(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661275
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】殺胞子性組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20150108BHJP
C08F 120/10 20060101ALI20150108BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20150108BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20150108BHJP
A01N 39/00 20060101ALI20150108BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
C08F120/10
C08F265/06
C08F292/00
A01N39/00
A61L25/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-284066(P2009-284066)
(22)【出願日】2009年12月15日
(65)【公開番号】特開2010-144168(P2010-144168A)
(43)【公開日】2010年7月1日
【審査請求日】2012年6月14日
(31)【優先権主張番号】10 2008 063 524.3
(32)【優先日】2008年12月18日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2009 005 534.7
(32)【優先日】2009年1月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508316210
【氏名又は名称】ヘレーウス メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Medical GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100061815
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン フォークト
(72)【発明者】
【氏名】フーベルト ビューヒナー
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−174521(JP,A)
【文献】
特開平07−331027(JP,A)
【文献】
特開平06−179797(JP,A)
【文献】
特開2008−088086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00− 2/60
C08F 6/00−246/00
A01N 39/00
A61L 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分
A メタクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーの混合物、
B1 過酸化水素、及び/又は
B2 過酸化水素を遊離する物質又は過酸化水素を遊離する物質混合物、及び
C 少なくとも1種のラジカル安定剤
を含有する殺胞子性の組成物であって、成分B1と、成分B2から遊離された過酸化水素と、成分Cとが、成分A中に均質に溶解されており、かつCと(B1+B2)との物質量比が、1対1[モル/モル]より大きい、又はそれと同じであり、
前記の過酸化水素を遊離する物質が、以下の
・過酸化水素−尿素−付加物、及び
・炭酸ナトリウム−過酸化水素−付加物
からなる群B21から選択され、かつ
前記の過酸化水素を遊離する物質混合物が、以下の
・炭酸ナトリウム−過酸化水素−付加物/2−エチルヘキサン酸、
・過酸化カルシウム/2−エチルヘキサン酸、及び
・過酸化マグネシウム/2−エチルヘキサン酸
からなる群B22から選択される、
前記殺胞子性の組成物。
【請求項2】
過酸化水素が、前記のモノマー又はモノマー混合物に対して、20ppm〜0.5質量%の量で存在する、請求項1に記載の殺胞子性の組成物。
【請求項3】
前記の量が、20ppm〜0.01質量%である、請求項2に記載の殺胞子性の組成物。
【請求項4】
安定剤Cが、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、アルキルガレート、パルミトイルアスコルビン酸及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールからなる群に属する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の殺胞子性の組成物。
