(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリプロピレン樹脂フィルム、その一方の表面に形成されたプライマー層、及び、そのプライマー層の前記ポリプロピレン樹脂フィルムとは反対側の表面に備えられた、ポリビニルアルコール樹脂とシリカとを含有する昇華性染料画像受理層を備え、前記ポリプロピレン樹脂フィルムが未延伸フィルムであることを特徴とする転写シート。
前記プライマー層が、水性ポリオレフィン、ポリエチレンイミン、メチルセルロース、エチルセルロース、及びポリビニルブチラールよりなる群から選択される少なくとも一種を含有する層である前記請求項1又は2に記載の転写シート。
前記シリカが無水ケイ酸、非晶質シリカ、又はコロイダルシリカであり、前記ポリビニルアルコール樹脂は完全ケン化度重合体であり、かつその重合度が500〜2600であることを特徴とする前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の転写シート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係る転写シートは、基材であるポリプロピレン樹脂フィルムの表面に形成されたプライマー層、及び、そのプライマー層の表面に備えられた、ポリビニルアルコールとシリカとを含有する昇華性染料画像受理層を備えている。
【0018】
図1に、この発明に係る転写シートの一実施態様を示した。
図1に示すように、転写シート1は、ポリプロピレン樹脂フィルム2と、プライマー層3と、昇華性染料画像受理層4とを備えている。
【0019】
ポリプロピレン樹脂フィルム2は、被転写体の様々な形状に合わせて密着可能なように可撓性を有し、かつ後述の仮画像を形成する昇華性染料が昇華したときに透過可能であり、かつ昇華性染料によって染着されないポリプロピレン樹脂で形成されるフィルムである。
【0020】
この発明におけるポリプロピレン樹脂フィルム2を形成することのできる素材としてプロピレンホモポリマー、プロピレンとこのプロピレンに共重合可能なビニルモノマー例えばエチレン、及び1−ブテン等との共重合体、及び前記プロピレンホモポリマー又はプロピレン共重合体を変性してなる変性ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0021】
この発明では、耐熱性に優れているという点で、プロピレンホモポリマーがポリプロピレン樹脂フィルムを形成するのに好適である。また、ポリプロピレン樹脂フィルムの材料として、未延伸のポリプロピレンフィルムが、熱による収縮が少ないという点で、ニ軸延伸ポリプロピレンフィルムよりも優れている。
【0022】
したがって、この発明においてもっとも好適なポリプロピレン樹脂フィルムは、未延伸プロピレンホモポリマーである。
【0023】
ポリプロピレン樹脂フィルム2の厚みとしては、昇華した昇華性染料がこのポリプロピレン樹脂フィルム2中を円滑に透過することのできる程度であれば良く、25〜50μmであるのが好ましい。ポリプロピレン樹脂フィルム2の厚みが25〜50μmであると、高い画像濃度を得ることができると共に、高い取扱性、例えばポリプロピレン樹脂フィルムを破断させることなく様々な形状を有する被転写体に密着させることができるようになる。
【0024】
前記ポリプロピレン樹脂フィルム2は、ポリプロピレン樹脂をインフレーション法、若しくはTダイ法等の溶融押出し成型法、溶液流延法、又は、カレンダー法等によりフィルム状に成形する方法により、製造することができる。
【0025】
表面処理されていないポリプロピレン樹脂フィルム2は通常疎水性であり、仮画像が形成される昇華性染料画像受理層4は親水性であることが多いので、プライマー層3を設けることにより、ポリプロピレン樹脂フィルム2の表面に昇華性染料画像受理層4を形成することができるようになっている。
【0026】
プライマー層3は、昇華した昇華性染料が透過し易く(昇華性染料透過性)、かつポリプロピレン樹脂フィルム2と昇華性染料画像受理層4とのいずれにも接着性を有し(接着性)、かつ昇華性染料が熱エネルギーにより迅速に移動して残留しない性質(非染着性)を有する限り様々の材料で形成されることができる。
【0027】
上記特性を有するプライマー層3は、水性ポリオレフィン例えば東洋化成工業(株)のハードレンNA-1001、同NA-3002等の水性非塩素化ポリオレフィン、日本製紙ケミカル(株)製のスーパークロンE415等の水性低塩素化ポリオレフィン、ポリエチレンイミン、メチルセルロース、エチルセルロース、及びポリビニルブチラールよりなる群から選択される少なくとも一種の樹脂で形成することができる。この発明に係る転写シートにおけるプライマー層は、排水処理及び環境対応の観点から水性ポリオレフィンで形成するのが好適であり、特に水性塩素化ポリプロピレン樹脂で形成するのが好適である。好適なプライマ−層は、水性ポリプロピレン樹脂を含有する大日本塗料株式会社市販の水性塩素化ポリプロピレン樹脂塗料(製品名:アクアプラニット#50)で好適に形成することができる。
【0028】
プライマー層3の形成方法としては、例えば上記樹脂を含む材料を流体にし、刷毛、ヘラ、ローラー、若しくはコーキングガン等を用いた手動方式、又は、エアスプレー、ノズルスプレー、若しくはロールコーター等を用いた電動方式によって流体となった材料をポリプロピレン樹脂フィルム2の一方の表面に塗布する方法を挙げることができる。
【0029】
なお、
図1に示されるように、ポリプロピレン樹脂フィルム2の一方の表面は、ポリプロピレン樹脂フィルム2の表側面及び裏側面のいずれか一方である。ポリプロピレン樹脂フィルム2におけるプライマー層3が形成される面が表側面であり、後述の被転写体における受像層に密着することになる面が裏側面である。
【0030】
また、プライマー層3の膜厚としては、ポリプロピレン樹脂フィルム2と昇華性染料画像受理層4とを接着することができ、かつ昇華した昇華性染料の透過性を阻害しない程度であるのが好ましく、例えば1〜10μmであると好ましい。
【0031】
昇華性染料画像受理層4は、プライマー層3の表面に形成される層である。この昇華性染料画像受理層4は、昇華性染料を受容することができ、全天候下での温度において昇華性染料画像受理層4内に受容した昇華染料を拡散移動させない層であり、昇華性染料例えば昇華性染料を含有する昇華性インキに対して速乾性を有し、昇華した昇華性染料によって染着されない層が好ましい。昇華性染料画像受理層4の材料としては、例えばポリビニルアルコール樹脂とシリカとの組合せを挙げることができる。
【0032】
