(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661352
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】クレーン用インバータの制御方法およびクレーン用インバータ
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20150108BHJP
H02P 1/28 20060101ALI20150108BHJP
H02P 1/30 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
H02P7/63 302G
H02P1/28
H02P1/30
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-154051(P2010-154051)
(22)【出願日】2010年7月6日
(65)【公開番号】特開2012-19571(P2012-19571A)
(43)【公開日】2012年1月26日
【審査請求日】2012年11月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503002732
【氏名又は名称】住友重機械搬送システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 洋
【審査官】
宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−344774(JP,A)
【文献】
特開平03−023192(JP,A)
【文献】
特開平05−268795(JP,A)
【文献】
特開平03−070495(JP,A)
【文献】
実開昭59−099699(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に電力供給するインバータの出力電圧と出力周波数とを、出力電圧対出力周波数比特性に従い変化させる制御方法であって、
前記出力電圧対出力周波数比特性は、
前記電動機の起動時周波数より高周波数側に出力電圧の最小値を有し、
前記起動時周波数と出力電圧が前記最小値となる起動直後周波数との間の周波数における出力電圧の最大値が、前記起動時周波数における出力電圧に比べて高い
ことを特徴とするクレーン用インバータの制御方法。
【請求項2】
前記出力電圧対出力周波数比特性は、直線状、曲線状または階段状に変化する
ことを特徴とする請求項1に記載のクレーン用インバータの制御方法。
【請求項3】
電動機に電力供給するインバータであって、
該インバータは、出力電圧と出力周波数とを出力電圧対出力周波数比特性に従い変化させる制御手段を備えており、
前記出力電圧対出力周波数比特性は、
前記電動機の起動時周波数より高周波数側に出力電圧の最小値を有し、
前記起動時周波数と出力電圧が前記最小値となる起動直後周波数との間の周波数における出力電圧の最大値が、前記起動時周波数における出力電圧に比べて高い
ことを特徴とするクレーン用インバータ。
【請求項4】
前記出力電圧対出力周波数比特性は、直線状、曲線状または階段状に変化する
ことを特徴とする請求項3に記載のクレーン用インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン用インバータの制御方法およびクレーン用インバータに関する。さらに詳しくは、特にクレーン駆動用誘導電動機への電力供給に用いられるインバータおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーン等の駆動用誘導電動機の速度制御の一つとして周波数制御がある。これは、インバータ等を用いて電動機の一次周波数を変え、連続的に速度制御を行う方法である。
電動機の磁束φは、電動機内部誘導起電力をE、一次周波数をfとすれば、φ=k・(E/f)で表される。ここで、kは比例定数である。そのため磁束飽和を防止するために、一次周波数fを制御すると同時に電動機内部誘導起電力Eを制御する必要がある。実際には、電動機内部誘導起電力Eを制御することは困難であるため、電動機の端子電圧(インバータの出力電圧)Vを制御している(非特許文献1)。
【0003】
出力電圧Vと出力周波数fの比(V/f比)を一定として周波数制御をすれば(
図5参照)、電動機のトルクをほぼ一定に保つことができる。このV/f制御は、予めインバータに設定しておいた出力電圧対出力周波数比特性(V/f特性)に従い電動機に出力電圧Vと出力周波数fを供給する方法であり、簡便に速度制御を行うことができる。しかし、電動機巻線抵抗により電動機内部誘導起電力Eに電圧低下が生じるので、単にV/f比を一定とすると、電圧低下の影響が顕著となる低周波領域においては電動機のトルクが低下してしまう。そのため、トルク不足を補うために低周波領域でV/f比を上げるトルクブーストが考案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
物を移動させることを目的とするクレーンでは、起動時(低周波領域)、特に巻上時に大きなトルクが必要となる。
しかし、一般的な電動機は低速時に温度上昇が大きくなる性質を有するので、大きなトルクを得るためにV/f比を上げ、高電流を供給し続けると電動機が破損する恐れがある。また、インバータに用いられるIGBT素子は電気量に伴いサイクル寿命が短くなるという性質を有しており、その他のインバータ回路を保護するためにも過電流を防止する必要がある。そのため、一般的には電動機やインバータ回路を保護するための電子サーマル機能がインバータに設けられている。
