特許第5661776号(P5661776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5661776軌条走行車両の走行特性を監視する方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5661776
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年1月28日
(54)【発明の名称】軌条走行車両の走行特性を監視する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/08 20060101AFI20150108BHJP
   B61K 9/12 20060101ALI20150108BHJP
【FI】
   G01M17/00 F
   B61K9/12
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-529242(P2012-529242)
(86)(22)【出願日】2010年9月14日
(65)【公表番号】特表2013-505432(P2013-505432A)
(43)【公表日】2013年2月14日
(86)【国際出願番号】EP2010063488
(87)【国際公開番号】WO2011032948
(87)【国際公開日】20110324
【審査請求日】2013年7月26日
(31)【優先権主張番号】102009041823.7
(32)【優先日】2009年9月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル−ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr−Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100167852
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】フランク ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】イェルク−ヨハネス ヴァッハ
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ フリーゼン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゼードルマイア
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−013153(JP,A)
【文献】 特開2007−278895(JP,A)
【文献】 特開昭61−096440(JP,A)
【文献】 特開2002−325307(JP,A)
【文献】 特開2004−218814(JP,A)
【文献】 特開2004−318912(JP,A)
【文献】 特開2006−194629(JP,A)
【文献】 特開2010−195345(JP,A)
【文献】 特表平09−500452(JP,A)
【文献】 特表2002−541448(JP,A)
【文献】 特表2003−502624(JP,A)
【文献】 特表2010−527829(JP,A)
【文献】 国際公開第00/009379(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/081888(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/027370(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0001226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/08
B61K 9/12
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌条走行車両の走行特性を監視する方法であって、
相応する測定信号を供給する少なくとも1つのセンサ(2)により、輪軸の運動、速度ないし加速度、または当該輪軸に作用する力などの、当該軌条走行車両の少なくとも1つの輪軸の振動特性を特徴付ける測定量を検出する、軌条走行車両の走行特性を監視する方法において、
該方法は、
− 前記測定信号の時間経過内で、少なくとも1つの有意な事象または複数の有意な事象の組み合わせを識別し、かつ当該の有意な事象が発生した事象時点を識別するステップと、ただし前記事象は前記測定量があらかじめ設定した閾値を上回るかまた下回る事象であり、
