特許第5661628号(P5661628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5661628人体の血液中血糖レベル変化を推定するための非侵襲性方法とその方法を実行する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661628
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】人体の血液中血糖レベル変化を推定するための非侵襲性方法とその方法を実行する装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1477 20060101AFI20150108BHJP
【FI】
   A61B5/14 332
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-524248(P2011-524248)
(86)(22)【出願日】2009年8月26日
(65)【公表番号】特表2012-500680(P2012-500680A)
(43)【公表日】2012年1月12日
(86)【国際出願番号】EP2009006178
(87)【国際公開番号】WO2010022926
(87)【国際公開日】20100304
【審査請求日】2012年8月24日
(31)【優先権主張番号】08015256.4
(32)【優先日】2008年8月29日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】08019159.6
(32)【優先日】2008年11月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511051904
【氏名又は名称】ゲリノヴァ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲーリック、モニカ
(72)【発明者】
【氏名】パラモノブ、ボリス、エー.
(72)【発明者】
【氏名】ツルコフスキ、イワン、イワノヴィチ
【審査官】 石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/053963(WO,A1)
【文献】 特開2003−339658(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/099522(WO,A2)
【文献】 国際公開第2007/075410(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145− 5/1477
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間間隔△t内で人体の血液中血糖レベルの変化△Gを推定する非襲性方法であって、
筋繊維の方向に平行な筋繊維を含む軟組織の一部を覆う前記人体の皮膚に接触させた状態で第1の4極性電極デバイスと、
筋繊維の方向を横断する前記軟組織の一部を覆う前記人体の皮膚に接触させた状態で第2の4極性電極デバイスを取付けるステップと、
時間間隔△tの間に、
前記第1の4極性電子デバイスにより低周波数で筋繊維の方向に平行な前記組織の伝導性値C‖,LFの相対変化△C‖,LF/C‖,LFと、
前記第2の4極性電子デバイスにより前記低周波数で筋繊維の方向を横断する前記組織の伝導性値C⊥,LFの相対変化△C⊥,LF/C⊥,LFを測定するステップと、
△Gを、
△C‖,LF/C‖,LF≒△C⊥,LF/C⊥,LFの場合 0.0、
△C‖,LF/C‖,LF>△C⊥,LF/C⊥,LFの場合 +a、
△C‖,LF/C‖,LF<△C⊥,LF/C⊥,LFの場合 −a、
として推定するステップを含み、
aは0.15〜1.0μM/L秒の範囲にあり、
前記低周波数は1×104Hz〜5×104Hzの範囲にあり、
“≒”は“+/−2.5%〜+/−7.5%の範囲内に等しい”を意味することを特徴とする非襲性方法。
【請求項2】
