム組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソ−酒石酸の鉄錯体を含む塩組成物、該塩を塩化ナトリウム(塩)組成物にするための方法、及び該塩化ナトリウム組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ナトリウムは、特に長期間の保管中に水分に曝露させられると、大きな凝集塊を形成する傾向がある。これらの硬化した塊は、一般にはケーク(cake)と呼ばれる。ケークの形成を防止するためには、塩に固結防止剤(non-caking agent)が加えられることが多い。フェロシアン化ナトリウム又はカリウムが、固結防止添加物として使用されることが多い。しかし、これらの化合物の主要な欠点は、それらが窒素を含有することである。塩組成物中の窒素の存在は、塩が電解操作に使用されると爆発性のNClを得てしまうため、極めて好ましくない。商業的に使用されるフェロシアン化物の別の欠点は、この物質によって導入される鉄が、この抗固結化剤(anti-caking agent)を含有する塩から生成される塩水から取り出すのが極めて困難であるという事実である。特に塩水が膜型電解セル中で使用される場合、導入されるフェロシアン化物はセル内で分解し、遊離鉄は典型的には水酸化物の形状で膜内及び膜上に沈降することになる。このことはより低効率な膜型電気分解操作をもたらすことになる。さらに、食塩中に含まれるフェロシアン化ナトリウム又はカリウムの必要性に関しては議論が継続中である。
【0003】
近年、高価ではない上に環境的に安全であり、そして少量で効果的な改良された固結防止性の塩剤の開発に多くの努力が費やされてきた。例えば国際公開第00/59828号は、塩組成物中の固結防止性物質としてのヒドロキシポリカルボン酸化合物の金属錯体の使用について記載している。鉄とこれらのヒドロキシポリカルボン酸との錯体は、低濃度で塩を固結防止性にすることが見い出された。酒石酸の使用には特に利点があると記載されている。さらに、メソ−酒石酸は最も好ましい抗固結化剤であると報告されている。しかし、純粋のメソ−酒石酸は市販で入手できるが、塩化ナトリウムのための固結防止添加物としての産業規模での用途には、価格が余りに高すぎる。
【0004】
国際公開第00/59828号は、メソ−酒石酸の鉄、チタン及び/又はクロム錯体の他に、少なくとも5重量%のヒドロキシポリカルボン酸がメソ−酒石酸であるヒドロキシポリカルボン酸の混合物もまた塩化ナトリウムのための固結防止添加物として使用できることを開示している。この点において、国際公開第00/59829号は、メソ−酒石酸を包含する酒石酸の混合物を製造するための方法を開示している。この特許は、酒石酸の混合物が天然又は合成酒石酸(各々、CAS登録番号87−69−4及び147−71−7)溶液を濃NaOHにより100℃を超える温度で処理する工程によって調製できると述べている。次に、L酒石酸、D酒石酸及び/又はDL酒石酸の部分を所望のメソ酒石酸(CAS登録番号147−73−9)に転化する。この手順に従うことによって、最大50重量%までがメソ異性体である酒石酸の混合物を調製することが単に可能であることが見いだされた。
【0005】
電解槽膜及び電極は、塩水中の不純物、特に多価金属イオン、例えば鉄に対して極めて感受性である。多価金属は、膜の内側で沈降する傾向があり、膜に不可逆性の損傷を引き起こす。無機汚染物質だけが問題を引き起こすのではない。塩水中に存在する有機化合物もまた問題を引き起こすことがある。有機汚染物質を含有する塩水が電気分解されると、有機種は電解セル膜の表面上及び電解セル膜内で沈降する可能性があり、目詰まりを引き起こす。一部の有機化合物、例えば酒石酸は、酒石酸が無害のCOに分解されるために、沈降問題を引き起こさない。しかしこのCOは、最後には所定の下流生成物となる。境界レベルを超えると、このCOは純度の問題を発生させる。そこで電解セル内の隔離板の最大寿命を達成して純度問題を回避するためには、供給される塩水中の有機物質及び多価金属カチオン、例えば鉄の濃度は、できる限り低いレベルに低下させられなければならない。
【0006】
メソ−酒石酸がヒドロポリカルボン酸、例えばDL−酒石酸と組み合わせて使用されている国際公開第00/59828号の実施例1に記載の組成物を用いると、塩には比較的多量の有機物質が導入される。他方、市販で入手できる100%メソ−酒石酸を使用すると、ラセミ形態のDL−酒石酸又はL−酒石酸との混合物中で使用した場合でさえ、価格が非常に高額なため経済的に実現可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第00/59828号