− 前記事象時点から開始して、前記測定信号の前記時間経過から周波数応答を形成するステップと、ただし当該周波数応答は、上記の事象時点から、所定の時間(ta)の間形成される周波数応答であり、
− 形成した前記周波数応答と、記憶した少なくとも1つの基準周波数応答とを比較するステップと、
− 形成した前記周波数応答と、前記記憶した少なくとも1つの基準周波数応答との偏差に依存して前記輪軸の振動特性を評価するステップを有する、ことを特徴とする軌条走行車両の走行特性を監視する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記軌条走行車両の輪軸の振動特性を特徴付ける前記測定量として当該輪軸(1)の垂直方向の加速度を使用し、
前記輪軸(1)の測定した前記加速度があらかじめ定めた最小値(amin)を上回ったことにより、当該加速度の前記時間経過内で有意な事象を識別する、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記垂直方向の加速度に対する前記あらかじめ定めた最小値(amin)の絶対値は、少なくとも10Gである、ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、
高速フーリエ変換(FFT)により、前記測定信号の前記時間経過から前記周波数応答を形成する、ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、
前記測定信号の時間経過の周波数応答を形成する前記あらかじめ定めた持続時間(ta)は、つねに固定の時間間隔である、ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、
前記測定信号の時間経過の周波数応答を形成する前記あらかじめ定めた持続時間(ta)は、前記事象時点から開始し、前記振動が所定の量だけ減衰するなどの当該振動の所定の特徴的な特性が生じるか、または別ないしはつぎの有意な事象が発生する場合に終了する、ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、
前記基準周波数応答は、モデル計算によってまたは典型的なパターン輪軸に基づいて計算によって形成した予想される周波数応答である、ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、
前記基準周波数応答は、軌条走行車両の動作中に、前記測定量の時間経過から形成した前記監視対象の輪軸(1)の少なくとも1つの周波数応答であるか、または
前記基準周波数応答は、前記監視対象の輪軸(1)ないしは別の複数の輪軸の複数の周波数応答の平均である、ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
前記周波数応答と、前記軌条走行車両の動作中に前記測定量の時間経過から形成した、前記監視対象の輪軸(1)の複数の基準周波数応答とを比較して、時間について統計的に評価する、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法において、
形成した前記周波数応答と、前記少なくとも1つの基準周波数応答との比較を、固有周波数、減衰度または可撓性などの少なくとも1つのモードパラメタに基づいて行う、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法において、
前記周波数応答と、前記少なくとも1つの基準周波数応答とを比較する際に前記輪軸の実際の摩耗状態の影響および当該輪軸(1)の実際の回転数を考慮する、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
軌条走行車両の走行特性を監視する装置であって、
相応する測定信号を供給する少なくとも1つのセンサ(2)により、輪軸の運動、速度ないし加速度、または当該輪軸に作用する力などの軌条走行車両の少なくとも1つの輪軸(1)の振動特性を特徴付ける少なくとも1つの測定量を検出する、軌条走行車両の走行特性を監視する装置において、
該装置は、信号検出および評価装置(8)を有しており、
該装置は、当該装置が少なくとも以下のステップを実行するように構成されている、すなわち、
− 前記測定信号の時間経過内で、少なくとも1つの有意な事象または複数の有意な事象の組み合わせを識別し、かつ当該の有意な事象が発生した事象時点を識別するステップと、ただし前記事象は前記測定量があらかじめ設定した最小値を上回る事象であり、
