特許第5661215号(P5661215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5661215
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】規則充填物
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/32 20060101AFI20150108BHJP
   B01D 59/04 20060101ALI20150108BHJP
   B01D 3/26 20060101ALN20150108BHJP
【FI】
   B01J19/32
   B01D59/04
   !B01D3/26
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-191168(P2014-191168)
(22)【出願日】2014年9月19日
【審査請求日】2014年9月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】木原 均
(72)【発明者】
【氏名】廣海 豪
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−982(JP,A)
【文献】 特開平11−128735(JP,A)
【文献】 特開平11−179102(JP,A)
【文献】 特開平6−142401(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第10159824(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/32
B01D 3/00
B01D 53/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径が100mm未満の円筒状の充填塔に挿入して充填される規則充填物であって、
金属薄板を傾斜波形を有する波板状に加工した複数枚のシート材を、その波形の傾斜方向が交差するように積層して積層体を形成し、
前記シート材は、その両側面をシート面に対して直角になるように形成した第1シート材と、前記シート材を前記充填塔に挿入したときにその両側面が該充填塔の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して37°乃至43°で傾斜するように形成した第2シート材と、前記シート材を前記充填塔に挿入したときにその両側面が該充填塔の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して67°乃至73°で傾斜するように形成した第3シート材の3種類のシート材を有し、
前記3種類のシート材は折り曲げ高さが4mm以上であり、第1シート材、第2シート材及び第3シート材は、その板幅がこの順で徐々に狭くなり、かつ前記積層体の中心部から第1シート材、第2シート材、第3シート材の順で積層の外側に向かって配置してなることを特徴とする規則充填物。
【請求項2】
前記積層体における高さ方向の上端部及び下端部に、その先端が外側を向くように折り曲げられた、上端に上下に伸びる切れ込みを、周方向に所定の間隔で設けた環状部材を巻き回してなり、
前記環状部材は、上端にその先端が外側を向くように折り曲げられた、上下に伸びる切れ込みを周方向に所定の間隔で有し、
前記上端部に配置する前記環状部材は、当該規則充填物を挿入充填する充填塔の塔径の0.5倍よりも大きい上下方向の幅を有し、
前記下端部に配置する前記環状部材は、その下端に上下に延びる前記折り曲げ高さよりも幅の狭い切れ込みを周方向に有し、該切り込みによって形成された各片部は、その先端が前記積層体側に向くように傾斜させたことを特徴とする請求項1に記載の規則充填物。
【請求項3】
前記積層体の周囲を直径0.5mm以下の金属ワイヤーで螺旋状に巻き回し、その端部を前記環状部材に締結したことを特徴とする請求項1または2に記載の規則充填物。
【請求項4】
安定同位体を濃縮するための円筒状の充填塔に挿入して充填される規則充填物であって、
アルミニウムまたはステンレスまたは銅製の薄板を傾斜波形を有する波板状に加工した複数枚のシート材を、その波形の傾斜方向が交差するように積層し、該積層したシート材の高さ方向の少なくとも上端部と下端部をステンレスまたは銅からなる環状部材で束ねて固定し、前記積層したシート材の周囲を直径0.5mm以下の銅線のワイヤーで螺旋状に巻き回し、その端部を前記環状部材に締結してなり、
前記シート材は、その両側端部がシート面に対して直角に形成した第1シート材と、その両側端部がシート面に対して37°乃至43°になるように形成した第2シート材と、その両側端部がシート面に対して67°乃至73°になるように形成した第3シート材とを有し、