【特許文献2】国際公開第00/59829号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの目的は、商業的に魅力的であり、容易に入手することができ、そして比較的低用量で効果的である固結防止添加物を含む、固結防止塩組成物を提供することである。本発明のさらにもう1つの目的は、電解操作において使用することができ、電解セル内のダイアフラム若しくは膜の寿命及び下流生成物の純度に及ぼす何らかの考えられる有害作用が低減させられる固結防止添加物を含む、固結防止塩組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、本発明者らは、本目的が酒石酸の鉄錯体を含む塩化ナトリウム組成物であって、酒石酸のうちの55〜90重量%はメソ異性体(固結防止添加物であるとも表示される)である組成物を調製することによって達成されることを見い出した。好ましくは、前記塩化ナトリウム組成物の10重量%の水溶液は、3〜12のpH値を有する。最も好ましくは、前記塩化ナトリウム組成物の10重量%の水溶液は、6〜11のpH値を有する。本発明による固結防止添加物は、純粋メソ−酒石酸及び国際公開第00/59828号に明確に開示されたメソ−酒石酸を含む任意のヒドロポリカルボン酸混合物と比較して、改善された固結防止活性を有することが見い出された。さらに、本発明による固結防止塩化ナトリウム組成物が電解操作に使用される場合は、固結防止添加物として従来型フェロシアン化物を含む固結防止塩化ナトリウム組成物と比較してより少ない鉄が電解セル内に導入される。より詳細には、フェロシアン化物中の鉄は比較的強固に結合しているので、従来型の塩水精製方法では取り除かれないと予想される。しかし本発明によって使用される固結防止添加物中の鉄は、(メソ)酒石酸に比較的弱く結合している。塩水精製方法において使用される条件下では、固結防止添加物は解離し、鉄の大部分は、例えば沈降によって取り除くことができる。さらに、塩における有機物の量は当分野において公知の(メソ)酒石酸の固結防止添加物と比較して低減されているので、電解操作において生成されるCOはより少なくなり、下流生成物がより高純度で生じる。
【0010】
既に上述したように、国際公開第00/59828号は、実施例において酒石酸の混合物を製造するための方法を開示している。しかし、前記方法を用いると、最大50重量%までのメソ−酒石酸を含む酒石酸混合物しか得られないことが見いだされた。しかし現在までに、50重量%を超えるメソ−酒石酸を含む酒石酸の混合物を調製するための容易で経済的に魅力的な方法は存在していない。
【0011】
純粋メソ−酒石酸を得るための複数の立体選択的合成経路が存在する。しかしそれらは、本開示で記載する結晶化経路ほど魅力的であるとは思われない。例えば、濃Hによるフマル酸のエポキシ化とその後の加水分解は金属塩を何ら使用せずに酒石酸のメソ異性体だけの生成を生じさせることが見いだされた。しかし、比較的過酷な方法条件、低い転化率、及び副生成物形成のため、この方法は余り魅力的ではない経路とされている。さらに、マレイン酸は、KMnOの存在下でメソ−酒石酸に転化できることが見いだされている。この経路の主要な欠点は、KMnOの化学量論的消費及びメソ−酒石酸をメソ−酒石酸マンガン塩から分離する必要があることである。塩化ナトリウムへの固結防止添加物として適用するためには、メソ−酒石酸は実質的にMnを含有していてはならない。同様に、触媒若しくは酸化剤としてのMn/アミン錯体及び任意でHは、マレイン酸をメソ−酒石酸に転化させるために使用できるが、しかし同様に生成物精製という課題が伴う。
【0012】
本発明者らは、ここで、55〜90重量%のメソ−酒石酸を有する酒石酸の混合物を調製するための新規な経済的に魅力的な方法を開発した。前記方法は、次の工程:(i)35〜65重量%(好ましくは40〜60重量%)のL−酒石酸のジアルカリ金属塩、D−酒石酸のジアルカリ金属塩、L−酒石酸のジアルカリ金属塩とD−酒石酸のジアルカリ金属塩と任意でメソ−酒石酸のジアルカリ金属塩との混合物、並びに2〜15重量%(好ましくは4〜10重量%)のアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物を含む水性混合物を調製する工程、並びに(ii)この混合物を、酒石酸のうちの55〜90重量%、好ましくは酒石酸のうちの60〜80重量%がメソ−酒石酸に転化されるまで、100℃からその混合物の沸点の間の温度に攪拌及び加熱する工程を含む。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、本発明による固結防止塩化物組成物を調製するための方法に関する。本方法は、前記酒石酸のうちの55〜90重量%、好ましくは前記酒石酸のうちの60〜80重量%がメソ−酒石酸である酒石酸の鉄錯体を含む処理水溶液であって、pH3〜5、好ましくはpH4〜4.5を有する水溶液を塩化ナトリウム組成物にスプレーする工程を含む。