− 前記事象時点から開始して、前記測定信号の前記時間経過から前記周波数応答を形成するステップと、ただし当該周波数応答は、前記事象時点からあらかじめ定めた時間(ta)の間形成される周波数応答であり、
− 形成した前記周波数応答と、記憶した少なくとも1つの基準周波数応答とを比較するステップと、
− 形成した前記周波数応答と、前記記憶した少なくとも1つの基準周波数応答との偏差に依存して前記輪軸の振動特性を評価するステップとを実行する、ことを特徴とする、軌条走行車両の走行特性を監視する装置。
【請求項13】
請求項12に記載の装置において、
前記信号検出および評価装置は、少なくとも
− 前記測定信号の時間経過内で有意な事象と、対応する事象時点とを識別する信号検出ユニット(3)と、
− 前記事象時点から開始して、あらかじめ定めた持続時間(ta)にわたり、前記測定信号の時間経過から前記周波数応答を形成する周波数解析ユニット(4)と、
− 形成した前記周波数応答と、前記記憶した少なくとも1つの基準周波数応答とを比較する比較ユニット(5)と、
− 形成した前記周波数応答と、前記記憶した少なくとも1つの基準周波数応答との偏差に依存して前記輪軸の振動特性を評価する評価ユニット(6)とを有する、ことを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置において、
前記信号検出および評価装置(8)にはさらに平均化ユニットが含まれており、
該平均化ユニットは、前記監視対象の輪軸または別の複数の輪軸の複数の周波数応答を平均化し、平均値から前記基準周波数応答を形成する平均化ユニットである、ことを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項12から14までのいずれか1項に記載の装置において、
前記輪軸(1)の垂直方向の加速度を検出する少なくとも1つのセンサ(2)が設けられている、ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌条走行車両の走行特性を監視する方法および装置に関しており、ここでは、相応の測定信号を供給する少なくとも1つのセンサにより、例えば輪軸の運動、速度ないしは加速度、またはこの輪軸に作用する力などの、この軌条走行車両の少なくとも1つの輪軸の振動特性を特徴付ける測定量を検出する。
【0002】
軌条走行車両交通においては今日、診断および監視システムがますます使用されるようになってきている。これらの診断および監視システムにより、軌条走行車両の構成部材およびユニットの状態が検出されてこれらの構成部材およびユニットの欠陥が識別される。殊に軌条走行車両の輪軸では、動作安全性の観点から損傷および裂け目の検出について高い関心が集まっている。
【0003】
EP 1 274 979 B1によれば、少なくとも1つの振動信号を検出し、これにフーリエ変換を行って少なくとも1つの基準値と比較することにより、少なくとも1つの車両コンポーネントの振動特性が監視される。ここでは車両コンポーネントの固有振動成分に対応付けられた周波数ピークが、少なくとも1つの特性値(周波数特性値、減衰特性値、振幅特性値)について監視される。言い換えれば上記の公知の刊行物によれば、車両コンポーネントには一種のモード解析が行われ、固有周波数および減衰度などのモードパラメタがオンボート診断の枠内で監視されて損傷が識別されるのである。しかしながらこの公知の方法では、測定信号の時間経過はおおまかにしか評価されない。殊にこの方法では、例えば異なる静止摩擦特性ないしは動摩擦特性などの完全に異なる周囲条件下で得られた種々の信号も共通に評価されるのである。
【0004】
この結果、フーリエ変換から得られる特性値、例えば固有周波数に対する値ならびにその振幅最大値は、比較的ばらつきが大きくなり、このばらつきによって周波数応答を一義的かつ高い信頼性で評価することが難しくなってしまう。殊に動作時の上記の励起スペクトルは種々様々であるため、個別の各時点において、関連する車両コンポーネントの固有振動が、測定した信号においてどの部分を有するのかが明らかではないのである。
【0005】
確かにこの公知の方法では、上記の複数の測定値から得られた周波数応答と、走行区間に依存する基準周波数応答(新設区間、改設区間、増設区間)とが比較されるが、この手法にはいくつかの欠点が伴っている。というのは第一に、軌条走行車両の所定の動作において走行したすべての区間に対し、考慮を行わなければならないからである。第二には、この場合に走行区間の特性を外部の影響によって変更してはならないか、または上記の基準データをつねに最新の状態に維持しなければならない。しかしながらこれには大きく不適当なコストが必要であり、したがってこの公知の方法を応用するためのこの前提条件を実際には守ることはできないのである。
