特許第5661428号(P5661428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661428
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】穿孔用プレスのパンチ
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/34 20060101AFI20150108BHJP
   B21D 28/00 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   B21D28/34 C
   B21D28/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-245486(P2010-245486)
(22)【出願日】2010年11月1日
(65)【公開番号】特開2012-96259(P2012-96259A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2013年8月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】菅野 三男
(72)【発明者】
【氏名】目黒 正行
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−171637(JP,A)
【文献】 特開2002−120025(JP,A)
【文献】 特開2008−012569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/00−28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチ本体(46)の先端に穿孔針(47)を連設し,この穿孔針(47)の先端面を凹状の円錐面(47a)に形成して,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部(47b)を形成してなる,穿孔用プレスのパンチであって,
前記円錐面(47a)に前記穿孔針(47)の軸心(C)から放射状に延びる無数の研磨条痕(49)を形成したことを特徴とする,穿孔用プレスのパンチ。
【請求項2】
燃料噴射弁(I)のインジェクタプレート(10)に燃料噴孔(11)を穿つための穿孔用プレスのパンチであって,パンチ本体(46)の先端に穿孔針(47)を連設し,この穿孔針(47)の先端面を凹状の円錐面(47a)に形成して,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部(47b)を形成してなるものであって,
前記円錐面(47a)に前記穿孔針(47)の軸心(C)から放射状に延びる無数の研磨条痕(49)を形成したことを特徴とする,穿孔用プレスのパンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,燃料噴射弁の燃料噴孔のような微細径の孔をワークに穿つのに使用する穿孔用プレスのパンチ,特に,パンチ本体の先端に穿孔針を連設し,この穿孔針の先端面を凹状の円錐面に形成して,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部を形成してなるパンチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般の穿孔用プレスのパンチとしては,穿つべき孔に対応する穿孔用円柱部の先端面を凹状の球面に形成して,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部を形成したものが知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−171637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるような穿孔用プレスのパンチは,比較的大径の穿孔に使用するもので,これを前述のような微細径の穿孔に使用しても,長時間の使用には耐え難い。