前記3種類のシート材は折り曲げ高さが4mm以上であり、積層の中心部から第1シート材、第2シート材、第3シート材の順で配置してなることを特徴とする規則充填物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質移動操作用の液体と気体との接触用媒体として蒸留塔、吸収塔等に利用される規則充填物に関する。
【背景技術】
【0002】
物質移動操作用の液体と気体との接触用媒体として、蒸留塔、吸収塔等に広く利用されている充填物として、例えば特許文献1に開示された「物質代謝塔用の充填材」がある。
この「物質代謝塔用の充填材」は、図5に示すように、金属薄板や金属製メッシュシートを波板状に折り曲げた複数枚のシート材21を、各シート材21の波形の傾斜方向が交差するように積層し、これを図6に示すように、円筒状の充填塔23の内部に挿入充填して用いられる。このような充填材(充填物とも呼ばれる)は全体として規則的な構造をしていることから、一般的には「規則充填物」あるいは「構造化充填物(Structured Packing)」と呼ばれる。
【0003】
このようなシート材21は、所定の折り曲げ高さHを有し(図7参照)、その両側面はシート面に対して直角な面になっている。シート材21を、円筒状の充填塔23に挿入して充填する際には、シート材21の幅を、充填塔23の中心付近に配置するものは充填塔23の直径程度にして、周囲に近く配置するものほど幅が狭くなるようにすることによって、積層体の外周が充填塔の内壁にできるだけ沿うようにしている(図7参照)。なお、図7において示した矢印は、波形の傾斜方向を示している。
【0004】
また、このような規則充填材は、1枚乃至2枚の金属製の環状部材4で巻かれるのが一般的である(図7参照)。この環状部材(一般にカラーと呼ばれる)は塔の内壁面に沿って流れる液流(壁流)を集液して塔の内部に導くためのものであって、例えば特許文献2に開示されている(図8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57−36009号公報
【特許文献2】特許第3538223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のシート材21は、その両側面をシート面に対して直角になるように形成しているため、図7に示すように、塔内壁面近くに、平面視で略三角形状の隙間25が生じてしまい、気液接触が好適に行われなくなり、物質移動性能が低下するという問題がある。
特に、塔径が100mm未満の小塔径の充填塔23に、比表面積が500m/m以下で、シート材の折り曲げ高さHが4mm以上になる規則充填物を用いる場合、塔内に充填材が占める体積に比して隙間25の体積が大きくなり、上記の問題が顕著となる。
【0007】
比表面積とは、単位体積当たりの充填物の表面積であり、比表面積が大きいほど折り曲げ高さは小さくなる。
上記の小塔径に対する問題解決策として、シート材の比表面積を大きくして折り曲げ高さHを小さくすることで、上述した三角形の隙間25を小さくすることが考えられる。
しかしながら、シート材の比表面積が大きくなるとシート材自体の空隙率が低下し、ガス流れに対する抵抗が増し、圧力損失が増大するため動力コストが増大するといった問題が生じる。
【0008】
また、比表面積が大きくなると、液の保持量(ホールドアップ)が増大し、液の滞留時間が長くなるため、運転開始から目的成分が濃縮するまでに必要な時間(起動時間)が長くなる。一般的な化学工業で用いられる蒸留装置では、起動時間は、長くても数時間乃至数日程度なので、さほど問題にはならないが、原料中の目的成分の濃度が小さく、互いに物理化学的性質が近い同位体分離に用いる蒸留装置の場合、起動時間は数カ月〜数年と長期になるのが一般的であり、液の滞留時間は起動時間に大きく影響するので、起動時間の長期化はより大きな問題となる。
【0009】
また、従来のシート材21を、塔径が100mm未満の小塔径の充填塔23に用いる場合、シート材の幅は必然的に100mm未満と小さくなり、剛性が低下する(曲がりやすくなる)。その結果、シート材を円筒状に積層し、特許文献2に記載されているような環状部材4で束ねたとしても、直接環状部材で締め付けられていない部分、特に最も幅の小さいシート材の上端部および下端部が塔内壁側に曲がり(めくれ)やすくなる。これはシート材と塔内壁が接触してしまうことを意味し、その接触点から壁流を生じやすくなる。壁流は蒸気と十分に接触しないため、蒸留性能の低下につながる。
また、シート材21を円筒状に積層し、2枚の環状部材4で束ねる場合、環状部材で締め付けられていない(高さ方向の)中央部は、上記の理由でシート材どうしの密着度が低下し、結果、液の分散が不十分になる。これは蒸気との十分な気液接触を阻害し、蒸留性能の低下につながる。
