(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661459
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】組み換えヒトトロンビンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20150108BHJP
C12N 9/74 20060101ALI20150108BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20150108BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
C12N9/74
A61K37/547
A61P7/04
【請求項の数】32
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-514702(P2010-514702)
(86)(22)【出願日】2008年7月4日
(65)【公表番号】特表2010-532661(P2010-532661A)
(43)【公表日】2010年10月14日
(86)【国際出願番号】SE2008050836
(87)【国際公開番号】WO2009008821
(87)【国際公開日】20090115
【審査請求日】2011年7月1日
(31)【優先権主張番号】60/948,207
(32)【優先日】2007年7月6日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100146259
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 諭志
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・ハリソン
(72)【発明者】
【氏名】アン・レーヴグレン
【審査官】
鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第03/004641(WO,A1)
【文献】
特表2007−508820(JP,A)
【文献】
特表2003−504082(JP,A)
【文献】
J. Biochem., 2004, Vol.135, p.577-582
【文献】
Journal of Neuroscience Methods, 2003, Vol.124, p.75-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/00−9/99
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号2のヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列を含むエカリンをコードするDNAを含む哺乳動物細胞を提供すること;
(b)細胞がDNAからエカリンを発現できる条件下で細胞をインキュベートすることにより、エカリンを細胞で発現させること;
(c)すべての細胞が死亡するまで細胞のインキュベーションを継続し、死亡した細胞を含む培地を産生すること;および、
(d)培地中のエカリンから活性化エカリンを産生するのに十分な活性化期間にわたり、培地のインキュベーションを継続すること;
を含む、方法。
【請求項2】
(d)の活性化期間が、すべての細胞が死亡してから少なくとも7日間継続する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
死亡した細胞を含有するフラクションから活性化エカリンを含有するフラクションを分離するために、(d)の活性化エカリンを含有する培地を分画することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
細胞がエカリンをコードするDNAで安定にトランスフェクトされている、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
エカリンをコードするDNAが配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
細胞がCHO−S細胞である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
細胞が、配列番号2のヌクレオチド配列を含むエカリンをコードするDNAで安定にトランスフェクトされているCHO−S細胞である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