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,微細径の穿孔に使用しても,穿孔精度を維持しながら長時間の使用に耐え得る穿孔用プレスのパンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,パンチ本体の先端に穿孔針を連設し,この穿孔針の先端面を凹状の円錐面に形成して,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部を形成してなる,穿孔用プレスのパンチであって,前記円錐面に前記穿孔針の軸心から放射状に延びる無数の研磨条痕を形成したことを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,燃料噴射弁のインジェクタプレートに燃料噴孔を穿つための穿孔用プレスのパンチであって,パンチ本体の先端に穿孔針を連設し,この穿孔針の先端面を凹状の円錐面に形成して,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部を形成してなるものであって,前記円錐面に前記穿孔針の軸心から放射状に延びる無数の研磨条痕を形成したことを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,凹状の円錐面には,穿孔針の軸心から放射状に延びる無数の放射状の研磨条痕が形成されることで,先鋭な刃部より先鋭化すると共に,ワークへの穿孔時,より先鋭化した刃部の各部の切れ味が一定し,これにより,穿孔精度を高めると共に,耐用寿命を改善することができる。
【0009】
さらに環状の刃部には,円錐面に無数の放射状の研磨条痕が形成されることで,極微細な鋸刃状の凹凸が形成され,この凹凸が刃部のワークに対する食いつき効果をさらに高めるため,刃部のワークに対する滑りを確実に防ぎ,穿孔精度と耐久性の向上に,より貢献することになる。
【0010】
本発明の第2の特徴によれば,長時間,高精度の燃料噴孔をインジェクタプレートに形成し続けることが可能となり,燃料噴射弁の燃料噴射流量特性の安定化に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の穿孔用プレスのパンチにより穿孔される燃料噴孔を有する電磁式燃料噴射弁の縦断面図。
図2】本発明の穿孔用プレスの縦断面図。
図3】上記プレスのパンチの穿孔針の先端部拡大縦断面(A)及び先端面拡大図(B)。
図4】比較例パンチの穿孔針の先端部拡大縦断面(A)及び先端面拡大図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0013】
先ず,本発明の穿孔用プレスのパンチにより穿孔される燃料噴孔を有するエンジン用燃料噴射弁Iについて,図1により説明する。燃料噴射弁Iの弁ハウジング2は,円筒状の弁座部材3と,この弁座部材3の後端部に嵌合して液密に溶接される磁性円筒体4と,この磁性円筒体4の後端に突き当てゝ液密に溶接される非磁性円筒体6と,この非磁性円筒体6の内周面に前端部を嵌合して液密に溶接される円筒状の固定コア5と,この固定コア5の後端に一体に連設される燃料入口筒9とで構成される。
【0014】
弁座部材3には,その前端面に開口する弁孔7と,この弁孔7の内端に連なる円錐状の弁座8と,この弁座8の大径部に連なる円筒状の弁体ガイド15と,この弁体ガイド15の後端にテーパ孔16を介して接続される,弁体ガイド15より大径で円筒状の大径孔17とが設けられる。
【0015】
弁座部材3の前端面には,上記弁孔7と連通する複数の燃料噴孔11を有するインジェクタプレート10が液密に溶接される。
【0016】
非磁性円筒体6の前端部には,固定コア5と嵌合しない部分が残され,その部分から弁座部材3に至る弁ハウジング2内に弁組立体Vが収容される。
【0017】
弁組立体Vは,固定コア5の前端の吸引面5aに対置される可動コア12と,この可動コア12の前端に一体に突設される弁杆13と,この弁杆13に溶接され,前記弁座8と協働して弁孔7を開閉するよう前記ガイド15に摺動自在に支承される基本形が球状の弁体14とで構成される。弁体14の周囲には,燃料の通過を許容する複数の平坦な流路部18,18…が等間隔をおいて形成される。
【0018】
固定コア5には,燃料入口筒9の中空部に連なる第1縦孔19が設けられる。また弁組立体Vには,可動コア12の後端面から始まり弁杆13の中間部で終わる第2縦孔20と,この第2縦孔20を弁座部材3の前記大径孔17に開放する横孔21とが設けられる。
【0019】
第2縦孔20の途中には,固定コア5側を向いた環状のばね座24が形成される。固定コア5の第1縦孔19にはすり割り付きパイプ状のリテーナ23が圧入され,このリテーナ23と前記ばね座24との間に可動コア12を弁体14の閉弁側に付勢する弁ばね22が縮設される。