ポリビニルアルコール樹脂はバインダとして昇華性染料画像受理層に含まれる。ポリビニルアルコール樹脂の重合度としては、耐チョーキング性を向上させるという観点から、500〜2600程度が好ましい。また、ポリビニルアルコール樹脂は部分ケン化されているよりも完全ケン化されている方が、昇華性染料による染着を防止することができる。更に、シリカは充填剤として添加されているが、充填機能の他に、シリカはプライマー層3に対する昇華性染料画像受理層4の密着性を向上させる機能、及び昇華性染料を含有する昇華性インキを使用する場合には昇華性インキの乾燥性を促進する機能をよく発揮することができる。具体的には、シリカとしては、無水ケイ酸、非晶質シリカ、及びコロイダルシリカ等を挙げることができ、ポリビニルアルコール樹脂としては、日本合成化学工業(株)製のゴーセノールNタイプ、及びクラレ(株)製のPVA100番型等を好適例として挙げることができる。
【0033】
好ましい昇華性染料画像受理層4として、ポリビニルアルコール樹脂とシリカとの含有割合(ポリビニルアルコール樹脂/シリカ)が重量比で1/1.5〜1/5であり、シリカの吸油度が180〜350mL/100g、膜厚が5〜50μmである態様を挙げることができる。昇華性染料画像受理層4がこの数値範囲を満たしていると、昇華性染料に対して高い速乾性を発揮することができ、精密な仮画像を昇華性染料画像受理層4に形成可能となる。
【0034】
昇華性染料画像受理層4の形成方法としては、例えばポリビニルアルコール樹脂とシリカとを含む塗工液を、ブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーター、グラビアコーター、サイズプレス、エアスプレー、及び静電スプレー等によりプライマー層3の表面に塗工し、固化させる方法を挙げることができる。
【0035】
前記ポリプロピレン樹脂フィルム2、前記プライマー層3、及び前記昇華性染料画像受理層4を備える転写シート1は、可撓性を有している。被転写体とこの転写体における平坦な表面に重ねた転写シート1とを取り巻く雰囲気を減圧にし、好ましくは高真空と称されるほどの高度の減圧にすると、減圧にする前に被転写体の平坦な表面と転写シートのプロピレン樹脂フィルムとの間に介在する空気が、減圧にすることにより被転写体の平坦な表面と転写シート2のプロピレン樹脂フィルムとの間から外部に追い出され、また、被転写体と転写シートとの間に空気が残留して空気溜まりを生じることがあるにしても減圧雰囲気にしておく時間の経過とともにその空気溜まりとなって存在していた空気が、可撓性のある転写シートを押し上げるようにして被転写体と転写シートとの重ね合わせ部位を移動して外部に排出される。したがって、この発明に係る転写シートは、空気溜りを発生させずに被転写体における平坦な表面に密着することができる。また、ポリプロピレン樹脂フィルム2、及びプライマー層3は、昇華した昇華性インクを透過することができるので、ポリプロピレン樹脂フィルム2の裏側面、すなわちポリプロピレン樹脂フィルム2のプライマー層3が設けられていない面を、被転写体の受像面に対して密着させると、この発明に係る画像形成方法により画像を転写することができる。つまり、昇華性染料画像受理層4を被転写体の受像面に直接密着させる必要が無い。
【0036】
なお、この発明に係る転写シートは、ポリプロピレン樹脂フィルムとその一方の表面に形成されたプライマー層とそのプライマー層の前記ポリプロピレン樹脂フィルムとは反対側の表面に形成された昇華性染料画像受理層との三層積層構造を有するが、例えば
図1に示した3層構造である態様だけに制限されず、この発明の目的を達成することができ、更に技術的効果をより一層高めることができるのであれば、4層構造以上の態様を採用することもできる。
【0037】
前記した少なくとも三層の積層構造を有するこの発明に係る転写シートは、各層間の接着力が大きくて三層がそれらの界面で容易に剥離することがない。このような積層構造を有するこの発明の転写シートは、その層間接着力を碁盤目テストで評価することができる。碁盤目テストは、転写シートにおける昇華性染料画像受理層の表面にカッターで1mm間隔で10本の切込線を縦横に形成することにより碁盤目を形成し、この碁盤目の表面に粘着テープ(登録商標:セロテープ)を貼付してからこの粘着テープを剥離し、100個の碁盤目のうち剥離しなかった碁盤目の数を以って密着性を評価する。
【0038】
この発明に係る転写シートには、ポリプロピレン樹脂フィルムのプライマー層とは反対側の表面から、昇華性染料受理層の前記プライマー層とは反対側の表面へと貫通する多数の貫通孔を有する態様、及び、そのような貫通孔を有していない態様がある。
【0039】
微細貫通孔を有する転写シートの一例を
図3に示す。
【0040】
図3に示されるように、転写シート101は、
図1に示した転写シート1と同様に、ポリプロピレン樹脂フィルム201、プライマー層301、及び昇華性染料画像受理層401を備えている。更に、転写シート101におけるポリプロピレン樹脂フィルム201には、微細貫通孔10が形成されている。微細貫通孔10は、必ずしも等間隔に形成される必要は無く、また全ての孔径が同一である必要も無い。
【0041】
転写シートに設けられる微細貫通孔の好ましい態様としては、例えば孔径が10〜200μmであり、孔あけ密度が15〜100個/cm
2である態様を挙げることができる。孔径及び孔あけ密度が上記範囲内であると、被転写体の凹凸面に対して、転写シートがより一層高い密着性を有するようになると共に、この発明に係る画像形成方法によって得られる画像の品質が向上するので好ましい。
【0042】
つまり、微細貫通孔を有する転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムが被転写体における凹凸のある表面に接するように、被転写体と転写シートとを重ね合わせ、転写シートの存在する空間を減圧にすると、あるいは、減圧にしないで転写シートから被転写体に向かう方向に加圧すると、被転写体の凹部と転写シートとで囲まれた閉鎖空間内の空気が前記微細貫通孔から前記閉鎖空間外へと脱気され、その結果として被転写体の凹凸表面に転写シートが密着した状態で接することができる。
被転写体における凹凸表面に転写シートが密着した状態で昇華性染料による画像転写が行われると色抜けなどのない昇華性染料の画像が受像層に形成されることができる。また、微細貫通孔を有する転写シートを、そのポリプロピレン樹脂フィルムを平坦な被転写体の表面に被せ、転写シートの存在する空間を減圧にすると、被転写体と転写シートとの間に気泡が介在していてもその気泡が前記微細貫通孔から外部へと脱気され、その結果として被転写体の平坦な表面に転写シートが密着した状態で接することができる。