【請求項5】
以下の成分
A1 低分子の液状メタクリレート、
A2 直鎖状もしくは分枝鎖状のポリメチルメタクリレート又は直鎖状もしくは分枝鎖状のメチルメタクリレート−コポリマー、
A3 架橋されたポリメチルメタクリレート又は架橋されたメチルメタクリレート−コポリマー、
B1 過酸化水素、及び/又は
B2 過酸化水素を遊離する物質又は過酸化水素を遊離する物質混合物、及び
C 少なくとも1種のラジカル安定剤、
D 少なくとも1種のラジカル開始剤系の成分
を含有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の殺胞子性の組成物。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の殺胞子性の組成物を、
・一成分の骨セメントペースト、
・二成分の骨セメントペースト、又は
・セメント粉末とモノマー液から構成されるポリメチルメタクリレート骨セメントのためのモノマー溶液
の製造のために用いる使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺胞子性組成物及びその使用、特に骨セメントペーストとしてのもしくは骨セメントペーストの製造のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PMMA−骨セメント(ポリメチルメタクリレート−骨セメント)は、数十年にわたり知られており、チャーンレー氏の基礎研究に由来するものである(Charnley,J.:Anchorage of the femoral head prosthesis of the shaft of the femur.J.Bone Joint Surg.42(1960)28−30)。PMMA−骨セメントの基本構成は、それ以来、原則的に同じままである。PMMA−骨セメントは、液状のモノマー成分と粉末成分とからなる。該モノマー成分は、一般にモノマーのメチルメタクリレートと、それに溶解されたアクチベーター(N,N−ジメチル−p−トルイジン)を含有する。粉末成分は、メチルメタクリレート及びスチレン、メチルアクリレートもしくは類似のモノマーなどのコモノマーを基礎として、重合によって、好ましくは懸濁重合によって製造される1種もしくは複数種のポリマーと、X線不透過剤と、開始剤のジベンゾイルペルオキシドとからなる。PMMA−骨セメントは、クラスIIbの医薬品もしくは抗生物質を添加するとクラスIIIの医薬品である。従って、該セメントは、患者の安全性を保証するためには、滅菌状態で二重の滅菌包装においてのみ流通しうることが必要である。その粉末成分は、殆どのPMMA−骨セメントの場合にはエチレンオキシド作用によって滅菌される。その他に、該粉末成分をガンマ線照射によって滅菌することも通常である。モノマー液の滅菌は、ろ過滅菌と、後続の無菌充填とによって達成される。モノマー液の製造のために使用されるメチルメタクリレートは、その親油性と共に変質特性に基づいて、殆どの微生物の栄養生活形にとって殺生性である。無水のメチルメタクリレート中には、微生物は存在し得ない。微生物の生活は、常に水の可用性に関連している。微生物の栄養形の他に、内生胞子などの生殖形も存在する。該胞子は、微生物の生殖型の生存形であり、かつ不利な生存条件を生き延びうるために、グラム陽性細菌、特にバシラス属及びクロストリジウム属から形成される。内生胞子は、休眠状態では活発な代謝を有さず、かつ胞子芯部を化学物質と他の環境要因から十分に保護する多層の胞子皮層を有する。それによって、内生胞子は、熱と化学物質の作用に対して極めて耐久性がある(Borick,P.M.:Chemical sterilizers.Adv.Appl.Microbiol.10(1968)291−312;Gould,G.W.:Recent advances in the understanding of resistance and dormacy in bacterial spores.J.Appl.Bacteriol.42(1977)297−309;Gould,G.W.:Mechanisms of resistance and dormancy.p.173−209.In Hurst,A.and Gould,G.W.(ed.),The bacterial spore.vol.2 Academic Press,Inc.New York,1983)。内生胞子は、その耐久性に基づき、滅菌法の妥当性検査と有効性制御のための生物指標として使用される。その際、胞子の不活性化が、全ての微生物の栄養生活形の死滅を表すことからはじめる。グラム陽性細菌の内生胞子は、国際耐性段階IIIに属する。その耐性段階Iには、非胞子形成性細菌と胞子形成菌の栄養形が属し、そして耐性段階IIには、流動水蒸気中105℃で数分以内で死滅する胞子が属する。滅菌に際しては、DAB2008によれば、耐性段階IないしIIIの全ての微生物が死滅もしくは不可逆的に不活性化されねばならない。