【0014】
前記処理水溶液は、好ましくは、(i)35〜65重量%(好ましくは40〜60重量%)のL−酒石酸のジアルカリ金属塩、D−酒石酸のジアルカリ金属塩、L−酒石酸のジアルカリ金属塩とD−酒石酸のジアルカリ金属塩と任意でメソ−酒石酸のジアルカリ金属塩との混合物、並びに2〜15重量%(好ましくは4〜10重量%)のアルカリ金属またはアルカリ金属水酸化物を含む水性混合物を調製する工程、(ii)この水性混合物を、前記酒石酸のうちの55〜90重量%(好ましくは酒石酸のうちの60〜80重量%)がメソ−酒石酸に転化されるまで100℃から前記水性混合物の沸点の間の温度に攪拌及び加熱する工程、並びに(iii)得られた混合物を冷却する工程、(iv)任意でpH5〜9にpHを調整する工程と、(v)得られた混合物を鉄(II)塩及び/又は鉄(III)塩と混合する工程と、(vi)pHが3〜5の範囲外である場合にpH3〜5にpHを調整する工程と、によって取得可能である。
【0015】
本発明による方法を用いると、前記方法の開始時のいずれかより(即ち、工程(i)において、又は工程(ii)の間に)メソ−酒石酸が溶解限度を超えて、これにより反応混合物からメソ−酒石酸の沈降が生じることが見い出された。従って本明細書を通して使用する用語「水性混合物」は、透明な水溶液と関連してだけではなく、水系スラリーとも関連して使用される。
【0016】
好ましくは、鉄(II)塩及び/又は鉄(III)塩の水溶液は工程(v)で使用されるが、それらの鉄塩の固体形態を加えることも可能である。
【0017】
工程(iii)では、混合物は好ましくは90℃又はそれ以下の温度へ、より好ましくは70℃又はそれ以下の温度へ冷却させられる。好ましい実施形態では、水が工程(ii)で得られた混合物に、例えば工程(iii)の間に(典型的には少量)加えられる。また、工程(iv)では、必要とされる濃度を有する処理溶液を調製するために、水を加えることも可能である。1つの好ましい実施形態では、工程(iii)で得られた反応混合物は、その混合物を鉄(II)塩及び/又は鉄(III)塩の水溶液に加えることによって、鉄(II)塩及び/又は鉄(III)塩と混合される。
【0018】
本方法において出発材料として使用される酒石酸のジアルカリ金属塩中のアルカリ金属は、好ましくはナトリウムを含む。本方法において使用されるアルカリ金属又はアルカリ金属水酸化物は、好ましくは水酸化ナトリウムを含む。
【0019】
L(+)−酒石酸二ナトリウム塩は、L−酒石酸二ナトリウムとも表示され、例えばSigma−Aldlich社(CAS番号6106−24−7)から市販されている。L(+)−酒石酸二ナトリウム塩の代わりに、L(+)−酒石酸(市販で、例えばSigma−Aldlich社(CAS番号87−69−4)から入手できる)を使用し、追加のNaOHの添加によってその場でL(+)−酒石酸二ナトリウム塩を調製することも又可能であることに留意されたい。同じことは、他の潜在的出発材料であるDL−酒石酸二ナトリウム塩にも当てはまる:DL−酒石酸二ナトリウム塩は、例えばSigma−Aldlich社から購入できる、又は現場でDL−酒石酸(CAS番号133−37−9)若しくはDL−酒石酸一ナトリウム塩及びNaOHから製造することができる。実際に、本発明の方法には、任意の比率及び任意の酸性形態または塩基形態のD体、L体、メソ体を含有する任意の酒石酸供給源を使用できる。D−酒石酸も出発材料として使用できるが、これは比較的高価であるために余り好ましくない。L−酒石酸二ナトリウム塩(現場でNaOHの添加によって生成されるもの、又はそれに類するものとして使用されるもの)の使用は、これらの出発材料が比較的安価であり、55〜90重量%のメソ−酒石酸を有する組成物を調製するための方法が、D−酒石酸とL−酒石酸との混合物が出発材料として使用される場合より速やかであるため好ましい。D−酒石酸とL−酒石酸とメソ−酒石酸との混合物を使用することもまた可能であるのは自明である。
【0020】
本方法は、好ましくは大気圧で実施される。しかし、本方法を高めた圧力、例えば2〜3barで実施することも可能であるが、これは余り好ましくない。
【0021】
所望量のメソ−酒石酸を得るために混合物を攪拌及び加熱する(すなわち、本調製方法の工程(ii))のために必要な時間は、水性混合物中の酒石酸の濃度、存在するアルカリ若しくはアルカリ金属水酸化物の量、温度及び圧力に依存することに留意されたい。しかし典型的には、工程(ii)では、本方法が大気圧で実施される場合、混合物は3〜200時間の間、攪拌及び加熱される。
