(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661755
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】リップと二次切れ刃との間に負の軸方向すくい角の移行部を有するツイストドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20150108BHJP
【FI】
B23B51/00 S
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-516093(P2012-516093)
(86)(22)【出願日】2010年5月11日
(65)【公表番号】特表2012-529998(P2012-529998A)
(43)【公表日】2012年11月29日
(86)【国際出願番号】US2010034313
(87)【国際公開番号】WO2010147715
(87)【国際公開日】20101223
【審査請求日】2013年5月10日
(31)【優先権主張番号】12/485,166
(32)【優先日】2009年6月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399031078
【氏名又は名称】ケンナメタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ、スティーブン、エム.
【審査官】
足立 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−093805(JP,A)
【文献】
特開平02−124210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00−51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピース内に穴を形成するためのドリルであって、前記ドリルが、
a)長手方向軸線に沿って延びる本体と、
b)前記本体に沿って延びる少なくとも1つのフルートと、
c)前記本体の端部から延びるドリル先端であって、前記長手方向軸線を中心とする周囲及び端部セグメントを有するドリル先端と、
を備え、各端部セグメントが、
1)前記長手方向軸線から外側にチゼルエッジ外端まで延びるチゼルエッジと、
2)前記周囲から内側に延びる一次切れ刃と、
3)前記チゼルエッジ外端から外側に延びる二次切れ刃であって、正又は中立の軸方向すくい角を有する二次切れ刃と、
4)前記一次切れ刃と前記二次切れ刃とを接続する三次切れ刃であって、負の軸方向すくい角を有する三次切れ刃と、を備え、
前記本体の周囲がドリル外径を画定し、前記本体の前記端部から見ると、前記三次切れ刃が、前記ドリル外径の5〜20%の半径を有する半径方向円弧を有する、ドリル。
【請求項2】
前記三次切れ刃の前記軸方向すくい角が−5〜−15度である、請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記三次切れ刃の前記軸方向すくい角が約−10度である、請求項2に記載のドリル。
【請求項4】
前記半径方向円弧の前記半径が前記ドリル外径の10%である、請求項1に記載のドリル。
【請求項5】
側面から見ると、前記三次切れ刃が軸方向円弧を有する、請求項1に記載のドリル。
【請求項6】
前記軸方向円弧に沿った前記軸方向すくい角が前記軸方向円弧に沿って約6〜9度で変化する、請求項5に記載のドリル。
【請求項7】
側面から見ると、前記三次切れ刃が真っ直ぐである、請求項1に記載のドリル。
【請求項8】
前記二次切れ刃が0〜10度の軸方向すくい角を有する、請求項1に記載のドリル。
【請求項9】
前記一次切れ刃の後方のクリアランスをさらに含む、請求項1に記載のドリル。
【請求項10】
前記一次切れ刃の後方に第1の逃げ面があり、前記第1の逃げ面が前記チゼルエッジから前記本体に向かって角度がつけられて延び、前記第1の逃げ面が第1のクリアランスを画定する、請求項9に記載のドリル。
【請求項11】
前記第1の逃げ面の後方に第2の逃げ面があり、前記第2の逃げ面が前記チゼルエッジから前記本体に向かって角度がつけられて延び、前記第2の逃げ面が第2のクリアランスを画定する、請求項10に記載のドリル。
【請求項12】
前記ドリルの前記本体が2つのフルートを有する、請求項1に記載のドリル。
【請求項13】
前記一次切れ刃が、前記フルートの向きに基づく軸方向すくい角を有する、請求項1に記載のドリル。
【請求項14】
