特許第5661426号(P5661426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661426
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】放射線検出器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20150108BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20150108BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   G01T1/20 B
   G01T1/20 E
   G01T1/20 G
   C09K11/00 E
   C09K11/61
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-245063(P2010-245063)
(22)【出願日】2010年11月1日
(65)【公開番号】特開2012-98110(P2012-98110A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2013年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100180976
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤也
(72)【発明者】
【氏名】松山 渉
【審査官】 田邉 英治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/032503(WO,A1)
【文献】 特開2008−139156(JP,A)
【文献】 特開2003−172799(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032504(WO,A1)
【文献】 特開昭64−65481(JP,A)
【文献】 特開2007−232636(JP,A)
【文献】 特開2008−51793(JP,A)
【文献】 特開2003−50298(JP,A)
【文献】 特開2005−91146(JP,A)
【文献】 特開平1−65481(JP,A)
【文献】 特開2012−168010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00− 7/12
C09K 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光を電気信号に変換する光電変換素子を含む画素が基板上の面方向に多数配列されたセンサーパネルと、前記センサーパネルの前記光電変換素子上に設けられ、放射線を可視光に変換するタリウム賦活ヨウ化セシウム蛍光体層とを有する放射線検出器において、
前記蛍光体層は、タリウム賦活ヨウ化セシウムからなり、
前記蛍光体層中の膜厚方向のタリウム濃度は、前記センサーパネル側に近づくに従って大きくなっていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
真空蒸着装置内に、光電変換素子を含む画素が基板上の面方向に多数配列されたセンサーパネルを配置し、前記センサーパネルの蛍光体層形成面に対向して、タリウム賦活ヨウ化セシウム蛍光体層の原料となるヨウ化セシウムとヨウ化タリウムを別々に収納したるつぼを配置し、るつぼを加熱させることにより、前記センサーパネル上にタリウム賦活ヨウ化セシウム蛍光体層を形成する放射線検出器の製造方法において、
前記ヨウ化セシウムが収納されているるつぼの底部側には、所定量のヨウ化タリウムが収納され、前記ヨウ化タリウムの上には前記ヨウ化セシウムが収納されることを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線を可視光に変換するシンチレータを用いた放射線検出器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器は、昨今、医療用、歯科用もしくは非破壊検査用などに用いられている。この放射線検出器においては、可視光を電気信号に変換する光電変換素子を有するセンサーパネル上にシンチレータ層が形成され、このシンチレータ層で放射線を一旦可視光に変換する間接方式が主流である。
【0003】
シンチレータ層としていくつかの種類の材料が用いられているが、医療用の平面検出器(以下FPD)、歯科用のCMOSセンサー、及び医療用・動物診断用であるCCD−DR装置には、タリウム賦活ヨウ化セシウム(以下、「CsI/Tl」と記す)蛍光体層が多く使用されている。
【0004】
CsI/Tl蛍光体層は、真空蒸着法で簡便に平面状に成膜できる。しかも、成膜条件を適正に調整することにより、直径5μm程度のファイバー結晶が並んだ構造に成膜することができる。このファイバー結晶が並んだ構造により、CsI結晶(屈折率=1.8)及び結晶間の隙間(屈折率=1)の間の屈折率の差に起因して、ある1つのファイバー中で放射線から変換された可視光は、発光点から面方向にそれほどずれない位置でセンサー面に到達し、放射線撮像装置としてそれほど滲まない撮影像が得られる。
【0005】
即ち、CsI/Tl蛍光体層は、適正な条件で成膜することにより、放射線を可視光に変換するシンチレーション機能と、画像を次のセンサー部まで保持するファイバープレート機能を同時に備えることが可能である。
【0006】
放射線画像のデジタル撮影装置は、現在のところ、17インチ(約430mm角)サイズのものが一般的であるが、それより小型のものであっても、昨今のデジタル装置の普及に伴う数量増に対応して、小型のセンサーパネルを真空蒸着装置に多数並べて一度にCsI/Tl蛍光体層を成膜することが量産上、さらにはコスト上有利である。このため、真空蒸着装置、るつぼとも大型化してきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−128023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CsI/Tl蛍光体層に適正なシンチレーション機能を持たせるための重要な要件として、第一に発光特性を得るために適正な濃度でTlを賦活すること、第二に蛍光体層がセンサーパネルから剥がれないこと、がある。
【0009】
しかしながら、従来用いられている2元蒸着法の如くCsI蛍光体とTlI賦活剤とを別々のるつぼに収納して蒸着する方法では、装置が大型化するにつれて十分な感度特性が得られにくくなってしまう。