組み換えヒトプロトロンビンを提供すること;および、活性化エカリンを含有する培地を、組み換えヒトプロトロンビンと接触させ、それにより組み換えヒトトロンビンを産生すること、をさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
組み換えヒトプロトロンビンが培養された哺乳動物細胞を使用して発現される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
組み換えヒトプロトロンビンおよびエカリンが、同一親細胞株由来の培養された哺乳動物細胞を使用して発現される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
親細胞株がCHO−Sである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
組み換えヒトプロトロンビンを発現する哺乳動物細胞が、ビタミンKを添加されていない培地で培養されている間に組み換えヒトプロトロンビンを発現する、請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
組み換えヒトプロトロンビンを発現する哺乳動物細胞が、さらに、ガンマ−グルタミルカルボキシラーゼをコードする組み換えDNAを含み、組み換えガンマ−グルタミルカルボキシラーゼを発現する、請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
組み換えヒトプロトロンビンを発現する哺乳動物細胞によるプロトロンビンの発現レベルが、ガンマ−グルタミルカルボキシラーゼの発現レベルの少なくとも10倍である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組み換えヒトプロトロンビンを発現する哺乳動物細胞が、ビタミンKを添加されていない培地で培養されている間に組み換えプロトロンビンおよび組み換えガンマ−グルタミルカルボキシラーゼを発現する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
組み換えヒトプロトロンビンが完全カルボキシル化プロトロンビンと不完全カルボキシル化プロトロンビンの混合物である、請求項8〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
組み換えヒトプロトロンビンが完全カルボキシル化プロトロンビンである、請求項8〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
組み換えヒトプロトロンビンが不完全カルボキシル化プロトロンビンである、請求項8〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
組み換えヒトトロンビンを精製することをさらに含む、請求項8〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
精製された組み換えヒトトロンビンを医薬組成物に製剤化することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
死亡した細胞を含む培地から、活性化エカリンを含む培養上清を産生すること;および、プロトロンビンを培養上清と接触させ、それによりトロンビンを産生することをさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
プロトロンビンが不完全カルボキシル化プロトロンビンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
プロトロンビンが完全カルボキシル化プロトロンビンと不完全カルボキシル化プロトロンビンの混合物である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
(d)の培地から活性化エカリンを含む培養上清を産生することをさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
組み換えプロトロンビンを提供すること;および、培養上清の一部または全部を組み換えプロトロンビンと接触させ、それにより組み換えトロンビンを産生することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
組み換えプロトロンビンを提供すること;および、活性化エカリンを組み換えプロトロンビンと接触させ、それにより組み換えトロンビンを産生することをさらに含み、活性化エカリンは組み換えプロトロンビンと接触する前に培養上清から精製されない、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