このように、トルクブーストを行う場合であっても、電動機やインバータが過電流とならないようにV/f比を設定する必要がある。この場合、一定以上の起動トルクが得られず、クレーンの起動時間が長くなり、結果として応答性が悪くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−23192号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】(株)安川電機偏、「インバータドライブ技術」日刊工業新聞者、2009年3月17日発行、p.12〜13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、電動機やインバータが過電流とならず、かつ、大きな起動トルクが得られるクレーン用インバータおよびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のクレーン用インバータの制御方法は、電動機に電力供給するインバータの出力電圧と出力周波数とを、出力電圧対出力周波数比特性に従い変化させる制御方法であって、前記出力電圧対出力周波数比特性は、前記電動機の起動時周波数より高周波数側に出力電圧の最小値を有
し、前記起動時周波数と出力電圧が前記最小値となる起動直後周波数との間の周波数における出力電圧の最大値が、前記起動時周波数における出力電圧に比べて高いことを特徴とする。
第
2発明のクレーン用インバータの制御方法は、第
1発明において、前記出力電圧対出力周波数比特性は、直線状、曲線状または階段状に変化することを特徴とする。
第
3発明のクレーン用インバータは、電動機に電力供給するインバータであって、該インバータは、出力電圧と出力周波数とを出力電圧対出力周波数比特性に従い変化させる制御手段を備えており、前記出力電圧対出力周波数比特性は、前記電動機の起動時周波数より高周波数側に出力電圧の最小値を有
し、前記起動時周波数と出力電圧が前記最小値となる起動直後周波数との間の周波数における出力電圧の最大値が、前記起動時周波数における出力電圧に比べて高いことを特徴とする。
第
4発明のクレーン用インバータは、第
3発明において、前記出力電圧対出力周波数比特性は、直線状、曲線状または階段状に変化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、起動時周波数より高周波数側に出力電圧の最小値を有するから、電動機起動後の電流が小さくなり、電気量を少なくすることができる。そのため、電動機やインバータが過電流となることを防止できる。また、電気量を少なくすることができる分、起動時周波数における出力電圧を高くすることができ、電動機は起動時に大きなトルクを発生することができる。そのため、クレーン等の起動時間が短くなり、応答性が良くなる
。
第
2発明によれば、出力電圧対出力周波数比特性を直線状に変化させれば、電動機のトルク特性を一定の割合で増加させることができ、安定した加速特性が得られる。出力電圧対出力周波数比特性を曲線状に変化させれば、電動機のトルク特性を任意に変化させることができ、用途に適した加速特性が得られる。出力電圧対出力周波数比特性を階段状に変化させれば、出力電圧が一定の時間を設けることにより、電動機のトルク特性に緩衝を持たせることができ、滑らかなトルク特性が得られる。
第
3発明によれば、起動時周波数より高周波数側に出力電圧の最小値を有するから、電動機起動後の電流が小さくなり、電気量を少なくすることができる。そのため、電動機やインバータが過電流となることを防止できる。また、電気量を少なくすることができる分、起動時周波数における出力電圧を高くすることができ、電動機は起動時に大きなトルクを発生することができる。そのため、クレーン等の起動時間が短くなり、応答性が良くなる
。
第
4発明によれば、出力電圧対出力周波数比特性を直線状に変化させれば、電動機のトルク特性を一定の割合で増加させることができ、安定した加速特性が得られる。出力電圧対出力周波数比特性を曲線状に変化させれば、電動機のトルク特性を任意に変化させることができ、用途に適した加速特性が得られる。出力電圧対出力周波数比特性を階段状に変化させれば、出力電圧が一定の時間を設けることにより、電動機のトルク特性に緩衝を持たせることができ、滑らかなトルク特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るV/f特性を示すグラフである。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るV/f特性を示すグラフである。
【
図3】本発明の他の実施形態に係るV/f特性を示すグラフである。
【
図4】(A)は従来技術の試験結果、(B)は本発明の試験結果を示すグラフである。
【
図6】一般的なクレーン用インバータの説明図である。
【
図7】一般的なクレーン用インバータのハードウエア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、一般的なクレーン用インバータについて説明する。
図6に示すように、一般的なクレーン用インバータは商用電源を所定の出力電圧V、出力周波数fに変換し、クレーン駆動用誘導電動機Mに電力供給するものである。
また
図7に示すように、一般的なインバータはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等から構成されるインバータ回路のほかに、マイクロプロセッサ(MPU)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、メモリ、オペレータ、周波数指令入力回路等を備えている。
MPUやASICによりインバータ回路やメモリ、オペレータ、周波数指令入力回路等が制御されている。メモリは出力電圧対出力周波数比特性(V/f特性)等の各種設定値を記憶することができるようになっており、その各種設定値は作業者がオペレータを操作して設定・参照できるようになっている。周波数指令入力回路には外部から周波数指令fが入力される。
ここで、出力電圧対出力周波数比(V/f比)とは、出力電圧と出力周波数の比をいい、出力電圧対出力周波数比特性(V/f特性)とは、周波数可変範囲での出力電圧対出力周波数比の特性をいう。
【0012】
したがって、メモリに記憶されたV/f特性に基づいて、周波数指令入力回路に入力された周波数指令fに対応する出力電圧Vを演算し、インバータ回路を制御することで、所定の出力電圧Vと出力周波数fを有する電力を電動機Mに供給することができる。