【0022】
工程(ii)における混合物中のメソ−酒石酸の量は、従来法、例えばH−NMR(例えば、内部標準としてのメタンスルホン酸を使用してDO/KOH溶液中で)によって決定することができる。メソ−酒石酸のNMRスペクトルは、DL−酒石酸のNMRスペクトルとは僅かに相違する。NMRは、反応サンプル中のメソ−酒石酸:DL−酒石酸の比率を決定するため、又は任意で内部若しくは外部標準を使用することによってDL若しくはメソ異性体濃度を定量するために使用される。D−酒石酸とL−酒石酸とは、NMRによって直接的に識別することはできない。D−酒石酸、L−酒石酸、及びメソ−酒石酸の濃度を決定するためには、キラルHPLCが適切な方法である。
【0023】
当業者であれば認識するように、酒石酸は、pH値に依存してカルボン酸形態または塩形態(重酒石酸塩または酒石酸塩)で水溶液中に存在する。例えば、酒石酸は、水酸化ナトリウムが十分に多量で存在する場合、二ナトリウム塩として存在する。便宜性のために、用語「酒石酸」は、本明細書を通して酸性形態に対して、並びに酒石酸塩形態及び重酒石酸塩形態に対して使用される。
【0024】
上述したように、本発明による固結防止添加物は酒石酸の鉄錯体を含み、前記酒石酸のうちの55〜90重量%はメソ−酒石酸である。好ましくは、固結防止添加物は酒石酸の鉄錯体を含み、前記酒石酸のうちの60〜80重量%はメソ−酒石酸である。この場合、固結防止添加物の固結防止活性は極めて良好であり、他方、できる限り少ない鉄及び有機物質が塩化ナトリウム組成物中に導入される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】比較例F(i)及びF(ii)の経時的相対転化率。
図2】比較例G(i)及びG(ii)の経時的相対転化率。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施例、又は他の場合に指示されている場合を除き、本明細書及び特許請求項において使用される含有物の量、反応条件などの量を表示する全ての数字は、全ての場合に用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。
【0027】
本明細書を通して使用される用語「塩化ナトリウム組成物」は、75重量%を超える部分がNaClからなる組成物を全て表すことを意味する。好ましくは、このような塩は、90重量%超のNaClを含有する。より好ましくは、この塩は92%超のNaClを含有するが、95重量%超のNaClの塩が最も好ましい。典型的には、塩は、約2〜3%の水を含有するであろう。塩は、岩塩、天日塩、塩水などからの水の蒸発によって得られる塩でもよい。
【0028】
用語「固結防止塩化ナトリウム組成物」は、この組成物の固結化エネルギーが、その固結防止添加物を含まない対応する塩化ナトリウム組成物の固結化エネルギーの90%以下であるような量で本発明による固結防止添加物を含む組成物を意味する。
【0029】
二価鉄の供給源及び三価鉄の供給源(各々、フェロ塩及びフェリ塩)はどちらも、本発明による固結防止添加物を調製するために使用できる。しかし鉄(III)供給源の使用が最も好ましい。鉄(III)供給源は、FeCl又はFeCl(SO)である。FeClが最も好ましい。
【0030】
固結防止組成物中の鉄と酒石酸の総量とのモル比(即ち、酒石酸の総モル量で割った鉄のモル量)は、好ましくは0.1〜2、より好ましくは0.3〜1である。酒石酸の鉄錯体は、好ましくは、固結防止塩化ナトリウム組成物が鉄に基づいて少なくとも1ppm、好ましくは少なくとも1.5ppmの濃度の固結防止添加物を含むような量で使用される。好ましくは、鉄に基づいて200ppm以下の固結防止添加物が固結防止塩化ナトリウム組成物中に存在する。電解操作の目的には、好ましくは鉄に基づいて5ppm以下、最も好ましくは3ppm以下の固結防止添加物が固結防止塩化ナトリウム組成物中に存在する。
【0031】
固結防止塩化ナトリウム組成物のpHは、10重量%の塩化ナトリウム組成物を含む水溶液を調製する工程によって、従来型のpH測定法、例えばpH計を使用することによって測定される。塩化ナトリウム組成物のpHは、所望の場合、任意の従来型の酸または塩基によって調整できる。適切な酸としては、塩酸、硫酸、ギ酸、及びシュウ酸が包含される。適切な塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムが挙げられる。前記酸又は塩基は、個別に、又は固結防止添加物と一緒に塩化ナトリウム組成物に添加できる。最終組成物が窒素を含まないように、酸及び塩基は、好ましくは窒素非含有生成物から選択される。従って、1つの酸を加えなければならない場合は好ましくはHClが使用され、及び1つの塩基が加えられる場合は好ましくはNaOHが加えられる。