【0043】
前記微細貫通孔の形成方法としては、例えばHe−Neレーザー、アルゴンレーザー、炭酸ガスレーザー、Nd−YAGレーザー、又はエキシマレーザー等のレーザーを転写シートの表面に照射する方法、及び、前記孔径の穴を開口するのに必要な直径を有する針又はピンを基台上に多数植設してなるいわゆる剣山を使用する方法、及び、一本又は複数の針をポリプロピレン樹脂フィルムに刺す方法等を挙げることができる。前記各種のレーザーの中でも炭酸ガスレーザーは、操作性が良好であり、ポリプロピレン樹脂フィルムに孔あけを容易に行うことができるので、好ましい。
【0044】
また、微細貫通孔の形成は、転写シートに穴開けをするにとどまらず、転写シートの積層構造を形成する以前に、ポリプロピレン樹脂フィルムに前記孔径よりも大きめの孔径の貫通孔を形成し、次いでその穴開きポリプロピレン樹脂フィルムの表面にプライマーを塗布することによりプライマー層を形成し、次いでそのプライマー層の表面に、昇華性染料画像受理層を形成するための組成物を塗工することにより、昇華性染料画像受理層を形成するようにしてもよい。
【0045】
ここで、画像が転写される被転写体について説明する。
【0046】
被転写体は、基材と、その表面に形成される受像層とを有する。
【0047】
基材としては、その表面が平面又は曲面である部材であれば特に制限はされない。この発明において、円柱形の周側面、円錐形の円錐曲面、及び円錐台形の周側面等は曲面であり、立方体や直方体の各面は平面である。この発明において、平面及び曲面は平坦な表面の例である。また、基材は、その表面の全部又は一部に凹部及び凸部を有する凹凸面が形成されていても良い。この発明において、浮き彫り模様の形成された面、刻印のある面は凹凸面(凹凸表面とも称される。)の例である。
【0048】
基材の材料としては、画像を転写するときに行う加熱によって不可逆的な変質を生じない材料であれば特に制限は無く、例えば金属、プラスチック、木材、ガラス、及びセラミックス等を挙げることができる。
【0049】
この発明に係る転写シートを用いて画像が転写される対象となる前記基材を具体的な物としてみると、この基材として、電気・電子部品、化粧品の分野で使用される各種の容器、美術品の分野で使用される額縁等の物品等、並びに各種の機械、器具、装置等を挙げることができる。
【0050】
受像層は、昇華した昇華性染料を受容してこれを固定することによって、昇華性染料による画像を保持する層である。
【0051】
受像層の材料としては、例えば樹脂単体、又は樹脂と充填剤との混合物を採用することができる。受像層の材料に用いられる樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、及びポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂、並びに、ポリエステル−メラミン、アクリル−メラミン、アクリル−イソシアネート、及び、エポキシ−ポリアミド等の熱硬化性樹脂及びUV硬化型樹脂等を挙げることができる。
【0052】
充填剤としては、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0053】
基材が前記受像層を形成する材質と同じ材質で形成されるならば、基材の表面が受像層を形成することになる。したがって、この発明における被転写体は、基材の材質によっては基材の表面そのものが受像層であることもあり、また、基材と、その表面に新たに形成された受像層とを有する構造を備えることもある。
【0054】
基材の表面に受像層を新たに形成する方法としては、上記プライマー層3及び昇華性染料画像受理層4の形成方法と同様の方法を採用することができる。受像層の厚みとしては、充分な画像濃度を確保することができるように、15〜50μm程度であれば良い。また、基材の表面そのものが受像層である場合のその受像層は、基材の表面から内部に向かって0〜50μm程度、好ましくは15〜50μm程度の厚み部分が受像層の機能を好適に発揮する。
【0055】
なお、この発明に係る画像形成方法により転写シートから画像が転写される被転写体は、材質によって基材の表面から一定の深さを受像層とする基材そのものと、基材とその表面に改めて形成された受像層とからなる構造とに、限定はされない。
【0056】
例えば、転写される画像のコントラストを向上させるには基材と受像層との間に、適宜の白色層を設けておくことができ、画像の転写後に、画像の耐候性を向上させるには受像層表面にクリヤー層を設けておくこともできる。クリヤー層を形成することのできる材料としては、昇華性染料に染着されない材料が望ましく、例えばポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、及びアクリルウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0057】
続いて、この発明に係る画像形成方法について説明をする。
【0058】
この発明に係る画像形成方法は、転写シートにおける前記昇華性染料画像受理層に、昇華性染料による仮画像を形成する工程と、
平坦な表面を有する基材の表面に受像層を有する被転写体のその受像層面と、前記転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの、プライマ−層とは反対側の表面とを密着させる工程と、
被転写体の受像層面に密着させたポリプロピレン樹脂フィルムを備える転写シートを加熱する工程とを有する。
【0059】
昇華性染料画像受理層に昇華性染料で仮画像を形成する工程は、例えば従来公知のインクジェットプリンタ等の画像形成手段により、昇華性染料で転写シートの昇華性染料画像受理層に画像を形成する。
【0060】
昇華性染料画像受理層に形成された画像は、後の工程によって受像層に移行する。したがって、昇華性染料画像受理層は一定時間の間、昇華性染料による画像を保持している機能を発揮する。よって、この昇華性染料画像受理層に形成された画像は、受像層に移送されるにあたっての仮の画像であるから、この発明においては仮画像と称している。
【0061】
この転写シートは、微細貫通孔を有していても、有していなくても、いずれであっても昇華性染料画像受理層に仮画像が形成される。
【0062】