【0010】
また、CsI/Tl蛍光体層の基板となるセンサーパネルは、表面構造がセンサーの機能が最適になるように設定されているので、CsI蛍光体層の下地層として適切でない場合が多く、蛍光体層が剥がれる現象が起きることがある。
【0011】
そこで、本発明は、蛍光体層がセンサー基板から剥がれにくく、良好な感度特性を有する放射線検出器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明の放射線検出器は、
可視光を電気信号に変換する光電変換素子を含む画素が基板上の面方向に多数配列されたセンサーパネルと、前記センサーパネルの前記光電変換素子上に設けられ、放射線を可視光に変換するタリウム賦活ヨウ化セシウム蛍光体層とを有する放射線検出器において、前記蛍光体層は、タリウム賦活ヨウ化セシウムからなり、前記蛍光体層中の膜厚方向のタリウム濃度は、前記センサーパネル側に近づくに従って大きくなっていることを特徴とする。
【0013】
また、上述の目的を達成するため、本発明の放射線検出器の製造方法は、
真空蒸着装置内に、光電変換素子を含む画素が基板上の面方向に多数配列されたセンサーパネルを配置し、前記センサーパネルの蛍光体層形成面に対向して、タリウム賦活ヨウ化セシウム蛍光体層の原料となるヨウ化セシウムとヨウ化タリウムを別々に収納したるつぼを配置し、るつぼを加熱させることにより、前記センサーパネル上にタリウム賦活ヨウ化セシウム蛍光体層を形成する放射線検出器の製造方法において、前記ヨウ化セシウムが収納されているるつぼの底部側には、所定量のヨウ化タリウムが収納され、前記ヨウ化タリウムの上には前記ヨウ化セシウムが収納されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る放射線検出器の一実施の形態を示す概略図。
図2】本発明に係る放射線検出器の製造方法の一実施の形態を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明に係る放射線検出器の一実施の形態を示すものである。
【0017】
この放射線検出器10は、光電変換素子としてのアモルファスシリコンフォトダイオードとTFTスイッチング回路とを含む画素1をガラス基板2上に面方向に配列したセンサー基板に、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等からなる有機膜3を塗布してセンサーパネル5とし、そのセンサーパネル5上に、CsI/Tl蛍光体層6、反射膜層7、防湿層8が順次積層して形成されている。
【0018】
また、鉛直方向に延びる多数のファイバー結晶からなるCsI/Tl蛍光体層6の内部に存在しているTlの濃度は、図中、濃淡で示してあるように、有機膜3に近づくに従って高く、逆に反射膜層7に近づくに従って低くなっている。
【0019】
このようにTl濃度を有機膜3に近づくに従って高くすることにより、センサーパネル5とCsI/Tl蛍光体層6との間の付着力を高め、はがれを防止することができ、良好な感度特性を付与することが可能となる。
【0020】
図2は本発明に係る放射線検出器の製造方法の一実施の形態を示すものである。
【0021】
本製造方法では、先ず、真空蒸着装置14内において図1で示したセンサーパネル5を蛍光体成膜面が図中下向きになるように配置し、CsIを投入したCsI用るつぼ12及びTlIを投入したTlI用るつぼ13をセンサーパネル5の図中下方に設置する。
【0022】
ここで、CsI用るつぼ12には、CsI蛍光体の他にTlI賦活剤を1000ppm程度混入させる。
【0023】
一般に、るつぼが大きい場合やるつぼから噴出するCsI蒸気の濃度が高い状態の場合に、別にTlI用るつぼを用意しても、成膜の初期段階はCsI蒸気の影響でセンサーパネル5まで到達するTlIの量が限定的になり、センサーパネル5とCsI/Tl蛍光体層6との界面付近のTl濃度が少なくなる傾向がある。
【0024】
これに対して、CsI用るつぼ12側にも少量のTlIを入れることにより、成膜の初期から適正量以上のTlIが混入されたCsI蛍光体層を得ることができる。
【0025】
また、CsI用るつぼ12中のTlIの混入のさせ方は、CsIに均一に混ぜるのではなく、CsI用るつぼの底部にCsI蛍光体の下敷きになるように仕込むのが好ましい。これは、TlIはCsIよりも蒸気圧が高いので、CsIるつぼ12を加熱すると、TlIの蒸気の方が極端に先に蒸発してしまうからである。
【0026】
次に、図2のように設置した真空蒸着装置14内で、図示しない圧力制御装置により真空槽内の圧力を0.4Paに調整した状態で、図示しない加熱装置によってセンサーパネル5の温度を200℃に設定する。
【0027】
その後、CsI用るつぼ12及びTlI用るつぼ13の温度をそれぞれ700℃、450℃に設定し、蒸着を開始する。蒸着時間は、例えば、10時間である。
【0028】
最後に、CsIの膜厚が600μmとなったところでCsI用るつぼ12及びTlI用るつぼ13の加熱を終了し、真空蒸着装置14内の全ての加熱装置を冷却する。冷却後、真空蒸着装置14からセンサーパネル5を取り出し、成膜工程を終了させる。
【0029】
上記工程の後、反射膜層7、防湿層8を形成し、必要な回路・筐体を組み立てて放射線検出器10を完成させる。
【0030】
このようにして製造された放射線検出器10のCsI/Tl蛍光体層6のTl濃度は、センサーパネル5付近で0.31wt%であるのに対して、反射膜層7付近で0.29wt%となって、センサーパネル5付近の方が高い結果となった。
【0031】
また、放射線検出器10の感度特性は、単純な2元蒸着法の場合と比較して、13%感度が高くなることが確認できた。
【0032】
なお、CsI/Tl蛍光体層6中のTlの濃度の従来の適正値は0.38〜1.91wt%とされているのに対して、本実施の形態では、平均Tl濃度を0.3wt%と従来よりも少なめになるように設定しても、従来のTlの濃度の場合と比較して感度特性に差異は認められなかった。
【0033】
なお、上述した実施の形態では、光電変換素子としてアモルファスシリコンフォトダイオードを用いた例を挙げたが、他に、CMOS、CCD等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0034】
1:画素
2:ガラス基板
3:有機膜
5:センサーパネル
6:CsI/Tl蛍光体層
7:反射膜層
8:防湿層
10:放射線検出器
12:CsI用るつぼ
13:TlI用るつぼ
14:真空蒸着装置
図1
図2