前記時間間隔△tは15秒以内であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時間間隔△tの間に、
前記第1の4極性電子デバイスにより高周波数で筋繊維の方向に平行な前記組織の伝導性値C‖,HFの相対変化△C‖,HF/C‖,HFと、
前記第2の4極性電子デバイスにより前記高周波数で筋繊維の方向を横断する前記組織の伝導性値C⊥,HFの相対変化△C⊥,HF/C⊥,HFを測定するステップと、
△Gを、
△C‖,LF/C‖,LF>△C⊥,LF/C⊥,LFかつ△C‖,HF/C‖,HF≒△C⊥,HF/C⊥,HFの場合 +a、
△C‖,LF/C‖,LF>△C⊥,LF/C⊥,LFかつ△C‖,HF/C‖,HF>△C⊥,HF/C⊥,HFの場合 +b
△C‖,LF/C‖,LF<△C⊥,LF/C⊥,LFかつ△C‖,HF/C‖,HF≒△C⊥,HF/C⊥,HFの場合 −a
△C‖,LF/C‖,LF<△C⊥,LF/C⊥,LFかつ△C‖,HF/C‖,HF<△C⊥,HF/C⊥,HFの場合 −b
として推定するステップをさらに含み、
aは0.15〜0.5μM/L秒の範囲にあり、
bは0.3〜1.0μM/L秒の範囲にあり、
前記高周波数は0.5×106Hz〜5×106Hzの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記4極性電極デバイスは一対の内側電極及び一対の外側電極を備え、前記インピーダンス値を得るために前記低周波数又は前記高周波数を有する交流電流が前記4極性電極デバイスの一対の電極の1つに加えられ、このような電流によりもたらされる交流電圧が前記一対の電極の他の一の電極で測定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記軟組織の一部を覆う前記人体の皮膚に接触させた状態で温度センサを取付けるステップと、
前記皮膚の温度Tを測定するステップと、
前記伝導性値を因数fにより補正するステップをさらに含み、
前記因数fは温度低下の場合の低減因数であり、
前記因数fは低周波数測定に対してT0からの温度差1°C当たり4.5〜6.5%であり、
0は前記軟組織の一部を覆う前記人体の皮膚の予め測定した温度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記因数fは高周波数測定に対してT0からの温度差1°C当たり1.5〜2.5%であることを特徴とする請求項3及び5に記載の方法。
【請求項7】
皮膚の測定温度Tはデジタル化され、前記因数fによる伝導性値の補正が計算により実行されることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記筋繊維の方向に平行な筋繊維を含む軟組織の一部を覆う前記人体の皮膚に接触させた状態で第1の4極性電極デバイスと、
前記筋繊維の方向を横断する前記軟組織の一部を覆う前記人体の皮膚に接触させた状態で第2の4極性電極デバイスを取付けるステップは、
放射状に対照的な配列を形成する8本の軸に沿う前記軟組織の一部を覆う前記人体の皮膚に接触させた状態で8つの4極性電子デバイスを取付けるステップと、
最小の伝導性を備える軸と最大の伝導性を備える軸を定義するために前記8つの4極性電子デバイスそれぞれに対する前記組織の伝導性値を測定するステップと、
最大の伝導性を備える軸に沿う前記4極性電極デバイスを前記第1の4極性電極デバイスとして使用するステップと、
最小の伝導性を備える軸に沿う前記4極性電極デバイスを前記第2の4極性電極デバイスとして使用するステップと、
を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記4極性電極デバイスは、相互に横断する方向に固定して配置されることを特徴とする第1の4極性電極デバイス及び第2の4極性電極デバイスを有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を実行する装置。
【請求項10】
放射状に対照的な配列を形成する8本の軸に沿って配置される8つの4極性電極デバイスを有する請求項8に記載の方法を実行するための請求項9に記載の装置。
【請求項11】