ここで、昇華性染料は、加熱によって昇華する従来公知の昇華性染料であれば良い。昇華性染料そのものだけを用いることもできるが、昇華性染料を含有する昇華性インキ、昇華性染料を含有する昇華性トナーといった形態で使用されることができる。昇華性インキは水性インキ及び溶剤系インキのいずれであっても良い。昇華性染料の種類、濃度、及び量等については、転写シートの昇華性染料画像受理層、プライマー層、及びポリプロピレン樹脂フィルム、並びに、被転写体の受像層に含まれる化合物、及び染着性、並びに、加熱温度等に応じて決定することができる。
【0063】
昇華性染料画像受理層に仮画像を形成する工程は、被転写体の受像層面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面とを密着させる工程の前に、実行されてもよく、また、被転写体の受像層面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面とを密着させる工程の後に、実行されてもよい。
【0064】
基材である被転写体の平坦な表面である受像層面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面すなわちプライマ−層とは反対側の表面とを密着させる工程は、被転写体とこの被転写体に重ねた転写シートとを減圧下に置く方法、又は被転写体と転写シートとを相互に押圧し合うように加圧する方法により達成される。
【0065】
被転写体とこれに重ねた転写シートとを減圧下に置く方法においては、被転写体と転写シートとの間に空気が存在しているならばその空気を追い出すことのできる程度に減圧可能な減圧装置を用いることができる。なお、減圧の程度は、被転写体とこれに重ねた転写シートとの間に空気溜りが生じない限り制限されないが、空気溜りをより一層確実に防止するには真空減圧が好ましい。また、受像層の表側面つまり平坦な表面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面との間に空気溜まりが生じた場合にこの空気溜まり中の空気を除去して受像層の表側面とポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面との密着性をより一層確実にするには、前記転写シートに、後述するのと同様の微細貫通孔を形成しておいても良い。
【0066】
また、被転写体と転写シートとを相互に押圧し合う方向にプレスする方法においては、被転写体が破損せず、かつ転写シートにおける昇華性染料画像受理層に形成された仮画像が不鮮明に成らない圧力を実現することのできる適宜のプレス装置を用いることができる。
【0067】
被転写体と転写シートとが密着している概略図を、
図2に示す。
図2において転写シートに付した番号は、
図1に示す番号と同様である。転写シート1におけるポリプロピレン樹脂フィルム2の一方の表面5には、
図1にも示したようにプライマー層3が形成され、更にプライマー層3の表面には昇華性染料画像受理層4が形成されている。なお、
図2には図示していないが、昇華性染料画像受理層4には仮画像が形成されている。ポリプロピレン樹脂フィルム2の裏側面6には被転写体7における受像層8が密着している。また、受像層8は基材9の表面に形成されている。
【0068】
被転写体における受像層の表側面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面とを密着させる工程の後に、昇華性染料画像受理層に例えば昇華性インキで仮画像を形成する工程を実行する場合には、前記と同様にして、例えば従来公知のインクジェットプリンタ等の画像形成手段により、又は凸版印刷法、凹版印刷法又は平版印刷法等の印刷法により昇華性染料で転写シートの昇華性染料画像受理層に画像を形成する。
【0069】
昇華性染料画像受理層に仮画像を形成する工程を、被転写体の受像層面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面とを密着させる工程の前に、実行する態様、及び、被転写体の受像層面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面とを密着させる工程の後に、昇華性染料画像受理層に仮画像を形成する工程を実行する態様のいずれにおいても、次の加熱工程によって、昇華性染料画像受理層に形成された仮画像が受像層に移行する。
【0070】
従来公知の熱転写を利用した転写方法では、仮画像が形成された昇華性染料画像受理層の表側面と被転写体における受像層の表側面とを密着させて加熱しているが、この発明に係る転写シートを用いたこの発明に係る画像形成方法では、転写シートの裏面、つまりポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面と被転写体の受像層の表側面とを密着させて、少なくとも転写シートを加熱する。
【0071】
なお、
図2においては、転写シート1と被転写体7との幅が同一であるように示されているが、この発明に係る転写シート及びこの発明に係る画像形成方法においては大きさが相違していても良い。たとえば、被転写体7における受像層面に転写シート1を重ねたときに、転写シート1が被転写体7の受像層面の一部を被覆するように転写シート1の平面面積と被転写体7の受像層面の面積とが相違していても良い。
【0072】
被転写体の受像層面に密着させたポリプロピレン樹脂フィルムを備える転写シートを加熱する工程は、例えば適宜の加熱装置、例えばオーブン、乾燥炉、又は赤外線ランプ、加熱ローラ、加熱板等を用いることによって達成される。要するに、加熱装置は、昇華性染料画像受理層に形成されている昇華性染料がポリプロピレン樹脂フィルムを通過して受像層に到るように昇華性染料に熱エネルギーを与えることのできる装置であればよい。また、加熱装置は、被転写体及び転写シートの大きさに応じて決定すれば良い。加熱温度としては、被転写体、転写シート、及び昇華性染料に不可逆的な意図しない変質が生じることがなく、昇華性染料が熱エネルギーにより昇華性染料画像受理層、プライマ−層、ポリプロピレン樹脂フィルム内を移動して受像層に移動することができる温度であれば良く、例えば100〜200℃程度であるのが好ましい。
【0073】
なお、転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムは、上記加熱する工程において高温に曝されるので、熱収縮の小さい未延伸フィルムであるのが好ましい。
【0074】
また、受像層の表側面とポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面とを密着させる工程で被転写体と転写シートとを減圧下に置く方法を採用する場合は、減圧する機能と加熱する機能とを有する装置、例えば真空2段転写機、又は真空オーブン等を用いることもできる。