長手方向軸線に沿って延びる本体と、前記本体に沿って延びる少なくとも1つのフルートと、前記本体の端部から延びるドリル先端とを有するドリルを製造するための方法であって、前記ドリル先端が、前記長手方向軸線を中心とする周囲及び端部セグメントを有し、各端部セグメントが、前記長手方向軸線から外側にチゼルエッジ外端まで延びるチゼルエッジと、前記周囲から内側に延びる一次切れ刃と、前記チゼルエッジ外端から外側に延びる二次切れ刃であって、正又は中立の軸方向すくい角を有する二次切れ刃と、前記一次切れ刃と前記二次切れ刃とを接続する三次切れ刃であって、負の軸方向すくい角を有する三次切れ刃とを備え、前記本体の周囲がドリル外径を画定し、前記本体の前記端部から見ると、前記三次切れ刃が、前記ドリル外径の5〜20%の半径を有する半径方向円弧を有し、前記方法が、
a)1つの研削工程において、前記二次切れ刃の前記すくい角を形成するギャッシュを研削するステップと、
b)別の研削工程において、前記二次切れ刃の部分を研削して、負の軸方向すくい角を有する三次切れ刃を形成するステップと、
を含む方法。
【請求項15】
前記二次切れ刃を研削して、前記三次切れ刃を形成する前記ステップが、−5〜−15度の前記三次切れ刃の軸方向すくい角を形成するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記三次切れ刃の前記軸方向すくい角が約−10度になるように研削される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツイストドリル、特に、ツイストドリルのドリル先端の一次切れ刃(リップ)と二次切れ刃との間の移行部に関する。
【背景技術】
【0002】
ツイストドリルは、典型的に、このようなドリルで得られる比較的複雑な形状を形成するために、ブランクを中心に所定のパターンで移動される研削砥石を利用する研削動作によって製造される。特に、フルートとそのフルートに隣接する関連するギャッシュとを形成することによって、ドリル先端の主面が得られる。
【0003】
図1〜
図3を参照すると、典型的な先行技術のドリル5は、長手方向軸線15に沿って延びる本体10と、その本体10の端部12から延びるドリル先端20とを有する。第1の研削動作によって形成された少なくとも1つのフルート25は、本体10に沿って延び、ドリル先端20で終端する。フルート25とドリル先端20との交点は一次切れ刃又はリップ30を形成する。さらに、ドリル先端20は、長手方向軸線15から外側にチゼルエッジ外端40まで延びるチゼルエッジ35によって画定される。チゼルエッジ外端40から二次切れ刃45が延びている。この二次切れ刃45は第2の研削動作によって形成され、この第2の研削動作により、ギャッシュ50が形成され、そして二次切れ刃45が形成されるだけでなく、二次切れ刃45に正の軸方向すくい角も設けられる。
図1〜
図3に示したドリル5は一対のフルート25と一対の一次切れ刃30と一対の二次切れ刃45とを有する。明瞭にするために、ドリルの1つのみの側面について説明し、したがって、他の組の要素が対の第1の組の要素と対称であることを理解した上で、一組の要素のみについて説明する。
【0004】
リップ又は一次切れ刃30は、フルート25を形成するために使用される同じ研削工程(pass)によって形成され、二次切れ刃45は、ギャッシュ50を同時に形成する第2の研削工程によって形成される。しかし、これにより、一次切れ刃30と二次切れ刃45との交点に形成される不連続部55が生じる。この不連続部55の結果として、ドリルが方向Rに回転するときに不連続部55がワークピースに接触し、材料が不連続部55を中心に蓄積して、望ましくない隆起エッジ(built−up edge)を形成する。この隆起エッジは、切削動作を妨げるだけでなく、ドリル先端の表面を長時間にわたって熱劣化させる集中熱源としても作用する。
【0005】
典型的に、一次切れ刃30は、0〜10度の軸方向すくい角Yを有してもよく、一方、二次切れ刃45は、フルートのねじれ角に依存する正の軸方向すくい角を有する。真っ直ぐなフルートについて、ねじれ角はゼロとなる。これらの2つの切れ刃の関係に応じて、不連続部55は更に大きくなる。一次切れ刃30が、大きな正の軸方向すくい角を有し、二次切れ刃45が中立又は正のすくい角を有する場合、これらの2つの切れ刃の交点が、より突出した不連続部55を形成し、隆起エッジ(built−up edges)を形成しやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一次切れ刃の正のすくい角と二次切れ刃のすくい角とによって提供される利点を提供し、さらに、これらの望ましいドリルの特徴に対して逆効果となる不連続部を生じさせないこのような利点を提供し続けるための設計が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ワークピース内に穴を形成するためのドリルは、長手方向軸線に沿って延びる本体と、その本体に沿って延びる少なくとも1つのフルートと、本体の端部から延びるドリル先端とを有する。