【0006】
したがって軌条走行車両コンポーネントを診断および状態監視する上記の公知の方法は、測定量を連続かつ常時に測定して評価することに基づくことになる。しかしながら上記の測定量に対する周囲条件はつねに変化する。上記の時間信号から得られる周波数応答の解析には極めてコストがかかる。それは上記の周囲条件の影響は、走行区間に依存する基準信号を用いて評価しなければならないからである。
【0007】
課題
これに対し、本発明の課題は、冒頭に述べたタイプの方法ないしはこのタイプの装置をさらに発展させて、この方法ないしはこの装置を、一層少ない信号処理技術的コストで、また軌条走行車両の輪軸における信頼できる損傷および欠陥で可能にすることである。
【0008】
この課題は、請求項1ないしは請求項12に記載した特徴的構成によって解決される。
【0009】
発明の開示
本発明において提案されるのは、方法および装置であり、この装置は、上記の方法の以下のステップを実行するように構成されている。すなわち、
− 上記の測定信号の時間経過内で、少なくとも1つの有意な事象または複数の有意な事象の組み合わせを識別し、これらの有意な事象が発生した事象時点を識別する。ただし上記の事象は、上記の測定量が、あらかじめ設定した最小値を上回る事象である。
【0010】
− 上記の事象時点からはじめて上記の測定信号の時間経過から周波数応答を形成する。ただしこの周波数応答は、上記の事象時点から所定の時間の間形成される周波数応答である。
【0011】
− 上記の形成した周波数応答と、記憶した少なくとも1つの基準周波数応答とを比較する。
【0012】
− 上記の形成した周波数応答と、上記の記憶した少なくとも1つの基準周波数応答との偏差に依存して上記の輪軸の振動特性を評価する。
【0013】
この場合にこの評価の目標は、場合によって変化したまたは際立った輪軸の振動特性に基づいて、監視対象の輪軸の欠陥を推定できるようにすることである。
【0014】
本発明による解決手段の利点は、殊に計算コストが比較的少ないことである。それは、測定信号のすべての時間経過を連続してフーリエ変換して解析するのではなく、有意の個別事象に対するシステムの応答だけをフーリエ変換して解析するからである。有意の個別事象を前もって定めることにより、監視対象の輪軸の状態について比較的確実な情報を高い確率で提供しかつ殊に輪軸の裂け目の形成を表す周波数応答だけが形成されるかないしは解析される。
【0015】
例えば、輪軸の大きな加速度を有する垂直方向の振動の励振、すなわちあらかじめ設定した最小値を上回る輪軸の加速度を有する輪軸の垂直方向の振動の励振などの有意の事象により、結果的にこの輪軸そのものが識別可能な固有振動に励振されることになる。例えば軌条の粗い凸凹によって垂直方向の衝突の励起が十分に大きくなると、輪軸は一時的にほぼ完全に軌条から浮き上がるため、走行したそれぞれの走行区間が固有振動特性に与える影響は、少なく評価されることになる。殊にこの場合に輪軸はほぼ自由にその特徴的な固有振動で振動し得る。したがって本発明による方法は、走行路とは無関係に正確に動作する。殊に走行路に依存する基準データのコストのかかる検出および記憶を省略することができるのである。
【0016】
したがって本発明の基礎にあるアイデアは、有意の個別事象の後にだけ、周波数応答および周波数解析を実行することにある。ここで有意の別事象は、つぎのような複数の事象と定義される。すなわちこれら事象は、経路信号、速度信号、加速度信号、力信号または圧力信号などの少なくとも1つのセンサによって記録した上記の事象時点の時間信号が、それぞれあらかじめ定めた閾値を上回るかないしは下回るのであり、また別の特徴的特性を有する事象である。
【0017】
言い換えると、軌条走行車両の監視対象の1つの輪軸において、1つまたは複数のセンサを用いて、この輪軸の振動特性を特徴付ける量の信号を継続して測定するのである。しかしながら相応する周波数応答の形成ないしは周波数解析は、上記の測定信号があらかじめ定めた最小値を上回った場合にはじめて行われるのである。開始時点としての有意な個別事象の後のあらかじめ定めた持続時間中に周波数解析を行い、引き続いて少なくとも1つの基準周波数応答とを比較することにより、種々の変化および輪軸における欠陥をわずかな計算コストかつ高い信頼性で推定することができる。