交流電流を発生する手段を有する請求項9〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記4極性電極デバイスの中心に位置する温度センサを有する請求項6の方法を実行するための請求項9〜11のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人の血液中血糖レベル変化△Gを推定するための非襲性方法とその方法を実行する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々の血液中血糖レベルの非襲性推定方法及び装置が知られている。即ち、レーザ光の分散と吸収、組合せ(Raman)分散(米国特許7054514,7454429,5448992),核磁気共鳴(NMR)方法(米国特許7295006)及びインピーダンス分光法(米国特許2002/0155615,RU2001/115028)が知られている。このような技術に基づく測定装置は非常にコストがかかり、今後も高コストであると予測される。従って個人の利用者にとっては、高コストが故に利用することができない。
【0003】
厳密に言えば、血液中血糖レベル推定の間接的な特徴ではあるが、大衆が利用でき、期待できる方法として、インピーダンス法又は導電率測定法が考えられる。このような方法は、組織の電気量と血液中血糖濃度との間の関連性の存在を前提にしている。しかしながら、天然組織の電気的パラメータは、グルコースや他の物質の維持に直接依存するのみならず、それらの水和反応の条件にも依存している。これら全ての既知の生理学的機序にもかかわらず、好ましい、信頼できる、伝導性測定に基づいて動作する非襲性の血糖測定器はなお存在しない。
【発明の概要】
【0004】
従って本発明の目的は、導電率測定法に基づいて、人の血液中血糖レベル変化の信頼できる非襲性推定方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、その発明の方法を実行する低コストの装置を提供することである。
【0005】
上記及び他の目的は、請求項1に記載の方法、および請求項10に記載の装置により達成される。発明を実行する好適な方法及び発明の装置の好適な実施例は従属項に記載される。
【0006】
人の血液中血糖レベル変化を推定するために、本発明は、血糖レベルと順に相関する細胞外液の浸透圧の変化により引き起こされる、細胞外及び細胞内の区画間の流体移動による筋肉組織の間質液区画の体積変化を用いる。細胞外液は、間質液の他に血液とリンパを含む。このような血糖レベルは全てほとんど同じである。
【0007】
生物学的区画内の生体液の浸透圧は、原形質膜に対して浸透活性がありかつ浸透性の弱い物質の濃度に左右される。区画の1つにこのような物質が蓄積し、区画間の水の再分配により自らの利となるように浸透性レベルを均一にする。このような物質は、“水を身にまとう”。グルコースは、人体の中のこれらの物質の1つである。細胞膜は、グルコースに対し低い浸透性を有する。グルコースは、細胞外区画に留まり、細胞に入るには相当の時間を要する。
【0008】
血漿を含む細胞外液の血糖レベルの変化は、非常に大きい。グルコースが血液に溶解する状態では、有機体はモバイルパワーリザーブを作成しないが、これは伝統的な生理学的説明によれば、溶解したグルコースが血液の浸透圧を強く引き上げるためである。従って、成体の組織液が約15gのグルコースを含有することを考慮すれば、有機体に数十分を超えないパワーを供給するだけで十分である。浸透圧の観点からの同じ数値は、約300に対して5〜6mM/L(mM/Lはリットル当たりのミリmolを表わす)であり、即ち2%に達する。我々の有機体内では、浸透圧の均一性は正確に2%の範囲内に維持される。即ち、血漿の浸透性が2%を超えるまたは未満の変動制限を受ける時、有機体は、保水又は減水の仕組みが働く。つまり、形成される二次的な尿が、基本的に低浸透圧又は高浸透圧となる。一方、多量の下痢、嘔吐、利尿薬及び同類の物の服用等例外を除けば、我々は炭水化物の形で1日に400g以上少なくとも2.5モルのグルコースを摂取する。その結果、血液中のグルコースが1日に25〜30回“修復”され、非常に動的である。