ドリル先端は、長手方向軸線を中心とする周囲及び端部セグメントを有する。各セグメントは、長手方向軸線から外側にチゼルエッジ外端まで延びるチゼルエッジと、周囲から内側に延びる一次切れ刃と、チゼルエッジ外端から外側に延びる二次切れ刃であって、正又は中立の軸方向すくい角を有する二次切れ刃と、一次切れ刃と二次切れ刃とを接続する三次切れ刃であって、負の軸方向すくい角を有する三次切れ刃とを有する。
【0008】
このようなドリルを製造するための方法は、1)1つの研削工程において、二次切れ刃のすくい角を形成するギャッシュを研削するステップと、2)別の研削工程において、二次切れ刃の部分を研削して、負の軸方向すくい角を有する三次切れ刃を形成するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来のドリル先端を有するツイストドリルの先行技術の斜視図である。
【
図2】
図1に示したツイストドリルの端部の拡大図である。
【
図3】
図1に示したツイストドリルの端面図である。
【
図4】本発明によるツイストドリルの斜視図である。
【
図5】
図4に示したドリルのドリル先端の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図4及び
図5は、本発明によるドリルの斜視図を示している。一方、
図6は、本発明によるドリルの端面図を示している。
【0011】
特に、
図4〜
図6は、ワークピース内に穴を形成するためのドリル105を示している。ドリル105は、長手方向軸線115に沿って延びる本体110を有する。少なくとも1つのフルート120が本体110に沿って延びる。しかし、本発明は、最大4つのフルートを有するドリルに適用可能である。上述のように、明瞭にするために、対向するフルートに関連する切れ刃が対称であることを理解した上で、1つのフルートに関連する切れ刃のみについて説明する。特に、端部セグメント130(
図6)は、線129の上の領域によって画定され、並びに最初の一次切れ刃145、二次切れ刃150及び三次切れ刃155の右側に画定される。このことから分かるように、他方の端部セグメント130aは線129の上の切れ刃の左側にあるが、端部セグメント130の説明で十分であることを理解した上で説明を行わない。
【0012】
ドリル先端125は本体110の端部112から延びる。ドリル先端125は、長手方向軸線115を中心とする周囲127(
図6)及び端部セグメント130、130aを有する。各端部セグメント130、130aは、長手方向軸線115から外側にチゼルエッジ外端140まで延びるチゼルエッジ135を備える。一次切れ刃145は周囲127から内側に延びる。二次切れ刃150はチゼルエッジ外端140から外側に延びる。
図6の線「7−7」に沿った断面図である
図7を参照すると、二次切れ刃150は、0〜10度の値を有し得る正又は中立の軸方向すくい角Xを有する。
【0013】
さらに、
図8は、一次切れ刃145に対して垂直な断面図を示している。一次切れ刃145は、フルートのねじれ角に依存する正の軸方向すくい角Yを有する。真っ直ぐなフルートについて、ねじれ角はゼロとなる。一次切れ刃145の軸方向すくい角Yが、主に、ドリル105の本体110に沿ったフルート120の形成によって決定されることを理解されたい。
【0014】
図6を参照すると、本発明に関する特に重要なものは一次切れ刃145と二次切れ刃150との間の移行領域である。先行技術で説明されているように、これらの2つの切れ刃の間の移行部は、しばしば、機械加工動作中に隆起エッジを生じさせる鋭い角部又は不連続部を形成している。本発明によれば、端部セグメント130は、一次切れ刃145と二次切れ刃150とを含むだけでなく、一次切れ刃145と二次切れ刃150とを接続する三次切れ刃155を有する移行セグメント160も含む。しかし、正の軸方向すくい角を有する一次切れ刃145、及び正又は中立の軸方向すくい角を有し得る二次切れ刃とは異なり、
図9に示したような三次切れ刃155は、−5〜−15度、好ましくは約−10度であり得る負の軸方向すくい角Zを有する。
【0015】