【0018】
例えば輪軸のシャフトが裂け目を有する場合、この輪軸の動的な可撓性は増大し、このことは、損傷のないシャフトに比べて一層低い固有周波数を有する「一層軟らかい」システムに結びつき、またふつうは一層大きな減衰に結び付くのである。さらに上記の固有周波数における周波数ピーク、すなわち上記の周波数応答における固有周波数の振幅は一層大きくなる。この固有振動形状の特性値は、上記の形成した周波数応答から、基準周波数応答との比較によって読み取ることができる。
【0019】
各測定値を表す信号の所定の最小振幅以上で、あらかじめ定めた個別事象に注目することによって保証されるのは、この輪軸がつねに、相応する複数の境界条件によって影響を受けることである。ここでは上記の最小値を選択して、十分な個数の有意な事象が予想できるようにする。
しかしながら固有振動を励振しないであろうと思われる輪軸のわずかな励振は、観察の対象外のままに止まるため、上記の信号を評価する際の計算コストは、従来技術に比べて劇的に低減される。
【0020】
従属請求項に記載された手段により、請求項1および請求項12に記載された本発明を有利に発展および改善することができる。
【0021】
殊に有利であるのは、軌条走行車両の輪軸の振動特性を特徴付ける測定量として、この輪軸の垂直方向の加速度を使用することである。ここでは輪軸の測定した加速度があらかじめ定めた最小値を上回ったことにより、この加速度の時間経過内の有意な事象を識別する。この場合に前提とすることができるのは、上記の輪軸が、軌条との接触を一時的にほぼ失ってほぼ自由に振動できることであり、これによって妨害されずに、すなわち隣接する構造体に、輪軸の剛性および減衰に影響を与える接触をすることなく固有振動形状が形成され得るのである。例えば、垂直方向の加速度に対する上記のあらかじめ定めた最小値は少なくとも10g(m/s2)である。上記の事象時点を確定するための垂直方向の加速度に対して最小値をあらかじめ設定することにより、この最小値以上では周波数応答が形成されて解析され、ないしは少なくとも1つの基準周波数応答と比較され、殊に輪軸(車輪および/またはシャフト)における裂け目を高い信頼性で検出することができる。
【0022】
さらに、殊に有利には高速フーリエ変換(FFT)により、上記の測定信号の時間経過から上記の周波数応答を形成する。これにより、許容可能な計算技術的コストで信頼性の高い結果を得ることできる。
【0023】
例えば、上記の測定信号の時間経過の周波数応答が形成される上記のあらかじめ定めた持続時間は、つねに固定の時間間隔であり、例えば5ないし500ミリ秒の間である。情報の多いフーリエ変換を実行して情報の多い周波数応答を得るために上記のような比較的短い時間窓で十分であり、この周波数応答から、固有周波数、この固有周波数の振幅ωe、減衰度Deならびに動的な剛性S(ω)ないしは動的な可撓性N(ω)などのモードパラメタを読み取りないしは求めることできる。
【0024】
択一的には、上記の測定信号の時間経過の周波数応答が形成される上記の定めた持続時間は、上記の事象時点から開始し、上記の振動が所定の量だけ減衰するなどの上記の振動の所定の特徴的な特性が生じるか、または別ないしはつぎの有意な事象が発生する場合に終了する。したがってこの場合には上記の持続時間は開始および終了によって定められるが、長さはつねに同じではない。
【0025】
さらに本発明において提案されるのは、モデル計算によってまたは典型的なパターン輪軸に基づいて計算によって形成した予想される周波数応答を上記の基準周波数応答とすることである。択一的にはこの基準周波数応答は、軌条走行車両の動作中に上記の測定量の時間経過からあらかじめ形成した監視対象の輪軸の周波数応答とすることができるか、またはこの基準周波数応答は、監視対象の輪軸または別の複数の輪軸の複数の周波数応答の平均である。殊に上記の周波数応答と、軌条走行車両の動作中に測定量の時間経過から形成した、監視対象の輪軸の複数の基準周波数応答とを比較して、時間について統計的に評価することが可能である。
【0026】
したがって上記のようにして輪軸の基準周波数応答は、ある種の特徴的な「輪軸指紋」なのであり、この指紋は、輪軸毎に有利には個別に求められ、基準データとの比較に対する解析目的のため、また引き続いてのこの比較によって行われる評価ないしは評定のために記憶される。上で示したすべての手法は、計算ないしは統計的解析により、1つまたは複数の基準周波数応答に対するデータを得るのに適している。
【0027】