【0020】
可動コア12には,その後端面より僅かに突出して固定コア5の吸引面5aに対向する非磁性材製でリング状のストッパ部材27が埋設される。このストッパ部材27は,固定及び可動コア5,12相互の吸引時,ストッパ部材27が固定コア5の吸引面5aに当接することで,固定コア5及び可動コア12の対向端面間に所定のギャップを残存させるものである。
【0021】
弁ハウジング2の外周には,固定コア5及び可動コア12に対応してコイル組立体28が嵌装される。このコイル組立体28は,磁性円筒体4の後端部から固定コア5にかけてそれらの外周面に嵌合するボビン29と,これに巻装されるコイル30とからなっており,そのボビン29の後端部には,その一側方に突出するカプラ端子33の基端部が保持され,このカプラ端子33にコイル30の端末が接続される。
【0022】
上記コイル組立体28を収容保持しながら,磁性円筒体4及び固定コア5間に磁路を形成する磁性体のコイルハウジング31が弁ハウジング2に取り付けられる。
【0023】
コイルハウジング31には,これを埋封するよう,その外周を覆う合成樹脂製の1次被覆層34がモールド成形される。その際,前記カプラ端子33を収容,保持してコイル組立体28の一側方に突出するカプラ35が1次被覆層34と一体成形される。また1次被覆層34の主要部の外周には,それを被覆する2次被覆層36がモールド成形される。
【0024】
而して,コイル30を消磁した状態では,弁ばね22の付勢力で弁組立体Vは前方に押圧され,弁体14を弁座8に着座させている。コイル30に通電すると,それにより生ずる磁束39がコイルハウジング31,磁性円筒体4,可動コア12,固定コア5を順次走り,両コア5,12間に発生する磁力による可動コア12が弁ばね22のセット荷重に抗して固定コア5に吸引され,弁体14が弁座8から離座して弁孔7を開放するので,弁座部材3内に待機する高圧燃料が弁孔7を出て,インジェクタプレート10の燃料噴孔11からエンジンへ向けて噴射される。
【0025】
上記インジェクタプレート10に穿設される燃料噴孔11は,燃料噴射弁Iを装着するエンジンの形式に応じて個数や配列,開口方向が決定される。インジェクタプレート10は,鋼板製(例えばSUS304)で,その肉厚は,0.1〜0.2mm,燃料噴孔11の内径は,0.05〜0.30mmである。
【0026】
次に,この燃料噴孔11をインジェクタプレート10に穿つための穿孔用プレスPについて図2により説明する。
【0027】
穿孔用プレスPは,機台40上に設置されるダイス41と,このダイス41上にインジェクタプレート10(以下,ワークという。)を挟んで対置されるパンチガイド42と,このパンチガイド42に作動を誘導されるパンチ43と,このパンチ43を把持してこれを昇降駆動するパンチ駆動手段44とを備える。
【0028】
パンチ43は,超硬材もしくは超硬微粒子合金製であって,パンチ本体46と,その先端に連なる穿孔針47とで構成される。またそのパンチ本体46は,パンチ駆動手段44に把持される柄46aと,この柄46aの先端に同軸状に一体に連なる円柱状の第1ガイド軸46bと,この第1ガイド軸46bの先端に同軸状に一体に連なる,第1ガイド軸46bより小径の円柱状の第2ガイド軸46cよりなっており,その第2ガイド軸46cの先端にテーパ部48を介して前記穿孔針47が同軸状に一体に連設され,穿孔針47の外径は,前記燃料噴孔11の内径に対応して設定される。
【0029】
図3に明示するように,穿孔針47の先端面は,凹状の円錐面47aに形成されることにより,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部47bが形成される。
【0030】
さらに上記円錐面47aには,前記穿孔針47の軸心Cから放射状に延びる無数の研磨条痕49が形成される。そして,各研磨条痕49に沿った刃部47b各部の掬い角θが,89°以上,且つ90°未満の範囲で設定される。
【0031】
再び図2において,パンチガイド42には,上記第1ガイド軸46b,第2ガイド軸46c及び穿孔針47がそれぞれ摺動可能に嵌挿される第1ガイド孔51,第2ガイド孔52及び第3ガイド孔53が設けられる。
【0032】
またダイス41には,ワーク10を貫通した穿孔用パンチ43の先端部を受容する通し孔54が設けられる。