【0032】
塩化ナトリウム組成物のpHは、本発明による固結防止添加物の添加に先行して、所望レベルに調整することができる。酸又は塩基が導入される方法は、結果として生じる塩の所望の含水量及び処理すべき塩の含水量に左右される。典型的には、酸または塩基の濃縮液が塩に対してスプレーされる。
【0033】
上述したように、本発明は、前記固結防止塩化ナトリウム組成物を調製するための方法であって、酒石酸のうちの55〜90重量%(好ましくは60〜80重量%)がメソ−酒石酸である酒石酸の鉄錯体を含む水溶液であって、pH3〜5(好ましくはpH4〜4.5)を有する水溶液を、塩化ナトリウム組成物にスプレーする工程を含む方法に関する。
【0034】
酒石酸のうちの55〜90重量%がメソ−酒石酸である酒石酸の鉄錯体は、様々な従来法において塩化ナトリウム組成物中及び組成物上に導入または生成することができる。しかし、好ましい方法は、鉄供給源、酒石酸、及び任意でさらなる成分、例えば塩化ナトリウム及び/又はpH制御剤を水中に溶解させ、この溶液を塩化ナトリウム組成物にスプレーする方法である。
【0035】
より詳細には、鉄供給源、及び55〜90重量%がメソ−酒石酸である酒石酸、及び任意で塩化ナトリウムを含む水溶液は、上述したように調製される。任意で、前記水溶液のpHは、1つの酸、例えばHCl、ギ酸、シュウ酸、硫酸、又はそれらの組み合わせの添加によって調整及び/又は緩衝化される。塩化ナトリウムの濃度は、0重量%から飽和までの範囲に及んでよい。前記水溶液は、以下では処理溶液と表す。
【0036】
処理溶液は、好ましくは0.5〜25重量%の酒石酸を含み、その55〜90重量%(好ましくは60〜80重量%)はメソ−酒石酸である。鉄供給源は、好ましくは、処理溶液中の鉄と酒石酸総量とのモル比が0.1〜2、より好ましくは0.3〜1であるような量で存在する。この溶液は、好ましくは塩化ナトリウム組成物上に、前記固結防止塩化ナトリウム組成物中で少なくとも1ppm、より好ましくは少なくとも1.2ppm、最も好ましくは少なくとも1.5ppmの濃度の鉄を得るような量でスプレーされる。好ましくは、この溶液は、塩化ナトリウム組成物上に200ppm以下の鉄が導入されるような量で、固結防止塩化ナトリウム組成物にスプレーされる。固結防止塩組成物が電解操作において使用さる場合、好ましくは5ppm以下、最も好ましくは3ppm以下が固結防止塩化ナトリウム組成物に導入される。
【0037】
本発明による塩化ナトリウム組成物は、食餌用、食品用、医薬用、小売用及び工業用塩として使用できる。本発明による塩化ナトリウム組成物は、道路用塩としても、電解操作においても使用できる。好ましくは、本発明による塩化ナトリウム組成物は、膜型電解操作において使用される。
【0038】
以下では、本発明を下記の実施例によって詳細に説明する。
【実施例】
【0039】
実施例において適用された塩は、Sanal(登録商標) SQ(AkzoNobel社)である。塩化ナトリウム組成物のpHは、塩化ナトリウム組成物10gを90gの水中に溶解させた後、従来法において21℃で測定する。塩中の粘着性の水は、35℃及び相対湿度40%で4日間、または120℃で2時間のいずれかで乾燥させた後の重量損失測定によって決定する。
【0040】
固結化は、3連にて、粉体流分析装置(Powder Flow Analyzer)、又は略して流量計(TA−XT21型、Stable Micro Systems社)で測定される。容器には約50gの塩サンプルを充填し、1kgの重りを用いて圧縮し、乾燥空気を用いて2時間パージする工程によって予備調節する。その後、スクリュー様動翼を塩中に進入させる。流動計は連続的に、動翼によって塩に適用された力及びトルクを測定する。力が生成物中の移動深さに対してプロットされる場合、曲線下の積分は消費エネルギーの量と同等である。CE4値は、およそ4mmの動翼移動後の4mmの床高さの明確な範囲に渡って測定されたNmmでの固結化エネルギーである。固結化エネルギーが高いほど、固結化が大きくなる(そこで固結化エネルギーが低いほど、結果は良好である)。この方法の精度は、2s=35%であると推定されている。結果に及ぼすその他の影響、例えば空気湿度を排除するためには、相対固結化エネルギーによって表されるものと同一の連続した測定内の傾向に着目することが推奨される。
【0041】
相対固結化エネルギーに対する固結防止添加物の作用を測定するための標準化試験