【0075】
受像層の表側面とポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面とを密着させる工程で被転写体と転写シートとをプレスする方法を採用する場合は、被転写体と転写シートとの密着状態を維持することができるように、プレスしている状態で加熱しても良い。密着状態が加熱によっても維持されるのであれば、プレスしている状態を解除して加熱しても良い。
【0076】
基材の表面、換言すると昇華性染料を転写シートから受け入れる表面が平坦面である場合に、この発明に係る転写シートを用いて上記工程を経ることによって、高い画像濃度を確保することができ、基材の前記平坦面と転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの、プライマ−層とは反対側の表面とが直接に密着しているので、プレッシャーマークが発生しない。
【0077】
前記したところの、転写シートを加熱する工程が終了した後に、受像層に密着しているポリオレフィン樹脂フィルムを有する転写シートは、受像層から直ちに剥離してもよく、また、受像層を露出する必要のあるときまで受像層の表側面に転写シートを密着重合した状態にし続けてもよい。受像層の表側面に転写シートを密着重合したままにしておくと、受像層の表側面の保護、及び受像層に形成した画像の保護を達成することができる。
【0078】
基材における受像層の表面、つまり転写シートから移動してくる昇華性染料を受け入れる基材の表面が凹凸面である場合には、微細貫通孔を有する転写シートとを用いる、この発明の画像形成方法が、この発明の目的をよく達成することができる。
【0079】
凹凸面を有する基材のその凹凸面に、この発明の転写シートで昇華性染料の画像を形成する方法は、
(a) 前記(5)に記載された微細貫通孔を有しない転写シート
における昇華性染料画像受理層に昇華性染料で仮画像を形成
する工程と、
前記工程で得られた仮画像を有する転写シートに、前記ポリプロピレン樹脂フィルムの前記プライマー層とは反対側の表面から前記昇華性染料画像受理層の前記仮画像を形成した表面にまで貫通する微細貫通孔を形成する工程と、
凹凸面を有する基材のその凹凸面に形成された受像層と、前記工程により形成された微細貫通孔を有するポリプロピレン樹脂フィルムの、プライマ−層とは反対側の表面とを密着させつつ、転写シートを加熱する工程とを有すること、又は、
(b) 前記(5)に記載された微細貫通孔を有する転写シートにおける昇華性染料画像受理層に昇華性染料で仮画像を形成する工程と、
凹凸面を有する基材のその凹凸面に形成された受像層と、前記工程で得られた転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの、プライマ−層とは反対側の表面とを密着させつつ、転写シートを加熱する工程とを有すること、
を特徴とする。
【0080】
上記(a)において、微細貫通孔を有しない転写シートにおける昇華性染料画像受理層に仮画像を形成することについては、既に説明した通りである。仮画像を昇華性染料画像受理層に有する転写シートに微細貫通孔を形成する方法は、既に説明した「微細貫通孔の形成方法」と同様である。
【0081】
上記(b)において、微細貫通孔を有する転写シートにつき、転写シートに微細貫通孔を形成する方法は、既に説明した通りである。
【0082】
上記(a)及び(b)において、通常の雰囲気下、つまり大気圧下で、基材である被転写体における受像面の表面である凹凸面に、転写シートを、ポリプロピレン樹脂フィルムの、プライマ−層とは反対側の表面と前記凹凸面とが接するように、重ねると、前記ポリプロピレン樹脂フィルムの表面が凹凸面における凸部と接触する一方、前記ポリプロピレン樹脂フィルムの表面は凹凸面における凹部とは接触しない。その結果、ポリプロピレン樹脂フィルムの表面と凹凸面とで空気溜まりが形成されることになる。
【0083】
基材の凹凸面と転写シートのポリプロピレン樹脂フィルムの表面とが重ね合わされてポリプロピレン樹脂フィルムの表面と凹凸面とで空気溜まりが形成されている状態で、転写シートの雰囲気を減圧にすると、前記微細貫通孔から前記空気溜まり中の空気が排出され、転写シート自体が柔軟性及び弾力性を有しているので、減圧にする時間の経過とともに転写シート自体が凹凸面における凹部に入り込み、遂には、転写シートが凹凸面に倣うように変形して転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの、プライマ−層とは反対側の表面と被転写体つまりは基材の凹凸面とが密着した状態が、実現される。
【0084】
なお、微細貫通孔を有していない転写シートを用いて凹凸面のある基材に昇華性染料による画像を鮮明かつ美麗に形成しようとしても、比較例2に示されるように、画像形成が困難である。
【0085】
その理由は、以下のようであると考えられる。既に述べたように、微細貫通孔のない転写シートを、基材の凹凸面に重ねると、転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの表面と被転写体つまりは基材の凹凸面とで空気溜まりが形成される。空気溜まりが形成された状態で転写シート及び被転写体の雰囲気を減圧にしても、基材の凹凸面における凹部が転写シートで蓋をされた状態になっているので、転写シートが基材の凹部の表面、つまり凹面に密着しなくなる。また、空気溜まりが形成された状態で転写シートに、基材に向う加圧力を加えても、空気溜まり内の空気が抵抗となって転写シートが基材の凹部の表面に密着しなくなる。その結果、空気溜まりを有する状態となって重ねられている基材つまり被転写体と転写シートとを加熱しても、転写シート中の仮画像が基材の凹部表面に移動することができなくなり、基材における受像層に転写画像が形成されなくなるのである。
【0086】
エラストマー発泡体を用いるこの発明の画像形成方法によると、平坦な表面を有する基材におけるその平坦な表面に、また、凹凸面を有する基材におけるその凹凸面にも、昇華性染料による画像を形成することができる。
【0087】
転写シートとエラストマー発泡体とを用いるこの発明の画像形成方法は、前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載された転写シートにおける前記昇華性染料画像受理層に、昇華性染料で仮画像を形成する工程と、