【0003】
ガンマ線照射、電子線照射、紫外線照射、熱滅菌及び加圧蒸気によるオートクレーブなどの物理的滅菌法の他に、化学的な滅菌剤も使用される。それには、エチレンオキシド、ホルムアルデヒド、グルタルジアルデヒド、o−フタルジアルデヒド、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、ヨウ素、過酢酸及び過酸化水素が属する。エチレンジオキシドは、湿分の存在下でのみ殺胞子性に作用する。アルデヒドの作用も同様である。それらは、通常、水溶液として使用されるか、又はホルムアルデヒドの場合には、気体状態で使用される。非常に有効なのは、また、塩素系薬剤である。その際、欠点は、塩素含有の崩壊生成物が菌死滅後に残留することである。過酢酸及び過酸化水素は、強力な酸化剤として、同様に水溶液の形態で使用される。その他に、また、気体状の過酸化水素での滅菌も可能である。両方の物質は、殺細菌性に、殺真菌性に、殺ウイルス性に、かつ殺胞子性に作用する(Russell,A.D.:Bacterial spores and chemical sporocidal agents.Clin.Microbiol.Rev.Vol.3,No.2(1990)99−119)。過酸化水素は、比較的不安定な化合物であり、それは水溶液中でゆっくりと酸素と水素に分解する。それは、変異原/癌原の特性を有さない。一般に、化学的滅菌法の成功は、化学薬剤の濃度と、作用時間と、水分活性とに依存する。
【0004】
ポリメチルメタクリレート−骨セメントの改良は、ポリメチルメタクリレートを基礎とするペースト状のセメントである。該セメントは、同様に、ポリメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレート−コポリマーの他に、X線不透過剤とモノマーとしてのメチルメタクリレートと、場合により他のメタクリレートモノマーを含有する。水は、微量にのみ存在する。メチルメタクリレートの親油性の変質特性と、十分な無水性に基づいて、微生物の栄養生活形は、該セメントペースト中では生存できない。休眠内生胞子は、不活性化することなくメタクリレートモノマー中で長時間生存する能力を有する。従って、休眠内生胞子を含む全ての微生物生活形の確実な死滅/不活性化をセメントペースト中で達成する必要がある。セメントペーストは、含まれるメタクリレートモノマーに基づいて、熱的作用及び蒸気作用並びにガンマ線照射及びX線照射によって滅菌できない。それというのも、これらの滅菌法は、モノマーのラジカル重合を引き起こすか、又は蒸気滅菌の場合には加水分解が引き起こされるからである。同様に、エチレンオキシドの使用もできない。エチレンオキシドは、閉じた拡散防止フィルムバッグ中に侵入できない。滅菌は、セメントペーストの高い粘度と、セメントペースト中に含まれる不透過剤粒子及び充填剤粒子に基づいて、実施することができない。代わりに、なおも、無菌的製造は可能である。しかしながら、これは極めて費用集中的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Charnley,J.:Anchorage of the femoral head prosthesis of the shaft of the femur.J.Bone Joint Surg.42(1960)28−30
【非特許文献2】Borick,P.M.:Chemical sterilizers.Adv.Appl.Microbiol.10(1968)291−312
【非特許文献3】Gould,G.W.:Recent advances in the understanding of resistance and dormacy in bacterial spores.J.Appl.Bacteriol.42(1977)297−309
【非特許文献4】Gould,G.W.:Mechanisms of resistance and dormancy.p.173−209.In Hurst,A.and Gould,G.W.(ed.),The bacterial spore.vol.2 Academic Press,Inc.New York,1983