Sanal SQ塩は1gの水を添加すると49±0.5gであると計量されたので、そこで塩上では2重量%に達する。そこで、所望量の抗固結化剤を添加した。抗固結化剤を含む塩を、小さなプラスチック袋内でおよそ5分間手動で塩を混練する工程によってしっかりと混合した。サンプルを、流動計上で1kgの重りを用いて圧縮し、解放した。サンプルを、底部を介して導入された乾燥空気(90L/時)で少なくとも2時間パージした。蒸発した水の量を、計量によって測定した。Nmmでの固結化エネルギーを、流量計によって測定した。
【0042】
(比較例A)
従来型固結防止添加物の固結化エネルギー
従来型の固結防止剤である既知量の濃フェロシアン化ナトリウム(NaFe(II)(CN))溶液を上述したSanal SQ塩に加え、2.5ppmのフェロシアン化物、即ち0.7ppmのFe(II)が塩上に生じた。29Nmmの固結化エネルギーを測定した。フェロシアン化ナトリウムは、Sigma社から入手した。
【0043】
(実施例1と比較例B及びC)
相対固結化エネルギーに対する固結防止添加物の効果
本発明による固結防止添加物の固結防止の性能を試験するために、固結化エネルギーを、上述したように標準化試験を使用して測定した。先に説明したように、固結化エネルギーが低いほど、抗固結剤は良好に機能する。各実験では、FeClとして加えた3ppm Fe(III)を塩化ナトリウムに適用したが、酒石酸(TA)の量及び異性体比は相違した(表1を参照されたい)。TAの量が大きいほど、塩に適用された有機物質(「有機物質負荷」)の量が多いことを意味する。これらの結果を従来型用量レベルでの従来型抗固結剤(2.5ppmのフェロシアン化物)の性能と比較した(=100%相対固結化エネルギー)。比較例Aを参照されたい。
【表1】
【0044】
本発明による、酒石酸の65重量%がメソ異性体である固結防止添加物が最善の結果をもたらすことは明白である(実施例1)。本発明による固結防止剤を用いると、従来型フェロシアン化物を用いた場合(比較例A)よりはるかに低い固結化エネルギーが測定される。
【0045】
比較例Cによる、即ち酒石酸の量は同一であるが、100重量%がメソ異性体からなる固結防止添加物を用いると、固結化エネルギーは実施例1の固結防止添加物を用いた場合の約2倍となる。比較例Bによる酒石酸の総量の33重量%がメソ異性体である固結防止添加物を用いると、実施例1で得られたエネルギーと同様の低い固結化エネルギーに達するには2倍量のTAが必要とされることが見いだされた。
【0046】
(実施例2及び3と比較例D及びE)
固結防止添加物中のDL/メソ比の効果
固結防止添加物の最適組成を上述した標準方法によって調製した4種の塩サンプル中の固結化エネルギーを測定する工程によってさらに実証した。各サンプル中において、Fe(III)=2ppm及びモル比Fe:TA=1:1.5であった(TAは総TAを指す)。添加物の量は、全4種のサンプルについて同一であった;しかしメソ−酒石酸:DL−酒石酸の比率は相違した。以下の相対固結化エネルギー値は、100%相対固結化エネルギーとして選択された実施例3を用いて得た。
【表2】
【0047】
本発明による、酒石酸の80重量%がメソ異性体である固結防止添加物は、最良の結果をもたらす(実施例3)。比較例Dによる、酒石酸の33重量%がメソ異性体である固結防止添加物を用いると、固結化エネルギーは実施例3の固結防止添加物を用いた場合の約2倍となる。比較例Eによる、100重量%がメソ異性体からなる固結防止添加物を用いると、固結化エネルギーは実施例2及び3について得られたエネルギーより高くなる。
【0048】
(実施例4)
本発明による固結防止添加物の調製
実施例4a:L−酒石酸を用いた固結防止添加物の調製
容量200Lの蒸気加熱されたジャケット付き容器内で、50重量%の水酸化ナトリウム水溶液156.6kg(Sigma社製、分析NaOH濃度:49.6重量%)を脱塩水18.4kgの及びL−酒石酸106.1kg(Caviro Distillerie社、イタリア)と混合した。中和が起こり、48.7重量%のL−酒石酸二ナトリウム塩、7.5重量%の遊離NaOH、及び43.7重量%の水を含有する溶液が生じた。この混合物を大気圧下での全還流下で沸騰させ、計24時間攪拌した。この期間中にサンプルを採取し、L−酒石酸塩からメソ−酒石酸塩への転化率をH−NMRによって決定した。結果を表3に示す。合成工程中に、メソ−酒石酸塩の一部はさらに反応してD−酒石酸塩となった。
【表3】
【0049】
沸騰からおよそ4.0〜4.5時間後、混合物は濁り、溶液から固体が沈降していた。残りの実験期間中にはスラリー密度が上昇した。
【0050】
キラルHPLCによって、D−酒石酸、L−酒石酸及びメソ−酒石酸の絶対量を決定した(使用したカラム:Chirex 3126 (D)−ペニシラミン(配位子交換)(表4を参照されたい。)。
HPLC条件:
ガードカラム:なし
分析カラム:Chirex 3126 (D)50×4.6mm ID;d=5μm