【0009】
他方、細胞内では、血糖濃度はむしろ安定的かつ低レベル即ち1〜1.2mM/Lに維持される。細胞の中に入った後グルコース分子はリン酸化し、グルコース−6−リン酸となり、それは順次、解糖反応により“燃え落ちる”、又は重合して高分子グリコーゲンを形成する。
【0010】
実際、いかなる別の非“グルコース”因子によって細胞外区画の浸透性が増加する場合も同様になる。例えば、ナトリウムがそのような因子である。しかしながら、ナトリウムにより血漿浸透性を2%引き上げるために、約2.5〜3gの塩化ナトリウムの1日の摂取量の半分を摂取することが必要である。通常、我々は食卓塩を数グラムも摂取しないし、数10分の間に同量の電解質を失うこともない。しかし通常の食べ物、単に1個のおいしいケーキが、極めて通常(“習慣的な”)かつ“例外的”ではない状況の下で、まさしく上述する細胞外区画浸透性の変化をもたらす。自由アミノ酸が血液に侵入し、そこからその濃度が血液中mM/Lレベルに高い不変性で維持されるように使われる。脂肪酸はコロイドを形成してその浸透圧を“隠し”、自由分子の形で血液中にほとんど完全に存在しなくなる。細胞外液のミネラル成分はその浸透圧レベルの大部分を占めるが(95%以上)しかしそれは生体の中ではむしろ安定に維持されており、その日常の循環はほとんどない。多くの例を挙げることができるが、しかし結論は明確である。大部分グルコースが血液及び他の細胞外液の浸透圧の日較差の可変成分となる。
【0011】
結果として、細胞内のグルコースがむしろ一定レベルに維持され、基本的に細胞の外では変化する。それは間質区画体積の変動となる。細胞から細胞外区画へ移動する水によってグルコースが増大し間質液の体積も増大し、細胞の内側及び外側の生体液の浸透圧を均一にする。
【0012】
間質液区画体積の変動は、本発明に従い、筋繊維を含む軟組織の一部を覆う人の皮膚に接触させた状態で取り付けられる電極を使って、非襲性の伝導性測定により検知される。
【0013】
伝導性測定は、少なくとも比較的低い周波数1×104Hz〜5×104Hzを有する交流電流を用いて実行される。細胞膜の高活性キャパシタンス抵抗により、このような周波数の電流は主にイオン電流であり、このイオン電流は細胞や他の膜構造を包むほぼ細胞外空間に沿って拡がる。これらの大きさは、細胞外液の電解質組成物及びその体積や有効断面積の大きさに依存する。脱水状の凍結乾燥した組織は電気絶縁体であり、実際には電流が流れない。
【0014】
血液や細胞外液のリンパ成分は、血管を流れる。従って、測定される伝導性の一部は、本発明に対し関係する組織(特にクロスストライプ筋のような)の主に毛細血管の血管伝導性に起因する。しかしながら、人体において血管の体積は反射性液性調節の様々の生理学的機序により制御される。それは、血管中を循環する血液体積が一定になるように支援し、間質液区画体積とは異なり浸透圧や血糖レベルと相関しない。
【0015】
毛細血管の伝導性の悪影響を除くため、本発明は独立に2方向に、即ち筋繊維に平行に及び横断的に組織の伝導性を測定する。毛細血管の方向がばらばらであるため、血管の体積の変化に起因する伝導性の変化は両測定方向でほとんど差が出ない。他方、筋繊維の方向に平行な伝導性は、筋繊維に横断的な伝導性に比べ、間質液の体積で決定されるより大きな体積である。従って、間質区画の体積変化は、筋繊維に横断的な伝導性よりもより大きな影響を平行な伝導性に与える。
【0016】
このような関係を利用して、本発明は筋繊維の方向に平行に測定された伝導性の相対的変化が筋繊維に横断的に測定された伝導性の相対的変化より大きいか又は小さい場合、所定の期間△t内に(浸透圧の変化により、及び順次間質液の血糖レベルの変化により)影響を受けた間質区画の体積変化を推定する。筋繊維の方向に平行に測定された伝導性の相対的変化が筋繊維に横断的に測定された伝導性の相対的変化とほとんど同じの場合、このような変化は推定されない。後者の場合、伝導性相対変化は、血管の体積のみの変化に起因する。
【0017】