組み換えプロトロンビンを提供すること;および、活性化エカリンを組み換えプロトロンビンと接触させ、それにより組み換えトロンビンを産生することをさらに含み、活性化エカリンは組み換えプロトロンビンと接触する前に培地から精製されない、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
エカリンをコードするDNAが、配列番号2のヌクレオチド配列に対して少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
エカリンをコードするDNAが、配列番号2のヌクレオチド配列に対して少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
エカリンをコードするDNAが、配列番号2のヌクレオチド配列に対して少なくとも97%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
エカリンをコードするDNAが、配列番号2のヌクレオチド配列に対して少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
エカリンをコードするDNAが、配列番号2のヌクレオチド配列に対して少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本出願は、組み換えエカリン(ecarin)を使用して組み換えプロトロンビンから組み換えヒトトロンビンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
トロンビンは、血液凝固カスケードにおける鍵となる酵素である。フィブリノーゲンからフィブリンモノマーへのトロンビン介在タンパク質消化により、血餅形成に至るカスケード反応が始まる。血餅形成は創傷治癒における第一段階である。加えて、トロンビンは創傷治癒に関与する細胞に対する化学誘引物質であり、そして、形成されたフィブリンネットワークはコラーゲン製造線維芽細胞の足場として働き、食作用を高め、血管形成を促進し、そして増殖因子と結合し、そうして治癒工程をさらに助ける。血餅形成の速度はトロンビンおよびフィブリノーゲンの濃度に依存する。血餅形成における重要な機能のために、トロンビンは、止血用の多くの製品におよび/または組織シーラントまたは“接着剤”として、いずれも単独型製品(すなわちThrombin-JMI)またはフィブリンまたは他の化合物との組み合わせ (すなわちTisseel、Hemaseel、Crosseal) として使用されている。使用の可能性のある領域は広い;皮膚移植、神経系外科、心臓外科、胸部(toracic)外科、血管外科、腫瘍外科、形成外科、眼科外科、整形外科、外傷外科、頭頚部外科、婦人科および泌尿器科外科、消化器外科、口腔外科、薬物送達、組織工学および歯腔止血。
【0003】
現在まで上市されている承認されたトロンビン含有製品中のトロンビンは、ヒトまたはウシいずれかの血漿由来である。血漿由来タンパク質の使用は、入手量の限界、ならびにウイルスやプリオンの伝播の危険性および自己抗体形成の誘因となる危険性(ウシ製品)のような安全性懸念などの欠点を持つ。ウシトロンビン暴露による抗体形成が顕著な出血障害に至る症例が知られている。
【0004】
インビボでトロンビンは血液凝固カスケードを介するプロトロンビンの活性化により得られる。血液凝固カスケードを介する活性化は、ガンマ−カルボキシグルタメートに変換される、8−10個のグルタミン残基を含む機能的GLAドメインの存在による。インビトロで、不完全ガンマ−カルボキシル化プロトロンビンを、エカリンのようなプロトロンビンアクティベーターの使用によりまたトロンビンに変換できる。ケニアの毒ヘビEchis carinatus由来のヘビ毒であるエカリンは凝血原であり、ヒトプロトロンビンをArg
320−Ile
321残基間で開裂してメイゾトロンビンを製造するプロテアーゼである。さらなる自己触媒的処理がメイゾトロンビンdesF1、続いてトロンビンの成熟活性形であるアルファ−トロンビンの形成に至る。
【0005】
理想的な商業的トロンビン製造方法は、動物由来成分の添加無しに高い生産性で製造される組み換えトロンビン前駆体および組み換えプロテアーゼを使用することであろう。さらなる要請は、安定した生産性、容易性および低コストであろう。
【0006】
効率的組み換えヒトトロンビン(rh−トロンビン)に対する大きな障壁は、プロトロンビンを高収率で得ることである。多大なる労力が費やされているが、生物製剤の製造に適する条件下で高収率でプロトロンビンを得ることは長い間挑戦課題のままである。Yonemura et al. (J Biochem 135:577-582, 2004)は、組み換えエカリンで消化させた、組み換えGLAドメイン貧化(less)プレトロンビンを使用して組み換えヒトトロンビンを製造している。製造規模でのプレトロンビンの生産性は150−200mg/Lであり、これは商業規模製造のためには中程度の生産性である。エカリンの組み換え製造もWO01/04146に記載されている。その公報において、rh−トロンビンの製造は、COS細胞中で製造された組み換えプロトロンビンの、CHO細胞から製造された組み換えエカリンによる変換により例示されている。しかしながら、この例示された方法は大規模製造に適さず、そして動物由来成分を使用する。
