(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の電気モータのほとんどは、コイルと磁石からなる電磁力を利用したものであった。また、静電力を利用して回転駆動する静電モータも知られている(例えば、特許文献1等)。
【0003】
しかしながら、コイルと磁石からなる電磁力を利用した従来の電気モータでは、真空中ではガスが発生し、真空を破壊してしまうおそれがあった。また、磁性体を使用しているため、高磁場の中では作動することができなかった。
【0004】
従来の静電モータでも、やはり上記と同じように真空中ではガスが発生し、真空を破壊してしまうおそれがあった。また、従来の静電モータでは、絶縁体上に多数の電極対を配置し、その間隔を狭くして電界を高める方法としているが、絶縁破壊、沿面放電、火花放電等のため、高電界を作り出せず十分な駆動力が得られなかった。その結果、実用的な静電モータが実現できなかった。
【0005】
このような問題を解決するため、本出願人は特許文献2において改良した静電モータを提案した。この静電モータの構成を
図11に縦断面図で示す。この静電モータは、真空容器11内に、円盤状の固定子Sと円盤状の回転子Rが対向配置され、固定子Sには、それぞれ電極支持体31、32に取り付けられ互いに絶縁体33により電気的に絶縁されたピン状の第1電極34Aと第2電極34Bが円周方向に交互に配置され、回転子Rには、それぞれ電極支持体41、42に取り付けられ互いに絶縁体43により電気的に絶縁されたピン状の第1電極44Aと第2電極44Bが円周方向に交互に配置され、固定子S側の第1電極34Aと第2電極34Bは回転軸1の中心から所定の距離だけ離間して2列以上の間隔で配置され、回転子R側の第1電極44Aと第2電極44Bは回転軸1の中心から所定の距離だけ離間し、かつ固定子S側の第1電極34A及び第2電極34Bの列間の中間に位置するように配置されて構成されている。この静電モータでは、回転子R側の第1電極44Aと第2電極44Bには、ブラシ51、52;スリップリング53、54;電極支持体41、42を通して給電を行っている。このような構成の静電モータにより、前記した従前の技術の問題点は解消され、真空中において高電界を生じさせて十分な駆動力で回転駆動することができる静電モータを提供することが可能となった。なお、図中2は軸受、7はエンコーダのスリット板、8はエンコーダのセンサー、9は真空シール、10はモータ基体、12は回転体である。
【0006】
しかしながら、前記特許文献2の静電モータによれば従前の技術の問題点は解消したものの、回転子R側の第1電極44Aと第2電極44Bに、ブラシ51、52;スリップリング53、54;電極支持体41、42を通して給電を行っており、そこに流れる電流は固定子S側の第1電極34Aと第2電極34Bに流れるよりもはるかに大きく、またブラシ51と52の位置は軸中心部より離れており、摺動速度が速いため、ブラシ51、52の摩耗が大きく、耐久性の点でさらに改善の余地があった。
【0007】
また、前記特許文献2の静電モータにおいては、回転子R側の第1電極44Aと第2電極44Bは回転軸1に平行に固定配置されていた。このような構造の場合、回転子Rの回転速度の大幅な高速化に対応しようとしたときに、回転子R側の第1電極44Aと第2電極44Bは電極支持体41と42を固定端とする支持梁(片持梁)の構造であるため、強い遠心力を受けて外周方向へ先端部分が変位し、固定子S側の第1電極34Aと第2電極34Bに接近し、回転子R側の電極と固定子S側の電極との間に放電を生ずるおそれがあり、安定した駆動力の発生、高出力化の点でもさらに改善の余地があった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る静電モータを詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の第1実施形態に係る静電モータの縦断面図、
図2は同上実施形態の固定子の平面図、
図3は同上実施形態の回転子の平面図である。
【0017】
本実施形態の静電モータは、真空容器11内に、円盤状の固定子Sと円盤状の回転子Rが対向配置され、固定子Sは真空容器11本体に固定されている。本実施形態の静電モータは、3Pa以下の真空下において作動可能となっている。
【0018】
本実施形態の静電モータでは、固定子S側の各電極支持体61にピン状の第1電極64Aを固定配置する。この第1電極64Aは回転軸1の中心(モータ基体10の中心)から所定の距離だけ離間して1列配置されている。また、固定子S側の他の電極支持体62においても同様にピン状の第2電極64Bが固定配置されている。第1電極64Aと第2電極64Bは、
