(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、光の屈折を変化させて視力を矯正するために複雑な前面と後面両方の特性を含むレンズ設計を、前面と後面のいずれか一方の表面上の複雑な設計及び同等の屈折特性を有する他方の表面上の単純な設計だけを含む設計に変換することを含む。あるいは、変換された設計は、視力を矯正するために複雑な前面と後面両方の特性を含むが、変換される前の設計より小さい複雑さを有してもよい。
【0011】
本発明のプロセスに適したコンタクトレンズなどのレンズは、複雑な幾何学形状を含むものである。複雑な設計を有するレンズは、高次収差を矯正するために使用するような、回転対称でも左右対称でもないものである。単純な設計は、球面設計又はトーリック設計(torric design)などの回転対称又は左右対称のものである。対象となる複雑な設計は、基本的な球体円筒処方分析(sphere-cylindrical prescriptive analysis)の他に、眼の波面分析、角膜トポグラフィ分析によって達成された既知の屈折矯正設計技術を適用することにより得られる設計でよい。本発明の最も好ましい実施形態において、再定義された複雑な表面は、両方の表面は非回転非対称であるが、プロセスが完了した後の後面は球体又は球面円柱である。これらのレンズ(本明細書ではレンズ1と呼ばれる)は、1つ又は複数の単純な表面を有する新しいレンズの元になるレンズである。
【0012】
本発明の一態様によれば、プロセスは、被験者の目に関する任意の角膜トポグラフィのエレベーション情報を取得することから始まる。このデータは、通常の設計技術を使用するレンズ1の設計に含まれる。トポグラフィ・データを取得するために任意の様々な方法を使用することができるが、トポグラフィ情報は、一般に、カスタマイズされたコンタクトレンズを設計する際に使用するのに適した形状に変換される。元のトポグラフィ・データは、角膜トポグラファ、ビデオケラトスコープ、及び類似又は同等の装置を使用して取得される。
【0013】
エレベーション・データは、レンズ又はレンズ成形型の表面を、CNC(コンピュータ数値制御)旋盤又は類似の製造システムを使用して仕上げることができる機構に容易に対応するように、直線状フォーマット、ポーラ・コンセントリック(polar concentric)フォーマット、又はらせん状フォーマットであってよい、グリッド・パターンに変換することができる。
【0014】
そのようなシステムの例には、ポリマーボタンの直接加工、フライス加工、レーザアブレーション/機械加工、射出成形インサート、又は変形可能な成形装置が挙げられる。
【0015】
最初に、エレベーション・データは、非屈曲状態のソフトコンタクト・レンズ・モデルに適用される。また、エレベーション・データを使用して、平均角膜表面に対する小さな変動を、後面のみ、前面のみ、又は表面と後面との組み合わせで表してもよい。次に、データは、レンズが眼上に置かれたときのソフト・レンズの屈曲(ラップ(wrap))を考慮することによって変換される。一般的に、ソフト・レンズの後面曲率は、例えば、それらが置かれる角膜の前面曲率より1〜1.5mm平らである。したがって、ソフトコンタクトレンズ表面又は成形型インサートの設計において元のトポグラフィ・データを利用するときに、個人の角膜のエレベーションとラップの両方の影響が考慮される。
【0016】
次に、屈曲変換されたエレベーション・データは、CNCグリッド・パターン上にマッピングされ、ソフトコンタクトレンズ又は成形型ツール面を作成するために利用されることがある。変換されたデータを利用する利点は、レンズの中心に関して回転対称であってもそうでなくてもよいグリッド・パターンで、厚さの変動を呈するレンズ(即ち、成形型インサート)を生成できることである。
【0017】
製造されたソフトレンズが、その下の角膜を適切に覆っている場合は、表面エレベーションの変動(角膜の平均球面の上下の)がかなり相殺される。このように、角膜の収差及び凹凸が相殺され、その結果、不規則な角膜トポグラフィによる光学収差がなくなる。
【0018】
目の全体の角膜トポグラフィを知ることにより、ソフトコンタクトレンズの最適な装着及び不規則な角膜トポグラフィによる眼球収差に関する多くの情報が得られるが、これは、目の全眼球収差を最良に矯正するのに十分なデータを提供しない。詳細には、水晶体レンズの非球面性、屈折率分布構造及び分散(ミスアラインメント)は、トポグラフィ測定では得られない。
【0019】
眼の光学波面測定は、例えば、交差円筒収差鏡(aberroscope)、点広がり又は線広がりによる目の変調伝達関数(MTF)を測定する装置、シャックハルトマン(Shack-Hartmann)グリッド装置、又は眼の光学波面を測定、評価、補間、若しくは計算する任意の類似の装置を使用して実行されてもよい。