筋繊維の方向に平行に測定された伝導性の相対的変化が筋繊維の方向に横断的に測定された伝導性の相対的変化より大きい場合、間質液の血糖レベルの正変化を推定する。筋繊維の方向に平行に測定された伝導性の相対的変化が筋繊維の方向に横断的に測定された伝導性の相対的変化より小さい場合、間質液の血糖レベルの負変化を推定する。
【0018】
血糖レベル変化の絶対値は0.15〜1.0μM/L秒の範囲に推定される。
【0019】
上記伝導性変化は、15秒を超えない測定時間間隔△t、特に2〜12秒以内の十分な精度で測定できる。
【0020】
電極と皮膚表面の接触抵抗により測定された伝導性には別の悪影響がある。不運にも、このような抵抗もまた血液中血糖濃度に依存している。血液中血糖レベルの増加は、皮膚表面の乾燥を引き上げて接触抵抗が増加する。汗と水分が減少する。その結果、細胞外液体積の増加の結果測定される伝導性増加するが、接触抵抗の増加の結果減少する。
【0021】
接触抵抗の影響を除くため、本発明は1対の外側及び1対の内側電極を備える4極性電極配列を用いる。電流はこのような電極のひとつの対(好適には外側の対)に加えられ、他方、電極の他の対の間で電圧が測定される。接触抵抗の影響の除去は、両方の対の電極と皮膚表面との接触抵抗はほとんど差が無く、相互に補償し合うという事実に因る。当然のことながら、4極性電極は筋繊維に平行及び横断的な測定の両方に対して使われる。
【0022】
本発明を実行する好適な方法に従って、0.5×106Hz〜5×106Hzの範囲の比較的高い周波数を有する第2交流電流を追加使用して導電率測定法が実行される。このような周波数の電流は、原形質膜はこれらに対しほぼ透過的であり、そのような電流のサイズは全組織液,細胞内及び細胞外の有効断面積に依存するので、大部分がバイアス電流である。追加の高周波数測定も人の同一の組織の筋繊維の方向に平行及び横断的に実行され、4極性電極が使われる。
【0023】
測定される高周波数伝導性の相対的変化は、血糖レベル変化のより正確な推定を行うために使われる。筋繊維に横断的に測定された伝導性の相対的変化に較べて筋繊維の方向に平行に測定された伝導性の相対的変化が大きくなるあるいは小さくなることが高周波数の中でも認めることができる場合、血糖レベルのより大きな変化(通常それは低周波数測定で検知されるものである)が期間△t内にあるものと推定される。そうでなければ、即ち、そのような差が高周波数の中に発生しないとき、血糖レベルの変化はより小さいと想定される。
【0024】
血糖レベルの変化の絶対値は、変化が小さい場合は0.15〜0.5μM/L秒の範囲にあると推定され、変化が大きい場合は0.3〜1.0μM/L秒の範囲にあると推定される。
【0025】
低周波数測定と比較すれば、高周波数測定は全組織液に関し細胞外液の変化に対して低感度である。一方、電極/皮膚接触の重要性はより低い。本発明を実行するさらに好適な方法に従って、温度に依存する測定された伝導性値を補正するために、皮膚と接触する温度センサにより追加的に組織の一部の温度が測定される。
【0026】
一般的に、生体液のような電解質固有の伝導性は温度に依存する。温度が上昇するとイオンの伝導性が上昇する。さて、血液中グルコースの成長は、基本的タンパク同化ホルモンであるインスリンの放出を開始させる。異化作用は一時的に抑制され、結果として、体温が低下する。このことは伝導性に減少効果をもたらし、それは細胞外液の区画体積の増加により引き起こされる伝導性に対するグルコースの影響の増加に対し逆の効果となる。
【0027】
本発明は、温度センサにより測定スポットの近くの皮膚温度を測定し、温度補正因数を伝導性測定レベルに導入することにより、この影響を説明する。伝導性値を補正するために、高及び低周波数で異なる温度補正因数が使われる。高周波数の伝導性は、1°C当たり1.5〜2.5%の温度減少に伴い減少し、一方低周波数の伝導性は高周波数伝導性に対し2倍以上減少する。低周波数に対する温度補正因数は、4.5〜6.5%per°Cである。
【0028】
測定結果が信頼できるものとなるために、周囲温度は極端(例えば−5°C以下又は25°C以上)となるべきでなく、短時間に大きく変動するものであってはならない。第2温度センサは周囲温度測定のために使用することができ、例えばそのような場合に警告シグナルを出すように使うことができる。