例えば、周波数指令fを徐々に上げていくことで、電動機Mの周波数制御を行い、電動機Mを起動・加速することができる。
なお、以上の構成は一般的なインバータを示すものであって、本発明は上記構成のインバータに限定されるものではない。
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るクレーン用インバータのV/f特性は、
図1に示すように設定されている。すなわち、電動機Mの起動時周波数より高周波数側の起動直後周波数における出力電圧が最小となっており、下に凸のV字形に設定されている。換言すれば、起動時周波数における出力電圧に比べて、起動直後周波数における出力電圧の方が低く設定されている。
具体的には、例えば低圧インバータ200V級の場合、起動時周波数3Hzにおける出力電圧は30Vに、起動直後周波数6Hzにおける出力電圧は10Vに、6Hzより高周波数側は傾き約3.5V/Hzに従って出力電圧が上昇するように設定される。なお、インバータ容量によりV/f特性の最適値は異なる。
ここで、起動時周波数とは、電動機Mを起動する際に最初に入力される周波数指令の値をいい、起動直後周波数とは、起動時周波数に比べて数Hz大きい周波数であって、出力電圧が最小値となる周波数をいう。
【0014】
インバータはこのようなV/f特性に設定されているから、起動直後周波数の前後において、インバータ回路内および電動機M内に流れる電流が小さくなり、電動機Mの起動時から起動直後周波数に達する時までの間の電流の積分である電気量を少なくすることができる。そのため、電動機Mやインバータが過電流となることを防止できる。
また、電気量を少なくすることができる分、起動時周波数における出力電圧を高く設定することができるので、V/f比を高くすることができ、電動機Mは起動時に大きなトルクを発生することができる。そのため、クレーンの起動時間が短くなり、応答性が良くなる。
【0015】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るクレーン用インバータのV/f特性は、
図2に示すように設定されている。すなわち、第1実施形態のV/f特性において、起動時周波数と起動直後周波数との間が上に凸のV字形に設定されており、全体としてN字型に設定されている。すなわち、起動時周波数と起動直後周波数との間の出力電圧の最大値が、起動時周波数における出力電圧に比べて高くなるように設定されている。
【0016】
このようなV/f特性に設定しても、起動直後周波数の前後において、インバータ回路内および電動機M内に流れる電流が小さくなり、電動機Mの起動時から起動直後周波数に達する時までの間の電流の積分である電気量を少なくすることができる。そのため、電動機Mやインバータが過電流となることを防止できる。
また、電気量を少なくすることができる分、起動時周波数における出力電圧を高く設定することができるので、V/f比を高くすることができ、電動機Mは起動時に大きなトルクを発生することができる。そのため、クレーンの起動時間が短くなり、応答性が良くなる。
【0017】
(その他の実施形態)
以上の実施形態ではV/f特性が直線状に変化する実施形態としたが、曲線状に滑らかに変化する実施形態としてもよいし、
図3に示すように階段状に変化する実施形態としてもよい。要するに、起動時周波数における出力電圧が高く電動機Mが十分なトルクを発生することができ、かつ、電気量が少なく電動機やインバータが過電流とならないようなV/f特性であればよい。
【0018】
V/f特性を直線状に変化させれば、電動機のトルク特性を一定の割合で増加させることができ、安定した加速特性が得られる。V/f特性を曲線状に変化させれば、電動機のトルク特性を任意に変化させることができ、用途に適した加速特性が得られる。V/f特性を階段状に変化させれば、出力電圧が一定の時間を設けることにより、電動機のトルク特性に緩衝を持たせることができ、滑らかなトルク特性が得られる。
【0019】
なお、本発明に係るインバータおよびその制御方法は、主にクレーンの巻上装置や走行装置の電動機への電力供給に用いられるが、コンベアや台車等の荷役機械や、その他電動機を使用した自走装置全般に利用できる。
これらの場合にも、電動機は起動時に大きなトルクを発生することができるため、装置の応答性が良くなる。
【0020】
(比較試験)
つぎに、従来のV/f特性を設定したインバータと本発明に係るV/f特性を設定したインバータとを比較した試験について説明する。
試験は、7.5kWの走行用電動機を4台用搭載した一般的な天井クレーンを用い、無負荷運転で走行速度を100m/分とした。インバータは低圧インバータ200V級を用いた。
従来のV/f特性として、起動時周波数1Hzにおける出力電圧は8Vに、1Hzより高周波数側は傾き192V/59Hzに従って一定に出力電圧が上昇するように設定した(
図5参照)。
本発明に係るV/f特性として、起動時周波数3Hzにおける出力電圧は30Vに、起動直後周波数6Hzにおける出力電圧は10Vに、6Hzより高周波数側は傾き約3.5V/Hzに従って出力電圧が上昇するように設定した(
図1参照)。
【0021】
それぞれの条件で電動機を起動させた場合のインバータの出力電流と電動機の回転数をグラフにすると
図4に示すようになる。従来の起動時間が0.26秒であるのに対し(A)、本発明の起動時間は0.14秒と早くなった(B)。ここで、起動時間とはインバータに運転指令が入力されてから電動機が回転するまでの時間をいう。したがって、本発明の方がクレーンの応答性が良いことが分かる。
また、従来の出力電流に比べて(A)、本発明の出力電流は起動直後に低下していることが分かる(B)。したがって、本発明の方が電気量が少なく、電動機やインバータの負荷が少ないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係るクレーン用インバータおよびその制御方法は、主にクレーンの巻上装置や走行装置の電動機への電力供給に用いられるが、コンベアや台車等の荷役機械や、その他電動機を使用した自走装置全般に利用できる。
【符号の説明】
【0023】
M 電動機
V 出力電圧
f 出力周波数