移動相:90%溶離剤Aと10%溶離剤Bとの混合液。濾過及び脱気した。
溶離剤A:1mM 酢酸銅(II)及び0.05M 酢酸アンモニウム
pH=4.5(酢酸を使用する)
溶離剤B:イソプロパノール
分離モード:定組成
流量:2.0mL/分
温度:50℃
注入量:2μL
検出:280nmでのUV
【表4】
【0051】
HPLCの結果は、H−NMR結果を確認するものである。
塩化ナトリウム組成物を固結防止性にするために塩化ナトリウム組成物上にスプレーするために適切な固結防止処理溶液は、以下のように調製した:
実施例4aの反応生成物40.126kgに脱塩水15.241kg及びL−酒石酸3.00kgを加えると酒石酸の全量の66%がメソ−酒石酸である透明な溶液が得られた。この混合物99.98gに40重量%のFeCl水溶液49.55gを加えた。50重量%の水酸化ナトリウム水溶液16.6gを使用して、pHを4.35に設定した。最後に、脱塩水1163.6gを加えると、所望の最終鉄濃度が得られた。
【0052】
得られたこの固結防止処理溶液は、0.56重量%のFe(III)、1.55重量%のメソ−酒石酸及び0.79重量%のDL−酒石酸から構成された。塩化ナトリウム組成物1トン当たり0.5Lの量で塩化ナトリウム組成物上にスプレーすると、結果として生じた固結防止塩化ナトリウム組成物中には3ppmの鉄及び12ppmの酒石酸が存在した。
【0053】
実施例4b:DL−酒石酸を用いた固結防止添加物の調製
容量30Lの蒸気加熱したジャケット付き容器内で、50重量%の水酸化ナトリウム水溶液15.41kg(Sigma社製)を脱塩水1.815kg及びラセミDL−酒石酸10.592kg(Jinzhan社製、寧海化学工場、中国)と混合した。この混合物を大気圧下で還流させながら沸騰させ、計190時間攪拌した。この期間中にサンプルを反応混合物から採取し、DL−酒石酸からメソ−酒石酸への転化率をH−NMRによって決定した(表5を参照されたい)。
【表5】
【0054】
固体は、全実験を通して存在した。
キラルHPLCによって、メソ−酒石酸及びDL−酒石酸の絶対量を測定した(使用したカラム:Chirex(登録商標) 3126(D)−ペニシラミン(配位子交換))(表6を参照されたい)。
【表6】

【0055】
両方の原料(実施例4a及び4b)も同一最終生成物である、主としてメソ−酒石酸及びD体とL体とをいくらか含有する酒石酸混合物をもたらすことが認められ、D体:L体の比は経時的に50:50(熱力学的平衡)に近付く。出発材料としてのL−酒石酸は、より迅速な転化を生じさせる。その他のプロセスパラメーター、例えばNaOH濃度は同様に転化率に影響を及ぼす。
【0056】
実施例4aに記載した方法と同一方法で作業を実施した。
【0057】
(比較例F)
より高いNaOH含量及び低い酒石酸二ナトリウム含量が及ぼす作用
比較例F(i):出発材料としてのL−酒石酸
容量1Lの反応容器内で、NaOH溶液606.04g(50重量%のNaOH及び50重量%の水を含有)を水414.40g及びL−酒石酸96.70gと混合した。混合すると、11.2重量%のL−酒石酸二ナトリウム、22.5重量%のNaOH、及び66.3重量%の水を含む混合物が得られた。この混合物を加熱し、継続的に攪拌しながら還流下の大気圧沸騰条件(Tboil:約110℃)で26時間維持した。透明な溶液が得られた。この液体から規則的な間隔でサンプルを採取し、メソ−酒石酸含量、DL−酒石酸含量、及び酢酸含量についてH−NMRによって分析した(D−及びL−エナンチオマーの識別をH−NMRによって実施することはできなかった)。
【0058】
H−NMR分析は、約40重量%(酒石酸の総量に基づく)のメソ体が得られるまでL−酒石酸がメソ−酒石酸に転化されることを示した(表7を参照されたい)。その後、さらなる長時間の沸騰はメソ−酒石酸への転化の増加を生じさせなかった。しかし、副生成物の酢酸塩の量は、時間と共に約1重量%まで増加した。
【0059】
およそ6時間沸騰させた後、少量の固体が出現した。H−NMR分析及びIR分析は、この固体が主として酒石酸分解生成物であるシュウ酸ナトリウムであることを示した。
【表7】
【0060】
比較例F(ii):出発材料としてのメソ−酒石酸塩とDL−酒石酸塩との混合物
11.4重量%の酒石酸二ナトリウム(それらの内78重量%はメソ−酒石酸塩であり、22重量%はDL−酒石酸塩であった)、21.8重量%のNaOH、及び66.8重量%の水を含有する1,470gの混合物を調製した。実際的な理由から、この混合物は、NaOH溶液、水、及び実施例4aに記載の方法によって調製した反応混合物から調製した。これは、出発材料が、酒石酸二ナトリウムのメソ体:DL体の比を除いて、全ての面において比較例F(i)の出発混合物と類似することを意味している。この混合物を加熱し、継続的に攪拌しながら還流下の大気圧沸騰条件(Tboil:約110℃)で26時間維持した。透明な溶液が得られた。定期的な間隔にて液体からサンプルを採取し、メソ−酒石酸含量、DL−酒石酸含量、及び酢酸含量についてH−NMRによって分析した(D−及びL−エナンチオマーの識別をNMRによって実施することはできなかった)。