【0007】
組み換えエカリンは活性化されることが必要なプレプロタンパク質として製造される。r−エカリンを効率的に活性化するための課題は両方の刊行物に記載され、示唆される活性化方法は最適とはほど遠い。
【0008】
それ故、組み換えヒトトロンビンを得る改善された方法が必要である。ガンマ−カルボキシル化ヒトプロトロンビンの生産性を上げるための我々の努力の間に、我々は驚くべきことに、ガンマ−グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)との共発現が、不完全カルボキシル化プロトロンビンの生産性もまた大きく改善することを発見した(WO2005038019を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、WO2005038019に記載されたような発現方法により得た組み換えプロトロンビンから、ヒトトロンビンを効率的に製造する方法を記載する。組み換えエカリンと組み合わせた組み換えカルボキシル化または不完全カルボキシル化プロトロンビンは、これより前に組み換えトロンビンの製造には使用されていない。さらに、組み換えエカリンを活性化する方法は新規である。記載の方法は、動物由来成分の添加無く、大規模でrh−トロンビンを製造するのに適する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明の第一の局面によって、配列番号2の配列を有する組み換えエカリンまたはその相同体を使用して組み換えプロトロンビンから組み換えヒトトロンビンを製造する方法が提供される。
【0011】
他の局面によって、該方法に従う組み換えトロンビンを、薬学的に許容される担体、媒体および/またはアジュバントと共に含む、医薬組成物が提供される。
【0012】
他の局面によって、配列番号2に従う組み換えエカリンまたは配列番号2と少なくとも80%同一性を有するその相同体をコードする単離DNA配列が提供される。
【0013】
さらなる局面によって、配列番号2に従う組み換えエカリンまたは配列番号2と少なくとも80%同一性を有するその相同体をコードする単離DNA配列を含むベクターが提供される。
【0014】
なおさらなる局面によって、配列番号2に従う組み換えエカリンまたは配列番号2と少なくとも80%同一性を有するその相同体をコードする単離DNA配列を含むベクターを含む細胞株が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】本発明で使用する組み換えエカリンおよび野生型エカリンのヌクレオチド配列アラインメント
【
図5】本発明で使用する組み換えエカリンおよび野生型エカリンのアミノ酸アラインメント
【
図6】細胞死中の経時的な組み換えエカリンの活性化を示すグラフ
【
図7】経時的な細胞培養中の組み換えエカリンの活性化、SDS−PAGEでアッセイ
【
図8】rh−トロンビンのCIEX精製由来のクロマトグラム
【
図9】CIEX精製により得たフラクションの非還元SDS−PAGE分析
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な記載
本発明は、一部、適当な制御配列と結合したヒトプロトロンビン(FII)および適当な制御配列と結合したヒトガンマ−グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)をコードするベクター(
図1)での安定なトランスフェクトによりもたらされた細胞株から成る。制御配列は、プロトロンビン発現が、GGCX発現の少なくとも10倍過剰となるように選択すべきである。宿主細胞は好ましくは真核細胞である。典型的宿主細胞は、昆虫細胞、酵母細胞、および哺乳動物細胞を含み、これらに限定されない。哺乳動物細胞が特に好ましい。適当な哺乳動物細胞株は、CHO、HEK、NS0、293、Per C.6、BHKおよびCOS細胞、ならびにそれらの派生物を含み、これらに限定されない。一つの態様において宿主細胞は哺乳動物細胞株CHO−Sである。得られたプロトロンビン製造細胞株を、ガンマ−カルボキシル化を無視して、プロトロンビンの高収率のために最適化された培養条件下で増殖させる。ビタミンKを増殖培地に添加してもしなくてもよい。
【0017】