【非特許文献5】Russell,A.D.:Bacterial spores and chemical sporocidal agents.Clin.Microbiol.Rev.Vol.3,No.2(1990)99−119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、モノマーもしくはモノマー溶液を、少なくとも一時的な殺胞子性の特性を有し、かつそれによって該モノマーもしくはモノマー溶液が自己滅菌性であり、そのため特に滅菌セメントペーストを製造できるように変質するための廉価で容易な方法を見出すことにあった。更に重要なことは、こうして変質されたモノマーもしくはモノマー混合物が十分に安定性であり、かつ問題なく慣用のラジカル開始剤系を用いて重合できることである。
【0007】
本発明は、少量の過酸化水素水溶液とメチルメタクリレートもしくは他のメタクリレートモノマーとを均質に混合でき、かつこの溶液が数日間にわたり殺胞子特性を示すという驚くべき知見に基づくものである。同様に、気体状の過酸化水素を、メチルメタクリレートもしくは他のメタクリレートモノマー中に均質に溶解させることが可能である。メチルメタクリレート中に可溶性の安定剤の添加によって、メチルメタクリレートは安定性を保つ。該安定剤は、その際、過酸化水素に対して過剰に使用される。その際に、内生胞子の不活性化が、安定剤の存在にもかかわらず起こることは驚くべきことであった。安定剤は、最終的に過酸化水素を消費しつつ酸化される。副生成物としては、酸化された安定剤の他に、無毒の水のみが微量に生ずるにすぎない。この自己滅菌性のモノマー/モノマー混合物の主な利点は、それを用いて製造されたセメントペーストが、製造直後に、複数日の期間にわたって殺胞子作用を有することにある。それによって、該セメントペーストは好適な拡散防止型の複合フィルムバッグ中に封印することができる。封印されたセメントペーストは、複合フィルムバッグの内側に付着した微生物を酸化によって不可逆的に不活性化する。つまり、セメントペーストと、チューブバッグの内部とは、本発明によるモノマー/モノマー混合物の作用によって滅菌される。詳細な試験において、内生胞子の6対数段階だけの減少が確実に達成されることが立証された。更に驚くべきことに、本発明によるモノマー混合物は、また、50ppmという極めて低い過酸化水素濃度でも、殺胞子作用を示したことであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記課題は、以下の成分
A メタクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーの混合物、
B1 過酸化水素、及び/又は
B2 過酸化水素を遊離する物質又は過酸化水素を遊離する物質混合物、及び
C 少なくとも1種のラジカル安定剤
を含有する殺胞子性の組成物であって、成分B1と、成分B2から遊離された過酸化水素と、成分Cとが、成分A中に均質に溶解されており、かつCと(B1+B2)との物質量比が、1対1[モル/モル]より大きい、又はそれと同じである、殺胞子性の組成物によって解決される。
【0009】
更なる好ましい実施態様は、以下のものである:
前記の過酸化水素を遊離する物質が、以下の
・ 過酸化水素−尿素−付加物、及び
・ 炭酸ナトリウム−過酸化水素−付加物
からなる群B21から選択され、かつ
前記の過酸化水素を遊離する物質混合物が、以下の
・ 炭酸ナトリウム−過酸化水素−付加物/2−エチルヘキサン酸、
・ 過酸化カルシウム/2−エチルヘキサン酸、及び
・ 過酸化マグネシウム/2−エチルヘキサン酸
からなる群B22から選択される、前記殺胞子性の組成物。
【0010】
過酸化水素が、前記のモノマー又はモノマー混合物に対して、20ppm〜0.5質量%の量で存在する、前記殺胞子性の組成物。
【0011】
前記の量が、20ppm〜0.01質量%である、前記殺胞子性の組成物。
【0012】
安定剤Cが、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、アルキルガレート、パルミトイルアスコルビン酸及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールからなる群に属する、前記殺胞子性の組成物。
【0013】
以下の成分
A1 低分子の液状メタクリレート、
A2 直鎖状もしくは分枝鎖状のポリメチルメタクリレート又は直鎖状もしくは分枝鎖状のメチルメタクリレート−コポリマー、
A3 架橋されたポリメチルメタクリレート又は架橋されたメチルメタクリレート−コポリマー、
B1 過酸化水素、及び/又は
B2 過酸化水素を遊離する物質又は過酸化水素を遊離する物質混合物、
C 少なくとも1種のラジカル安定剤、及び
D 少なくとも1種のラジカル開始剤系の成分