【0061】
H−NMR分析は、メソ−酒石酸が、約40重量%(酒石酸の総量に基づく)のメソが得られるまでDL−酒石酸に転化されることを示した(表8を参照されたい)。およそ22時間沸騰させた後に平衡に達した。しかし、副生成物の酢酸塩の量は、時間と共に約1重量%まで増加した。
【0062】
およそ6時間沸騰させた後、少量の固体が出現した。H−NMR分析及びIR分析は、この固体が主として酒石酸分解生成物であるシュウ酸ナトリウムであることを示した。
【表8】
【0063】
詳細に例示するために、両方の実験の進行を図1に示した。比較例F(i)の結果は、実線で表示した(−◇−はメソ−酒石酸の量を表し、−■−はD−及びL−酒石酸の結合量を表す)。比較例F(ii)の結果は点線で表示した(- -◇- -はメソ−酒石酸の量を表し、- -■- -はD−酒石酸及びL−酒石酸の結合量を表す)。
約6時間後に平衡に達し、のメソ−酒石酸が約40重量%であり、D−酒石酸及びL−酒石酸が60重量%のであることが認められた。
【0064】
(比較例G)
少ない酒石酸二ナトリウム含量が及ぼす作用
比較例G(i):出発材料としてのL−酒石酸
比較例F(i)に類似する実験において、1,616gのNaOH溶液(50重量%のNaOH及び50重量%の水を含有)を水2,964.5g及びL−酒石酸759.5gと混合した。混合後、この酸を中和すると、18.4重量%のL−酒石酸二ナトリウム、7.5重量%のNaOH、及び74.1重量%の水を含有する混合物が得られた。この混合物を加熱し、46時間に渡って継続的に攪拌しながら還流下の大気圧沸騰条件(Tboil:約110℃)で維持した。透明な溶液が得られた。定期的な間隔にて液体からサンプルを採取し、メソ−酒石酸、DL−酒石酸、及び酢酸含量についてH−NMRによって分析した(D−及びL−エナンチオマーの識別をNMRによって実施することはできなかった)。
【0065】
H−NMR分析は、L−酒石酸が、約35重量%(酒石酸の総量に基づく)のメソが得られるまでメソ−酒石酸に転化されることを示した(表9を参照されたい)。およそ25時間沸騰させた後、メソ−酒石酸への転化の増加は観察されなかった。副生成物の酢酸塩の量は、時間と共に約0.2重量%まで増加した。
【表9】
【0066】
比較例G(ii):出発材料としてのメソ酒石酸塩とDL−酒石酸との混合物
18.6重量%の酒石酸二ナトリウム(それらの内78重量%はメソ−酒石酸塩であり、22重量%はDL−酒石酸塩であった)、7.6重量% NaOH、及び73.7重量%の水を含有する混合物6.30kgを調製した。実際的な理由から、この混合物は、実施例4aに記載の方法に従って、NaOH溶液(50%の水中の50% NaOH)、水、及び実施例4aに記載の方法によって調製した反応混合物から調製した。この出発混合物は、酒石酸中のメソ:DL異性体比を除いて、全ての面において比較例G(i)の出発混合物と類似する。この混合物を加熱し、継続的に攪拌しながら還流下の大気圧沸騰条件(Tboil:約110℃)で53時間維持した。透明な溶液が得られた。定期的な間隔にて液体からサンプルを採取し、メソ−酒石酸含量、DL−酒石酸含量、及び酢酸含量についてH−NMRによって分析した(D−及びL−エナンチオマーの識別をNMRによって実施することはできなかった)。
【0067】
H−NMR分析は、約34重量%(酒石酸の総量に基づく)のメソが得られるまでメソ−酒石酸がDL−酒石酸に転化されることを示した(表10を参照されたい)。およそ31時間後、平衡に達した。しかし、副生成物の酢酸塩の量は時間と共に増加し、46時間後に約0.4重量%まで増加した。
【表10】
【0068】
さらに例示するために、比較例G(i)及びG(ii)からの実験を図2に示した。比較例G(i)の結果は実線で表示した(−◇−はメソ−酒石酸の量を表し、−■−はD−及びL−酒石酸の合算量を表す)。比較例G(ii)の結果は点線で表した(- -◇- -はメソ−酒石酸の量を表し、- -■- -はD−酒石酸及びL−酒石酸の合算量を表す)。
【0069】
このより少量のNaOH含量では、平衡は約34重量%のメソ−酒石酸及び66重量%のDL−酒石酸(酒石酸の総量中)に位置する;副生成物の酢酸塩の生成は、比較例Fにおけるものよりもかなり少なかった。反応はより緩徐であった。
図1
図2