本発明は特定のプロトロンビンまたはガンマ−グルタミルカルボキシラーゼまたは、共発現すべきこれらのタンパク質の一方のタンパク質をコードする配列に限定されないことは認識されよう。さらに、そして特に凝血因子に関して、タンパク質の多くの突然変異型が当分野で開示されている。本発明は、野生型配列に適用されるのと同様に、天然に存在する対立遺伝子変異体を含む、プロトロンビンおよびガンマ−グルタミルカルボキシラーゼタンパク質の突然変異型に等しく適用される。一つの態様において、本発明は、全ての野生型タンパク質またはそれに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%配列同一性を有するタンパク質で行うことができる。他の態様において、表1に記載する配列を使用できる。
【0019】
これらのタンパク質いずれも、その核酸およびアミノ酸配列を含み、既知である。表2は、本発明において使用できる種々のタンパク質の野生型および突然変異型の代表的配列を同定する。
【0020】
本明細書で使用する用語“ガンマ−グルタミルカルボキシラーゼ”または“GGCX”は、グルタミン酸残基のカルボキシル化を触媒するビタミンK依存性酵素を意味する。
【0021】
GGCX酵素は広く分布し、シロイルカ(Delphinapterus leucas)、ガマアンコウ(Opsanus tau)、鶏(Gallus gallus)、メクラウナギ(Myxine glutinosa)、カブトガニ(Limulus polyphemus)、およびイモガイ(Conus textile)のような多様な生物種からクローン化されている(Begley et al., 2000, ibid;Bandyopadhyay et al. 2002, ibid)。イモガイからのカルボキシラーゼはウシカルボキシラーゼに類似し、COS細胞で発現されている(Czerwiec et al. 2002, ibid)。GGCXに類似するさらなるタンパク質を、昆虫および原核生物、例えばガンビアハマダラカ(Anopheles gambiae)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)およびレプトスピラ属(Leptospira)において見ることができ、それぞれNCBI受託番号:gi 31217234、gi 21298685、gi 24216281およびgi 24197548(Bandyopadhyay et al., 2002, ibid)である。カルボキシラーゼ酵素は、顕著な進化的保存を示す。非ヒト酵素の数種が、我々が使用しているヒトGGCXと類似の活性を示し、または示すことが予測でき、それ故、ヒト酵素の代替として使用してよい。
【0022】
表2は、本発明に使用できるヒトGGXCに相当な推定タンパク質の代表的配列を同定する(起源の生物種に従い分類)。
【表2】
【表3】
【0023】
上記GGCXタンパク質および他の生物種由来のGGCXタンパク質の各々を、本発明におけるカルボキシラーゼ酵素として使用できる。
【0024】
本発明の第二部分は、エカリンおよび関連制御要素をコードするポリヌクレオチドで安定にトランスフェクトした細胞株である(
図2)。エカリンコード配列は、哺乳動物細胞における発現に関して最適化してよいが、かかる配列に限定されない。本発明の一つの態様において、配列番号2に従う配列またはその相同体を使用してエカリンを発現する。エカリンをコードする配列番号2の相同体は、配列番号2の配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%同一性を有し得る。宿主細胞は好ましくは真核細胞である。典型的宿主細胞は、昆虫細胞、酵母細胞、および哺乳動物細胞を含み、これらに限定されない。哺乳動物細胞が特に好ましい。適当な哺乳動物細胞株は、CHO、HEK、NS0、293、Per C.6、BHKおよびCOS細胞、およびそれらの派生物を含み、これらに限定されない。一つの態様において宿主細胞は哺乳動物細胞株CHO−Sである。
【0025】
一つの態様において、プロトロンビンおよびエカリンは、同一親細胞株に由来する細胞から製造する。この細胞株起源は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)(その派生物を含む)およびNS0(骨髄腫BALB/cマウス)(その派生物を含む)であってよく、そしてこれらに限定されない。同じ細胞株バックグラウンドを使用する目的は、トロンビン産物の精製および純度の評価を容易にするためである。
【0026】
他の態様において、エカリンおよびプロトロンビンを異なる宿主細胞株;すなわち各々CHOおよびNS0から製造する。
【0027】