【0020】
眼の光学波面情報は、角膜、水晶体レンズ、光学系の長さ、傾斜、目の要素の分散、非対称凹凸、及び非球面性を含む眼の光学要素に関するものである。また、光学波面測定値は、通常の設計技術を使用するレンズ1の設計にも含まれる。目全体の波面収差を知ることにより、多くの情報が得られるが、コンタクトレンズを最適に適合させるために使用されるデータは提供されない。
【0021】
全体の眼の波面収差の矯正を実現するために必要なレンズ表面エレベーション又は傾斜の変化は、後面のみ、前面のみ、又は前面と後面両方の何らかの組み合わせで実施されてもよい。必要な表面エレベーション又は傾斜の変化は、角膜トポグラフィの不規則性に適合しそれを矯正するのに必要なエレベーション変化を考慮する。ソフトレンズは、その下にある角膜の形状を覆うので、角膜トポグラフィと眼の波面収差によって決定された組み合わされたエレベーション変化は、後面のみ、前面のみ、又は前面と後面両方の何らかの組み合わせに適用されてもよい。本発明は、また、従来の球体円筒の規定情報を利用する。この情報は、必要に応じて、距離球体、距離非点収差円柱屈折力(cylinder power)及び軸、並びに近距離付加屈折力(near add power)を含む。本発明の一実施形態では、この情報は、従来の主観的屈折技術を使用して決定される。あるいは、球体、円筒及び軸は、波面の分析に基づいて決定される。これは、例えばシャックハルトマン波面データをゼルニケ(Zernike)係数項に縮小し、関連項を使用して球体、円筒及び軸情報を導き出すことによって行われてもよい。次に、そのようなゼルニケ項は、エレベーション・データに縮小され、レンズ表面に適用されてもよい。
【0022】
図1を参照すると、本発明による方法の一実施形態が示される。この好ましい実施形態では、トポグラフィ・データを生成するために角膜トポグラファが使用され、トポグラフィ・データは、次に、コンタクトレンズ後面を定義するために使用される。コンタクトレンズ後面は、それが置かれる角膜表面を補完するように成形される。このようにして、コンタクトレンズ後面及び角膜表面は、レンズが眼上にあるとき「手袋内の手」と同じように協力する。また、このトポグラフィにより定義された適合は、ほとんどの角膜光学収差を相殺する。また、この実施形態では、眼の全光学収差を測定するために波面センサが使用される。レンズの後面によって相殺される角膜による光学収差が、全光学収差から減算されて、正味残留光学収差が得られる。正味残留光学収差は、コンタクトレンズの前面の適切な設計によって補正される。また、コンタクトレンズ前面は、球体、円筒、軸及びプリズムを含む一次の従来の規定要素を補正するように設計される。このプロセスは、レンズ1の設計を定義する。
【0023】
レンズ1の設計が達成された後、光路差(又は、波面などの等価測定値)が得られる(本明細書ではOPD1と呼ばれる)。これは、所定の基準球体からレイトレーシングすることにより最良に達成される。Zemax(Zemax Development Corporation,Bellevue,WA)及びCodeV(Optical Research Associates,Pasadena,CA)プログラムなどの市販のコンピューターソフトウェアプログラムは、この目的に役立つが、当業者はまた、周知の屈折の法則とレンズとを利用する手動レイトレーシングを使用してこれらの値を取得することができる。
【0024】
好ましくは回転対称面である単純な表面を有する規準レンズ設計(本明細書ではレンズ2と呼ばれる)が選択される。このレンズに対して、OPD1を使用して適切な光学的諸特性を得るために、少なくとも1つの表面に修正が行われる。更に、規準レンズは、好都合な中心又は軸方向厚さを有するように選択される。レンズ2は、それ自体のOPD開始値を有する(本明細書ではOPD2と呼ばれる)。レンズ2をレイトレーシングする際、OPD1とOPD2との差を計算する反復プロセスが行われて、この差が、光が入るレンズ2の光学特性を適切に補正するのに必要な公差内にあるかどうかが判定される。レンズ全体のOPD1を達成するために、必ずしも単純なままとは限らないレンズ2の表面のエレベーション特性が変更されるようにレンズ2の軸方向厚さが調整される。このプロセスは、OPD差(OPD2−OPD1)が0に近づくか、いずれにしても波の20分の1未満になるまで繰り返される。このプロセスの結果、レンズ2が再形成され、その結果、それぞれの連続反復において、少なくとも1つの単純な表面を保ったまま光学素子がレンズ1に近づく。
【0025】