【0029】
本発明に適した周波数範囲は、上述のように、低周波数に対しては、1×104Hz〜5×104Hzであり、高周波数に対しては、0.5×106Hz〜5×106Hzである。10KHz未満に低周波数を低下させることは、電極の極性や組織−電極間接触の属性に基づくインピーダンス依存度に起因して厳しい制限を受ける。10MHz以上に高周波数を増加させることは、誘導及びキャパシタ(ジェット)妨害を誘発する。伝導性は周囲の素子の位置、素子のサイズ及び伝導性に依存する。
【0030】
単に2つの4極性電極デバイスの代わりに8つの4極性電極デバイスを使うことは、人体組織の特定スポットにおける4極性電極デバイスの正確及び/又は最良の測定方向の発見に有効である。8つの4極性電極デバイスは放射状に対照的な配列を形成する8本の軸に沿った前記スポットにおいて前記人の皮膚に接触させた状態で取り付けられる。前記組織の伝導性値は、前記8つの4極性電極デバイスのそれぞれを用いて計測され、最小の伝導性及び最大の伝導性を備える軸を特定する。最大の伝導性を備える軸に沿って配置する4極性電極デバイスは、筋繊維の方向に沿う測定に使用される。同様に、最小の伝導性を備える軸に沿って配置する4極性電極デバイスは、筋繊維の方向を横断する測定に使用される。
【0031】
このように、組織の伝導性の異方性を反映した正確及び/又は最良の測定方向は、(筋肉又は血管の)解剖学的ランドマークによる先験性を用いること必要とせず、実際の観察に基づく測定結果として得られる。このように、本発明の方法の適用を求める組織のスポットにおいて、前記解剖学的ランドマークについて知識のない人々によっても、本発明の方法を正しく適用することができる。
【0032】
添付図面を参照して、本発明の実施例、本発明を実行する好ましい方法を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】2つの伝導性センサを有する本発明のブロック図である。
図2】測定サイクルを示すタイムチャートである。
図3図1の装置の2つの伝導性センサのいずれか1つを示す図である。
図4】2つの伝導性センサの電極の好適な幾何学的相対配置を示す図である。
図5図1の装置の少なくとも1部をカフにより装着した患者の腕を示した図である。
図6】従来の襲性測定システムにより得られるデータと比較して本発明に従って得られる3人の患者の血糖レベル変化を示すタイムチャートである。
図7】従来の襲性測定システムにより得られるデータと比較して本発明に従って得られる3人の患者の血糖レベル変化を示すタイムチャートである。
図8】従来の襲性測定システムにより得られるデータと比較して本発明に従って得られる3人の患者の血糖レベル変化を示すタイムチャートである。
図9】本発明の好適な実施例で使用する合計8個の伝導性センサの電極の好適な幾何学的相対配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1の装置は、デジタル信号処理装置(DSP)1,ランダムアクセスメモリ(RAM)2,リードオンリメモリ(ROM)3,コンピュータ入出力(インターフェイスRS232)4,A/D変換器(ADC)5,マルチプレクサ(MUX)6,直交検出器7,ダブル周波数発振器8,デジタルポテンショメーター9,電流センサ10,2個の伝導性センサスイッチ11a及び11b,2個の差動増幅器12,/1及び12/2,2個の伝導性センサ13及び14、及び2個の温度センサ15及び16を備えている。
【0035】
デジタル信号処理装置1は測定処理を行い、A/D変換器5から入力される測定結果を受け入れ、信号の予備処理を行い、それを外部コンピュータあるいはPDA(図示せず、装置の一体部分ではない)へとインターフェイス4を介して伝送する。処理装置動作プログラムは、再プログラム可能なROM3に記憶されている。
【0036】
装置は以下のように動作する。発振器8が交流電圧を交互にF1(30khz)及びF2(1MHz)周波数で形成する。このような電圧が、デジタルポテンショメーター9、電流センサ10及びセンサ13と14の電流入力電極“IN”(図3)に対して電圧を交互に接続するスイッチングデバイス11aに加わる。さらに、発振器8は、同期化のために直交検出器7に加えられる制御信号を形成する。