上記のように計せいた周波数応答と、少なくとも1つの基準周波数応答との比較は有利には、固有周波数ωe,固有周波数ωeの振幅、減衰度Deまたは可撓性Neないし剛性率Seなどの少なくとも1つのモードパラメタに基づいて行われる。
【0028】
上記のように形成した周波数応答と、少なくとも1つの基準周波数応答とを比較する際に有利には、輪軸の実際の摩耗状態の影響および輪軸の実際の回転数を考慮する。これにより、わずかな信号処理コストで上記の情報の正確さをさらに改善することができる。
【0029】
以下では図面に基づき、本発明の有利な実施形態の説明と共に、本発明を発展させる別の手段を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】軌条走行車両の走行特性を監視する装置の概略ブロック図である。
図2】有意な事象の結果として生じた、軌条走行車両の監視対象の輪軸の加速度−時間線図である。
図3】基準周波数応答の加速度−周波数線図である。
【0031】
実施例の説明
所定の動作において軌条走行車両の輪軸は、軌条走行路上を転がる。走行速度および軌条走行路の状態に応じて上記の輪軸には振動が励振される。この振動の励振により、輪軸ないしはその複数の部分の振動が、一方では空間において絶対的に、また他方では隣接する構造に対して相対的にないしは互いに相対的に発生する。図1に示したように輪軸はふつう1つの軸によって接続された2つの車輪から構成される。
【0032】
図1によれば、(これ以上詳しく説明しない)軌条走行車両の1つの輪軸1に1つまたは複数のセンサ2が取り付けられており、これらのセンサは、有利には加速度センサとして、輪軸1の加速度またはその一部、例えば垂直方向の成分を検出して相応の測定信号を形成する。
【0033】
センサ2の測定値を検出して信号検出ユニット3に転送することにより、この信号検出ユニットにおいて輪軸の垂直方向加速度の時間的な加速度経過が形成される。さらに信号検出ユニット3により、上記の時間的な加速度経過内にいわゆる「有意な事象」と、対応する事象時点t0とが識別される。
【0034】
測定信号の時間経過内の「有意な事象」とは、測定量または測定信号が、あらかじめ設定した最小値を上回る事象のことである。この実施例の場合、測定した垂直方向加速度が、加速度最小値aminまたは加速度最小振幅aminを上回ったか否かについて上記の測定信号が監視される。例えば、垂直方向加速度に対してあらかじめ設定した加速度最小値aminは、少なくとも+10gないしは-10g(m/s2)である。この実施例の場合、有意の個別事象は、加速度最大値MAXiであり、これは、輪軸が垂直方向に今まさに加速されているかまたは減速されているかに応じて正または負になることがありかつその絶対値が最小振幅aminを上回る加速度最大値MAXiである。これは図2に示されているとおりである。
【0035】
これは、例えば、監視対象の輪軸が、軌条走行路の繋ぎ目または凸凹を通り過ぎ、これによって殊に図2に示したように所定の量だけ超過する垂直方向の振動が励起される場合である。上記のあらかじめ設定した最小値aminが十分に大きい場合、前提とすることができるのは、輪軸1が励振されて、特徴的な固有周波数ωeを有する一義的に検出可能な調和固有振動することである。材料減衰と、隣接する構造体との接続によって決まる減衰とに起因して、励振された固有振動の振動振幅は、時間と共に減衰する。このことは、図2の加速度時間信号の経過によって示されており、ないしは固有振動が別の有意な事象によって新たに励振される。
【0036】
択一的には別の任意の量または別の複数の量の組み合わせを時間信号として検出することできる。ただしこの量は、他励振に対する応答として、輪軸の振動を固有振動の形態で特徴付けるのに適した信号である。ここで測定量としては、上記の垂直方向加速度の他、例えば任意の方向の加速度、運動パスおよび/または輪軸の速度またはその一部も対象となる。殊に上記の輪軸の振動によって動的な力または圧力が形成され、これらの力または圧力を力ないしは圧力記録器によって測定して時間的な力ないしは圧力信号として表することも考えられる。上記の測定量または複数の測定量の組み合わせの選択にとって重要であるのは、監視対象の輪軸の固有振動を最も良好に表すことができる適性である。
【0037】
引き続き、周波数解析ユニット4により、事象時間からはじめて、所定の持続時間taにわたり、上記の加速度信号の時間経過から周波数応答が形成される。例えば図2からわかるように、上記の定めた持続時間taは、事象時点t0以後のつねに固定の時間間隔であり、例えば事象時点t0以後の5ないし500ミリ秒である。
【0038】