【0010】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、比表面積を大きくすることなく、小塔径の充填塔に適用しても、物質移動性能が低下の問題の生じない規則充填物及び該規則充填物を用いた気液接触装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る規則充填物は、内径が100mm未満の円筒状の充填塔に挿入して充填される規則充填物であって、金属薄板を、傾斜波形を有する波板状に加工した複数枚のシート材を、その波形の傾斜方向が交差するように積層して積層体を形成し、
前記シート材は、その両側面をシート面に対して直角になるように形成した第1シート材と、前記シート材を前記充填塔に挿入したときにその両側面が該充填塔の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して37°乃至43°で傾斜するように形成した第2シート材と、前記シート材を前記充填塔に挿入したときにその両側面が該充填塔の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して67°乃至73°で傾斜するように形成した第3シート材の3種類のシート材を有し、
前記3種類のシート材は折り曲げ高さが4mm以上であり、第1シート材、第2シート材及び第3シート材は、その板幅がこの順で徐々に狭くなり、かつ前記積層体の中心部から第1シート材、第2シート材、第3シート材の順で積層の外側に向かって配置してなることを特徴とするものである。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記積層体における高さ方向の少なくとも上端部及び下端部に、環状部材を巻き回してなることを特徴とするものである。
【0013】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、上端部に配置する前記環状部材の上下方向の幅を、当該規則充填物を挿入充填する充填塔の塔径の0.5倍よりも大きくしたことを特徴とするものである。
【0014】
(4)また、上記(2)又は(3)に記載のものにおいて、前記積層体の下端部に設けた前記環状部材の下端に、上下に延びる切れ込みを周方向に所定の間隔で設け、該切り込みによって形成された各片部を、その先端が前記積層体側に向くように傾斜させたことを特徴とするものである。
【0015】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、前記積層体の下端部に設けた前記環状部材の切り込みの周方向の間隔を、前記シート材の折り曲げ高さよりも狭くしたことを特徴とするものである。
【0016】
(6)また、上記(2)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記積層体の上端部に設けた前記環状部材の上端に、上下に延びる切れ込みを周方向に所定の間隔で設け、該切り込みによって形成された各片部を、その先端が外方向に向くように折り曲げたことを特徴とするものである。
【0017】
(7)また、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のものにおいて、前記積層体の周囲を直径1mm以下の金属製のワイヤーで螺旋状に巻き回し、その端部を前記環状部材に締結したことを特徴とするものである。
【0018】
(8)また、同位体を蒸留によって濃縮するための円筒状の充填塔に挿入して充填される規則充填物であって、
アルミニウム薄板を、傾斜波形を有する波板状に加工した複数枚のシート材を、その波形の傾斜方向が交差するように積層し、該積層したシート材の高さ方向の少なくとも上端部と下端部をステンレスからなる環状部材で束ねて固定し、前記積層したシート材の周囲を直径0.5mm以下の銅線のワイヤーで螺旋状に巻き回し、その端部を前記環状部材に締結してなり、
前記シート材は、その両側端部がシート面に対して直角に形成した第1シート材と、その両側端部がシート面に対して37°乃至43°になるように形成した第2シート材と、その両側端部がシート面に対して67°乃至73°になるように形成した第3シート材とを有し、
前記3種類のシート材は折り曲げ高さが4mm以上であり、積層の中心部から第1シート材、第2シート材、第3シート材の順で配置してなることを特徴とするものである。
【0019】
(9)本発明に係る気液接触装置は、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の規則充填物を充填した内径100mm未満の蒸留塔もしくは吸収塔を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、規則充填物を構成するシート材が、その両側面をシート面に対して直角になるように形成した第1シート材と、前記シート材を前記充填塔に挿入したときにその両側面が該充填塔の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して37°乃至43°で傾斜するように形成した第2シート材と、前記シート材を前記充填塔に挿入したときにその両側面が該充填塔の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して67°乃至73°で傾斜するように形成した第3シート材の3種類のシート材を有し、