本発明の一つの局面において、組み換えエカリンの使用が、これが、トロンビン製造工程中および最終トロンビン産物における非トロンビン産物由来成分の検出を容易にするために、好ましい。第二の局面において、組み換えエカリンが、ヘビ毒由来のエカリンに存在し得るアレルゲン性または毒性成分への暴露の危険性を減らすために、好ましい。第三の局面において、ヘビ毒からのエカリンは、エカリン調製物のバッチ間変化および限られたバッチサイズのために好ましくない。
【0028】
粗プロトロンビンおよび粗エカリンを混合し、実施例3に記載のようなトロンビン形成を可能にする条件下でインキュベートする。次いで、製造されたトロンビンを実施例4に記載の方法、または当業者に既知の他の方法により精製する。あるいは、プロトロンビンおよび/またはエカリンを、最初に当分野で既知の方法により精製し、続いて混合してトロンビンを得ることができる。次いで、トロンビンを非産物成分から精製する。
適当なトロンビン製造方法の例を
図3に概説する。
【0029】
配列番号2の配列を有する組み換えエカリンまたはその相同体を使用する、組み換えプロトロンビンから組み換えヒトトロンビンを製造する方法が提供される。組み換えエカリンは、CHO−S細胞中配列番号2のヌクレオチド配列またはその相同体を含む遺伝子を含む細胞で発現され、かつ分泌され得るが、この場合のエカリンは、野生型エカリンと同じアミノ酸配列を有する。
【0030】
上記方法において、組み換えプロトロンビンを組み換えエカリンに付し、その組み換えエカリンは、CHO−S細胞による細胞外発現後活性形で単離でき、該細胞を、該エカリンの活性化に十分な時間アポトーシス/壊死を起こさせ、そうしてヒト組み換えトロンビンを単離する。
【0031】
組み換えプロトロンビンは、配列番号1の配列またはその相同体を含むヌクレオチド配列を有するプロトロンビン発現遺伝子を含む細胞株により製造できる。プロトロンビンをコードする配列番号1の相同体は、配列番号1の配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%同一性を有し得る。組み換えプロトロンビンは、完全カルボキシル化プロトロンビンと不完全カルボキシル化プロトロンビンの混合物であり得る。一つの態様において、組み換えプロトロンビンは完全カルボキシル化プロトロンビンであり、そして他の態様において、組み換えプロトロンビンは不完全カルボキシル化プロトロンビンである。
【0032】
本発明のさらなる局面は、本発明の方法により得られる組み換えトロンビンに関する。本発明の方法により得られる組み換えトロンビンを薬学的に許容される担体、媒体および/またはアジュバントと共に含む医薬組成物を設計できる。本医薬組成物は、適用可能な形態であり得る。
【0033】
一つの態様において、記載の方法により製造したトロンビンを、他のタンパク質、すなわち組み換え細胞、トランスジェニック動物またはヒト血漿由来のフィブリンと組み合わせて組織シーラント(“接着剤”)の製造に使用できる。他の態様において、記載の方法により製造したトロンビンを、一活性成分としてまたは非タンパク質マトリックスと組み合わせて凍結乾燥した独立型製品として、または、一活性成分としてまたは他の活性成分と組み合わせた溶液として使用できる。
【0034】
適当な混ぜ入れられる成分は、コラーゲン、キチン、分解性ポリマー、セルロース、組み換え凝血因子および、トランスジェニックまたは組み換え源からのフィブリノーゲンであろうが、これらに限定されない。
【0035】
組織シーラント(“接着剤”)の可能性のある領域は非常に多い;皮膚移植、神経系外科、心臓外科、胸部外科、血管外科、腫瘍外科、形成外科、眼科外科、整形外科、外傷外科、頭頚部外科、婦人科および泌尿器科外科、消化器外科、口腔外科、薬物送達、組織工学および歯腔止血。
【0036】
本発明のさらなる局面は、治療的有効量の本発明の方法を使用して得られる組み換えヒトトロンビンを患者に投与することにより、凝血を誘発する方法に関する。
【0037】
本発明の他の局面は、配列番号2または組み換えエカリンをコードするその相同体に従う単離DNA配列である。エカリンをコードする配列番号2の相同体は、配列番号2の配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%同一性を有する。配列番号2は、最適発現のために最適化されている設計された配列である。本配列は、哺乳動物細胞系での発現に特に適する。
【0038】
さらなる局面によって、配列番号2またはその相同体を含むベクターが提供される。該ベクターは配列番号2またはその相同体を過剰発現し、そして、配列番号2またはその相同体によりコードされるエカリンの発現を可能にする発現制御配列に操作可能に結合するように設計できる。第三の局面によって、配列番号2またはその相同体によりコードされるエカリンを発現できる、該ベクターを含む宿主細胞が提供される。この宿主細胞は好ましくは真核細胞である。典型的宿主細胞は、昆虫細胞、酵母細胞、および哺乳動物細胞を含み、これらに限定されない。哺乳動物細胞が特に好ましい。適当な哺乳動物細胞株は、CHO、HEK、NS0、293、Per C.6、BHKおよびCOS細胞、およびそれらの派生物を含み、これらに限定されない。一つの態様において宿主細胞は哺乳動物細胞株CHO−Sである。