を含有する、前記殺胞子性の組成物。
【0014】
前記殺胞子性の組成物を、
・ 一成分の骨セメントペースト、
・ 二成分の骨セメントペースト、又は
・ セメント粉末とモノマー液から構成されるポリメチルメタクリレート骨セメントのためのモノマー溶液
の製造のために用いる使用。
【0015】
成分A
メタクリレートモノマーという概念は、一般に、メタクリル酸と、脂肪族の、脂環式の、及び芳香族のアルコールとのエステルを表し、その際、該エステルは、また、ジアルコール、トリアルコール又は別のポリアルコールと形成されていてもよい。前記のモノマーの最も重要な代表は、メチルメタクリレートである。メタクリレートモノマーという概念は、また、メタクリル酸アミドと、1回N置換された又は2回N,N置換されたメタクリル酸アミドを表す。
【0016】
成分B
過酸化水素は、組成物に目的に応じて、30%溶液として添加される。過酸化水素は、現場で、好適な過酸化水素−付加物から遊離させることができる。例えば、アルカリ土類金属過酸化物もしくはアルカリ金属過酸化物から、メタクリレートモノマー中に可溶の酸の作用によって、現場で過酸化水素を遊離させることができる。有機酸としては、2−エチルヘキサン酸及びメタクリル酸の他に、メタクリレートモノマー中に可溶であり、かつそのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が同様にメタクリレートモノマー中に可溶であるあらゆる有機酸が該当する。本発明の範囲では、同様に、過酢酸、過ギ酸、過プロピオン酸、過フタル酸、過安息香酸及び3−クロロ過安息香酸などの過酸化水素の誘導体が添加される。その際、最適な殺胞子作用を得るためには、モノマー/モノマー混合物に微量の水を添加することが好ましい。他の好適な水素放出物質もしくは物質混合物は、当業者に公知である。好ましい係る物質は、過酸化水素−尿素−付加物及び炭酸ナトリウム−過酸化水素−付加物であり、好ましい混合物は、炭酸ナトリウム−過酸化水素−付加物/2−エチルヘキサン酸の組み合わせ、過酸化カルシウム/2−エチルヘキサン酸の組み合わせ並びに過酸化マグネシウム/2−エチルヘキサン酸の組み合わせである。
【0017】
成分C
ラジカル安定剤としては、ポリマー化学においてラジカル安定剤として使用されるあらゆる安定化化合物が該当する。該化合物は、還元剤として作用し、そしてラジカルと反応しうるべきである。該安定剤は、酸素を結合することができねばならない。係る安定剤の好ましい例は、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、パルミトイルアスコルビン酸、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)及びアルキルガレートである。
【0018】
本発明にとって、ラジカル安定剤と過酸化水素に対する物質量比は、1対1以上であることが重要である。それによって、過酸化水素の分解に際して遊離するラジカルを確実に阻むことができ、モノマー/モノマー混合物の自然重合を抑えることが保証される。従って、ラジカル安定剤は、また、過酸化水素の分解に際して遊離する酸素を結合し、モノマー/モノマー混合物中に酸素気泡を形成させえないためには、常に過酸化水素と少なくとも等モルの物質量比で存在することが望ましい。過酸化水素又は遊離された過酸化水素及びラジカル安定剤は、モノマーもしくはモノマー混合物中に均質に溶解されている。
【0019】
モノマー/モノマー混合物中の過酸化水素の濃度は、モノマーもしくはモノマー混合物の質量に対して、好ましくは、20ppm〜0.5%、特に好ましくは、〜0.01%である。
【0020】
本発明の組成物は、好ましくは、一成分の骨セメントペースト、二成分の骨セメントペースト又はセメント粉末とモノマー液とから構成されるポリメチルメタクリレート−骨セメント用のモノマー溶液の製造のために使用される。
【0021】
特に好ましい組成物は、以下の成分
A1 低分子の液状メタクリレート、
A2 直鎖状もしくは分枝鎖状のポリメチルメタクリレート又は直鎖状もしくは分枝鎖状のメチルメタクリレート−コポリマー、
A3 架橋されたポリメチルメタクリレート又は架橋されたメチルメタクリレート−コポリマー、
B1 過酸化水素、及び/又は
B2 過酸化水素を遊離する物質又は過酸化水素を遊離する物質混合物、及び
C 少なくとも1種のラジカル安定剤、
D 少なくとも1種のラジカル開始剤系の成分
を含有する。
【0022】