フルート120の形成と共に、一次切れ刃145が形成され、ギャッシュ152の形成と共に、二次切れ刃150が形成される間、−5〜−15度の範囲の負の軸方向すくい角Zを形成する三次切れ刃155には、その三次切れ刃155を有する移行セグメント160を形成する別の研削動作が必要となる。
【0016】
三次切れ刃155を参照すると、本体110の周囲127はドリル外径165を画定し、
図6に示したように、本体110の端部112から見ると、三次切れ刃155は、ドリル外径165の5〜20%の半径Sを有する半径方向円弧170を有し、好ましくは、円弧170の半径Sは外径165の10%である。さらに、
図9に示したように、側面から見ると、移行セグメント160は、半径Tを有する軸方向円弧175を有してもよい。
図6に示した半径方向円弧170の形成により、一次切れ刃145と二次切れ刃150との間に、先行技術で提供されていない滑らかな移行部が提供される。
図6に示した軸方向円弧170はすくい角Zを形成してもよく、このすくい角Zは、依然として負であるが、軸方向円弧170の長さに沿って6〜9度で変化してもよい。
【0017】
図9に示したように、三次切れ刃155は、軸方向円弧175を形成する研削動作によって形成されるが、平坦且つ平面である移行セグメント160を形成することも可能である(図示せず)。
【0018】
上述したように、ドリル105は方向Rに回転し、この方向は前方回転方向と呼ばれる。各一次切れ刃145の後方(
図6)にはクリアランス180があり、このクリアランス180は、一次切れ刃145から回転方向Rと反対方向に延びるにつれて、(チゼルエッジ135から離れて)下方に角度がつけられている。ドリル本体110の他の部分が干渉することなく、ドリル先端125が切れ刃のみに沿ってワークピースに係合することを可能にすることが、このクリアランス180の目的である。クリアランス180は、一次切れ刃145の後方に少なくとも逃げ面185を備え、第1のクリアランス190を提供するために、意図された回転方向Rから下方に角度がつけられている(
図8)。さらに、クリアランス180は、一次切れ刃145から角度がつけられて延びるクリアランス面195を含んでもよく、このクリアランス面195は第2のクリアランス200を画定する。あるいは、クリアランス180は単一の非平面の起伏面を備えてもよい。
【0019】
図3に示したように、ドリル105は、2つのフルートを有し得るか、あるいは、全部で4つのフルートを有してもよい。このような状況下で、端部セグメント130が各ドリルフルート120に関連する。
【0020】
さらに、本発明は、長手方向軸線115に沿って延びる本体110を有し、かつその本体110に沿って延びる少なくとも1つのフルート120を有するドリル105を製造するための方法に関する。ドリル105は、本体110の端部112から延びるドリル先端125を含み、ドリル先端125は、長手方向軸線115を中心とする周囲127及び端部セグメント130を有する。各端部セグメント130は、長手方向軸線115から外側にチゼルエッジ外側角部140まで延びるチゼルエッジ135を備え、周囲127から内側に延びる一次切れ刃145を含む。さらに、ドリル先端125は、チゼルエッジ外端140から外側に延びる二次切れ刃150を含み、二次切れ刃150は正又は中立の軸方向すくい角Xを有する。その上、ドリル先端125は、一次切れ刃145と二次切れ刃150とを接続する三次切れ刃155を含み、三次切れ刃155は負の軸方向すくい角Zを有する。このようなドリル105を製造するための方法は、第1の研削工程において、二次切れ刃150の軸方向すくい角Xを形成するギャッシュ152を研削するステップと、別の研削工程において、二次切れ刃150の部分を研削して、負の軸方向すくい角Yを有する三次切れ刃155を形成するステップとを含む。特に、この別の研削工程は、−5〜−15度、好ましくは約−10度の三次切れ刃155の軸方向すくい角を形成するステップを含む。
【0021】
概して、負の軸方向すくい角Zをこの三次切れ刃155に設け、その三次切れ刃155を一次切れ刃145と、正の軸方向すくい角Xを有する二次切れ刃150との間に配置することにより、機械加工動作中における隆起エッジの発生が最小化され、工具の寿命が延びる。
【0022】
本発明の特定の実施形態について詳細に説明してきたが、本開示の全体の教示を考慮すれば、それらの実施形態の詳細に対する種々の変更及び代替形態を行い得ることが当業者によって理解されるであろう。本明細書で説明した現在好ましい実施形態は、例示的なものに過ぎず、添付の特許請求の全範囲及びそれらのあらゆる等価物を提供すべき本発明の範囲を限定するものではないことが意図される。