図4は、望ましい最終的な回転対称表面(このケースでは単純な表面)を有する事前定義されたコンタクトレンズ設計が使用されたレンズ表面プロファイルを示す。また、望ましいコンタクトレンズの中央厚さだけ表面が離された別の規準表面の使用も含む。OPDは、後の補正段階で計算され評価されるので、この段階で光学面は両方とも対称でよい。
【0026】
図2は、レンズ表面の少なくとも1つが単純な表面である設計に変換された複雑な前面と後面とからなるレンズ設計を比較する。この例では、前面と後面両方の光学ゾーンが非回転対称である。多数の経線が重なって示され、図の前面(下、凸状)部分と後面(上、凹状)部分の両方にサグ偏差(sag departure)が見える。非対称性は前面の外側部分の方が大きく、これは、回転安定化に使用されたレンズの部分だからである。したがって、レンズの凹状面に非対称性を確認するのはより困難である。
【0027】
図3は、レンズ設計1のコンタクトレンズに三次元レイトレースを通し、その結果を光路差(OPD1)として表すプロセスの結果を示す。この結果、上記で参照した元の2つの非回転対称で複雑な表面設計の屈折力とOPD(光路差)マップがここに示された「空気中レンズ」フォーマットが得られる。左側に示された屈折力データは、右側に示されたアルゴリズムで使用される等価OPDデータと比べて光学変化の視覚化を容易にする。
【0028】
図5は、規準レンズ表面を変更する前に
図4で使用された所定のレンズ設計を使用する光学レイトレースの結果の図形描写である。光路差は、「空気中レンズ」のOPD2データとして図形的に表される。この段階のレンズは、回転対称であるが、反復プロセスが完了したときに全ての視力/収差矯正を含む。
図6は、前述したような軸方向厚さの調整を計算するために、OPD1とOPD2との差の使用に基づいてレンズ表面を修正した結果を示す。
【0029】
図7及び
図8は、OPD1データとOPD2データとの差がゼロに近づくまでプロセスの反復工程が行われるときのレンズ幾何学形状を図形で示す。
図7では、反復補正工程による1ループと2ループの場合の、補正した単一の非回転対称な表面設計(補正された第2のレンズ)と元の2つの非回転対称な表面設計(第1のレンズ)のOPD差が示される。
図8では、反復補正工程の2回の反復後のレンズ2の「空気中レンズ」の屈折力とOPDマップが示される。レンズ1(
図2)の「空気中レンズ」の屈折力とOPDマップを比較すると、これらのマップが、事実上同一であり、光学設計がレンズ2に変換されたことが分かる。
図9は、回転対称な後面と非回転対称な前面とを有するレンズ2の最終的なコンタクトレンズ設計を示す。このケースでは、前面は、所望の補正を提供するように変更された。
【0030】
好ましい実施形態は、2つの複雑な表面から1つの複雑な前面と1つの単純な後面とを合わせたものに変換することである。このプロセスを使用することにより、視力を矯正するために光を屈折させるように設計された前面及び後面と、製造し易いレンズが得られる。
【0031】
本発明のレンズは、ハード又はソフトコンタクトレンズを製造するための適切ないかなるレンズ形成材料からも作成することができる。ソフトコンタクトレンズを形成する実例としての材料には、限定ではなく、参照により全体が本明細書に組み込まれた米国特許第5,371,147号、同第5,314,960号及び同第5,057,578号に開示されたものを限定ではなく含むシリコン・エラストマー、シリコーン含有マクロマー、ヒドロゲル、シリコーン含有ヒドロゲル等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。より好ましくは、表面はシロキサンであるか、又はポリジメチルシロキサンマクロマー、メタクリルオキシプロピルシロキサン(methacryloxypropyl siloxanes)、及びこれらの混合物、シリコンヒドロゲル若しくはヒドロゲルを含むがこれらに限定されないシロキサンの機能性を有する。実例としての材料には、アクアフィルコン(aquafilcon)、エタフィルコン(etafilcon)、ゲンフィルコン(genfilcon)、レンフィルコン(lenefilcon)、センフィルコン(senefilcon)、バラフィルコン(balafilcon)、ロトラフィルコン(lotrafilcon)又はガリーフィルコン(galyfilcon)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
レンズ材料の硬化は、任意の好都合な方法で行ってもよい。例えば、この材料は、成形型に入れ、熱、放射線、化学物質、電磁放射線硬化等、及びこれらの組み合わせにより硬化させることができる。好ましくは、成型は紫外線又は可視光線の全スペクトルを利用して行われる。より具体的には、レンズ材料を硬化させるのに適した正確な条件は、選択した材料及び形成すべきレンズによって決まる。適切なプロセスは、参照によって全体が本明細書に組み込まれた米国特許第4,495,313号、同第4,680,336号、同第4,889,664号、同第5,039,459号及び同第5,540,410号に開示されている。