基材の表面に受像層を有する被転写体のその受像層面と前記転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムの、プライマ−層とは反対側の表面とを重ねた転写シートにおける昇華性染料画像受理層の、プライマ−層とは反対側の表面にエラストマー発泡体を、転写シート及び被転写体に対してエラストマー発泡体が位置ズレを生じないように固定した状態にして、重ねる工程と、
前記転写シート及びエラストマー発泡体を加熱する工程とを有することを特徴とする。
【0088】
昇華性染料で仮画像を形成する工程は既に述べた通りである。
【0089】
前記エラストマー発泡体は、画像を転写するときの加熱によって意図しない不可逆的な変質を生じることがなく、内部の気泡が加熱によって膨張可能である限り、特に制限されない。エラストマー発泡体を形成することのできるエラストマーとしては、例えばニトリル−ブタジエン樹脂、エチレン系共重合体、スチレン−ブタジエン樹脂、エチレン−オレフィン共重合体、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリアクリロニトリル、並びに、ポリアミド系、シリコーン系、及びフッ素系等のエラストマーを挙げることができる。
【0090】
エラストマー発泡体は、溶融したエラストマーに不活性ガス例えば二酸化炭素、窒素又はこれらの混合ガスを高圧で吹き込み、次いで減圧にすることにより発泡させることにより得ることができ、また前記エラストマーに化学発泡剤を混合して発泡させることにより得ることができる。
【0091】
エラストマー発泡体の形状としては、被転写体に重ねた転写シートの昇華性染料画像受理層の表側面、つまりプライマー層とは反対側の表面に重ね合わせることができる限り特に制限されず、例えばシート状、板状、又は塊状等を挙げることができる。シート状のエラストマー発泡体は、様々な形状の転写シートの昇華性染料画像受理層の表側面に重ね合わせることができる。シート状のエラストマー発泡体のその厚みは、1〜30mm程度が好ましい。板状又は塊状であるエラストマー発泡体は、板状の転写シートに重ね合わせることができる。
【0092】
エラストマー発泡体に含まれている気泡は、連続気泡であっても、また独立気泡であってもよい。独立気泡を有するエラストマー発泡体は、エラストマー発泡体が加熱されると個々の気泡が膨張するので、連続気泡である場合に比べて、エラストマー発泡体により転写シートに対してかかる圧力が大きくなる。よって、独立気泡を有するエラストマー発泡体は、連続気泡を有するエラストマー発泡体よりも、被転写体と転写シートとの密着効率が優れている。
【0093】
エラストマー発泡体は、加熱による変質又は気泡の破断等が生じない限り、繰り返し使用することができる。
【0094】
この発明に係る画像形成方法においては、
図4に示されるように、被転写体701つまり基材901における受像層801にポリプロピレン樹脂フィルム201が接するように被転写体701と転写シート101とが重ね合わされ、昇華性染料画像受理層401におけるプライマー層301とは反対側の表面に、エラストマー発泡体12が重ねあわされる。エラストマー発泡体12は、転写シート101におけるプライマー層301とは反対側の表面全体を被覆するように、転写シート101に重ね合わされる。
【0095】
なお、
図4には図示していないが、昇華性染料画像受理層401には仮画像が形成されている。ポリプロピレン樹脂フィルム201の裏側面601には被転写体701における受像層801の表側面が密着している。また、受像層801は基材901の凹凸面11上に形成されている
また、このエラストマー発泡体は、転写シート及び被転写シートに対してエラストマー発泡体が位置ズレを生じないように固定した状態にして、転写シートに重ねられる。
【0096】
エラストマー発泡体の固定は、転写シート及び被転写シートに対するエラストマー発泡体の位置ズレを生じないようにすることができれば種々の方法を採用することができる。
【0097】
エラストマー発泡体の固定は例えば固定具で行うことができ、その固定具として、例えば耐熱性の粘着テープ、耐熱性の紐等の緊縛部材を挙げることができる。また、固定具として、クランプ及びピンチ等の機械的な締め付け具を採用することもでき、固定具としてエラストマー発泡体に適度の重みを与える加圧板を採用することもできる。
【0098】
エラストマー発泡体がシート状であるときには、エラストマー発泡体の端部にてエラストマー発泡体の固定が行われる。エラストマー発泡体の少なくとも端部にてエラストマー発泡体を固定すると、エラストマー発泡体の内部に存在する気泡が加熱により膨張し、気泡の膨張によって、エラストマー発泡体が被覆する転写シートに対する押圧力を、エラストマー発泡体が発揮する。
被転写体が円筒形をなし、その円筒形の周側面が受像層である場合又は周側面に受像層が形成されている場合には、受像層に巻回された転写シートの外周面にシート状のエラストマー発泡体を巻回し、巻回したエラストマー発泡体の、巻きつけ方向における端部を粘着テープ等の固定具で固定するのが良い。
被転写体が立方体、直方体等の立体における所定の平坦な平面である場合に、平坦面が受像層であり、又は平坦面に受像層が形成されている場合には、その平坦面に転写シートを重ね、更にその転写シートの上にシート状のエラストマー発泡体を重ね、重ねたエラストマー発泡体の端部を粘着テープで被転写体の表面に留めることによりエラストマー発泡体を固定し、あるいはエラストマー発泡体を重ねたその被転写体に、紐、テープ等で幾重にも巻回して縛ることによりエラストマー発泡体を固定しても良い。
円筒体、又は前記立体における所定の平坦な平面に転写シート及びエラストマー発泡体を固定しておくと、加熱時に、エラストマー発泡体中の気泡が膨張することによりエラストマー発泡体による転写シートへの押圧力が発生する。これは、エラストマー発泡体が固定されているから、転写シートの表面に平行な方向へのエラストマー発泡体の膨張が抑制される一方、転写シートの表面に向う膨張が許容されるからと考えられる。
【0099】
また、
図4に示されるように、底面13Aと周側面13Bとを有し、底面に相対する開口部を備えた枠状体13にエラストマー発泡体12を収納してなる加圧板構造体を固定具として使用することもできる。この加圧板構造体では、エラストマー発泡体を加熱すると、エラストマーの内部にある気泡が熱膨張することにより、エラストマー発泡体自体の全方位における膨張が前記底板と周側面とで規制されることにより前記加圧板構造における開口部に膨張方向が集中し、もってエラストマー発泡体の加圧が一方向に集中的に実現し、エラストマー発泡体による転写シートへの加圧が効果的に発揮される。エラストマー発泡体による一方向的加圧を実現するには、前記加圧板構造のみならず加圧板構造における周側面がない単板又は加圧板であってもよい。