【0037】
処理装置1により制御されるデジタルポテンショメーター9は、個人の初期皮膚接触抵抗に適した伝導性センサ13及び14の通電電極“IN”(図3)の電圧の大きさを自動的に維持する。これにより、伝導性測定のダイナミックレンジが拡張し、測定精度が向上する。
【0038】
伝導性センサ13及び14の中央電極“OUT”(図)からの信号は、差動増幅器12により増幅され、第2伝導性センサスイッチ11bを介して、直交検出器7のU〜により特定される入力の1つに入る。通電電極“IN”(図3)の電流に比例する電圧は、直交検出器7のI〜により特定される第2入力に対し電流センサ10から加えられる。
【0039】
直交検出器7には、4つの出力がある。U02により特定される出力において、直交検出器7は、時間t0においてU〜により特定される入力でAC信号の2乗に比例するDC信号を提供する。Uπ/22により特定される出力において、直交検出器7は、時間tπ/2においてU〜により特定される入力でAC信号の2乗に比例するDC信号を提供する。I02により特定される出力において、直交検出器7は、時間t0においてI〜により特定される入力でAC信号の2乗に比例するDC信号を提供する。Iπ/22により特定される出力において、直交検出器7は、時間tπ/2においてI〜により特定される入力でAC信号の2乗に比例するDC信号を提供する。
【0040】
このようなDC信号は、デジタル化されたマルチプレクサ(MUX)6及びA/D変換器(ADC)5を介してデジタル信号処理装置(DSP)1へ入力する。2つの温度センサ15と16からの連続する電圧もまたマルチプレクサ6及びA/D変換器5を介して、デジタル化されてデジタル信号処理装置(DSP)1へ入力する。
【0041】
デジタル信号処理装置(DSP)1は直交検出器7の4つの出力信号から以下に示すように平均値を計算する。
=SQRT(U02+Uπ/22
=SQRT(I02+Iπ/22
このような平均値U及びIから以下の式により伝導性値を計算する。
C=
【0042】
このような伝導性値は、温度センサ15により得られる温度値を使ってさらに補正される。
【0043】
温度センサ16により得られる温度値に応じて、警告信号はデジタル信号処理装置(DSP)1によって作成されてもよい。
【0044】
装置は周期的に動作する。図2は全サイクルと以下のサイクルの一部を示す。
【0045】
直交検出器7の入力U〜が第2伝導性センサスイッチ11bによりセンサ13に接続されて、あるサイクルが始まる。先ずダブル周波数発振器8は、第1伝導性センサスイッチ11aによりセンサ13へ加えられる周波数F1を生成する。次いで、ダブル周波数発振器8は第1伝導性センサスイッチ11aによりセンサ13へ加えられる周波数F2を生成する。温度センサ15と16からそれぞれ以下のような温度値が得られ、これによりサイクルのうち前半のサイクルが終了する。後半のサイクルでは、周波数F1とF2が第1伝導性センサスイッチ11aによりセンサ14に対し加えられるという違いはあるが、前半のサイクルの個々のステップが繰り返される。加えて、直交検出器7の入力U〜も第2伝導性センサスイッチ11bによりセンサ14に接続される。
【0046】
データ記憶、すでに収集したデータの予備処理、コンピュータへのデータ伝達もまた、図2に示されるように実施される。
【0047】
図2の例では、両センサによる全サイクルの高及び低周波数伝導性測定には12秒要する。ここで、このサイクルは例示的なものであるが、数秒のみに短縮できる。
【0048】
装置は、充電可能のバッテリでパワー供給される。
【0049】
4極性電極配列は、両伝導性センサ13と14のために使われる。そのようなタイプのセンサの“IN”と“OUT”電極の相対位置が図3に示されている。図4は共通平面ベースの両センサ13と14の4極性電極の好適な相互垂直配置を示している。温度センサ15は同一ベースの8電極の中心に位置している。ベースは、例えば患者の腕に取り付けるのに適したカフにより形成されても良い。