【0033】
前記第1〜第3ガイド孔51〜53並びに通し孔54には,ワーク10に対する燃料噴孔11の傾きに対応した傾斜角度が与えられる。
【0034】
この実施形態の作用について説明する。
【0035】
ワーク10の燃料噴孔11を穿つに当たっては,先ず,ダイス41上にワーク10及びパンチガイド42を順次重ね合わせ,ダイス41及びパンチガイド42間でワーク10を挟持した状態で,パンチガイド42に嵌挿したパンチ43をパンチ駆動手段44により下降させると,パンチ43の第1ガイド軸46b,第2ガイド軸46c及び穿孔針47が,パンチガイド42の第1〜第3ガイド孔51〜53に誘導され,心振れすることなく下降し,穿孔針47がワーク10を穿ち,ワーク10に燃料噴孔11を形成する。ワーク10を穿ち抜いた穿孔針47の先端部は,スクラップSと共にダイス41の通し孔54へと進み,スクラップSをダイス41外に排出する。
【0036】
ところで,穿孔針47の先端面は,凹状の円錐面47aに形成されることにより,該先端面外周縁に環状で先鋭な刃部47bが形成され,その上,凹状の円錐面47aには,前記穿孔針47の軸心Cから放射状に延びる無数の研磨条痕49が形成されるように研磨が施されるので,先鋭な刃部47bは,より先鋭化すると共に,ワーク10への穿孔時,より先鋭化した刃部47bの各部の切れ味が一定し,これにより,穿孔精度を高めると共に,耐用寿命を改善することができる。したがって長時間,高精度の燃料噴孔11をワーク10に形成し続けることが可能となり,これにより燃料噴射弁Iの燃料噴射流量特性の安定化を図ることができる。
【0037】
さらに環状の刃部47bには,円錐面47aに無数の放射状の研磨条痕49が形成されることで,極微細な鋸刃状の凹凸55が形成され,この凹凸55が刃部47bのワーク10に対する食いつき効果を発揮するため,刃部47bのワーク10に対する滑りを確実に防ぎ,穿孔精度と耐久性の向上に大いに寄与することになる。
【0038】
ところで,上記掬い角θを89°未満に設定した場合には,刃部47bのワーク10に対する食いつき性が向上し,穿孔精度が高くなるが,刃部47bの強度が低下するため,耐用寿命短くなるので,好ましくない。また上記掬い角θを89°以上,且つ90°未満と設定した場合には,刃部47bのワーク10に対する食いつき性及び強度の両方を満足させることができる。
【0039】
比較例として,図4に示すように,穿孔針47′の先端面を凹状の球面47a′に形成して,その先端面外周に環状の刃部47b′を形成し,その刃部47b′の先鋭化のために,上記球面47a′に一定方向の研磨を施して一定方向に延びる研磨条痕49′を形成したパンチ43′を作製し,その比較例パンチ43′と本発明のパンチ43とを穿孔性能について,実験により比較したところ,比較例パンチ43′は,本発明パンチに比して穿孔精度も悪く,耐用寿命も短いもの(本発明の半分以下)であった。具体的には,比較例パンチ43′によりワーク10に対する穿孔を長時間繰り返したところ,穿孔精度は,穿孔回数の増加に伴ない低下し,穿孔回数30,000回で許容値を超えてしまったのに対して,本発明のパンチ43によれば,穿孔回数が60,000回を超えても穿孔精度に変化は殆ど認められなかった。穿孔精度は,穿孔した燃料噴孔11に所定圧力をもって液体燃料又はそれに類似した液体を流したときの単位時間当たりの流量を測定することで判定した。
【0040】
比較例パンチ43′の穿孔精度及び耐久性が低い理由は,比較例パンチ43′では,刃部47b′の掬い角θ′が一定せず,したがって刃部47b′の切れ味が各部で相違し,しかも研磨条痕49′とほぼ平行となる部分の刃部47b′は脆く欠け易いことに起因すると考えられる。
【0041】
以上,本発明の実施形態について説明したが,本発明はそれに限定されることなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,穿孔針47は,パンチ本体46と異なる材料で作製することもできる。パンチ43は,所定の穿孔回数毎に所定角度回転すれば,刃部47bの各部の負荷が均等化し,パンチ43の耐久性を高めることができる。
【符号の説明】
【0042】
C・・・・・穿孔針の軸心
I・・・・・燃料噴射
10・・・・インジェクタプレート
11・・・・燃料噴孔
43・・・・パンチ
46・・・・パンチ本体
47・・・・穿孔針
47a・・・円錐面
47b・・・刃部
49・・・・研磨条痕
図1
図2
図3
図4