図2に示すように、交互に位置するように配置されている。第1電極64A、第2電極64Bは、回転軸1と平行に電極支持体61、62に円周方向に等分割で配置され、放射方向に1列固定配置されている。第1電極64Aと第2電極64Bを備えた電極支持体61と電極支持体62は絶縁体63で固定され、モータ基体10(真空容器11本体)に取り付けられている。絶縁体63は十分な絶縁厚さと沿面距離を取り、複数の溝を設けて沿面放電を防止する形状とする。ここで十分な絶縁厚さと沿面距離は、それぞれ絶縁体の絶縁破壊電圧以上の厚さとその数倍以上の沿面距離を必要とする。また、溝の個数、形状、深さ等は静電モータの大きさ、用途等に応じて適宜設定することができる。
【0019】
一方、回転子R側の各電極支持体71にもピン状第1電極74Aを固定配置する。この第1電極74Aは回転軸1の中心から所定の距離だけ離間して2列配置されている。また、回転子R側の他の電極支持体72においても同様にピン状第2電極74Bが固定配置されている。第1電極74Aと第2電極74Bは、
図3に示すように、固定子S側と同様、交互に位置するように配置されている。第1電極74A、第2電極74Bは、回転軸1と平行に電極支持体71、72に円周方向に等分割で配置され、放射方向に2列固定配置されている。第1電極74Aと第2電極74Bを備えた電極支持体71と電極支持体72は絶縁体73で固定され、回転軸1に取り付けられている。絶縁体73も、固定子S側と同様、十分な絶縁厚さと沿面距離を取り、複数の溝を設けて沿面放電を防止する形状とする。なお、溝の個数、形状、深さ等は静電モータの大きさ、用途等に応じて適宜設定することができる。
【0020】
回転子R側の第1電極74A、第2電極74Bは、上記したように固定子S側の第1電極64A、第2電極64Bと同様に回転軸1と平行に支持体61、62に等分割で固定配置されるが、回転軸1の中心からの位置は、回転子Rが回転駆動可能になるように、
図1に示すように、固定子S側の第1電極64A及び第2電極64Bの列を間に挟み込むような位置でなければならない。第1電極64A、第2電極64B、第1電極74A、第2電極74Bの形状はピン状となっているが、その端部は丸みを有していることが電極間の放電を防止するため好ましい。
【0021】
固定子S側の第1電極64A、第2電極64Bへの給電は、外部コネクター81、82から電線83、84を通して行われる。この場合、固定子Sは回転子Rのように回転せず真空容器11本体に固定されているため、より大きな駆動電流を供給することが可能となる。
【0022】
一方、回転子R側の第1電極74A、第2電極74Bへの給電は、外部コネクター91、92からブラシ93、94及びスリップリング95、96、電線97、98を通して行われる。この場合、回転子R側の第1電極74A、第2電極74Bへ流れる電流は固定子S側の電流より少ないため、ブラシ93、94とスリップリング95、96との摩擦は非常に少なくなる。また、
図1に示すように、一方のブラシとスリップリング、本例ではブラシ93とスリップリング95を軸中心部に配置し、もう一方のブラシとスリップリング、本例ではブラシ94とスリップリング96を軸中心部付近に配置すると、ブラシとスリップリングの摺動速度が小さくなり、ブラシの寿命を長くすることができ、耐久性が向上する。併せて、ブラシからの電気ノイズが極めて少ないという効果も得られる。
【0023】
本実施形態では、固定子S側のピン状の第1電極64Aと第2電極64Bは回転軸1の中心から所定の距離だけ離間し、かつ回転子R側のピン状の第1電極74A及び第2電極74Bの列間の中間に位置するように配置されるが、このような配置をとる場合、通常、
図4に示すような配置となる。
図4には、固定子S側の第1電極64Aと回転子R側の第1電極74Aの配置が例示されているが、固定子S側の第2電極64Bと回転子R側の第2電極74Bの配置についても全く同様である。
図4の配置形態では、固定子S側の第1電極64Aと回転子R側の第1電極74Aはそれぞれ電極支持体61と電極支持体71を固定端とする構造となっている。このような配置形態で、回転子Rの回転速度の大幅な高速化に対応しようとしたときには、回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bは電極支持体71と72を固定端とする支持梁(片持梁)の構造となっているため、強い遠心力を受けて外周方向へ先端74A’が変位し、回転子R側の第1電極74Aが固定子S側の第1電極64Aに接近し、回転子R側の電極と固定子S側の電極との間に放電を生じてしまい、安定した駆動力の発生を妨げるおそれがある。そのため、本実施形態では、回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bを、その断面形状が中空状となる構造としている。