【0039】
本発明の他の態様に従って、配列番号2またはその相同体によりコードされるアミノ酸配列を含み、そして実施例2に記載の方法により得る、ポリペプチドが提供される。
【0040】
2個の配列間の配列同一性は、BestFit、PILEUP、GapまたはFrameAlignのようなプログラムを使用する、対方式(pair-wise)コンピューターアラインメント分析により決定できる。好ましいアラインメントツールはBestFitである。実施に際し、配列データベース内で、クエリー配列に対する類似/同一配列を検索する時、適当なアルゴリズム、例えばBlast、Blast2、NCBI Blast2、WashU Blast2、FastA、またはFasta3およびスコアリングマトリックス、例えばBlosum 62を使用した類似配列の最初の同定を実施することが一般に必要である。かかるアルゴリズムは、Smith-Watermanの“ゴールド・スタンダード”アラインメントアルゴリズムに厳密に近づける努力をする。それ故、類似性、すなわち、いかに2種の一次ポリペプチド配列が整列するかの評価に使用するための好ましいソフトウエア/検索エンジンは、Smith-Watermanである。同一性は直接の適合を意味し、類似性は保存的置換が可能である。
【0041】
実験の部
本発明をさらに以下の実施例の手段により記載し、それは添付の特許請求の範囲の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0042】
実施例1
CHO細胞における組み換えヒトプロトロンビンの高収率製造
図1に示す、配列番号1のヌクレオチド配列を有する構築物PN32を含むP1E2細胞株を、トロンビン製造に使用するためのプロトロンビンを製造するために、タンパク質および動物成分を含まない増殖培地を使用して、WO2005038019に記載の方法に従い醗酵機中で増殖させた。細胞培養バッチ法または灌流培養法(表1)のいずれかで増殖させ、製造されたプロトロンビンの量をエカリンアッセイにより測定した。このエカリンアッセイは、本質的にChromogenixアッセイ(Moelndal, Sweden)の通りに、標準として精製血漿由来ヒトプロトロンビン(Haematologic Technologies Inc., Vermont, USA)を使用して行った。
【0043】
【表4】
醗酵機実験は、バッチ培養法および灌流培養法の両方が、組み換えトロンビンの製造に適するプロトロンビンの製造に使用できることを示した(表1)。これらの醗酵機実験により得られた完全カルボキシル化プロトロンビンの割合は約55−87%であり、残りは不完全カルボキシル化プロトロンビンであった。
【0044】
実施例2
CHO細胞における組み換えエカリンの製造
哺乳動物細胞における発現のために最適化した配列番号2のヌクレオチド配列を有するエカリンコード配列を合成し、InvitrogenベクターpCDNA 3.1+にクローン化した(
図2)。本発明で使用する組み換えエカリンのヌクレオチド配列と野生型エカリンの配列(GI:717090)のアラインメントを
図4に示す。
図5から明らかな通り、この組み換えエカリンは、野生型エカリンのアミノ酸配列と100%相同である。AZエカリン(配列番号3)であるこの構築物を使用して、CHO−S細胞(Invitrogen)を安定にトランスフェクトした。エカリンは宿主細胞により細胞外空間に分泌され、エカリン製造クローンについてスクリーニングするために、培養上清サンプルを採り、アッセイ緩衝液(0.1%BSA含有50mM Tris−HCl、pH7.4)中、組み換えヒトプロトロンビン(rhFII)と最終濃度1mg rhFII/Lまで混合した。この混合物を20−40分間、37℃でインキュベートした。サンプル中に存在するエカリンの作用により製造されたトロンビンを、次いで、色素生産性トロンビン基質S−2238(Chromogenix, Moelndal)の1−2mM溶液の添加により検出した。発色をモニターし、適当なときに20%酢酸を使用して停止させた。製造された組み換えエカリンの活性を概算するために、活性が証明されているヘビ毒由来エカリンをSigmaから購入し、標準として
使用した。得られた最良の製造細胞株は、動物成分を含まない培地で増殖させて、実験室規模シェーカー培養の培養液1リットル当たり最大7000Uエカリンを製造した。
【0045】
組み換えエカリンの活性化