【0050】
図5には、カフ17が取り付けられる患者の腕を示す。患者の腕には、カフ17とともに、皮膚と接触するカフの内側のセンサ13、14の見えない電極、及び見えない温度センサ15が取り付けられる。カフ17の外側には小型ケース18が設けられ、小型ケース18はバッテリとともに発明装置の上記電子部品を好適に収納する。記載するコンピュータへのデータの伝送は、ケースとコンピュータ間のケーブル接続又は無線を介して達成される。
【0051】
ここで、腕による測定は一例であり、軟筋肉組織で覆われる人体の他の部位での測定も可能である。
【0052】
特に、上記実施例において、本発明の装置は、容易に持ち運びが可能であり、夜間あるいは睡眠時間を含む長時間の持ち運びにも深刻な支障は生じない。それにより、測定サイクルは安定して繰り返される。
【0053】
血液中血糖レベルの変化がモニタされ、タイムチャートに示されるように好適に記憶されるところから説明する。図6〜8は、本発明に従ってそれぞれ数時間に亘り得られる2型糖尿病の3人の患者の血糖レベルの変化を示すタイムチャートである。座標の横軸は、時間[単位]を表わす。座標の縦軸は、mmol/L単位の血糖濃度を表わす。
【0054】
尚、本発明は、血糖レベルの変化を提供するが、絶対値を提供するものではない。絶対値を得るためには、いくつかの較正が必要だが、例えば測定期間の開始時に標準襲性方式により実行することができる。
【0055】
図6〜8には、よく知られ広く使われているACCUCHECK(登録商標)システムにより得られる血糖値が比較のために示されている。
【0056】
図6は、49歳の女性患者により実行される血糖負荷試験を示している。患者は、9時51分〜9時52分の間に、130mlの水に対し、70gのグルコースを摂取した。
【0057】
図7は、食後の10時40分〜10時48分の間の、81歳の男性患者の血液中血糖レベルの変化を示している。
【0058】
図8は、食後の10時00分〜10時05分の間の、69歳の女性患者の血液中血糖レベルの変化を示している。
【0059】
図6〜8のカーブは、本来段差のあるカーブではあるが、理論値に沿う滑らかな血糖レベル変化の全体の傾向を良く表わしている。
【0060】
既に述べたように、図4は、共通の平面ベースのセンサ13と14の4極性電極の好適な相互配置を示している。図9は、本発明のより好ましい実施例に基づく共通平面ベースの合計8つのセンサの4極性電極の配置を示している。8つのセンサの各4つの電極は、放射状に対照的な配列を形成する8本の軸a−hに沿って配置される。さらに温度センサ15は、その回転軸の配列の中央に位置し、その中心は全ての4極性電極デバイスの中心でもある。図4及び図5に示すように、ベースは患者の腕に取り付けられるのに適したカフ17により形成すされてもよい。
【0061】
図9の構成により、最も高い伝導性差異のある方向を自動的に見つけることができる。このため、最初のテスト測定が各軸a−hに沿って連続的に実行され、最大の伝導性の軸と最小の伝導性の軸が定義される。伝導性が最大となる軸に沿って配置されるセンサは、図1のセンサ13のように使われる。同様に、伝導性が最小となる軸に沿って配置されるセンサは、図1のセンサ14のように使われる。
【符号の説明】
【0062】
1:デジタル信号処理装置(DSP)
2:ランダムアクセスメモリ(RAM)
3:リードオンリメモリ(ROM)
4:コンピュータ入力−出力(インターフェイスRS232)
5:A/D変換器(ADC)
6:マルチプレクサ(MUX)
7:直交検出器
8:ダブル周波数発振器
9:デジタルポテンショメーター
10:電流センサ
11a:第1伝導性センサスイッチ(平行かつ横断的)
11b:第2伝導性センサスイッチ(平行かつ横断的)
12/1:差動増幅器
12/2:差動増幅器
13:伝導性センサ(C(1)平行)
14:伝導性センサ(C(2)横断的)
15:温度センサ(T(1)スキン)
16:温度センサ(T(2)周囲)
17:カフ
18:ケース
a−h:方向軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9