前記組成物は、付加的に、例えば抗生物質、抗炎症薬、細胞分裂抑制薬、免疫調節薬、ビスホスホネート、ステロイドホルモン、BMP(骨形成タンパク質)などの医薬作用物質及び成長因子を含有してよい殺胞子性のセメントペーストの基礎であってよい。更に、該セメントペースト中に、二酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、有機ヨウ素X線不透過剤、X線不透過剤としてのタンタル及びタングステンを導入してよい。その他に、また、超常磁性ナノ粒子及び強磁性粒子を前記セメントペースト中に懸濁することもできる。前記粒子によって、該セメントペーストは、交番磁界の影響によって加熱することができる。その際、好適な熱分解性の開始剤の崩壊を介して、ラジカル重合と、それによるセメントペーストの硬化が誘導されうる。
【0023】
本発明を以下の実施例によってより詳細に説明するが、それは本発明を制限するものではない。部とパーセントの表示は、特に記載がない限り、上記の発明の詳細な説明と同様に、質量に対するものである。
【実施例】
【0024】
1. 殺胞子性のメチルメタクリレート溶液の製造と試験
それぞれ50.0gのメチルメタクリレート中に、30mgの2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールと、50μl、25μl、10μl及び5μlの30%の過酸化水素溶液を溶解させた。該溶液中に、3×10
6個のバシラス・アトロフェウス(bacillus atropheus)(バシラス・サチリス)の胞子を含有するそれぞれ5個の胞子ストリップ(Stetix社)を入れた。コントロールとして、60.0gのメチルメタクリレートと30mgの2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールの過酸化水素を含有しない溶液を使用した。該溶液を、37℃で3日間インキュベートした。次いで、胞子ストリップを取り出し、室温で乾燥させた。生体の胞子の含有率を測定するために、胞子ストリップから胞子を洗い出し、培養し、引き続き定量化した。
【0025】
【表1】
【0026】
2. 殺胞子性の二成分のセメントペーストの製造と試験
成分A及びBを有する二成分のセメントペーストを製造した。成分A及びBを、それぞれ室温での原料の簡単な混合によって製造した。
【0027】
【表2】
【0028】
成分Aを、10μlもしくは5μlの30%の過酸化水素溶液と混合した。成分Bを、同様に、10μlもしくは5μlの30%の過酸化水素溶液と混合した。該均質なセメントペースト中に、3×10
6個のバシラス・アトロフェウス(バシラス・サチリス)の胞子を含有するそれぞれ5個の胞子ストリップ(Stetix社)を入れた。コントロールとして、過酸化水素を添加していないセメントペーストA及びBを用いた。それを37℃で3日間インキュベートした。次いで、胞子ストリップを取り出し、室温で乾燥させた。生体の胞子の含有率を測定するために、胞子ストリップから胞子を洗い出し、培養し、引き続き定量化した。
【0029】
【表3】
【0030】
以下で、過酸化水素で変質されたペーストA及びBから製造されたセメントの機械的特性を測定した。そのために、過酸化水素で変質されたペーストA及びBを質量比1:1で互いに混合し、引き続き高さ3.2mmを有する長方形の型に入れた。硬化を行った後に、4点−曲げ強さと曲げ弾性率の試験のために、長さ75mm及び幅10mmのストリップを鋸で切断した。ダインスタット曲げ強さと衝撃強さの測定のために、更に、長さ20mm及び幅10mmの試験体を鋸で切断した。4点−曲げと曲げ弾性率の試験は、37℃で水中で試験体を48時間貯蔵した後に、Zwick社のユニバーサル試験機で行った。ダインスタット曲げ強さとダインスタット衝撃強さは、ダインスタット試験機を用いて、23℃で空気中で試験体を24時間貯蔵した後に測定した。
【0031】
【表4】
【0032】
3. 殺胞子性の一成分のセメントペーストの製造
一成分のセメントペーストを、以下に挙げる原料を室温で簡単に混合することによって製造した。帯褐色の粘性のペーストが生じ、それは問題なく成形でき、かつ造形することができた。
【0033】
【表5】
【0034】
該セメントペーストの硬化は、慣用の誘導炉で採用される誘導加熱(制御装置付のコイル、周波数25kHz)を用いて行った。重合は、約60秒後に始まり、安定な成形体をもたらした。
【0035】
4. 殺胞子性の一成分のセメントペーストの製造
一成分のセメントペーストを、以下に挙げる原料を室温で簡単に混合することによって製造した。帯褐色の粘性のペーストが生じ、それは問題なく成形でき、かつ造形することができた。
【0036】
【表6】
【0037】
該セメントペーストの硬化は、慣用の誘導炉で採用される誘導加熱(制御装置付のコイル、周波数25kHz)を用いて行った。重合は、60〜70秒後に始まり、安定な成形体をもたらした。