加圧板は、
図4に示されるような枠状体ではないが、加圧板自体の重量により、被転写体に対する転写シートの位置ズレを防止するとともに、加熱時におけるエラストマー発泡体中の気泡膨張により発生する押圧力を転写シートに向けることができる。
【0100】
要するに、エラストマー発泡体が固定されていることにより、転写シートが被転写体に対して位置ずれを起こさず、同時にエラストマー発泡体が転写シート及び被転写体に対して位置ずれを起こさず、しかも加熱時に転写シートに対する押圧力が発生する。
【0101】
前記転写シート及びエラストマー発泡体を加熱する工程における加熱は、エラストマー発泡体を使用しない画像形成方法の場合と同様に、オーブン、乾燥炉、赤外線ランプ、加熱ローラ、加熱板等を用いることができる。このとき、転写シートと共にエラストマー発泡体も加熱されることによって、エラストマー発泡体に含まれる気泡が膨張し、エラストマー発泡体から被転写体及び転写シートに対して、被転写体と転写シートとが相互に押圧し合う方向に押圧力が発生する。
【0102】
加熱中に押圧力が発生すると、凹凸面11の形状に沿った受像層801の凹部と、ポリプロピレン樹脂フィルム201との間に空気が存在していても、被転写体701と転写シート101とが相互に押圧し合う応力が作用することによって、転写シート101と受像層801の表面との間に空気が介在するとしてもその空気が転写シート101と受像層801の表面との間から追い出される。したがって、エラストマー発泡体の存在と加熱とによって被転写体701と転写シート101との密着状態が実現され、受像層801とポリプロピレン樹脂フィルム201との間に空気溜りが生じない。
【0103】
このように、このエラストマー発泡体の存在により被転写体701と転写シート101との密着を実現することができるが、ポリプロピレン樹脂フィルム201と受像層801との間の空気をより一層確実に追い出すには、エラストマー発泡体による加圧に加えて真空減圧を行うのも良い。なお、この「真空減圧」と言う用語は「真空と称しても差し支えのない程に高度の減圧」であるとの当業者の常識を意味し、文字通りの「真空」の意味ではない。
【0104】
なお、エラストマー発泡体を使用するこの発明に係る画像形成方法において、基材における表面つまり受像層の表面が平坦面であっても凹凸面であっても、受像層に美麗でプレッシャーマークのない昇華性画像を形成することができる。また、転写シートには微細貫通孔が形成されていなくてもこのエラストマー発泡体を使用することにより転写シートと被転写体との密着状態を実現することができるが、転写シートに微細貫通孔が形成されていても転写シートと被転写体との密着状態を実現することができる。
【実施例】
【0105】
この発明に係る転写シートの一実施態様を用いて、この発明に係る画像形成方法の一実施態様によって画像を転写した。
【0106】
(実施例1)
基材としてA4サイズの0.5mmアルミ平板に、苛性ソーダによる脱脂表面処理を行った。その後、アルミ平板の表側面つまり脱脂表面処理を行った面に、ポリエステル−メラミン樹脂塗料((株)マーキングマジック製)をバーコーターで塗布し、更に乾燥して、厚み25μmの受像層を形成し、これによって基材とその表面に受像層とを有する被転写体を作製した。
【0107】
転写シートにおけるポリプロピレン樹脂フィルムとしてA4サイズで厚み30μmの未延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(フタムラ化学(株)製)の表面に、水性塩素化ポリプロピレン樹脂塗料(大日本塗料(株)製、製品名:アクアプラニット#50)をバーコーターで塗布した後、乾燥して、厚み5μmのプライマー層を形成した。更に、ポリビニルアルコール(ゴーセノールNH18(ケン化度98%)、日本合成化学工業(株)製)と、シリカ粉末(サイリシア350、富士シリシア(株)製)とを、重量比(ポリビニルアルコール/シリカ粉末)=1/2.5の割合で分散して作製した塗料を、プライマー層の表面にバーコーターで塗布し、更に乾燥して、厚み30μmの昇華性染料画像受理層を形成した。これより、転写シートを得た。
【0108】
次いで、昇華性染料を含有する水性分散染料インキ((株)ミマキエンジニアリング製)を使用して、インクジェットプリンタ(JV4−130、(株)ミマキエンジニアリング製)により、昇華性染料画像受理層上に仮画像を描画した。
【0109】
次に、被転写体の上に、ポリプロピレン樹脂フィルムの裏側面が位置するように転写シートを配置したままで、転写機((株)マーキングマジック製)にセットし、減圧にした後、150℃で7分間、加熱転写を行った。その結果、被転写体における受像層には、鮮明な画像が形成されていることが確認された。その際、表面にプレッシャーマークは全く見られなかった。
【0110】
また、画像の品質評価は次のようにして行った。すなわち、画像の解像性を評価するために、前記転写シートにおける昇華性染料画像受理層に、前記水性分散染料インキでインクジェットプリンタにより、20μmの白黒ストライプの仮画像を、形成した。仮画像を有する転写シートを用いて前記と同様にして被転写体における受像層に白黒ストライプの画像を転写した。受像層に形成された白黒ストライプの画像を目視観察したところ、受像層に形成された白黒ストライプにおけるストライプ間隔はほぼ20μmであった。よって、高品質の画像が受像層に形成されたと評価できる。
【0111】
この転写シートは碁盤目テストの結果100/100であり層間密着性が極めて大きく、そのプライマ−層と昇華性染料画像受理層との密着性が、高い。
【0112】
(比較例1)
仮画像を昇華性染料画像受理層に形成してなる転写シートのその昇華性染料画像受理層の表側面と、受像層における表側面とが接触するように転写シートを被転写体に重ね合わせたこと以外は、実施例1と同様にして画像転写を行った。
【0113】
その結果、画像濃度は実施例1と殆ど変わらなかったが、プレッシャーマークが発生していた。
【0114】
(実施例2)
表面に激しい凹凸の柄が施された無色のガラスコップを用意し、その表面をイソプロピルアルコール(IPA)で脱脂した。脱脂した前記ガラスコップの表面に、ポリエステルーメラミン樹脂塗料((株)マーキングマジック製)をスプレー塗布し、乾燥して、30μmの厚みを有する受像層を備えた被転写体を作製した。
【0115】