【0024】
ここで、中実のピン状(棒状)電極と中空のピン状(棒状)電極の遠心力による変位について検討してみる。
図5に、回転子R側の断面形状が中空状のピン状(棒状)第1電極74Aが電極支持体71に片持梁の状態で取り付けられている様子を模式的に示す。棒状の電極において、等分布荷重を受ける片持梁の先端のたわみ量δは次式で表される。
【0026】
(ただし、E:ヤング率、Q:単位長さ当たりの荷重、I:断面二次モーメント、L:長さ)
ここで遠心力
【0028】
(ただし、m:質量、R
0:回転軸心からの距離、ω:角速度)
が作用すると、棒状の電極のたわみ量δは次のようになる。
中実丸棒の場合:
【0030】
(ただし、ρ:密度、D:中実丸棒、中空丸棒の外径、d:中空丸棒の内径)
上記式(3)と(4)から、中実丸棒と中空丸棒の電極の長さLと外径Dを同一寸法とすると中空丸棒(パイプ)の方が先端たわみ量δが少ないことがわかる。そこで、本実施形態では、回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bを、その断面形状が中空状となる構造としている。
【0031】
回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bを上記のように構成にすると、回転子Rの高速回転時においても、固定子S側の1列のピン状の第1電極64Aと第2電極64Bは、回転子R側の2列のピン状の第1電極74Aと第2電極734Bのほぼ中間点に位置し、高電圧を加えても放電することが無くなり、安定した駆動力での高出力化が可能となる。
【0032】
次に、回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bの構造のより好ましい例を述べる。この例では、回転子R側のピン状の第1電極74Aと第2電極74Bの構造を上記のような中空構造にするとともに、
図6、
図7に示すように、それらの先端部分が回転軸1に対してその中心軸方向に傾けた構造とする。
【0033】
図6Aの例では、回転子R側の電極支持体71の電極支持部に回転軸1の軸心方向に対して傾けた穴を明け、電極先端74A’が内側に向くように圧入固定している。
【0034】
図6Bの例では、電極支持体72の電極支持部の穴は軸心と平行に明け電極先端74’がわずかに内側に位置するよう電極構造としている。
【0035】
図6A、
図6Bの例の回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bは静止状態では図中点線で示す位置となっているが、回転速度が上がるにしたがって遠心力により外側に変位しはじめ、最高回転数に達したときに固定子S側の電極64Aの中間位置か、またはわずかに外側に位置しているのが望ましい(実線で示す)。つまり中空丸棒の電極の場合は上記式(4)の変位量の計算により、穴の傾け量、または電極の曲げ量が決められる。
【0036】
上記のような構成とすると、高速回転時に、固定子Sの第1電極64Aと第2電極64Bが回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bのほぼ中間点により精度良く位置するようになり、遠心力によるたわみの補整が行われ、さらに安定した駆動力での高出力化が可能となる。
【0037】
図7の例では回転子R側の電極支持体71の電極支持部の穴は軸心と平行に空け、電極先端74A’から固定端に向って外周部74A−Bに傾斜をつけ、内周部74A−Cは軸心と平行とする構造として圧入固定する。そこで回転子R側の第1電極74Aは静止状態では図中点線で示す位置となっているが、回転速度が上がるにしたがって、遠心力によって外側に変位しはじめ、最高回転数に達したときに電極74の外周部74A−Bは軸心と平行になるような傾斜をつける(実線で示す)。
【0038】
エンコーダは、光学式の場合(スリット板7とセンサー8)、磁気式の場合(磁気円盤とセンサー)から構成することができ、ここでは前者を採用しているが、回転子R側の第1電極74A、第2電極74Bの通電タイミングをセンサー8で検出し、ドライブ回路(図示せず)で信号処理し、高電圧(1〜100kV程度)を出力して固定子S側の第1電極64A、第2電極64Bに供給する。
【0039】