前記3種類のシート材は折り曲げ高さが4mm以上であり、第1シート材、第2シート材及び第3シート材は、その板幅がこの順で徐々に狭くなり、かつ積層の中心部から第1シート材、第2シート材、第3シート材の順で積層の外側に向かって配置してなることにより、塔径が100mm未満のような小塔径の充填塔に挿入・充填した場合においても、圧力損失や液の保持量(ホールドアップ)が過大になることなく、気液接触を好適に行うことができ、物質移動操作を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係る規則充填物の外形を説明する説明図である。
図2図1の矢視A−A線に沿う断面図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る規則充填物の具体例の説明図である。
図4】本発明の他の実施の形態に係る規則充填物の外形を説明する説明図である。
図5】規則充填物を構成するシート材の説明図である。
図6】従来の規則充填物の説明図である。
図7】従来の規則充填物を構成するシート材の説明図である。
図8】従来の規則充填物に使用される環状部材の説明図である。
図9】発明の効果を検証するために行った実験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る規則充填物1は、図1図2に示すように、内径が100mm未満の円筒状の充填塔3に挿入して充填される規則充填物1であって、金属薄板を、傾斜波形を有する波板状に加工した複数枚のシート材5を、その波形の傾斜方向が交差するように積層されている。
そして、各シート材5は、その両側面をシート面に対して直角になるように形成した第1シート材5aと、シート材5を充填塔3に挿入したときにその両側面が充填塔3の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して37°乃至43°で傾斜するように形成した第2シート材5bと、シート材5を充填塔3に挿入したときにその両側面が充填塔3の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して67°乃至73°で傾斜するように形成した第3シート材5cの3種類のシート材5を有しており、積層の中心部から第1シート材5a、第2シート材5b、第3シート材5cの順で配置してなるものである(図2参照)。
また、本実施の形態の規則充填物1は、積層したシート材における高さ方向の上端部及び下端部に環状部材7をそれぞれ巻き回している(図1参照)。
以下、構成をさらに詳細に説明する。
【0023】
<充填塔>
充填塔3としては、例えば蒸留塔、吸収塔が挙げられるが、特に限定されるものではなく、物質移動操作用の液体と気体との接触用媒体として規則充填物1が挿入充填されるものである。
なお、本実施の形態の規則充填物は、充填塔3が小塔径の場合であっても、圧力損失や液の保持量(ホールドアップ)が過大になることなく、気液接触を好適に行うことができ、物質移動操作を効率的に行うことができる点が優れていることから、対象とする充填塔の径は、100mm未満のものとすることで、本発明の効果が顕著となる。
【0024】
<積層体>
積層体6は、金属製(例えば、アルミニウム)の薄板を傾斜する波形を有する波板状に加工した第1シート材5a、第2シート材5b及び第3シート材5cの3種類のシート材5を、その波形の傾斜方向が交差するように積層したものである(図2参照)。
すなわち、複数枚のシート材5を塔軸線に平行に、かつ各シート材5が互いに接触するように積層してブロック状にしたものが積層体6である。各シート材5の波形は、塔軸線に対して傾斜し、かつ隣接するシート材5はそれらの波形の傾斜方向が交差するように配置される。この点は、特許文献1を示した図5図6と同様である。
なお、図2における矢印は波形の傾斜方向を示している。
【0025】
<シート材>
シート材5は、金属製の薄板やメッシュシートを、折り曲げ高さH(シート材としての厚み)が4mm以上(例えば5〜7mm程度)の波板状に折り曲げて長方形のシート状にしたものである。シート材5を金属製の薄板で形成する場合、表面に細かな溝を形成したり、多数の孔を設けたりしたものを用いてもよい。
折り曲げ高さHを4mm〜7mm程度とすることで、比表面積は約750m2/m3〜500m2/m3となり、小塔径(例えば、100mm未満)の充填塔3に用いても、圧力損失や液の保持量(ホールドアップ)が過大になりすぎず、動力コストが増大するという問題も生じない。