択一的には、上記の測定信号の時間経過の周波数応答が形成される上記の定めた持続時間taは、上記の事象時点t0から開始し、上記の振動が所定の量だけ減衰するなどの上記の振動の所定の特徴的な特性が生じるか、または別ないしはつぎの有意な事象が発生する場合に終了する。
【0039】
この周波数応答は、例えば、上記の時間信号にフーリエ変換を行うことによって形成される。この場合に上記の周波数応答から、上記の有意な事象によって励振された固有振動の特性値は、すなわち幾何学的な固有振動形状(輪軸全体に分散して配置された複数のセンサが設けられている場合)と、この固有振動形状に所属するモードパラメタである固有周波数ωeと、固有周波数ωeの振幅と、減衰度Deならびに剛性Seないしは可撓性Neとは、公知のように求めることができる。ここでは固有周波数のすべての特性値を求める必要はなく、個別の特性値で十分である。
【0040】
さらに上記の時間信号から形成した周波数応答と、記憶ユニット7に記憶した少なくとも1つの基準周波数応答とを比較する比較ユニット5が設けられている。ここでこの基準周波数応答は、モデル計算によってまたは典型的なパターン輪軸に基づいて、例えば実験的なモード解析に基づき、計算によって形成した予想される周波数応答とすることが可能である。択一的にはこの基準周波数応答は、軌条走行車両の動作中に上記の測定量の時間経過からあらかじめ形成した監視対象の輪軸の周波数応答とすることができるか、またはこの基準周波数応答は、監視対象の輪軸ないしは別の複数の輪軸の複数の周波数応答の平均である。殊に図2の時間経過から形成した周波数応答と、この軌条走行車両の以前の動作中に形成した、監視対象の輪軸の複数の基準周波数応答とを比較して、時間について統計的に評価することも可能である。
【0041】
図3にはこのような基準周波数応答が示されており、この周波数応答は、約0.27kHzの周波数において最大値を有している。この最大値は、輪軸の複数の固有周波数ωeのうちの1つを表している。動作時に得られた測定値から形成した周波数応答と、基準周波数応答との比較は有利には、固有周波数ωe,固有周波数ωeの振幅、減衰度Deまたは可撓性Neないし剛性率Seなどの少なくとも1つのモードパラメタに基づいて行われる。
【0042】
理想的には質量mを有する1振動質量体である輪軸に衝突するような力が励起された場合、過渡過程の後、定常状態の正弦波状の振動が生じ、ここで上記の1振動質量体は、ばね剛性cのばねと、減衰度Dの減衰器とを有するばねを介してボックスに接続されている。上記の定常状態の正弦波状の振動は、固有周波数
【数1】
と、減衰度
【数2】
と(実部および虚部を有する)動的な可撓性
【数3】
とを有する。このモードパラメタまたは複数のモードパラメタのうちの1つが大きく偏差している場合、すなわち最小値分、基準周波数応答の相応する値から偏差している場合、このことは、監視対象の輪軸の欠陥を示しており、殊にシャフトまたは車輪に裂け目が生じていることを示す。
【0043】
例えば輪軸のシャフトが裂け目を有する場合、動的な可撓性N(ω)は増大し、このことは、損傷のないシャフトに比べて一層低い固有周波数ωeを有する「一層軟らかい」システムに結びつき、また一層大きな減衰度Deに結び付くのである。さらに固有周波数ωeにおける周波数ピークは、すなわち上記の周波数応答における固有周波数ωeの最大振幅は一層大きくなる。
【0044】
上記の時間信号から形成される周波数応答の特性量と、記憶された基準周波数応答との偏差は、評価ユニット6によって評価される。この際には輪軸の実際の摩耗状態の影響と、輪軸の実際の回転数とを考慮することも可能である。
【0045】
信号検出ユニット3と、周波数解析ユニット4と、比較ユニット5と、評価ユニット6と、基準周波数応答に対する記憶ユニット7とは、例えば統合形信号検出および評価装置8として、ただ1つのマイクロコンピュータで実現することができる。
【0046】
時間的に先行して記録した複数の時間信号から形成される周波数応答の平均値を形成するため、上記の信号検出および評価装置8はさらにここでは明示的に示していない平均化ユニットを含むことができ、この平均化ユニットにより、監視対象の輪軸または別の複数の輪軸の複数の周波数応答が平均化されて、この平均値から基準周波数応答が形成される。
【符号の説明】
【0047】
1 輪軸、 2 センサ、 3 信号検出ユニット、 4 周波数解析ユニット、 5 比較ユニット、 6 評価ユニット、 7 記憶ユニット、 8 信号検出および評価装置8、 MAXi 加速度最大値、 ta 持続時間、 amin 最小振幅
図1
図2
図3