真空シール9は、静電モータを空気中あるいはガス中で使用する時にモータ基体10に取り付けて、静電モータの内部の真空を維持するためのものである。なお、図中2は軸受、12は回転体である。
【0040】
本発明は、真空中で作動する静電モータとしているが、たとえばSF6ガス等の絶縁ガス中であっても静電モータとして機能することは言うまでもない。
【0041】
また、上記では、固定子S側の第1電極64A、第2電極64Bを1列、回転子R側の第1電極74A、第2電極74Bを2列としたが、これらの列数はこれに限定されず、それ以上の列数に設定することができる。
【0042】
また、本実施形態において、真空容器11内の第1電極64A、第2電極64B、電極支持体61、62、第1電極74A、第2電極74B、電極支持体71、72等の金属製構成部材に残留ガスの発生の少ないステンレス鋼を用いるとともに、絶縁物構成部材に同じく在留ガスの発生の少ない磁器やガラス等の無機質絶縁体を用いると、クリーンな真空の中での使用が確保される。また、真空容器11内の構成部材にチタン、バナジウム、タンタル、ジルコニウム等のガス吸着材(ゲッタ材)を蒸着することも有効である。
【0043】
さらに、本実施形態において、真空容器11内の金属製構成部材に非磁性体を用いると、非磁性モータとすることが可能となり、高磁場の中での使用が可能となる。また、金属製構成部材に重い磁性材料を使用しないため、軽量化にも寄与できる。
【0044】
上記のように構成された本実施形態の静電モータの作動原理を説明すると、
図8の(B)に示すように、回転子R側の電極支持体71と72の間に高電圧(1〜100kV程度)を加えると第1電極74Aと第2電極74Bの間に高電界(1〜100kV/mm程度)が形成される。
【0045】
一方、固定子S側の第1電極64A、第2電極64Bが回転子R側の第1電極74A、第2電極74Bの列間の中央に位置するように円周方向に自由に移動するように構成されている。電極支持体62にプラスの高電圧(1〜100kV程度)を加えると第1電極64Bは正に、第2電極64Aは負に帯電する。帯電のタイミングは、たとえば固定子S側の第2電極64Bに対して回転子R側の電極74Bがどの位置にあるかにより推力(回転力)の方向が決定され、電圧の大きさと時間が推力(回転力)の大きさに影響を与える。
【0046】
例えば、固定子S側の第2電極64Bの位置よりわずかに右側に回転子R側の第2電極74Bが来た時(
図9においてT0からT1になったタイミング)固定子S側の第2電極64Bにプラスの電位を与えると第2電極64Bと第2電極74Bには斥力が働き、第1電極64Aと第2電極74Bには吸引力が働く。その結果、第1電極74A、第2電極74Bに結合された回転子Rは右方向に駆動力を受け移動する。
【0047】
第2電極74Bは、第1電極64Aの直前(T2のタイミング)で電圧が切り替わり、エンコーダのセンサー8の信号により第2電極74Bの位置タイミングを検出するたびに
その動作を繰り返す。
【0048】
次に、本発明による第2実施形態に係る静電モータについて述べる。
【0049】
図10は第2実施形態の静電モータの縦断面図である。
図10において第1実施形態で用いた図面と同様な要素には同じ符号を付して重複説明は避ける。
【0050】
第2実施形態では、固定子S側の第1電極64A、64Bへの給電は第1実施形態と同様に行われる。一方、回転子R側の第1電極74Aは、電極支持体71から電線97でスリップリング95に接続され、ブラシ93を介して外部コネクター91に接続される。また、回転子R側の第2電極74Bは、電極支持体72から電線98で回転体12を通してスリップリング99に接続され、ブラシ100を介してモータ基体10に接続される。そして、外部コネクター91とモータ基体10の間に直流電圧が加えられる。
【0051】
このような構成としても、外部から大きな駆動電流を固定子S側に供給することが可能となる。
【0052】
その上、回転子R側に流れる電流は極めて小さいため、軸受2に金属製のベアリングを使用すれば、スリップリング99とブラシ100は必ずしも必要としない。
【0053】
また、第2実施形態においても、回転子R側の第1電極74Aと第2電極74Bの構造を第1実施形態と同様な構造とし、上記と同様の効果を得ることができるようにする。
【0054】
以上、本発明の実施形態について述べてきたが、本発明によれば、特許文献2において提案しているように、電極数を増やして高出力にする構造や、片支持構造の電極の代わりに両側から電極を伸張させた構造や、回転軸中心から放射状に固定子側の電極、回転子側の電極を配列した構造としても、上記実施形態と同様な優れた効果を得ることができる。