【0026】
本実施の形態の積層体6は、第1シート材5a、第2シート材5b及び第3シート材5cの3種類のシート材からなり、これら3種類のシート材5はその板幅がこの順で徐々に狭くなっている。
第1シート材5aは、その両側面をシート面に対して直角になるように形成している。
また、第2シート材5bは、シート材5を積層体6として充填塔3に挿入したときにその両側面が充填塔3の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して37°乃至43°で傾斜するように形成している。つまり、両側面の傾斜角度は同じであるが、傾斜の方向が反対になっており、図2に示すように、平面視したときに第2シート5aの上端面は台形状になっている。この点は、第3シート材5cも同様である。
また、第3シート材5cは、積層体6を充填塔3に挿入したときにその両側面が充填塔3の内周面に沿うように該両側面をシート面に対して67°乃至73°で傾斜するように形成している。
【0027】
本実施の形態の積層体6の具体例として、図3に示すように、折り曲げ高さ6.5mmのシート材を、外径が86mm、内径が83mmの充填塔3に、両側面の傾斜角度を70°とした第2シート材5bと、両側面の傾斜角度を40°とした第3シート材5cを挿入充填したものがある。より具体的には、積層の中心部に板幅76mmの第1シート材5a−1を1枚配置し、第1シート材5a−1を両面から挟むようにして、板幅が74mmの第1シート材5a−2を配置し、さらにこの第1シート材5a−2の外側に板幅が69mmの第2シート材5b−1を配置し、さらにこの第2シート材5b−1の外側に板幅が62mmの第2シート材5b−2を配置し、さらにこの第2シート材5b−2の外側に板幅が47mmの第3シート材5c−1を配置し、この第3シート材5c−1のさらに外側に板幅が32mmの第3シート材5c−2を配置している。なお、各シート材5の板幅は狭い面の板幅を示している。
【0028】
なお、上記の具体例では、第1シート材5aを3枚、第2シート材5bを4枚、第3シート材5cを4枚使用した例を示したが、本発明において各シート材5の数は特に限定されるものではなく、塔径等に応じて適宜設定すればよい。また、上記の具体例で第1シート材5a−1の幅が塔の内径83mmよりも小さくなっているのは、塔壁と積層体6の間に、環状部材7を配置するためである。
また、図3に示したものでは、第2シート材5bの傾斜角度を70°、第3シート材5cの傾斜角度を40°とした例を示したが、これらの角度はプラスマイナス3°程度の範囲は許容され、第2シート材5bの傾斜角度は67°乃至73°で、第3シート材5cの傾斜角度は37°乃至43°であればよい。
【0029】
<環状部材>
環状部材7は、例えばステンレス製の板材からなり、積層されたシート材5における高さ方向の上端部及び下端部において、積層されたシート材5に巻き回されたシート材5を束ねる機能を有している(図1参照)。
環状部材7で積層されたシート材5の上端部及び下端部を巻き回して束ねることで、積層されたシート材5の相互密着性を向上しており、流下する液体と気体との気液接触性を高めている。
また、環状部材7を設けることで、シート材5間を流れる液体が充填塔3の塔壁に触れるのを防止でき、液体の壁流の発生を防止できる。
【0030】
この点、シート材5の板幅が狭い場合において、一般に行われるように、積層されたシート材における高さ方向の中間部分を固定したとすれば、上端、下端でシート材間の密着性が低下し、流下する液体と気体との気液接触性が低下する。また、板幅の狭いシート材は剛性が低いため、特に最も外側に配置される最も板幅の狭いシート材に撓みが生じ、塔内壁に接触して液体の壁流が生じ、気液接触が好適に行われなくなり、物質移動性能が低下する。
これに対して、本実施の形態では、積層されたシート材5の上端部及び下端部を環状部材7で巻き回しているので、このような問題が生じない。
なお、壁流の発生を効果的に防止するには、上端部に設けた環状部材7における上下方向の幅を、規則充填物1を挿入充填する充填塔3の塔内径の0.5倍よりも大きく設定するのが好ましい。
【0031】
環状部材7の上端には、上下に延びる切れ込みを周方向に所定の間隔で設け、該切り込みによって形成された複数の上片部9を、その先端が外方向に向くように折り曲げている(図1参照)。
このようにすることで、規則充填物1を充填塔3内に挿入したときに、各上片部9が塔内壁に接触し、規則充填物1の周囲が塔内壁から所定の間隔を離して充填塔3内に保持され、これによって液体の壁流が生ずるのを防止できる。
なお、環状部材7の切り込みの周方向の間隔を、シート材5の折り曲げ高さHよりも広くするのが好ましい。
このようにすることで、各上片部9の剛性が増し、規則充填物1を充填塔3内の所定の位置に確実に保持することができる。