【0033】
本発明のコンタクトレンズは、任意の好都合な方法で行ってもよい。このような方法の1つは、成型インサートを作るために旋盤を利用する。成型インサートも同様に成形型を作るために利用する。続いて、適切なレンズ材料が成形型の間に入れられ圧縮され、本発明のレンズを形成するために樹脂の硬化を行う。当業者は、他の多くのいかなる既知の方法でも、本発明のレンズを製造するために利用可能であることを認識するであろう。
【0034】
本発明の種々の好ましい実施形態を述べてきたが、当業者は、述べた構成が本発明の原理の単なる実例であり、下記で請求されるような本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく装置の他の構成及び変形が可能であることを理解するであろう。
【0035】
〔実施の態様〕
(1) レンズを設計する方法であって、
a)複雑な前面と後面とを有するレンズ設計を得る工程と、
b)a)の前記レンズ設計の光学特性を決定する工程と、
c)少なくとも1つの単純な表面を有する第2のレンズ設計を得る工程と、
d)前記第2のレンズを再定義して、そのようなレンズのエレベーション特性が、b)で得られた前記光学特性をレンズに提供し、前記レンズの少なくとも1つの表面が単純になるようにする工程と、を含む、方法。
(2) 前記光学特性が、OPDによって定義される、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記光学特性が、波面測定によって定義される、実施態様1に記載の方法。
(4) 工程d)が、反復プロセスで行われる、実施態様1に記載の方法。
(5) 角膜トポグラファ及びビデオケラトスコープの一方を使用して、人の目の角膜トポグラフィ情報を取得する工程を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(6) 波面センサを使用して前記目の全光学収差を測定する工程を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(7) レンズを設計する方法であって、
a)複雑な前面と後面とを有するレンズ設計を得る工程と、
b)a)の前記レンズ設計の光学特性を決定する工程と、
c)少なくとも1つの単純な表面を有する第2のレンズ設計を得る工程と、
d)前記第2のレンズを再定義して、そのようなレンズのエレベーション特性が、b)で得られた前記光学特性をレンズに提供し、前記レンズの少なくとも1つの表面が単純になるようにする工程であって、そのような特性が、前記レンズの厚さを変更することにより得られる、工程と、を含む、方法。
(8) 前記光学特性が、OPDによって定義される、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記光学特性が、波面測定によって定義される、実施態様7に記載の方法。
(10) 工程d)が、反復プロセスで行われる、実施態様7に記載の方法。
【0036】
(11) 角膜トポグラファ及びビデオケラトスコープの一方を使用して、人の目の角膜トポグラフィ情報を取得する工程を更に含む、実施態様7に記載の方法。
(12) 波面センサを使用して前記目の全光学収差を測定する工程を更に含む、実施態様7に記載の方法。
(13) 前面と後面とが複雑であり、光路差が、レイトレーシングによって決定される、実施態様7に記載の方法。
(14) コンタクトレンズを設計するためのシステムであって、
a)人の目の角膜トポグラフィ情報を取得するための角膜トポグラファと、
b)波面測定装置と、
c)前記角膜トポグラフィ情報及び波面測定値を利用して、前記コンタクトレンズのそれぞれ複雑な形状を有する前面と後面を定義する装置と、
d)c)のレンズ設計の光学特性を決定し、少なくとも1つの単純な表面を有する第2のレンズを再定義して、それにより、そのような第2のレンズのエレベーション特性が、b)で得られた前記光学特性をレンズに提供し、前記レンズの少なくとも1つの表面が単純になるようにする装置と、を含む、システム。
(15) 工程c)を行うようにプログラムされた汎用コンピュータを含む、実施態様14に記載のシステム。
(16) 工程d)を行うようにプログラムされた汎用コンピュータを含む、実施態様14に記載のシステム。
(17) 実施態様1に記載のプロセスを使用して作成されたレンズ。
(18) 実施態様7に記載のプロセスを使用して作成されたコンタクトレンズ。
(19) 実施態様14に記載のシステムを使用して作成されたコンタクトレンズ。
(20) コンタクトレンズを含む、実施態様17に記載のレンズ。