上記方法は組み換えエカリンをプロタンパク質として製造した。それ故、最適活性のためにプロ部分の除去による活性化が必要である。驚くべきことに、我々は、活性化が、エカリン製造細胞の死亡後、培養物のインキュベーションを少なくとも7日間継続することにより最も好都合に得られることを発見した(
図6)。使用した培養培地は、HTサプリメント、非必須アミノ酸およびGlutamax Iを補ったCD−CHO(CHO−Sに関してInvitrogenが推奨する通り)であり、増殖条件は、37℃で、5%二酸化炭素含有雰囲気下のシェーカーボトルであった。培養サンプルを、上記の通り活性についてアッセイした。
図6から明らかな通り、組み換えエカリンの活性はこの期間に増加した。
【0046】
培養上清からのサンプルをまたSDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロース膜にブロットした。膜の標識を、大腸菌中に封入体として発現されるエカリンの成熟部分に対するポリクローナルウサギ血清で行った。“M”は分子量マーカーを意味し、数字はサンプル回収日を意味する。
図7から明らかな通り、本組み換えエカリンは細胞死後1週間を超えて安定なままである。エカリンの活性化をまた低温で、例えば室温ほど低い温度で行ってよいが、そうすれば活性化により長い時間が必要である。エカリンは、死亡した宿主細胞の存在下で室温で数ヶ月間安定なままである。活性は、それが安定するまで徐々に増加する。細菌感染があるか高温下以外で、活性の減少は観察されていない。エカリンの活性化のためにトリプシンの使用を試みたが、失敗した。
【0047】
実施例3
エカリンによるプロトロンビンからトロンビンへの変換
エカリンプロテアーゼは、プロトロンビンを、トロンビン触媒活性を有するトロンビンの中間体形態であるメイゾトロンビンに変換する。トロンビンへのさらなる処理が、自己触媒により達成される。プロトロンビンからトロンビンへの変換に必要なエカリン培養の量を概算するために、我々は一連の試験消化を行った。種々の量の実施例2で得たエカリン含有培養上清を、PBS緩衝液(Cambrex)中1mg/mlプロトロンビン(実施例1の通りに得た)と
混合した。混合物のインキュベーションを37℃で1−3時間行った。次いで、サンプルをSDS−PAGEで分析して、プロトロンビンからトロンビンへの完全な変換に必要な組み換えエカリンの量を同定した。この方法により、我々は、組み換えエカリンが非常に強力であることを発見した;7000U/Lで1リットルのエカリン培養上清が、37℃で3時間以内に64グラムのプロトロンビンをトロンビンに変換することができた。通常組み換えにより製造したプロトロンビンは完全カルボキシル化プロトロンビンを不完全カルボキシル化プロトロンビンから分離するために精製しなければならない。しかしながら、本組み換えエカリンが完全カルボキシル化および不完全カルボキシル化プロトロンビンの両方を効率的に活性化できるため、本発明ではこれは必要ない。
【0048】
実施例4
トロンビンの精製
実施例3に記載の方法により得たトロンビンを、AEKTA-FPLC(GE Healthcare)および25mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5で平衡化したSP−セファロースHPカラム(GE Healthcare)を使用するカチオン交換クロマトグラフィー(CIEX)により精製した。実施例3の通りに製造したエカリン消化プロトロンビンをpH6.2および約8mS/cmの伝導性に調節した。トロンビンを、カラム平衡緩衝液中、20カラム容積にわたる1M塩化ナトリウム勾配で溶出した(
図8)。選択フラクションをSDS−PAGEにより分析した(
図9)。トロンビン活性を色素生産性トロンビン基質S−2238とのインキュベーションにより確認した(Chromogenix, Moelndal)。
【0049】
実施例5
得られたrh−トロンビンの分析
得られたトロンビンをさらに分析するために、色素生産性トロンビン基質S−2366(Chromogenix)を使用して動的パラメータを測定した。活性をヒルジンでの力価測定により概算した。全パラメータについてrh−トロンビンは次の通りであった;Haematologic Technologies Inc. (Vermont, USA)からの血漿由来ヒトα−トロンビンに類似する活性、K
katおよびV
max。
精製トロンビンをまたN末端配列決定に付した:還元トロンビン重および軽ポリペプチド鎖をSDS−PAGEにより分離し、Immobilon P膜(Millipor)にブロットした。摘出したバンドをEdman分解法により配列決定した。予想通り重鎖N末端の最初の5個のアミノ酸はIVEGSであると確認され、軽鎖の5個のN末端アミノ酸はTFGSであった。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]