【0032】
環状部材7の下端には、上下に延びる切れ込みを周方向に所定の間隔で設け、該切り込みによって形成された複数の下片部11を、その先端が積層体6側に向くように傾斜させている。
このようにすることで、積層体6内を流下した液体がシート材5の側面に到達したときに、各下片部11に案内されて再びシート材5側に戻ることができ、気液接触を効果的に行わせることができる。
なお、環状部材7の切り込みの周方向の間隔を、シート材5の折り曲げ高さHよりも狭く設定するのが好ましい。このようにすれば、各下片部11をシート材5側に折り曲げたときに、その端部をシート材5の折り曲げ高さH内に挿入することができ、また、各下片部11とシート材5との密着性も増し、液をより確実に積層体6内に戻すことができる。
また、本発明においては積層されたシート材5の下端部に環状部材7を配置するため、上記下片部11がシート材5側に向くように傾斜されることにより、シート材5の歪み易い下端部が下片部11により内側に包み込まれるようになり、シート材5の下端部が塔壁に触れるのをいっそう防止することができる。
【0033】
以上のように構成された本実施の形態の規則充填物1は、塔径が100mm未満のような小塔径の充填塔に挿入・充填した場合においても、圧力損失や液の保持量(ホールドアップ)が過大になることなく、気液接触を好適に行うことができ、物質移動操作を効率的に行うことができる。
【0034】
[実施の形態2]
本実施の形態に係る規則充填物1は、図4に示すように、積層されたシート材5の周囲を直径1mm以下の銅線のワイヤー13で螺旋状に巻き回し、その端部を環状部材7に締結したものである。
これによって、環状部材7が巻き回されていないシート材5の部位においてもシート材5相互の密着性を高め、流下する液の分配を促進することができる。
なお、ワイヤー13は0.5mm以下の銅線にするのが、より好ましい。ワイヤー13が細いほど、液体がワイヤー13を伝わることがなく、液流の発生を抑えることができるため、好ましい。ワイヤーの材質はシート材5、環状部材7同様、扱う物質の性状に合わせて選定するのが好ましい。例えば、酸素雰囲気で使用する場合、ワイヤーは線径が細くなると燃焼の可能性が生ずるため、燃焼性の低い銅線を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0035】
本発明の効果を確認するための実験を行ったので、以下これについて説明する。図9は実験装置に概略図である。実験装置は高さ約200mmの充填物160が5個充填された充填高さ約1m、塔内径83mmの塔100および液体(水)供給部110、ガス(空気)供給部120、中心流量測定部130、壁流量測定部140、圧力計150から構成される。
この装置を用い、折り曲げ高さ6.5mmのシート材および環状部材から構成された充填物の液分配および圧力損失を従来技術の充填物または本発明の充填物それぞれについて測定した。
実験は、まず最上部に配置された充填物の中心部に液体供給部110から水を毎分1L供給し、同時にガス供給部から空気を密度補正空塔速度1.5(m/s)・(kg/m0.5相当で供給する。流れが安定したところで、圧力計150により圧力損失を、中心流量測定部130および壁流量測定部140によりそれぞれの水の流量を測定した。
結果は表1の通りであり、圧力損失は同等で、壁流量割合は本発明の方が小さく、優れていることが示された。
【0036】
【表1】
【符号の説明】
【0037】
1 規則充填物
3 充填塔
5 シート材
5a 第1シート材
5b 第2シート材
5c 第3シート材
6 積層体
7 環状部材
9 上片部
11 下片部
13 ワイヤー
21 シート材(従来例)
23 充填塔(従来例)
25 隙間
H 折り曲げ高さ
【要約】
【課題】小塔径の充填塔に適用しても、物質移動性能が低下の問題の生じない規則充填物及び該規則充填物を用いた気液接触装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る規則充填物は、内径が100mm未満の円筒状の充填塔に挿入して充填される規則充填物であって、金属薄板からなる複数枚のシート材5を積層してなり、シート材5は、その両側面をシート面に対して直角になるように形成した第1シート材5aと、両側面をシート面に対して37°乃至43°で傾斜するように形成した第2シート材5bと、両側面をシート面に対して67°乃至73°で傾斜するように形成した第3シート材5cの3種類のシート材を有し、3種類のシート材5は折り曲げ高さが4mm以上であり、第1シート材5a〜第3シート材5cは、その板幅がこの順で徐々に狭くなり、かつ積層の中心部から第1シート材5a〜第3シート材5cの順で積層の外側に向かって配置してなるものである。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9