一方、A4サイズで30μmの厚みを有する未延伸のポリプロピレン樹脂フィルムを用意し、その上に、実施例1におけるのと同様の操作にて5μmの厚みを有するプライマー層を形成した。さらに、前記プライマー層の表面上に、ポリビニルアルコール(PVA、NH18(日本合成化学(株)製))/シリカ粉末(サイリシア350(富士シリシア化学(株)製))=1/2.5の割合で分散して作製した塗料をバーコータで塗布し、乾燥して30μmの厚みを有する昇華性染料画像受理層を備えた転写シートを作製した。
次いで、水性分散染料インキ((株)ミマキエンジニアリング製)を使い、インクジェットプリンター(JV4−130、(株)ミマキエンジニアリング製)を用いて、昇華性染料画像受理層上に仮画像を描画した後、シリコンラバーを下敷きにして、あかがね剣山((株)岡伊工作所製)を使って、転写シートの表面に、孔径が50μmで、孔あけ密度が30個/cm
2で孔あけを行った。次に、被転写体であるガラスコップの周側面に、仮画像面が最上面に配置されるように孔あき転写シートを巻きつけるようにして被せ、孔あき転写シートの端をテープで軽く固定して孔あき転写シートがずれないようにした。さらに、それを真空オーブン(VAC−200、エスペック(株)製)に入れ、150℃、20分間、高真空減圧下での加熱処理をおこなった。その結果、コップ表面に形成されている受像層の全面にわたり、鮮明なる画像が形成されていることが確認できた。無論、表面にプレッシャーマークは全く見られずきれいであった。
【0116】
また、画像の品質評価を前記実施例1におけるのと同様にして行ったところ、白黒ストライプにおけるストライプ間隔はほぼ20μmであり、よって、高品質の画像が受像層に形成されたと評価できる。
【0117】
また、転写シートにおける昇華性染料画像受理層の表面にカッターで1mm間隔で10本の切込線を縦横に形成することにより碁盤目を形成し、この碁盤目の表面に粘着テープ(登録商標:セロテープ)を貼付してからこの粘着テープを剥離するいわゆる碁盤目テストを行ったところ、100個の碁盤目は全く剥離しなかった。よって、この転写シートは、そのプライマ−層と昇華性染料画像受理層との密着性が、高い。
【0118】
(比較例2)
転写シートの表面に孔あけをする工程を省略したこと以外は、実施例2と同じ工程で画像転写を行った。その結果、被転写体で凸部面以外には画像形成がなされていなかった。
【0119】
(実施例3)
実施例2と同一の被転写体を作製した。
【0120】
一方、A4サイズで30μmの厚みを有する未延伸のポリプロピレン樹脂フィルムを用意し、シリコンラバーを下敷きにして、あかがね剣山((株)岡伊工作所製)を使って、未延伸のポリプロピレンフィルムの表面に、孔径が60μmで、孔あけ密度が40個/cm
2で孔あけを行った。
【0121】
その上に、実施例1におけるのと同様の操作にて3μmの厚みを有するプライマー層を形成した。さらに、前記プライマー層の表面上に、ポリビニルアルコール(PVA、NH18(日本合成化学(株)製))/シリカ粉末(サイリシア350(富士シリシア化学(株)製))=1/2.5の割合で分散して作製した塗料をバーコータで塗布し、乾燥して25μmの厚みを有する昇華性染料画像受理層を備えた転写シートを作製した。
【0122】
次いで、実施例2と同様にして、昇華性染料画像受理層上に仮画像を描画した。
【0123】
次に、被転写体であるガラスコップの周側面に、仮画像面が最上面に配置されるように孔あき転写シートを巻きつけるようにして被せ、孔あき転写シートの端をテープで軽く固定して孔あき転写シートがずれないようにした。さらに、それを真空オーブン(VAC−200、エスペック(株)製)に入れ、150℃、20分間、高真空減圧下での加熱処理をおこなった。その結果、コップ表面に形成されている受像層の全面にわたり、鮮明なる画像が形成されていることが確認できた。無論、表面にプレッシャーマークは全く見られずきれいであった。
【0124】
また、画像の品質評価を前記実施例2におけるのと同様にして行ったところ、白黒ストライプにおけるストライプ間隔はほぼ20μmであり、よって、高品質の画像が受像層に形成されたと評価できる。
【0125】
また、転写シートにおける昇華性染料画像受理層の表面にカッターで1mm間隔で10本の切込線を縦横に形成することにより碁盤目を形成し、この碁盤目の表面に粘着テープ(登録商標:セロテープ)を貼付してからこの粘着テープを剥離するいわゆる碁盤目テストを行ったところ、100個の碁盤目は全く剥離しなかった。よって、この転写シートは、そのプライマ−層と昇華性染料画像受理層との密着性が、高い。
【0126】
(実施例4)
実施例2と同一の被転写体を作製した。
【0127】
一方、A4サイズで30μmの厚みを有する未延伸のポリプロピレン樹脂フィルムを用意し、その上に、実施例1におけるのと同様の操作にて5μmの厚みを有するプライマー層を形成した。さらに、前記プライマー層の表面上に、ポリビニルアルコール(PVA、NH18(日本合成化学(株)製))/シリカ粉末(サイリシア350(富士シリシア化学(株)製))=1/2.5の割合で分散して作製した塗料をバーコータで塗布し、乾燥して30μmの厚みを有する昇華性染料画像受理層を備えた転写シートを作製した。次いで、水性分散染料インキ((株)ミマキエンジニアリング製)を使い、インクジェットプリンター(JV4−130、(株)ミマキエンジニアリング製)を用いて、昇華性染料画像受理層上に仮画像を描画した。
【0128】
次に、被転写体の受像層面にポリプロピレン樹脂フィルムが接触するように、前記転写シートを被転写体に1周するように巻き付けて、更に転写シートを被覆するようにして厚みが5mmの独立気泡を含むシリコーン発泡体シート((有)美星ゴム製)を1.5周分巻き付けた。
【0129】
シリコーン発泡体シートの端部をシリコンテープで固定して加熱時にシリコーン発泡体シートが端部方向に膨張しないようにした後、150℃で10分間、乾燥オーブンにより、加熱転写を行った。その結果、ガラスコップの表面には、鮮明な画像がムラ無く形成されていることが確認された。更に、被転写体の表面にプレッシャーマークは一切確認されなかった。
【0130】
また、画像の品質評価を前記実施例1におけるのと同様にして行ったところ、白黒ストライプにおけるストライプ間隔はほぼ20μmであり、よって、高品質の画像が受像層に形成されたと評価できる。
【0131】
この転写シートは碁盤目テストの結果100/100であり層間密着性が極めて大きく、そのプライマ−層と昇華性染料画像受理層との密着性が、高い。
【0132】
(比較例3)
プライマー層を形成しない他は前記実施例3と同様にして二層構造の転写シートを形成したところ、この転写シートの碁盤目テストによると40/100の結果となり、ポリプロピレン樹脂フィルムと昇華性染料画像受理層との接着性が不良で使い物にならなかった。